12. 上へ向かってる、つもり
「あ、よいしょ!」
ゴッ!ガシャーン!
「・・ふん!」
ガキドガガチャーン!
「あ、もらい!」
「どこを見ている」
バリドガガシャガラララ!
などと派手な音を立てながら
あちこちにいた盾のような悪魔が次々と粉々になっていきます。
本当はその悪魔、背後からでしか攻撃がきかず倒すのが少々面倒なのですが
2人がかりの同時攻撃ともなると話は別で
盾のような悪魔は見た目のまったく違う2人組に
上手くはさまれ背後から次々と破壊されていき、ほどなくそこは急に静かになりました。
「・・しかし貴様といると時間の短縮にはなるが自己鍛錬にはまるでならんな」
「それは同感。それにあんまり効率がいいのに慣れてると
後々1人になった時が怖いかもね」
その何気なく言われた一言にバージルの動きが一瞬止まります。
その心境を知ってか知らずか、いやたぶん知らないのでしょうが
レイダは笑ってこう付け足しました。
「でもまぁそん時はそん時だし、今からそんな心配してもしょうがな・・」
ぐきゅるる〜〜
などとヒラヒラ手をふっていると静かになった礼拝堂内に間抜けな音が響き渡ります。
その場にいた2人は同時に固まりどっちも何も言いませんでしたが
突然バージルの方が赤くなりコートのあちこちをバンバンはたき出しました。
「違う!俺のせいではない!そもそも貴様が人の着衣に妙な残り香を残すのが悪い!
そもそもどこの世界に焼けた肉の香りが染みついた女がいる!
痕跡を残すならもっとマシなものにしろまったく!原始人!肉汁!ハラミ焼き肉!」
「え〜・・いやゴメン。なんか知らないけど悪かったから
じりじり遠ざかっていかないで腹が要求した時はちゃんと食べようよ」
普通に黙ってりゃいいものを怒鳴って怒って勝手に主張してしまったバージルを
レイダが焼いた肉片手になだめすかすこと数分。
本当ならまったくしなくてもいいけどもう何度目かになる食糧補給をした半魔の彼は
袖をくんとかいでようやくニオイが取れたと思ったらしく少しホッとしていました。
でも実際は自分も肉くさくなって気にならなくなっただけなのですが
肉くさいのが下品でイヤだとか言われるのも面倒なのでレイダは黙っておきました。
「んで、そこの正面扉はふさがっちゃってるけど次はどこに?」
「・・その以前開けた隠し通路の先だ。行くぞ」
「えぇ〜?ってことはまたアレに乗るの〜?」
「駄々をこねた所で他に道がないのだから仕方あるまい」
レイダとしてはいい加減あの狭くて速い貨車は遠慮したい所でしたが
確かにざっと見回しても他に道はなさそうです。
「・・でもさ、あの先って行き止まりじゃなかったっけ?」
「先程の変動で内部の構造がかなり変化している。
今まで見てきた扉の先が変化している事が多々あるので
今までに見て覚えた内部構造は役に立たんぞ」
「おわぁ・・そいつはまた面倒な話で・・ってあーー!!」
突然思い出したような声を上げ、レイダはギクッとしたバージルを無視し
さっきまで散々盾型悪魔を破壊していたハンマーをがちょんと振りかぶり
「クソ!今ごろ思い出した!!あんの白大根ーーー!!」
ゴがーーん!!
意味がまったくわからない事を怒鳴ったあげく
近くにあった顔の彫刻がびっしり彫られた不気味な柱を粉々に破壊し
本能的に飛び退いたバージルがガレキをふんづけてすっころび後頭部をうちました。
で、しばらくして何がどうしたのかとワケを聞くと
なんでもさっき(と言ってもだいぶ前)ジェスターがダンテの顔を踏んだ事を思い出し
やっぱり物理的制裁を加えておけばよかったと今ごろ後悔し出したとのことです。
そんなの今さらだし大体ここにいない愚弟の話なのですから
そんな事で急に怒り出されても困るのですが
これが世に聞く女心とナントカの空というやつなのかも知れません。
人間であるかも疑わしいこの人がその定義にはまるかどうかは凄まじく疑問ですが。
「・・・馬鹿か貴様は。今ごろそんな事で憤慨した所でどうする」
「でもあたしあぁいう一方的で楽しげなのってなんか嫌いなの!
いや今ごろ思い出しちゃうあたしもあたしなんだけどさ・・」
ゴンと残っていた柱を小突きそこに見事なヒビを入れるハンターさんに
バージルは後頭部をさすりつつかなり遠くからため息をもらします。
というのも彼が今いるのはとばっちりが来ない離れに離れた礼拝堂の中二階です。
「それにあいつとて馬鹿・・いや馬鹿ではあるがそう易々と死ぬほどの馬鹿ではない。
あのまま奈落に落ちるか諦めて逃げ帰るなどということもあるまい」
「そりゃそうだろうけど・・だってなぁ」
「・・だって何だ」
「だってあの子、雰囲気はまるで違うしよく見ないと忘れそうになるけど
基本はあんたと同じ顔してるでしょ?
だからさっきまで近くにあった顔にあぁいう事されると
異常にむかっと来るというかカチンとくるというか・・」
その時、何であんな奴の心配なんかするんだと
軽くスネかかっていたバージルはハッとしました。
それはつまり、あのピエロのやり口が気に入らなかったのもそうですが
似てると言いつつもちゃんと見分けて
自分に被害はなかったのに怒ってくれたのですから
もう何というかあんな馬鹿ために今ごろ怒るなとか
そんな事でいきなりおどかすなとも言いたかったのも忘れて
バージルはちょっとじーんとしました。
「つっても、こういうのはやられた本人が仕返しするのがスジってもんだし
ここで怒っても1ミリも役に立たないってのが歯がゆ・・アレ?」
ふと気がついて見るとさっきまで中二階で話を聞いていた青いのが見当たりません。
どこ行ったんだと思いつつ視線をめぐらせると
上の柱のはじっこから青いものがはみ出してるのが見えました。
角度と場所からしてうずくまっているようですが・・。
「・・おーい、何してんの。バサルモスのマネ?」
しかし聞こえてはいるようですが返事がなかったのでレイダは質問を変えてみました。
「それ、長くかかる?」
「・・・・・・30秒」
「ハイハイ」
なんだかよく分かりませんが30秒ならいいかと思い
レイダは適当な場所に腰掛けて待つ事にしました。
しかし彼女はその時彼がなんで丸くなって隠れていたのか
まったく気付くことはありませんでした。
さてそれから妙に視線をはずしてくるバージルと合流し
レイダがあまり好きじゃないという貨車に乗ると、またしてもそこで悪魔が発生。
しかも今度は普通の悪魔とドスアクマことヘルバンガードの複合です。
「ちょっとまたこんなせまい所で!?」
「文句をつける前に排除しろ!」
しかしせまい分攻撃は当たりやすく二人して適当に暴れていても勝手に勝てました。
ちなみにガードはレイダが力押しで無理矢理解除させました。
「・・ねぇ、あのドスアクマやたらにしつこいけど
もしかすると『なんでローブのはじ一枚も持ってかねぇんだ』とか怒っ・」
「っているのだとするならそれは間違いなく変態の部類だ」
「あぁ、それもそっか」
なんて会話を平気でしてるからつけ狙われてるような気もしますが
とにかく貨車は無事ゲロった階段・・じゃなく溶岩が流れる階段に到着。
以前行き止まりだったボス部屋をあけてみるとそこはまったく違う通路になっていました。
「わ、ホントだ。変な感じ」
「この先には確かダムドシリー
・・いや、縦長の石像が複数体で出現する。発見次第破壊しろ」
「壊せばいいのね」
「そうだ」
どれがポーンでどれがビショップでどんな攻撃をするとかいうよりも
『壊せ』という単語だけで万事解決してしまうのがこの人のいいところ
・・なのかどうかはわかりませんが、そうして出てきた巨大チェスのコマを
何しに出てきたのかわからないくらいの速度で片っ端から破壊し
そのたび開いていく扉をぬけてしばらく進むと
今度は以前競争をした長くて見通しのいい通路にでました。
そして目をこらすとそこにはまだ遠距離から矢を撃ってくるアレが複数います。
「あ、またアレ(名前覚えてない)がいる」
「(実はこっちも覚えてない)いるな。しかし今回移動する距離は以前の半分だ。
ここを登りきった所に別箇所へ移動する白いゲートがある」
「じゃあそこまで競争する?今度は数関係なしで」
「上がり坂の場合は俺の方が有利だが・・どうしてもと言うのなら」
「とか言いつつ準備運動してる時点でやる気満々じゃない。
素直じゃないったら・・ってそりゃー!」
「な!?貴様!フェイントとは卑怯だぞ!」
「有利とか自信ありげに言ってるならこれくらい平気ー!」
「待て!それは言葉のあやというか自分を奮い立たせる呪文・ぐお?!」
などと苦しい言い訳を考えながら走っていると
対岸から飛んできた矢が2本ほどささりました。
「あっはっはー!油断大敵ー!」
「く・・この!その油断をまねいているのはどこのどいつだ!」
などとやっぱり緊張感のない事をしながら走っていると
長い道の折り返し地点に前にはなかった白い光が発生しているのが見えました。
「あ、あれか!」
「負けるか!」
それはきっと弟が見たら目が汚染されたのかと思わんばかりの光景でしたが
本人達はいたって真面目に白い光に突進していきます。
でもこの時2人はそこへ到達する事だけを考えていて
その事がちょっとしたあだになりました。
ガッキ!ドゴ!ズダン!
「んが!?」
「ぐ!!」
おそらくたまたまだったのでしょうが
全力でそこに走り込んだ2人は転移先にあったガレキに足をとられ
その先で散乱していたソファやテーブルの山に2人仲良く頭から突っ込みました。
もちろん2人とも受け身もなにもできなかったので
こほーんと出てきた魔法陣が不思議な音をたてる中、しばらく無言の悶絶タイムです。
「いっ・・・たっ・・たぁ・・・・失敗ぃい・・。
おまけにこれだとどっちが勝ったかわかんないし・・」
「・・・・・・・」
テーブルなどの残骸からはい出して頭をかくレイダに
同じようにソファからはい出してきたバージルはもう何も言いませんでした。
でも腹が立ちすぎて何も言わないのではありません。
1人でこんな事になっていたら末代までの恥くらいに思っていたかもしれませんが
このヘンな人といるとこうなるのはもう必然だと思っていたからです。
「・・あれ?でもここって最初に入った派手な店よね。
ってことは足元まで戻ってきてるじゃない」
「・・確かにこの先は塔の振り出し地点だがそれ相応の理由はある。
まず外に出るぞ。そしてそれは置いていけ」
「ち、バレたか」
小悪党みたいな台詞でレイダが置いたのはそこに残っていた水着美女の看板です。
なんでそんなの欲しがるのかと聞けばただ単に珍しいからだそうですが
最初来たときも同じような事をして当然の事ながら反対され説教もされたのに
それをまた懲りずに持って帰りたがる神経というのは一体何で出来ているのやら。
こんなのがいいと思える自分のことも含めてバージルにはわかりませんでした。
そうして前とあんまり変わらないやり取りをしつつ外へ出ると
地下や上の方で散々色々やっていた塔はもう目の前です。
でも塔の変動でできたガレキによってもう入口は埋まっていたため
あとは外壁をよじ登るのかないかとレイダは思いますがもちろんそんなワケがありません。
「・・あれか」
外周のガレキの上を歩いていたバージルがそう言うなり幻影剣を複数飛ばします。
それはちょうど塔の壁からぽろりと落ちてきていた何かを数回にわけて引っかけ
どすんと壊すことなく上手に地面に着地させました。
それは赤かったり銀だったりする金属製の物体で
それに対する知識のないレイダにだけはそれがなんなのか分かりません。
「・・?何その鉄をこねくり回してデタラメにくっつけたくったみたいな塊は」
「要約して説明するとこれは乗り物の一種で
この円形の部分を回転させて進む自動走行機だ」
「・・動くの?それが?」
「見た目はただの金属塊だがそのように作られている」
そう言ってシートのホコリをはらってからさっとまたがりエンジンをかけてみると
幸いそれはまだ動くようでブァンブァンと派手な音を立てて起動しました。
「おぉー!なんだか知らないけど凄そう!」
「・・だがこれはあの貨車と同じく乗って使用する物なのだが・・」
「あ、大丈夫。地面が思いっきり速く動くとかそういうヤツじゃないならオッケー」
「ならいいが・・」
「で、それって何が入って動かしてるの?ネコ?ブタ?それとも虫?」
「・・・・・」
バージルは一瞬説明するのが面倒になり『酒好きの妖精』とか言いそうになりましたが
それだと見たさ採りたさにバイクをバラされそうだったので
『調合された油が燃えて動いてる』と答えました。
「さて、ではまず乗車前に言っておくが途中下車は一切不可だ。
貴様の場合、仕様上どこから転落しようと死にはしないだろうが回収するにも手間だ」
「うん、それはまぁそうなんだけど・・ところで聞いていい?」
「?」
「それ、どこにどうやって乗ればいいのかな」
何の躊躇いもなくそう聞かれバージルはびきと固まりました。
それはサイドカーではないので
2人で乗るには当然同じようにまたがって乗るしかありません。
バイクは大きいので2人くらい問題なく乗れそうですが
そうなると彼的にちょっとした問題が生じるのです。
しかしさっきあれだけきっちりした同行許可のセリフを発した手前
今さら自力ではい上がってこいとは言えません。
バージルはかなり怖い顔をして考えた後自分の後ろを指しました。
「・・・ここだ」
「同じように乗ればいいの?」
「・・・・」
そうだとは言われませんでしたがそうなのでしょう。
レイダはバージルの真後ろにどっかと無造作にまたがりました。
しかしそのまたがる部分だけが柔らかい金属のかたまりは
ドッドッドッと鼓動のような音はさせていてもそれ以上動く気配がありません。
「・・?動かないじゃないこれ」
「・・・・・れ」
「ん?」
「・・・つ・・れ」
「え?なに聞こえない」
「・・・・・」
「?おーい」
後からつんつく頭をつっついていると
それはぐばっと振り返って爆発的な音量で怒鳴ってきました。
「つかまっていろと言った!!馬鹿か貴様は!いや馬鹿だったな!!
ふり落とされ数十メートル落下し人の頭上に落下したところで
『あーびっくりした』で終わらせるつもりだろうこのひまわり!」
「??えーと、つまり最後のが罵声になってるかどうかはおいといて
早い話がつかまってろって事?」
しかし怒鳴りきった彼はぶんと高速で前を向いてしまい答えてはくれません。
でもこの場合の無言は肯定と受けてもいいのでしょう。
レイダはそう解釈してとりあえず腰に手を回してぎゅっとしがみついてみました。
多少は予測していたとは言えそのあまりな密着度に
バージルは一瞬口から何か出しそうになりますが
背中にきた感触のほとんどが固い鎧のものだった事が幸いし
それは胸と喉の間でこらえる事ができました。
「・・では・・行くぞ!」
「はいはいどうぞご自由に」
「耳元で喋るな!そしてあまり密着するな体温を移してくるな!」
「?さっきからやたら気むずかしいけど一体どしたの?」
「何でもないが貴様はもっとしかるべき自覚を持て!」
「は??」
言ってる意味がさっぱりで何を怒っているのか(レイダ的には)まったくわかりませんが
その直後、乗っていた金属の塊がブオアンと吠えるような音を立て
ぐんと走り出したかと思うとほとんど直角に近い塔の外壁を駆け上がりだしました。
「おぉー!こりゃまたすごーーい!」
「少し黙れ!舌を噛むぞ!」
しかしそこは壊れた建物の壁で本来バイクが通る場所ではありません。
振動で落ちてくるガレキや落石と何度かぶつかりそうになりますが
バージルはそのたびに器用にハンドルをきかせそれらを全て回避します。
さすがに2人分の重量ともなるとハンドルも重めですがそこは気合いでカバーしました。
しかしガレキの1つや2つなら回避できますが
次に上から落ちてきたのは塔の外壁のかなりでっかいやつで
もうよけるよけないのレベルではない建物一個くらいの大きさのやつでした。
「のーー!?!」
「ぅおおお!!」
変な声と雄叫びが重なるのもかわまずバージルはアクセルを全開にし
ぶつかりかかっていた外壁にがつんとバイクを飛び移らせ
そのまま直角どころかこっち向き角度になった外壁を無理矢理に駆け上がりました。
そして物理的にそんなのが可能かどうかは別として
バイクは見事外壁を登り切り向こう側へ。
と思ったらその向こう側からは見慣れた悪魔達が飛びかかってくるのが見えます。
ここは弟の場合だとバイク自体を武器にして乗り切るのですが
今現在このバイクは2人乗りです。
ならばバイクで踏みつけあとは幻影剣で迎撃かと思って実行しようとした矢先
腰にあった腕の感触が急になくなり、後ろで何か蹴るような音がしました。
まさかと思いましたがそのまさかです。
頭上をスローモーションのように通過していった鎧姿は
まず正面にいたいた悪魔のドたまに斧のような剣をたたきつけ
それをばんと盾で殴ってどかし、その向こうにいた悪魔に船舶の道具を叩き付けます。
しかしそうやってさばいてもかかって来る数の方が多く
レイダは舌打ちし砂になりかかっていた悪魔を蹴ってバイクに戻ってきました。
ただし戻ってきたのはシートではなくバイクを運転していた人の肩の上で
おまけに首をがしっと太股ではさんで固定してきました。
一応の加減はされていたので息は詰まりませんでしたが
バージルは喉を通りすぎた目と鼻のあたりで文字にも声にもできない絶叫を上げました。
というのもレイダの身体のほとんどは様々な素材の鎧に守られているのですが
太股の上付近、ある業界用語で絶対領域とよばれるそこだけは肌が出ていたため
肩車して足ではさんで固定するとなると・・まぁそういう事なのです。
ありえない速度で顔の温度が急上昇し、どこかで何かが焼き切れたような音がして
白くなった視界に花畑でお花をつんでいる母が見えたような気がしましたが
それを現実に引き戻したのはぺんと軽く頭をはたいた衝撃でした。
「多いしめんどい!それ動かしながらでいいから援護して!」
はっとして目を開くと目の前に鎌を振りかぶった悪魔。
バージルはほとんど無意識にハンドルをさばいてそれを前輪で轢き
続けざま視界に入った悪魔も轢いてバイクを上に上昇させました。
「おぉー!なるほど上手ーい!」
上でぎりりと弓を引く音がし、ばしゅんという音の後別の悪魔が砂へと戻ります。
あれやこれやの関係上で上を見る事はできませんでしたが
たまにぐっと痛くない程度に髪を掴まれ重心をもっていかれ
桃色や緑の影が視界をかすめまとまった砂が落ちている所を見ると
上は上で別のを迎撃してくれているのでしょう。
顔の横にある感触が思いのほかやわらかいのはともかくとして
バージルはとにかく今はそれがやわらかいけど筋肉ついてるだとか
やわらかいけど焼いた肉のにおいがしないとか
やわらかいとかやわらかくなくもないとかとか
「ぅがあああああああああ!!!」
頭の切り替えがしたくともちっともまとまらない頭の中に業を煮やし
バージルは魔人化もしない素のままで咆哮を上げ
今まで完全に忘れていた円陣幻影剣(飛び道具ボタンのため)を
無意識下で展開しました。
でもヤケクソ気味で作ったそれは剣の形に成形されておらず
刃先しかなかったり柄の部分だけだったり
あと何個か生足の形がまぎれこんでいたのは
彼の名誉のために黙っておいてあげましょう。
バイクで轢いたり多少形のおかしい魔力の剣やそうじゃないのを当てたり
でっかい剣をぶん回したり矢を射かけたり毒の剣を叩き付けたり
ともかくそんな攻防をすることどれくらいだったかわかりませんが
その妙な戦闘は塔にあいていた平地に降りるころにはカタがつき
バイクは重い音をたて着地
ドガ!めりバがちゃーーん!!ベキボリドドガンガラララーー!!
できるかと思いましたがさすがに無謀な運転と着地の衝撃には耐えきれず
重厚なバイクは地面についた後輪から順番にバラバラになっていき
最後に残ったのはバイクにまたがったままの状態で足から煙を上げ
上に巨大な剣をかついだ人をのせたバージルの手にあったハンドルだけでした。
「「・・・・・」」
何をしているのかわからない格好をした2人の間に妙な沈黙が流れます。
「・・・・・・結果オーライ・・だよね?」
レイダが身を丸めて聞いてきますがバージルは答えません。
でもしばらくして残っていたハンドルをガランと手から落っことし。
「・・・・・・降りろ」
と、抱え込まれたような状態からようやくそれだけを言いました。
ハイパー脳内補完おわり。
ちうか兄をいじめるだけの話になってきた気がしないでもない。
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