「おいちょっと・・!もう起きても大丈夫なのか?」
「・・今すぐ全力は無理だがこれくらいは大丈夫だ。
それにあのまま寝てたらクイーンのイスに喰われそうだったんだよ。
大体そうそうヤワな身じゃない事はオマエだって知ってるだろ」
「そりゃそうだけど・・」
「なんだ、めずらしく心配してくれてるのか?」
からかい半分でそう言ってみるが、返ってきたのは怒鳴り声やパンチではなく
不安な表情と意外な言葉だ。
「心配したっていうか・・少し怖かった。
見つけた時のダンテさん、なんて言うのかな・・ダンテさんじゃなくて
何かの抜け殻みたいだったし」
その途端ダンテの背筋が冗談ぬきでひやりと冷える。
そう言えば無意識にソウルとかいう物を吸収して
記憶や痛覚が飛ぶくらいまで暴れていたのだから
無意識に魔人化していてもおかしくは・・
と、その時ダンテは後ろにいた赤い固まりを
ぶんと音がするくらいの勢いで見た。
乗っていた赤い獣の方はてんでバラバラ首ごとにくつろいでいたが
その上の主人だけがその視線に気付き、ふっと鼻で笑うような仕草をする。
つまりこの楽天的で色々と訳知りな魔人
ただの気まぐれであんな事をしたのではないらしい。
ダンテは睨むような視線をはずさないままで低く聞いた。
「・・・オマエ、それ以外に何か見たか?」
「?それ以外って・・?」
「いや・・ならいい」
ふぅと安心するのと同時に足元がふらつき
いつも手を差し出してやっているつもりだった細腕に素早く支えられる。
・・あぁオレもヤキきが回ったなとは思うもののまったく悪い気がしないのは
ある意味重傷、かつ感化されすぎだとダンテは1人苦笑した。
「こら!まだ足元危ないじゃないか!
あとはこっちで何とかするからもうストックに入っ・・」
「ダメだ。断る」
「なんで!?」
「珍しくオマエが心配してくれてるのにもったいないし
日頃つれない分こういう時に楽しまなきゃ失礼に値する、だろ?」
などと言っていつも通りな笑みをやると、ジュンヤはなぜか急に真顔になり
何を思ったのかダンテをちゃんと立たせてから
とことこと数歩あるいて距離をおき。
「何がおかしいーーー!!」
助走をつけて格闘ゲームばりの跳び蹴りをしてきた。
ダンテはさすがにあ痛と思ってちょっと吹っ飛んだが
そんな中でもちゃんと力加減はされていたし
地面のゴツゴツしてない方へ狙って蹴られていたのがまた嬉しくて
ダメだと思ってもやっぱり勝手に顔がゆるみそうになる。
「勝手に事故おこして勝手にいなくなって
勝手に戦って勝手にボロボロになって!
勝手が好きなのは知ってるけど!ものには限度と常識ってもんがあるだろ!
あんな大量なのを1人でどうにかしようとか、どうして思えるんだよバカ!!」
獣と一緒にニヤニヤしてるマザーハーロットと心配そうなアーシア
そしてちょっと呆れているらしいジークの視線を受けながら
ダンテはあぁ、やっぱり怒らせたとのんきに思った。
なんだかこうして怒られるのも久しぶりな気がして嬉しいが
さすがに今それを口に出すとしばらく口をきいてくれなくなりそうだ。
「・・いや・・まぁそう怒るな。大体オレだってあの青白いのに
あんな効果があるとは思わなかったんだ」
「・・・だからって!」
「わかってる。オマエの言った事は全部あっててどれも間違っちゃいない。
だがな、オレはずっと1人でこういう橋を渡ってきたから
もうしないって約束はできない」
「・・・・・」
「呆れたか?」
それとも解雇するか?と少しの恐れもこめてそう聞くが
もう依頼人とか雇い主とかいう言葉ではくくれなくなってきた少年は
そう間をおかず首を横にふった。
「・・そんなの今さらだ。元々人の話聞かない人だから
もう驚きもしないし呆れもしない。ただし!!」
怒鳴り声と一緒にビシと指を突き付けられる。
ちょっと行儀悪い気もするがもうジュンヤは気にしなかった。
「今ダンテさんは俺と契約中だからな!
次オレの前で似たような事したら問答無用で魔弾焼きにして
話も許可も聞かずにストックへ強制送還だ!
そっちがその気ならオレだって話も言い訳も聞かずにそうしてやる!
わかったかこの5歳児以下の大人子供!突進野郎Dチーム!」
ダンテは一瞬目を丸くし、すぐに破顔した。
「そいつは・・・変化球ながらに随分なプロポーズだな」
「違うわ!!どこをどう聞き違えたらそんな話になるんだよ!
毎度のことだけど人の話ちゃんと聞け!!」
などと蹴りかかってきたのを器用にかわし
ダンテはもう大丈夫だと思って遠慮なく笑った。
まぁ色々ありはしたけれど、今の自分には一番ここが居心地いいらしい。
「だからなに笑ってんだ!俺は今真面目な話してるんだ!!」
「そうは言っても人間幸せな時ほど顔はゆるむもんだろ。
ホラこの通り謝ってやるから機嫌なおせ・・・・ってちょっと待て
オマエその手に持ってるヤツ、確か古すぎて妙にくさい上に
地味にしみてなかなかとれない傷薬・・な、イタ、ちょ、痛い
傷はもうふさがってるだろ。その上からそんな憎しみを込めてぬらなくても・・
いた、くさ!いたたた・・!」
などというのをちょっと離れて見ていたアーシアは
横で興味なさげに、でもじっと見ているジークに笑いかけ小さく言った。
「仲悪そうに聞いてたんだけど・・そうでもないみたいね」
「・・・・」
ジークは何も答えずただ少しだけ目を細める。
そしてその少し後ろには存在感がないようでかなりあるサナトスがいて
その様子をジークと同じようにただじっと静かに見ていた。
その顔に目はなかったけれど
目に焼き付けるようにじっと見ていた。
で、そんなこんなで再会はしたものの
さてどうやってボルテクスへ帰るかという話になったのだが
実はそれはダンテの寝ている間にジーク達と話し合った結果
意外にあっさりと方法が見つかった。
なんでもジークの所有するアイテムの1つに一度行った事のある場所へなら
大体戻れるというアイテムがあるのだそうだ。
「それじゃそのレギオンとかいう連中は
それを知っててコイツをアンタの所にまで?」
古くてくさい傷薬を顔中にぬられ
こすって誤魔化そうとしているダンテがそう聞くと
ジークは荷物をごそごそしながら首を横に振る。
「いや、それはわからない。
レギオンは本来召喚されて初めてこちらに来ることができる召喚獣で
単身かつ独断で行動するものではない。
が・・俺ですらまだ見ぬレギオンの未知の部分が今回たまたま表面化し
今回の騒動に発展した・・という事になるのだろうな」
どこか他人事のようにそう言ってジークは手にしていた赤い篭手に目を落とした。
「お前に力の源であるソウルを搾取される事を防ぎたかったか
あるいはこの世界に紛れ込んだ異物を排除したかったのか
それともお前達を自らの存在を脅かす強力な存在として退去させたかったのか・・」
そしてジークは最後に自嘲するような声でこう付け足した。
「それとも未だ何も変えられずにいる俺への戒めだったのか・・
今となってはわからんがな」
ようやく聞き取れるような声で言われたその言葉にジュンヤは?という顔をするが
やがてジークは荷物の中から古びた地球儀のような物を引きずり出して
ずいと無造作に突き出してきた。
「これが先程話してた物だ。
そちらの記憶にある望む場所を念じ、触れるだけでいい」
「でも・・いいんですか?これって大事な物じゃ・・」
「俺にはもう必要のない物だ。それにこれ以上お前達に居座られると
何が起こるか想像もつかない上にこちらの行動にも支障が・・」
「あの!私も同じ物持ってるから気にしないで!
それにこれ以上関係ない人を巻き込みたくないもんね!ジーク!」
慌ててフォローに入ったアーシアに対し、あんまりそんなつもりがないジークは
ちょっとだけ何か言いたそうな顔をするが、そういう考え方も少しはあるのか
黙ったままで否定はしなかった。
「それじゃ・・すみません、お借りします」
「返さなくてもいい。むしろ余計な手間を増やさないためにも
使用した後は埋めるなり破壊するなり適切な処理を・・」
「ジークってば・・!」
あれ、なんかどっかで見たことある構図だなとダンテは思うが
それは本人達に自覚はないが、ダンテとジュンヤとのやりとりに近かった。
「・・でもよかった。あんまりお役に立ててないけれど
やっと誰かを助けられた気がする」
「いえいえ!そんなことないですよ!
アーシアさんがダンテさんを少しでも捕まえておいてくれたおかげで
被害が少なくて済んだようなものなんですから」
「・・・オレは檻から逃げた猛獣か」
「大して違わないだろ!自分の状況鏡で見ろ!」
「いやだからアレは不可抗力ってヤツで・・」
言い訳しかかった頭をビシとチョップで黙らせ
続けざま笑いながら何か余計な事を発言しかかったマザーハーロットを
素早く黙ってストックに放り込む。
しかしそれでも一緒に強制送還しない所がやっぱり優しいなと
ダンテはまた頬が緩みそうになって顔半分が微妙に歪み
ジークに軽く変な顔をされた。
「あ、そうだジークさん。あのレギオン達にもお礼、言っておいてくれませんか?
理由はどうあれ色々助けてもらいましたし」
するとジークは少しだけ目を丸くし、わずかにだが困ったような顔をする。
「・・伝わるかどうかわからないが」
「それでもいいです」
さもあっさりそう返されジークはちょっと沈黙したが
一応手にしていた篭手を持ち上げ、少し思案してからそこに額をくっつけた。
おそらく今までそんな事したことがないのだろう。
少し考えるようにそうしていたジークはふと額を離して少し難しそうな顔をする。
「・・反応がない。様子からしてお前とその男を引き合わせた時点で
目的が果たせたように感じるが・・」
「もしかするとダンテさんが話をややこしくする前に
さっさと連れて帰れってつもりだったのかも知れませんね」
何気なくそう言われたその仮説にジークとアーシアは同時にダンテを見
同時にさっと目をそらした。
どうやらその失礼な推測が一番当たってると思ったらしい。
ダンテはちょっとムカッときたが
助けられたには助けられたので我慢しておいた。
「それじゃ色々とすみませんでした。
確かにこれ以上いるとご迷惑になりそうだから、俺達帰ります」
「うん。そっちも(その赤い人がいるから)大変そうだけど、頑張ってね」
「出来る限りもう来るな。次に助けてやれるかどうかは確証が・・」
「・・ジークってば!」
肘でつつかれる無表情なジークに苦笑してジュンヤは地球儀に手をかざした。
するとすぐ頭の中に今まで見たボルテクスの光景が複数
薄く頭に浮かび上がってくる。
ジュンヤは急いでそこから一つの景色を拾い上げ、強く念じた。
それは病院を出てすぐに見た、ボルテクスで最初の外の景色。
するとそれと周囲の景色を入れ替えるかのように
周囲の景色がぎゅうとねじるようにゆがんでいく。
少し変な感覚だが、おそらくこれで元の場所へ戻れるだろう。
「あ・・」
だがそのねじれていく景色の中でジュンヤは気がついた。
手を振るアーシアと無表情のジーク
そしてそのそばで浮くサナトスのさらに横。
そこにさっきまでいなかったあの連中、剣士や花や爆弾などの形をした
あの青い軍団がいつの間にかいたのだ。
姿形のまったく違うその連中はそれぞれの足元を青い炎で燃やしながら
ただじっと、何の意思も感情も見せないまま全員でこちらを見てる。
そこから彼らが何を思い、何を見ているのかはわからない。
ただ彼らが何かを見届けようとしてそこにいるという事だけは
ジュンヤにも、そして人外の気持ちなんかわかろうとも思わないダンテにも
なぜかわかったような気がした。
さっきまで騒がしくも仲の良かった2人がいたその場所は
もうただの地面と乾いた風しか残っていない。
おかげでその分急に静かになった感覚に見舞われるが
元々1人が多いジークはあまり気にはしなかった。
「・・行っちゃったね」
「・・あぁ」
しんと静まりかえったその場所を見ながら
アーシアが少しホッとしたような声を出す。
「でも・・ちゃんと帰れてよかった。あのジュンヤっていう子もそうだけど
ダンテっていう人もあの子の所に帰れて」
「・・?あの男、あの子供の所が帰る場所だったのか?」
ジュンヤから聞いたボルテクスという場所がそうだと思っていたジークが
少し怪訝そうな顔をするがアーシアは軽く首をふった。
「ううん、元いた土地に帰るっていう意味では一緒だったんだろうけど
あの人がまず最初に帰る場所はあの子の所みたいだったから・・。
ほら、ジークのレギオンだっていなくなってもちゃんと戻ってきたでしょう?
それと同じような感じ・・かな」
「・・・・」
なんだそれはと言わんばかりの無言をよこすジークに
アーシアは少し笑って話し出した。
「あのダンテっていう人、最初ジークに似てるなって思ってた。
たくさんの敵に囲まれても堂々としてて、1人でも心細さなんてちっともなくて
それに凄く強くて・・ううん、凄くっていうよりデタラメなくらいに強くて
1人で何でもできて何も困らないような・・そんな感じだった。
でもあの時、1人で残ってソウルを集めて戦っていた時
あの子がいなかったら歯止めが効かなかったみたいでしょ?」
「・・・・」
そう言えばあの時、赤くてホラーでデカイ魔物に気を取られていて気付かなかったが
そう言われて見ればそうだったかも知れない。
などと実はそっちのインパクトの方が鮮明に焼き付いてるジークをよそに
アーシアはさらに言葉を続けた。
「強いけどその分の何かが欠けていて、でもそれは補えないものじゃない。
そういう所は貴方よりもレギオンに似てるし
レギオン達だってジークの所にいないと力を生かせない。
だからあの人、ジークよりレギオンに似てるのかなって、そう思っただけ」
そう言ってアーシアの見上げた先には
岩のような翼をたたみ、ただ静かに浮いているサナトスがいる。
確かにサナトスや他のレギオン達は頼もしいが、必ずしも万能ではない。
ソウルなければ召喚する事もこちら側に存在する事もできないし
適度な指示を出さなければただのごっつい実体付きの幽霊だ。
もちろん他のレギオンだって例外ではなく
ギルトは接近戦に強いが高速で飛ぶものは落とせないし
マリスは狙撃で飛んでいるものは落とせても接近戦には弱い。
そのレギオンごとの様々な長所や短所をそれぞれで生かすも殺すも
ジークの指示と作戦次第だ。
だとするとあの少年が自分みたいなもので
あの色彩的に目立つ男がレギオンというのもなんとなく・・
「・・!」
その時ジークははっとしてただ静かに控えていたサナトスを見た。
とは言えその動きはジークと微妙に連動しているので
巨大な天使のような身体はぐいんと同じように横を向いてしまう。
しかしたとえ真正面からその顔を見れたとしても
その甲冑のような顔から何かを読みとる事などできなかっただろう。
だがあの得体の知れない赤いコートの男がこれと同じだとするのなら
レギオン達がしようとした事は・・・
・・・まさか・・な。
そう思いはするものの一番らしくて素直な理由に
ジークは相変わらず微動だにしないサナトスを見上げたまま
ほんの少し、誰にもわからないくらいに小さく笑った。
「?どうしたの?」
「・・いや、それなりに熟知していたつもりでも
思いも寄らない事があるものだと・・再認識していた」
「??」
何だかよくわからなそうな顔をするアーシアにジークは目を向ける。
その姿が一瞬、まったく似てはいないなずなのに
黒いドレスと金の髪を持つ思い出の誰かと重なった。
・・・だとすると・・・これもお前が俺に託したものの1つなのか?
そう問いかけても答えてくれる者はもうここにはいない。
だが今から自分のすべき事はハッキリしている。
不安げながらも自分の元いた場所へ帰るとハッキリ言いきった
妙な連中を連れたあの少年のように。
そしてジークはいつもの無表情に戻り、踵を返して歩き出した。
その後からは同じように向きを変えたサナトスが風船のようについてきて
さらにその後に慌てたようにアーシアがついてくる。
少し前の彼ならついて来るなと止めただろうが今はそうする気も起こらない。
「奇妙な縁だが・・な」
誰に言うでもなくつぶやいたその言葉は乾いた風にのってすぐにかき消えた。
ただそれを少し後ろで唯一聞いていただろうサナトスが
どこからかコフーという吐息のような音をもらす。
それはただの偶然なのか、それとも何かしらの感情表現だったのか。
その意図はただ戦うがために喚ばれ、そのためだけに存在し
でも今回だけ明らかな別の意志をもって動いた
寡黙な彼ら達しか知らない。
妙な感覚が終わり2人が気がつくと、もうそこは見慣れた砂の大地。
砂にうもれたビル群に砂で浅く埋まっているアスファルトの道路
それはもう見慣れたけれど最初見た時には愕然となった
ボルテクスの衛生病院を出たすぐの場所だ。
「・・帰ったな」
いつもと変わらず暖かみのない光を放つカグツチを見上げ
少し疲れたようにそう言ったダンテに
ジュンヤはいくらかホッとしたように胸をなで下ろす。
「・・うん、よかった。ちゃんと帰って来れた」
「こんな砂と悪魔だらけの所に帰って来るのがよかったのか?」
「そりゃどんな風になっても元はと言えば俺の生活してた所だからな。
人がいなくなってかわりに悪魔ばっかりになっても、何度危ない目にあっても
ここは俺がちょっと前までたくさんの人と普通に生活してた場所だ」
「・・どんな風になっても、か?」
「そう、こうなったのはいきなりで最近だけど
それより前にあった物や人がなかったなんて言わせない」
足元にあった砂をすくい上げ、さらりと指の間から落としながら
ジュンヤは目に時々見せる強い光をともす。
「ここには俺の知ってる人や知らない人、これから知り合うはずだった人
とにかくたくさんの人がいて、俺はそにいてそこで生きてきたんだ。
・・なかったなんて言わせない」
砂の落ちきった手をぎゅっと握りしめ、ジュンヤは上を見上げて
まぶしいカグツチを真っすぐに睨んだ。
ダンテはそれを見てなぜかホッとした。
その強い眼差しは自分がこの少年に興味を持った要素の1つだが
今はちょっと別の意味合いをもって見ることができる。
そしてそのついでと言ってはなんだが何気なく聞いてみる事にした。
「・・なぁ少年」
「ん?」
「もしもの話だ。もしオレがさっきの世界にいた大量に出てくるだけの連中のように
口もきかずただ目に見えるものに襲いかかるだけになったら、どうする?」
するとジュンヤは少し驚いたようにまばたきし、ちょっと心配そうな顔をした。
「・・・・なるのか?」
「まさか。そんな気はまったくないしこれからなる予定もゼロだ。
が、もしもの例え話だ。どうする?」
「ん〜・・」
それはダンテとしては結構重たい質問だったが
ジュンヤの方はあまり悩みもせずあっさり答えてきた。
「・・そうだな、まず怒鳴る。で、ダメならスキルか直接殴るか蹴る。
それでダメなら全員で総攻撃して、止まったら回復させて説教する」
ダンテはしばらく黙って妙な顔をした。
「・・・そりゃ今までの場合と何が違うんだ?」
「変わらないなあんまり。それしか思いつかなかったし」
さもあっさりそう言う所を見ると、質問の意味深さをあまり理解していないらしい。
その沈黙を疑問ととったのかジュンヤは改めて説明しだした。
「えっと、たとえばダンテさんがあのレギオンみたいに
戦うのは強くてまったくしゃべらず黙々と戦うようになったとしても
時々指示も聞かずいつの間にか勝手に行動して
手順も聞かずにボスとか敵集団とかに突っ込んでそうだし
あの魔物みたく話もできずにただ暴れるだけになったとしても
やっぱりダンテさんのなごりみたいなのを残して無闇に楽しげに暴れてそうだから
今と大してする事は変わりないと思う」
「・・・・」
何となく当たってそうな話なのでダンテは黙った。
そりゃ確かにそうかも知れないが
人が珍しく悩んでる話をそんなアッサリでいいのかと思うものの
その話にはまだ続きがあった。
「でもさ、ダンテさんが寝てる間にちょっとジークさん達と話したんだ。
レギオン達がどうしてダンテさんじゃなくて俺の所に来たのかって。
結局のところはジークさんにもわからなかったけど・・
でも俺思ったんだ。・・あ、でもここからはただ俺の推測なんだけど・・」
その時ダンテは急激にイヤな予感がした。
この少年は時々無意識だろうが心のかなり奥底にしまってあるものに
平気で手を伸ばしてくる所があるからだ。
しかもその悪い予感は心構えを持つ間もなく即座に当たった。
「もしかしたらあのレギオン達、ダンテさんが自分達みたいになるのを
やめさせたかったんじゃないかな」
ダンテはあ、やっぱりと思うのと同時に返す言葉を綺麗さっぱり全部なくした。
確かにあのまま戦い続け、ジュンヤの管轄を離れ誰の手にも負えなくなっていたら
ソウルを糧とするレギオン達にとっては商売敵みたいなものになるだろうし
いずれは自分達やその主人であるジークを脅かす存在になっていただろう。
「本当の理由は本人達にしかわからないんだろうけど
とにかくあのレギオン達、ダンテさんが自分達みたいにならないように
1人にさせないようにしたくて俺の所に来たんじゃないかって・・
根拠はほとんどないけど俺はそう思ったんだ」
そう言って少年の見上げた先には見慣れたカグツチが照っている。
だがその少年が見たのはおそらくこの世界には存在しない
あの青い幽霊みたいな連中だろう。
「でもさ、すごく単純な話なんだけど今ダンテさんの目の前には俺がいて、
俺の前にはダンテさんがいて、今ちゃんとこうして話を聞いてる。
例え話とか今まではどうであれ、それだけは事実で確実で
1マッカでなんてふざけた雇い方してるけど、少なくとも1人じゃないだろ?」
そう言って不思議な模様に彩られた人型の悪魔は
その不思議な姿につり合わない、やたらと暖かい笑みをくれた。
「だから・・さ、ダンテさんはずっと1人でやってきたのかも知れないけど
せめて俺と知り合いでいる間だけでもいいから
一緒にいてそばで見てるくらいは・・許してほしいな。
あ、でもイヤなら別にいいし、出来ればでいいんだけど」
オイ待て。それはあの健気なお嬢さんが言ってた話で
それをそのままオレに叩き返す気かと思ったが、反論する要素が見当たらない。
「邪魔になるかも知れないけど、たった1人でボロボロになって
誰にも知られずに1人でパッタリ倒れるのもあんまりだろ?
あのレギオンっていう軍団みたいなぴしっとしたものじゃないけど
1人じゃ出せない結果が出る事だってあるだろうし」
そう言って再び空を見上げた少年は
内心呆然とするダンテをよそにトドメの言葉をこぼしてきた。
「あのレギオンっていう無口な何か達が言いたかったのは
・・たぶんそう言う事じゃないかな」
それは何気なく言われたあくまで想像の話だが
あのレギオン達の起こした行動理由としてはそれが一番しっくりくる話だ。
それにあの連中がずっと黙っていた所に『そっち行け』とか『こっち来るな』とか
『お前にゃそっちがあるだろ』とかいう吹き出しをつけても
なんら違和感ないしむしろそれが正解だったとすら思えてくる。
そう考えるとあの幽霊みたいな青い何か達は
とある場合の自分のなれの果てだったのかも知れない。
・・・あぁそうか、あっちでやたらジロジロ見られてたのはそういう事か。
ダンテはすとんと肩から力の抜けた気分になり
息を吸い込んで目を押さえ、天を仰いだ。
なんてこった。
オレも大概ロクな人生送ってきてないがマジでサイテーだとダンテは思った。
まさか今回の話、あのジジイか3つ目の魔王の陰謀かとさえ思うが
もちろんそんなの濡れ衣で本人達に言わせれば『そこまで知るか』な話である。
などと余計な事をぐるぐる考えて動かなくなったダンテをみかね
ジュンヤが不思議そうに声をかけてきた。
「・・?どうした?まだどっか痛いのか?」
しかしダンテは答えず上を向いたままこんな事を言い出す。
「・・・おい・・・」
「ん?」
「今から3分、いや5分。何も言わずに何もするな」
「は?何で・・おわ!?」
言い返するまもなく肩をがっと掴まれて強制的に後ろを向かさると
なぜか後頭部を片手で掴まれる。
「おいちょっと!なに・・!」
ごっ
ワケがわからず振り向こうとすると
頭にあった大きな手に軽い衝撃がぶつかってくる。
しかしダンテがしたのはそれだけだ。
それ以上は何もせず、珍しいことに何も言ってこない。
ただ後頭部にのっているのがちょっと重い気がするが我慢できないほどでもない。
ジュンヤはしばらく考えたが、結局あきらめて好きなようにさせる事にした。
だからダンテがのせた手のひらごしに額をくっつけて
音が出そうなほど歯を食いしばっていた事には気付けないままだった。
そうしてはぐれたり暴走しかかったり再会したり怒られたりで色々あって
1人になったけどいつの間にか1人じゃなくなっていた半魔の狩人は
その時黙って、心のずうっと奥の方の手のひらごしに
ほんの少しだけ泣いた。
というワケで事件簿作成の初期段階でなんとなく思いつき
書き始めから完成までに数年かかったカオスレギオンでした。
ゲーム内ではただ主に付き従うだけのレギオン達を出したらどうなるかなと
ズルズル×5考えていたらこうなりましたが・・まぁいいか。
要はD氏が幸せになってくれれば無問題かと思いつつ。
なおレギオンの絵とかは簡単にですが絵の所にあります。
それと多少ゲーム内と違う部分もありますが、作り話という事でごかんべん。
あと入れようかどうか迷って入れそびれた
マザーハーロットとの後日談番外編をここに入れときます。
普通にもどるならここで