3.違いとうっかり


「・・ねぇ。・・ねぇってば。おい、おーい!」

何度も呼ばれて肩を軽くたたかれ
そこでようやくバージルは自分が呼ばれていた事に気がつきハッとしました。
我に返ってあたりを見回してみると、そこは名前も知らない店の前で
さっきまでいた悪魔の数々はもう姿形も見当たりません。

「片づいたみたいだけど平気?何発か当たってたでしょ」
「・・・・・・」

と言うのもここには最初の遠距離攻撃をしてくる悪魔がいて
悪いことにそれはちょっと高い屋根の上や建物の上にいたりして
すぐには倒せない位置にいたのです。
飛び道具で仕留めればなんてことはないのですが、悪魔はもちろんそれだけではなく
それだけを相手にしているワケにもいきませんでした。
本当ならそこでロックオンを切り替え
その飛び道具の悪魔に照準を合わせればよかったのですが
彼の感はまだそこまで戻せてはいません。
仕方がないので屋根まで飛び上がって直接叩き斬ろうとしたのですが
その間に何発か攻撃が当たったのはまぁ仕方ないとして、問題はその時です。
彼が弟との間にあった決定的な差を思い出したのは。

どすと膝から地面に崩れ落ちたバージルはちょっとびっくりしたレイダをよそに
下の土をぐぎぎと握りしめ、そまま地面を殴らんばかりにこう言い出しました。

「・・エ・・」
「え?」
「・・エアハイクゥ・・〜!!」
「えあ・・はい??」

聞き慣れない単語にレイダは首をかしげるしかありませんでしたが
彼のその悔しさは壁にぼこぼこ残ったいくつもの靴あとが物語っていました。



「え?じゃあそのエアなんとかってのがあると
 飛んだところからさらに上へジャンプできたりするの?」

かなり荒れた何かの店、たぶん酒場だった所で事情を聞くと
彼が悔しがっているのはエアハイクというジャンプを二度する技なのだそうです。
弟は武器の関係でそれが使えて高いところに行くには苦労しないのに
自分はあんな頭の上の少し上にいくだけでも踏み台にする壁と技術がいるのだと
古びたカウンターに突っ伏したバージルは長々と難しく語ってくれました。

あぁそれでヘンな矢に当たりつつ壁に向かって必死に飛んでたのか。
そう思いながらレイダはカウンターに残っていた酒瓶を1つ取り
突っ伏していたバージルの方へごろろ〜と転がしました。
でもそれがごちと当たっても彼は精神的ダメージからか微動だにしません。
その高いところにいた悪魔は途中でレイダが見かねて射落としましたが
さすがに仲の悪い兄弟だけあってそういった優劣の差のダメージは大きいようです。

「でも別にそれが出来ないからって生きるか死ぬかってもんでもないんでしょ?」
「・・だがこの先向かうのは天にも届かんとする塔の上だ。
 縦に長く上に高く高低差もあり段差も多数あるあの塔だ・・!」
「ほー・・」

あまりジャンプというものに馴染みのないレイダは
その悔しさらしきものが1ミクロンも理解できず
2つめの瓶をごろろ〜と転がし先にあった瓶にコチンと当てました。
大体そんなこと言われたって自分の身長くらいジャンプできるなんて
一応普通の人間のレイダからすれば贅沢きわまりありません。

「とにかくさ、こんな所で飲み比べに負けたみたいに凹んでても仕方ないから行こうよ。
 それにそんな事で落ち込んでると弟君がものすごく喜んじゃう気がするし」

次の瞬間、飲んでもないのに女にフラれて落ち込んだ酔っぱらいみたいだったバージルは
バネがついていたみたいな勢いでばんと飛び起き
ぶつかって止まっていた瓶をはじき飛ばしました。

「・・そうだ・・奴だ!奴を倒せば全てが終わる!」
「?え?そうなの?」

奴とはたぶん彼の弟の事で、それを倒して何が終わるのか
そして何でピカピカした箱をたたき壊しにかかるのかさっぱりでしたが
とにかく元気になったようなのでレイダはあまり深く聞きませんでした。

そしてそれから妙にピカピカした場所に出てやっぱり砂になる悪魔と戦い
裸に近いおねえちゃんの絵をレイダが拾いたがってバージルに怒られたりしましたが
2人は色々あってようやく問題の塔の前までたどり着きました。

「・・さて、問題はここからだ。今までは領域外で数も多くなかっ・・何をしている」
「いやこのムダに金ぴかでヘンな形の像、持って帰れないかなーと思って」
貴様はいつから野盗に転職した

などともういい加減に慣れてきたやり取りをしつつ
巨大な塔の入り口を見上げたバージルはこんな事を言い出しました。

「先程言いそびれたが・・ここから先は人の領域ではない。
 見ての通り先は遙か高く中の仕掛けも複雑で
 何が起こるかをある程度認識している俺でも全てを記憶してはいない」
「??・・つまりそのココロは?」
「興味本位ならここまでにしろ。
 最初に言ったがここは貴様にとって何の利益も得られない場所で
 悪魔の種類も数も今までの比ではなくなる」
「へぇ・・」

そう言われたレイダは上を見てどーんとそびえ立っている塔を見上げました。
レイダは古龍種というやつの関係上、何度かこういった塔に登った経験がありますが
確かに取れる物も少ないし上に登るのがかなり面倒で
何も剥げない悪魔の事も合わせてあまり楽しそうな話ではありません。
ですがその目は見上げきれないくらいに高い塔とバージルの間を一度だけ往復し。

「でもいいや。もうちょっと付き合う」

なとどどう見ても聞いても事の重大さをまったく理解してないような事を言い出し
バージルは一瞬顔をひきつらせました。

「・・貴様、その耳は飾りか。たった今俺が言った事を・・」
「なんにも取れなくていろんなアクマがいて登るのがめんどうなんでしょ?」
「そこまで理解しているのならなぜ・・!」
「簡素に答えるならなんとなく」
「他者が理解できるよう論理的に答えろ!」
「じゃあ逆に聞くけど、もしこのままここで『じゃあね』でお別れして
 次に見つけた時ボロボロで落ちてたり行き倒れてたりしたら
 半笑いでしばらく眺めてつっついたあと、鼻の下に濃いめの鼻毛とヒゲ描いて
 両目をハートマークでかこってから爆笑するけど、それでもいい?」

それはつまり『まだドジりそうで心配』という意味なのですが
意味がどうとか余計な世話だとか思う前にバージルは石のように固まりました。
今のまだブランクのある身ではそうならないという確信はありませんし
何よりその口調は冗談交じりですが確実に実行しそうだったからです。
だとするともう弟がどうとか魔界がどうとか言ってる場合ではありません。
両目にハートは死んでも嫌です。

バージルはしばらくヘンな汗をかいて黙っていましたが
しばらくして何もかも諦めたかのような口調でぽつっとこう言いました。

「・・・・好きにしろ」
「うん、そうする」

ホントは危ないしあまり格好悪い所も見られたくなかったのですが
どうもこの妙なペースというか妙な怖さには逆らえません。

・・でもまぁいいか。

ふいにそんな言葉が頭に思い浮かんだバージルは
数秒後、感化された!などと1人で怒り出し
レイダに笑いながら首をかしげられることになりました。



そしてそれから問題の塔の内部に侵入する事になったのですが
ここは侵入する前にある難関をクリアしないと中には入れません。
でもその難関、初期の段階で出てくるような代物ではないような気もするのですが
そこを通るにふさわしいかどうかを見極める門番だというのなら
そのボスはきっちり役目を果たしているのでしょう。
でも腕の未熟な人達にとってそれはあまり嬉しくない話です。

「うおー!でかーい!そして当てにく、ふんぎゃー!」
「叫んでいないで回避をしろ!それとブレスは・・」

と言いかけた所に問題のブレスが直撃してバージルは一瞬氷の固まりになり
数秒後自力で脱出して地面を転がって距離をとりました。

「あっはっは!なるほど実演ありがとー!」
「笑っている場合か!回避できるものは回避しろ!」

などと緊張感のあるようなないような事をしているのは塔に入る前の最初の難関。
最初の方のボスにこれはないだろと思われる大きさをした3つ首の番犬ケルベロスです。
攻略としては首それぞれに攻撃パターンがありそれを見切ったりするのですが
いかんせん初期のこの段階でそんな事まで考える余裕はありません。
バージルとしてはとにかくなんか氷をはがして殴ると思い
レイダとしては部位破壊で何か取れないかなと思うくらいで
当てたり逃げたり当たったりする大騒ぎをするわりにあまり作業が進みません。

「うーむ、こういう見た目で火属性とか効きそうだけど
 今持ってるのって龍と水だからなっ・たったあ!」

飛んできた氷の塊を盾でなんとかガードし、ふと横に目をやると
自分に比べると遙かに軽装で盾も持っていないバージルが素早く起き上がるところでした。

「ちょっと大丈夫?さっきから結構当たってない?」
「問題ない!」

そもそも普通の人間に心配されるほどヤワではない!
と口に出さずに思った時、バージルはまたここで重要な事を思い出しました。
そういや今の今まですっかり忘れていましたが
今使わずにいつ使うような手が自分にはあるのです。
しかもそれは弟と違い自分は最初から使えるのです。

「うわっちち!そう正確じゃないからまだマシだけど・・あれ?」

雨あられのように降ってきた氷をなんとかかわしきったレイダの横を
何か青いものがだっと駆け抜けていきます。
それはレイダも何度か見たことのあるバージルの別の姿で
いくらかは虫類っぽくなったそれはさっきと格段に違うスピードとパワーをもって
実にあざやかに番犬から氷をはがしダメージを与えていきます。

おおなんか凄いぞ!とそれであまり戦ってるのを見たことがないレイダは感心し
その攻撃の邪魔をしない程度に援護しました。
そしてしばらくの攻防の後、巨大な番犬はその身を赤い何かに変え
その後ろにあった塔の入り口への道をあけることができました。

「ひゃー・・のっけからこんなのがいるなんて予想外だったなぁ」

頭の上に残っていた氷や水滴をはらいながらレイダがそう言うと
魔人化をといて同じようにコートから氷をはらいながらバージルがぽつりと聞きました。

「・・なら今から戻るか?今ならまだ距離も浅く被害も少ないが」
「まさか。こういう所で戻るのは死ぬか飽きるかした時だけだからね」
「・・例えが極端に感じるのは俺の気のせいか?」

そう言った所でバージルはレイダがさっきからやたらこっちを見て
ニコニコしているのに気がつきます。

「・・なんだ。俺の顔に何かついているのか?」
「いや、さっきの見た目の変わるアレ、いつも一瞬で帰る時ばっかりで見てたけど
 戦ってると結構カッコイイんだと思ってさ」

その途端、バージルは一瞬ギクッとし
なぜか片手をつねりながらふいと背中を向けました。

「・・くだらん。重要なのは見た目ではなく結果だ」
「そうね。上手くやってくれたから助かっちゃった」

というのも番犬はちょっと大きくてレイダの攻撃が届きにくく
バージルはその分を上手くフォローしてくれていたのです。

そこは温度が低い所だったため、白い頭の上からうっすら湯気が上がりましたが
バージルにとっては幸いな事にレイダはそういう事をあまり気にしないタイプでした。

「あ、そうだ。それとちょっと気になったんだけど
 さっきのスピードを上げる以外にもう少しいい回避方法とかない?
 こっちはガードができてある程度融通がきくけど、そっちは鎧もないしモロでしょ?」
 転がって避けるにも飛んで避けるにもタイミングと使い分けがいりそうだしさ」
「回避方法・・?」

そう言われてバージルはしばらく考え、数秒後
はっとしたような顔をしてまたどすと地面にはいつくばり
さっきとほぼ同じ体勢で拳を握りこう言い出しました。

「・・ト・・」
「と?」
「・・トリックアップぅ・・〜!!」

それが何を意味するのかレイダにはさっぱりわかりませんでしたが
今の彼にはうっかり癖があるのだけはなんとなくわかりました。




魔人化を思い出してミッション3おわり。でも瞬間移動を忘れてた。






4.そのうちなれる


犬と言うには大きすぎる番犬を倒し、ようやく足を踏み入れたその場所は
さすがに塔とあって上にやたらと高く、そして中はくりぬかれたように内部がなく
外周にそって階段が延々と続くだけのあまり楽しくない作りをしていて・・。

「おぉ〜、これはまた豪華かつ無意味〜」

中に入って開口一番、思ったことを正直に言うハンターさんが
もっともな事をすっぱり感心したように言ってくれました。
それはそれで創った人にあんまりですが、バージルもそれには同意見です。

「確かに必要なのは地下の装置と最上階だけで
 その他もろもろの装飾も部屋も意味あるものではないな」
「偉い人とか凄い人の考える事ってわかんないわねぇ。
 ちなみに全部で何エリアになってるかは分かる?」
「・・数えた事はないが部屋、通路、エリア共に多く複雑だ。
 しかも先に進むには仕掛けを解く必要があり手間もかかる」

しかしそれ以前に本来塔の頂上にいるはずの俺が
なぜわざわざそんな手間をかけて塔を登りなおさねばならんのだ。
しかも登ったはいいが落ちたり食われたりまた登りなおしたりして
なぜこの俺が愚弟とまったく同じ手順を踏むハメに・・。

などとこの先の長さの事を考えてバージルは軽くイラっとしましたが
考えている間にどこからか何かの焼けるようないいにおいが
場違いながらぷ〜んと確実にただよってきます。

見るとさっきまでそこでキョロキョロしていたハンターさんがおらず
少し上の炎にまかれた扉の前、そこで煙が上がっているのが見えました。
まさかと思って行ってみるとやっぱりです。
間抜けな音楽をバックにレバーを回し、本来足止め目的のためにゴゥゴゥ燃えてる炎で
じりじりと魚を焼くヘンな人が1人います。
しかしバージルはもうツッコミませんでした。

「あ、ちょっと待ってね。生のやつみんな焼いちゃうから」
「・・・・・・・」
「先が長いって言うならその分の燃料も準備しとかないと
 腹が減ってはなんとかってね。あ、魚の方がよかったよね?」

言うなり突き出された焼きたての魚をバージルは無言で受け取り
次を焼きだしたレイダの前でバリバリ黙って食べました。
ここでの戦い方を思い出すよりも先にこの人の生活サイクルに慣れたようです。

「で、腹がふくれた所でここからどうするの?
 ここの螺旋階段をずっと上がるだけってワケでもないんでしょ?」
「・・この時点で通行可能な扉が1つあったはずだ。まずはそこからだ」
「そんじゃ、まずそこから行きますか」

と、口を拭きながら歩き出したはいいものの、その肝心の扉が見当たらず
階段を一周しウロウロしていたら視力のいいレイダが先に扉を見つけてくれました。

「・・ずいぶんのっけから迷うのね」
「・・う、五月蠅い。方向感覚を惑わされただけだ」

そうして入った扉で悪魔と戦いさらに扉をぬけ、またあの飛び道具を使う悪魔と遭遇。
今度は思い出した技の数々を駆使して難なくのりきりその奥のリフトの部屋へ。

「そこの台にいろ。この装置に炎がともりきった時上昇するようになっている」
「へぇ・・」

しかし装置を起動させてもリフト上にあった石像類が重かったのか
リフトは上昇する前にがつんと止まります。
あぁそうだったと思い出して石像を全部破壊し再トライ。
今度はちゃんと上昇を始めました。
・・が、上がる時の音が重そうなうえに上昇速度が妙に遅めです。

「・・?遅いなぁ。これってこういうもんなの?」
「・・・・・・」

それはたぶん重量系武器を2つ持ってるこの人のせいでしょうが
貴様は石像何体分だとかいう失礼な意見も含めてバージルは黙殺しました。

それからさらに悪魔を倒し先へ進むと細い階段と扉があるだけの小さな部屋へ出ます。
しかしその階段の下はかなり高いのか暗くて下が見えません。

「・・この扉が赤くなるのは通れないってことだから
 進行方向的にはその階段しかないんだろうけど・・これって乗っても大丈夫なの?」
「気にするな。元々壊れるものだ」
「へ?じゃあその階段がそこにある意味って?」
「ただのギミックだ」

言うなりバージルはどうせ壊れる階段に足をかけ、ずんずん上へ歩いていきます。
しかし当然壊れるとわかっている物ですからそれは丁度半分くらい歩いた所で壊れ
バージルは上で「えぇえ!?ちょっと何でそんな落ち方?!」とかいう声を聞きつつ
真っ暗な谷底へと落下しました。

一瞬はぐれたような気もしますが戻る所は一緒なので問題ありません。
底に落ちた瞬間、目の前にいた悪魔を斬りとばし
動きの速い悪魔に青い剣を飛ばしながら
爆発物を背負った悪魔から間合いをとり、今度はちゃんとロックを切りかえて爆破させ

「うわっちょっったぁ!?

た直後、上からしたヘンな声を避ける間もなく
どぐしゃという凄い音と衝撃と一緒に目の前に一瞬星が散りました。
それはつまりお約束というやつなのですが今は怒るヒマも感心しているヒマもありません。

「ゴメン!あとで謝るからしばらくそうしてて!」

文句の1つも言いたいし何故だと怒鳴りたかったのですが
がばと顔を上げた真上スレスレをぶんと桃色の刃がかすめていき
髪を数本鼻先に落とした後範囲内にいた悪魔を余さず砂に変えながら
ぶおんとかずどんとかいう刃物にあるまじき凄い音を立て始めます。

つまり今起き上がったら狭いここでは間違いなく巻き添えなので
そのまま地面と同化してろとの事でしょう。
そうしてしばらくうつぶせで倒れていると凄い音は聞こえなくなり
聞き慣れた足音が近づいてきて視界に見慣れた手が出てきました。

「・・や、ゴメン。まさか真下にいるとは思わなくてさ」
「・・・・・」

差し出された手を無視して起き上がったバージルは
あらゆる思いを込め全力で睨みましたが
もちろんその人はそんな事くらいでひるむような人ではありません。
それにごめんねと笑いながら頭をかいてるのを見ているとなぜか怒る気も失せました。

「・・・そこからすぐ元の場所へ戻れるのだから上で待っていればいいものを」
「いやでも急に目の前で人が落ちたら追いかけたくもなるでしょ」
「深さから転落死する危険性を考えなかったのか?」
「?転がって落ちて死ぬことってあるの?」
「・・・・」

あぁそうか。そう言えばコイツはそういう人種だっけとバージルは思い出し
足元や壁に積まれていた白い物体を指しながら説明しました。

「普通の人間ならば落下の衝撃で絶命し、そこにある物体の数々になっている。
 が、貴様の場合は勝手が違ったな」
「?・・」

そう言われて初めて気がついたのか
レイダは周囲にあった白い物体、つまり人の骨の山を見て少し目を丸くします。

「これ・・全部そうなの?」
「悪魔は残骸を残さないのは実証済みだろう」
「・・そっか」

しみじみとそう言ってなにやらその骨の山を凝視するレイダに
バージルは嫌な予感もかねて一応きいてみました。

「・・・まさか持って帰るなどと言い出す気ではないだろうな」
「いやさすがに。人道的にそこまではしない。
 ただそう言えば人間はこうして残るんだなーって思っただけ」
「状況と場合によっては残りもしない場合があるがな」
「・・ふーん・・」
「・・?何だ」
「だとすると・・アクマと人半分づつのあんた達はこんな風に残るの?
 それとも赤い宝石みたいなのになっちゃうの?」

その何気なくてズバリな問いかけにバージルは即答できません。
確かに自分は半分なのでどちらの可能性もありえるのですが
何よりまだ弟も含めて死んだ事がないのでわかりませんし
死んだ後の事などわかろうとも思いません。 

その沈黙をどう取ったのかわかりませんが
レイダはぱたぱたと手を振って苦笑いをしました。

「ゴメン、ヘンな事聞いたね。出口はその光ってるやつでいいんでしょ?」
「・・・・」
「じゃ、お先に」

そう言ってひょいと光の中に飛び込んだ姿がさっと光に紛れて消えてしまいます。
バージルはしばらく考えていましたが、急に不機嫌な顔をして光の中に飛び込むと
その先にいたレイダに向かっていきなりこう言いました。

「・・おい」
「ん?」
「残ろうと残るまいと、俺は貴様の前で屍をさらす気はない」

それは素っ気なくて挑戦状を叩き付けるみたいな口調で
それだけ言ったバージルは封印のとけたばかりの大きな扉を開け
さっさと向こうへ行ってしまいます。
レイダはしばらく不思議そうに首をかしげていましたが
しばらくしてなんとなく言いたいことが伝わったのか
1つ笑って扉を開けて中にすべり込みました。




そうして扉を開けた向こうは長い通路と高い天井。
所々にあるアーチに手すりなどはなく、一見何のためにある場所なのか分かりません。
が、どうしてそこがそんな広い作りをしているのかはすぐにわかりました。

「おおー!すごーい!なにこのごっつい虫ーー!」

ギギギと音を立て空中を悠然と浮遊する巨大な悪魔も
この人にかかるとごっつい虫で終わってしまうのが少々哀れではあります。
が、ぶん殴られた後骨や皮まで剥がれないだけまだ幸運だったのかもしれません。

「ねえねえねえ!これって・・」
「無理だ。上から飛び乗りて攻撃しろ」
「ちぇー」

だいぶ慣れたのか剥げる剥げないの質問を事前に短縮し
2人はアーチの上まで行くとその長くて細い背中に飛び乗りました。
しかしここでまたしても問題発生です。

「で、これって長いけどどこ殴っても効くものなの?」
「・・・・・・」
「・・おーい船頭さん」
「誰が船頭だ!・・えぇと・・なんだ、とにかく実戦で試す!」

確か効果的な方法があったような気もしますが
ここのボスは大きさのわりに印象に残っていないため
どうやって倒したのかまったく覚えがありません。
なのでとにかく飛びかかって殴りゃいいかという某弟みたいな話になりましたが
考えるだけで何もしないよりはマシだったのでしょう。

背中の外殻をまず一カ所、そしてもう一カ所破壊したところで
その虫はぐるんと回転して2人を振り落とし、そしてすかさず電気を落としてきました。

「あたた!フルほどじゃないけど地味に痛い!」
「上部に上がれ!攻撃範囲は下の方が広域だ!」
「はいはい、って、ちょっと待って」

そしてまたここで今度はかるめの問題が発生。
バージルと違いレイダは高いジャンプができないので
高い所に上がるには手足で地道によじ登るしかありません。

「あーもーめんどくさいなぁ!もう先行ってて後から行くから!」
「だが上も安全ではない、飛んでくる分には気を付けろ」
「はいさー!」

もうかなり慣れたのか小言も文句も残さず
地道によじ登る向こう側の壁を蹴って飛び越し
ぐるりと回ってきた虫を見据え、バージルはここで頭が弱点だったと思い出しました。
だったら長い胴体を攻撃する必要はないと頭付近に飛び移ろうとしますが
それを予測したのかギガピードは複数の電撃球を発生させ飛ばしてきます。
かわせない速度ではありませんが飛び移るアーチは狭くて足場が悪く
バージルは足場の広い壁際に一端退避して幻影剣を飛ばしました。

が、数発目が命中したところでさっき飛び乗ろうとしていた頭の部分に
いつの間にか何かが乗っているのが見えます。
いえそれは何かではなく身体能力が人のようで、でも人並み外れたあの人です。

「ふんがぁ!!」

その人は色気もなにもない漢らしいかけ声と一緒に
かまえていたイカリをギガピードの頭にズドンと叩き付けます。
大きな身体でもさすがにそれは致命的だったらしく
ギガピードは断末魔を上げながら長い身を地面にどしゃーと落とし
その身全てを赤い宝石に変え、跡形もなく消滅しました。

このヘンな人は高いジャンプができず魔人化もできませんが
その分妙なパワーがあるようでバージルはちょっとだけ感心しました。

「う〜ん爽快!動かないマトって素敵ー!」

とは言えうれしがり方がちょっとヘンですがこの際細かいことはぬきです。
そう諦めながら黙って広範囲に散らばったオーブを回収していると
大きなな鈍器を腰に戻したレイダが追いついてきてこう聞いてきました。

「ところでさ、さっきからずっと気になってるんだけど
 この倒した後に出る赤い宝石みたいな物って一体なんなの?」
「悪魔の血が結晶化してできる魔石で
 レッドオーブといいこちらでの通貨のような物だ。
 ただしあまり詳しく見ない事を推薦する」
「?そう言われると余計気になる。見せて」
「・・・先に言っておくが俺の趣味ではないからな」
「?」

不思議に思いつつ手渡されたそれを見ると即座に納得がいきました。
だってその宝石『うぎぃい!痛えよぎぃい!』と言わんばかりに歯をむき出した
おっさんか老人みたいな顔の形をしてたからです。
レイダはホワイトオーブみたいな顔をし、黙ってそれを投げ返しました。

「・・・・通貨ね」
「そうだ。ただの通貨だ」

そう言えばさっきから出てくる連中の趣味といいこの通貨のデザインといい
こっちで素材が剥げないのはそれで出来る物が全部あんな風味になるせいかなと
まだ剥ぐ事から離れられないレイダは思いました。

「なぁ!そうだしまった!今ごろ思い出したぁ・・!」
「?何だ」
「さっきの虫・・あれだけでかいなら生きて動いてる間に
 皮の一枚でも引っぺがせたかも知れなかったのに〜・・」
「・・・・・・」





だいぶ慣れてきた兄。
ここのオーブのノリで装備が出来たら確かに怖い。


3へ