入っていったメンバーの何人かには少々常識と精神面での不安はあるものの
サマエルとフトミミはしっかりしているのでおそらく大丈夫だろう。
ちなみにミカエルは見た目はしっかりしているが時々ズレるので数に入らない。

「・・・みんな大丈夫かな」
「悪魔が化け物を怖がるとも思えん」
「いやでもさ、あれって凄く恐怖心をあおる設計とか演出とかになってるって話だし・・」
「・・・・・」

バージルはしばらく黙って純矢を凝視した。

「・・母さんは・・本当にあれが苦手なんだな」

何もそんな親しみを込めた声で言わなくていいだろうというくらい
しみじみとした言い方をされ、純矢は握られっぱなしの手を
どすとバージルの脇腹にめり込ませた。

しかしやってから気付いたが、そこはさっきスパーダに蹴られた場所。

「あ!ごめん!痛かったか!?」

本当はそんなに痛くないがこんなに心配してくれる純矢も珍しいので
黙って腹を押さえてみると、予想通り母はさらに慌てて

「うわ!ホントにゴメン!ディアラハン効いてないのか!?」

するとその様子を見かねたケルベロスが
純矢の足を前足でつついてふんふんと鼻でバージルの方を指す。

見るとあまり変化しない口のはじっこが、ちょっとだけ笑ったように曲がっていた。

「・・!!バーージルさん!!
「・・痛は・・」

ぐぎーーと頬を引っぱられ男前台無しになるが
それでもバージルは逃げもせずまだちょっと笑っていた。

ただその背にあった刀からちょっと殺気がもれていたのを
下から見ていたケルベロスが見て少し身を縮ませた。




「主!あるじー!!」

しばらく純矢が持っていたおやつ(コアラのマー○)をみんなで分けて待っていると
出口と思われる所からどたどたとトールが走り寄ってきた。
片手にはおそらく中で悪さをしようとしたのだろうマカミが握られ
タオルのようにひらひらしている。

しかしびびった様子がないので何言を言おうとしているかも大体想像がついた。

「主!大変だ!あの中には腐乱した人間や半死半生の人間や
 黒騎士殿の偽物や女帝に和服を着せて首を長くした生き物が・・」
「・・・トール、さっきから言ってるけどそれ作り物」

どうやらトールの頭は目の前に刺激物があると
何回説明されようがその前のことを忘れてしまうらしい。

「・・それで?みんなどうだったんだ?」

その後からゆっくりやって来た面々も別にいつもと様子は変わらないが
一応そう聞いてみると・・

「最初から作り物だと言われていましたので」
「ただ内装が薄汚いだけで、特筆して怖がるようなものはなかったが」
「・・うわ、お前らかわいくない」

さすがに邪神と大天使は作り物のお化けを怖がる理由がないらしい。

「けれど勉強になったのは確かだったね。人間はあんな風に目から液・・」
わーー!!やめて!!
 さわやか笑顔でグロテスクな描写をしないでーー!!」

フトミミもフトミミで時々お化け屋敷よりも怖い。

「しかし主よ。中に何があるのか想像がついているなら
 なぜそれほど恐れる必要がある」
「・・分かってても怖い物は怖いんだよ。
 ・・何て説明すればいいのかな・・・あ、そうだ。
 どんな明るいところで見てもやっぱり怖いアラディア?」

びく

その場にいたバージル以外全員の身体が硬直した。

悪魔合体を繰り返すうちに薄れる記憶は色々あるが
あれは全員の脳裏に残ったままらしい。

「・・いえ、さすがにアレと比較するのはどうかと思いますが」
「・・やっぱり?」

アレとお化けを比較するなら間違いなくアラディアの方が数倍怖い。

「ナァナァ、オマエコノ際ダカラ
 苦手ヲ克服スルツモリデ行ッテキタラドウダ?」
なッ!?ちょ、ちょっと待てよ!!
 そんなの克服する必要なんてどこにもないじゃないか!?」
「ケドヨ、ナンデ生キテル悪魔ガ死ンデンノヤイモシネェ物ヲ怖ガンダヨ」
「そんなの理屈で説明できるか!とにかくいやだ!絶対いやだ!」

と、純矢には珍しく断固として拒否の姿勢をとるが

「ホホーン?ソンジャオマエ、オレラガツイテテモ作リ物ノ方ガ怖イッテンダナ?」
「う!」

WEAK POINT 直撃

「こらおぬし・・」
「ふむ、一理ある意見かも知れんな」
ミカエル殿!?

見かねて止めに入ろうとしたトールが意外なところからの援護に驚く。

「考えてもみろ。我らは主を守ることを第一の使命としてきた。
 その主が恐れる物が無きよう最善の策をねるのもまた我らの勤め」

と、口では真面目で難しい事を言うミカエルだが
本音ではあまり見たことがない怖がる純矢が見たいだけだったりする。

いい!別にそんなの勤めなくていい!なんとか言ってくれよサマエル!」
「しかしそう怖い物ではないようですし
 この際マカミの言うように苦手を克服するつもりで行ってきてはいかがですか?」
「食わず嫌いという事もあるしね」
フトミミさんまでーー!?

こうなるとほぼ逃げ場がない。
トールはすごく助けたそうにしてはいるが
ここにいる全員を説き伏せる話術もないし
ケルベロスも同じく助けてやりたそうにするものの
申し訳なさそうに耳とシッポをたらしている。

待て待て待てちょっと待てお前達!!
いつもうるさいほど俺の心配するくせにこんな時に限ってそんな!!

しかしたかがお化け屋敷くらいでそこまで抵抗する純矢も純矢なのだが
人間必死になると冷静にものを考えられなくなるものだ。

純矢はとっさに手を掴んだままのバージルごと逃げようとしたが
いつもなら大人しくついてくるはずのその手は岩のように動こうとしない。

まさか!?

ぎょっとして振り返ると

「・・大丈夫だ」

見上げた先の魔人は顔色を変えずに

「母さんは俺が守る」

などとミカエルあたりにあおられたのだろう
今はとってもありがたくないお言葉をとってもまじめに言いやがった。

あぁぁあもう!だから守るとか守らないとかそう言う問題じゃなくて・・!!」
「では多人数では動きにくいだろうから
 人選は私とバージルで行こう。他の者は留守を頼む」
こらー!!俺の気持ちとか意見とか
 その他もろもろとかをちょっとは考えろ!!」

これではまるで某第3カルパだ。

「大丈夫だ。閻魔刀は持っていく」
「だから気持ちの問題だって何回言えば・・!
 うわー!わー!いやだって言ってるだろ!はーなーせー!!」
「主、あまり騒ぐと他者に迷惑だ」
「迷惑なのはどっちだーー!!」

などと両腕を体格のいい男どもに掴まれずるずる引きずられていく純矢は
行き先がお化け屋敷でなければ確実にダイヤル3つの通報されていただろう。

「・・ア、面白ソウダカラオレモ〜」

一見誘拐犯と少年に見えるその組み合わせに
さらにマカミが加わった3人と一匹は
騒ぎながらおどろおどろしい建物の中に入っていく。

しかし最後までぎゃあぎゃあわめいていた純矢は
入り口付近まで引きずられてピタリと大人しくなった。
あきらめたのかヤケクソになったのか。

「こうしてジュンヤ様は強く大きく成長されるのですね」
「私にはよく分からないが青春というやつかな」

などと微妙に違うことを話す邪神と鬼神からちょっと距離を置いた所で
力になれなかった鬼神と魔獣はとにかく主の無事を心で祈った。

ここは遊園地。
色々と楽しいことが多いはずなのだが
一部の者には新たなトラウマを生みそうな場所でもあった。




ヒュ〜ドロドロドロ〜という典型的な効果音の流れる暗い通路を
3人と1匹はほぼ無言で進む。

外であれだけ騒いだ純矢は中に入った途端ピタリと無言になり
両脇にある腕にしがみついたまま出来るだけ周りを見ないように
必死になって視線を地面に固定していた。

「主、恐れるな。我らがついているぞ」
「・・・・・」

と自信満々に手を叩かれてつつそう言われても、こればかりは心理的問題だ。
いくら誰かと一緒に行こうが暗いトイレに行くのは怖いだろうし
誰かがついていても静かな夜道を歩くのだって怖・・

バァ
「ぎゃーー!!」


上から垂れてきたマカミは
バージルに音速でひっ掴まれ、純矢から離される。

やると思った。

「・・・何をしている
「イデイデイデデデ!チョトシタじょーくダロ!」
「三枚に下ろされたくなければ大人しくしていろ」
「チェーオメェ頭カテェナ」
「・・いい加減にせんか馬鹿者。
 あまり度が過ぎるならシュレッダーにかけて細切りにするぞ」

などと緊張感のないやり取りをしつつ進んでいると
時々思い出したように横からリアルな生首が出てきたり
暗くて見えにくかった井戸から目の腐った女が出てきたりし
純矢はそのたび律儀にびっくりしては両方の腕にしがみつく。

怖がる純矢としてはたまったもんじゃないが
その他の面々にはそれがまた結構楽しい。
しかしそれを悟られると嫌われる可能性もあるので
表に出さないという駆け引きも必要になってくる。

「主、襲ってくる気配はないのだからそう恐れる事はないだろう」
「・・・だから理屈じゃないって言ってるのにッ・・・!」

けど周りは薄暗いしどこから何が出てくるか分からない純矢としては
とても他人の顔色を見るどころではない。
必死になって両側にある腕にしがみついて
ミカエルがちょっと笑っている事にも気付かない。

バージルはマカミを片手に捕まえたまま周囲を警戒している。
しかしそれはお化けを警戒するというより
何か別の者を警戒しているようにも見えるのだが・・・

「そういえば半人半魔というならば
 人の部分でこのような仕掛けを多少なりとも怖いとは感じぬのか?」
「作り物だとわかっている物に恐怖する義理はない」

といってもバージルは昔からこんなたぐいの物とは縁があったので
怖い基準が人と違いすぎるだけなのだが。

それともう一つ、ここへ来て警戒すべき者が1つできてしまい
それどころではなくなったというのもある。

とにかくバージルは時々出てくるお化けには見向きもせず
白い頭と紫の胴体を持つ者が出てくるかこないかだけに意識を集中させ
閻魔刀の代わりにマカミの胴体を潰さない程度にぎゅうと握りしめる。
この状態だと抜刀しにくいので、いざという時には投げつけるつもりだ。

しかしあの格好でこんな所にいきなり出てこられたら
まぁそれなりに怖いかもしれないが。

「・・・うぅ、お前達すっごくかわいくない」
「けけけ、ソリャアコンナごついノガカワイクテモ困ルダロ」
「・・さりげなく自分だけ除外するな。貴様が最もかわいくない」
「けけ・・ギニャ!?

その声が耳障りでもなったのか
バージルがその胴をぶんと横に振った。

しかし強力な力を持ちながら、いもしないお化けを怖がる悪魔など
世界中どこをさがしてもいないだろう。
しかもかわいくないと言う本人が一番かわいいなどと笑うほか無い。

「・・なぁミカ後どれくらい?」
「まだ半分も来ていない」
「まだそんななのか!?」
「オイオイ、我慢ノタリネェヤツダナ」
「だから我慢とかそんな話じゃなくて・・」

ゴバン

その時いきなり側面にあったなんでもない壁が開き
人の顔を硫酸で溶かしたような顔がドアップで出てきた。

ゴキ

「うぐ!」
「つッ!」

その直後、骨が外れるような音がして
ミカエルとバージルが同時に短い悲鳴を上げる。

それは純矢が力を制御できず、しがみついていた腕を外した音だ。


「うわーーーん!!
 もうみんな大っっ嫌いだーーーー!!!」



などと子供じみた絶叫をし、純矢はとうとうたまりかねたのか
2人と1匹を置いて暗闇の中をダッシュで逃げ出した。

しかもちらと見えた後ろ姿、肌が出た部分が発光している。

「いかん!主がキレた!?」
「アノ馬鹿!!」
「・・??!」

幸い今は人が少ないからよかったが
悪魔の状態で錯乱されては早く止めないと大変な事になる。

「マカミ!!」
「ワーッタヨ!」

何が何だかわからず目を白黒させるバージルをよそに
ミカエルが指示を飛ばし、なおかつ自分の腕をふんと気合いで元に戻して
続けざまにぷらぷらしていたバージルの腕をも
ちょっと嫌な音を立てつつ元に戻した。

何かやたらと慣れているのはなぜなのやら。

「呆けている場合ではないぞ!走れ!!」

しかし不思議に思う間もなくミカエルが走り出す。

そういえば・・お化けを怖がる心はあっても母の身は悪魔だったな。

などととっても今さらな事を思いつつ、バージルは腕の感触を確かめ
ミカエルの後を追って走り出した。




ジュンヤは大嫌いなお化け屋敷で1人になった事にも気付かず
暗い中の道を悪魔の感覚だけで全力で走った。

途中何人かの人間、つまり一般客とすれ違うが
全力だったにもかかわらずジュンヤはそれを抜群のフットワークでかわしまくり
自分がすっかり悪魔に戻っている事も気付かず
時々すれ違う一般客に、お化けの一部だと思われている事もかまわず
ともかく第3カルパの時よりも全力で、走って走って走りまくった。

外!外!とにかく外!

それだけ考えてとにかく走った。

「ジュンヤ君!」

しかしそれだけを考えて走っていたジュンヤは
聞いたことのある声に呼ばれて一瞬立ち止まる。

おそるおそるあたりを見回すと
そこはちょうどしかけの途切れる場所なのか、何かが出てきそうな気配がない。

「・・ジュンヤ君、こっちだ」

ハッとして見るとその通路の少し明るい場所に、見知った顔が立っていた。

そこがお化け屋敷ではなくホラーハウスなら
出演者と見間違えていただろうその姿はまぎれもなくスパーダだ。

ジュンヤはその瞬間、自分が1人になっていた事を思い出し
それと同時にいてもたってもいられないという風に
ウサギの頭ののっていない、紫色に向かって走りだした。

「はは・・うぐッッツ!!

ガリガリガガガーー!!

スパーダは笑いながらジュンヤを受け止めた・・・つもりだったが
その細身に似合わぬ突進力に一瞬息が止まり、踏ん張った靴底から
火花と焦げた臭いと煙がいっぺんに上がる。

とっさに足を踏ん張らなければ壁に激突して
壁に穴を開けるかぺしゃんこのスクラップ状態にされていたかもしれない。

それほどに気が動転したジュンヤの力たるや凄まじく
運良く2人になれたと思っていたスパーダは
今のタックルでいつもの余裕を半分以上吹き飛ばされた。

「・・・っつ・・・はは・・どうしたもこうしたも・・・
 今日は・・・随分と・・炸裂なご挨拶で・・・」

うまくねれていないセリフにジュンヤはがばと顔を上げる。

その目は暗闇の中でもハッキリわかるほどの金色。
しかもその顔に浮き出たタトゥーは見惚れるほど綺麗に発光していて
スパーダは一瞬ぎくりとした。

「だって!俺嫌だっていったのに!
 いったのにいったのにいったのに!!」

「・・い・・いたた・・あの・・ジュンヤ君、少し落ちつい・・」

相当錯乱しているのか、ジュンヤは同じく発光している手で
所かまわず駄々っ子のようにバカスカ殴ってくる。

普段大人しいジュンヤにこんな暴走の仕方があるとは
ちょっと意外でもあり新しい発見だ。

だがとにかくそこかしこ殴ってくる手を止めないと
手加減できていないのでやはり痛い・・・と言うかジュンヤはこんな細身で
悪魔時にはトール並みの力があるのでかなり痛い。
スパーダは飛んでくる拳の先を読んで、顔と同じく発光していた手を掴むが・・・

「・・おっとッ!」

掴んだと思った次の瞬間、動かなくなった手の代わりに蹴りが来た。
ギリギリでかわしたがなかなかに手癖が悪い。

まさかとは思うがダンテの影響ではあるまいな・・。

などと思いつつスパーダはそれでも暴れるジュンヤを押さえ込もうとするが
再生したてのバージルとは違い、ジュンヤは気が動転しているせいか
動きが読みにくい上に現役とかわらないほどの動きとパワーを持っている。
なんとか押さえ込もうにもスパーダですら攻撃を防ぐのに手一杯だ。

「・・仕方ない」

スパーダはため息を1つつくと
今にもふりほどかれそうだった手を背後に回ってねじり上げ
その足元をちょっと強くはらった。

ガツッ!!

「いたっ!」

スパーダはさらにうつ伏せに倒れたジュンヤの上に素早く乗り
タトゥーの入った手を後手にねじったまま身体全体で押さえつけ
動きを完全に封じた。

それは警官が犯人を取り押さえるやり方に似ていたが
ジュンヤはそこでようやく自分が押さえつけられているのに気付き
じたばたしていた動きを止める。

「・・・・あれ・・?」
「・・・落ちついたかな」

真後ろからした声に振り向こうとするが
思うように身体が動かず、ジュンヤはちょっと困惑したような声を出す。

「・・え?あれ?スパーダさんですか?」

私のことも認識していなかったのかと苦笑しつつ
スパーダは拘束を解いて身を起こすと
服を払いながらまだ所々発光している身を起こしてやった。

「・・随分と慌てていたようなので少々手荒な事をした。
 すまなかったね」
「・・あ!!」

そこでようやくジュンヤは自分が何をしていたのか思い出し
それと同時に自分の身体が悪魔になっているのに気付いたらしく
暗い中で真っ赤になり、大慌てで飛び起きると必死になって頭を下げてきた。

「すいません!すいません!すいません!!
 俺何かひどい事しませんでしたか!?」
「・・いや、少し暴れたくらいだ。気にしなくていい」

といっても結構やんちゃをしてくれて
紳士な身なりがちょっとボロッちく乱れたりしたのだが
これ以上謝らせる事もないので黙っておいた。

「それにしても・・気丈だと思っていたのだが
 意外な一面もあるのだな君は」
「うぐ・・」

ちくしょう、だから嫌だったんだとジュンヤはうなる。

怖いこともそうだけれど、怖がる自分を面白がられるのが気恥ずかしくて
今まで親しい友達と来ても絶対入らなかったというのに。

穴があったら入りたいくらいに縮こまっていると
純悪魔なので暗闇でもよく見えるのか、スパーダが笑って肩を叩いてきた。

「ははは、まぁ人にはそれぞれ得手不得手がある。そう気にすることはない」

と伝説の魔剣士に言われてもイマイチ説得力がない。

しかし次にジュンヤが発した言葉にその場の事態が一変する。

「・・・うぅ・・ダンテさんにさえバレてなかったのに・・・」

拗ねたようなその一言にスパーダが笑顔のまま固まった。


    = パパーダシンキング =


付き合いの長かったダンテにも知られていない
            ↓
    それほど恥ずかしい事を知られた
            ↓
          責任取れ
            ↓
        
オールOK


(注) 普通の人はこんなワープ思考をしてはいけません


す、と
うつむいていたジュンヤの手が
手触りのいい布の感触に拾い上げられる。

「?」

ふと顔を上げると、薄暗くてよく分からなかったが
目の前にいたスパーダがまるで貴族が貴婦人にするような仕草で
ほのかに光っている自分の手を白い手袋をした手でつつんでいた。

何だろうと思っているとスパーダはおもむろに

「・・ジュンヤ君」
「・・はい?」

今までになく真剣な声で

「私・・」
「ちぇすとーーー!!」

ボギ!!


その真剣そのものだったスパーダのセリフは
怒気と気合いの入り交じったような声と何か鈍い音によってさえぎられた。

やはり暗くてよくわからなかったが
どうやら2人がかりのダブルライダーキックみたいなのに蹴り飛ばされたらしい。

主!無事か!無事だな!!」
「・・え?ミカ!?」

ばしばしホコリを落とすように身体をはたいてくるのは、声からしてミカエルだ。
と言うことはもう一方はバージルだろう。
閻魔刀を背負った後ろ姿が、蹴り飛ばしたスパーダの行方を油断無く探し
さらにその向こうからはマカミが慌てたように飛んでくる。

「ウォーイ、待テヨオマエラ速過ギダッテノ」
「あの・・今何かボキって・・」
「話は後だ!ともかく外へ出るぞ!」
「わっ!?」

ミカエルはジュンヤの言葉をさえぎるように
まだ光っている細身の身体を軽々抱き上げると
もうお化け屋敷どころの話ではなくなったお化け屋敷の中を走り出す。

「オイオイ、サッキハ普通ニ通ッタッテノニ、今度ハヤタラト騒々シイナァ」
「・・いいから後方に注意しろ。まだいるかも知れん」

それにしても・・
とジュンヤは後からついてくるバージルとマカミの気配を感じながら思う。

さっきの見事すぎる同時攻撃。
バージルは相手がスパーダだとわかってやったのだろうか。

実はミカエルはわかっていて
バージルは分からなかったけど、なんとなくその後ろ姿がムカついていたので
ミカエルと一緒に飛んだだけだったりするのだが。

とにかく走っている間にも怖い仕掛けやお化けは見えはするものの
ジュンヤはもう何だかもう色々な事がありすぎて
もう怖がる所の気分ではなくなっていた。

「主、もうすぐ出口だ。身体を元に戻せるか?」
「・・あ、うん」

そうこうしているうちにあれほど待ち望んでいた明るい出口は
拍子抜けするほどあっさりと見えてきた。




何!?変質者!?
「うむ、すんでの所で制裁したが
 主に手を出そうなとどはまったくもって不届きな」

何かかなり間違った事をトールに吹き込んでいるが
分かりやすく言ったつもりなのかワザとなのか
どちらにせよ2人同時の跳び蹴りかました上に変質者呼ばわりとはなかなか非道い。

「しかしミカエル殿、我らが入った時にはそのような者は見当たらなかったが・・」
「特定の者には特別な何かが潜む場所
 それが主の恐れるお化け屋敷というものなのかも知れんな」
「・・・・・」

サマエルがその何かがおかしいやり取りと、まだ出口を睨んでいるバージル
最後に何か言いたそうにしていている純矢を無言で順番に見た。
フトミミも何があったのか大体想像できたらしく
1人で爆笑寸前みたいな苦笑をしている。

「・・・まぁジュンヤ様がご無事ならかまいませんが」
「・・・あはは・・は」

引きつった笑いを浮かべる純矢の足元でケルベロスが首をかしげ
頭上のマカミが呆れたように鼻を鳴らした。

でも・・・大丈夫かなスパーダさん。何か凄く怖い音させてたけど。

それにあの時何を言おうとしていたのだろうか。
いたく真剣そうだったのでちょっと気にはなるが・・

ともかく2人がかりの攻撃が効いたのかスパーダはしばらく声も姿も現さなかったが
その代わりバージルの表情がほんの少し
ふっきれたようなスッキリしたような顔になっていたとか。





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