「・・おぉーい!ちょっと・・待って・・!
いや待ってくれてるんだけど・・!頼むからもうちょっとマシな道・・通ってぇ・・!」
ぜいはぁ息を切らせて崖をよじ登るジュンヤの少し先の岩の上。
そこにはアロガンスやギルト同様、青白い炎で浮いている生き物がいて
崖を這うように登ってくるジュンヤをじっと無言で待っている。
それはさっきここを登り始める前、唐突にギルトから変化した
・・というか入れ替わったらしいフロウドという生き物だ。
それはさっきのギルトと比べると少し小柄で
背を丸くした人のような忍者のような姿をしており
小柄になった分の動きや身のこなしが素早いらしく
人がようやく登れるような場所をぽんぽんと軽快に駆け上がっては
時々やはり目も鼻も口もない顔でこっちを見てくる。
だがその青く小柄な体格の大半をしめているのは
腕のほとんど、いや身体で一番大きな部分と言ってもいいくらいの大爪だ。
赤みをおびて重なった剣のようなそれはこすれ合うごとにシャリシャリと音を立て
おまけに時々口もないのに爪を舐めるような動作までしてくれる。
なんだかアサシンか切り裂き魔と一緒にいるようで少々怖いのだが
それでもフロウドは前のギルトと同じく、ただジュンヤをどこかへ誘導したいだけらしく
襲ってくる気配はまるでない。
爪を鳴らしながら森の道なき道を軽快に移動し
ただこちらが追いつくのをじっと待っているだけだ。
「・・・・なぁ・・お前・・いや・・お前達になるのかも知れないけど
一体どこに行くつもりなんだ?」
何とか崖を上まで登り切り、息を整えながらそう聞いてみても
シャリシャリという音だけをさせているフロウドという何かは
やはり何も答えてくれず、ただじっとこちらを見・・
ゴッ
と思ったら、突然その足元で燃えていた青白い炎が
本来炎の色である赤色に変わった。
え?何だと思っていると、今まであまり動きらしい動きを見せなかったその身体が
さーっと音もなく意志を持ってどこかへと向かい始める。
その先には何もなかったが、突然その先で複数の小さな落雷が発生し
巨大な虫のようなクモのような奇妙な何かを生み出した。
それは一瞬巨大なクモのように見えたが発達した足は四つしかなく
キキキとどこからか不気味な音を立て、少しいびつな動きで歩き出す。
それはおそらくフロウドとは別の種族で敵にあたるものなのだろう。
フロウドは巨大な爪を振りかざし軽快な動きでクモの間にすべり込むと
見た目通り切り裂き魔のような動きでクモをザクザクやり始めた。
映画で見る小型エイリアンを巨大にしたようなそれは
フロウドの周囲にいるものをのぞきザザザと全部こちらに来て
物欲しそうな様子でジュンヤを囲んでくる。
「・・無駄かも知れないけど一応聞くぞ。敵じゃないなら帰ってくれ!」
しかし当然と言えば当然なのだが、クモ型の何かはまったくリアクションもせず
キキキという奇声を発し大きな足でこちらを突き刺そうとしてきた。
ジュンヤはそれをよけて別の足を掴むと、集まってきてきた群れの中に叩きつけた。
幸い大きいために動きはそれほど速くなく攻撃をよけるのには苦労しないが
ちょっとばかり数が多い。
フロウドも頑張ってくれてはいるが、なにせ小柄だし多勢に無勢だ。
一匹にかかりきりザクザクやっている所を2.3匹に取り囲まれ
ぺちと弾き飛ばされてしまう。
そしてそこでジュンヤの顔つきが変わった。
「このッ・・!どけよ!!」
次の瞬間、吠えたジュンヤを中心に円状に地面がわれ
そこから吹き出した炎に周囲にいたクモがまとめて焼き尽くされた。
しかし片づいたかと思った矢先、今度は立ち上る蒸気の向こうから
クモよりもさらに巨大な何かがドッスドッスと走ってくるのが見える。
それはサマエルより大きく手足が異様に発達した
トカゲと巨人をたしたような何かだ。
腰の部分が異様に細く、まるで上半身とか半身が別に見え・・
・・いやよく見るとその巨人、腹の部分にも口が存在していて
元は上と下が別物だったような、そんな奇妙な姿をしている。
どう見ても友好的には見えないし・・やっぱりやるしかないのかなコレは。
そう思いながら光弾か真空のどちらにするかと考えていると
叩き飛ばされたはずのフロウドがひょいと体勢を立て直し
足元の赤い炎をまったく風になびかせもせず
すいーと巨大な化け物に向かい始めた。
「おいちょっと、何する気・・!」
それはどう見ても大きさに差がありすぎ、戦うにしては不利もいいところだ。
しかしそれでもフロウドはかまわず巨大な巨人に真正面から向かっていき
目のないトカゲのような何かはぶうんと巨大な腕をふり
小柄なフロウドに叩きつけようとした。
が、その腕が到達する寸前、小柄な姿は炎と共にどろんと消え失せ
今度はそれよりも倍ほどもあるまったく別の何かを生み出す。
そしてそれが振り下ろされた巨大な腕を掴み
さらにカウンターで巨大な首を掴んだ。
ゴッツ! ガッ! ずしーーーん
新しく出てきたそれがひねるように巨体を引きずり倒し
掴んだ首から地面に叩きつける。
自分の数倍ある相手を少しの動作だけで倒すその様は
まるでプロレスか柔道を見ているかのようだ。
しかし武器らしい武器を持たないそれの戦い方としては
それでおそらく普通なのだろう。
倒れた巨体から発生する青白い光を尻目に、足元の炎を青に戻しながら
それがゆっくりとこちらを向いた。
それはフロウドと比べるとかなりの大柄で
全体像がほぼ人型をした、でも明らかに人ではない何かだった。
太い腕にはなにも持っておらず
その青と黒をベースにした身体は優に2mはあり
やたらに筋骨たくましいそれはゴフーとどこからか息を漏らし
まるで筋肉の鎧をつけたプロレスラーか防具がっちりのアメフト選手のように見えた。
実際その頭にあるのはヘルメットのような甲殻だけで
ギルトやフロウドと同じく目鼻などのパーツがない。
ただ口にあたる所がいくらか裂けているので笑っているように見えなくもないが・・。
「・・・ヘイトレッドか」
念のため望遠鏡をのぞいてみると、表示されたのはやはりそれだけ。
両方に伸ばされた丸太のような腕が常に何かを掴みたそうにしているものの
ごっついそれが何かをしゃべってくれそうな気配はない。
「クラゲとか爪とか色々いるみたいだけど・・
あと何体お前みたいなのがいるんだ?」
そう聞いてみてもやはりその不思議な生き物はなにも答えてはくれず
ただ代わりに腕で『こっちゃ来いや』と言わんばかりなジェスチャーをし
スーッと離れてある程度の距離でピタリと止まる。
ちょっと感情表現が豊かになったようだが
おそらく今までの連中と同様、やっぱりついて来いというのだろう。
「・・・もう・・なんていうか、誰かさんと同じで勝手だよなぁ」
とは思いつつも他に行く当てもないジュンヤはため息をつき
そのムキムキした姿を小走りに追った。
そしてその時に気付いたのだが
今までの青い連中も、このごっついレスラーみたいなのにも
みんな背中に白い十字模様がある。
いやよく見るとそれは十字模様ではなく何かの紋章のようだ。
ほのかに光る複雑なそれが何を示しているのかわからなかったが
それと足が燃えているのだけは共通するんだなと思いつつ
ジュンヤは巨体に似合わずすいすい進んでいく大きな背中を追いかけた。
「へっくし!」
突然起こったくしゃみにアーシアの銃撃が一瞬止まり
その分の魔物の列がちょっとだけ増える。
というのも只今2人は列をなして高速で飛ぶ
トゲのような小さい飛行機のような魔物を一緒に銃で落としている最中だった。
それはそう固くはないが殴って落とせる速度ではなく
おまけに連続で発生して列を作って飛んでくるので
連射しないと撃ちもらして体当たりをくらってしまうのだ。
「・・っと悪い。今のは不可抗力だ」
ダンテはさして慌てず撃ちもらした分を手早く撃ち落とし
しばらく2人で銃声を響かせていると、トゲの魔物の列はそれ以上出てこなくなり
あたりは急に静かになった。
「・・あれだけ忙しい銃撃中にくしゃみするなんて器用な人ね」
銃を軽くこすり合わせながらアーシアはちょっと呆れたような顔をするが
ダンテは悪びれもせず銃をキリキリ回していつもの場所にずぼんと無造作に
でもかっこよく戻した。
「そんなつもりはなかったんだがな。
まぁどうせ相棒がどこかでオレの悪口でもたたいてるんだろう」
「?・・仲・・よくないの?」
「いいや?人当たりは悪くないんだがアイツはちょっと照れ屋だからな。
ホントは本意じゃないクセにオレに対してだけはやたらに冷たい。
あとお人好しで甘くてそのくせヘンな所で頭が固くて
礼儀正しいかと思えば見事な蹴りをくれ、大人しいかと思えば部分的に凶暴で
そうだな、たとえばいろんな味のスイーツを檄辛ピザと交互で
しかも日替わりの気まぐれでお届けされるようなとにかく面白いヤツでな」
「・・・・」
わかりやすいようでわかりにくい微妙なノロケと
1人歩きで楽しそうな物言いと態度にアーシアはちょっと引いた。
「・・・・で・・でもその子近くにいるとしたら1人で大丈夫なの?」
「アンタの話したジークってヤツと一緒で
そいつも1人であって1人じゃないから心配ないさ。
ただ今回そいつとはぐれる原因になったのは他でもないオレだからな。
今ごろ相当怒ってるだろうし、そういう事にはうるさいヤツだから
合流した時に一体どんな怒声が飛んでくるか楽しみ・・じゃなく心配ではあるんだが」
「・・・・・・・・」
戦力的には申し分ないが、やっぱりこの人何かヘンだと
アーシアはさらにちょっと引いた。
「・・・えっと・・ちなみに特徴とかは?」
「そうだな、口で説明するのは難しいが簡単に描くなら・・」
リベリオンを引き抜いて地面に何かをカリカリ描くこと少し。
できたのはジュンヤの特徴の1つであるハーフパンツ。
のみ。
地面に描かれたそれをしばらく凝視したアーシアは
かなり黙りこんだ後、今までやった事がないくらいのヘンな顔をした。
「・・・あの・・・ヘンなこと確認するようで悪いんだけど
貴方の探してる人ってパンツなの?」
「まさか。いくらオレだってパンツ一枚で走り回る事はあっても
それ自体を探すハメにはならないさ」
今サラッと凄まじいことを聞いたような気がしたが
聞き間違いだ、きっとそうだ絶対そうだとアーシアは必死に思いこむ。
そしてそんなアーシアの努力もまるで気付かずダンテはさらに勝手に説明した。
「これと全身にあるタトゥーがコイツの特徴で
タトゥーはそう複雑じゃないが一度見たら忘れられないな。
あとそれはパンツの下にもあるらしいんだが
見せろと言って殴られた回数は片手で・・いや両手で足りなかったか?
別にちょっとくらい嫌がるような事でもないだろうに実に頑固で
まぁそこがまた楽しくて興味をそそられる所でもあるんだが」
「・・・・・・・・・・・・」
アーシアは怖くなってきた。
が、ダンテのジュンヤに対する説明はそこでは終わらない。
大体そこで終わってたら普通にただの変態さんだ。
「・・とは言え、いくら変わった身体をしてようが妙な手下を連れていようが
そいつの中身はまだ尻が青くて人恋しい時期のガキだ。
今ごろどこで不安がってオレの事を恋しがってるか・・」
なんてことを本人が聞いたら確実に殴り飛ばされるだろうが
冗談ながらもその半分はあまり表に出ない事実だ。
アーシアからすればその探し人とこのキテレツな人が一体どんな関係なのか
今の時点ではあまりどころかまったく想像もつかなかったが
少なくともダンテがそのガキとやらを大事にしているのだけは
なんとなくわかった・・・ような気がした。
ゴゴン ゴトン
と、その時背後で重い音がしたかと思うと
今通ってきた道に柵がかけられ、少し先にあった別の柵が開く。
そしてそこからは全長10mはあろうかという
トカゲのようなイヌのような形をした巨大な何かが出てきた。
それは発達した四つ足で巨体をささえ、ばっさり複数に裂けた口だけが印象的で
目もないくせに確実にこちらを認識し、何のとも表現できない咆哮を上げると
ドドンドドンと重たげな地響きを立て四つんばいで走ってくる。
アーシアが表情を変えて銃をかまえ、ダンテは背中の剣をぶんと抜く。
「気を付けて。あれはあまり凝った攻撃はしてこないけど
たまに衝撃破を起こしてくるから飛んでかわしてね」
「OK、それじゃ片づけた後にでも話の続き、してやるさ」
咆哮を上げドドンドドンと走ってくる口の裂けたトカゲを見ながらダンテは笑い
アーシアは緊張しつつもやっぱりちょっと呆れた。
だってそのまだ見ぬ相棒とやらの話をする時のダンテと言ったら
年甲斐もなく実に楽しそうだったからだ。
でもその楽しそうな様子が噂の本人にとっては
あまり良い事でないのまでは想像できなかったわけなのだが。
「っくしゅ!」
ちょっとひかえめなくしゃみに前を進んでいた巨体がピタリと止まり
何?とばかりにごっつい身体が振り返ってくる。
「あぁゴメン、今行くよ」
何でもないと手を振ってもうだいぶ慣れたその後ろ姿を追いかけると
それはまた近づいたのと同時にすーっと音もなく遠ざかっていく。
・・まさかダンテさんがどっかであることないこと吹き込んだり
誰かに迷惑かけてたりするんじゃないだろうな・・。
などという全部的中な予感はともかく
後ろから見てるとアメフト選手のような生き物に連れられてたどり着いたのは
どこかの街の入り口らしき門の前のような所だ。
しかし街と言っても門や外観はかなり荒れていて
おそらく中は廃墟か遺跡になっているのだろう。
しかもその入り口の門前には遠目で見るとでっかいハムみたいな生き物がいて
すんなりと入れそうもない。
というのもそれは両手と両足のあるずんぐりしたカエルのような生き物で
手に固そうな大盾を持ち、門の真ん前にどーんと立ちはだかっているのだ。
おそらくそれはここを守る門番かなにかなのだろう。
一瞬話ができないかと思ったが即座にダメだとわかった。
だってその門番らしき生き物、ここの生き物に共通する点なのか
目も鼻も口もなかったからだ。
なのでその風船とカエルをたしたような生き物は
近づいてみてもこちらを認識しているかどうかも分からない。
だが門を通ろうとするなら邪魔になるのだけは確実だ。
見られているかどうかはわからないが
物陰に隠れて様子をうかがっていたジュンヤは
同じくこちらを見ているかどうかわからない横のヤツに聞いてみた。
「・・・見た感じ・・素直に通してくれそうもないけど、どうする気だッ!?」
聞いているかどうかわからないがそう声をかけた途端
ヘイトレッドは突然身体を丸めてごうと燃え上がり
次の瞬間また別の生き物に姿を変えて出現した。
今度出てきたのはヘイトレッドよりはかなり小さめの何かで
ジュンヤが一抱えできるくらいの赤いボールのような物を背負った
やはり青を基準としたカメに似た生き物だった。
今までの連中と同じく地面に近い後ろ足に青白い炎をともし
小さな頭とおぼしき所に今度は小さいながらも空洞の目がついている。
が、それよりその生き物でやたらに目を引くのが
背中に背負われている赤いボール・・のような何か。
それはボールかと思ったが所々にボルトのような物がささり
ボールだけが外れそうに見えたが、普通のカメと同じく下と直結しているらしい。
ジュンヤはふいにとてつもなくイヤな予感がしたので確認してみた。
ブラスフェミー
しかしやっぱりわかったのはそれだけだ。
もう全然万里じゃないような気もするが、やはり世界が違うと効力が落ちるのだろうか。
そう思いながら望遠鏡から目を離すと
そのブラスフェミーという生き物、何を思ったのかすーっと寄ってきて
つんつくと鼻先と思われる所で膝をつついてくる。
「・・え・・なに?」
意図がわからず戸惑っていると、ブラスフェミーは『・・・・』と考えるように間を空け
なぜか突然足元の炎をゴッと赤色に変えた。
そしてそのままでーんと突っ立ったままの門番の方へすーーっと寄っていき
どがーーーん!!
接触する寸前、自爆した。
どうやら背中に背負っている赤い球体はそのための物だったらしい。
しかも唖然とするジュンヤをよそに、くるりんと宙から別のブラスフェミーが出てきて
同じようにすーーっと門番の方へ。
どばーーーん!!
そしてまったく同じように爆発し、門番の持っていた盾を破壊した。
実はさっき膝をつついてきたのは『蹴ってあれに当てろ』という意思表示だったのだが
もちろんそんな物騒な方法がわかるわけがないし
わかったとしても普通やらない。
「・・ちょ・・・ちょちょちょ!!ちょっと待ってえええぇーー!!」
三度くるりんと発生し、すいーーと突撃しようとしたブラスフェミーに
ジュンヤはそれが爆発物であるのもかまわず文字通り飛びついた。
いや飛びつこうとしたのだが一瞬の差で間に合わずべしゃと地面と激突し
数秒後、その頭上をぼがーんという爆風だけが吹き抜けていく。
そして次に顔を上げた時、門番の姿はもうなかった。
ただ門番のいた場所から青い魂のような光がぱぁと四散し
またくるりんと出てきた新しいブラスフェミーの上をかすめて飛んでいく。
そして全部終えた仮称、自爆魔ブラスフェミーは足元の炎を青色に戻し
何事もなかったかのようにジュンヤのそばまで寄ってきた。
「・・・・お前・・・あんまりだろ・・・」
しかしそうは言ってもちゃんと聞いているかどうかまるでわからない妙な生き物は
答える事もなくただふよん、と少しだけ上下した。
「しかし・・呆れるほどに仕事熱心な連中だ。
この余計なまでの熱意は一体どこから拝借してるんだかな」
感心半分呆れ半分でそう言うダンテの視線のかなり先には
どよ〜んと不気味に浮いている、あの魔物を生み出すらしい肉のかたまりが3つ。
そしてその下には獣型、人型、トゲトゲしたボールみたいなのや猿のようなやつ
とにかくいろんな魔物がひしめいていて、遠目に見ても満員御礼な状態だった。
その向こうには先へ行くための門があり、おそらくそれら全てがその門番なのだろう。
アーシアが緊張したように銃をしっかりと握りしめた。
「・・確かにすごい数。でもあの上の3体を破壊できれば
下にいる魔物は全部消えるはずよ」
「なら数にかまわずあれだけを片づければいいんだな」
そう言うなりダンテはなんの準備もせず
リベリオン片手にズカズカと大軍の真正面から入っていこうとする。
「ちょ、ちょっと!何するつもり!?」
「あの浮いてるミートボールかソフトクリームみたいなのを落とせばいいんだろう?
地上にあってゴチャゴチャしてるのをかき分けるならともかく
あぁしてわざわざ浮いててくれてるなら親切なもんだ」
「でもこんな身を隠す場所もないひらけた場所でそんな堂々と・・!」
「あぁそれと、援護はたのんだ」
「えええ!?」
ワケがわからぬまま驚愕するアーシアを残し、ダンテは走り出した。
それは無茶無謀以外の何者でもないが走り出したものはもう止められない。
アーシアは何をどうするのかまったく知らされないまま
とにかくダンテに気付いて動き出した魔物を必死に撃ち始めた。
「1体目!!」
アーシアの援護射撃でできた道を走りぬけ、楽しそうにそう言うのと同時に
リベリオンが斧を持っていた人型の魔物をとらえ
その勢いを殺さないまま上へと跳ね上げる。
それは上にあったあの肉のかたまりに気持ち悪い音を立ててぶち当たり
続けて飛んできたダンテに2体まとめて串刺しされた。
「2体目!!」
そしてそれが活動を停止し、2体共々青白い光に変わるのも確認せず
ダンテは剣を引っこぬく勢いで隣のかたまりに飛び移り
その勢いで剣を叩きつけ、片手で銃をぬきありったけの弾丸を撃ち込む。
そして光に変わろうとするそれから剣をぬき
すぐ隣にあった最後のかたまりに斬りかか
・・ろうとしたが距離が足りない。
しかしダンテは慌てず騒がず身体をひねって剣を投げつけ
あいた両手で銃をぬき、限界速度で連射する。
その落下地点にはアーシアがさばききれなかった魔物が数体いたが
それはダンテが着地するころには青白い光に変わって四散していた。
つまり言われた通り、宙に浮いていた肉のかたまりを全滅させたので
その周囲にいた様々な魔物達は全てあの光へと姿を変えたのだ。
「・・やっぱり若い時みたいにはいかないか」
ぽろりと落ちてきたリベリオンを見上げもせずにキャッチし
仕方なさそうにダンテは肩をすくめる。
が、その無茶の援護に必死だったアーシアは
引き金の引きすぎでしびれた手をぷらぷらさせ、怒ると同時に心底あきれた。
「貴方ね・・・・何考えてるのよ・・・!」
「一番手っ取り早く終わりそうな方法をとってみたんだ、がお気に召さないか?」
「召すわけないでしょ!援護が間に合わなかったら袋だたきじゃない!
遠距離からあの3つだけ狙撃できるって先に言わなかった私も悪いけど・・!」
「なんだ。そんな方法があれば先に言ってくれりゃよかったのに」
さらりとそう言うダンテに向かい、アーシアはあらん限りの疑惑の目を向けた。
「・・・ねぇ、ちなみに念のため聞くけれど、それを先に説明してたとして
大人しく狙撃が終わるまで待っててくれてた?」
ダンテは真顔で答えず、片眉をちょっとだけ上げた。
ダンテとの付き合いが短いアーシアにもわかった。
つまりはNOだ。
周囲にただよっていた大量の青白い光が一瞬動きを止め
また思い出したかのようにゆらゆらと漂い出す。
そしてアーシアはこの時ようやく悟った。
この人あまり関わっては行けない人だと。
しかしそうは思ってももう立派なお知り合いだし
ちゃんとした戦力になるので放り出すわけにもいかない。
なので今のアーシアの心境は道に迷ってそうな人に親切心で声をかけたら
今から襲撃に行く極の道の人だったみたいな感じだろう。
しかしかなり怖くなってきたアーシアをよそに
ダンテは魔物達が残した大量の光を眺めていた。
それはここにいる異形全てが消える間際に出すものらしく
周囲には結構大量の光が漂っていて見ようによっては少し不気味だ。
時々緑のものもまじるそれは、放っておけば自分にゆっくり引き寄せられ
あるいはそうはせず勝手に自然消滅するものや遠くへ飛んでいってしまうものもある。
ふと思い立って手を出し、来い、と軽く念じてみると
意外なほどそれはあっさり手に集まってきて
しゅんしゅん勝手に吸収されていく。
そうやって意思があるかのように集まってくる所を見ると
ボルテクスで悪魔達が集めていたマガツヒとか言うものではなさそうだし
身体に入りはするがすぐ影響が出るような物でもないらしいし・・。
じゃあなんだと思いはするが、今すぐどうという事がないならかまう気になれず
ダンテは名残惜しそうに目の前をちらつく光をしっしと追い払った。
「・・まぁ害がないならそれに越したことはないんだが
あまり気持ちのいいもんじゃないな」
「?・・何の話?」
「さっきから目の前をウロウロしてるこの鬱陶しいモヤだ。
たまに緑のもまじってるが大半が青白くて・・」
と、そこまで言ってダンテは気がつく。
そう言えばアーシアはさっきから大量に舞っている光の1つたりとも見ていない。
それに光の方もアーシアをまったく無視してダンテの方にばかり集まってくる。
つまりこれは普通の人間には興味がなく
半魔のダンテにしか見えない、もしくは影響が出ない仕様になっているらしい。
ダンテはちょっと上を見て考え
もうとっくにされているが変な人扱いされる前に話を切り替えた。
「・・あぁ、いや・・悪い、職業柄の見間違いってヤツだ。
それよりもこれからどうする。歓迎にはもう慣れてきたが道に詳しいのはそっちだろ」
「・・え?えぇと・・主要な道はもう歩ききったはずだから
あとはジークの進んだ方向、つまり危険度の高い方向しか残ってない」
「成る程な。じゃあそっちで行こう」
「え・・」
などと言うなりダンテは1秒のためらいもなくそっちに行こうとする。
というのもあの少年のいる確率が高いのは
本人の意思に関係なく危険度の高い方向と相場が決まっているのだ。
しかし抗議してくるかと思った同行人の足音は
案外すんなりと後ろからついてくる。
おやと思って振り返って見ると、やはりあまりいい顔はしていなかったが
しぶしぶ同意したのかもう無駄だと悟ったのか
くってかかってくる気配もなく黙って横に並んでくる。
「何だ、反対しないのか?」
「・・したところで聞くつもり、元からないんでしょう?」
「そりゃな。・・しかしいいのか?」
「乗りかかった船です。最後まで付き合います」
「・・ックク、そりゃいい度胸で」
ダンテは苦笑し、釈然としない顔をしたアーシアを横に連れ
歩調をゆるめずにまっすぐ歩いた。
そしてそんな中、周囲で迷うように舞っていた青白い光達が
ダンテ達の向かう方の空へとゆっくりと飛翔し始める。
そちらに帰る場所でもあるのかと思われたがそうではない。
それらが向かう先には『彼ら』がいるからだ。
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