別に必要はなかったがダンテがしつこくごねるので
2人で食べる分だけの作物を収穫し、残った分を小屋にあったタルや箱につめる。
だがそれが終わると他にこれといってする事がないのでダンテはすぐ退屈しだし
そのへんをウロウロしたがったので即、拒否った。
カルメラの忠告通りこのあたりには草木や岩はあっても
目印になりそうな建物などが一切ないので
ヘタにうろついて迷子にでもなろうものなら迷子の上塗りで
もう笑えないどころの話ではない。
じゃあ近くにあるという洞窟の方に行くとも言われたが
その時にはもう日がしずみかけていたので夜が明けてからにしなさいと言ったら
ダンテはさすがにふて腐れたらしく、じゃあ見張りでもすると言って外へ出て
屋根に登ったような音をさせたきり下りてくる気配がない。
・・俺は確か、デビルハンターとやらを雇ったつもりなのに
いつからデカい子供との同伴になってるんだろう。
と思いつつジュンヤは小屋の片隅にあったベッドに寝転がり
わらで組まれた柔らかそうな天井をちょっと遠い目で見ていた。
横になって眠れば多少の時間はつぶせるかと思ったが
どうやら自分の神経はそこまで図太くできていなかったらしい。
眠れない。
疲れているはずなのにとにかくなぜだか眠れない。
だが眠れないとはいえ周囲は静かだ。
ボルテクスも騒がしい方ではなかったがここは格別だと
ジュンヤは無感動にそう思う。
東京から人間がいなくなったあの時
まだ見知った土地で誰かが残っているかも知れないという多少の期待はあった。
思いがけず悪魔になったが前に進む力もでき仲魔もたくさんできて
ある程度の希望が見いだせてきたと思ったら突然これだ。
ここは人はいてもまったく知らない未知の土地。
そして今自分はこの世界ではまったくの異端となる。
つまりはほとんどゼロからのやり直しだ。
仲魔とはぐれなかったのだけは救いだが
これからどうするべきかの道筋がまったく見えてこない。
ジュンヤはふと目を閉じさっき確認したストックに意識を向けた。
「・・・なぁミカ」
『どうした』
声をかけるとずっとそこにいたかのようなかのような声が返ってくる。
おそらく彼の事だからわいのわいの騒ぐ仲魔連中をまとめた代表として
そちらとこちらの一番近い場所にずっと陣取っていたのだろう。
「・・静か・・だよな」
『・・そうだな。悪魔の気配もアマラの気配も
マガツヒのにおいも受胎の跡も乾ききった風も
ここには我らのいた場所にあったはずのものが何もない』
「そっか・・」
どれもこれも思い出せば楽しくない記憶ばかりだが
いざなくなってみると妙に寂しく感じてしまうのは
やはり自分があそこで生まれた悪魔だからだろうかとふと思う。
『主、これからどうする』
「・・わからないな。カルメラさんの報告を待ってみて
それから後の事はその時考えるつもりだけど・・」
しかしもし帰れる手立てが見つかったとしても
自分はあそこへ帰ってもいいのだろうか、もしくは帰るべきなのだろうか。
ここへ来たばかりの時はそう思わなかったが
時間がたてばたつほどその迷いは大きくなる。
それはきっとあの騎士言った何気ない一言が原因だろう。
「・・なぁミカ」
『何だ』
「もしも・・・もしもの話なんだけどさ。
もしこのままボルテクスに戻れなかったとしたら・・みんなはどうする?」
すると少し呆れたような気配がして
その後真っ直ぐで迷いのない、そして力強いセリフが返ってきた。
『何を聞くかと思えばわかりきった事を。
我らどこにいようともいついかなる時であろうとも主と一心同体。
主がそう望まぬ限りはそのそばに付き従うが我らの役目だ』
その言い方はカタくてむずかしそうに聞こえるが
つまりクビにされない限りはどこにだって一緒にいくという事らしい。
悪魔になってからロクな目にあっていないけれど
この仲魔というものだけはボルテクスにあって本当によかったと心底思うことだ。
だがホッとしていたのも束の間
ミカエルは少し真面目な声でこう付け加えてきた。
『だが主、悪魔狩りには気をつけろ。
奴は悪魔を狩る事を生業(なりわい)としているいわば傭兵だ。
悪魔の存在しないと思われるこの土地で主に利用価値がないと見れば
どのような行動に出るかわからん』
その忠告にジュンヤはぐいと首根っこを掴まれた気がした。
確かにあの魔人だけは契約の仕方が特種で
他の仲魔と同じようにくくれる存在ではない。
ここにアマラの奥にいたような悪魔はいないようだし
イチゴはともかく退屈そうにしていたし何より契約金が冗談のような1マッカだ。
雇われているメリットがないとわかればどう出るか。
帰れるかどうか、これから先のこと、戻るべきかどうかに加え
さらに加わったそんな不安にジュンヤはせまいベッドの上をゴロゴロ転がりだした。
「うおお〜ぃ眠れないぃ〜〜!
別に寝なくていいんだけど眠れないとなると余計寝たくなるけど
やっぱりどうがんばっても眠れないめんどくさいこの状況〜〜!」
『む・・確かその場合、メイドの数を数えると良いのでは?』
「1コ飛ばしのボケをどうもありがとう!そして正解はヒツジな!」
ざくざく
などと虚空に向かってチョップを入れていると
わらで作られた屋根の方から何か蹴るような音がする。
おそらくダンテだろうが何だろうと思っていると
少ししてさらに同じ数、今度はいらだったように踏みつける音がした。
様子からして上で呼んでいるらしい。
『・・何をやっているのかあの男は』
「見張りにあきて退屈してるんだろ。
まぁ俺も眠れなかったら丁度いいや」
よいしょと飛び起きて靴をはき
少しホコリのついた身体のあちこちをはたいて扉に向かう。
眠れないのなら仕方ないし1人であれこれ考え込むより
外に出て空気を吸って、しゃべっていた方が気楽だろう。
『気をつけよ主。奴は戦力として申し分ないが
それ以外の所ではなにを考えているか読めん男だ』
「わかった。なるべく気をつけとく」
でも気を付けててもどうにもならないのがあの人なんだよなぁとかこっそり思いつつ
ジュンヤは古びた扉に手をかけぎいと押し開けた。
そこは自然のど真ん中にある小屋なので外は真っ暗かと思いきや
外に出てみると意外と明るくそれなりに視界がきいた。
月明かりがあるのかと思ったがそうではない。
それは星だ。扉を開けた瞬間見えたのは空をおおいつくすほどの星だ。
本来闇といくつかの星で形作られているはずの夜空は
まるで砂をぶちまけたかのような星々で照らされている。
それは地面に足がついている事を自覚していないと
宇宙のどこかに放り出されたかのような感覚になるほどの
それは大量で無造作な星の海だった。
「イヤミなまでの星空だな」
少し唖然としていると後ろから声をかけられる。
振り返るとあまり高くない小屋の屋根にダンテがいて
わらで編んだそこに立ったまま、ちょいちょいと手招きしてきた。
「上がって来い。中に閉じこもってるよりも面白いぞ」
「え・・でも・・」
しかしそこは平屋とは言えそれなりに高さのある屋根の上だ。
躊躇しているとダンテはそれに気付いたらしく
屋根の下にあったタルの所へ移動し、ほらと手を差し出してくる。
・・というか俺がNoって言う事選択肢に入れてないのなこの人は。
とか思いつつタルの所へ行ってよいしょと上へよじ登り
差し出されていた手を掴むと。
「うわっ!たっ、と!」
ほとんど投げ上げられるくらいの勢いで引っぱられ
あやうく赤いガタイとぶつかりそうになりながらも
少しチクチクする屋根の上になんとか着地した。
「ようこそ特等席へ」
「ようこそじゃないだろ危ないなぁ」
「上、見てみろ。面白いものがある」
相変わらず話聞いてないし一体何だよと思いつつ首をひねって上を見ると
ジュンヤは手を掴まれたままの状態で固まった。
そこにあったのは月の何倍もある
腕を伸ばし空に皿をそのまま貼り付けたようなでっかい天体だ。
手を伸ばせばとどくんじゃないかと思うくらいのそれは
赤いような青いようなとにかく不思議な色をしていて
ジュンヤの知識にあるどの天体とも一致しない。
ということはここはボルテクスどころか地球上でも
太陽系のどこかですらないという事だ。
「・・・何あれ」
「さぁな。見慣れない星だが暑くもまぶしくもないならいいんじゃないか?」
ダンテは興味なさげにそう言って
屋根のてっぺんにある座りやすい所にどっかと腰掛ける。
ジュンヤは少し迷ってそこまでいき、同じように腰掛けてからもう一度上を見た。
見間違いかと思ったが見たこともない不思議な天体は
さっき見た形のままそこにどーんと浮いている。
ふつう星とかを見れば多少気が晴れるところなのだが
ジュンヤはさっきよりも数倍増しで気が重くなった。
「・・・・ダンテさん」
「ん?」
「俺達・・どこにいるんだろう」
「地球上のどこかでない事だけは確かだろうな」
着いた先が墓の中でもなく出口のない密室でもなく
ちゃんと日の当たる場所がある所だからよかった、と思いきや
何も地球外の太陽系外にまで飛ばさなくてもいいだろう。
飛ばすにしてももうちょっと近くにしとけよとは思うのだが
今自分達の頭上にある見たこともない天体は
そんなの知るかとばかりにどーんと浮いていて
さすがのジュンヤも元気がなくなる。
「どうしたシケた顔して。
こんなのはあのデカい檻の中で見れないだろう」
「・・そりゃそうだけど・・でもその前にここがどこだとか考えないのか?」
だがダンテはあまり考えずなんだそんな事かとばかりに肩をすくめた。
「別にどこでもかまいやしない。
場所が正確にわかったところでどうにかできる気がしないからな」
「・・気休めにもはげましにもなってないよなそれ」
「したところで現実が都合よく変わったりしないだろ」
「・・・・・」
こういう時だけ正論ズバリな物言いにちょっと腹立つが
ここでダンテをぶん殴った所で事態が好転するとも思えない。
結局のところどれだけ悩もうがやっぱりカルメラの調査を待つしかないのだ。
「・・でも俺達・・ちゃんと帰れるかな」
「どこに蹴落とされようが這い上がってくるオマエにしちゃ弱気な発言だな」
「今までだったら落とされた先にいた何かを倒せば
元に戻って来られるのがパターンだったからな。
でも今回はそういうのじゃないし、今までの事が通用しないみたいな世界だし・・」
「それに少なくとも砂だらけの不条理な世界より
こっちの方がいいんじゃないか。とでも?」
ぎょっとしてそちらを見るとダンテは『当たりか?』と少し可笑しそうに笑う。
そんなそぶりを見せたつもりはないがそれとなく感づかれていたらしい。
『この世界は広く何者をも拒絶しない』
あの騎士であり魔術師でもある奇妙な恩人はそう言った。
それからだ。帰ることに対して妙な迷いが生じ始めたのは。
ここは確かに未知の世界だが生きていけない世界ではない。
「数歩歩いて出くわすような悪魔はいない
あぁして会話の通じる人間らしい協力者もいる。
オマエがあっちで大事にしてきた連中も離れずちゃんとついてきてるし
そう豪勢じゃないが食い物もちゃんとある」
ダンテはジュンヤが思っていた事を代弁するかのようにそう言ってから
どこかに隠し持っていたリンゴを出しがぶりとかじりつく。
そう言われると向こうに残してきた未練というのはあまりないし
やろうとしていた事も別に誰かに頼まれた事でもない。
しゃりしゃりという音を聞きながらジュンヤはふと思った。
つまり元の世界に戻ろうとするのも
ここへ留まろうととするのも価値はあまり変わりがない。
「戻る方法を意地でも探すか。それともこっちで生きる方法をのんびり探すか。
どっちを選ぼうが責めるヤツはここにはいないし、きまりだってない。
さて・・オマエは一体どっちを取るんだろうな」
などと完全他人事で面白そうにするダンテにジュンヤはムッとしたが
同時にもう一つ悩んでいた事があったのを思い出す。
「・・でも俺がここにいるって言い出した場合
ダンテさんはどうするんだ?」
「?オレ?どうしてオレに聞く」
「だってダンテさん、元々ボルテクスで仕事引き受けたんだろ?
こっちにいるなんて言い出したら退屈で窒息死するんじゃないのか?」
「オマエオレを何だと・・いや、まぁ確かに退屈は好きじゃないが・・」
そうしてダンテは少し考えるように遠くを見て
持っていたリンゴをかじってからこう話し出した。
「確かにあっちは黙ってても獲物が寄ってきて
器物破損もなければ借金取りもない実に楽しく仕事のできる環境だった。
だがな、オレの一番はもうそこじゃなくなってる」
「?じゃあ一番ってのは?」
「・・・・聞きたいか?」
急に変わった空気と声の調子にジュンヤはひるむ。
それは聞いてみたいが聞くとぜったい後悔しそうな墓穴のパターンだ。
「・・い、いや。別にいい。いきなり謀反とかやらないならそれでいい」
「つれないヤツだな。せっかくあのジジイの目が届かなそうな所にいるんだ。
この際オレが一体何を考えて・・」
「いい!おやすみ!じゃ!」
なんとなく続きを聞くのが怖くなったジュンヤは叩き付けるように話を終わらせ
屋根を滑って飛び降りると転がるように小屋にもどった。
残されたダンテはとくに残念そうな様子もなく
持っていたリンゴをぽんぽんと軽く投げながらくっくと笑う。
「・・やっぱりマジになると逃げられるか」
必要以上に近づいて来ず、手をのばすとさっと距離をあけようとし
でもなぜかこっちをじっと見て逃げようとしない。
それはまるで薄汚れた路地裏にいるノラネコのようで
実際想像してみると黒くて目が金色というネコのイメージがぴったりだ。
まぁいい。ゴタゴタに紛れて本音をもらすのもつまらないからな。
そう思いながら見上げた空には見たこともない巨大な天体があって
ちょっとした興味本位のつもりが随分と遠くまで来たものだとダンテは思った。
けど悪い気がまったくしないのは
別の意味でも自分が遠くまで来た事を意味するのだろう。
まぁ実際、アイツとならどこへだって行けそうな気がするが。
心の中だけでそうつぶやいてダンテは残り少なくなったリンゴをかじる。
それはあまり甘くなく少しすっぱいくらいだったが
今のダンテにはなぜか丁度いいと思えるくらいで
ふと可笑しくなった彼は1人屋根の上で笑いを噛み殺しつつ
異世界最初の夜を1人でも楽しく満喫した。
さてそれから数時間が経過し、ジュンヤが次に目を開けた時。
まず見えたのは見覚えのあるわらでできた天井だった。
小屋は閉めきられていて夜が明けたどうかはわからないが
体内時計が狂っていなければ今はたぶん朝のはずだ。
ということは結局のところちゃんと眠れたらしい。
しかし軽くのびをして周囲を見回してもダンテの姿はなかった。
まだ屋根の上にいるのかと思って外に出てみたが
朝日に照らされる綺麗な景色の中にあの目立つ赤は見当たらない。
久しぶりの朝日や清々しい朝の風景を楽しむ余裕もなく
ジュンヤのよく当たる悪い予感がぷくーと焼けたモチのようにふくれあがる。
「・・まさか・・」
ガンガン! グォオォーー
そしてその悪い方の予感は即座に当たった。
静かなはずの朝っぱらから聞こえてきたのは
聞き慣れた銃声と怖そうな何かの雄叫び。
「!・・もうなんかやってるし!」
起き抜けでのんびりする間もなしかとばかりに走り出すと
音のした方はカルメラの話していた水場と洞窟の方だ。
幸いあの目立つ赤はすぐに見つかったが
それに声をかける前に草に隠れていた青白いものにけつまづきそうになる。
「・・ひぃ!?」
それを見るなりジュンヤは飛び退いた。
それは絶命していたがかなり腹の出た亜人種だ。
そこそこ大きく腕も太いが頭が小さいのでおそらく知能が低くて力が強いタイプ。
たぶんさっきの雄叫びはこれだろう。
「相棒!」
だがそれが何かを確認する間もなくダンテの声が飛んでくる。
見ると前方から黄色い発光体かガスのようなものが
不思議な音を立てて飛んできた。
それはスペクターに顔がない光のもやのような何かだったが
ジュンヤはとっさに身をひねってその軌道から離れると
そのもやに真空刃をたたきつけた。
するとそれは急に光を失い、わずかに光る小石のようなものになって
坂をコロコロと転がり近くにあった泉にとぷんと落ちた。
どうやらそれが光る何かの本体か何からしい。
ちょっとドキドキしながら固まっているとダンテがやって来てばしと肩をはたいてくる。
「ナイスタイミングだ相棒。
そっちのデカブツはともかくそのモヤは銃も剣も素通りだったからな」
「・・えぇと・・あぁ。うん。
朝っぱらから何やってんだコラァ!!」
どう反応していいかわからないのでとりあえずキレてみたが
突き出したグーパンは無駄にかっこいいバク転で回避された。
「何って普通に顔を洗いに来ただけなんだが
テリトリーと重なってたらしくてな。向こうから襲いかかってきた」
「それだけでこんな事になるのか!?
俺が寝てるうちにちょっと探索とか思ってたんじゃないだろうな」
「それもちょっとあるが声の届く範囲から出るつもりはなかったさ。
あ、待て。魔弾はよせ。このあたりを直線に焼く気か」
きいいーんと集まっていた魔力が思い出したように四散する。
確かにここは石を投げれば命ある草花に当たるような場所なので
あまり強力なスキル攻撃は気が引ける。
「なんだ、いないと思ったらこちらにいたのか」
じゃあ他の方法はないかと素早く考えていた時
草花をかき分けて調査から戻ってきたらしいカルメラがやってきた。
意外に早く戻ってきた所を見ると手がかりがまるでダメだったか
簡単に見つかったかのどちらかだろう。
「あ、すみません、お帰りなさい。それで・・どうでした?」
「門の跡地は空振りだったな。門も街もあの時のまま何ら変わりはない。
ギルドの方もざっと聞き込んでみたが手がかりなしだ」
「・・そうですか」
そういった場合があるのも一応覚悟はしていたが
さすがにしゅんとするジュンヤにカルメラは少し考えてさらに続けた。
「だが街ごとにある各ギルドの方にはまだ出向いていないし
情報を探す場所ならいくらでもある。諦めるのはそれからでも遅くはない」
「・・・・」
「とにかくここでは何だ。一端中に入ろう。
・・だがその前に君達、そこのオーガを倒したのか?」
何気なく指されたのはおそらくダンテがやったのだろう
地面に転がっていた青白くて腹のデカイやつだ。
それはダンテが倒し発光体みたいなのはジュンヤが魔法で倒したと説明すると
カルメラはなぜかうんと安心したようにうなずく。
「そうか。オーガとウィプスを倒せるなら野外で苦戦する事はないな」
「あの・・このあたりってこんなのがウヨウヨしてるんですか?」
「いやウヨウヨしているという程ではないが
オーガは人里を離れるとたまに遭遇する相手で
ウィプスはそう出会う方ではないが普通の物理攻撃が効かないのが難点だ」
「しかしこのデカブツはともかく物理攻撃が効かないってのは
魔法を使えない奴が会うとキツイだろ」
するとカルメラは予備に持っていたのだろう銀色の剣をすらりと抜いてみせ。
「銀製だ」
と短く説明してくれダンテが拍子抜けしたような顔をした。
「なんだ。そんなオーソドックスな話だったのか?」
「霊体やウィルオウィプスなどの実体のないものには
銀かデイドラ製、魔法の添付された武器、または魔法でしか対処できない」
そう言えば古い映画などを思い出すと、ある特定の怪物というのは
銀製の弾丸や剣でしか傷付けられないと聞いた事があるが
ここではそれがそのまま通用するらしい。
「野外の敵で注意すべき事はこれと山賊、野盗くらいだな。
それについては追々説明するとして・・」
そう言ってカルメラはなぜか転がっていたオーガの口に手をつっこみ
そこからいきなり歯を引き抜き、続けざま泉に浮いてたウィプスとやらの残骸から
チリのような物を回収しジュンヤは思わず固まりかける。
「・・・・あの・・カルメラさん、何やってるんですか?」
「素材の回収だ。倒した敵からは大体なにかの素材が採取でき無駄になるものはない。
この歯もチリも、そのあたりにある草花や種キノコ同様薬品の材料などになる。
ちなみに神殿にいたゾンビの肉も素材になるのだが回収はしていない。
どうも気が進まなくてな」
「そ、そうです、よね。あはは」
確かに色々とれそうだから使おうとすれば使えるかもしれないが
それが飲み薬にでも入ろうものならどれだけ効こうが絶対イヤだ。
この人がそのへんの良識ある人でホントによかったと
ジュンヤは心の底からほっとした。
「あぁ、それと約束していたイチゴと適当な食料を追加で持ってきてみた。
加工品になるがパンとチーズ、スイートロール。あと酒はいける方か?」
そう言って取り出された茶色い酒ビンの数々にダンテがご機嫌な口笛をふく。
「見た目と身分のワリにわかってるじゃないか騎士様」
「確かに今はそうだが元々斥候だからな。少年、早く来なさい」
「・・・あ、はいスミマセン」
本当はもうちょっと遠慮しろ!と怒りたかったジュンヤだが
スイートロールなるマフィン似の食べ物を見た瞬間その気は失せた。
悪魔なので別に食べなくても餓死はしないが
やはり人間のなごりというか習性のようなものは簡単には消えないらしい。
「で、酒は何だ。ウイスキーか?ラムか?」
「あいにくワインとビール、あとハチミツ酒くらいしかないな。
だが棚にブランデーが残っていたはずだ。今度持ってこよう」
「よし、できれば記憶が飛ぶくらいガツンとくるようなものを・・」
「コラそこ!助けてもらってる分際で平然とたからない!
カルメラさんもあんまりその大人子供甘やかしちゃダメです!」
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