それは色々あって無事戻ってきてからしばらく後の話。

「・・・そう言えば1つ腑に落ちない事があるんだがなクイーン」
「?何じゃハエも寄りつかぬような恐ろしい顔をしおって。
 よもや獲物を横取りした、もしくは流れ弾を弾き返されて頭に当たった
 もしくはわらわのイスが移動する際に尾で顔をはたかれたとかいう話
 ・・ではないのじゃな?」

などと茶化していても何を聞かれるかわかっているのだろう。
相変わらずなマザーハーロットに対しダンテはあんまり聞きたくはないが
一応の確認のために聞いてみる事にした。

「いやなに、オレが大盤振る舞いで囲まれてテンションの上がってたあの時
 あのまま放置してた方がアンタとしては面白い事になってただろう。
 それを傍観主義のアンタがどういう風の吹き回しかと思ってな」
「ホォーッホッホ!それはあの時言うた通りじゃ!
 あのような面白味のない連中とつまらぬ心中をするよりも
 こちらで主と戯れておったほうがよほど楽しかろうと思うたまで」
「それは否定しない。だがアンタのことだ、理由はそれだけじゃないな」
「ほほう、してその根拠は?」
「アンタくらいの悪魔ならもうわかってるんだろ?
 オレが最大出力で加減をしなかった場合、一体どうなるかくらいはな」
「・・ほぅ?」
「人の不幸が好きそうなアンタの事だ。
 アイツにいつバレるのかを一番楽しみにしてそうなアンタが
 なんでわざわざ脱走までして止めに来た。
 しかも誤魔化しやすいように巻きぞえなんて回りくどい方法で」

すると普段はただ楽しんでいるとだけしかわからないその白い顔が
どこか怪しげな含み笑いをした。

「くくく、そのようなものは簡単な話じゃ。おぬしは隠しておるつもりじゃろうが
 わらわはおぬしよりも多くの人間のあらゆる生死、罪や罰や業
 そしてその間にある憤怒や恐怖、絶望や激情を星の数ほど垣間見てきた。
 そのわらわがおぬしが何を欲し何を恐れ、何を怖がるかをわからぬとでも?」
「・・・・・・」

ダンテの表情が目に見えて鋭くなる。
しかしマザーハーロットはかまわず持っていた杯の煙をふっと吹き飛ばし
さらに笑うように言った。

「となれば答えは簡単。あのままおぬしの素性が主にバレるのも面白かろうが
 バレずに隠し通せるかどうか四苦八苦している様をながめ続けるのは
 それに輪をかけて面白そうじゃと思うたまで」

そしてある意味、実は外見的にも内面的にも悪魔らしいかもしれない魔人は
すいと杯を持っていない方の手でダンテを指してきた。

「おぬしも悪魔を知る者ならばわかりおろう。
 人はただ楽になるより苦しみもがく様ほど愉快で滑稽であることをな」

すると今にも銃を向けてきそうだったダンテは
ふいにふっと殺気を消し、ちょっと複雑な笑い方をして背中を向けると
立てた親指をびしと地面に向けて吐き捨てた。

「・・ヘドが出そうなクソッタレた解答、どうもアリガトウよ」
「ホォーッホッホ!礼には及ばぬぞ!
 そのかわり主共々これからもわらわを存分に楽しませてたもれ!」

ダンテは黙って答えなかった。
だがこれからあの性悪な女帝を楽しませるような事だけは
これから絶対に意地でも起こさないようにしてやると固く誓ってその場を去った。

だがその苦しみもがいた先にあるものの事をマザーハーロットは話さなかった。

ただ単に楽しみを伸ばしたかっただけなのか
それともそれは長く続けば続くほど、その先にあるものが輝きを増す事を
知っているためだからなのか。

気まぐれで楽天的で、そして実は少しだけ慈悲深かかったりする彼女の胸の内を
知る者は今のところもの凄く少ない。









苦労苦心はしあわせになるための準備、というつもりな話でした。


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