気がつくとジュンヤは本来転送されるべきターミナル部屋ではなく
時計のような音が小さく響く、どこかわからない見知らぬ場所に立っていた。
そこはどこか大きな建物の薄暗い螺旋廊下だった。
円を描くように道が上へゆったりとあがっていき
少し視線を移動させると同じような石造りの道が上や下に円を描くように続いている。
それは見た所、どこかの塔の中部のようで
所々壊れた螺旋通路の中心は大きな吹き抜けになっていた。
「・・・うわ・・・」
そっと下をのぞくと結構な高さがある。
しかしどこかの60Fビルやカグツチの塔ほどではないので
これくらいなら落ちても大丈夫だろう。
しかしふと見ると、さっきまで一緒にいた赤いコートがどこにもいない。
慌ててストックを探ってみても
やはりあるべき一種独特の気配はそこになかった。
そういえば右手がちょっと痛い。
「・・・あぁもう・・・なんで拒むんだよ・・・」
主人の命令を拒否して迷子になる魔人なんて聞いたことない。
頭を抱えたくなる思いにかられながら
ジュンヤはしぶしぶストックからケルベロスを召喚した。
「ドウシタ主?ナニヤラ見ナレヌ土地ダガ」
「・・・うん、ちょっとダンテさんの手違いで、知らない場所に飛ばされたんだ」
「・・・マタアノ男カ」
ケルベロスが鼻にシワをよせる。
元々仲魔うけがよくないダンテだが
某カルパで串刺しにされた経験のあるケルベロスは
輪をかけてダンテの事が嫌いだった。
「ひょっとしたら近くにいるかもしれないんだけど・・臭いで探せるかな」
「アンナモノイッソココへ捨テテオケバヨカロウ」
「駄目。あんなの捨てたらここにいる人に色々迷惑がかかるだろ?」
「グゥ・・・」
もっともかつさりげなくヒドイ言い方にケルベロスは低くうなると
しかたなさそうに大きな鼻をふんふんと左右にさまよわせ始めた。
少しして、何かをかぎ取ったのかそれは地面を往復する。
だがいくらかもしないうちに、ケルベロスはその臭いを嗅ぎつつ首をかしげた。
「・・・妙ダナ・・・」
「何が?」
「コレハ奴ノ臭イナノダガ・・・奴ノモノデハナイ」
「は?」
意味がわからずジュンヤも一緒になって首をかしげる。
「ダンテさんの臭いなんだろ?」
「ソウナノダガ・・・ウマク説明デキンガ何カガ違ウ。
ソレニコノ臭イ、ココヲ何度モ往復シ、サラニ少シ時間ガ経過シテイルモノダ」
「俺達が来るより前からあった・・っていうことか?」
「ウム、少ナクトモ今サッキツイタヨウナモノデハ・・・」
その言葉の途中でケルベロスは弾かれたように顔を上げ
警戒するように低くうなり声を上げた。
「どうした?」
「・・・臭イノ元ガ来ル」
「ダンテさんか?」
「イヤ、ワカランガ・・・アマリイイ臭イハサセテイナイ」
それはおそらく悪魔狩り特有の悪魔の死臭の事をさしているのだろう。
それなら元々ダンテにも染みついた臭いで
ケルベロスがこれほど警戒するにあたいしないはず。
ジュンヤは軽い緊張感を抱きつつ
ケルベロスの見る先にある扉をみつめた。
そして
ドガン!
蹴り破るような勢いで開いた扉から、それは現れた。
血のように赤いコートに軽々と背負われた身長ほどある大剣。
その下にちらりと見えたのは白と黒の銃だろう。
そして暗がりでもひときわ目立つ白銀の髪が、こちらを向いた拍子に軽くゆれた。
それは一見してダンテのように見えた。
しかしそれはジュンヤの知るダンテと違う点がいくつかある。
まずダンテより若い。
それに背負われた剣はジュンヤの知るリベリオンではない。
背にあるガンベルトもダンテはしていなかったし
おまけにコートの下の上半身は、どうゆうわけか素のままだ。
そのダンテに似た男はもうすでにこちらに気付いていたらしく、大げさに手を広げて・・
「・・・へぇ、ワンちゃんの次は白ニャンコか?
主催者はペットショップでもはじめる気か?」
かけられた声もやはりダンテのものではない。
ケルベロスが一瞬後、侮辱に気付いてうなり声を上げるが
ジュンヤはそれを軽く撫でてなだめた。
「そっちのは・・・えらく変わったお人形さんだな。
けどペットにはリードをつけとくのがマナーだろお嬢ちゃん」
軽口をたたきながら間合いを詰めてくるダンテに似た男の言葉に
ジュンヤは軽く目を細め、沈黙することで答えた。
なにせこの手の挑発は散々聞かされているので今さら怒るに値しない。
近くで見てもその男はダンテによく似ていた。
武器やコートもそうだが顔立ちも肉親と思うほどにそっくりだ。
しかし1つ確実に違うのは
自分たちに向けられた異様な殺気と、獲物を狙うような鋭い目。
これだけでジュンヤは彼が自分に味方する者ではないと確信した。
コイツはヤバイ。
かつて出会った同じような前例の事を思い出し、無意識に足が後退する。
「まぁそれはいいとして・・実は少し困ってるんだ。
このパーティー会場、一体何を考えてやがるのかやたら客に対して不親切でな。
すんなり上に行くエレベーターも階段もねえ」
じゃり、と男のブーツが音を立てる。
ジュンヤは黙ってケルベロスのたてがみに手をそえた。
それだけでケルベロスは主の意志を感じ取ったらしく
軽く身を沈ませていつでも飛びかかれそうな体勢を取る。
「そこでお二人にちょいと相談だ。なぁに、難しいことじゃない」
ガシャ
男が背中にしまわれた銃を素早く抜き、迷うことなくこちらに向けた。
「上へのエスコートとハチの巣。どっちか選びな」
もしもこれが昔のジュンヤなら
うろたえながらも何とか話し合いをしようとがんばったかもしれない。
だがあいにくと今のジュンヤは
こんな強引かつ横暴な相手に対して取る対応に躊躇しなかった。
「ケル!!」
言葉と同時に白い巨体が背にジュンヤを乗せ
後方や前にある通路ではなく、はるか下まである吹き抜けの方へと跳躍した。
男はさすがにそちらに飛ぶとは思っていなかったらしく、慌てて銃を向けるが
それは引き金を引く寸前、いきなり巻き起こった突風にさえぎられた。
「・・チッ!」
風の隙間からかすかに見えたのは
こちらに向けていた手をもどしている人型の悪魔。
真空の刃がおさまってから男が身を乗り出すと
白い巨体は階下にある扉に飛び込んだ直後だった。
「・・・・HA、おもしれえ」
逃げられたというのに男は嬉しそうな顔をして銃を背中に戻し
かなりの高さがある吹き抜けから、ためらうことなく飛び降りた。
飛びこんだ通路は幸いケルベロスがようやく通れるほどの広さがあった。
しかし困ったことに、そこにはあまり話の通じないような先客もいた。
それは悪魔のようだが皆ムンクみたいな顔をしていて手に鎌を持っている。
動きもよたよたしていてう゛ーだのあーだの変な声を上げていたりなんやらで
見た限りあまり友好的な生き物には見えない。
「主、イイカ」
「非常時だ、許す!」
もしかすると会話ができたかもしれないが
話の通じない奴に追われている今はそんな場合ではないだろう。
ケルベロスは主を背に乗せたまま、鎌をふりかざす生き物を踏んづけ突き飛ばし
時には殴り飛ばして器用に通路を上っていく。
しかし上に上がりきり、扉を開けようとしたとたん、下でも同じような音がした。
「速っ!?」
「カマウナ、行クゾ!」
某カルパを経験し、立ち止まることの恐ろしさを知るケルベロスは
後を振り返る時間を惜しむように目の前の扉に飛び込んだ。
ドン! ガシャ
男は扉を蹴り開けると同時に、2つの銃を交差させるようにかまえた。
そこは正面にいくつかの台座のあるホールで
その先にある扉は仕掛けを作動させ、今は行き止まりになっているはずだ。
いたる所に首のない悪趣味な像が立つホールに向かい、男はゆっくりと足を進める。
逃げる悪魔をのをいちいち追い回し殺さずに捕まえるのはかなり面倒だが
男ははっきりいって道に迷っていた。
少し前に出くわした変な道化ならば次にどうすればいいか知っていそうだが
そうゆう奴は大体必要なときに限って出てこない。
そこらを徘徊する悪魔に道を吐かせようにも
会う奴会う奴ろくに会話も成立しない奴らばかり。
そうして無駄に塔内をうろつき回り、イライラ絶頂で出会ったのがあの2匹だ。
大きいライオン(ホントはイヌ)はこちらの言うことを理解していたようだし
もう一方の人型は言葉も発し、下僕らしいライオン(ほんとは犬)に指示も出していて
見た目は弱そうだがそれなりに高位の悪魔なのだろう。
多少面倒だが今の所、上へ行く手がかりを聞けそうなのはあの悪魔達しかいない。
「・・・さて、と」
男はホールの入り口で立ち止まった。
ここを通らない限りは外へは出られない。
あの巨大な猫(ホントは犬)の足なら奥の扉に入って行き止まり気付き
すでに引き返して来ているか、あるいは・・・
キュン!
突然ホール全体が金属をこするような高い音をたてて光った。
かと思えば上の段にあった像が一斉に動き出す。
男は反射的に近い物から銃口を向け、連続で引き金を引いた。
ところがいくらかもしないうちに、今度は腕を向けた反対側に大きな影がふってくる。
「!」
ギン
瞬時に剣を叩きつけたが、それは黒くて長い何かにはじかれた。
それがさっき見失った猫(犬なのよ)の尾で
上の祭壇のような所に潜んでいたと認識するころには
その姿は人型を背に乗せたまま、もう扉に飛び込んだ後だった。
振り返ってみると動いたと思われた像は
何かで半分に切断されて上の部分を転がしているだけ。
どうやったか知らないが、どうにかして像を一度に切断し
気を取られたスキをねらって逃げたらしい。
「・・・オトリねぇ」
攻撃もせずオトリまで駆使して逃げる悪魔は初めてだ。
男は剣を背中に戻すと、今度はいくらかゆっくりした足取りで
2匹の妙な悪魔の追跡をはじめた。
「ケル、尻尾大丈夫か?!」
「弾イタカラ大丈夫ダ。・・・アト一瞬遅レバ短クナッテイタカモシレンガナ」
再びどこかから沸いて出た悪魔達を蹴散らしながら
2人は扉をくぐり螺旋廊下までもどる。
しかし相手もおそらく馬鹿ではない。
今度行き止まりだった場合もうオトリは使えないだろう。
「主、コレカラドウスル?」
「・・・ほんとは下へ逃げてここから出たいんだけど
ダンテさん探さないといけないからなぁ」
「??」
ジュンヤは白い背中の上でため息を吐きながらタトゥーの入った指で上をさす。
「あの人の性格からして、行くなら高いところって相場が決まってるだろ」
「・・・ナルホドナ」
いつか教えてもらった『何とかと高いところは・・』という言葉を思い出したケルベロスは
妙な納得をし、地を蹴って上へと走った。
次に入った扉はすぐ近くに断崖と大きな扉があった。
断崖は向こうに扉があったが、飛び越えるには距離があったので
2人は迷わず大きな扉の方をくぐる。
出た先はゆるくカーブしたかなり大きな通路になっていた。
壁の所々には何かで溶かされたような穴が開き、中から何か出てきそうな気もしたが
ケルベロスは敵の臭いを感じないらしくそこを勢いよく走り抜けると
通路奥にあった少し小さい扉に飛び込んだ。
しかしそこも行き止まりだ。
何かを置いていた台座はあるがそれ以上通れそうな道はない。
「・・鉢合わせするかな?」
「ダロウナ」
心配そうなジュンヤをよそにケルベロスは踵を返し外に出る。
しかしまだあのダンテに似た男は来ていないようだ。
だがかりにここで鉢合わせしたとしても
この広さなら集中砲火を受けたり追いつめられたりすることもないだろう。
「ココニイナイト言ウ事ハ、上ガッテクル時無視シタモウ1ツノ扉ノ方カ?」
「かもね。できたらあんまりウロウロしないでほしいんだけ・・・」
言葉の途中、突然ジュンヤの背筋にぞくりとした感覚が走った。
それは悪魔の身の防衛本能か
それとも以前あったハンターからの逃走劇の経験からか。
ジュンヤは白い背中からとっさに立ち上がり
横に飛ぶと同時にケルベロスの背中を自分と反対方向に蹴り飛ばした。
「ウォ!?」
ガッ!
距離の空いた2人の間に、頭上のアーチからふってきた影が
固い音をたてて着地する。
「ヒュウ、ネコよりカンがいいのか。ガードが固いなお嬢ちゃん」
そう軽口をたたきながら地に食い込んだ剣を引き抜いたのは
まぎれもなく、さっきまいたはずのコートの男だ。
「けどガードが固けりゃ固いほど・・・落としがいがあるってな」
言って男は剣をしまい、腰から水色の何かを取り出す。
それは柄の3つあるヌンチャクのような物で
男が軽くかまえると周囲にほんのりと霜が舞った。
ジュンヤはそれを見て
男の背後でうなり声を出していたケルベロスに向かって叫んだ。
「ケル!ここはいいからダンテさんを探せ!」
「・・シカシ!」
男が一瞬ジュンヤから目を離さないまま少し怪訝そうな顔をするが
ジュンヤはかまわずさらに叫んだ。
「氷結属性だ!お前だと分が悪い!」
「・・・グ!」
「行け!早く!!」
ケルベロスはかなりしぶっていたが、強く命じられてはそれ以上抵抗できない。
素早く近くにあった段差を駆け上がると、入ってきたときの大扉へと姿を消した。
さて、問題はここからだ。
ジュンヤは以前、こうやって一対一でこんな感じの魔人と対峙したことがある。
あせって仲魔を呼んで、そのたび犠牲を出したのも覚えている。
けれどその相手はなぜか自分にだけは致命傷になる攻撃をしてこなかったのも
何度かつかまって入り口に放り出されたのも、忘れたいけど記憶している。
その記憶から学習した結果は
どのみちジュンヤにとってはあまり楽しい物ではない。
・・・格闘は苦手なんだけどな・・・
そんな事を考えながら静かに身構えるジュンヤに
男から今度は挑発的な言葉ではなく、少し意外な言葉がやってきた。
「・・・こいつは意外だな。
悪魔の中にもオレと同じ名前のヤツがいやがるのか」
「・・・え?」
ジュンヤは一瞬、男が何かの冗談を言ったのかと思ったが
しかし男は面白くもなさそうな顔でチャリチャリと水色の武器を鳴らし
それを否定するかのようにさらに言葉を続けた。
「それとも名前を売る前から売名行為か?
店をぶっ壊してくれたあのハゲといい
人を招待しときながら小細工で道をふさぐ主催者といい・・・」
少しづつふくれ上がる殺気に、ジュンヤの足が一歩後退する。
「どいつもコイツも、いい趣味してやがるよ・・なぁ!!」
ぶんと振り下ろされた氷のような柄は
飛び退いた地面に激突すると同時に、周囲を軽く凍らせた。
ジュンヤはできるだけ間合いを取るようにして
片手に牽制用の衝撃をためて走り出した。
どうやらとても嫌なことに、あの男もダンテというらしい。
しかし今はそんな事にかまっている場合でもないだろう。
何しろちょっとでも足を止めれば弾丸が飛んできて
間合いをつめられると鬼のような連続攻撃をおみまいされる。
しかし攻撃速度は速いがダンテほどの威力がない。
昔追い回された某カルパは、狭い通路でさえぎる物が何もなく
時々見えない壁に足止めされたりもしたが
ここはそこそこ広くて身を隠す場所も多少はあり
ひっきりなしに飛んでくる攻撃で相手の位置もつかみやすい。
それにジュンヤもあれから随分と成長しているのだ。
「わっ・・と!」
チュイン!!
いつかと同じように突き出された剣は、魔力で作られた光の剣ではじく。
「へえ、見た目に似合わず芸が細かいな。気に入ったぜ!」
「それ前にどこかで聞いたことあるけど全っっ然うれしくない!」
「つれないなハニー」
ブバン!
渾身の力をこめた真空刃はコントロールがおぼつかずにかわされた。
「俺その手の冗談嫌いなんだよ!!」
「シャイな所もなかなかだな」
「聞けよ人の話!!」
「悪魔だろ」
しかしこの男、多少テンションは違えども
人の嫌がるのを楽しむ所が本当にダンテとよく似ている。
「俺!お兄さんと・・殺し合う!理由が・・!ないんだけど・・なっ!」
「そっちになくても!こっちにあるなら・・・それで!十分だっての!」
ダメだ。これはダンテさんじゃないけど明らかにダンテさんだ
。
ジュンヤはなんだか緊張感に欠ける攻防の中
この男の事を勝手に若いダンテと命名した。
だがちょうどジュンヤが行き止まりだった扉の前にさしかかったとき
周囲でとある変化がおこった。
そこかしこで赤い霧のようなものが渦を巻き、鳥のような形を作ると
目のような光を無数に発生させ、それぞれに耳障りな高い声を上げて舞い上がった。
「・・チッ!プレゼントの残りカスか!」
ジュンヤを追い回していた男(ジュンヤ命名の若いダンテ)は
舌打ちして銃口をジュンヤから赤い鳥のようなものに変更した。
不思議なことにその赤い鳥は銃などまったく効かぬような身体に見えるのに
何発か銃弾を受けると突然石像のように固まって地に落ちる。
「砕けろ!!」
落ちた所へ若いダンテの剣が突き刺さり、それは粉々に砕け散る。
どうやらそれはちょったした手順をふまないと倒せない特殊な体質を持つ悪魔らしい。
その証拠に剣撃に巻き込まれた赤い身体は
斬られた部分から半分に割れ、それぞれ新しい形を作ってバラバラに動き始めていた。
・・・スペクターみたいな悪魔なのかな。
そんな事を考えるジュンヤのわきを、赤い鳥のような悪魔が通り過ぎていく。
どういうわけかその悪魔はジュンヤ完全無視で若いダンテにばかり矛先を向けている。
しかしそれはそれで好都合だ。
今のうちに逃げれば・・・とジュンヤは近くにあった石段を登り
扉のある方へ走ろうとしたが・・・
「あぁクソッ!アフターケアくらいしとけあのハナ野郎!」
下で悪態をつきながらバンバン銃を乱射する若いダンテに
なにかちょっと後ろ髪を引かれる。
あれはダンテではないのだが
なんだか敵に突っ込みすぎて四苦八苦するダンテを
1人で置いていくような気分になるのだ。
しかも
「・・あ」
そのダンテでない若いダンテは、前に気を取られているスキに
背後からおもいきり体当たりを受け、派手に突き飛ばされた。
普通ジュンヤの知るダンテなら、あんな間抜けな真似はしないだろう。
おまけにあれは今さっきまで自分を追い回していた危ない奴だ。
わかってはいる。
わかってはいるのだ。
あれはダンテではないとは・・・わかってはいるけど・・・!
「わかっちゃいるけど!!
俺の馬鹿ーーー!!」
はたから聞いていれば何の事かさっぱりわからないセリフと同時に
ジュンヤは若いダンテを巻き込まないよう、下層にむかってメギドラオンをはなった。
地面を拠点にふくれ上がった青紫の光の中で
そこかしこで飛んでいた赤い鳥達が次々に蒸発していく。
それが自分の首をしめる行為になるとわかっていても
困っているヤツはどんなヤツであろうと助けずにはいられない。
そういえばいつだったか、それをダンテに話して思いっきり冷笑されたことがあった。
その時のセリフが確か・・・
ヂャリリ!
「わっ!?」
回想にふけっていたジュンヤの足に何かがからまり
そのまま下へと引きずりおろされて背中が地面と衝突する。
さらにぶんと遠心力で振り回されたかと思うと
今度は側面にあった壁に全身を叩きつけられた。
痛む身体を起こして見た先には・・
「・・・オマエ、ひょっとしなくてもバカだろう」
回想のセリフそのままを目の前の若いダンテに復唱され
ジュンヤは頭を打った痛みもふくめて顔をしかめた。
今さら言われるまでもない。
この性分のおかけで何度手痛いお返しをもらったか。
他の悪魔に鼻で笑われたり、仲魔に甘すぎると怒られたり。
はっきり言ってこの性分のおかげで良い思いをしたことはほとんどない。
けれどこれはジュンヤにとってはどうしても譲れない
自分が人間であった事の証明の部分だ。
「・・・・・・うん、それは俺も自分でそう思う」
「馬鹿力に加えて馬鹿で素直な悪魔?
HA!こいつは驚いたな。こんな所で珍獣級の悪魔に会えるなんてな」
ちゃりと足首にからみついている鎖が鳴った。
その元は若いダンテの手元に続いている。
これはいよいよ腹をくくらないといけないようだ。
「・・・言っても信じてくれないだろうけど、俺悪魔じゃないし」
「そりゃ確かに信じられないね。
あれだけ派手な事できるのに悪魔じゃなけりゃなんなんだか」
ぐっと腕に力がこもり、ジュンヤがズズと地面を引きずられるように移動する。
「・・・放してくれってのも無理?」
「無理だね」
「俺バカであんまり殺す価値もない悪魔なんだけど」
「そうかもしれねぇな」
鎖がさらに引かれ距離がさらに縮まり
ダンテのようでダンテでない若いダンテが楽しそうにニヤリと笑う。
「けど、そうゆう悪魔は・・・」
背中の大剣に手がかかる。
「 「嫌いじゃないぜ」 」
それはさっきの回想の続きのセリフだ。
あの時ダンテはそう言って頭を子供にするかのように叩いてき・・・
・・・・・あれ?
今なんか・・声が2つ重なったような・・・
とジュンヤが認識するより先に
ガガガガガガ!!
目の前にいきなり弾丸の雨がふってきた。
「なッ!?」
「・・え!?」
若いダンテが慌てて武器の拘束を解き、ジュンヤから距離をあけると
そこにズダン!と音を立て、見慣れた赤い背中が着地した。
見覚えのある趣味の悪い大剣。
黒のブーツに赤いコート。
今度はどれも間違いなく彼の物だ。
「ダンテさん!!」
「よう少年、相変わらずモテるな」
言いながらこちらを振り返った顔にはいつもの笑みが乗っていて
ジュンヤは嬉しいような泣きたいようなホッとしたような
なんだかたまらない気持ちになった。
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