朝っぱらから色々あったのはともかくとして
小屋に戻って小さなテーブルを3人で囲み、朝ご飯がてらの作戦会議となった。

まずカルメラの所属する魔術師ギルドというのは
あちこちの街に点在していてそれぞれの街で独自に運営されているらしく
早い話が各街に直接出向かないと細かい情報は得られないそうなのだ。

「そっか・・電話とかないから仕方ないんだな。
 ・・で、ダンテさん。もう意地汚いのはしょうがないとして
 もうちょっとマシな食べ方できないのか?
 パンとチーズはともかくイチゴもリンゴもワインで流し食いなんてどんなだよ」
「オマエこそさっきからそのなんとかロール(スイートロール)しか食ってないだろ。
 もう少し色々食ったらどうだ。若いのに偏食か」
「べ、べつに偏食とかじゃなくて、ただ美味しいから手がいくだけで
 好き嫌いとかない方なんだぞ俺は」
「じゃあこれもいけるだろ。ハチミツ酒っていうくらいだからお子様向け・・」
「だーから未成年に酒をすすめるなっての!
 甘くてもお子様向けでも悪魔でも未成年はお酒のんじゃダメなんだよ!」
「・・・オマエ、凄まじくつまらない所でガンコだな。
 それだと人生の3分の1くらいは損してないか?」
「酒で3分の1がつぶれてるダメ人生なんか経験したくないな!
 あとその恐ろしく偉そうな体勢でお酒をたしなむのは絶対間違ってる!」
「ダメとか言うな全世界の酒好きに失礼な。
 ちなみに残りは狩りと女と・・おい、コラ、食事中に暴れるなギョウギ悪い」
「アンタがそれを言うのか!アンタが!」

などと子供レベルなケンカ攻防をしていると
近くでぶふーとかいうヘンな音がした。

そう言えば食べるのと口喧嘩に夢中になっていて
この場にもう1人いたのをすっかり忘れていた。

「っくく・・いや、すまない。だがこれほどもてなしがいがあり
 なおかつ愉快で楽しい客人というのは初めてなのでな」
「・・うぐぐ・・重ね重ねスミマセン」
「謝るのが好きだな少ね・」

テーブルの下でガンと音がし
ダンテのくわえていたチーズが半分宙を飛んで
テーブルに落ちる前に素早くキャッチされ元の口に戻ったが
カルメラもなんとなくこの2人がどんな奴らなのかわかってきたらしく
とくにツッコミは入れられなかった。

「それで、君達はこれからどうしたい?
 このまま調査を続けさらに手がかりを探してみるか。
 それともこの土地で永住できる場所を探索してみるか」
「う・・」

それはあっさりした質問だったがさすがにぐっすり眠れても
そこまでの結論はまだ出ていない。
どうしようかと言葉につまっていると助け船を出してくれたのは
さっき足を蹴飛ばしたばかりのダンテだ。

「調査は続ける方でいいんじゃないか?
 帰り道が見つかるにしろ見つからないにしろ
 それを使うかどうか決めるのはその結果が出てからでも遅くない」
「成る程、それもそうか」

それはよく気を付けていないとわからないくらいのさり気ない助け船だ。
人を試したり他人事のように突き放す時もあるというのに
ミカエルの言うようにダンテの考え方というのはやっぱりわかりにくいものだ。

「では私の方は調査を続けるとして・・2人には提案がある。
 単刀直入に言うと引っ越しをしないか?」
「・・は?」

何をいきなりと思っているとカルメラはテーブル上の食料をどざざと無造作に寄せ
地図を広げて今いる場所に一枚コインをおいた。

「ここは人目にはつかないが物資に乏しく、周囲から遮断されているも同然。
 この世界を知らない君達には少々窮屈で退屈だろう」
「・・それは・・まぁ」

しかし退屈だとか言い出す前にどこかの誰かがもめ事を起こしてくれたので
正直そういうつもりはまったくなかったのだが
手がかりを探してもらっている間中ずっとここにいるというのも
確かに退屈にも思える。

「そこでだ。私が各地で調査をしている間
 ここから北にある私の屋敷に仮住まいもかねて管理をしてみないか?」
「管理・・ですか?」
「そこは私が書庫として使用している屋敷なのだが
 都会から離れた土地なので最近手入れをするのが面倒になってきてな。
 本の整理と物品の仕分けなどの簡単な仕事を頼みたいのだが」

そう言ってぱちんとコインが置かれたのは
ここからずっと北にあるコロールと書かれた街だ。

聞けばカルメラは興味本位でそこに自宅を持ち
遊ばせておくのもなんなのでそこを書庫として使っていたそうなのだが
なにせ冒険者というだけあって一カ所にじっとしていないため
そこは書庫というよりただの本放り込み場所となっているらしい。

「別に管理せずとも屋敷が崩壊したり書物が腐ったりはしないが
 やはり多少の整理くらいはしておいた方が本や物も集めがいがある。
 それにその街周辺には山賊がいる野営地も少なく
 野外でも多少の安全は保証されている」
「・・つまり多少外に出てもいいって事か?」
「そうだな。近くに深い洞窟も複雑な神殿もないだろうから問題は少ない」

パンくずのついた顔でダンテが黙ってこっちを見た。
そこについてからの時間はまだ1日くらいしか経過してないけれど
一カ所にじっとしていられない彼の目は完全に『行く』と訴えていた。

ジュンヤとしてはいくつか不安な要素はあるものの
確かにここでじっとしているだけというのも心細いし
ただ待っているだけというより頼まれ事をこなした方が気が楽だ。

それにもし完全に帰れないとわかった場合
こちらでのルールや生活というのも知っておかなければならないだろう。

「・・じゃあ・・お願いできますか?」
「では、決まりでいいかな」
「はい、よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げるジュンヤにダンテは苦笑する。

見た目でも周辺事情でも不安要素がめいっぱいなヤツだが
結局のところ、コイツはいい運に恵まれている。

最初ただの興味本位だったがそれが
いつのまにか結構立派な保護者意識やその他もろもろに変化していたことに
実のところ本人にはあまり自覚がないままだ。

「では引っ越しの前にまず荷作りをしなければな。
 あそこは本はあってもそれ以外の物があまりない。
 一端本拠によって必要な物をそろえよう」
「え?本拠って・・街、ですか?」
「そうだ。ここからすぐのスキングラード。
 大体の物や装備はそこに置いてある」

次にびしとコインの置かれた場所は
ここからすぐ東の最初に名前を見た街道途中の街だ。
しかし街に行くとなるとどうしても出てくる問題にジュンヤは顔を曇らせる。

「でもそこ、人がたくさんいて・・」
「そこは使いようだ。前にも言ったがそれくらいなら服か鎧を着込めば
 案外どうとでも誤魔化せる」

そう言ってカルメラは荷物から布製の物を出しそれぞれに渡してくる。
それはちゃんとたたまれた衣服のようだが・・。

「とりあえず怪しまれない程度のものを適当につかんできた。
 きちんとした物は本拠で選ぶとして
 少年にはこれを。護衛殿にはこれを持ってきた」

はいはいと続けざまに渡してくれたのは
どっちも魔法使いとかが着てるような長いローブ。
ジュンヤには水色のものにフード付き。
ダンテには黒っぽくて洗濯すると色落ちが怖そうなしぶめのやつだ。

確かにただ単に服装を変えようとするなら
上下一体で上からずぼっとかぶるだけのローブがいいかも知れないが・・

「「・・・・・・」」

いつも食い違いの出る2人の意見が
お互い持ってる物を見てまったく同じになった。

「・・・あの・・失礼を承知で言わせてもらいますが
 これ、怪しさがさらに倍増しそうに見えるんですけど」
「そうか?地味な色合いの方が目立たないと思ったんだが」
「色合いというか・・デザイン的に問題ないのかコレは」
「いやどちらかというと今の君達の方が問題有りだろう」
「・・・・ですよね」

半裸にタトゥーとか真っ赤なコートはおそらくボルテクスでのみ通用するものだろう。

で、おとなしくいつもの格好の上からローブを着用し
ジュンヤはフードをかぶって顔が見えにくいようにして偽装は完了
したつもりなのだが・・・。

「・・オマエ、黒ミサか何かの生け贄前みたいだな」
「・・ダンテさんこそ素手で人襲ってナマで食ってそうだ」

素直な感想をそのまんま言い合ったら
お互い軽く傷ついてその場の空気が軽くドブ色になった。

「生け・・いや大体、そのガタイにローブはおかしいだろ。
 しかも当たり前みたいに剣背負ってるしどんな神経してるんだよ」
「・・ナマ・・・いやそもそも隠しようがないからしょうがないだろ。
 しかしオマエ、もとから弱そうなのがさら貧弱に見えて
 弱そう貧弱を通り越して可愛いになってないか?」
「ひ、人が気にしてることを堂々と・・!このガチムキエセ魔術師!
 やる事デタラメだけど肝心の魔法が使えないくせにー!」
「使・・・・いや使えない事も・・使えないが・・
 べつに使えなくても死にやしないだろ。オマエじゃないんだし」
「仕方ないだろ!どっかの誰かと違って戦い慣れてないし
 銃刀法違反のある国で生まれて育ってるんだから!
 ・・でも冷静に考えるとダンテさんから武器取ったら普通にただの変な人だよな」
「ほ、か、に、も、あるだろが色々と・・!オマエのその目は一体どこ見てやがる!」
「赤いとこと武器の範囲内。余計な事しゃべる口」
「動物並みの最低限!?」

などと言葉のナイフでつつきあう2人を
カルメラはポテトパンかじりつつ黙って見ていたが
しばらく放置していたらジュンヤが可愛そうなくらいあやまってきたので
ある程度鑑賞したら止めてやらないとダメだなと学んだとかなんとか。





さてこの世界、ターミナルが存在しないのでどこに行くにも基本は自分の足だ。
車もなければ電車もないので当たり前なのだが
唯一の乗り物であるカルメラの馬はそこに置いていく事になった。
なぜかと聞くと後から勝手についてくるし
徒歩でしか説明できない事もあるからだそうだ。

「ファストトラベルを使って一気に飛んでもいいが
 その前に君達には1つ経験してもらいたい事がある」
「「?」」
「この世界、歩いて移動するというのは基本的なことだが
 その道中には様々なことがある。それを知っておいてもらいたい」

何のことだと2人が顔を見合わせながら草原をしばらく歩いていると
ほどなく地図にあった街道らしき場所に出た。

そこはそれなりに舗装されていて見通しもよく
今まで見た場所のどこよりもちゃんとした道になっている。
カルメラはそこで手をかかげ何かの魔法を発動させると
相変わらず表情のわからない兜ごしにこちらを見てきた。

「・・では行こう。用心はするがそちらも気をつけてくれ」

それが何に対しての用心なのかわからないが
この街道は舗装されていてもそれなりに危険がある場所かなにからしい。

そしてその証拠はしばらく歩いた道のまん中に落ちていた。

舗装された道のまん中にまるで石の如く落ちていたそれは人だ。
緑色の綺麗な鎧を着た人間が1人。道のまん中に倒れている。

「!人・・!」

だが驚いて走り出そうとするジュンヤをカルメラがさっと止め
そのまま周囲を見回して注意深くなにかを観察する。
そしてそれでようやく安全を確認したのか倒れていた人に近づき
少し遠巻きに見ていた2人に淡々と説明を始めた。

「これは山賊だ。この世界の野外、とりわけ野営地や街道などに生息し
 大体は武装していて人を見ると見境なく襲いかかってくる」
「ってことは・・これは道中でアンタが?」
「いや、装備品が手つかずなので
 街道を巡回していた帝国兵かクマにでもやられたのだろう」

そう言いながらカルメラはその山賊が持っていた武器
はいていたブーツや篭手などを無造作に剥ぎ取り
ジュンヤの目がまん丸になりさすがのダンテも眉をひそめる。

「・・そこだけ見てるとどっちが山賊だかわからんな」
「私も最初そう思ったが要は慣れだ。
 それに正当防衛と賊、最初から死んでいる者からの剥ぎ取りは
 この世界で認められている」
「?でも上の鎧は残すんですか?」
「さすがに元が罪人とは言え全裸放置は気が引けるのでな」
「・・さいですか」

でも剥いだあとの死体は道の真ん中放置かよ、と思った時
どこからかドッというにぶい音がして液体状のものがジュンヤの腕にぱっとかかる。

見るとそれは血だ。
飛んできた方向はカルメラの方。
まさかと思ったがそのまさかで、どこからか飛んできたらしい鋭い矢が
その鎧と肩をまともに貫通し、矢の先が前に突き出していて
ジュンヤは一瞬息を止めた。

「カルメラさ・・!!」
「・・そうか。2人いたな」

しかしカルメラは刺さった矢を気にした様子もなく
走りながら手をかかげ恐るべき速さで何かを詠唱すると
以前出したものとは別の何かを召喚した。

それはさっきの鎧の倍くらいはあるワニと人間をたしたような何かだ。
重量感たっぷりなそれは首をぶるるとふって一声吠えると
ドッスドッスと重たげな足音を響かせながら
カルメラと一緒にある方向へ走っていく。

見ると2人の走っていく方向にはそこに落ちていた山賊と似たような格好をし
弓矢を持っている人間らしき誰かがいた。
おそらくそれが野外にいると言われた山賊なのだろう。
山賊は弓矢を使いながら野原を逃げ回っていたが
カルメラとワニ(後から聞いたらデイドロスというらしい)の挟み撃ちにあい
すぐに追いつめられしばらく短剣で応戦していたが
やがてカルメラに魔法を直接たたき込まれ、どさりと倒された。

「・・・経験しておけってのはこの事らしいな」

ダンテが剣から手を離しながらぽつりともらすが
ジュンヤはそれより矢がささったままのカルメラの方を心配していた。

銃なら弾が貫通するか痕跡が小さいかですむだろうが
矢はずっとささったままだし引き抜くにも痛いはず。

などと思って心配しているとカルメラは倒した山賊からやっぱり適度に装備を剥ぎ
時間切れで消えたらしいワニを横目にのんびりと戻ってきた。

「と、見た通りこの世界にいる山賊というのは
 2人一組で行動している場合が多いので1人見かけたら他がいると思って・・」
増えてるー!!カルメラさん増えてますよ矢ー!」

でも戻ってくるなり律義に説明し出すのはいいが
追撃の時にやられたのだろう、さらに多くの矢があちこちにささり
なんでそれで平気なんだという有様になっていたが本人はいたって平気なようで。

「あぁ、見た目には大事のように見えるが
 鎧があるのでダメージはそう大きくない。時間がたてば勝手に消える」

いや鎧ほとんど役に立ってないし、明らかにそこ骨だろな所もぶっすり貫通しているが
本人が鈍感なのかそれともそれはこの世界での常識なのか
矢が何本も貫通したホラーな騎士はその状態のまんま
外での注意点を説明してくれた。

ここにはエンカウントの戦闘がなく敵との遭遇は常にリアルタイム。
敵の種類は様々だが、こっちに向かってくる相手は大体敵。
その中にはさっきのように遠距離から弓矢で狙ってくるヤツもいるので
注意しなければならないとか。

「見た目は平和そうに見えても結構気の置けない世界なんですね・・」
「だが相手の位置を先に探知する事によって対処の幅は格段に上がる。
 生命探知魔法。この言葉に聞き覚えは?」
「ないです」
「まったく」
「私が街道に出る前使ったあれがそうだ。
 生きて動く物を一定距離で探知して発光させ
 障害物を無視してこちらの視界にとらえる事ができる」
「へぇ・・」

それからジュンヤ達は野外を歩くときの注意点をいくつか聞かせてもらった。
ジュンヤとしてはまだ外をうろつく気がないので聞き流してもよかったが
目をはなすと隣で立ったまま、しかも目ぇ開けたまま器用に寝ようとし
絶対後から外をうろつこうとするだろう誰かさんには必要なのでしっかり聞いた。

それから何度か山賊の襲撃を受け、そのたび返り討ちにして装備をかっぱぎ
色々と慣れたころに見えてきたのはブドウ園だ。
そう広大ではないがちゃんとそろえられたブドウの木には綺麗なブドウがなっていて
数人の人間が働いている近くにはワインを作っているらしいタルもあり
のどかだなと思っていると道の脇からヒツジが出てきて
ぽくぽくと足音を立てながらのんびりと道を横切って歩いていく。

「・・さっきまでの出来事が嘘みたいなくらいのどかですね」
「そうだな。ここは農場がある分一番そう見えるかも知れない」
「さっきのワインもここか?」
「あまり年代物ではないが一般的に出回っているものはここの物が多いようだ」
「ならビンテージもあるんだな?」
「まだ飲んだ事はないが棚にしまってある」
「そうか、なら・・・痛、こらなにしやがる」
「ものを知る先から人様にたからない!子供かアンタは!」
「オマエよりは大人だが、たまに童心に返るのも大人の特権だ」
「上手く言ってるつもりだろうけどなんかおかしいぞそれ!」

とかやってるのを兜の中で笑われていたのはともかく
農園を横目に歩いていると目の前に大きな城門が見えてきた。

大きな門の横には武装した衛兵らしき人がいたが
カルメラはそれに一瞥もくれず黙って門に手をかけて開ける。

重そうな音を立てて開いた門の中はまた道になっていた。
だが大きな道をはさんで左右にまた城壁のようなものがあり
カルメラはその一方にあった道へ普通に入っていく。

ジュンヤとダンテはさすがにもう言い合いもせず
少し緊張しながらそれについて歩いていたが
若干怪しいながらも着替えたせいだろうか
心配していた人目や衛兵の方はまったく問題なしだった。

門や街入口のそばには盾や鎧で武装した衛兵がいるが
近くを通る時ちらっと見られた以外とくに何事もなく通過でき
道をあるく人などにジロジロ見られる事もない。

そして意外と高い壁のような建物を見上げながら
石畳の道を人とすれ違いながらしばらく歩くこと少し。

「ここだ」

カルメラが立ち止まったのは一軒の屋敷、というかビルの扉の前だ。
そこは周囲の建物と同様少し大きくてぱっと見た目が壁のようで
さっきまでいた小屋とあまりにスケールが違いすぎジュンヤはちょっとひるんだ。

「・・え、あの、凄い所じゃないですか?これ」
「そうだな、一応持ち家の中では最大のものだ」
「?ちょっと待て、持ち家ってアンタ一体いくつ家を持ってるんだ?」
「先程の小屋をのぞいてだと・・・ここを含め8件・・だったかな」

うわなにこのブルジョワ、しかも疑問系か
と言いたくなるのをジュンヤはぐっと我慢した。
が、大体そういうのはダンテが変わって代弁してくれてしまうもので。

「1人でそれだけの物件所持か?豪快かつ無益で無駄な金遣いだな」
「いや最初は各街に物置があれば便利だなと思って購入していただけなのだが
 考えてみれば・・確かにそうかも知れないな。
 まぁとにかく上がってくれ」

しかしカルメラもカルメラでそういった皮肉は通じないタイプらしい。
気分を害された様子もなく扉を開けて中に入っていった。

残った2人はちらりと顔を見合わせ
一応ジュンヤはぼこと軽くダンテをどついてから中に入った。

屋敷の中はそう天井が高くなかったがそれなりに立派な作りになっていた。
正面には暖炉があり小さなテーブル、簡素なイスなどがあって
左側は食堂なのか大きな食卓があり皿やフォークが並んでいる。
右側を見ると上へ行く階段と剣の入った展示箱があって
カルメラはその階段を上がりかけていたが
ダンテがその階段の前にあったガラス張りの展示箱に興味を示した。

「・・コイツはコレクションか?」
「?あぁ、魔法の添付された武器類なのだが
 魔力の残量を一々確認するのが面倒なのでなんとなくそこに入れてある」
「・・・・」

中に入っていたのはダンテの持っているタイプと似た大型の剣。
鞘のない古めかしい日本刀。あと優雅な形をした弓などだ。
ケースにきちんと入れてあるのでコレクションかと思いきや
口調からして別にそうでもないらしい。

「持ってみても?」
「戻してくれるならかまわない」

するとダンテは黙ってケースをあけ
その中から金の装飾がされた大型の剣を手に取った。
ジュンヤはその隣にあった古めかしい日本刀を取るのかと思ったが
ダンテはその剣をしばらくしげしげとながめ。

「・・出どころはどこだ?」
「先日話したウマリルだ」
「あぁ、それでか」

と何だかよくわからない会話をして
それは元の場所に戻され、ばたんとケースは閉められた。

それだけでは何のことかわからなかったが
ジュンヤはしばらく一緒に階段を上がって。

「・・あれ?ウマリルって確か・・」
「騎士団の話の進行上、最後に倒した何かのボスだ」

前の説明よりさらに話がアバウトになっていたが
つまりさっきダンテが興味をしめした剣。
人外のボスかなにかが持っていた魔剣か何からしい。

「あの・・いいんですか?そういう物騒なのあんな所に置いといても」
「呪いはかかっていないのでかまわない。
 それに人の家に侵入して物をあさるというのはリスクが高すぎる」
「それもここでの常識ってヤツか?」
「そうだな。私はまだ遭遇したことはないが衛兵は凄まじく目敏いので
 すぐ見つかって投獄されるから注意しなければならないらしい」
「・・いや普通人ん家に入って物をあさるのは立派な犯罪ですよ」

などと言いながら階段を上がり、中二階になっている場所を通り過ぎさらに上へ。

少し狭い階段を上がるとそこは最上階で
そこがその家で最も広い部屋となっていた。

「うわぁ・・・」

そこは前にいた小屋よりもずっと大きく天井も高い
外からではわからなかった、いわゆる豪邸のお部屋だ。

広い場所に置かれた大きなベッドに火のたかれた暖かそうな暖炉
衣装棚やガラスの張られた展示箱にいくつかの本棚。
書斎に置くような立派な机もあるし窓も大きくて部屋全体が明るく
天井には豪勢なシャンデリアらしきものまである。

「・・・すごい。これカルメラさんの私室ですか?」
「私室・・というほどでもないが物をしまいにくる頻度が高いのはここだな」

その豪勢な私室をざっと見回し
カルメラは部屋の片隅にあった箱をあけて中身をほじくり出した。

「まず差し当たっては着替えと装備だな。
 大体の物はそろっているので必要な物があるなら言ってくれ。
 その窓際の戸棚に弓矢、暖炉の横の引き出しに魔法添付の防具
 大体の物は分けて入れてある」
「見てもいいんだな?」
「所定位置に戻すなら好きにやってくれ」
「そうか」
「ちょ、コラ!ダンテさん!女性の部屋を平気で物色しない!」

しかし女性の部屋といっても実のところ、それらしい所はどこにもない。
物入れの上にはごっつい斧があったり衣装引き出しの上には立派な盾があったり
棚には黒や緑の鎧がそれぞれ綺麗にパーツで並んでいたりと
女性の部屋というより名のある騎士の装備部屋といってもいいくらいだ。
いや実際そうなのだが。

「ちなみに鎧と服、どちらがいい?
 鎧は重量がそれなりだが防御力がある。
 服は見てくれだけだが重さはそれほどない」
「服」
「・・ちょっとは迷えよそこの戦闘職」
「鎧なんて元から着てないし、当たるよりも避けた方が早い。
 それに大体は先手決勝でどうにかなってる」
「うん、つまり着るのめんどくさいんだな。あと決勝じゃなくて必勝だから」

でも頑丈さで言えば下手な鎧よりダンテの方が頑丈だろうし
下手に鎧を借りて壊すよりは服の方がまだいいかも知れない。

「で、少年はどちらを?」
「・・えっと、街の中で生活する分には鎧は必要ないんですよね」
「そうだな」
「じゃあ服でお願いします。できればなるべく肌の隠れるやつで」
「了解だ」

そう言ってカルメラはそこらにあった引き出しや宝箱から
上着やズボンなどを次々にひっぱり出してきた。

サイズを確認しないでいいのかと聞いたら
着ると勝手に馴染むと言われて不思議に思うが
ためしに上着を1つ着てみると確かにサイズがピッタリになる。
それなりに体格のあるダンテでもなぜかピッタリで
おまけに出した時スカートだったものが
手にすると同じ柄のズボンに変わったりしてびびったりもしたが
とにかくしばらく見比べた末にここでの服装とやらを2人で設定。

ダンテは黒いズボンにワイン色のシャツ
あとついでに下で見ていたウマリルの剣というのを借り
ジュンヤは質素で少し余裕のあるズボンと暗い色のシャツ
あと手を隠すため皮の篭手を借り、用心のためだと銀製のダガーを持たされた。

本当なら顔を隠せるものも欲しかったのだが
そういった物はさっきのフードやガッチリした兜しか選択肢がないので
下手に何かするよりそのままの方がいいだろうとの事だった。

「・・でも本当にいいんですかね。
 こんな模様があったり普段着にでかい刃物背負った人がいて」
「いや派手さで言うならコロールのギルド長も似たようなものだし
 以前道を歩いていた時ゴブリンと素手で格闘していた一般人を見たことがある」
「・・・そ、それはそれで凄いですね」
「それとこれも持っていくといい」

大体こちらでの普段着に着替え終わり
最後に渡されたのは綺麗な装飾のされた篭手だ。

「先程話した生命探知の効果が添付されている。
 探知範囲は85Ft。町中ではそこら中に反応して視覚的に鬱陶しいが
 外に出た時には山賊や狼、クマなどを事前に探知できる」

つまり生きているものを無差別に感知するレーダーのような物なのだろうが
ジュンヤはまだ外を出歩く勇気がないのでそれはダンテに持たせる事にした。
それくらい自分で察知すると言って駄々をこねたが
戦い出すと周り見なくなるから持ってろと言って却下した。

「さて、着替えはこれでいいとして
 あと持っていく物は整理してもらう書物類と・・他にリクエストなどは?」
「酒とつまみ。あとイチゴ」

一切の迷いなく言い切ったオッサン子供
・・じゃなくてデビルハンター(開店休業中)の足を
ジュンヤは床を踏みぬく寸前の力で踏みつけた。





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