さすがにしょっぱなから絶叫マシーンはまずかったのかと考え直し
純矢が次に案内したのがメリーゴーランド、つまり回転木馬だ。
いくらなんでも絶叫マシーンの次で
しかもこのメンバーでそれはないだろうとは思うが
遊園地に慣れるという点ではまぁ悪くはない選択だろう。
見た感じも怖くないし、それほど激しい動きもない。
たださっきのダメージが残るサマエルとミカエルは
休憩をとるために事前に辞退を申し出た。
「これも高槻が好きなものなのかい?」
「・・・えぇまぁ。ホントは子供とか女の子とかが乗るものなんですけど
のってると本当に馬にのってるような気分になるから」
「なるほど」
そう言えば乗っているのはみな女子供ばかりで
純矢くらいの若者はあまり見かけない。
「フトミミさんは乗るんですよね」
「もちろん」
「トールとバージルさんは?」
トールはともかくバージルの顔が一瞬引きつった。
子供の頃、これと似たおもちゃを見たことがある。
そんなおもちゃに女子供とまじって乗れるほど
彼のプライドは退化していない。
「・・これは我のような者でも騎乗してよいものなのか?」
「ここのは結構大きいから、大きい馬に乗れば大丈夫だと思う」
「そうか。ならば同行しよう!」
どうやらトールの頭の中には
人の目を気にするという思考があまりないらしい。
「で?バージルさんは?」
きっと純矢には悪意はない。
しかし絶叫マシーンの次がこんなカワイイ乗り物で
しかもそんなのに2mある大男と大人の自分をさそう神経は
慈愛なのか天然なのか一体どっちなのか。
けれどせっかく気をきかせてくれている母のさそいを
これ以上断るにはしのびなく・・・。
「・・・・・・・・・乗る」
結局バージルは悪魔でも弟でもない情に負け
カワイイ音楽のなるカワイイ乗り物に乗るハメになった。
メリーゴーランドというのは乗ることのできる模型の馬が上下に動き
そのテーブルが大きくゆっくり回るだけの単純なしろものだったが
それでも不思議と馬に乗って走っている感覚が味わえる不思議な乗り物だ。
元が巨体ゆえに馬に乗ったことがないトールには
それは新鮮そのものだった。
たとえ周りが女子供であろうとも
結構周囲から面白がるような注目が自分に集まっていても
バージルが全然動かないカボチャの馬車の中で赤くなったままふてくされ
無理矢理寝たふりを決め込んでいても
乗っている馬が自分より小さかろうが関係なかった。
「気に入ったようだね」
「・・・でもちょっと複雑なんですけど・・・」
かれこれ6周目を乗っているトールを見ながら
フトミミは微笑ましそうに、純矢は少しげんなりしたようにそれを見ていた。
小さい子供や女の子にまじって回転するトールは
あきることなく馬にゆられ、ぐるぐるぐるぐる真顔で回り
最初は微笑ましく見ていたが純矢だったが
あまりにしつこく乗られるものでだんだんと恥ずかしくなってきた。
「ジュンヤ様、ここは私が見ていますので先に行かれてはどうですか?」
「・・ごめん。じゃあ頼むよ。気がすんだら俺の携帯に連絡入れて」
「わかりました」
あまりそうは見えないが実は相当楽しんでるトールと
そのお目付のサマエルを残し、残りのメンバーは他へ移動することになった。
サマエルを1人にすると外見が良いのでナンパが少し心配だが
家族やカップルが多い中でその可能性も少ないだろうし
サマエル自体もしっかりしているので大丈夫だろう。
と思って踵を返そうとすると
ふと視線のはじに、どこかで見たような紫が目に入る。
「・・あれ?」
もしやと思って探してはみたが
それはもう人混みの中に消えてしまったのか
それとも見間違いだったのか再度見つけることはできなかった。
「・・母さん?」
ぽんと叩かれた肩に振り返ると
探していた人物とそっくりの男が少し不思議そうにこっちを見ていた。
「・・・何でもない。行こうか」
そう言えばあの人、ホラーハウスとかにいたら違和感ないかもな。
などと思いながら純矢はバージルの背を押すようにして再び歩き出した。
次の乗り物も回転系だ。
丸い台の上に大きなコーヒーカップが並んでいて
その台とカップの両方が回転している乗り物だった。
「・・回転に回転が加わるのかこれは?」
ようやくジェットコースターのダメージから回復できたミカエルが
ぐるぐる回るカップを見ながら不思議そうに言う。
しかしこれを知る純矢にしろ
どうしてこんな変な動きをわざわざ作るのかを説明するには難しい。
「うーん、これは見ての通りそんなに怖い物じゃないけど
何が楽しいのかって言われるとちょっと説明しにくいな」
「では全員参加ということでかまわないかな」
「・・む、まぁよかろう」
「俺も異存はない」
物怖じしないフトミミの提案にミカエルはうなずき
多少間抜けな乗り物だが、回転木馬よりはマシだとバージルも承諾した。
が、純矢はここで1つ大事なことの説明をしていなかった事に
何分か後気付くことになる。
ちょうど人数がいいので4人一緒のカップに乗ることにした。
純矢とフトミミは笑っていたが、ミカエルは少し緊張気味に
バージルは少し憮然としつつ機械がゆっくりと動き出す。
そして・・・
(しばらくお待ち下さい)
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・フトミミさん・・・・・」
「・・・いや、その・・・すまない」
ご存じの方もおられるだろう。
この乗り物の中心には小さなテーブルのような台があり
それは回すことによって自分達が乗っているものを
任意の方向に自由に回転させる事ができるのだ。
それは触らなければ人の乗る重力と遠心力だけで
自然と回転するだけですむ乗り物だが
使い方次第では凶器になる。
それを知らなかったフトミミは、それがただ面白かっただけなのだろう。
それこそ鬼のようにそれを回して回して回しまくり
周りを一切気にせず遊びたくったものだから・・・
それはさながら野菜の水切り器にかけられ
ひからびるほど水を飛ばされたレタスの気分だ。
さすがに経験のある純矢もフラフラになり
出すもの出しつくしたミカエルはまだしも
バージルにいたってはミカエルに背負われて死んでいた。
「いやまさか、これほど大事になるとは思わなくて・・」
「・・・いえ・・・事前に説明しなかった俺も・・・悪いんですけど・・・」
なんでやらかした本人が一番元気なんだと思うが
この鬼神は元がマネカタであり思念体だった時のことも含めて
まだいろいろと謎の残る存在だ。
ひょっとしたら元が泥でできている擬人だから
三半規管がないだけなのかもしれないが。
「・・とりあえず・・ちょっと休憩しようか。・・・バージルさん死んでるし」
「・・同感だ」
「・・いや面目ない」
「・・・・(綺麗な川を渡ろうとしたら生みの母に怒られたので引き返し中)」
恐縮するフトミミとなんとか歩いているミカエルと
その背中でぴくりともしていないバージルをつれ
ともかく近くにあったベンチへ移動。
あまり大きなベンチではなかったが何とかバージルを横にして
ミカエルをその横に座らせる。
「すいません、俺冷たい物買ってきますから見ててやって下さい」
「あぁわかった」
とても遊園地に来て乗り物に乗っただけとは思えないほど衰弱した2人と
それをハンカチであおいでいる1人を残し
純矢は近くの売店を地図で確認して1人走った。
『・・我ハ参加デキナクテ本ッッ当ニヨカッタ』
「・・普通はこんな事にはならないんだけどなぁ」
ストックの中でおびえたような心底ホッとしたような声を出すケルベロスに
純矢は走りながら苦笑いをした。
自動販売機で飲み物を4つ選び
ボタンを押し終わったところで取り出し口に手を突っ込む。
しかし3つ取ったところで手がふさがり、どうしようかと迷っていると。
「・・これを取ればいいのかな」
「え?」
横から紫色の袖がすっと伸びてきて、最後の1つを拾い上げてくれた。
そこにいたのは今度は間違いなく、さっき見たと思った魔人2人の実の父だ。
「スパーダさん!?出てきて大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だ。バージルには見えなくしてある。
・・というか今のバージルでは通常時の気配も拾えぬだろう」
その姿は前と変わらない奇抜な姿のままだったが
遊園地にいるとなぜか不思議と違和感がない。
「・・とは言え、私自身も先程の回転運動で弾き出されたようなものなのだがな」
「あ、そうか。閻魔刀も一緒だったから・・」
そういえば、ちゃんと見えてはいるものの
前に薄かった気配が今日はさらに薄い。
スパーダはお茶の缶を純矢に渡しつつ、参ったとばかりに頭をかいた。
「もう少し早く気付いて脱出しておくべきだったのだが
君の近くは居心地がいいものでね。つい長居をして巻き込まれてしまった」
「・・はぁ」
なんだかよくわからないほめ方をされて純矢はちょっと返事に困った。
『・・・相変ワラズ得体ノ知レン男ダ』
しかしその直後、ストックでケルベロスがもらした一言に純矢は少し驚く。
「ケル、お前この人(悪魔)知ってるのか!?」
『何日カ前、主ノイナイ時ニ挨拶ダトイッテ訪ネテ来タ。
ふれすハ何ヤラ警戒シテイタガ、我ハ特ニ危険ナニオイヲ感ジナカッタノデ
一応ハ主ノ知リ合イトシテ認識ハシテアル』
「へぇ、そうなんだ・・」
「・・?誰と会話をしているのかね?」
さすがにストックにいる仲魔の声までは聞こえないのか
スパーダが不思議そうに聞いてくる。
「あ、ストックに・・・
いえ、俺のそばにあるストックっていう空間にいるケルベロスと少し」
「あぁ、あの亜種の白い番犬」
「スパーダさんケルベロスと会ってたんですか?」
「君がバージルがいない時を見計らって一々説明するのは面倒かと思ってね。
差し出がましいかとは思ったが、私が自分で1人づつ自己紹介をして回ったよ」
「・・そうなんですか。いえ、助かります」
やはりダンテには似ずマメな父だ。
だがケルベロスを訪ねた時、以前の事を覚えていたフレスベルグが
純矢を取りに来たのだと飛びかかってきて
ケルベロスがそれを助けていたなどと純矢は知らない。
「じゃあハー・・じゃなくてマザーハーロットとかにも会ったんですか?」
「少々居所は掴みにくかったが何とかね。
君の配下には悪魔らしからぬ者が多いと思っていたが
いやいや、あれは立派な魔界の女帝らしくて安心したよ」
「・・・それって喜んでいいんですか??」
やはり純粋な悪魔と人の感性では価値感にズレが生じるらしい。
「ともかく私はしばらく外から様子を見させてもらうよ。
心おきなくあいつを鍛えてやってくれたまえ」
「・・いえ別に修行してるワケじゃないんですけど」
「?・・ここは忍者の修行場ではないのか?」
何時代の発想だよ
と言ってやりたかったがそれはそれで年上
しかもケタが2つ3つ違いそうな年上に失礼なので純矢は耐えた。
「・・・違いますよ。ここはレジャーランド、つまり娯楽施設です。
忍者なんてもう絶滅・・いえ、少しは残ってるかも知れませんけど
忍者ってしのぶものって読みますし、こんな大っぴらに訓練したりしませんよ」
「なるほど、それもそうか」
見た目は渋くてかっこいいが、やはりダンテと同じくどこか抜けてる父だった。
そして一端スパーダと別れて戻ると
純矢はまだ死んでいたバージルをよそに
ミカエルとフトミミにスパーダの事を聞いてみた。
するとやはり2人とも面識を持っていたらしい。
何でもミカエルの方はきちんと会社にアポをとってサマエルと一緒に面会し
フトミミはバイト先の邪魔にならない時間帯を見計らって訪ねてきたそうだ。
とても死んでいる悪魔とは思えないほどの律儀さだ。
ただミカエルだけはなぜかスパーダの事をあまり信用せず
何やら渋い顔をしていたが、それはあのダンテの父であるからなのか
それとも純悪魔と大天使の因縁か、はてまた主を守る者としてのカンなのか。
ピリリリリ ピリリリリ
それはともかく、ようやく起きあがれるようになったバージルに
買ってきた缶を渡しハンカチであおいでやっていると
ふいに純矢の携帯が鳴った。
発信元はサマエルの携帯だ。
「はいもしもし、サマエル?」
『こちらは気がすんだようですので今から合流します。
今はどちらですか?』
「えっと、ちょっと待てよ・・・」
現在地を調べるためポケットから地図を出す。
「そこからなら右にY字の道があるだろ?それを左へ行って・・・」
「高槻、缶を捨ててくるよ」
「あ、どうも。・・で右に売店が見えたらその道をまっすぐ・・・」
「・・・・母さんトイレ」
「はい、行っておいで。・・それから突き当たりを左へ曲がれば・・・」
「主、おやつを開けていいか?」
「うん、いいよ。・・そう。ベンチの並んでる所があるからそこにいる。
見ればすぐ分かると思う。うん、それじゃ一端切るよ」
本人に自覚はないが、それはまるで遠足に来た引率の先生のようだ。
そうしてミカエルが開けたおやつのカ○ル(カレー味)を
トイレに行ったバージルをのぞくメンバーでつつきながら待っていると
しばらくしてサマエルとトールがやって来た。
トールは大きいので、サマエルは色々と目を引くので見つかりやすい。
といってもトールの方ははしゃぎ過ぎたと反省してるのかちょっと縮んで見えたが。
「お待たせしました」
「・・・すまぬ主」
「はは、そんな縮こまらなくても楽しんでたならそれでいいよ。
・・・・むしろ来れなかったのは運が良かったのかもしれないし」
「「は?」」
どこかひどく遠い目をする純矢に、フトミミが赤くなってこほんと1つ咳払いをした。
「ところでサマエル、待ってる間に声かけられたりしなかったか?」
「不審な輩含めて何人か来ましたが適当に追い払いました」
「・・まさか実力で?」
「いえ、口頭で」
「・・・あっそ」
元が数メートルある蛇に実力行使されないのはありがたいが
言葉は時として刃より強力な武器となる。
この見た目が美人で、実は仲魔内で最も言葉に毒を盛る事のできる邪神に
うかつにも声をかけた男達の末路がどんなものか・・
純矢は考えるだけでも怖いので忘れることにした。
「・・ところでジュンヤ様、人数が足りないようですが」
「あぁ、バージルさんならトイレに行ったけど」
「・・それにしては長くないか主。いくら長くとももう戻ってよい時間だが」
時計を見ながら言うミカエルに純矢はちょっと嫌な予感をさせる。
電話をしていて気付かなかったが、いくら近いとは言え
こんな人の多い所で1人にさせてよかったものだろうか。
しかし閻魔刀、つまりスパーダもいるだろうしそうそう大変な事には・・
ピンポンパンポーン♪
その時チャイムの音の後、場内アナウンスが始まった。
『迷子のお知らせをいたします。
東京都からおこしの高槻純矢様。
息子さんがお待ちです。至急迷子センターまでお越し下さい』
ピンポンパンポン♪(下がり調子)
ぱたり
チャイムが終わると同時に
純矢はマッチ棒のごとく綺麗に倒れた。
「・・・・・・あのぅ・・・・非常にすみません。
・・・高槻ですけど・・・」
係の人にもの凄くびっくりされたような目で出迎えられつつ
純矢は穴があったら埋まりたいくらいの気持ちで保護室に案内された。
何でもトイレの帰りに道を間違え
しょげていた所を人のいいおばあさんに拾われて
ここへ連れてこられたのだとか。
バージルはどう見ても迷子というには無理があるが
そのおばあさんは目が悪いのかボケているのか
でっかいバージルを迷子だと言い張り
バージルもバージルで何を聞こうが黙秘するので
持っていた迷子フダから純矢の名前を見つけて呼び出したそうだ。
ともかく案内された保護室の前でペコペコ頭を下げまくり
とても複雑な笑みを浮かべた係のお姉さんと別れると
純矢はそっと部屋をのぞいてみた。
「違う。安定しているものを下に置いてから軽いものを上に置くのだ。
何でも積めばいいというものではない。
下から上へ小さくする事を心がけて積めばそう崩れたりはしない」
大きな大人が閻魔刀とリュックを背負ったまま
子供にまじって積み木の講座をやっている。
しかもそれがあまりに真面目にしているものだから
なぜかほとんど違和感がない。
純矢は頭を抱えてうずくまった。
しかしその肩を横からぽんと叩いた者がいる。
顔を上げるとスパーダだ。
「・・すまない。直接手出しすると気付かれてしまうので力になれなかった」
「・・いえ、目をはなしたオレも悪かったんですし・・」
気を取り直して再度中をのぞくと
バージルは何だかその部屋のボスのように、子供同士のケンカの仲裁をしたり
泣きそうな子供の相手をしてやったりしている。
それは見た目はちょっと怖いが根は優しい保父さんのようだ。
「・・ふふ。やはりダンテの相手をしていただけあって
あいつは面倒を見るのがうまいな」
「バージルさんが・・・ダンテさんの面倒見てたんですか?」
「2人共まだ子供だった頃の話だ。ダンテはやんちゃだったので
自然とバージルがそれを押さえる役回りになっていた」
そう言ってスパーダはどこか懐かしそうに目を細めた。
しかし純矢はどちらかというと純矢はダンテに面倒を見られていた方なので
ダンテがやんちゃであの兄に面倒を見られてなどちょっと想像できなかった。
だとするとダンテは純矢のことを弟だと思って面倒を見ていたのかもしれない。
兄弟の末っ子というのは弟を欲しがるという話もあるし・・・。
などと思い子供にまじったままのバージルをながめていると
横から軽く肩を引き寄せられた。
「しかしこうすると昔を思い出す。
私はあまり妻とすごす事はできなかったが
こうして2人の息子をながめていた時は
・・悪魔の私が言うのもなんだが至福の時だった」
と、見上げた先の紳士(ホントは悪魔)は実に幸せそうで
肩を抱かれたまま純矢は呆れたように苦笑した。
「でも俺奥さんじゃないですよ?まして男だし」
「・・いや、君と妻は性別は違えどよく似ている。
姿形は違うが、内面・・いや、私の流儀で言うのなら魂が似ていると言うのかな?」
「はは、スパーダさんもダンテさんと似たような事言うんですね」
その途端、純矢から見えない方にあった魔剣士の頬がぴきりと引きつった。
「・・あ、ともかく俺迎えに行ってきます。
スパーダさんも一応隠れてて下さいね」
そう言って肩に置いていた手をするりとかわし
部屋のドアに手をかけて入っていく純矢を見ながら
スパーダはかわされた手を顎に当てて小さく笑う。
「・・・なるほど。考える事は皆同じ・・か」
静かだったその目が一瞬、別人のようにがらりと変わった。
「・・・面白い」
その言葉と共に浮かんだ笑みは
ダンテとバージルの怖い方の笑い方をたし
夜道の木にひっかかっていたマネキンの首の怖さ(筆者体験)をかけ
細○数○の予言とシェイクしたような
悪魔どころか地獄の魔王ですら裸足で逃げ出しそうな笑みだったが
それを見た者は幸いなことに誰もいなかった。
「・・バージ・・ルさん」
入るなりその部屋全体の好奇心の目にさらされ、純矢は一瞬固まった。
しかし早く出ないと外で待っているみんなが心配するので
ともかく部屋の真ん中で積み木をしていたバージルに声をかけた。
保父のようだったバージルは一瞬驚いたような目をしたが
ごまかすように1つ咳払いをすると、何事もなかったかのように立ち上がった。
「・・・迎えが来た」
すると何人かの子供が名残惜しがってまとわりついてくる。
そう言えば泣いている子供が1人もいなかったのは
態度はちょっと素っ気くて高圧的だが、親とはぐれて心細い中
唯一頼りになったバージルのおかげなのかも知れない。
「ついて来るな。お前達にはお前達の帰る場所がある。
それと先程も言ったが、泣いて救いを求める行為は無駄なことだ」
おいおい、子供相手に何言ってるんだと思ったが
それも彼なりの気づかい・・・のつもりだろうか。
「無駄なことをせずただ待つがいい。
そうすればお前達の迎えは来る。・・・必ずな」
しかし言ってることが難しくてわからなくても、カリスマ的には効いたのか
まとわりついていた子供はバージルから離れてくれた。
「・・それでいい」
言い方も態度も子供相手のものではなかったが
バージルは踵を返すと背にしていた閻魔刀とリュックを背負いなおし
ちょっと驚き加減な純矢の肩を軽く押しつつ部屋を出た。
パタン。
2人で部屋を出て、1歩、2歩、3歩、4・・・
どが
「・・うわっと!」
何となく予想はしていたが、やはりバージルは無言で
なおかつ突き飛ばさんばかりの勢いで飛びついてきた。
さすがに子供の手前ではやらなかったとはいえ
純矢が悪魔でなければ弾き飛ばされ骨が粉々になっていたほどの勢いだ。
「・・・極端だなバージルさんは」
バージルはなぜか腹に抱きついてくる習性があるので
しっかり踏ん張ってないと押し倒されそうだ。
しかし以前重いと言ってそのまま持ち上げられ
足が宙に浮いてしまった事があるのでここは踏ん張り所・・
パシン!!
「・・つッ!」
しかし不意に鋭い音がし、バージルは慌てて純矢から離れた。
肩越しに振り返るとそれは背にしていた閻魔刀から来た小さな雷撃の音だ。
袋に収められたままの形見はまるで警告するように小さく震え
油断なくパチパチと小さな雷を発生させている。
と言うことはスパーダが助け船を出してくれたのだろうか。
「・・あ、ほら。閻魔刀がいつまでもメソメソするなって言ってるぞ。
しゃきっとしないとな。男の子だろ?」
今まで大人しかったはずの愛刀に突然刃向かわれたことは少し気になるが
確かに母の言うことももっともなので
バージルはちょっとこげたように感じる背をかいて姿勢を正し
いつものバージルに戻った。
「よっし。じゃあはい」
そう言って純矢はひょいと片手を出してくるので
バージルは意味が分からず怪訝そうな表情になる。
「・・手?」
「またはぐれるかもしれないから
人混みに慣れるまでしばらく手をつないで歩こう。
ちょっと恥ずかしいけど・・何回もここへ来る方がもっと恥ずかしいし」
バージルはじーーとその手を凝視した後
少し戸惑いを見せつつも出された手を軽く握った。
「じゃあ行こうか。みんな心配してる」
そうして軽く引かれる手は、かつて自分が走り回る弟の手を掴んで
捕獲していたのとは逆のパターン・・
いや、違う。
これはかつて弟が母を独占し、ただそれを遠くで見ていただけの自分に
母が笑ってもう一方の手を出してくれた時と似ていた。
けれど今度はその弟がいないので
今母を独占するのは自分しかいない。
パリッ
しかしそう思ってちょっとした優越感にひたっていた自分の背で
愛刀が静かに、しかし何か苛立つように放電したのを
つながれた手に意識を持っていかれていたバージルは気がつかなかった。
しかしその状態で表に出て、まずミカエルの抗議を受けた純矢は・・
「いいじゃないか。バージルさんこの中では末っ子みたいなものなんだから」
とあっさり言い放ち。
元長男のバージルは何だかちょっと複雑な気持ちになった。
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