そう大きくはなかった門をぬけ、やっぱり廃墟だった街の中を通り
開けた広場にたどり着いたジュンヤの前で、ゆらゆら泳いでいた赤いボール
じゃなく爆弾を背負っていたカメ型の生き物がふいにぴたと止まる。

え、まさかまた何かに自爆をかける気かと思ったがそうではない。
広場のあちこちで小さな落雷が起こり
そこからまた変わった何かがバラバラ出てきたからだ。

それは生き物の形をしておらず、ぱっと見なんなのかわからなくて
強いて言うならトゲの多い小型のヨットか飛行機か、そんなやつだった。
人くらいの大きさをしたそれはしばらく宙に浮いたままだったが
それら全てがいきなりぱっと動き出した。

「ぅわっ!と!と!?・・!ちょ、速い!」

それは飛ぶように移動し、確実にこっちを狙ってはこないがかなりの速度だ。
ある程度の軌道さえ読んでいれば当たらないだろうが
弾丸のように飛び回るため直接殴るのが間に合わないのはもちろん
滅多にはずさないスキルが間に合うかどうかも怪しいくらいだ。

じゃあどうすると思った時、またしてもそばにいた無口な案内役が炎に包まれ
またまったく別の、今度は武器を持った細めの何かになって出てきた。

青い甲殻を重ねてとがらせたような頭にヘビのような全身
小さな腕には自分と同じくらいある巨大なボウガンをかかえ
目もないのに平たい頭をキョロキョロさせ何かを探すようなそぶりをする。

素早く望遠鏡を出して確認するとマリスという名だけが出てきた。

「今度は短めの名前だけど、やっぱりそれ以外はまったくわからなぁ!?

バシュバシュバシュバシュ!

などと言ってる間に列をなしてすっ飛んできた飛行機のような魔物を
マリスは持っていたボウガンで素早く迎撃する。
その大きなボウガンから放たれるのは実弾ではなく
魔力か何かで作られる光の矢だ。
だがそれがは発射と同時に着弾するくらいの速さなので
高速で飛び回る魔物を撃ち落とすには最適だ。

「えっと・・じゃあ飛んでるのは頼めるか!」

それが聞こえたのかどうなのかは怪しいところだが
マリスは足元、いやこの場合尾の部分で燃えていた炎をゴッと赤色に変え
目もないのに高速で飛び交う魔物を正確にバシバシ狙撃し始める。

その時気付いたが今までの連中がそうだったように
その足元の炎が赤くなるのはおそらく待機状態から攻撃姿勢へ変わる時の合図で
青が待機色、赤が攻撃色になっているのだろう。

「自爆とかは困るけど、そういうのは助かるな!」

飛行機型にまぎれて発生してきた犬のようなクマのような魔物の突進をかわし
ジュンヤはここへ来てようやくの安心感のようなものを感じる。

飛び交う魔物の強度はそうないが、なにせスキルを当てられる速度ではない。
普段なら『なんだあんなのも落とせないのか』とか言って自慢げに銃を回し
憎たらしいくらいカッコイイ仕草で銃を撃ってくれる魔人がいるが
あいにくその魔人は今回全ての事態を引き起こしたまま
未だどこにいるのかすらもわからない。

「・・・そもそもこんなゴタゴタ勝手に起こして、勝手にはぐれてくれるなよなっ!」

口しかない獣型の魔物の突進をかわし
そのまま丸まった背中に蹴りを入れて蹴り飛ばすと
加減しなかったそれはボールのように飛んでいき
いつの間にかいた肉のかたまりみたいな塔にぼんとぶつかった。

が、その直後思わぬ方向から光線のようなものが飛んでくる。

それはさっきから色々沸いて出てきていた魔物達の中にいた
不気味な笑い声を立て少し浮いている白っぽい人型の何かだ。

遠くてよくわからなかったがそれの腕はバズーカのようになっていて
そこから直接光線を発射するようになっているらしい。
遠くにいるから大丈夫だと思って放置していたが、どうやら甘かったらしい。
その光線はそう速くはないがもう避ける間合いではない。

ジュンヤはとっさに顔をかばってガードしようとするが
それと同時に青い何かがさっと前に割り込んでくる。
ボウガンを抱えたマリスだ。

え?と思った瞬間、それはまたざっと炎に包まれ
間髪入れず最初に見たクラゲのような花のような生物
アロガンスになって出てきた。

それは足元の炎を赤く染め、最初見た時と違ってだらりと下を向いていたが
光線が当たる寸前ぱっと身を起こし、4つあった触手を展開させ

キシュウン

一瞬だけバリアのようなものをはり光線を吸収した。

そして続けざま別方向から飛んできた光線も同じようにバリアで吸収し
続けざまに来た他の魔物の攻撃も上手にそのバリアで吸収していく。
だからこんな不思議な身体の構造をしているらしい。

しかしそれはバリアかと思っていたが
そうこうしているうちアロガンスの背にある白い十字模様が
光線や攻撃を受けるたびに赤く変色しているのに気付く。

おいちょっと、お前やっぱりダメージ受けてるんじゃないかと思ったが
その矢先、背中を真っ赤にしたアロガンスは何を思ったのか
まったく無害だと思っていた肉の塔みたいなのにさっと向きなおり
4つあった触手をくわっと広げ。

ヴゥウウウウーーーン 
ズビーーーーーー!!

その中心から目を焼かんばかりの光線を発し
不気味に蠢いていた肉の塔を一直線に刺しつらぬいた。

それはジュンヤの至高の魔弾に近いくらいの威力で
そのヘンな身体のどこにそんな力を隠し持ってるんだと思うくらいの迫力だ。

そしてそれが終わると背中の十字模様は元の色に戻り
穴の開いた肉の塔が倒れるのと同時に周囲にいた魔物達が
ぱあと青白い光になって四散していく。

そしてそれにあわせアロガンスの足元で燃えていた赤い炎も青へ戻り
最初見た時のような触手を開いた状態に戻った。

「・・そうか、お前受けたダメージを蓄積させて返すタイプなのか」

白に戻った十字模様にそう声をかけてみても
アロガンスは振り返りもせずただ触手を広げた状態のまま
ただそこにゆらゆら浮いているだけだ。

「・・でも前の爆弾もことも含めて自虐的な攻撃方法だよな」

呆れをこめてそう言ってみるが、その寡黙で多様な特徴をもつ青い何者かは
やはり相変わらず何も答えてはくれなかった。







「それにしてもどこでもまんべんなくいる連中だな。
 そのジークってヤツはちゃんと仕事をしてるんだろうな」
「そのはずなんだけど・・でもその後その後から
 こんな状態が発生してるのかも知れない」

そういう自分も今仕事をしてないのは棚に上げ
ダンテは落雷とともに沸いてくる魔物をアーシアと共同で退治していた。

魔物の種類はそう多くなく、大型や妙な能力を持つものまではいなかったが
とにかくそこはそういう区画なのか倒しても倒しても次から新しいのが出てくる。

今までなら少し倒せば道は開き
多少数が多くても肉でできた塔を壊せばそれ以上は出なかった。
が、そこはそれが通用しないのかいつまでたっても前が開ける気配がない。

ダンテとしてはこんなのなれっこでどうという事はないが
多少戦えるとは言え普通の人間であるアーシアのスタミナ切れが心配だ。

ダンテは少し考え素早く決断した。

「なぁアンタ、足は速い方か?」
「え?えっと・・遅くはないと思うけど・・」
「なら別ルートから回ってこの洪水の原因になりそうな物があれば破壊してくれ。
 もしくはジークってヤツと合流して援軍を頼むかしてくれないか。
 こうも多くちゃさすがに飽きる」
「え!?で・・でもその間貴方1人で大丈夫なの?」
「なに、こういうのは慣れてるし、
 それにオレとしては1人で立ち回る方が気楽なんでな」

ダンテはハッキリ言わなかったがアーシアはその言葉の意味がすぐにわかった。
ダンテの攻撃は威力が高いがその分少し大振りで
近くに人がいると思いきって動けない。
つまり自分が近くいると逆にダンテの足手まといになるので
その意味も含めて先へ行けと言うのだ。

多少後ろ髪は引かれるがその判断は正しいとアーシアも素早く覚悟を決めた。

「・・わかった。でも危ないと思ったら迷わず逃げてね」
「考えておくさ。・・あぁ、それともう一つ
 もしもさっき話した全身に模様のあるガキを見かけたらこっちによこしてくれ。
 そいつがいると格段に楽になる」

そう言うなりぶんと投げつけた剣は円を描きながら魔物の群れにつっこみ
青白い光をまき散らしながらそこだけに綺麗な道をつくる。

「当てにはできないだろうが記憶しておいてくれ。
 ・・いや、アンタは運が良さそうだから期待できそうだがな」
「どうしてか誉めてるように聞こえないんだけど・・わかった。
 でも絶対に死なないでね!」
「オレはプロだ。信用しな」

アーシアはちょっと不安そうな顔をしていたが
すぐ思い直してダンテの作った道を飛ぶように走り
その先にあった崖を鹿のような身のこなしで駆け上がり、すぐに見えなくなった。

ダンテはそれを見送って回転しながら戻ってきたリベリオンをなんなく掴み
周囲にいた魔物達を楽しそうに見回した。

「・・さて、観客は減ったがダンスのお相手はこの通り
 押すな押すなの順番待ちだ」

と楽しそうに言うものの周囲の魔物達は聞いていないだろう。
ぐるるとうなり声をたてつつ色々な形をした魔物達は包囲網をせばめてくる。

「ダンスの最中に援軍が来るのが早いか、それともアイツに見つかるのが先か
 それともオマエら全部がタマシイになって踊るのが先か
 賭けてみるのも面白そうだな、1マッカで!!」

いや1マッカは安いだろうとか他に賭ける相手もいないだろとか言うツッコミは
テンションの上がったダンテには通用しない。

そしてダンテは猛烈な勢いで走り出した。
何しろ今は一人きりで飛び出しすぎで怒鳴るやつもいないし
銃は持っているが普通の人間で戦力的にちょっと頼りないやつもいない。

さっきまでは寂しいと思ってたら今度は今度で自由で楽しいときた。

・・親父の方の血だな。

そんな事を考えながらも狩りをする動きは止まらない。
銃声や異形の悲鳴、肉を断つ音が入り交じり
そこからあの青白い光が発生し次々と空へ舞い上がる。

だがダンテはその時、時々で吸い込まれていたその光達が
その時を境に自分により多く集まりだしていた事に気がつかなかった。







「・・・なぁ・・・もういい加減どこに行こうとしてるのか
 教えてくれてもいいんじゃないか?」

まったく足を動かさずすいすい進む後ろ姿にそう声をかけてみるが
敵と遭遇した途端アロガンスからヘイトレッドに変わり
時々出てくる魔物をぼげんと殴り飛ばしている大きな背中は
やっぱりこちらを待つことはあっても質問に答える事はない。

ただその青くて足がら下が燃え、背中に紋章のある何かたちは
先へ進むにつれて敵が増えるにつれ、入れ替わる速度や行動速度が
気のせいかもしれないが上がってきているような気がする。

しかしそもそもそれ以前に、だ。
これは一体何であって、一体何がしたいのだろう。

周囲に敵がいなくなり、ゴッと足元を青色に戻した巨体を見ながら
ジュンヤは今さらながらに考える。

戦う力はあっても襲ってこないし
かばってくれたり戦うのも手伝ってくれるから
時々出てくる怖そうなやつの仲魔じゃないんだろうけど・・

そんな事を考え援護もふまえながら白い紋章のある背を追いかけていると
それはまたくるりと身を丸め、今度は一番人に近い形態のギルトになって出てきた。

と同時にやっぱり何も言わず足元をゴッと赤色に染め
さーっとどこかへ行こうと・・・いやちょっと違う。
今度はこちらを待っていないし、足元は赤の攻撃色だ。

もしやと思っているとやはりそうだ。
向かう先には無数の何か。獣、人、それに似ているが確実にそうではない
この世界にあるまじき姿をした異形達がうごうごと大量にいる。

「もー!どうして誰かさんみたいにそんな所に突っ込みたがる・・」

と言いかけたジュンヤはある異変に気がついた。

ギルトの進む先にはあの敵であろう色々な形の魔物達がいるが
よく見るとそれだけではない。

その少し先にはちらちらとあの青白い発光体が舞っていて
さらにその先には周囲の魔物とちょっと違う色彩をした何かがいる。

「・・・・・あれ?」

そしてジュンヤは気がついた。
様々な形をしている魔物の群れのまん中
あの青白い光が大量に発生しているそこに『彼ら』がいた。

青と黒で統一された色彩にすらりとした体格。
遠くからでもわかる角と頭髪をあわせたような突起。
そして膝から下を赤い炎で燃やして地をすいすい滑るように移動し
無機質に、しかし無駄のない動きで剣をふるい敵を排除しているのは
紛れもなくギルトだった。

しかしそれはジュンヤをここまで連れてきたギルトではない。
そのギルトはたった今その戦闘の中にものも言わずにすっと紛れ込み
魔物の輪を切り崩す一角となって連携を開始したばかり。

つまりギルトは一体でなく複数体で存在するものなのだ。

魔物の数が減りそこが見えるにしたがってその数は増え
2、3、・・合計6体。合流して参戦したギルトも含め
まったく同じ姿をしたギルト達が全部で6体。
滑るように移動し、動作の無駄なく剣をふるい
木の葉が風で散っていくように周囲の敵をはらっていく。

「・・・群れ・・・だったんだ」

なるほど、確かに1個体ならそう強力な戦力とは言えないが
あれだけ均整のとれた動きを集団でするのならかなりの戦力になるだろう。

それらは付かず離れずの間合いを保ちながら別々に魔物達を斬り
時々くる反撃に怯む様子もまったくなく、ただ淡々と無機質に敵を排除していき
ようやく周囲が静かになったころ、さーっと音もなくある一点へと集合した。

そしてその一点であるそこにいたのは
ギルトでも魔物でもない、たった1人の『誰か』だ。

燃えるような赤い髪。すそがボロボロで薄汚れた白いコート。
その背には何か複雑な紋章が入っていて
片方の手には白い剣を、片方の腕には変わった形の赤い篭手をしている。

しかもその篭手の方はどういった物なのか
周囲にあった青白い光を吸い込むように集めていき
さらにギルト達がその青年を中心として円陣を組むように集合していく。

つまりその赤い髪の『誰か』がこのギルト達
いや、おそらく今まで出てきた青い生き物達を使役する主人なのだろう。

そして唐突に、その周囲にいたギルト達が
目もないのにいっせいにぐりっとこっちを向いた。

案内してくれたギルトがもうどれかわからないのでそれはそれで結構怖い。

そうして思わず飛び上がりそうになったジュンヤに
その中心にいた青年が遅れて目を向けてくる。

その時ジュンヤはギクリとした。
だってその青年、そう歳はいっていないはずなのに
まるで長い間ずうっとたった1人で何もない砂漠を歩き続けて来たような
ひどく孤独で感情のない目をしていたからだ。

だがその推測は大体あっているのか
青年はそこそこ珍しいはずのジュンヤを見ても眉1つ動かさず
しばらくこちらを凝視し、居並ぶギルト達の数を確認するように見回した後
ようやくぽつりと口を開いた。

「・・抜けていた一体。何の支障もなく戻ってきた。
 お前が捕らえていたのか?」

それはつまり、このグループでギルトが一体ぬけていたのを
ジュンヤが捕まえていたのかと聞いているらしく
静かだがとんだ濡れ衣にジュンヤは力の限り否定した。

「ちっ!違います違います違います!断じて違います!
 ちょっと事故した先で偶然クラゲみたいなのとぶつかって
 それからそこにいるのとか爪の長いのとか爆弾とかが出てきたりして
 いろんなのに入れ替わり立ち替わりで連れてきてもらって
 たどり着いたのがここだっただけですよ!」
「・・入れ替わり?」
「えと・・ムキムキのやつとか爆弾しょったやつとか
 一体づつでしたけど、助けたり助けられたりしつつ・・
 と、とにかく捕まえてたってのは誤解ですよホントに!」

大あわてでそう説明すると、伝わったかどうかは分からないが
青年の表情がほんの少し険しくなる。
だがそれはこちらを警戒しているのではなく疑問に思う事があったかららしい。

青年はしばらく沈黙し、ふところに手を入れて持ち物を確認し
顎に手を当てて考えるような仕草をすると、篭手をしていた方の腕を一振りし
周囲にいたギルト達を炎につつませ、一瞬でいずこかへと消した。

あ、やっぱりこの人が管理者なんだと思ったが
しかしそうするとあの一体だけのギルトやマリス達がなぜその管理から離れ
主人の命令もなしにジュンヤをここまで連れてきたのかが説明できない。

青年もその事が気にかかるのだろう。
少し考え込んだ後、同じ腕を振り上げて何かしようとしたが
それより先に別の声が突然割り込んできた。

「あ、ジーク!よかった見つかっ・・あれ?」

瓦礫の向こうから飛ぶように走って来たのはごく普通の
いやちょっと銃は持っているが魔物を連れていない
いたって普通そうな青いマフラーをした女の人だ。

だがその女の人、そこそこ珍しいはずのジュンヤを見るなり
思いがけないことを言い出した。

「・・あれ?貴方もしかして・・ジュンヤ・・君?」
「へ?・・何で俺のこと知ってるんですか?」

いたく当然な問いかけをすると
なぜかその女の人の方が銃を持ったまま混乱しだす。

「あの、えっと・・!実はこの先に置いてきた人から聞いて
 でもその人今ちょっと魔物に囲まれてて私だけ急いでて
 それでジークがいてくれると助かるんだけどえーと・・!」

どうやらこの人、そこのジークという青年に用があって来て
なおかつダンテとも面識がありジュンヤの事も聞かされていて
何をどこから優先していいのかわからなくなったらしい。
そうして銃を両手に1人あわあわしていた女の人だったが・・。

「アーシア」

ひた、と青年が静かに言葉を発する。

それはおそらく女の人の名前だろう。
そう呼ばれたアーシアはぴたと動きを止めて胸に手を当て
すーはーと2つ3つ深呼吸を繰り返してから
今までの事をかいつまんで短めに説明し始めた。

街の生き残りを探していてダンテに会ったこと。
そのダンテとしばらく共闘していたがこの先で1人残ったこと。
そしてそこから聞いていたジュンヤの事などなど。

ジュンヤは1人で残ったと聞いて少しぎょっとしたが
しかしダンテの事だ、そうそう簡単に何かあったりしないと思い直し
自分も簡単な自己紹介をし、ダンテについての事やターミナルでの事故のこと
今までに会った無口で足元の燃えている不思議な連中のこと
その連中に戸惑いながらも連れてきてもらった事などを手短に話した。

「え?じゃあこの子をここまで誘導したのはジークなの?」
「・・いや、俺もそれは今知ったばかりだ。
 少し前から複数体系のレギオンが一体だけたりず
 いくら召喚をかけなおしても数が戻らなかった」
「?それってつまり・・」

不思議そうな顔をする2人にジークは少し神妙な面持ちでこう答えた。

「つまり・・こいつをここへ来させたのは信じがたいがレギオンの意思だ。
 本来ソウルを用い俺の手を介してでしか召喚できないはずのな」

ジークのつけていた赤い篭手から答えるかのような炎がかすかに上がる。
ジュンヤには何が信じがたい事なのかよくわからなかったが
今度の一連の事はこのジークというレギオンの使い手にすら予想外の事だったらしい。

「あの・・それって何かマズイことだったんですか?」
「・・いや、今のところレギオンにも俺の周辺にも
 お前と会った事以外の異常はない。だが1つだけ気になることがある」
「「?」」
「どちらにも聞く。分かる範囲でいいが、2人のうちどちらかでソウル
 いや、魔物が消えるときに発生する青白い光を搾取した
 もしくは吸収する者を見かけたか?」

そう言われてジュンヤは思い出す。
その青白い光とやらは確かに魔物が消える時に出ていたが
それはさわれなかったし取れそうには見えなかった。

「いえ、俺もそれが浮いて飛んでるのはよく見かけましたけど、それ以上は・・」
「私は見てな・・・あ、待って。
 私は見てなかったんだけどそのダンテっていう人
 確か青いもやが鬱陶しいとか言ってたような・・」

その途端、ジークの目つきが目に見えて険しくなる。
それは会って間もないジュンヤにもわかるくらいだったので
え、まさかあの人またマズいことしたのかと直感するが
その予感は大体で当たりらしく、ジークはすぐ行動に出た。

「アーシア、案内してくれ。そのダンテとかいう男の所へだ」
「?そのつもりだったけど・・でも急にどうしたの?」
「その男がどういった素性の男かわからないが
 そいつがこのあたりのソウルを吸収している可能性がある」
「・・へ?・・あのそれってどういう・・??」
「詳しい説明は後だ。アーシア」
「あ、うん。こっち!」

何が何だかわからないが事は急を要するらしい。
アーシアを先頭に走り出した後にジュンヤもあわてて続こうとしたが・・。

「・・あれ?」

その時、何かが懐からすっと抜け落ちたような感覚がし
ジュンヤが踏み出しかけていた足を止め
前を走り出しかけていた2人が振り返る。

「どうしたの?」
「いやあの・・・説明するとちょっと長くなるんですが・・」
「時間がない。短く頼む」
「えと・・俺の近くにはいつも仲魔っていうのがいて
 いつでも呼び出せるようになってるんですが・・」

念のためもう一度ストックを確認してみても
一体どうやったのか、そのひときわ大きな存在感だけがいつの間にか消えている。

「そのうちの一体が今・・・勝手に出て行っちゃったみたいなんです」







そしてそのころ問題のダンテはというと
湯水のごとく無尽蔵に沸いて出てくる魔物達と
圧倒的な数の差があるにもかかわらず実にご機嫌で戦っていた。

本来ならアーシアが移動した後場所を変えるか退くつもりだったが
あまりに景気よく出てくる魔物達にそんな気がいつの間にか失せたのだ。

様々な形をした魔物達が次々と飛びかかってきては
銃弾に倒れ、飛び散り、剣のサビになって絶叫を上げ
どれも青白い光へと姿を変えてダンテの方へ集まって来ては
勝手に音もなく吸収されていく。

相変わらずその意図や意味はわからないが、別に悪い気分ではなかった。
それは取り込めば取り込むほど剣を振るう力がいらなくなり
なぜだかどんどん身体が軽くなるような感覚にさえなる。

斬って、突き刺して、撃って撃って斬って撃ってなぎ払って。
敵は無尽蔵に出てくるようだが、こちらもへたる気がまったしない。
途中であきるか疲れるかするかと思っていたが
こうして倒しては青白いのを回収するというサイクルをやっていれば
それこそ永遠にだって戦えそうだ。

「ハッハ!こりゃおもしろい。まさかコイツのおかげか?」

突き立てた剣を引っこ抜いて横に振りかぶると
それを追うようにして出てきた青白い光が剣を持った腕に集まっていく。

意味はわからないがダンテはそれが愉快になってきた。
それは強力な悪魔を翻弄して叩きのめした時
激戦の末にねじ伏せた時に得られる高揚感にも似ていて
ダンテは目的も意味もなく無性に楽しくなった。

飛びかかってきた獣型の魔物の頭を銃で吹き飛ばし
続けざま反対側にいた人型の頭を蹴り飛ばして別のヤツに叩きつけ
数匹まとめて串刺しにする。

そうして気付かないうちどんどん戦い方が荒っぽくなり
かかってくるのを倒すだけではあきたらず
目についたもの、つかなくても気配のするもの
とにかく手当たり次第という表現がぴったりな勢いで
ダンテは周囲で動いたもの全てを狩り出した。

そうして狩るごとに発生し、あたりに充満するほどになったあの青白い光が
どれも迷うことなくすべて自分に集まりだしていても
自分の姿が少し変わり始めていてもダンテは気にしなかった。

楽しい。楽しいな!
こんな楽しいことをずっと続けるつもりか?

そう思いながら猛然と剣を振るう腕に何者かが食らい付いた。
しかしダンテはかまわずさらに剣を振るい続け
しばらくして食い付いた何かがすっぽ抜けて飛んでいく。
その時ちょっと腕の肉を持って行かれたような気もしたが
ダンテはかまわなかった。

避けるよりもかわすよりも撤退するよりも
今はただこの惨劇が楽しくなっていたからだ。

だからダンテは考えるのをやめた。
次に面倒になってきたので避けるのもやめた。
なぜか痛みは感じなかったし身体が重くなる様子もない。
避けるヒマがあったら一匹でも多く仕留めたくて、赤いコートがさらに赤くなっても
それがさらに血とは別の赤く固いものに変わっても気にしなかった。

いいな!悪くない!悪くないな!
こうしてこのまま骨や灰になるまで付き合うのも
このパーティーごと心中するのも、なかなかに面白そうじゃないか!!

それは思いや言葉ではなく獣のような咆哮として外にもれ
その強烈な音に空気が振動し、魔物達の動きが一瞬だけ止まる。

が、その時だ。

『 ほほぉ、それでよいのか?領域2つに逆らいし者よ 』

その楽しさに水を差すようなタイミングで
聞き覚えのある楽しげな声がふっと直接、頭に割り込むようにして入ってきた。










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