でっかい鎌みたいな剣を握りしめ恐る恐る近づくと
べで始まるらしい名称不定の物騒な魔具は
あと数歩というところでぶしーと怒ったように発光して
地面の砂をちょっとだけ巻き上げた。

何をしているスパーダーァア!!
 そんなところでコソコソせず堂々と・・!!』
「あの〜・・」

その瞬間、今までとぎれとぎれにしていた発光も
カタカタもがくような動きもぴたりと止まった。

どうやらやっとこちらをスパーダではない誰かと認識してくれたらしい。

何だ貴様は!?スパーダではないな!?
 スパーダでないのならなぜスパーダの気配をさせている!』
「・・いや、俺今そのスパーダさんの持ち物を借りて話をしてるんだけど
 その前に俺さっきまで手足取られてたんだ。覚えてないか?」
知るか!!

さっきまであれだけやらかしておいて自信満々にそう返される。
なんとなく予想はしていたが、やはりこの短気な魔具
目標物以外はまるで眼中にないらしい。

「・・・え〜と、とにかく俺、スパーダさんの知り合いでジュンヤっていうんだ。
 スパーダさんとその息子さん達には色々迷惑こうむってるんだけど・・」
なにぃ!?ならばなぜそのような輩がスパーダの力なぞを借りている!
 まさか貴様ヤツとグルなどと言うまいな!?』
「いやグルってほどでもないよ。俺その息子さんの1人に殺されかけた事あるし」
『ではなぜその息子の方を殺さん!そこにいるのだろう!しかも2匹!!』
「うん、いるにはいる。でも俺は別に殺されなかったんだし
 その後色々助けてもらったりもしたからそこまではしないよ。
 たまに蹴ったり殴ったり燃やしたりはするけど」
『・・??』

黒い魔具は考え込むように黙り込み
そうしているかどうかは分からなかったが、首をかしげてうなるような声を出した。

『・・わからん。貴様スパーダの一族に迷惑を被りながらも
 殺しもせず共にあり、あまつその力を借り俺と話をするというのか?
 奴ら一族が我ら魔界の悪魔にとってどれほど忌々しい物か知らぬわけでもあるまいに』
「俺は魔界育ちじゃないから忌々しいとかどうかは分からないけど
 他人に迷惑かける素質ってのは身をもって知ってるつもりだ」
『ではなぜだ!?なぜ恨みもせずそう平然としていられる!貴様は悪魔だろうが?!』
「そりゃ悪魔だけど・・俺はその恨むとか腹が立つより先に思うことがあって
 そういう考え方にはいかないんだよ」
『何!?なんだそれは?』
「言ってもいいけど、つまんない事だぞ?」
『かまわん!言え!!』

どうやら自分以外の意見というのをあまり聞いたことがないのだろう。
魔具の言い方の中にはさっさと教えろとばかりの苛立ちと共に
ちょっとの興味や好奇心がまざっていた。

ひょっとしたらその興味に盛大な肩すかしをくらわせるかも知れないなと思いつつ
ジュンヤは一呼吸おいてその答えを出した。

「え〜・・まぁ簡単に言うと、あきらめたんだ」
『・・・・・ハ?』

そして予想通りというか何というか
あまりにあっさりし過ぎたその答えに野太かった声がひっくり返る。

それと同時に遠くで目を細めていたスパーダがちょっと目を丸くしたのだが
そんな事はつゆ知らず、魔具とは性格のまったく違う若い悪魔は
とてもあっさりした様子で話し出した。

「ほら、スパーダさんとその息子さん達ってこっちの都合おかまいなしな所あるだろ?
 こっちがいくら怒ったりしてもあんまり聞いてくれないし
 そんなつもりはなくても毎度こっちが困るような事してくれるし
 そんでもって怒って説教したところでその態度を改めてくれるとも思えないしさ。
 だから俺はもうこの人達はこんな性格でこんな性分なんだなって、あきらめたんだ」
『・・な・・・』

表情のないはずの魔具は口をぽかんと開けたような気配をさせ
なんだそりゃとばかりな絶句をする。

「それにさ、それ以上形が変わらないのに怒り続けるのって
 疲れるし時間も浪費しちゃうし、こっちばっかりが無益に苦労してるみたいで
 冷静に考えてみればバカバカしいだろ?」
『・・・・』
「だから俺はスパーダさん達はそういうもんだなって
 半分あきらめてつきあってるんだ。
 でもたまには怒ったりはするけど、それも半分あきらめてるし
 自分が疲れない程度にしてるつもり。それだけなんだよ」

そう言って笑うジュンヤとは対照的に、黒い魔具はすっかり黙り込んでしまった。

それは今まで怒りのあまり気付けなかったが、言われてみればの正論だ。

いくらこちらが長年恨んで怒りをありったけぶつけようが
元々それくらいでどうこうなるような連中ではないし
それに大元のスパーダにいたっては魔界全体を敵に回したような悪魔なのだから
そのうち態度が改善されるとも到底思えない。

ジュンヤの持っている物騒な剣ごしに聞いていたスパーダがふと苦笑し
横目で見ていたダンテがちょっと怪訝そうな顔をした。

そしてその一方、顔がないので表情のわからない魔具は
様子からしてかなり納得がいかなそうにうなるものの
とりあえずもう怒りっぱなしではなくなったらしく
しばらくしてかなり音量の落ちた声でこう切り出してきた。

『・・・おい貴様』
「ん?」
『先程魔界の悪魔ではない、と言ったな』
「そう。生まれも育ちもこっち。
 ついでに言うなら悪魔になってからまだ1年くらいしかたってなくて
 さっきもあんな方法でしか止められなかった不器用な悪魔だよ」
!?待て!では少し前俺を吹き飛ばしたのは貴様なのか!?』
「なのかって・・そんなの今頃気づいたのか?ホントに周り見てないんだなぁ」

黒い魔具は再び黙り込む。
表情は相変わらず不明だがちょっとショックを受けたらしい。

『そんな若輩が・・・・いや、しかし・・それほどの力量があるのなら
 スパーダの一族と対等に渡り合うのも納得がいく』
「・・あ、それとさっきはゴメンな。色々あって手加減がきかなくてさ」
『?何故貴様がそこで謝るのだ。
 邪魔があれば排除し目障りであればたたき潰すのが常識だろう』
「それはそうかも知れないけど・・でも俺はまだ悪魔になって日が浅いから
 そういう考え方が定着しなくて」
『・・・・』
「それに・・その考え方だと自分のまわりには自分以外の何もなくなっちゃうだろ?
 俺・・そう言うのは凄くイヤだからさ」

バランスを崩したのか呆れたのか、こけんと篭手の部分が横に倒れる。
その魔具が何を考えているのかは相変わらず不明だが
むっつりして呆れているという事だけはジュンヤにもわかった。

『・・・貴様、変な悪魔だな』
「時々言われるよ」

それは出会った悪魔に何度か言われた事のある微妙な感想だが
それはジュンヤにとってはある意味誉め言葉だ。

「さてと、それじゃ怒り疲れたところで壊れた部分、治そうか。
 すぐに済むからちょっとじっとしててくれ」
『なに!?貴様そんな事が可能なのか!?』
「ちゃんと効くって確証はないけど、こっちの攻撃が効いたならいけると思う」
『・・・・まったく、何なのだ貴様は?
 爆発的な力を持っているかと思えばその逆の事も可能とは・・』
「ま、それはそれで器用貧乏とも言うよな」

そうしてジュンヤはそこら中に散っていた魔具の破片を集め
一カ所に拾い集めてから手をかざそうとしてふと手を止めた。

「あ、そうだ。治す前に1ついいかな」
『・・?何だ』
「回復させるのはいいけどその後また暴れるってのはナシの方向で」
何を言う!!すぐそこにスパーダとその血族共がいるのだろう!!
 今やらず殴らず蹴らず喰い付かずしていつ・・!』
「じゃあこのまま放置するけど、それでいいなら存分に暴れてどうぞ」
『・・きっ・・貴様!この俺を脅迫する気か!!』
「そうとも言うけど俺にすれば立派な交渉だ。
 治してほしければ暴れない。暴れたいなら俺としても怖いから治せない。
 そうだろ?」
『ぐぬ・・!』

魔具は悔しそうにうなってバチバチ発光するが
さすがにこれ以上抵抗しても無益だと感じたのか
かなり仕方なさそうに口を開いた。

『・・・・いいだろう。少なくとも貴様だけには手を出さん』
「じゃあスパーダさん達には噛みつく可能性大ってことなのか?」
『数千年もの間恨み続けてきたのだ!!
 今さらハイそうですかと止められるものか!!・・・だが・・』

バリバリしていた発光がしゅぅと口ごもるようにおとなしくなる。

『・・貴様の意見はわからなくもないので・・今後取り入れてやらなくもない。
 しかし!あくまで参考意見としてだ!そこの所をはき違えるな!』
「・・じゃあ怒りにまかせて誰彼かまわず迷惑かけたりはしないんだな?」
『貴様の言う無駄な労力をはぶくだけだ!
 ・・考えてみれば闇雲に襲いかかるというのも効率が悪い』
「ふーん」

それはそれでちょっと悪い方に知恵をつけさせたかなとは思うが
多少理性的になってもらわないと周囲のとばっちりが大変なのも確かなので
今はともかくこの悪魔の言う事を信用してみる事にした。

「言い回しはちょっと不安だけど・・ま、いいや。
 俺が壊した分を治すだけなら怒られないだろ」
『・・・貴様、本当に変な悪魔だな』
「だからまだ悪魔になってから日が浅いって言ったろ?
 とにかくいくぞ。すぐ済むから楽にして」

物騒な剣を膝の上にはさんでしゃがみ
手をかざして使い慣れたスキルを発動させる。

手先から出た光りは黒い魔具を包み込んでバチバチ音や閃光をさせると・・

・・・・?音?

そこでジュンヤは疑問に思う。

普通ディアラハンを使った時、多少は光るがそんな変な音は出ないはずだ。

しかし実際音は出ているし光り方もなんかいつもより妙だし
光がおさまるとそこにあった黒色も微妙に増えているような・・・

・・・いないよう・・な・・

・・・・・・




「・・オイ、様子がおかしくないか?」

ダンテが横にいる家族達にそうもらしたのは
不釣り合いな剣を抱えてしゃがみ込んだジュンヤがそれっきり動かなくなった時だ。

ディアラハンをかけたのも見えたが、それも何となくは予想していたことだ。
しかしそれ以後動きがないというのはどういった事なのか
ここからではあの魔具がどうなったかまでは分からない。

「・・殺気のたぐいが消えたのを見る限り、交渉は成功したように見えるが・・」

物騒な剣ごしに声は聞こえても見るまではできないスパーダが目を細め
その横でバージルが少し目つきを鋭くする。

あれの破壊を止めたのは自分だが
それ以前に母に害をなすなら迷わず破壊するつもりでいたからだ。

しかし交渉は成立したらしく、それ以上の動きがない。
けれど差し当たって危険な様子もない。

不思議に思いまず行動を起こしたのはダンテだ。

「少年!どうした!」

一応言いつけを守って遠くから呼んでみても
その少年は首だけを動かしちょっとこっちを見ただけで再び視線を元に戻した。

どうやら様子からして異変はジュンヤの方ではなく、魔具の方にあったらしい。

居残りを命じられた悪魔家族は顔を見合わせると
ゆっくり歩いて悪趣味な剣を持ったままの少年の後ろへ行き
刺激しないようにそれをのぞき込み・・

そしてそのまま、ジュンヤと同じく固まってしまった。

そこにあったのは黒い魔具ではなく
黒くて丸っこい、装具とはかけ離れた毛玉のようなものだった。

子供の持つぬいぐるみくらいしかない小柄な全身は黒。
しかし小さい手足の先だけは靴下のように白く
頭のてっぺんには何かのなごりのような黄色いモヒカン模様がある。
目はつぶらでかわいいが、片方の目は昔斬られたのか
古傷のようになっていて勇ましい。

それは例えるなら・・いや、率直に言うならば
片目に傷のある黒い子グマだった。

その頭のてっぺんの模様が元ツノのある所だったり
開いている片目が魔具になる前に斬られてなくなり
たった今再生されて再生主と同じ金色になっているという事は
元の姿を誰も覚えていないのなら誰にも分からないのだが・・

とにかくその突然可愛くなってしまった黒い魔具に
その場にいた全員すっかり黙り込んでしまった。

そしてその元魔具で、再生後にクマになってしまった悪魔はというと・・
しばらくぼんやりしていたかと思えば、やがてぱちぱちと小さい目で瞬きをし
ちゃかちゃか手足をせわしなく見回し、ふんふんと忙しそうに周囲のニオイを嗅ぎ
その場にいた全員をきょろきょろ見回したかと思うと・・

ニギャーー!!

見た目にとても似合わない可愛くない声を上げて
スパーダめがけて飛びかかってきた。

が、素早く手を伸ばしたバージルに首ねっこを掴まれ
クレーンゲームの景品よろしく宙ぶらりんになる。

しかしそれでもニギャムギャギニャー!と短い手足を振り回して暴れるそれに
ダンテとスパーダがかなり微妙な表情で顔を見合わせた。

「・・・コイツ・・・こんなだったか?」
「・・・いや、記憶があやふやとは言え・・さすがにこうではなかったな」

そりゃ確かに黒かったし凶暴だったし
かなり損傷していたのでサイズはまぁいいとしても
各自の記憶にあるこの悪魔はここまでファンシーな外見はしていない。

「ふむ・・もしかするとバージルの時と同じく
 ジュンヤ君の力と先入観の結果こうなったのかも知れないな」
「え?・・あのこれって、元からこんなんじゃ・・」
「ない」
「違う」
「いや残念ながらこんな悪魔は魔界にほぼいない」

そろって順番に真顔で否定してくれた一家にジュンヤは1人仰天した。

えーー!?だ・・だって!べで始まったりバージルさんがベアとかって・・!?」
「俺は推測の話をしただけで確定はしていない。
 それにこんな明確なクマ型の悪魔なら全員正確にクマだと認識していた」
「あちゃあ・・」

そう言えば回復をかける寸前、元の魔具の状態ではなく
元がどんなのかなとちょっと半端な想像をしつつやってしまったので
こんなぬいぐるみみたいなのが勝手に出来てしまったのだろう。

じゃあ何か悪いことしたなとかジュンヤは思うが、当のクマ悪魔はまったく気にせず
バージルに首根っこをつままれたままぎゃあぎゃあ暴れている。

「・・・どうしよう、俺ヘタな事しちゃったかな・・」
「いや、母さんが気にする事ではない。
 そもそもこれだけしか残っていないのなら完全に復元することなど不可能だ。
 それに・・」

その目が幾分かの親近感をこめて
短い手足でじたじた暴れ続けるクマを見た。

「この結果が良いか悪いかはこれから決まる事だ。
 かつて母さんに再生された俺が、そうであったようにな」

バージルは静かにそう言って、まだ暴れているそれを突き出してきた。

そう言えば今ここにいるバージルも元はちょっと変わった姿をしていたが
同じように回復させようとして今の状態になっている。

確かに形は変わってしまったが自分で動けるようになったのだし
装具の状態でないのならもう勝手に手足に取り付いたりもできないだろうから
この元魔具がこれからどうなるかは誰にも分からないだろう。

が、その時しつこく暴れていた元魔具が
ジュンヤの前に突き出された途端、なぜだか急に火が消えたようにおとなしくなる。

「・・?」

バージルはもしやと思い、今度はスパーダの方へ向けてみると
再びギャーギャー激しく暴れ出す。

バージルはちょっと考えると
それを再生の母と父の間で交互に移動させてみた。

ギャー! ぴた ギャー! ぴた ニギャー! ぴた ギャ・

「遊ぶなァァーーー!!」

びしゃーむ!

それは背から小さい翼を出してさらにちっさい光る羽を飛ばし
手を離したバージルの手から落ちてぼよんとゴムボールみたく弾むと
とっさに物騒な剣をダンテにパスして手を伸ばしたジュンヤの腕にすぽんと収まった。

しかしそんな野太い声に可愛くない鳴き声をしていても
そうやって抱っこされると本当にぬいぐるみと変わらない。

「おのれ貴様!多少はマシなニオイをさせているかと思えば
 中身が大してスパーダと変わらんのか!」
「・・・確認をとっただけなのに何故怒る」

刺さった小さい羽をぷちぷち抜きながらバージルはムッとするが
一方のクマは吠えて威嚇はするもののそれ以上何かしようとする気配はない。
どうやら多少の攻撃はしてもジュンヤと交わした約束だけはきちんと守るようだ。

「・・・えと・・とにかくホラ、ダンテさん。
 これもう取り付いたりしないみたいだから・・いいよな?」

受け取った瞬間なぜか元の宝石や剣に戻り
バージルの分のアミュレットを返しかけていたダンテがぎょっとする。

「・・ちょっと待て。オマエ・・まさかそれをオレに飼えってのか?」
「え?でもこれってダンテさんの持ち物だったんだろ?」

シャー!とそれが抱っこされたまま威嚇してくる。

そりゃ確かに持ち物は持ち物だったが、それは魔具だった時の話であって
吠えても威嚇もしてこなかったし、何よりただの物言わぬ装具だったからの話であって
それをいきなりこんな装備もできない上にまったく懐かない
凶暴そうなクマたんにされのでは非常に困るのであって・・・

「・・ふむ・・しかし飼うかどうかは別として
 ジュンヤ君に危害を加えないというのなら特に問題ないのではないか?」
「それに関しては俺も同意見だ」
「・・・オイ・・・ちょっと待てオマエら」
「あの・・でもさ、元はと言えば俺のせいなんだから
 少なくとも俺がいる時は俺が面倒見るからさ。・・いい・・よな?」
「・・・・・・・」

トドメに申し訳なさそうな上目遣いをされてしまい
ダンテは本気で頭を抱えた。

いいも何も、こんな凶暴なの飼えないし飼う気もないし
でもだからと言ってそんなの危ないのを大事な相棒に押しつけるワケにもいかないし
だからと言って今さら処分する事も出来なくなったし
そして何よりすっかり忘れていたが最大の原因は
こんなのをほっぽらかして逃げた自分であるのであって・・・

「すまんダンテ」
黙れクソオヤジ

謝る気ゼロで棒読みする父に掴みかかろうとした息子は
ちょっと同情している兄に羽交い締めにされた。

「こらこら何を怒る。私は別になにもしていないだろう」
「・・ムカツク、元はといえば誰のせいなのかって問題を完全に棚上げしたあげく
 その紳士ヅラで傍観者決め込むその態度がこの上なくムカ・・」
「・・やめておけダンテ(無駄だから)」

などと大の大人達の繰り広げる地味なケンカに
うなり声を上げていたクマがすっかりやる気をなくし
いつの間にか眉間にシワをよせぐんにゃりしてしまった。

「で・・まだ怒り足りないか?」
「・・・・・・」

抱っこした元魔具のクマは答えない。
おそらく今までこんな連中に長年執着していた事がバカらしくなったのだろう。

だがちょっと落ち込みかけた丸い頭を撫で
自他共に認める変な悪魔の少年はのんきに笑った。

「でもさ、これからそんなに怒らなくて済むなら
 今までずっと怒ってきた分、これから別の使い方をする事もできるだろ?」
「・・別?」
「そう。なにも悪魔っていう種族の全部が全部
 ずっと怒ったり恨んだり殺したりしてなきゃいけないって決まりはないだろ?」
「・・それはそうだが・・・」
「ずっと恨んでた分を帳消しにしろとは言わないけど
 ちょっと考え方を変えると楽になったり別の道が開けたりするからさ」

ぺそぺそと強くもなく弱くもなく頭を撫でるその感触に
元魔具は片方しかないが再生されたばかりの目を細める。

今までスパーダを恨むことでしか存在を誇示していなかったが
確かにそう言われるとそれ以外にももうちょっと生きる意味を探してみるのも
悪くはな・・

「いやいやいやいや!
 しかしだからと言えヤツを無罪放免にするワケにはいかんのだ断じてー!!」
「?・・なんだうるさいな。なに1人で吠えてるそのクマ」
「うるさいスパーダの息子A!!その目に有害な着衣引き裂くぞ!!」
「クマ。それは間違っている。
 ダンテはAではなく順序としてはB、もしくはDとするのが正しい。
 Aとするなら俺の方であって別表記にするばらVになる」
知るか!!そんなもの詳しく説明しようがAだろうがBだろうが
 スパーダの腐れた息子である事に変わりないだろうが!!」
「残念ながら俺は一度再生されているので腐ってなどいない。
 今現在腐敗が進んでいるのは2名のみだ」
「・・バージル、真顔でひどくないか?」
「・・オイクソ兄貴、そりゃないだろう。
 腐りきってミイラにもなれない骨董オヤジと一緒にするな」
「クソは余計だと一体何度言えば覚えられる。
 そもそも脳が腐っているから父さん共々そんな記憶力しかないのだろうが」
「・・・ジュンヤ君・・・息子達がひどい・・・」

もう一体全体どっからどうつっこんでいいのやら
ぎゃあぎゃあ一家と地味に口論しているクマを抱えたまま
ジュンヤは呆れるのを通り越して途方に暮れた。

いやしかし、途方に暮れている場合ではない。
こんな所でいつまでももめていても仕方ないし
何よりダンテの店に残してきた仲魔や残りの魔具の事が心配だ。

「・・あ〜っと、とにかくさ、いい加減やめにして一端帰ろうよ。
 こんな所で延々口喧嘩しててもしょうがないし」
「そうはいくか!!今の今までないがしろにされてきた分
 ここで言いたいことをいっておかねば腹の虫がおさまらん!」
「その気持ちはわからなくもないけど・・
 でもさ、その前にさっきから気になってるんだけど
 お前どうしてそんなにスパーダさんの事恨んでるんだ?」

その途端、フギー!と牙をむいていたそれがピタっと硬直する。

そして流れる妙な沈黙。

ジュンヤは半目になってまさかと思いつつ一応聞いた。

「・・・・・おうい、もしかして・・」
「いッ!・・そ・・!その・・っ!いろ!色々だ!
 数ありすぎてそんなもの一々覚えて・・られるか!!」

今凄くあせって噛みまくって誤魔化したように見えたが
ジュンヤはあんまり関わりたくない第三者としてあえてツッコまないでおいた。

一体その昔のどんなドロドロした因縁があるのかと思いきや
実際にはただ単にどっちもどっちなだけらしい。

そしてそんな中、ようやく落ち着いた一家の大黒柱が
何か思い出したようにぽんと1つ手を打った。

「あぁ、そうだ。クマで思い出したぞその魔具の名前」
「アンタそんな今頃になって・・」
「・・言うなダンテ。思い出せなかった俺達も同罪だ。・・それで?」
「バージルのが一番近かったな。
 見た目にはあまり似合わないが光の力を使う閃光の悪魔で
 えぇと確か・・ベアウーフだったか?」

「ベフだァァーーーー!!!」


ベアウーフ・・・もとい、ベオウルフという黒い悪魔は
ジュンヤの腕から弾丸のような勢いで飛び出し
きりもみ回転を加えてスパーダの顔面に激突した。



その後、鼻血が出たから介抱してくれと甘える父と
治すならついでに鼻骨も粉砕しとけと拳を作るダンテ
あともう一回ベオウルフを投げつけようかどうか迷っているバージルが
もう一々仲裁するのも面倒くさくなってきたジュンヤをよそに
ひとしきり一悶着したのは言うまでもない。







6へ

ちなみにベオの状態は絵の所に放り込んでありますのでそちらを参考に。