14. 崩壊1つ前

ここからしばらくテンション都合の適当ダイジェストとなっております。
お好きなBGM2倍速でお読み流しください。

=M17=
まず難関のキューブ登り。でもエアハイクが使えないため気分は絶望的。
しかし根気よくジャンプを繰り返していると
どこかのハンターさんがいつの間にか普通に上に到達している。
聞くとヘンな模様のびっちりある壁を普通によじ登ったとの事。
ちょっと格好悪いけどならって解決。慣れないので二度ほど尻から落ちたのは内緒。

ドッペルゲンガー戦。
妙に挑発的な影、効きそうだからと閃光玉を直に投げつけられ
必死になって逃げ回っているところを捕獲されて
口に閃光玉をつっこまれ頭から消された。
影の元、さすがに同情する。

=M18=
ダムドのチェス戦。片方はチェスをまったく知らなかったけど
そこにあるものを壊すのは2人そろって得意なので難なくクリア。
でも最後に残ったキングが速攻で手下を全壊されられ妙に寂しそうだったのは余談。

ボスラッシュ。最短でクリア・・と思ったけど
誰かさんが宝石が光るのが綺麗だと珍しがるので
用もないのにボスをしばいて宝石を光らせる作業に没頭する。
でも紫(ネヴァン)だけは避けて通った。

そしてお話は流れに流れて人の世界ではないミッション19です。



「で、色々遊んでるうちになんか陰気くさい所にでちゃったけど
 これからどうするの?」

その人は悪魔でも半魔でもないただの人間ですが、元々の順応能力が高いらしく
もうどんな所だろうがどんな上位の悪魔だろうが
まったく問題なく斬って叩いて叩き斬ってくれるため
ふと思い出せば確かに何をしに来たのかすっかり忘れていたバージルは
周囲の気配をさぐりながら答えました。

「この付近に身の程もわきまえず身に余るものを横からかすめ取り
 あげくこんな所に逃げ込んで慢心している・・」

と、ふいにそこで彼の言葉と足が止まり、光速で刀が抜かれたかと思うと
同じように反応して盾をかまえたレイダの真後ろから来た剣をがちんと止めました。

その後ろからいきなり斬りつけてきたのは一瞬今まで見てきた悪魔のようでしたが
レイダはその赤黒くて剣を使う悪魔というのにちょっと覚えがありました。
でもそれがその人(悪魔)本人ならこんな事をするはずがありませんし
姿はそうでもちょっと雰囲気が違うので不思議に思っていると
それが飛び退いた拍子にしてきた特有のニオイにすぐ納得がいきました。

「・・あぁ。誰かと思えばこのニオイ、シンプルさんか。ウン●の」

それは前にこやし玉をぶつけてそういうニオイが残ってるという意味なのですが
その言い方ではその人そのものがウ●コのように聞こえてしまい
シリアスモードに入りかかっていたバージルが真顔でブッと吹き出しました。

しかしシンプルさんこと姿のかなり変わったアーカムも
ここでそのまま怒ってはキャラも舞台も台無しです。
これ以上大事な見せ場や舞台を台無しにされてなるものかと悪役の意地を総動員し
はじけ飛びそうになる血管をなんとかおさめ冷静を装いました。

「・・フフ、なかなか豪胆で楽しいお嬢さんだ。
 それにただの人間でありながらここまで来たその力
 この新たな力の最初の実験体になるには悪くない」

しかしここまで来たのに何ですが、レイダはそのあたりの事情をよく知らないので
『?』という顔でアーカムを指し、バージルが冷静に捕捉説明してくれました。

「つまり俺が手に入れるはずだった父の力をまんまと手に入れたので
 まずは貴様で試すと言っているのだそこの●ンコは」

1ミリのためらいもなく普通に放たれた問題発言に
せっかく引っ込めた血管がみりっと再度浮き上がってきました。

「あれ?その人の名前ってウ●コだっけ?」
「まったく違うがその方が覚えやすく通りもいい。以後そうしろ」
「・・でも人の名前いきなり改名しちゃっていいの?」
「見ての通りそれはもう人ではないのだから遠慮はいらん。
 それにそうして人でなくなったのなら新たな名も必要になるだろう」
「む、しかしいくら何でもそのままはマズイ。せめて元の名前と配合するとかさ」
「・・成る程。ではウン●アーカムかアーカム●ンコか、どちらか選べ」
「んーとじゃあ・・」

などと真面目に(いろんな意味で)ヒドイ相談をしていると
いきなり目の前にいた問題のナントカさんが倍以上にふくれあがり
青い肉のかたまりに申し訳程度な手足をつけたような何かになりました。
2人ともまだ何もしていなかったのですが彼の見せ場はやっぱり台無しになったようです。

「うげ!なにこれ気色わる!」
「・・フン、ようやく相応の形になったか。つまらん余興だったな」
「しっかし・・こっちのセンスってこういう気色悪いの多いのね。誰の趣味?」
「再三言っておくが俺の趣味やセンスでは・・」

などとやっている間に何かの固まりから複数手のようなものが伸びてきて
2人は同時に反応して叩き斬ろうとしましたが
それは至近距離に入る前、なぜか勝手にはじけ飛んでしまいます。
でもその前にしたのは聞いた事のある誰かの銃声で
あれ?と思ってレイダが見た岩の先にはいつの間にいたのか目立つ赤がいて
急いで来たのか肩で息をしつつ銃を向けていました。

「あ、おかえり。そっちは大丈夫だった?」
「大丈夫もなにもあるか!おまけに入るタイミング間違えただろ!」

とか言いつつそれがばしゃんと降りてきます。
ホントはもうちょっとピンチな時にかっこよく登場したかったのでしょうが
2人の進むのが思いのほか早く、追いつくのに必死でそこまで気が回らなかったようです。
ちっともピンチじゃないしもう人数足りてるのに空気読めよこの愚弟
と、ありあり顔に書いたバージルが眉間にシワをよせました。

「・・何だつまらん。もう数分遅ければ全て終わらせ見事な吠え面をかかせていたものを」
「うっせえバカバージル!こっちにもメンツと事情ってもんがあるんだよ!
 ってか俺の方がひでぇ目にあってるんだから先にやらせろ!」
「却下だ。順番を守るという基本的な事すらできん愚弟に譲るものなど何もない」
「っかぁ!いつからテメェはそんな陰険になったんだよ!
 昔はちょっと言えばトイレでも食い物の選択権でも先にゆずってくれただろが!」
「あれでちょっとだと?あれはお前が大声でわめき散らすので仕方なく・・」
「へイそこの漫談コンビ!」
「「うぉッ!?!」」

などと口喧嘩から思い出話になだれ込もうとした所に
でかいナメクジがべっちゃあと投げつけられてきました。

「兄弟コントは後にして先にこれのケジメつけてね!あたしは部外者として援護だけするから!」
「誰がコントだ!!あと気色悪いもん投げんな!」
「文句を言う前に行動しろ。右へ回れ、合図があれば合流しろ」
「順応早えぇなおい!」

でも確かにボスを目の前に遊んでいる場合ではないので
ダンテも頭を切り換えて戦闘に専念することにしました。

しかし間近で同じように戦ってわかったのですがバージルは以前と格段に動きが違い
異常なほど成長しているというか苦労の分だけ強くなってるというか
とにかくなんだかダンテからすればちょっと悔しいくらいの成長っぷりです。
それにそこを上手にフォローするレイダとの連携もなぜか息ぴったりです。

「おぉー、やっぱり2人で真面目にやってると上手上手」
「上手くない。愚弟の動きが0.013秒ほど遅れている」
「この状況で計ってんのかよアンタは!?」
「ほらほらもっかいナメクジに囲まれるぞ。減らしたげるからがんばれー」
「合わせられんのならせめて足を引っぱるな」
「うぉぉお!なにこの妙な疎外感!」

なんだか今回ちょっとイタズラしかけようとしただけなのに
ダンテはいつの間にか1人で貧乏くじを引いている気がしてなりません。
そうこうしているうち形の変わった元アーカムは2人+αの援護でボコボコにされ
トドメに撃とうとしたダンテの銃がはじかれ兄の手に受け止められます。

「・・さてダンテ。今回の件、元は貴様のまいた種ではあるが
 良くも悪くも相殺の意味合いを込め、あれを撃って帳消しとする」
「?あれって・・」

今撃つものなんか目の前のゲルしかないだろうと思って見ると
なぜかそのゲル状の中ほどに何か見慣れないものが数個混じっているのが見えました。
目をこらすとそれは樽です。しかもそのうちの1つは妙にデカくて
この世界に存在するはずがないのも含めて妙に不気味な気配を・・

そしてダンテは『あ』とおもって援護をしていたハンターさんを見ました。
それは目を向けるなりあさっての方を見ながら頭の後ろで手を組み
ぴーぷぴーと口笛をふく真似をします。
それはもうこれ以上ないくらいのわざとらしさですが
面白そうな事にはのっかるタイプのダンテはすぐニヤリと笑いました。

「・・じゃあこれで円満に、ってか?」
「お前が言うとまるで信憑性がないがその通りだ」
「んじゃ、そういう事で!」

元アーカムだったそれがその異変に気付いた時にはすでに手遅れでした。
妙な事には息の合う双子が撃った魔力付きの弾丸が
いつのまにか埋め込まれていた大きくて不吉な樽(大タル爆弾)を撃ち抜き。

キュドガドカドカーーーーン!!!

それは他の樽(大タル爆弾)を巻き込んで思ったより強烈な爆発をおこし
固体だか液体だかなんだか分からないその身をこっぱみじんに吹き飛ばし
真っ黒な煙を上げて炎上までさせました。

なんか普通に撃つよりエグイ光景でダンテはちょっと引きましたが
兄の方は満足したのかふんと鼻で笑い銃をぽいと投げ返してきて
何事もなかったかのように合流してきたハンターさんと会話を始めます。

「はいご苦労さま。どう?スッキリした?」
「無論だ。無骨で野蛮だが奴には相応の仕上げだ」
「そりゃ何より」

そう言ってひょいと上げられた篭手装備の手に
バージルは今度は間をおかず手をぱんと合わせました。

それは相当機嫌がよい証拠なのでしょうが
ダンテはなんだかもの凄いものを見たような気分になりました。
途中からこの2人がどうなったのかをダンテは知りませんが
いつの間にかそれなりな信頼関係ができているようで・・

と、その時元アーカムのいた場所から何かが落ちるように出てきました。
それはすっかり忘れていましたが元々2人の所有物だったアミュレットと
父の残した一振りの剣です。

それは重力にしたがい落下をはじめ、その下にあいた裂け目のような場所に落ちていき
同時に気付いた兄弟達が下が深そうなのもかまわずそれに飛びつきました。

各自元から持っていたアミュレットはそれぞれ取り戻せましたが
そこはかなり深くてすぐ着地できる気配がありません。

「え!?ちょっと・・!」
「「そこにいろ!!」」

上でした慌てたような声に2人はとっさにそう言い残しました。
そう、そこから先は本当に兄弟2人だけの問題であって最後の決戦の場でもあるため
その真剣勝負の近くにいられたら間違えて万が一にも殺しかねません。

そうしてどれくらい落ちていたのかわかりませんが
2人の視界の先に水の流れる地面が見えてきました。
それはすぐ視界一杯になって先に落ちていた剣がざんと突き刺さり
体勢を立て直して着地した兄弟達がそれに向かって同時にダッシュします。

走ったのは同時でしたが少しの差でバージルが勝ち
父の形見の剣は引き抜かれると同時にまっすぐダンテに向けられました。

「・・さて、遊びはここまでだ。ここからは外野も横取りも一切無い。
 どちらかが地に倒れ伏すまで終わらんぞ」
「・・なぁ、やっぱりやるのか?」
「どうした、今ごろ怖じ気づいたか」
「いや、そうじゃなくてアンタあのヘンなねえちゃんのおかげで
 ちょっとは考え方が変わってるかと思ったんだが・・」

するとバージルは否定せず少しだけ得意げにこう返してきました。

「・・あぁ、確かに変わったな。だがそれと当初の目的とはまったくの別物。
 つまり俗に言う『それはそれ、これはこれ』だ」
「わぉ、根本的な所が変わってねぇなぁコノヤロウ

でもダンテもこうなることは何となく予想していたので
愛用の剣をかまえて戦闘態勢に入ります。
そっちが力ずくで事を押し通そうとするのならこっちもそれを力ずくで止めるまで。
2人の行動原理は深そうに見えて結構シンプルです。

でもこの時、異物をはさみこんでちょっとガタガタしながらも
一応いつも通りに動いていたいわゆる運命の輪というやつが
みりみりと不吉な音を立て大きなヒビまでいれていた事を
今までの経過がウソだったかのように真剣に戦いだした兄弟も
裂け目のふちでなぜか荷物整理をし出していた女の人も
ついでに塔の上でイカスミみたいになった父親がふってきて一瞬悲鳴を上げた女の子も
まだ誰も知らないままでした。



アホなのかシリアスなのか。





15.いろいろバラバラに砕け散った

ごうごうと勢いよく水の流れるその場所でばしゃんと膝をついた人がいます。
そしてそこにもう1人いた人はそれを冷静に見下ろして
持っていた武器を向けながら静かに言いました。

「・・それを寄こせ」
「イヤだね!絶っっ対に!身体がバラバラになってもイヤだね!」

血みどろになりながらも首から下げたアミュレットを死守しようとするのは
本来ここで兄を見下ろしているはずのダンテで
そのかわり彼が本来いる場所には多少の怪我をしながらも
しっかりと立っているバージルがいました。
本当はイベント的に逆なのですがSEでここのムービーはないので
勝手な構造し放題なのです。

「・・再度言う。寄こせ。それは本来の目的を果たしてこそ価値のあるものだ」
「うるせぇこのバカ!そんなのはアンタが決めることじゃねぇだろ!」
「バカにバカと言われる筋合いはない。
 では最後通告を蹴ったとみなし、その首を胴から斬りはなしてから・・」

と、物騒なことを言いかけた時
バージルはなぜか急に顔を引きつらせそこから素早く飛び退きました。

・・ぉおおん  どがーーーーん!!

そしてその直後、上から不気味な音を響かせつつ何かが降ってきて
2人の間にあった地面に激突し、轟音とでっかい水柱を立てました。
上からまともに落ちてきたそれは船のイカリです。
なんでそんなものが上から降ってくるのかと言えば理由は1つしかありません。

そしてその水柱がおさまった時そこにいたのは
思った通り上にいろと言ったはずのイカリの所有者で
バージルは多少の予想はしていたとは言え不機嫌そうに眉を寄せました。

「・・思うが・・・貴様のそれはわざとか?」
「いや今までのは偶然だけど、今のはわざと」

おそらく勝負あったとして割り込んできたのでしょうが
さすが船舶の道具をぶん振り回して使おうとする人。割り込み方が普通ではありません。
まぁ確かに今の状況での割り込み方としては妥当でしょうが
その細かいことを気にしない、けど肝心な事はきっちりしているハンターさんは
兄弟達をざっと見回して軽く肩をすくめました。

「で?見たところ終わったんでしょ?そっちの勝ちで」
「・・・・」

しかしバージルは答えませんでした。
勝ったには勝ったのですが勝った先の続きがまだです。
でも目の前のこの人の様子からしてその続きをやろうものなら
その背と腰に残っている巨大な対龍用の剣と猛毒の剣がこっちに向けられそうです。

それを乗り越える覚悟がなかったわけではありません。
けどバージルはそれをしませんでした。
べつにそんな手間のかかる事をせずとも目的を果たす手段は
まだ背後にある谷の底に残っていると思ったからです。

「・・ふーん。まぁ度合いはともかくそれはそれでよかったじゃない。
 でもまた派手にやったのねぇ。ケンカなんて普通に殴り合いで済ませばいいものを」
いっ!いてぇ!つつくな!
 いやそれよりアンタ!動けるんならそこのバカ止めろ!」
「?止めるって何を?」
「アンタここまで来といて聞いてないのか!?」

などとやってるのを見ながらバージルは黙って後退しました。
父の力が手に入らない以上、もはやこちらにとどまる理由はありません。
それに気付いたダンテが必死に立ち上がろうとしますが
それを見越して攻撃はしておいたのでしばらくは無理でしょう。

ダンテが早口で説明する間バージルは黙って間合いを取りました。
きちんとした目的は果たせていませんが、彼はこれでいいのだと思いました。
たとえ父の残した力全てを手に入れていたとしてもそれで満足できたように思えませんし
こっちにいると色々と惑わされまくる事が多いのでこの方がいいと思ったのです。

そしてダンテから簡単な説明を受けたレイダという人は落ちていたイカリを引っこ抜き
いつもの場所に戻してからいつもと変わらない口調でこう聞いてきました。

「・・じゃあアンタがやりたかった事って、そのマカイって所へ行く事だったの?」

バージルは少し考えましたが嘘をついても意味がなさそうだし
あと即座にバレそうなので素直に答えました。

「・・当初の目的とは違うが・・今はそうだ」
「ふーん」

その興味なさげで素っ気ない口調にダンテはイヤな予感をさせました。
もちろんそんな場合のイヤな予感というものはやたらとすぐ当たるものです。

「そっか。まぁよくわかんないけどそれならがんばれ」
おぉいいい!?!

事の重大さをカケラも認識してないあっさり具合にダンテは絶叫しました。

「アンタわかってんのか!?魔界だぞ魔界!
 悪魔だらけのクソ汚ねぇ世界でトイレに行くのとワケが違うんだぞ!」
「でも本人が行くって言うならあたしにあれこれ止める権利ないでしょ」
「権利がどうのの問題かよ!とにかく止めろ!あのバカを!
 せめて行く前に店の修理代払ってけよ!」

何だよ心配してるのはそっちかよとは思いますがダンテも少々混乱しているのでしょう。

それについてはバージルとしても同じです。
少しは止めるか何かするかと思いきや、そんなそぶりもまるでナシで
さすがに自由奔放というかいい加減というか・・。
いやこの場合、その方が助かったというべきなのかも知れませんが
とにかくバージルはとくに何の障害もなく深い谷のふちに立ち
あとはそこから一歩踏み出すだけとなりました。

どこからか流れてくる水の落ちるその下は真っ暗で何も見えませんが
不思議と怖いとも思わず戻ってこれないというのに躊躇いもありません。
それは自分の中にある悪魔の血のせいなのか
はてまたまだ握ったままの形見の剣のおかげなのか。
まぁ躊躇いがないのはいいことだとバージルは気楽に考え。

「あ、そうだ行く前に1ついい?」

最後に見飽きてきた連中をふり返ろうとした時、そんな声がかかります。
まさか今ごろになって止める気になったのかと思いましたが
その人はやっぱりその人のまんま、いつも通りな口調でこう言いだしました。

「言いそびれてたんだけど、実はまた移住の話が来ててさ。
 次は海の近くが仕事場になりそうなの」
「・・・・」
「もしそっちでの用事が済んで落ち着いたら見においでよ。
 いい釣り場把握しておくからさ」

その途端、バージルの脳裏に今までこの人とやってきた事が
死ぬわけでもないのに走馬燈のように勝手に浮かび上がってきて
彼はなんだかワケもなくおかしくなりました。

まぁある意味死に近いのかも知れませんが
彼はそれを頭から追い出さずちゃんと頭の奥に仕舞い込み。

「・・・あぁ、そうだな」

とだけ。何とも言えない苦笑をしながら短く答えました。

そんな事、できるはずもないのにと思いましたが
それが彼のその時言えた最高に素直な気持ちで別れの言葉
・・に、なるはずでした。

しかし皮肉な事に何気ないたったそれだけの事が決定打になりました。

今まで異音を立てながらも何とか回っていた運命の輪が
けたたましい音を立ててバラバラにはじけ飛び
それと同時にレイダの顔からすうっと表情が消えます。

けれどまさかそんな事が起こっているとはつゆ知らずバージルは崖から一歩を踏み出そうと

「・・待てい」

足を上げかけた時、妙に低くて通る声がそれを妨害しました。
?と思って振り返ってみると、いつも脳天気なハンターさんが
珍しく真剣な顔をしているではありませんか。

しかし彼女は何も言わず、こっちを見るだけで何もしませんし何も言いません。
そのただならぬ様子に誰も動くことができず、どれくらいたったころでしょうか。
その珍しく緊張感のある沈黙をやぶったのは黙り込んでいた本人でした。

「・・・・うん。好きにさせるつもりだったけど予定変更!!

そしてその人は腰のポーチから素早く何かを掴み
プロの野球選手顔負けのフォームでそれをいきなりバージルに投げつけてきました。

それはあまりの事で反応ができず、おまけに背後は崖なためよけることもできずに
バージルは高速で飛んできたそれをとっさに片手で受け止め。

ばん! ぼわん

それは彼の手に当たると同時に破裂して煙のようなものをまき散らし
驚いたような顔をしたバージルを煙にまいて約数秒。
そしてその煙が時間と共にはれて消えた時、彼の姿はそこにありませんでした。

「・・へ?!あ、あれ?アイツどこに・・??」
「ちゃんと当たったから落ちてはないよ。
 それよりここ、なんかやばそうだからこっちも退避しないと。
 よいしょっと、出口どっち?」
「わ!ちょ、待て!退避には賛成するけど姫抱きはやめろーー!!」



そしてそれからしばらくした塔の外。
イカスミみたいになった親父と一応のケジメを付けたレディが
元塔のあった場所をながめていると背後で何やら賑やかな声が聞こえてきます。

「・・んな事言ったって仕方ないでしょ。
 おぶろうにもあのケガだと痛いだろうし傷があきそうだったし」
「うっせぇこの男女!あぁいうのはバカ兄貴だけにしとけ!俺のステータスにヘンな傷残すな!
 大体なんであの場ですぐ回復してくれねぇんだよ!」
「それだとせっかく勝ったあっちの顔が立たないでしょ。
 回復剤ほとんど使いきったあげく肉3つも食った人が文句言わない」

とか言いながら歩いてくるのはなんかプリプリ怒っているダンテと
あの青いのと一緒にいた鎧姿の正体不明な人間です。
それはすぐこっちに気がつき気楽な調子で片手を上げてきました。

「やっほう。その様子だとそっちはそっちで上手くいったみたいね」
「・・・一応。でも何か状態が異常だったんだけどあれって・・」
「あぁそれ?ちょっとこの子が仕返しついでに爆破かけただけだから気にしないで」
「仕込んだのはアンタだろうが!?」

しかしナチュラルに責任の押し付け合いしてるのはともかく
それに加担していたのだろうもう1人の姿がどこにも見当たりません。

「・・ねぇ、もう1人いたんじゃないの?」

するとダンテは少し言いにくそうな顔をしてもう1人の方がいたって普通にこう返してきました。

「あぁ、出だしの位置に戻ってると思うよ。ちょっと怒ってるかも知れないけど」
「「は?」」
「説明するより行った方が手っ取り早いかな。
 ねぇ、出発位置ってどこらへん?ここの地理には詳しくなくてさ」

それはつまりまだ名前もつけていないダンテの事務所の事でしょう。
そうしてワケもわからずダンテの案内で崩壊した町中を歩きそうとおぼしき場所まで来ると
まだ何も説明されていないのに事情がなんとなく全部掴めるものがそこにありました。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

それは崩れたダンテの事務所で仁王立ちになり、目に見えるくらいの威圧感と効果音
あと鉄をも溶かしそうな怒気をむんむんにまき散らしてそこにいました。
完全に悪魔化して暴走してたってあんな怖さは出せそうもないそれを遠目にし
ダンテはぽつりと言いました。

「・・・オレの店の前にバランス間違えた隠しボスみたいなのがいる」

でもそれは間違いなく魔界のふちでいなくなったはずのバージルです。
様子からしてレイダの投げた何かのせいでここへ戻るハメになり
猛烈に怒っているようですが事情をまったく知らないレディが銃に手をかけつつ
恐る恐る聞いてきました。

「ねぇあれって・・確かもう1人の・・・・よね?」
「・・まぁ、認めたくねぇけど確かにアイツだ」
「で、なんであんな所で地獄の大魔王みたいな顔して立ってるの?」
「いや実は横で見てたオレにもさっぱりで・・」

とか言ってる間にその原因らしいレイダはずかずかと歩いてそれに近づき
悪魔をも蒸発させそうな怒気をまったく気にせずのんきに手をあげました。

「や。よかった。ちゃんと戻ってきてたみたいね」

その途端、彼のはなっていた怒気がずどんと倍加されダンテが一歩後ずさり
レディが本能的に銃のグリップを握りしめます。
しかしそういったものには鈍感なのか、それとも知ってて無視しているだけなのか
どっちにしろまったく怯んでいないハンターさんは勝手に事の説明を始めました。

「あぁ、さっき投げたあれね。モドリ玉っていう緊急避難用の道具で
 使うとベースキャンプに戻ってくるようになってるやつなの。
 だからここの場合だと最初に出てきたここじゃないかと思っ」
なぜだ

言い切る寸前、ずしんと重たい声がそれをさえぎります。
それは多分なんでいきなりそんな事したんだとか
どうして了承してたやつがいきなりその逆の行動に出るんだとかそういう事でしょう。

「いやホントは普通に見送るつもりだったんだけど、ちょっと考えが変わったの」
「・・・・・ちょっと?ちょっと、だと?」

その足元の地面がビシビシとひび割れていき
周囲に電撃が発生したり目が赤く光りだしたりで
離れて見ていたダンテでさえ本気で怖いと思ったとかなんとか。

「・・俺がいままでどれだけの時間と労力を費やしあの場所にたどり着いたか!
 それを最も理解しているのは貴様だろう!!」
「うん。それについては謝る。でもさ・・」

しかしそんな怖さなどおかまいなしに
そのヘンな人はなぜかちょっと照れたように頭をかき。

「行く間際にあんな切なそうで悲しそうな顔されたら・・ねぇ。
 その首ふん掴んででも引き留めてやらないとダメかなって、思うでしょ」

・・・

そのわずかな沈黙の後。
そこらじゅうに飛び散っていた恐ろしげなものがいっぺんに消失し
かわりに鳩が豆鉄砲とかいう表現そのままな顔をしたバージルが
じゅという音とゆげを立てて赤くなりました。

別に彼は馬鹿な提案に短く返しただけで、そんな顔をしたつもりは微塵もありませんし
自分でもそれなりに覚悟を決めていたつもりでしたが
やっぱり人間、いや半魔でもふとした拍子にボロが出るというやつなのでしょうか。

というかあのほんの一瞬でこっちの深部
しかも自分で自覚してない所を見抜きやがったこの人はやっぱり異常です。
おまけにその後の行動力たるや普通ではありませんし
やはりコイツはダメだ。戦力的には悪くないがやっぱりダメだ。
ダメだけどダメじゃなくて好きだけどいや釣りが好きなだけでダメじゃなくて
そうじゃなくていや釣りが嫌いじゃなくてこれとかバカとか天然とか・・

などといろんな事をいっぺんに考えすぎ
オーバーヒートして頭上にヒヨコを回しているバージルを遠目に
レディが心底不思議そうにダンテに聞きました。

「・・・ねぇ、あの人ホントに一体なんなの?」
「・・さぁな。オレも未だになんなのか掴み切れてないが
 今はただなんか男前でスゲェねえちゃんとだけ思っとけばいいんじゃないか?」

それはまったく質問の答えになっていませんが
事情をまったく知らないレディにさえもそれがなんとなく正解なように思え・・

バシュン

とか思ってると突然バージルが魔人化し
ぎぎぎとぎこちない動きでダンテの方を見ました。

「げ!?やべ!またこっちか!」
「?ちょっと、さっきから聞いててもまるで事情がわからないんだけど・・」
「悪い!オレは逃げる!」
「え?ちょ・・」

とか言う横からダッシュで逃げ出したダンテの後を
なぜか魔人化したバージルが咆哮を上げて追いかけて行ってしまいました。
ホントにもう何が何だかさっぱりですが
ダンテが何かの腹いせに追っかけられたのだけは何となくわかりました。

「あらら、あれだけやっといてまだ足りないなんて元気な兄弟だこと」
「だから貴方一体・・・・いや、もうやめとく。
 聞いて答えられたとしてもわかりそうもないみたいだし」
「あれ、なんか悟られたようなセリフ」

そう言うなりレイダはなぜか背中にあった巨大な剣をぶんと振りかぶり
ずどんといつの間にか沸いていた悪魔を叩き斬りました。

「ところで聞くけどこれって退治した方がいいんだよね?」
「そうね。あの塔の置きみやげみたいだけど元からここには必要ないし」
「それじゃ残った人達で後始末といきますか」

じゃこんと猛毒の剣をぬき背中を合わせてくるそのヘンな人は
色々と分からない事だらけなのにその動作にまったく違和感がありません。
なんというかやけに戦い慣れているというか背中を守り慣れているというか。

「・・ホントにヘンな人。まぁ深くは聞かないけど」
「あっはっは!いや深く聞こうが浅く聞こうが大した事はないんだけど」

いや全然そうは見えないんだけど、とか思いつつレディはもうツッコまず
両手に銃をもって悪魔の掃除にかかりました。
途中ダンテに貸した火器を返してもらいそこなっているのに気が付きましたが
まぁ近くでヘンな武器を振り回してる人がいるからなんとかなるだろうと
普通ならあまり感じないいい加減な安心感をもって戦いましたとさ。




「だーから!いい加減にオレに八つ当たるのやめろっての!
 べつに笑いやしねぇしアンタだって黙って流して済ませりゃいい話だろが!」
「それが出来れば苦労などするか!!とにかくお前は死ね!死んで全てなかった事にし
 なおかつウン●(アーカム)以外を全て復元しつつ塔を即座に建て直せ!!
 ロード時間含め0.25秒以内に!!」
できるかアホ!!





行って騒いで帰ってきただけみたいなオチ。いやそれはオチとは言わんか。
もうちょっとドラマチックにするはずが色々と力尽きたのですみません。
次、エピローグっぽいもので終わるつもり。

11へ