「・・・こらライドウ。なれ合うのはそれくらいにして捜査を再開せんか。
 それと傷は今のうちに回復しておけ」

そう言われて2人そろってはたと我に返るのはどっちも精神的に未熟
・・というか犬好きの仲魔好きな証拠である。
しかもライドウにいたっては軽く傷をおっているのにまるで気付かなかったらしい。

「ライドウさんそれ・・!」
「・・大した事はない。立ち回り方が悪かっただけだ」

ライドウは静かにそう言いケルベロスの頭を撫でてから管に戻すと
それとはまた別の管を手に取り、中を出そうと口を開きかけるが
その動きがなぜかジュンヤを見たところでぴたと止まる。

「?なんですか?」
「・・いや・・この中に回復担当の仲魔がいる・・のだが・・」

こっちを見てやめたという事は、それが見ず知らずの者にとっては
凶暴なのか厄介なのか怖いのかのどれかだろう。

「・・もしかしてまた口調とかが怖いんですか?」
「いや・・見た目が少し」

でもジュンヤにすればマザーハーロットやピシャーチャ
あといきなり出てくる魔人達(含むD氏)を色々見てきたので
今さら驚く事もないだろう。

「あ、気にしなくても大丈夫ですよ。
 俺も大抵の事には慣れてますし、いろんな悪魔を見てますから」
「・・・・」

でもそう言われてもまだ心配らしく、ライドウはさらに少し躊躇った後
その管をジュンヤとは反対方向に向けて中を出した。
が、その気遣いとは裏腹に、出てきた光はなぜかくりんと空中でUターンし
『あ』という顔をしたライドウをよそにジュンヤの少し前で何かの形をとった。

「うっ・・!」

そうして主人の意思に反し、こちらを向くようにして出てきたそれを見た瞬間
ジュンヤは無意識にうめいた。

それは普通の牛のサイズをした牛だった。
しかしただの牛ならうめきはしない。
その牛、本来牛の頭があるべき所に大きめの人の頭がのっていたのだ。
しかも普通に人の頭にあったら美青年と言えそうな顔に
綺麗な薄衣をまとった状態でだ。

「・・こらクダン」

せっかく遠くに出そうとしたのにと静かな抗議をするライドウをよそに
そのクダンとかいうらしい人面牛は無表情でジュンヤを凝視する。

いや確かにこれまでインパクトのある悪魔とか
笑える・・もといヒドイ性格の人に会いはしたがこれはこれで素直に怖い。
しかもその人面牛、何を思ったのか地面から少し浮いたままの状態で
かつかつと牛の歩みで近寄ろうとしてきてジュンヤはその分後ずさった。

怖い。なんか怖い。
もうちょっと怖い顔をしていたら普通に人面牛の悪魔で片づけられたが
なまじ若くて綺麗で無表情な顔がのってるもんだから妙に怖い。
あと無言無表情なのも怖い。なんかしゃべって。
いやしゃべったらしゃべったで余計に怖そうだが
とにかくその無表情でせまってこないで。

などとせまってくる分だけずるずると後ずさっていると
ぐんという少しの衝撃のあと人面牛の歩みが止まった。
見ると見かねたライドウが尻尾を掴んで止めてくれたらしい。

「・・クダン」
「ぬ、無礼な輩め。何をする」

振り返った時発せられた声は顔相応のものだったが
ぶるると鬱陶しげに身を震わせる仕草はまぎれもなく牛だ。
どっちにしろ地味に怖いこの牛・・じゃなくクダンという何かは
しばらくライドウと睨み合い、少しして諦めたようにすすと後退した。

中距離で見るとちょっと顔の大きい人面牛で済むが
近くで見る顔と身体のチョイスがなんというか静かに怖く
ライドウがなんで出すのを渋ったかが今よーくわかった。

「・・すまないな。能力は悪くないが少し性格が曲がっていて・・」
「えと・・いえ大丈夫です。ライドウさんがあやまることわあぁあ!

と言いかけたそばから無表情がフェイントでぬおーっと迫ってくる。
だがそれはこちらに到達する寸前ライドウが力一杯蹴り飛ばしてくれた。
でもさすがに牛だけあってふっ飛びはせずちょっと軌道がずれただけだったが
ライドウもライドウでやることがワイルドだ。

「・・何をする。重ね重ね無礼な輩め」
「それはこちらの台詞だ。遊ぶな牛。鍋にするぞ」
「・・ふむ、しかしそうは言えどもこのような類似点の多い珍奇な悪魔を前にして
 大人しく見ているだけというのも技芸として芸が・・」
「クダン」

静かながらハッキリした物言いに人面牛、じゃなくクダンが黙る。
ジュンヤの位置から顔は見えなかったが声からして怒っているのだろう。

普通に人間だったら普通の美青年だったろう顔の眉間にシワが寄り
牛の身体がぶるるとふるえてライドウの身体が一瞬だけ閃光につつまれる。
それはたぶんディアラハンなのだろうがやっぱりちょっと不気味だ。

「・・よし、ありがとう。戻ってよし」
「いや我はアレにもう少しかまいた・・」

ゴッ

などと言いかけた人面牛の脳天にまた管が刺すかのごとくぶつけられ
人面牛は管の中へ強制回収された。

「「・・・・・・」」
「では行こう」

ゴウトとジュンヤ2人分の沈黙をよそに
ライドウは何事もなかったかのように歩き出す。

まだあんなのが一体づつしか出てこないからいいものの
3体も同時に出せるって結構すごいことなんだなぁと
自分の懐がどっこいな事も忘れてジュンヤはヘンな感心の仕方をした。




で、道すがらに聞いた話によるとあの人面牛
元はといえば頼みもしないのに不吉な予言をはいて回っていた特種な悪魔で
倒して仲魔にしてみたはいいものの、その時の性格が抜けておらず
あんな人を怖がらせる行動をとったらしいのだそうだ。

「・・精神攻撃を受け付けないのでフォローに回るのには最適だが
 外見と性格の組み合わせが・・どうもな」
「・・あはは・・個性的というか・・・・なんというか・・」
「・・無理せんでもいい。こやつはまだ駆け出しで・・」

と言いかけたゴウトの言葉が途中で切れる。
その一瞬後、周囲の空間がざっとゆがみ
周囲にまた見知らぬ悪魔やゾンビが出てきたからだ。

「ライドウ!」

ゴウトの声と同時にライドウがマントをひるがえし慣れた動作で刀を抜く。
何というか自分と歳があまりかわらないはずなのにそれはやたら凛々しく見えて
ジュンヤはちょっと見とれてしまう。

しかしジュンヤもさすがに黙ってやられるつもりはない。
よたよたと不気味に近づいてくる敵との間合いを計り
殴って倒すかスキルで倒すかを借り物の制服が汚れない範囲で考え

「トール!」

ついでに誰か呼んだ方がいいかなと思った瞬間
自分のものではない声に先をこされた。

だがそれはもちろん自分ではない。
したがってストックの中のトールはビクッとしてあたりを見回しただけだ。
それを認識するのと同時に横合いから光が飛んできて
目の前に着弾したかと思ったら白くて大きな壁に変わる。

それは実際壁ではなかったが近くで見るとまさしく壁だ。
白い布のかかったそれは向こうでぶうんと何かを振りかぶるような音をさせ
目の前にいたのだろう敵を殴り飛ばし、かなり上の方で怒鳴り声を発した。

「ぬぅ・・!おのれ!ようやく喚んだかと思えば即座に盾とは何事か!」

それは聞き覚えはあるが微妙に違う太くてたくましそうな声。
目の前にある壁のようなマントもどこか見覚えがあるのだが
よく見ると色合いが若干それとは違う。
しかしその大きさが他にあるように思えないので
ジュンヤは思わず聞いてみた。

「・・トール?」

その直後、目の前にあった壁が少し動き
てっぺんにあった顔が軽くこちらを向いて
同時にストックにいた大きな身体も何事かと反応する。

白く巨大なマントに覆面のような黄色い頭。
何より人の形をしていながら無闇に大きいその身体は間違いなくトールだ。
しかしそれがジュンヤの知るトールでない事は
ストック内に本人がいることも含めて明白だ。

それに目の前のトールにはいくつかの違いがあった。
まず顔の横にある立派なツノ。見慣れたそれは本来白いはずなのに黒いのだ。
肌の色だっていつも見るよりも少し黒っぽいし
いつも持っているハンマーもバリバリと威勢良く放電しっぱなしだ。

そのいくらか攻撃的な外見を持つトールはかなり遠慮なくこちらをじろじろ観察し
かかってきた敵をハンマーで殴りながら、さらにチラ見で何度もこっちを見ようとする。
危ないのでよそ見するか戦うかどっちかにしてほしいと思うが
それはすぐにライドウが代行してくれた。

「トール」
んごぁ!?

ライドウの投げた石(マグネタイトというらしい)がよそ見しまくっていた頭を直撃する。
さすがに銃で撃ったりはしないようだが
声をかけるのと投石が同時なのはどうだろうか。

「しばらくそれの護衛を頼む。こちらはこちらで忙しい」
「だから毎度何度も忠告しているが我に対するそのぞんざいな扱いを・・
 こら聞いているのか!貴様!!」

しかしライドウは無視してもう他の悪魔に斬りかかり始めている。
そもそも今は戦闘中なので文句を言ってるヒマなどはない。
敵はこっちの都合などおかまいなしに勝手にどんどん集まってくる。

ジュンヤのトールではないトール。つまりライドウの所のトールは
忌々しげにどんと足を踏みならし、ついでに横合いにいたゾンビを殴り飛ばして
ぶんとジュンヤの方を向いた。

「えぇい!話は後か!おいそこの小型!」
「え・・俺?」
「他に誰がいる!貴様多少なりとも戦えるようだが
 我の邪魔をすることまかりならんぞ!そこで大人しく見ておるがよい!」

そう言うなりライドウのトールはどすんどすんと足音をさせながら
見慣れない悪魔やゾンビなどを大振りな動きで倒していく。

でも正直その巨体で前をウロウロされる方が遙かに邪魔なのだが
言うとさすがに怒りそうなのでジュンヤは黙って言われた通り
その邪魔にならないよう距離をたもちながら彼の死角になる敵だけを倒した。

「ほう、地味にやるではないか小型!さすがに類似か!」
「・・そりゃどうも」

なんか高飛車なトールだなぁとジュンヤは妙な感心をし
同時に類似ってなんだろうと首をひねる。
そしてそれをストック内で聞いていたトールが
酒飲んでハメを外しまくった所を動画で撮られ
素面に戻った時見せられた人みたいな気配をさせた。

「・・あ、気にするなって。凄く似てるけどまったく別人
 いや別悪魔みたいだし」
「?なにをブツブツほざいて・・・えぇい忌々しい雑魚どもめ!
 雑魚の分際で我に気安く寄るなぁ!!」

一体づつ倒すのが面倒になってきたのかライドウのトールがぶんと鉄槌をかかげる。
おそらく魔法の詠唱か何かだろうが動作がちょっと大振りで
あれだと近くにいる2体から攻撃を受ける方が速い。

あぁもう!足元見てから行動しろよ!

そう思いつつ思わず真空刃をかけたのと銃声がしたのはほぼ同時。
おそらくライドウも同じ事を思ったのだろう。
銃と風の刃のフォローは的確で、ちょっと大振りな魔法は無事完成し
発生した雷撃は周囲の敵をまとめてなぎ払い
そこでようやく周囲から敵の気配が消えさった。

「フン、他愛もない。野良悪魔の分際で我に近づこうとは笑止千万」

いやでも今近く確認しないで詠唱に入ってたよね。
とジュンヤは心の中だけでツッコミを入れるが
ライドウが何も言わず合流してきた所を見るとこれがここでの普通なのだろう。

まぁ悪魔にも色々あるんだから、妙な自信が空回りするのだっている
・・よな。ウチにも。

あんまり思い出したくない赤いコートの事を思い出しつつ
ジュンヤは制服に付いたホコリを慎重にはらった。

あとトールってまっすぐ立つといい位置に目線がいって結構困るなぁ
とか思いつつ腕を組んでふんぞりかえるトールから微妙に視線をずらしていると
そのお高いトールには目もくれずライドウが様子を確認しに来てくれた。

「・・大丈夫か?」
「あ、はい。俺は平気ですけど・・」

ちらと何か言いたげにトールの方に目をやると
ライドウはすぐ気付いて説明してくれた。

「これは雷電属トール。見た目の通り図体と気が大きく
 大きいがため戦闘中の動きが遅いので壁にはとても最適だ」
待たんかこら!誉めておるようでまったく誉めておらんぞそれは!」
「事実だ。あぁそれと壁、ご苦労」
「貴様ああぁ!!」

少し色合いが黒っぽくてお高いトールは激怒するが
怒るものの手を上げず地団駄をふむだけだし
ライドウも慣れているのか完全にそしらぬ顔で外野的にはちょっと笑えた。

「・・やっぱり同じトールでもいる場所によって違うんですね」
「?もしや君の所にもいるのか?」
「はい。性格はちょっと違いますけど怒りっぽい所はちょっと似てますよ」

その途端ストックのトールが『違うもん!我あんな偉そうな上から目線じゃないもん!』
と抗議しようとしてフトミミとミカエルにやんわり止められた。

「・・偶然かも知れないが妙な巡り合わせだな」
「はは、そうですね」
「くぉらそこ!何を和んでいる!
 それより我を壁代わりに使用した謝罪がまだであるぞ葛葉ライドウ!」
「・・そうだったな。もう戻ってくれ。
 お前は図体が大きくて場所的にも視覚的にも少々邪魔だ」
「ぐぉお!貴様!前々からしつこいほど何度も言っているが
 雷電の高位たる私に対してその物言いと態度はなんだ!
 貴様の実力は認めるがその若いクセに落ち着き払った態度は・・!」

しゅん

持っていたハンマーでライドウをびしと指し、説教を始めようとしたその姿は
無言で向けられた管の中に一瞬で戻される。
やたら慣れているの所を見るとこういうのも日常茶飯事なのだろう。

「・・時にライドウ。何やら仲魔を使役するたびに
 こちらの恥を露見させているように感じるのは・・」
「ゴウトの気のせいだ」

ぴしゃりと言い切られたゴウトは数秒沈黙し
やっぱり慣れているのか素直に話題を切り替えた。

「・・まぁお互いの悪魔がどうかはさておきライドウ、気付いているか?
 先程から妙に敵対する悪魔の出現率が高い事を」
「・・今探している人物の影響か、それとも・・」

ライドウはその先を言わなかったがそれはおそらく
ジュンヤ達がここに来てしまった事にも原因があるのだろう。
その事を感じて少し青ざめるジュンヤを見てゴウトが付け加えた。

「いや、かまわん。お前1人が悪く思った所で事態は解決せんだろうからな。
 とにかく今はそのはぐれたもう1人というのを探し出す方が先決だろう」
「・・・そう・・ですね」
「・・だがこのまま君を連れて歩くのは少し危険に感じる。
 ここで少し待っていてもらえるか?」
「え?でも・・」

急な提案で少し不安そうにするジュンヤをよそに
ライドウはまた別の管を出し冷静に付けくわえた。

「戦闘中にはぐれる可能性もあるだろうし単身の方がこちらも動きやすい。
 それに歩かずじっとしていれば悪魔も襲って来る事はなだろうし
 戦闘に巻き込まれないに越したことはない」

そうしてライドウは手にしていた管からまた別の悪魔を出した。
あまり音を立てずそこからくるりと回転して出てきたのは
またジュンヤも知る悪魔、パールヴァティだ。

そのあまり悪魔に見えない女性型の悪魔は悪魔全書にあった姿とほぼ変わらないが
そのパールヴァティにはある決定的な違いがあった。

「パール、すまないが俺が捜索をしている間ついていてやってくれ」
「はいな。せやけどあんまり無茶したらあかんよ?
 危なくなったら早いめにクダンちゃん出して回復してもらいや」

一瞬聞き違いかと思ったがその鈴をころがすような綺麗な声は
確かにそのパールヴァティから発せられているし
その彼女はライドウとしばらく話をしてこっちを見て花のように微笑み。

「いやまぁホンマ、えらい若い子やねぇ。
 サマナーなりたてのライドウちゃんを思い出すわぁ」

それは聞き違いではなかった。
その世話好きのおばちゃんみたいな口調は間違いなく
目の前にいるパールヴァティから発せられている。

なんでそんな容姿におばちゃん口調で
妙にお歳をめしたような物言いをするのかと言いたかったが
こっちの世界はこっちの世界の法則か何かがあるのだと思いきかせ
ジュンヤは喉まで出かかったいろんなセリフをギリギリでこらえた。

「これは雷電属パールヴァティ。広射程の電撃魔法と全体回復が使える。
 口調は変わっているが仲魔内で一番気が利いて大人しい。
 何かあったら気兼ねなく頼るといい」
「んま、いややわぁライドウちゃん。
 こんなおばちゃんおだてたかてなーんも出ぇへんよ?」

などと言いながらべちこんとライドウの背中を勢いよくはたく
見た目美人で中身がアレな悪魔にジュンヤは閉口し、ゴウトが軽く目をそらした。

「・・ゴホン。ともかく我々はその赤マント似の男を捜索してくるが
 それまでここで大人しく待っていられるな?」
「それは大丈夫ですけど・・でもその探してる人、かなり特殊な人なんで
 もし変な登場の仕方してきて変な事言われたりしても
 気にせずにさらっと受け流して下さいね」
「・・・・・・・・・」
「ゴウト」

聞けば聞くほど会いたくなくなり、お目付という役目も忘れて
『帰っていいか?』と言いたげなゴウトをライドウが静かにたしなめた。

そうしてなんだかんだで結構バランスが取れている黒いコンビを見送り
残されたジュンヤはしばらくして大きなため息を吐き出し
横にいたパールヴァティにくすとひかえ目に笑われた。

「心配せんでも大丈夫。ライドウちゃん、あぁ見えてたくましくなったからねぇ」
「・・はぁ。それは今まで見てて・・わかってはいるんですが・・」
「?どないしたん。なんか悩み事?」
「いえ・・ライドウさんを信用してないとかそうわけじゃないけど
 それとは別に悪い予感がするというか、別の事で心配してるというか・・」
「ふふ、ホンマ。あんたライドウちゃんによう似とるわ」
「え?」

思いがけない話にジュンヤは目を見開く。
だってあの沈着冷静なサマナーと自分のどこがどう似ているのか。
そりゃ多少仲魔の事に関しては意見の合う所もあるだろうが
何かの冗談なのかと思っているとおばちゃん口調の美人さんは
おっとりした様子でこんな話をしてくれた。

「うちらな、単独捜査ゆうてライドウちゃんの所から離れて
 単体で捜査とかする時があるんよ」
「1人で離れて・・ですか?」
「そ。でも単独やから他の悪魔と遭遇したら1人で戦わなあかんし
 1人でぎょうさんの敵に囲まれる時もあって危ないんよ。
 でな?どうしてもそれせなあかん時どない思う?」

何だか街頭で話し好きのおばちゃんにつかまったような気分だが
もし自分の仲魔でそうせざるを得なくなった場合の事なら当たり前のように分かる。

「そりゃ・・心配しますよ。ハラハラしながら帰ってくるの待ってますし
 無理はせずになるべく早く戻って怪我だけはしないようにって言い聞かせます」

するとパールヴァティは間髪入れず嬉しさと楽しさを混ぜ合わせたような声で笑い
手をひらりとして『まぁ奥さん』とばかりなジェスチャーをくれた。

「そうなんよ。それ、ライドウちゃんとまったく同じ答えなんよ」
「え?そうなんですか?」
「そ。あの子若い頃からずうっと1人でおったからかも知れんけど
 サマナーだからとか手持ちの仲魔だからとか言う前に
 うちら仲魔の事がホンマに大事で好きなんよ。
 そんな風には見えへん時もたくさんあるし、気ぃついてない仲魔の子もおるけど
 そうでなかったらこんなぎょうさんの悪魔、人の所に集まってきぃへんよ?」

その時ジュンヤはあっと思った。
そう言えば妙な質問をして1人で納得していたジークフリードも
何か言いたげで言葉の意味がほとんどわからなかったオボログルマも
それと同じで喋らなかったけどやたらジロジロ見てきたヒトコトヌシも。
渋々ながらもちゃんと触らせてくれたケルベロスや
チラ見が激しかったトールも不気味に近づいてきたクダンも。

それらはみんな別世界の悪魔が珍しかったのではなく
自分達の主人とジュンヤが似ていたから・・・

・・  ドン カキン パン タンタンタン

だがその結論にたどりついたその時、どこかで銃声と金属音がする。

最初の銃声は聞き慣れた誰かさんの物。
最後に聞こえたのは確かライドウの持っていた銃のものだ。

「げ!?うそ!?まさかもう始めちゃったのか!?」
「あ、ヨシちゃんが出された。なんやいきなり強いのと出会うたみたいやけど・・」

などとのんびり語ってはいるが音からしてやっぱりダンテと交戦になったらしい。
じっとしていろとは言われたが、迷ったのは一瞬だ。

「あ、ちょっとどこ行くん?」
「すみません!行きます!先にライドウさんの所に戻ってて下さい!」

危ないと言われたのに迷いなく走るその後ろ姿を見送り
パールヴァティはくすりとおかしそうに笑った。

「ほんま、見た目は似てへんけどよう似てはるわぁ」





ガンガン!ダンダンダン!カキン!チュイン!

走っているうちに物騒な銃器の音や危なっかしい金属音が近くなってくる。
幸い途中で悪魔やゾンビに遭遇する事はなかったが
音まであとちょっとという所のかどを曲がった所で
いきなり出てきた誰かとぶつかりそうになった。

「えわッ!?」
「ぅおっと!」

しかしぶつかりかけた相手は予想に反してジュンヤを上手に受け止めてくれた。
まさかと思ったがダンテではない。
見るとそれは古めかしい鎧を着込んだ鎧武者だった。

「なんだ、誰かと思や大将んところの迷子じゃねぇか。
 待ってろって言われたのにやっぱりダメだったってか?」

しかしその鎧武者、見た目は古風なのに若いせいか口調がやけにフランクだ。
ということは出会い頭に襲ってこないのも含めこれもライドウの仲魔らしい。

「え・・・じゃあライドウさんの?」
「おう、ヨシツネってんだ。ヨロシクな」

見た目と口調が合致しない鎧武者はびしと元気に挨拶してくれる。
しかしホントにライドウの仲魔というのは結構な個性派ぞろいだ。

「っとそうだ、のんきに挨拶してる場合じゃねぇ。
 しばらく離れてた方がいいぜ。大将集中すると周りが見えなくなるからな」

そう言ってヨシツネが親指でぐいと指したのは
だっと物陰から刀を抜いたまま走り出てきたライドウと
それを追って銃を撃ちながら出てきたあの迷惑ハンターだ。

また何をいきなり戦闘になっているのかはわからないが
2人とも結構本気らしくスピードが尋常ではない。

「なんだか知らねぇがあの赤マントもどき、えっらい速さで追いつけやしねぇ。
 さすがの俺も仕方ねぇから遠くから援護してやるのがやっとだ」

そう言ってヨシツネがライドウに向かって手をかざすと
攻撃を受け流していたライドウが急に強烈な反撃に転じる。
どうやらタルカジャか何かをかけたらしいが問題はそこではない。

「あの!申し訳ないんですがあの赤い人・・!」
「あぁ、なんか出会い頭に銃向けてきやがった危ない野郎でな。
 おまけに人間にしても悪魔にしても異常な動きしやがるし・・」
「・・スミマセン。人は人だし悪魔は悪魔なんですけど
 あれ残念ながら俺の探してた人そのものなんです」
「へぇ、そいつは奇遇だな・・ってんだとぉ!?
 赤マントの突然変異とかじゃなくて!?」
「赤マントっていうのがどんなのかわかりませんけど
 出会い頭にこんな事したがるのはダンテさんしかいませんよ」
「あっちゃあ!そういうのは早く言えっての!
 おぉい大将!待っただまった!そいつ赤マントじゃねぇってよ!」

しかしずっと戦っている2人はよほど真剣なのか
その声が耳に入った様子がなく結構な速度で剣や刀を時にはじき、振り下ろし
避けてまた斬りつけたりしている。

「・・ダメだなありゃ。あぁなるとオレにゃもう無理だ。
 なぁ、お前アレの知り合いなんだろ?あっちの赤い方から先に止められねぇか?」
「え・・・どうかな。あの人たまに・・いやあんまり俺の言うこと聞いてくれないし
 あの状態だとただでさえない聞く耳があるかどうかかなり怪しくて・・」
「かーもー!めんどくせぇしまだるっこしいなぁ!
 元はといやお前のまいた種だろが!ダメで元々なんとかしろ!」
「いや俺じゃなくて元はダンテさんがまいた種なんだけど・・・」

しかし原因はどうあれ今どうにかしないといけないのは事実なので
ジュンヤはとにかく意を決して息を吸い込み
ダメで元々のつもりで腹の底から声を出した。

ライドウさん!!

だがその時口から出たのは言おうとしていたのとは別の名前だ。

言ってからそれに気付いてあっと思うが、それはそれで聞こえたらしく
まずライドウが土煙を上げて動きを止め
続けてダンテもそれに気付いて攻撃をやめた。
呼ぶ方は間違えたけど無駄な戦いが止まったのなら結果オーライだ。

そしてまだ銃を突き付けたままのダンテがこちらを見て怪訝そうな顔をし

「・・・?何やってる相棒。コスプレとかいうやつか?」

ズバーん!

間髪入れずにやった真空刃は不完全なためぶっ飛ばすまではいかなかったが
ライドウとの距離はあけることが出来たのでその間に素早く割り込む。

「人様に迷惑かけといてまず言うことがそれか!
 しかもどこでまたそんな単語を覚えてくるんだアンタは!」
「・・・あぁ、そうか。こっちの学生とかいうのはそういう風習があるんだったな。
 しかしオレとしてはいつものオマエの方が断然似合うと思うが」
「聞けよ人の話!あとそれ誉めてない!」

気を利かせたつもりだろうが服を着てるより半裸の方がいいなんて
そういった趣味がない限りまったく嬉しくない。

そうしていつも通りな事をやっている2人に
ゴウトがようやく口をはさみにくそうに口をはさんできた。

「・・・それで・・勝手知ったる様子だが、それがお前の探していた?」
「あ、はい!そうですすみません!この人まったくいい人じゃないんですけど
 たまに突発的に人に襲いかかっちゃうクセとか性癖みたいなものがあって・・!」
「・・オマエ、それフォローのつもりか?」
「してやりたいけど今思いつく限りまったく見当たらないんだよ!
 そもそもなんでまた飛ばされた先で突然こんな事になってるんだ!
 簡単にわかりやすく自己陶酔と脚色と言い訳と屁理屈ぬきで説明しろ!」

色々ぷすぷすクギをさされてしまったダンテはかなり考えてこう言った。

「オマエとはぐれた後、街のまん中に飛ばされた。
 最初は見つからないようにビルの上を移動してたんだが
 そう高いビルもなくてすぐに見つかって、逃げてるうちにここへ来て
 悪魔をちらしながら歩いてるうちにそいつに出くわした」
「・・この人と戦闘になった理由は?」
「あいさつ代わりに銃を向けたら悪魔を出して武器をぬいてきた。
 それから後はオマエと同じく純粋な興味とただのなりゆきだ」

直後、迷いもなくそう言い切った顔にきれいな右フックが入り
ヨシツネがヒュウと感心したように口を鳴らして
無表情だったライドウがちょっと感嘆の色を見せた。







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