バージルの手を引きつつ純矢が次に目を付けたのが
大きな船の形をした物に座席のたくさんついた乗り物だ。
それは複雑な動きをせず、一点を軸に左右に大きくゆれるだけという
見た目には単純な乗り物だった。
しかし見た感じは怖くは見えないのに
ゆれ方が大きいからか、乗っている人は結構悲鳴を上げている。
「これはそう酔ったりするほど動かないから、みんな乗れそうだろ?」
「しかし・・・全員となると少々荷物がかさばるが」
ミカエルが指摘するのはトールの持っている全員分の弁当や
バージルの閻魔刀、その他全員が各自持っているお菓子のたぐい。
本当なら全員あまり荷物を持ち歩かない主義なのだが
おやつは税込み300円までの規定により、今日はみんなで色々持っている。
「なら私が番をしよう。先に行ってくるといい」
そう言って荷物番を買って出たのは今まで皆勤賞のフトミミだ。
「あ、じゃあお願いしますね」
「わかった。トール、私も後から行くつもりだが
よければ感想を聞かせてくれ」
「了解した」
と両手や背中にどっちゃり全員分の荷物を渡されても
眉1つ動かさないのはさすがにトールと同じ鬼神だ。
その最も人間に近い見た目で忘れがちになるが
フトミミは素手で悪魔を倒すことに関しては純矢以上の実力者なのだ。
それはともかくフトミミのぞく全員は
船の形をした振り子のような乗り物に乗った。
身体の大きいトールはちょっと窮屈そうだったが
そうガッチリした拘束具もないのでトールは少しホッとする。
そしてそれは動き出した。
最初はゆっくりと、さらにゆっくりと。
途中で速くなるのかと思ったが、それはずっとゆっくり動く物らしく
それはまるで巨大なゆりかごに揺られているようだ。
だがゆりかごと違ったのは、ゆっくり動きながらも
乗っている物が直角付近まで平気で上がると言う事だろう。
ぐいーーんと振り上げられた後、ぴたっと静止すると同時に
なんとも言えない浮遊感におそわれ
元が巨体でこんな経験のないトールはたまらず。
「・・・あるじッ!」
「え?」
ぐいーーんと巨大な船が反対方向へふられる。
「これは!どこまで上がるのだ!?」
「・・えーっと、次くらいで最大かな」
ぐいーーーん
運の悪いことに、純矢達の座っていた場所は船のはじの方
つまり一番高く上がって落ちる時間も長いところだ。
そして船は地面から90度を越えた場所まで上がりきった。
「うぐおぁおあ!?」
いつも地に足をつけていたトールは
さらに長くなった浮遊感にたまらず、悲鳴のような怒声のような声を出した。
パチン!
それと同時にトールの身体に一瞬閃光が走る。
「いかん!主!!」
『主!マズイゾ!』
ミカエルが警告を発したのと
ストック内からケルベロスが声を上げたのはほぼ同時。
間髪入れず純矢が動いた。
「トールごめん!!」
はっし ビッ!
「おぐッ!!?」
よい子はマネしちゃいけません。
目の下をちょっとつままれ、力一杯引っぱられたトールは
痛さ以外の感覚が全部まとめてふっとんだ。
つまり怖さを痛さとすり替えたわけだが
本人にすればなんともやりきれない話だろう。
そしてあまりの痛さに悶絶するトールを乗せたまま
船は2・3度大きくゆれ、やがてゆっくりと停止した。
ちょっと可哀想な気もするが、こんな所でマハジオダインされると大変だし
かといってこれだけ人のいる所でストックに送り返せない。
「・・・どうやら見た目よりも怖いものだったようだね」
ディアラハンはしてもらったがやっぱり凹んでしまい
キップ売り機の横で丸くなってしまったトールを見ながらフトミミは苦笑した。
「・・いや、そんなに激しく動く物じゃないから大丈夫だと思ったんですけど・・」
「・・地に足をつけていたトールには少々酷だったのかも知れんな」
ミカエルもサマエルも元々飛べるので平気だったようだが・・
気にかけているつもりなのか、それともどかそうとしているのか
丸くなった大きな背中を閻魔刀でつついているバージルは
なぜ平気だったのだろう。
「ひょっとすると悪魔狩りの性質(高いところ好き)を
持っているのかもしれませんね」
「あぁ、なるほど」
「・・・似ているのかいないのかわからん兄弟だな」
「性格が似てないのは救いだけどね」
『・・・ソレニシテモ不憫ナ』
などとみんなで勝手に話す間も
はげましているつもりか、それともそんな所でいじけるなと言うつもりなのか
バージルは黙ってトールを袋に入れたままの閻魔刀でつっついていた。
怖い乗り物はトールに厳禁という事が分かったところで
今度は気分を変えるつもりでゲームセンターへ。
トールは凹みやすく立ち直りやすいが
立ち直らせるにはちょっとしたコツがいるのだ。
「トール、勝負しないか?これで」
勝負という言葉に影を背負っていた巨体が反応する。
純矢が指しているのは何かやたらとツヤのある台。
それはエアホッケーという相手のゴールにパックを入れる遊びだ。
「やり方は簡単だ。これを持ってこの丸い板を相手の前の穴に入れるだけ。
ほら、やってごらん」
「・・??」
よくわからないままトールは丸い物を1つ渡され
純矢と対になるように立たされる。
「・・じゃあいくぞ。そら」
こちん
軽い音を立てて丸い板がテーブルをまっすぐこちらにすべって来た。
トールはとりあえずそれを純矢をまねて打ち返してみた。
が・・・。
「よっと!」
カンカン!ガッ!
「ぬお!?」
純矢の打ち返してきた板は側面に2度ほどはね返り
トール側のゴールに飛び込んだ。
「今ので俺が1点だ。これはまっすぐ返すだけじゃなくて
今みたいに何度かはね返して相手をかく乱させたりもするんだよ。
ただの遊びだけど一瞬の判断力とか反射神経
あと動体視力もいる遊びなんだ」
「うぬぅ・・・」
そう言われると勝負好きのトールとしては燃えずにはいられない。
「・・主!もう一本!」
「いいよ。でも力加減はちゃんとしろよ?」
純矢の身体能力はどれも突出しているというものはないが
その分適応力や応用力に長けている。
それに対してトールは見た目通りにパワーがあり
それに加えて勝負事に対する熱意は余るほどあるので
経験のある純矢ともすぐに互角の戦いを見せるようになった。
もちろんさっきまで沈んでいたことなど
とっくにトールの頭からは消えてなくなっている。
カンカン!カキン!
カキカキカコン!カカカカン!
とても普通の高校生と初心者との対戦とは思えない
熾烈な攻防音が響き渡る。
「そらっ!」
ガゴン!!
しかしやはり経験の差で軍配は純矢の方に上がった。
「・・ぬぅ、さすがは主。付け焼き刃の力では太刀打ちできぬか」
「いや、トールも初めてにしてはちゃんと食い付いてくるし
コース取りも返し方もうまかったよ」
あと馬鹿力で打ってくるので弾き返すのに苦労したと
純矢は心の中で付け足しておく。
「で、次にこれやりたい人いるかな」
「俺がやろう」
やはりというか何というか、真っ先に手を上げたのは
見た目にはわからないが負けず嫌いのバージルだ。
「以前の借りが返せていないのでな」
「・・ふむ、相手にとって不足はない。受けて立とう」
しかしトールとバージルはどこか性質が似ているのか
こういった事をさせると長々勝負がつかなかった前例がある。
純矢はちょっと考えて隣にあった少し大きな台を指した。
「・・あ、そうだ。人数がいるから2対2でやってみようか。
あと2人誰かやる人」
「では私もやってみようかな」
「ならば私も参加しよう」
フトミミとミカエルも手を上げる。
「じゃあ・・・トールとバージルさん。
ミカエルとフトミミさんでチームを組んで
先に5点取った方が勝ちってことにしよう」
「異存はない」
「よかろう!」
「私もかまわん」
「私もそれで」
それならトールとバージルは同じチームなので
前のような長丁場にはならないだろう。
ゲーセンで遊ぶにしては少々暑苦しい面々だが
そんな事を勝負を前にして気にする者はこの中では誰もいなかった。
「・・しかしおぬしと組むことになろうとはな」
以前ある勝負事・・というか遊びで激戦を繰り広げたバージルを
トールはどこか楽しそうな目で見下ろす。
「・・同等の力を持っているなら
時には同じ敵を相手にする場合もある」
バージルは静かに言って
背にしていた閻魔刀を純矢の方に渡してきた。
「母さん、頼む」
「あ、うん」
これを渡してくるって事はマジモードなのかなと
少し不安抱きつつ純矢は見た目のわりには軽いそれを自分の背に背負った。
「一方はパワー系、一方に実力の程は知らんが・・・
おそらく技能か正確さで来るだろうな」
「しかしどちらも勝負に関しての執念は強いだろうから
これは持久戦になるかもしれないね」
一方仲魔内では参謀的存在になる2人は
一見まったく性質が別物のようで実は似ている鬼神と魔人を
どこか冷静に見据えていた。
「この場合、一方が防御、一方が攻撃に回るのが一般的だが
あちらはあまり作戦など立てずに本能で来そうだな。どう出る?」
「なら、こちらも臨機応変に対応するしかないね」
「・・だろうな」
それはそれでちょっとやりにくそうだと思いつつ
ミカエルは腕をぐるりと回し、フトミミは袖をまくって臨戦態勢をとる。
「・・みんな一応言っとくけど、物を壊さないように」
ふくれ上がっていく緊張感の中
四人はわかったとばかりに無言で手を上げて答えた。
カンカンカンカカカンカン!
カキンコキンカキンカンキキンキンカキン!
フトミミの予想通り、それは長々とした持久戦になった。
何しろ全員人外だ。
動体視力もよければ反応も人並み以上。
もの凄い勢いでテーブル上を跳ね回るパットを打ち、返し、防ぎ
攻撃してさらにそれを攻撃で返しそれをまた防ぐ。
決着の速いエアホッケーでこれほど勝負のつかない勝負も珍しく
気がつけば周囲にはちょっとした人だかりができていた。
しかし4人ともそんなものを気にしている余裕はない。
何しろ一瞬たりとも気を抜けばあっという間にゴールを取られる。
それほどに緊迫し力の平衡した勝負はもう10分近くに及んでいた。
しかもしゃべる間もないため当然のごとく全員無言。
横から見てるとちょっと怖い。
「・・・止めた方がいいかなサマエル」
「いえ、体力の切れた方から自然と負けるでしょうから
好きなようにさせておいた方がよろしいかと」
1人蚊帳の外にいた、というより難を逃れたようなサマエルが
気にする様子もなく冷静に答える。
確かにみんな少しづつ動きが鈍くなってきているので
ほっておけばそのうち勝負はつきそうだ。
今の所鬼神2人はまだ大丈夫なようだが、本の虫になっていたバージルと
最近デスクワークをしていたミカエルのどちらが先にへばるかで
勝負は決まりそうなのだが・・・
『ジュンヤ君、聞こえるかね?』
その時ふと背後から聞き覚えのある声がした。
しかし振り返ってみても誰もいない。
と、言うことは・・・。
純矢は人だかりのできた場所から離れ、人目につかない所で小声を出した。
「・・・スパーダさんですか?」
おそらく背中にある刀からしたのだろう魔剣士の名を呼んでみた。
『すぐそこを出て左へ走りなさい。
大きな方の鬼神が持っていた荷物を盗んだ者がいる』
「えぇ?!」
『手を出せないことはないが
私が人間に直接手を出すのは色々とまずい。
だが場所はこちらで把握している。走れるかね?』
「わ、わかりました!」
「・・ジュンヤ様どうしました?」
追いついてきたサマエルの問いに
純矢は少し緊迫したような答えを返した。
「トールが持ってた一番大きいバックが置き引きされたらしいんだ!
走ればまだ追いつけるかもしれない!」
「わかりました」
サマエルは緊急だと判断したのか詳しい事情を聞かず
純矢の後に続いて人混みをぬうように走りだした。
時々聞こえてくるスパーダの声を頼りに、純矢とサマエルは
人通りの多い道を人にぶつからないように注意して走る。
スパーダの話では灰色の上着を着た男が
人だかりのでき始めたあたり、4人が勝負に集中し出したころ
人混みにまぎれて一番大きな荷物を盗んだのだとか。
「私達から窃盗を行うなどと、なかなか大胆な人間ですね」
「油断してた俺達も悪いよ。
それにむこうは俺達のこと悪魔だなんて思ってないだろうし」
息も乱さずけっこうな速さで走りながらそんな会話をして走っていると
家族連れやカップルの多い中、たった1人で見覚えのあるバックをかかえ
歩いている灰色の上着の男が目に入った。
『よかった、間に合ったか』
背中からホッとしたような声がした。
と言うことはあれが犯人なのだろう。
「あの!すみません!」
いきなり飛びかかるのもなんなので一応声をかけ
おとなしく荷物を返してくれないかと思ったが
その男は純矢達を見るなりぎょっとして、背を向けると全力で逃げ出した。
「・・あ、やっぱりダメか」
「素直に返すようなら置き引きなどしません」
「言えてるな」
しかし2人ともいたって冷静にそれを追う。
何しろただの人間と悪魔では身体能力が違いすぎる。
だが人混みをよけながらの追跡ではそう簡単には追いつけない。
『主、我ガ捕ラエヨウカ?』
ストックからケルベロスが提案してくるが
純矢は頭をかきながら苦笑した。
「うーん、気持ちはありがたいけど
こんな所で狩猟行為なんかしたら保健所に通報されそうだしな」
『・・・遊園地トハ色々ト不便ナトコロダナ』
いや遊園地が不便なのではなくて
自分たちがここに合わないだけなのだ。
現役で狩りのできる地獄の番犬とか、放電癖のある鬼神とか
どこかの誰かのように銃刀法違反で精神状態がアンバランスな魔人とか
・・・・・・・・・。
・・・俺、なんでそんなメンバー連れてきたんだろう。
「ジュンヤ様、遠くへ行かないで。戻ってきて下さい」
「・・・・・・あ、ごめん」
いつも通りの冷静な声に
純矢は遠くへ行きかけた思考を引き戻された。
「ところでジュンヤ様、もう少し距離が縮まった時に
お手を拝借してもかまいませんか?」
「え?もしかしてあれをやるのか?」
「上空からの方が狙いが定まりやすいので」
「・・・でも実は実戦してみたかったんだろ?」
「・・わかりますか?」
元が表情のない蛇だったからか、それとも今が文句なしの美人だからか
そう言って軽く笑ったサマエルは見慣れた純矢でなければ
誰もが一発で見惚れただろう笑みを浮かべた。
けれど純矢は知っている。
この邪神がこんな顔で笑う時、自分以外の何かに厄災がふりかかることを。
「それじゃあいち、にの、さんで」
「わかりました」
何事かを確認し合うとまず純矢が前に出て
サマエルがその後につくように走る。
そして犯人までの距離があと少しになり
純矢が手のひらを組みながらカウントを開始した。
「いち・・にの・・さん!」
そして組んだまま差し出された手に
走っていた勢いを殺さずサマエルが飛び乗り
純矢はそれを力一杯上へ放り投げた。
サマエルは軽々と宙を飛び・・いや、元ある力を多少使い
人の往来の多い道、たった1人の目標に狙いをさだめる。
そして
ドガ! ぐっしゃ!
くるりと空中で一回転までしたライダーキックさながらな蹴りを受け
置き引き犯は一撃のもとに制裁される。
実はこの邪神、アクション映画好きで特撮物の隠れファン。
特に昔のウルト○マンの大ファンだったりした。
「お見事」
置き引き犯をふんじばって警備員に突き出し、荷物を取り戻し落ちついた所で
今まで姿を現さなかったスパーダが出てきた。
「・・あ、スパーダさんどうもすみませんでした」
「いや、元伝説のはしくれでありながら
人間1人止められなかったのは少々情けない」
「いえ、でもホントに助かりました。
俺だって色々(恥ずかしいの含めて)通り名があったけど
今はこんな平和ボケした奴になってますし」
「いやいや、私など君に比べればもはやロートルで・・」
「いえいえ、そんな事ないですよ。
俺なんてまだスパーダさんの何分の一しか生きてないヒヨコで・・」
・・・あ、日本式会話だ。
と謙遜しあってゆずらない2人を横で見ていたサマエルは思った。
「ところでそこの君は確か・・以前会った事のある邪神だね?」
「はい、先日はどうも」
しかしこの見た目は洋式なのに日本かぶれという変な悪魔。
ミカエルとサマエルを見るなり種族を言い当ててしまっているのであなどれない。
「そういえばサマエルもミカと一緒にスパーダさんと会ってるんだっけ」
「はい、一応は」
一応というのはたった2文字だが、ちょっとした意味が込められている。
その意味とはスパーダがこちらに気をつかってか
あの顔でバリバリの黒スーツを着込み受付を通してしまったものだから
受付嬢がどこのブルジョワがクレームを付けに来たのかとビビリ
会社全体がちょっとした緊張状態になったことだ。
考えてみればサマエルとミカエルとスパーダ、あとバージルがいれば
さぞ平和な日本とはほど遠いハードボイルドな映画が撮れただろう。
「・・ところでジュンヤ様
そろそろ戻らないと皆がエンストしてしまいますが」
「あ、そうか!」
「はは、相変わらず君は若いのにいつでも忙しそうだな」
「・・すいません、なんだかバタバタしてて」
「かまわないよ。そのかわり今度ゆっくりお茶でもどうだね?」
純矢は目をパチパチさせた。
それはまるっきりナンパのセリフ。
しかも今時使わているかどうか怪しいオーソドックスなものだ。
しかし考えてみれば、学校以外はずっとそばにいるバージルの関係で
スパーダとはあまりゆっくり話をする機会もなかったはず。
「いいですよ。いつか時間の空いたときにでも
ケーキの美味しい店紹介しますよ」
スパーダは少し驚いたような顔をしたが
すぐ表情がゆるめて嬉しそうに片手をあげた。
「あぁ、楽しみにしているよ」
「じゃあ俺急ぎますからこれで。サマエル!」
そう言うなり純矢は大きなバックにリュックと閻魔刀という
見方によっては家出してきたみたいな変な格好で走り出す。
サマエルは黙ってそのやり取りを見ていたが
興味ないのか一切口を出さず純矢の後を追おうとした。
しかし・・
「君は止めないのか?」
その間際、スパーダの少し意味深なセリフに呼び止められる。
おそらく黙っていたとはいえ賢明なサマエルは
スパーダがどう思って純矢にあんな事を言ったのかわかっていたはずだ。
出会い頭からその事を薄々感じとり、警戒の念を飛ばしてきたミカエルなら
さっきの言葉の時点で何か口を挟んできそうなものだが・・・。
しかしサマエルは別に動じるでもなく振り返り薄く笑った。
「必要ありませんので」
怪訝そうな目をするスパーダに
サマエルはさも当たり前のようにこんな言葉を続けた。
「ジュンヤ様は誰のものにもなりません。
たとえ魔界の王であろうと伝説の魔剣士であろうとも・・ね」
それは実例にもとづいた自信だ。
身も心もボロボロになった1人の少年は
友人、知人、静寂の思想家、結局誰の元にもつくことなく
かといって力を与えた深界の王につくこともなかったのだ。
「サマエル!」
何者にも浸食されなかった人修羅が、静寂にあった邪神を呼ぶ。
「では失礼」
軽く会釈した時の青い目は
心配の必要はないというよりは、お前には無理だと言ったように見え
スパーダはしばらくそれを見送った後、クと喉の奥で笑った。
「・・なるほど、必要がないか」
そう言えば以前会った寡黙な魔人も
こちらの事をただ傍観しているだけのように見えたが
あれも今の邪神と同じ考えを持っていたのかもしれない。
「面白い。やはりここにはまだ興味ある事に満ちている」
そう言って笑うスパーダは、純矢が見ていれば見違えただろうほど
ダンテとそっくりな目をしていたとか。
ちなみにゲームセンターに戻ってみると
ミカエルとバージルは同時に果てたらしく
残ったフトミミとトールが見た目にはとってもバランスの悪い
けど力はほぼ互角という変な打ち合いをやっていた。
果てた2人はそろって某あしたのボクサーのように白くなっていて
救急車を呼ばれそうになっていた所をあわてて回収。
遊園地に遊びに来てゲーセンで燃え尽きられても困るので
一応メディアラハンをし、その後休憩もかねてお昼となった。
4へ