5.ピエロと谷ごえ


でっかい虫(本名はギガピード)を倒してその先にあった部屋に入り
で何かの円盤か歯車みたいな物を取って外へ出ると
どこからか鳥の鳴き声に似た声がいくつか聞こえてきました。
しかし長い通路の向こうから現れたのは鳥ではありません。
赤くて半透明な身体にいくつもの目を光らせたそれは
妙な飛び方をしながらどれもこちらを目指して飛んできます。

「虫・・じゃなさそうね。鳥?」
「ブラッドゴイルという穢れた血で作られた悪魔だ。
 身体が液状化しているのであのまま斬っても分裂する」
「対処法は?」
「こうだ」

言うなり近くにいたブラッドゴイルに幻影剣を飛ばし、それを元の石へと戻します。

「あとは破壊するだけだ。おそらくそちらの弓矢でも代用は効くだろう」
「了解。それじゃ手分けして」

それは手順さえ知っていればそう苦労する相手ではありませんし
2人で手分けすれば作業途中で狙われる確率もぐんと下がります。
そう言う意味ではこのヘンな付き添いもまんざらでもないか・・。
そう思いながら最後の一体を破壊した時
突然広い通路のまん中に魔法陣が出現しました。

「あれ?また新しい入り口?」
「!・・まさか!?」

回避できるかと思って上を見上げても、出口である扉には赤い結界がはられていて
取るべき選択肢はその光っている魔法陣しかありません。
そう言えば今まですっかり忘れていましたがこのSEには
あんまり楽しくなくて余計でムダなコレがあったのです。

「ねぇ、コレもどこかに繋がってるんでしょ?」
「・・・そうだ。そして中の仕事を終わらせなければ
 あの本来戻るべき扉は開かないようになっているらしい」
「仕事?」

バージル的には腹が立つので行きたくもやり合いたくもありませんが
そういう仕様になっている以上避けて通るワケにもいきません。

「・・気は進まんが仕方ない。行くぞ」
「??」

何だかわからないまま後についていって見ると
そこをぬけた先は丸いどこかのステージみたいな場所。
そしてそこから1人のヘンなかっこをしたヘンな奴が出てきました。

「イ〜ヤッホーゥ!地獄へヨウコソ!お兄ちゃんと不思議なお姉ちゃんのお二人さん!
 急ごしらえで楽しい歓迎はできないけど楽しんでいってチョーダイ!」

まず見たまんまピエロな外見とふざけきった口調と態度にレイダは目を丸くし
横で不機嫌丸出しな顔をしていたバージルをつつきました。

「・・ねぇ、なに、このユカイな色と顔した不思議なお人は」
「ゴミだ」
「ワオ!顔色1つ変えずに2文字でおわり?!ジェスターでしょジェスター!
 あ、でもお兄ちゃんには言わなかったっけ?どうだっけ?そうだっけー!」

などと1人で盛り上がって1人で楽しそうなジェスターに
バージルは一言も返さずちゃきりとかまえます。
どうせ先でこの先敵になるとわかっている奴に
ベラベラしゃべらせておく気はありません。

「ありゃりゃ聞く耳もってないってカンジ?
 でもせっかく楽しそうなお客さんが面白そうなお連れ様付きで来てるンだから
 かるーくお話するくらいはいいじゃない。でしょ?でしょ?そっちのお姉ちゃん?」
「ん?ん〜・・どうなのかな。あたし今あんまり決定権ないからなぁ」
「ありゃそう?でもってお姉ちゃんってお兄ちゃんのナニ?コレ?これ?それともコレ?」

びしびし指を順番に立ててまくし立てるジェスターに
バージルは無言でスティンガーをしました。
しかし斬られたジェスターから出るのは血でも砂でもないカラフルな紙吹雪で
あまり効いたとか痛いとかいう様子はありません。

「うォッホー!テキトーにやったらどれかビンゴだったってワケ!?
 でもどれだって誰だって行きついちゃう先はみーんな一緒なんだけどサ!」

などと言う間もバージルは攻撃の手を休めません。
今まで見たどの動きよりも確実で鋭い攻撃を繰り返し
ジェスターがバリアをはってヘンな玉を飛ばしてくると素早く飛び退き
回避をしながら攻撃のスキをうかがいます。

「うわったった!なんだなんだ!なんだあのヘンな人は!?」
「先に言っておくがあれは厳密には人ではない。
 そしてまず忠告しておく。相手にするな

急に的確で鋭くなった攻撃や口調からしてどうやらあのジェスターとかいうヘンな奴
バージルがかなり嫌っている奴のようです。
えっと、じゃあどうするかな。下手に手出ししたら悪いかなと思いつつ玉の攻撃をかわし
やっと全部よけきったと思ったら
バージルが突然魔人化し攻撃の勢いをさらに増しました。

「ウヒョー!お兄ちゃん弟でもないのにマジモードー!
 じゃあそのココロイキに免じて今日のお遊びはここまでにしとこっかな!」

何だかわけがわからないレイダと始終無言なバージルを残し
ジェスターはゲラゲラ笑いながらヘンな動きをし、尻をたたきながら消えました。
その素性も正体もまったくわからないレイダはもう呆然とするしかありません。

「・・・だからなに、あのユカイで派手な極彩色は」
「極彩色のゴミだ」

一秒の迷いもなくそう言い放ち、バージルは出口だろう光の方へと足を向けます。
が、そこに足を踏み入れる寸前ぴたりと立ち止まり
なぜかレイダの鎧のはじっこをちょっとだけつまむと再び出口の方へ歩き出します。
それは出た瞬間またさっきのヘンなのが悪さしないようにとの配慮なのか
それとももっと別の意味があったのかは本人にしかわかりませんが
とにかくヘンな道草をくわされつつ2人はようやく本筋に戻ることになりました。



ヘンなのと遭遇したため一瞬何をしていたのかわらなくなりそうですが
とにかく手に入れたばかりのアイテムを所定の場所に収め
新たに進めるようになった場所へ行き
そこでまた別のアイテムを取らないといけないのですが・・。

「ねえまだー?なんならあたしが行ってこようか?」
「五月蠅い!重量級はそこで待っていろ!」

一番下の階にできた飛翔盤というのを使ってジャンプし
やっぱりレイダが見つけてくれたアイテムの場所まで飛ぼうとするのですが
接近戦に強いバージルもこういったジャンプのたぐいは若干下手です。
下の階にレイダを残し何回も何回も大ジャンプとジャンプを繰り返し
ようやく見づらかった場所にあったアイテムを回収して戻って来ました。

「ホントにつまんない苦労がいる塔ね」
「・・・言うな」

そしてその槍みたいなアイテムを使う場所まで行き
どうしてそんな使い方するのかがちょっと疑問だけど突き刺して使用します。
もちろん一度刺しても可動しないので蹴飛ばして動かします。
彼にしてはちょっと行儀悪いような気もしますが
もうこの際気にしないというのは常例になってきたので無問題です。

「で、その苦労して取れた石(荒ぶる鋼の魂)で次は何をするの?」
「先程落ちた断崖へ戻り、そこを渡る」
「うわホントにめんどくさ〜」
「気にするな。そして慣れろ」

などとやってる間にも戦闘には慣れたのか、たくさん出てきた悪魔を手早く排除し
また迷ってウロウロしたりしながら再度あの階段の壊れた断崖に到着。
もうそこに階段はありませんが一歩踏み出したバージルの足は
ふわと水に波紋が広がるように暗い空間を波打たせ
2歩目も同じようにそこだけを波打たせます。

「へぇ・・面倒だけどおもしろい仕掛けに・ぎゃっ!
「!!」

それはもう条件反射でした。
振り返ってとっさに伸ばしたバージルの手は
片足を踏み外して落ちかかっていたレイダの腕をギリギリで掴みました。

そう言えばここを渡るためのアイテムは今バージルが持っているので
持っていないレイダが落ちるのは当たり前です。
しまったうかつだったと思いつつ引っぱり上げて元の場所まで戻り作戦会議です。

「え?じゃあどうやって渡ればいいのここって」
「俺が渡りきった後、そちらに投げて渡すという手もあるにはあるが・・」

でもこの脳天気な人の事です。間違えて谷底に落っことすか
力加減で握りつぶすくらいは平気でやらかしそうでオススメできません。

「ん〜・・確実そうな方法は1つだけあるんだけどなぁ・・」
「けど・・何だ」
「前例からしてたぶん怒ると思う」
「・・言わねば怒りようがないだろう」
「そう?じゃあ言うけど簡単に言うならおんぶ」
却下だ!!
「ほら怒るじゃない」
「もっと合理的でマシな方法を考えろ!」
「え〜?合理的でしょ。今度はこっちが乗る側になるし」
「その常識を越えた重装備で恐ろしいことを言うな!」

などと言い合いしていても仕方ないので2人は他の方法を考えることにしました。
特にバージルは必死です。
確かにそれは確実ですがおぶるのもおぶられるのも
どこで誰が見てるかわからないここでは絶っっ対にイヤです。
そうしてしばらく二人して崖の前で考えていると
ふいにレイダの方が先に口を開きました。

「あ、そうだ。その落ちなくなる石、出して手の上にのせてみて?」
「・・?」

何をするのかと思いつつ言われたとおりにすると
レイダはその石ごとバージルの手をむんずと掴み
一瞬ぎくりとする当人をよそにその手を引いて
真っ暗な空間が広がる方を指しました。

「さっき手を掴んだ時に両方落ちなかったからこれで同時に行けるんじゃない?」

そんな単純なものかとは思いますがおんぶよりは遙かにマシです。
バージルは多少の動揺を隠しつつ、そーっと何もない空間に足を置いてみました。
それはさっきと変わらず水が波打ったような波紋を広げるだけで落ちることはありません。
つづけてレイダが暗い谷の上に足を出してみると、今度は落ちることもなく
同じように足のついた所からほわんと波紋が広がっていきます。

「おぉー!成功!そして不思議な感じー!」

などと面白がって手の伸びる範囲でウロウロするレイダに
バージルは黙ったままで文句をつけませんでした。
というのも石ごとですが手を握られるなどと言うのはすごく久しぶりだったからです。
むこうはまったく気にせずしっかり握ってくるのですが
バージルの手はどうしていいか判断がつかず硬直状態です。

こういった場合どうするのか、いや別にどもしなくてもよかったような気もするが
しかしそれだと逆に不自然にならないだろうか。
いや別にこれは気をつかうような相手でもないが
それにしてもコイツの手は固いし感触がヘンだな。人間の手とは思えん。

そりゃ指の先まで防具でガチガチなので当たり前なのですが
軽く錯乱しているバージルはそれになかなか気がつきません。

そうこうしているうち先にレイダが我に返り
握っていた手の力をゆるめてきました。

「あっと、ゴメン。そういや先に行くんだっけね」
「・・・・・」

その時、バージルはなぜだか少し不機嫌な顔をしました。

「?どうしたの?まさかもうお腹空いた?」
「・・違う。行くぞ」
「おっとと・・」

ちょっと強引に手を引っぱるバージルが先を歩き
軽くたたらをふんでからレイダがそのあとをついて行きます。
しかしその時どうするか迷っていた手は
もう無意識にしっかりとその手を掴んでいました。

その時握っていた手は不思議な素材の篭手にガチガチに守られていて
中がどうなっているのかの判断がまるでできませんでしたが
バージルはそれでもなぜかそうした事で自分の世界観がちょっとだけ
変わったような感じがしました。




学校のフォークダンスで女子と手をつないだ時世界観が変わった男子みたいな。
ちなみに篭手は倒すのがめんどい古龍クシャルダオラ製です。

あとピエロさんは戦うメリットがないのでできれば避けて通りたい予定。
大体あのピーなテンションを再現できるかっつの。






6. 2つでいい試練

「いやー・・あちち・・さすがにちょっとキツかったなこれは・・」

コゲたり切れたりした所をあちこちはたきながら
剣やら何やらがつもった部屋をレイダはぐるりと見回します。
今さっきまで戦っていたアグニとルドラという剣の形をした悪魔達は
本体こそ動けないものの、それを使う身体たるや借り物なのに結構軽快で
しかも2体同時の相手ともなるとジャンプで逃げられないレイダには結構な痛手でした。

「2体同時にかかってくるってのは噂で聞いたことあるけど
 じっさい2体同時の相手ってややっこしいなぁ・・おっ、と」

などと無造作に頭からコゲをはらい落としていると
ぺっとどこからか手のひらくらいの緑色の星みたいなのが飛んできます。
思わず受け止めてそちらを見るとレイダよりはいくらかマシなバージルが背中を向け
半分だけこっちを見ていました。

「・・錬金術で生成された霊石だ。効果はそちらの応急薬と同じになる」
「え?いいの?」
「こちらは戦闘時に出るグリーンオーブで事足りている」
「へぇそうな・・」

んだ、と何気なくそれを裏返したレイダの言葉が途中で切れます。
そこにあったのは赤い通貨に負けず劣らずなリアルでコワイ年齢不詳の凄い顔。

「・・・・先にも言ったが俺の趣味ではない」
「・・・・うん」

やっぱこっちの物ってこんなのばっかなのかなぁと思いつつ
レイダはそれの顔が分からないようにばきと割ってバリバリ食べました。
使い方が違うような気もしましたが一応回復してるようなので
バージルはツッコミませんでした。

そうしてアグニとルドラの部屋をぬけ、ヘンな置物のある場所をぬけると
3つの入口と3つの石碑がある場所に出ます。
バージルの話によるとそこは3つある試練とやらをクリアして
その先にある石を持ってくる場所なのだそうです。

「知と技の試練は俺1人で行く。残る闘の試練だけは手を貸してもらおう」
「え?じゃあ2つ分は留守番?」
「知は手順さえ知っていれば敵に遭遇はしない。
 技は身体能力がない場合足手まといにしかならん。そこにいろ」
「・・はーい」

敵に出合わないなら一緒に行っても仕方ありませんし
高く飛んだり消えたりするバージルからすれば身体能力が低いのは当然です。
それに最後に手を貸せというのですからそれまで待てばいいだけの事だと
レイダは大人しく指示された闘の試練の階段で座って待つことにしました。

「それと一応忠告しておくが俺がいない間
 勝手にフラフラしてあたりの仕掛けをいじるような真似をするな。どうなっても知らんぞ」
「わかってるよ」
「気まぐれで歩きまわってはぐれたとしても俺に責任はないからな」
「はいはい」
「出てきた時に姿がなくとも探したりはせんぞ」
「・・わかったっての。ここに座っててあげるから行きなさいってば」

なんか夜中のトイレでつきそいに来てドアの前で待たされてる人みたいな気分ですが
バージルはしばらく睨みをきかせた後
ようやく知の試練の間とかいう所に入っていきました。
手前のプレートにあった注意書きには生まれた時とか老いた時とか
何やら妙な事がいくつか書いてあったようですが
頭を使うのが苦手なレイダにはそのへんはさっぱりなので
とにかくそういうのは彼に任せ、階段に座ってのんびり武器を研ぐ事にしました。
そうして武器を研いだりあくびをしたり伸びをしたりしていると
バージルはすぐ無傷で戻ってきました。

「あ、おかえり。どうだった?」
「解き方を知っていれば足止めにもならんな」

そう言って見せてくれたのは丸くて青い宝石のようなもの。
そう言えばそこにあったヘンな置物には穴が3つあったようですから
それを3つはめれば道が開くのでしょう。

「次は技の試練だ。そうはかからんだろうから準備はしておけ」
「ん。行ってらっさい」

などと気軽に見送ってさらに数分後。
次にそこから出てきた時、彼はなぜか頭と足が血まみれでした。

「うげ・・ちょ、技の試練ってそんなに血まみれになるようなもんだったの?」
「・・・・・・上下を数度、見誤った」

というのも新しくしたテレビの関係で通路の奥がちょっと見づらく
上から来た針を下から来たのと間違えてジャンプし、頭からまともにつっこんだり
下から出た針を上のと間違えてまともに足元から刺されたりと
まぁとにかく色々とドジをふんで悪魔と戦った時よりボロになっただけなのですが。

「んで、目的のブツは持ってきてるの?」
「・・問題ない。ここにある」
「ってことは技をゴリ押しで通したのね」
「・・・・・・」

バージルは黙秘を通しハンカチで顔をふきふきしました。

「・・まぁいっか。ハイこれ。さっきの緑のやつ半分とっといたから半分お食べ」
「おた・・!?ちょ、ちょっと待て!俺はそれを使わずともオーブで回復・・!」
「できたとしても今回復しておいた方がいいんでしょ?
 闘の試練とかで手を貸せっていうくらいなんだし」
「・・・・・」

バージルは言い訳できない顔をしました。
と言っても彼にそんな顔をさせられるのはこの人くらいなものなので
そういう顔だとわかるのはやっぱりこの人くらいなのですが。

ともかくバージルはしばらく差し出されたそれを睨み
しばらくしてかなり嫌そうに取ってぱきぱき割って口に入れました。
本当はそういう使い方じゃなかったのかも知れませんが
さっき何も言わなかった分と付き合いというやつです。

でもそれをそうやって使ったのは初めてでしたが
見た目のわりに不味くなくて、逆にちょっと凹みました。

さてそれはともかく問題は闘の試練です。
闘の試練とはその名の通り、悪魔の集団と闘争をおこない敵を全滅させる試練です。
ただそこに出る悪魔には全部DT(魔人化みたいなの)がかかっていて
敵がちょっと強いのです。
口の奥に残った緑の破片を律義に噛んで飲み下してからバージルは説明しました。

「紋章を攻撃して発動させれば敵のDT発動は解除される。
 が、場所はそう広くない上その間も敵はこちらを攻撃してくる」
「つまりどっちかがその紋章とやらを殴って
 どっちかがその間の時間稼ぎと護衛をすればいいのね」
「そうだ。時に紋章の攻撃と時間稼ぎ、どちらがいい」
「んー・・手順はそっちの方が詳しそうだから時間稼ぎにまわる」
「賢明だな。では任せる。解除後俺も攻撃に加わるがそれまでぬかるな」
「よっしゃー!まかさんかーい!」
「・・もう少し品のある返事をしろ」

などとやりつつ門をくぐり、逃げ場のない舞台に立って
黒いもやの出てる強化版の悪魔達と対峙します。
そしてそれはもう慣れたせいで本人達は気づきませんでしたが
本来ここを通るはずだった弟が見れば目をむくような光景だったでしょう。

紋章をバカスカ殴っているバージルの背後でレイダがイカリ型のハンマーを振り回し
紋章に炎がともりきるのと同時にそれは片手剣へと持ち替えられ
攻撃に参加しだしたバージルと絶妙な距離感をたもちながら
立ち位置を変えながらも上手に背後を守り合っているのです。

「あ、ゴメン一匹もらした、右方向!」
「炎が消える・・!こちらからでは遠い!そちらに託す!」
「えーと、この丸いのを叩けばいいんだよね?」
「背後は死守する、行け!」
「まかされた!」

などとやっていると昔1人でやった時にひどく苦労した記憶があるそこは
拍子抜けするほどあっさりとクリアすることができました。

「あ、あったあった。これでしょ?目的のブツ」

がこんと仕掛けが動いて出てきた証を指しながら同行者が手招きしてきます。
しかしいくら楽になるからといってあまりこういった事に慣れてしまうのは問題です。
何しろ今から彼の目指そうとするものは他の誰の手でもない自分の手で掴み取らなくては
意味のないものなのですから。

「?どしたの。これじゃなかったっけ?」
「・・・いや、それだ。感謝する」

うっかり口を滑らせ素直に感謝してしまった事に気付くこともなく
バージルはちょっと暗い顔でそれを手に取りました。

何かを得るには何かを捨てる必要があるのか。
そこにたどり着くまでに使ったものは、たとえどのようなものであれ
最終的には全て切り捨てていかなければならないのか。
この塔を掘り起こしこの近辺を壊滅させても眉1つ動かさなかった彼は
ここにきてそんな疑問に突き当たりました。

「・・おい、おーい。おいってば」
「う!」

考え事をしながら階段をおりているとコートのはじを後ろから踏んづけられ
バージルはあやうく前転で転がっていきそうになりました。

「なに、成功したってのに元気ないじゃない」
「貴様!それが人を呼び止める時の作法か!」
「いやさっきから結構呼んでたんだけど、ことごとく無視られた」
「・・きッ」

聞いてない!と怒鳴りかけてバージルは慌てて口を閉じます。
そう言ったらそう言ったでかなり間抜けだったからです。
そうして怒りながら何も言えなくなってしまったバージルに
のんきだけど結構助かってるハンターさんはいつも通りな笑みをくれました。

「またなにむずかしい事考えてるのか聞かないけどさ
 むずかしく考えるより先にばつーんとそいつに体当たりでもしてみたらどう?
 そうすると案外ヒビが入ったり部分的にぽろっと崩れたりする所があるかもよ?」

バージルはしばらく沈黙し、ふんと呆れと冷笑の入り交じった妙な笑い方をしました。

「・・貴様はやはり馬鹿だな。良くも悪くも」
「お、じゃあ元気出た?」
「このまま貴様のペースに巻き込まれていては
 何をされるかわかったものではないからな」
「あはは。心配しなくても身ぐるみ剥ぐ時は最低限パンツは残してあげるから」

その瞬間、バージルぶんとそこからかき消え、かなり距離のはなれた所に出てきました。

「・・いや冗談。ものの例え。どこかじゃホントにそうするらしいけど
 あたしは人間からは剥いだりしないから。死んでても生きててもボーっとしてても」

笑えない上に付け加えが生々しいのでバージルはミジンコのヒゲほども笑えません。
おまけに一瞬今はいてるのが見られても平気なパンツかどうかまで想像してしまいました。

さてパンツはともかく取ったアイテムを台座にはめて先への道作りです。
ヘンな想像をしちゃった事でちょっと赤くなりながら
バージルはかちんかちんと続けざまに石を2つ台座にはめこ

ブウゥーーーン びしーーー!

んだ直後、台のてっぺんにあった妙な物質からレーザーが発射され
その先にあった障害物を破壊して先への道をひらきました。

「お、先へ進めるようになったみた・・い・・だけど・・?」

しかし固まっているバージルの手にはまだ1つ石が残っています。
というのも実はそこ、アルテミスという武器を入手しない場合は
試練2つだけでもクリアができる仕掛けで謎解きの試練はともかく
血みどろと共同作業のどっちかは別に必要がなかったのです。

バージルはしばらく固まっていましたがそれ一個だけ持っていても仕方ないので
やがて諦めたように最後の証をばちんと台座にはめこみました。
しかし上の方にあったオブジェがごとんごとんと下りてきただけで別に変化はありません。
バージルはずりりーとその台に寄りかかるとがんと壊れるくらいにそこを殴り
腹の底から呪うかのようなセリフを吐きました。

ダン テぇぇ〜〜・・!!
「・・え?なんでそこで弟?」

それはただの八つ当たりです。が、今回こうなった原因の何割かは彼のせいなので
バージルはおそらくどこかにいるのだろう弟に向かってありったけの怨念をぶつけました。

しかし無意味だと思われていたその行為は無意味ではなかったらしく
とある場所で悪寒をおこした本人が『へっくしょ!』というくしゃみを発生させていました。





パンツだけ残すのはオブリビオンの話。

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