7. うんめいの7

ひゅううううう・・  すとっ

かなり高さのある吹き抜けから飛び降りたバージルは
まるで重力などないかのような軽い音をたてて最下層に着地しました。
と、同時に何を感じたのかしゅばっとその場から飛びのき、退避した直後。

ごおおおおおおお・・  すどごしーーん!!

何かが上からもの凄い勢いで落ちてきて、でっぱっていた装飾を粉々に破壊し
さらに地面に激突して床をバキバキに割りました。

「うわ!?ごめん!ちょっと壊した!」

でもそんな音を立てた本人はいたって元気で
重力の法則にはしたがってるくせに人間の法則に反してるのはなぜなのでしょう。

「・・その飛翔盤さえ無事ならあとはかまわん。行くぞ」

しかしバージルはもう気にしません。大体本人がまったく気にしてないのだし
こっちがいくら追求したところでどうせ疲れるだけです。
そういう意味でこの人との付き合い方が上手くなってきたバージルは
がこんどざんとガレキよけて歩いてくる足音を待ってから
目の前にあった扉に手をかけました。



ずらりと本の並んだ部屋で動く石像を破壊し
動力になるのだという赤い石を手に入れ落ちてきた吹き抜けを再度戻り
棺桶の並んだちょっと不気味な部屋でまたあの赤い結界に閉じこめられます。

「げ・・まさかこの箱の中身が出てきたりしないでしょうね」
「保証しかねるが違ったと思う」

それだとまったく違うゲームになってしまいますが
出てきたのは死体ではなくゴツイ筒のような物を持った少し大きめの悪魔です。
それは持っている棺桶を振り回したりそこから他の悪魔を呼んだりするのですが
召喚時に止まっているところをレイダのハンマーでためて叩かれたり
バージルのベオウルフでボコられてあえなく撃沈しました。

「・・ねぇこれって呼ばずにずっと振り回してた方が強くない?」
「そういう品種だ。気にするな」

そして落ちてきた水色の石を手に先へ進み書庫で手に入れた赤い石を装置にはめこむと
同じ部屋にあった何かの装置が動き始めます。

「?なにこの丸っこいの」
「エレベ・・いや、昇降機だが聞いたことは?」
「なし」
「・・その字の通りだが乗ってみた方が早いか」

それはボタンも扉もありませんでしたが可動だけはちゃんとするようで
がこんと動き出しカタンカタンとおりていくそれをレイダはかなり珍しがり
ドアもなにもない側面にはりつこうとして首根っこを掴まれました。

そして塔の一階に戻ってきて向かったのはあの肉を焼いた炎のある扉の前です。
別にそこじゃなくても肉は焼けるのですがバージルは一応聞いておきました。

「これからこれを消火するが、もう焼く物等は残っていないな」
「普通ならもう何かしら手に入れてるんだけど、ここって実入りが悪いからね」
「・・・・・」

だとしたらもし悪魔が砂にならずそのままで残っていたのなら・・。
一瞬怖い想像とすえたニオイを同時に想像してしまいましたが
もうそういうのを頭から素早く追い出す技能をつけたバージルはもうあまり動じません。

ともかく炎を消して進んだ先にあった白骨だらけの部屋で
これまた趣味の悪いドクロ型のアイテムを入手。
それから元来た道を戻りながら色々な悪魔と戦い
ドクロが鍵代わりという悪趣味な扉をあけて外の見える豪華な回廊を歩き
金ぴかな像がある扉の前までバージルはピタリと足を止めました。

そこから先は外です。そしてその先の頂上で1つの戦闘があるはずです。
バージルはその扉を見据えたまま素早く腹をくくり
振り向かないまま静かにこう言いだしました。

「・・悪いがここからは俺1人で行く。貴様はここまでにしてもらおう」
「へ?でもまだ先はあるんでしょ?」
「この塔本来の目的はまだ達成してはいないが、この先は間違いなく頂上になる」
「・・・・・」

彼はあまり多くを語るタイプではありませんが
彼女はあまり多くを語らなくてもなんとなく言いたいことがわかるタイプです。
青い背中をしばらくじーと見ていたレイダはふと仕方なさげな笑みをつくり
一歩そこから離れました。

「・・そっか。じゃ、がんばれ」
「・・・あぁ」

彼としてはもうちょっと気の利いた嫌味か小言の1つも言いたかったのですが
バージルは必要最低限な返事だけを背中ごしに残し、扉を開けて外に出ました。
振り返ることも口を開くこともしないようにしました。
だって今口を開いたら絶対後から大後悔するような事を口走りそうだったからです。

背後の扉に赤い結界がはられ、もうそこが開かなくなったことを背中で確認し
バージルは手にした閻魔刀にぎりりと力をこめ、1人で歩き出しました。

外は雨。しかも頂上近くなので屋根になるものは何もありません。
しかしバージルはぬれるのもかまわず
急にズカズカと音が出るほど激しい靴音をたてながら
ただひたすら頂上の舞台のような所を目指しました。

しかしそこ全部が視界に入り、足元から階段がなくなっても
本来そこで待っているはずの誰かが見当たりません。
あるものと言えば何かをつるすような装飾といくつかの細い石像のみ。
バージルはしばらくその全体を睨んでいましたが
やがてすたすたと迷うことなく像の一つへ近づき
ものも言わずいきなりそれをがん!と蹴りつけました。

「うわった!?」

びししとひび割れたそこから転がり出てきたのはやはり赤。
しかし本来ここにいるはずの自分が赤い服を着たような赤ではなく
銃と剣を背中に背負った、自分とは真逆の性格をしたあの赤です。

「・・よ、よお、オニイチャン、久っしぶりだよな。
 こんな所で待ってる気なんてなかったんだが
 えと、なんか色々と予定がくるっちまって」

声をちょっと裏返しながらなんとか距離を取ろうとする赤い元凶
つまりダンテをヘビと鬼と般若をたしたような凄い目で睨み
バージルは無言のまま距離をじりじりとつめました。
彼はまったくの無言でしたが様子と目つきからして猛烈に怒っているのだけは明白で
目に見えるくらいの殺気と怒気が落ちてくる雨を
触れた先からどんどん蒸発させていきます。

そして一言もしゃべらず武器に手をかけたところからして
もう言い訳もさせずに殺す気満々なようです。

「え、ちょ、マジ待てって!確かにあの姐ちゃんけしかけようとしたのは事実だけど
 その他もろもろのドジとかヘマとか甘ずっぱいエピソードとかはオレ無関係・・!」

と、そこまで口走ってようやく墓穴をほったことに気づいたようです。
そしてただ怒っているとだけわかったバージルがゆっくりと口のはじを吊り上げました。

そしてダンテはこの時思いました。
人って、いやあまり表情のないこの兄貴って、怒ったまま笑う事ができるんだなぁと。

しかしそんな事を考えられたのはそこまでです。
それからダンテは心底必死にならなければ身体のどこかが一瞬で本体とさよならしそうな
そんな攻防を始めざるをえなくなりました。



一方そのころ、豪華な回廊の一角に腰掛けのんびり月をながめていたレイダは
上からかすかに聞こえてくる音を聞きながらこんがり肉を食っていました。
聞こえてくるのはカキンとかガツンとかダァイとかいう聞き慣れた音ばかりで
銃声が少ないところからして兄の方が押しているのでしょう。

「・・まぁ人様んちの兄弟ゲンカだからとやかくは言えないけど・・」

でも今上でやっている事は兄弟ゲンカというより殺人に近いのですが
今は兄の意思を尊重してやろうと思っているハンターさんは気にしません。
このハンターさんはあまり何も考えないように見えますが
そういった距離感を保つのは妙に上手です。

でも一応終わったら様子を見に行ってやろうかなとバサバサとゆれる天幕を見ながら
のんびりぼんやり考えていたその時です。
外からさしていた月明かりがふっと途切れ、近くを妙な風がぶわりと吹き抜けていきます。
そして雲でも出てきたのかと思い何気なく外に目をやった時
もしもしと食べていた手が止まりました。
それはただの雲でもただの風でもなかったからです。



「・・いて・・いてェよマジで・・!
 つーかオレは年代通して一体何回刺されりゃいいんだよクソ!」

ムービーよりも怖くて強烈な立ち回りを演じ
結局刺されたダンテは地面に転がったまま愚痴をこぼしますが
バージルはやっぱり無視して奪ったアミュレットを仕舞い込むと
なぜかそのまま立ち去らず、どこからかハンカチと小さくて黒い棒を取り出しました。

いえ、よく見るとそれは黒い棒ではありません。
どこにでもありふれた黒と白デザイン。表示されているのは『油性』の文字。

え”ちょ、オイまて。アンタなんでそんなもん持っ・おおぉおいいぃ!?!

わめくダンテを完全無視しバージルは無言で馬乗りになると
手早く顔から水と汚れを拭き、きゅぽんと油性ペン(極太)のキャップをはずすと
きゅっきゅきゅっきゅーと恐ろしいくらいの手際のよさで立派な鼻毛とヒゲを描き
最後に両目それぞれをハートでかわいくかこいました。
そしてそれを凝視すること数秒後。

「・・・ク・・フ・・フハハハハハハハ!!

バージルは突然油性ペンを片手に大笑いをしました。
その心境を今風に書くのなら
『ぷはー!なにこれマジ超ウケルー!』だったかも知れません。

・・・・・・バージルが・・壊れた。

字にしただけでも笑いがとれそうな顔をしたダンテがそう思いました。
が、人間色々押さえ込んでいる物があるとちょっとは暴発したくもなるものです。
そうしてひとしきり笑ったバージルはなぜか突然ふっと真顔に戻ると
それ以上はなにもせず、そこからどいてすたすたと塔のはじまで歩いていきます。
途中でプッとか思い出し笑いをしましたが、おそらく本来の目的を思い出したのでしょう。

「・・オイこら!テメェ待ちやがれ!」

さすがにそのまま逃げられては腹が立つし格好悪すぎるので
ダンテは慌てて剣を杖に立ち上がってそれを追おうとしましたが
なんとか二本足で立った瞬間、先を歩いていた青い後ろ姿がぶいんとかき消え
急に目の前に出てきたかと思うと。

ばつーん!!

意味不明なかけ声と一緒に体当たりをかましてきて
ダンテを塔の外側まで綺麗に弾き飛ばしました。

それはちょっと前ある人に言われた
『むずかしく考えるより先にばつーんとそいつに体当たり』の実行でした。
そりゃある意味壁でしょうし確かに体当たりは体当たりですが
ちょっと意味合いが違うような気がしないでもありません。

しかしバージル的にはこれ以上ないくらいに気分爽快でした。
外野から見ればなんかちがうように見えてもスッキリ晴々でした。
今風に言うなら『キターーーーー!!』だったかも知れません。

落ちた髪をざっとかき上げバージルは1人笑みをもらしました。
まさかこんな馬鹿みたいな手段でここまで気が晴れるとは思っても見ませんでしたが
やっぱりあのヘンなハンターさん、馬鹿なようで馬鹿にできないようです。

だとするとこの先またどうせダンテに会うだろうから
もっと効果的なダメージの与え方があれば聞いておきたかったな。

そう思いながらバージルはダンテを落とした方とは反対側の場所へ行き
下も見ずに地面をけり、遙か下へと落下を始めました。

しかしそう落ちないうちに塔を周回していた巨大な影が近づいてきて
バージルはふと眉を寄せます。
それは塔としてはあまり必要がないし、入ったら出るのが面倒だったからです。

ゴォオオオオーーン!

などと思っているとそれが大口を開けて咆哮を上げ
じたじたともがき苦しみながらこっちへ向かってきます。

・・?もがき苦しんで?

不思議に思ってよく見るとそれは大きな頭をぶおんとふりながら
何かを必死に頭から振り落とそうとしています。
落とそうとしているのは頭のてっぺんにある桃色の何か。
そしてそこでそれを掴んでふんじばっているのは例ののんきなアレでした。

バージルはさっきまでの爽快感をどっかに吹っ飛ばしました。
何をやってる!とか貴様はバカの結晶体か!と口に出せずに思っていると
目に見える距離まで来たそれがふとこっちに気づきました。

「あ、こんちわ!また会ったねー〜〜ぇ・・・」

突き刺さった桃色の大剣にしっかとしがみつきながら
それがのんきな声をあげつつぶおーんと遠ざかっていきます。
バージルは何か力の限り怒鳴ろうとしましたが
それより先にべちと長い尻尾ではたかれ未遂に終わりました。
しかし彼はもちろんめげずそのまま尻尾にがっしとしがみつくと
ベオウルフをフルに駆使しだだだだと落下時のダンテ顔負けの速度で
リバイアサンの身体を走り目的地の少し手前でフォースエッジを突き立て
体勢を固定しました。

貴様ぁ!!一体なにをやっている!!」
「いやそれがさっき別れた所から泳いでたこれが見えてさ。
 このくらいなら背中から何か取れないかと思って飛び乗ってはみたんだけど
 そん時固定に使ったタバルジンの当たり所とか相性が悪かったらしくて・・」

そう言ってぺしと叩いた腰の剣は
確か毒怪鳥の亜種から作ったとかいう毒付きの片手剣です。
ふと見ると暴れているリバイアサンの頭の上の方には毒のような泡がぽこぽこ出ていて
こんな巨体にも関わらず毒にかかっているようです。
しかしそれにしては暴れ方が激しすぎだと思い
バージルは刺さっている桃色の大剣に目をやりました。

「・・聞くがその非常識なほどに大きい剣の特殊効果は?」
「龍属性。つまり対龍用」
「抜け!今すぐに!」

リバイアサンが龍の部類になるのかどうかはわかりませんが
ここまで暴れているのならその効果が効いている証拠でしょう。
大体このまま暴れ回られ塔を破壊されでもしたらたまったもんではありません。

「え?でもしっかり固定するつもりで結構深めに刺しちゃったんだけど」
「貴様はこんなものとロデオに興じて心中するつもりか!?」
「んー・・わかった」

仕方なさげにそう言うなりレイダはがっと足元に力をけぐぎぎと力を込めます。
しかし半分くらいめりこんだそれはなかなか抜けません。
しかもそうこうしているうちさっきまでしていた咆哮と動きがふっとやみ
静かになった巨体が急に重力にしたがい落下を始めました。

「あ、時間切れ」

それは毒にやられたのか対龍用の剣のせいだったのかわかりませんが
とにかくいろんな不運に見舞われたリバイアサンは上からの餌を飲み込む間もなく
塔の下層部へと自由落下を始めました。

「うーん・・悪いことしちゃったな。結局これ鱗も甲殻も取れない構造になってたし」
「・・・・・・・」

バージルはもう何も言えません。言う気力もありません。
ただきっとこれはこんな巨大な物と一緒に落ちても
それでもまだどこか剥げないかと探し回るんだろうなと落ちていく中で思いました。





胎内は事件簿で書いたのではしょった。ゴメン。でも楽しかった。
そして書ききってからダンテの扱いがヒドイ事に気がついた。でも楽しかった。

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