1.はじめのおはなし
ことの始まりはしんと静まりかえった大きな建物の前でした。
少し前まで悪魔と呼ばれる生き物がたくさんいたその場所には
もうたった1人の人間しか立っていません。
いえ、その人は人と呼ぶには少し間違いがあるかも知れませんが
とにかく突然沸いて出てきたたくさんの悪魔達を1人で倒しきった青いコートの青年は
静かに門の前まで行き、口を開こうとしました。
が。ここで書かれてしまうとそうは問屋がおろされません。
「あれ?見た事あると思ったらやっぱりそうだ。おーいなにやってんの?」
聞き覚えのあるのんきな声とガチャガチャという騒がしい物音に
当のバージルという青年は冗談抜きで数センチ飛び上がり
数少ないセリフを頭のてっぺんから飛ばして紛失してしまいました。
まさかと思いつつ勢いよくそっちを見ると
やっぱりそこにいたのは腰にヘンな形の緑色の剣・・のような斧と盾をさげ
ヘンな性格でヘンな物を集めへンなものを狩っている
レイダとか言うヘンづくしなハンターさんです。
ちょっと待てどうして貴様がここにいると思っても
それはガチャガチャと音をさせて近くまで来ると
こちらを上から下までざっと見ていきなりこう言いました。
「お、今日は迷子とかケンカとか人待ちじゃないんだ。もしかして本業?」
それはそうなのですが、なんというかこのヘンなハンターさん
性格は脳天気で鈍感なのか天然で鋭いのか未だに判断がつきません。
しかし今バージルが気にするべき所はもちろんそこではありませんでした。
「貴様・・!一体なぜここにいる!?」
「えーっと・・ん?なんでだっけ」
「疑問に思う前に経過を思い出せ!!」
「え〜・・・・あ〜・・・・あぁ、そうだ。
たしか若い方の弟君がたまにはこっちに遊びに来ないかって言うんで
なんとなくついて来たのはいいんだけど、途中でなんでか姿くらまされちゃってさ。
妙に楽しそうだったから忘れたとかじゃないんだろうけど
このあたりで急にいなくなったから・・ん?どしたの」
大事な用事の前の最悪の事態にバージルは頭を抱えました。
普段余計な事に感づくくせになぜそんな単純な悪意に気付けないのかと思いますが
この人に悪気はないのですし今ここにいない奴に悔しがっても仕方ありません。
それに何より今は怒れば怒るほど張本人を喜ばせそうなので
バージルはバレないように深呼吸を繰り返し、なるべく冷静に対応する事にしました。
「・・面倒なので詳しい説明ははぶくが・・とにかく帰れ。
ここは貴様にとっては何の利益も得られない場所だ」
「?じゃあそっちには利益があるってこと?」
バージルは思わず正直に言いそうになりましたが
それを言うとややこしい事になりそうなので咄嗟に口を閉じ
少し考えてから答えを変更しました。
「・・答える必要はない。とにかく至急速やかに帰れ。
貴様の場合来た道をたどっていれば勝手に戻れ・・」
しかしそう言い終わる前にさっと視界がかすみ
2人は次の瞬間野外ではないまったく別の場所にいました。
そこはさっきの建物の前とはまったく関係のない誰かさんの事務所のど真ん中です。
しまったと思ってももう間に合わず出口も逃げ道もありません。
ここから出る方法は力ずくの一点のみです。
そうしてあれ?と首をひねるレイダの後やバージルの周囲からは
その力ずくの対象である悪魔が次々に沸いて出てきました。
「ん?なにこのかかしみたいな人達は」
「詳しい説明をしている時間はないが、とにかく味方ではない。
つまらんケガをしたくなければ構えて身を守れ!」
それはレイダには初めて見る人に近いような生き物で
何かのお祭りの仮装か悪ふざけのようにも見えました。
しかしぶんと振りかぶられてがつんと床にささった鎌の先はおもちゃではありません。
それを確認したのんきなハンターさんはふと表情を変え
腰につけていた緑色の剣と盾をぬいてかまえ、バージルと素早く背中を合わせました。
「最後にもう一回確認するけど、これって人間じゃないんだよね」
「2度同じ事は言わん、すぐに覚えろ。これは砂を媒介にしこちらに来る低級の悪魔だ」
「アクマ?」
それは確か前に聞いた事のあるこの兄弟の父親の種族か何かで
この兄弟も半分もそうなのだと聞いた事があります。
レイダはあ〜とかう〜とかヘンな声を出しながら迫ってくる悪魔を見回し
どこか感心したように言いました。
「あぁ、話には聞いてたけど・・へぇ」
「・・その『へぇ』と言うのは何に対する感情表現だ」
「似てると言えば似てるよね。2足歩行のところとか」
「一緒にするな!黙って排除しろ!!」
怒鳴るのと同時にバージルはその場から走り出し
進路上にいた数体を一瞬で斬り飛ばしました。
そりゃバージルの半分は確かに悪魔ですがこんなのと一緒にされたくありませし
レイダの世界にいるモンスターだって人くらいのサイズもいれば
山と大して変わりない大きさのだっているのです。
ってことはガミザミとショウグンギザミみたいなもんかなと思いつつ
レイダはとりあえず近くにいた一体を数度斬りつけてみました。
するとそれは動きを止めるのと同時に持っていた武器ごと砂に変わり
どざーと地面に全部崩れ落ちてしまいました。
「え!?砂ぁ!?」
しかしどれを斬ろうが倒そうが、その人間のようで人間でないアクマというやつは
ちゃんと動いてこっちを認識し襲ってくるにも関わらず
どれもこれも全部砂にしかなりません。
「ちょっとこれ・・まさか全部倒し損の生き物なの?」
生きて動いてるものは何でも倒して利用してきたレイダとしては少々理不尽ですが
でも冷静で普通の観点からすればこんなのまで剥いで使おうとする方が異常です。
ただ砂と一緒に何か赤く光る丸い物が出て
バージルの方に吸い込まれていくのはちょっと気になりますが
今それをしげしげ確認している間はありません。
「ねぇ、その赤いのって・・」
しかしその事を聞こうとしたレイダはある違和感に気付きました。
バージルが戦っているの自体は何度も見たことがあるのですが
今その動きというか手順らしきものがどこか少し妙です。
目の前に敵がいるのに刀を振ろうともせず飛び道具みたいな剣を飛ばしたり
敵のいない所に斬りかかって慌てて方向を修正したり
急に真っ直ぐな剣に持ち替えたと思ったらやっぱり誰もいない所に斬りかかったり。
のんきだけど妙なことに感が鋭いハンターさんは
近くにいた数体を砂に返し、ある程度周囲が落ち着いてから思った事を聞いてみました。
「・・あのさ、もしかしてこっちでの戦い方、忘れちゃった?」
その何気ない一言に休みなく動いていた青いコートがびきと固まりました。
そうなのです。実は彼イベントムービーでかっこよく戦っているものの
この世界でこういった悪魔と戦闘をしたのは前のセーブから換算して
実に2年半くらいのブランクがあったのです。
なのでコンボがどうとか回避がどうとか言う以前にボタン操作から危なっかしく
至近距離の悪魔に間違えて飛び道具を発射したりロックオンもせずに斬りつけたり
武器の切り替えがわからなかったりどうやって使っていたか忘れていたりと
とにかく最初の面だからまだいいものの、彼は今手順を思い出すのに必死でした。
とは言えそんな事情が悪魔に伝わるはずもなく
鎌を持ったかかしみたいな悪魔は次々に沸いてはのろのろと迫ってきます。
となるとフォローが必要になってくるのですが
こりゃさばききれるかなとのんきなハンターさんは思いました。
今持っているのは採集の時に持って出る護身用の片手剣で
一応毒の属性はあるものの相手が大量で小型となるとあまり意味がないのです。
「うーん、こんな事ならアレを持ってくればよかっ・・たって、あり?」
そのどこか妙で不吉な声にバージルが慌てて振り向くと
その顔は戦闘中なのにかかわらずそのまま軽くひきつりました。
だってさっきまで緑色の剣を振り回していたその手には
なぜか見たまんまの船のイカリが握られていたのです。
それは本人にも意外な事だったらしく、レイダはしばらく上を見て考えましたが
彼女はあまり深く考える方ではありません。
「・・ま、いっか!」
などと言うなりそのハンターさんは慣れた様子でそれを両手で構えなおし
腰を落として重心を変え、鉄の塊をぶうんと振りかぶり
近くにいた悪魔をかなり遠くの壁まで綺麗に叩き飛ばしました。
正気か貴様は!?と応戦しながらバージルは思いましたが
レイダは使用用途がまったく違うように見えるそれを実に器用に使いこなし
どごんとかずしんとか凄い音をさせながら
悪魔を確実に仕留めていきます。
つまりあの船舶の一部に見える鉄の塊、彼女なりの武器らしいのです。
「ん?あれ、もしかしてこれも使えるの?」
そしてまたヘンな事を言うなり彼女が次に手にしたのは
自分の身体ほどもある巨大な剣。
しかしそれは剣と言ってもあまりにも大きすぎ
刃もあまり研がれていないようなので剣の形をした岩のようです。
武器と言うにも無骨すぎるそれは刃の部分が何で出来ているのか桃色をしていて
レイダはそれを両手で構えて両足でふんばり、いざそれを振りかぶろうとしました。
が、その寸前その目がなぜかちらっとバージルの方を見ます。
「・・・。!!」
それは天性の感でした。
すっかり忘れていた回避を駆使しその場から飛びのくのと同時に
ぶぉんと桃色の刃先がそこをかすめ、その軌道上にいた悪魔をまとめて粉砕しました。
つまりあの巨大な桃色の剣
大きいためまきぞえの確率が高いと言いたかったらしいのです。
「貴様っ・・!」
「ごめん苦情はあとで!上手くやるから上手くやって!」
文句とかツッコミとか色々言いたい事だらけですが言うことはもっともです。
今は口を動かすより上手くやってもらって自分も上手くやるしかありません。
バージルは頭を切り換えとにかく回避と基礎動作を思い出す事に専念しました。
ちょっと周囲でごっつい音が断続的にしますがかまっていられません。
はやくこちらの感を取り戻して上手に動かないと
雑魚にやられるよりもっと悲惨な死に方ができそうです。
そうして必死にやっているうち2人がかりだった事も手伝って
周囲は意外に早く静かになりました。
けど必死だったのでベオウルフを使うのをすっかり忘れていて
バージルはかなり遅れてからがーんと思いました。
でも使ったら使っていたで『急に元気でにぎやかになるのね』とかで
笑われていたかもしれません。
どっちにしろ状況は最悪とはいかなくても良くないのは確実だ。
そう思いながらげっそりして肩で息をしていると
巨大な剣をそのまま背中に戻したハンターさんが
けろりとしたまま話しかけてきました。
「えっと、ケガはしてないみたいだけど大丈夫?」
「身体的に問題はないが・・・この疲労の数割は貴様の責任だ」
「いやゴメン。いつもは武器1つしか使えないからつい楽しくってさ」
それはここでバージルが武器を3種類使いこなすのと同じで
彼女もここで武器を3種扱える事の話でしょう。
明らかに武器じゃない船の何かがまじってたような気もしますが
本人が使いこなせているならそれも一応武器と認めるしかありません。
戦力としては悪くないのですがやっぱりこのハンターさんは何かヘンだと
バージルは今さらながらに強く確信しました。
「ところでこれからどうするの?詳しいことはわからないけど
まだここから先に進むつもりで、でもここでのカンは戻せてないんでしょ?」
そう言われてバージルは黙り込んでしまいました。
ここでハイと言えばじゃあ心配だからとこのままついて来られそうですし
違うと言っても今までの経験からして嘘が通りそうには思えません。
しかしバージルは経験上コイツと関わるとまずロクな事にならないとわかっていても
なぜか頭の中に追い返すとか振り切るとかいう選択肢が出せませんでした。
「・・まーたむずかしく考え込んでる顔してるなぁ。
まぁいいじゃない。丁度ヒマだったから途中まで一緒に行こう」
「な・・何を勝手に!大体貴様は愚弟の差し金で・・!」
「なるべく邪魔しないように努力するし
その弟が見つかるかそっちが慣れるまでの間でいいからさ」
「・・・・・」
のんきな顔をしているレイダとは対照的にバージルは怖い顔をして黙り込みました。
なにしろ彼はまだこちらでの感覚を掴みきっていませんし
この人はこんな性格とそんな武器ですが戦力としては侮れません。
それに自分がまだこちらのカンを取り戻せていない今
不本意ながらそれを利用した方がこちらとしては有利です。
バージルはかなり渋々感をにじませようとして顔半分で失敗しながら言いました。
「・・・いいだろう。ただし邪魔と判断したならすぐに捨てていく」
「はいはいわかった。そんじゃ、お先にどうぞ」
「え・・」
さも当然とばかりに譲られたのは誰かさんの事務所の出口の扉。
そこは砂だらけになってまだ原型をとどめていましたが
その先に何が待っているのかをバージルは知っていてちょっと躊躇しました。
「え・・って、出口そこなんでしょ?出ないの?」
「・・・・。い、言われなくとも」
でもその扉を一歩出ればさらにたくさんの悪魔や厄介な悪魔がいるので
まだ感の取り戻せてない彼にとってはあまり行きたくない話なのですが
つい今しがた強気を吐いた手前、また今度というわけにはいきません。
ちらっと後をふり返るとガチャガチャと装備を確認し
あれはあるコレもある、ん?これも?とか1人でぶつくさ言ってるヘンな人が1人いるだけ。
でもなぜかそれを見た途端、今まであった行きたくない感が
言いそびれたセリフのようにぽんとどこかに飛んでいってしまいました。
それはつまり安心感というやつなのですが
当然彼としてはそんなの認められるワケがありません。
「?なにやってんの。泳いだ後の犬のマネ?」
「違う!・・とにかく、先に言っておくが
遊び感覚でついてくると痛い目をみるぞ。覚悟しておけ」
そう言ってバージルは頭をふって乱れた髪をさっと撫でなおし
出口の扉に手をかけました。
しかし中で色々轟音をたてたおかげか普通に開けようとしていたその扉は
手をかける寸前丸ごと向こうへどーんと倒れ込んでしまいました。
「うわお、幸先よろしい門出だこと」
「五月蠅い原始人!次が来るぞ武器を抜け!」
そしてその幸先のいいような悪いようなスタートから
彼のある意味苦難の道のりが始まったのです。
というわけでミッション1終了。
兄は実際にもとづくリアルなブランクにより少々どんくさい予定です。
なおハンターさんは武器3つの規定により
デッドリィタバルジン、イカリクラッシャー、ティタルニアを持ってます。
2.それは裏か表か
誰かさんの事務所から出る事になった2人
正しくは1人とその成り行き上同行する事になった1人は
一休みする間もなくまた悪魔に囲まれ
今度はちょっと広めの場所で戦う事になりました。
しかし広いと言っても出てくる悪魔の数も種類も多いので
あまり楽になったという印象はありません。
戦える人数が2人になったというのにです。
なぜかというと早い話、増えた1人が心臓に悪いヤツだったからです。
「ねぇこれってホントに何も残さないわけ?
この鎌とか布とか使えそうな気がするのに・・
あ、でもそこの声がうるさいの、よさげな物持ってる」
「それは爆発物だ!!絶対に触るな近づくな!
そもそも生きた人間が魔界の悪魔から物を剥ごうとするな!!」
器用に立ち回りながら悪魔のローブを掴んでみたり
倒れたやつから武器をもごうとしてみたり
爆発物を背負ってうなりながら近づいてくるやつに平気で近づこうとしたり
自分の事でも手一杯なのにバージルは早くも根を上げそうになりました。
しかしその必死さの甲斐あってかまずロックオンを思い出し
飛び道具と近接武器の使いわけもだいぶ思い出してきました。
ベオウルフも使い勝手が悪いかと思っていましたが
ロックオンと一緒に使うとそうでもないようです。
でも使ってる最中やっぱり『わ、なに急に元気になって』とか言われましたが
もうそんなの無視です。今は気にしてる場合ではありません。
でもその時バージルは必死で気がつきませんでしたが
レイダはデタラメにウロウロしているように見えても
ちゃんとバージルの背後に行きそうな悪魔だけはきちんと退治していたのです。
そうしてそんなフォローをあまり感じさせない戦い方をしながら
砂になる悪魔を残念そうにながめレイダはぽつりともらしました。
「・・う〜ん、それにしてもただ倒すだけっていうのもなーんか性に合わないなぁ。
ここにあった砂に戻るだけってならしょうがないんだろうけど」
「・・・・・」
「あ、でも別にそんな顔しなくてもまだ付き合う気ではいるんだけどね」
「勝手な解釈をするな。別に俺は・・」
「・・ん?なんかヘンなモヤが来た」
その声に慌てて上を見上げると、ビルの上をつたって何かの黒いモヤが近づいてきます。
バージルは来た!と思いぎりりと持っていた閻魔刀を握りしめ、気を引き締めました。
それはあまり特殊な事はしてきませんが最初に遭遇するボスで
名前は・・えーと・・・。
「あ、ちょっと大きめ。これって今までのどれかのドスタイプかなにか?」
「違う。ドスではなく先程から出てきていた連中の上位にあたる悪魔で
ド・・いや、・・ドス・・・」
でもど忘れした所に余計な事を言われてしまうと元の事を思い出すのはほぼ不可能で。
もう頭の中にはレイダの世界の大きいタイプを表すドスの二文字しか出てきません。
「上書きされたではないか貴様ー!!」
「え?なにが?セーブデータ??」
などとやってる間に本当はヘル=バンガードという悪魔は地面に降り立ち
今までで一番大きな鎌を振り上げてきました。
回避がまだ上手くないバージルはギリギリでよけ
ドスとか名前はともかくこれがどんなボスだったのかを思い出そうとしました。
確かワープして回避しにくい突撃をしてくるヤツだった気がしますが
とにかく攻撃しないと始まらないのはどの悪魔もボスも共通です。
思い出したばかりのロックオンで狙いをつけ何度も斬りつけますが
さすがにボスクラスともなると効いているような様子が見られませ
ぶぁん ドッガァン!!!
と思った矢先、大きかったドスなんとか・・じゃなくて
ヘル=バンガードの身体が半分くらい地面に沈み込みます。
そしてその向こうに見えたのは船のイカリを地面から引っこ抜くあのハンターさんです。
「・・スカスカしてる。でも一応は効くんだなぁ」
他人事のようにそう言ったハンターさんは
じゃらりと鎖の音のするそれを今度は緑色の剣に持ち替え
たぶん身のあるだろう場所めがけてぶんぶか振り下ろしだしました。
何というか力づくで強引で野性的な攻撃ですが
今はとにかく流されている場合ではないとバージルも我に返り
ベオウルフで思いつく限りの攻撃を叩き込みました。
しかし途中のイカリ攻撃(チャージ攻撃)が効いたのか
ヘル=バンガードはどういう攻撃をしてくるか確認する間もなく崩れ落ち
そこに赤い宝石を残して消えてしまいました。
本来ならこれはここで逃げて後々やっぱりやられる事になるはずなのですが
バージルの場合そのあたりの話が全部ないことになっているので仕方ありません。
そうして赤い宝石を回収し終わりバージルはようやくほっと息をつきました。
というかこのレイダとかいうのんきなハンターさん。
ヘンな武器でヘンな性格をしていてもやっぱり本質はハンターなようで
意外なような頼もしいような、でもそう急激に変わられても怖いような・・
とにかくなんのかんので結構付き合いのあるバージルはちょっとばかり複雑です。
「あらら、大きくて体力はあってもやっぱり何も残さないんだ」
「・・今さら説明するにも馬鹿馬鹿しいが
この世界の摂理とそちらの世界の摂理はまるで違う。
まず悪魔から素材は剥げない。他は追って説明するがまずそれを頭に入れろ」
「む、そっか。それは残念」
あの大きさなんだから皮の一枚くらい取れてもいいのにとか
まだ未練がましく怖い事を言うハンターさんにバージルはため息をつきます。
大体そんな妙な武器や妙な強さがあるのに
まだ何から一体どんな物を剥ぎ取ろうというのでしょうか。
そのあたりバージルにはよく理解できませんでしたが
自分がさらなる力を追い求めるのと同じものなのでしょうか。
そう思いながらコートについたホコリをはらい
バージルはようやく落ち着いた周囲を一瞥して聞いてみました。
「それよりもその武器かそうでないのか判断の難しい物体の数々を説明をしろ。
聞いてどうなるものでもないが、知らずにいると判断に迷いが出る」
「あぁ、そっか。じゃあついでにそっちの武器の説明もお願いね」
「・・なぜだ」
「それがどれがどのくらいの範囲で動いてどんな威力があるのかで
こっちもフォローできる範囲とかが決められるでしょ?」
「・・・・・」
バージルはちょっとムッとしたような顔をしましたが
確かにその方がお互い邪魔せずスムーズに戦えそうなので
手持ちの武器と飛び道具の攻撃範囲や特性などと手短に説明しました。
しかしレイダの方の武器はと言うと、何というか見た目もそうですが
作られた経緯や原料などがちょっと特殊で、形見だから持ってるとか
倒したらそれになったとかいうレベルの物ではありませんでした。
緑色の斧のような剣はデッドリィタバルジンという毒の剣で
昔バージルも見た毒怪鳥の亜種から剥いだ皮と内臓器官でできていて
桃色の刃をした大剣はティタルニアという優雅な名前をしていて
亜種で桃色の竜から剥いだ甲殻を使い、龍属性があるとかで
ラオシャンロンとかいう竜を追い返すために作ったとか言われました。
そのラオシャンロンとかいうものが一体どんなものなのか
この時の彼にはわかりませんでしたが・・もしその事実を知ったのなら
おそらくレイダは以後人間扱いされなかったでしょう。
「で、これがイカリクラッシャー。船大工のオッサンからもらったのを改良したやつで
船のイカリに見えるけどハンマーの部類ね。
他の2つみたくガードは出来なくて攻撃範囲はあんまりないけど
チャージ攻撃ができて破壊力は抜群だから」
「・・・・・」
とか言う以前になんでそんなのを武器にしたがるのか
そのあたりの気持ちというのはやっぱりバージルにはわかりません。
一瞬そういうのが女心かと思いましたがすぐに違うと思いました。
だってこのハンターさん、見た目には女の人でも人前で平気で着替え出すし
そんな鉄塊や身の丈ほどの大剣を平気で振り回すし
あといらないと言っても人を勝手に背負って運ぼうとす
・・いや、その話はやめとこうとバージルは思いました。
「・・ではそのイカリ・・ではなくハンマー以外では防御ができるのか」
「あんまり強力なのは無理みたいだけどね。
それともう一つ、さっき持ち物確認した時に見つけたんだけど・・
コレ、パワーハンターボウUっていうんだけど、飛び道具で設定されてるみたい」
そう言ってどこからともなく出して見せたのは
銀色で変わった仕掛けのほどこされた折りたたみ式の弓です。
そう言えば自分のように武器3種の法則がこのハンターさんにも生きているなら
そういう物が使えても不思議はありません。
だとすると単純計算で戦力が2倍になるわけですが
そう早々と決めつけてしまうのはちょっと危険です。
「巻き込みの確率が高いのは範囲の広いティタルニアとコレくらいかな。
あたしも間違えて当てないように注意はするけど、そっちも一応気にはしておいてね」
「?待て。大剣はともかく弓矢で巻き込みの確率が高いというのは何だ」
「普通に射る分にはそうでもないんだけど
これチャージで射っちゃうと矢が縦に並んで出るの。
だから悪い場合だと頭と背中と尻とか、最悪の場合だと顔と胸と股間とか・・」
「も うい い それ以上 言うな」
まともに想像してしまったのかお腹壊した人みたく前屈みになったバージルに
レイダはちょっと脅し過ぎたかと思いましたが半分は事実ですし
面白いからまぁいいやとあっさり開き直りました。
「ま、そのあたりはあたしも注意するから心配しないで。
あとさっきから気になってるんだけどその服のはじっこ
妙にヒラヒラしてて踏むか矢で縫いつけたくなっちゃうよね」
「今言った事を高速で反転させるな!!」
この時彼はまだ目的のもの字にもたどり着いていませんでしたが
この先にある目的の塔とか欲しい力とかを全部まるごとほっぽり出し
どこかで静かに釣りがしたいとバージルは一瞬本気で思いました。
ミッション2クリア。・・にしてもう帰りたくなってきた兄。
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