「・・さってと、静かにしたのはいいけどこれからどうしようか」
スパーダの鼻に素早くティッシュをつめ、引ったくった閻魔刀へ殴って押し込み
一瞬ひるんだ兄弟達を続けざまにストックへ強制送還してから
ジュンヤはふと我に返ったように1人つぶやいてみる。
冷静になって考えてみればここまで勝手に走らされて来たので
当然ながら帰り道など覚えてないし、使えそうなバイクは壊れているし
それをこんな森の中に不法投棄するのも何だし
だからといってまたさっきみたいな方法で走って帰ろうとも思いたくない。
さてどうしようかと思いつつジュンヤは降りるのが面倒なのか腹にくっついたままの
黒い毛玉・・もといベオウルフに聞いてみた。
「・・ところでク・・じゃない、ベオウルフって
さっきみたいな装具の形にはもう戻れないのか?」
「いや、その気になれば可能な事は可能だ
だがあの状態になってしまうと俺だけでは身動きがとれん。
しかし今後あの連中を殴るのに使用したいのならすぐに言え。
喜んで力になるぞ」
「ん?ん〜・・それはまぁ・・機会があれば・・」
いつもの殴る蹴るの延長で思わず想像してしまったが
仮にも悪魔で魔界の武具なのだから、いくら頑丈な連中でもさすがにどうかと・・
ゴウ! がっ ズザザザー!!
などと思っていると突然空から何か音を立てて飛んできて
弾丸ような勢いで地面に着地する。
それは暗い中ではさらに目立つ金色をしているので
後ろ姿だけでも誰なのかはすぐ分かった。
「主!!無事か!?」
砂煙を上げて着地するなり転がるように駆け寄ってきたのは
やはり今回最初の被害者であるミカエルだ。
力の限り急いできたのか髪の毛も翼も荒れ放題で
おざなりに回復させてすっ飛んで来たらしく鎧もまだへこんだままだ。
「ミカ!?ミカこそさっきのは大丈夫なのか?!」
「私の事はかまわん!それより主こそ無事・・ではない!?
なんだその有様は!?一体何があった?!」
「いや見た目はひどいけどもう平気なんだよ!
それよりさっき殴ったところ大丈夫なのか?!もう痛くないのか?!」
「こんなものは後でどうとでもなる!
それよりその袖と足はなんだ!一体何をどうすればそんな事になるのだ!?」
「不可抗力だから仕方なかっだんだよ!それよりも
お前その様子だとちゃんと治してないだろちょっと見せろ!」
「だからどうして主はそう自分のことより他者を優先する!
それはまず自分の身の安全を確認してから行うべきだと何度言えば・・!」
などと延々繰り広げられるかみ合ってない押し問答に
抱っこされたまま見ていたベオウルフの目が点になる。
様子からしてこの天使と悪魔は主従関係にあるらしいが
性格や性分が似ているためか、話がちっとも進まない。
さすがにそんな事を頭上で延々されてもバカバカしいので
一発吠えて止めてやろうかと思った矢先
ミカエルがようやくその存在に気づき妙な顔をした。
「?・・・主、何だその・・幼児のリュックサックのような生き物は」
確かに今のベオウルフは軽くヒモでくくって背負えばそう見えなくもないが
さすがに自分をぶん殴って主人をこんな目にあわせた
今回の事件の張本人とは思わなかったらしい。
ジュンヤはそう言われて急に困ったような顔をし
視線をあちこちに飛ばしながら当たり障りのない説明をしてみた。
「・・え・・え〜〜と・・これについては・・帰ってから話してもいいかな。
色々と混みいった事情とかあって・・何度も説明するのも難しいし
それにほら、みんな心配してるだろうし・・」
「・・・・・」
なんだか捨て猫を拾った気分になりながらそう説明すると
ミカエルはじーーとベオウルフを見て何やら難しそうな顔をする。
ジュンヤは内心これがさっきの乱暴な魔具だとバレませんようにと思ったが
ミカエルはしばらくそのクマを凝視してからこんな事を言い出した。
「主、まず1つ確認をとらせてくれ」
「ん?」
「それはもう主に害のない悪魔なのだな?」
「・・あ、うん。それはさっき約束したから・・って、うわあ!もうバレてら!?」
飛び上がった拍子に抱えていたクマがつぶされてぎょあとか変な声を立てる。
しかしミカエルは別にそれを取り上げるつもりではなかったらしい。
「ならば問題はない。今フトミミが車でこちらに向かっている。
夜が明ける前にそこの二輪車の残骸を回収して撤収するぞ」
さらりとそれだけ言って手をかざすと
中途半端だった自分とジュンヤの治療を完全にすませた。
だがそれはそれでジュンヤにしてみればちょっと拍子抜けな話だ。
普通ここでそんな危ないの置いて行けとか
ついさっきまで敵だったのをほいほい懐に入れるなとか
ぶつくさ文句を言われそうなものだが・・。
「・・え?でもミカ・・いいのか?」
「何がだ」
「だってこれってダンテさんの所にあった危ない悪魔で・・」
「だが主がたった今安全だと認めたのだろう」
「・・・いや・・それはそうだけど・・・」
いつもならもうちょっと渋るだろうに、そんなアッサリ承認していいのかという目をすると
頭も性格も固い大天使は腕を組み
ぶすっとした表情丸出しでこんな事を言い出した。
「・・・正直な話、私としてはそのような得体の知れない悪魔を持ち帰るには同意できん。
だが主は私がいくら反対した所でそれを持ち帰るつもりなのだろう。
こんな所に放置してはおけん、元はと言えば自分のせいでこうなった
危ないかも知れないけど今はおとなしいから平気だ、などの理由でな」
「・・それは・・まぁ・・」
そうれはバージルの時もそんな感じだったし
もっと前にさかのぼれば極端な話ダンテの場合もそうなるだろう。
だが本来そういった危ない物やヤバそうな事態を良しとしないミカエルは
それでも首を横には振らず、仕方なさ全開の顔でさらに言った。
「先にも言ったが私としては反対だ。
・・だがしかしだ。それに加えて私がどれほどの間主の近衛をしていると思っている」
「へ?」
「確かに主は警戒感がなく危機感にもかけ
後先考えずに妙な拾いものをし、そのくせ妙な事には非常に頑固だ。
しかしそれが悪い結果を招いた事は・・・総合するならあまりない。
ならば私がどれだけ反対しようがただの徒労。・・・そうだろう」
それは主人に言うにはちょっとヒドイくて少々複雑な物言いだが
しかしそれはある意味主人の性格を理解した優しさだった。
それを察したジュンヤの表情がぱあと明るくなり
それと反比例して絶望的な顔になった高位の天使は
眉間を押さえて盛大なため息を吐き出した。
「・・・・あぁ・・・やはり私は主の近衛失格だ・・。
いくら主の指示が最優先事項であるとは言え・・こような甘い判断を・・・」
などと1人落ち込みぶつくさ言いながら膝を抱えて丸くなった背中を
その主人がごめんなと言いつつ嬉しそうに撫でる。
そんな中、事情がまったくわからないベオウルフはというと
何だ何をやってるとばかりに双方をウロウロ見上げ
最後にワケわからんとばかりにぷすと鼻を鳴らした。
それからダンテ達の通ってきた道を使い
同じく無理矢理走ってきたフトミミの迎えにより
一行は壊れたバイクを回収しつつ元の事務所まで帰りつくことができた。
そして帰るなり心配してわあわあやりだした仲魔達をすったもんだで何とかなだめ
とにかく着替えさせてと服を着替えてから全員を一カ所に集める。
ついでにこの店にあった魔具とやらの説明もかねてダンテを出し
よく喋る双剣、いつの間にかギターに戻った女の悪魔、氷の棍をかき集め
最後にずっと腹にくっついていたクマをテーブルに降ろして
ジュンヤは今までの事とこの魔具達についての簡単な説明をした。
「・・・で、これについては今話した通りで
一番危なそうなのともさっき話をつけたし
誰彼かまわず迷惑かけないっていうのは約束してくれたみたいだから
今回のことはもう勘弁してくれないかなみんな」
説明している間全員無言だったので
怒ってないかなと思いつつ恐る恐る聞いてみると
仲魔達の反応はあまりミカエルと変わりないものだった。
「勘弁モナニモ・・ナァ・・。
モウ蓋開ケチマッタノヲ今サラマタ閉メナオスッテノモカッコ悪イシ」
「うむ。悪魔狩りから反旗を翻した悪魔であったとしても
主が力でねじふせたというのなら我としては問題はない」
「契約外の悪魔というのには少々不安が残りますが・・
執着する場が別にあるというのなら私としてはかまいません」
ギター状態のネヴァンの横でお菓子の袋に頭をつっこみ
さっきから一言も口を挟まずガツガツやっているクマの尻を見ながら
サマエルは冷静かつ無感情に言い放つ。
サマエルは間近でその危険性を知ったものの
ミカエルと同じく主人の性質を知っていて、なおかつそれを信頼しているのだろう。
だがこれには多少は反対すると思っていたダンテが異論を申し出た。
「・・オイちょっと待て、オマエらそれでいいのか」
「とは言え、元をたどれば君たちの家庭問題が原点なのだろうし
高槻にさえ害がなければ私たちは一向にかまわないよ」
サマエル同様迷いなく言われたフトミミのそのセリフは
『こっちは関係ないから自分のケツは自分で拭いてね』とも取れた。
無駄とは思いつつダンテはその人型の鬼を睨んでみるが
フトミミはまったく気にせずガツガツやっていたベオウルフの横に
ミルクの入った小皿を置く。
しかもそのクマ、今までさっきまで散々牙をむいてたくせに
今はまったく眼中にないのか皿の音を聞いた途端、ずぼんとのり塩ポテチの袋から顔を出し
ノリと食べかすをつけたまま口が白くなるのもかまわずがふがふやり出す。
どうやら相当腹がへっていたらしく
最初『こんな得体の知れん物が食えるか!』とか
『マズイ!実にマズイ!なんだこのしょっぱくてバリバリして香ばしい食い物はー!』
とか何とか散々怒鳴りちらしていたが、今は文句も言わず食べる音以外は静かなものだ。
「でもダンテさん、どうしてあんな所にこれ全部しまってあったんだ?
悪魔嫌いなのはわかるけど処分も返却もしないで
ただあんな所にしまっておくだけってのも・・さすがにかわいそうだろ」
「そうだ、我ら魔界の者なれど力を認めし者には相応の協力をするものを」
「いくらあの場所がなくなったとは言え、我ら他に使い所は多々・・」
「・・だがオマエらはもうオレとの最初の言いつけを破ってるだろ。
それにオレは最初に言ったな?使うかわりに喋るなって」
そう言ってぴしと指をさされた途端、テーブルに置かれていた双剣がぴたりと口を閉ざす。
あ、この剣はちゃんと言うこと聞くんだなとジュンヤが思っていると
ダンテはさらにさっきからギターのふりをしている悪魔を睨んだ。
「・・・・おいネヴァン。・・・ネヴァン!!」
苛立ったようにガンとテーブルが叩かれた後
沈黙していたギターが発光して黒い影のようなものになり
ザッと部屋の隅へ移動してその名の悪魔を作り出す。
「・・なぁに?久しぶりに呼んでくれたと思ったら随分とご機嫌斜めね」
その妖艶な姿や色っぽい仕草は通常ならかなり目を引くところだが
あいにく不機嫌絶頂なダンテにはほとんど効果がない。
「当たり前だ。オマエのちょっとしたイタズラ心のおかげで
隠しておこうとしたことが全部パァだ」
「あらでも私たちをあそこに閉じこめておく理由はもうないでしょう?
さっき少し見ただけだけれど・・彼、戻ってきたんでしょ?」
その途端、ダンテの顔がほんのわずかだが引きつる。
「少しニオイや雰囲気は変わってたけど、同じ彼でしょう?
あなたが私たちと一緒にあそこへ押し込もうとし・・」
ガシャ
だがその言葉は突然突きつけられたショットガンで中断させられた。
その狙いは間違いなく頭に向けられていてジュンヤは一瞬息をのむが
ネヴァンは気にした様子もなく薄く笑って
「あら怖い。少し見ないうちにすっかり冷たくなったのね。
ちょっと前はあんなノリのよさそうな坊やだったのに」
「・・・悪いが今のオレは昔話に付き合ってやれるほどヒマじゃない。
それ以上余計な事をしゃべるなら遠慮なく処分させてもらう」
「うふふ、そう殺気立たなくても私だって命はおしいわ。
それに秘密っていうのはバラすと価値がなくなるものでしょう?」
「・・・・・・」
ダンテはかなり渋い顔をしていたが、やがて忌々しげに銃をおろし
そのままその物騒な銃器を電話のあるデスクの方へ無造作に放り投げた。
ハラハラしながら見ていたジュンヤがそこでようやくホッとするが
2人の話の節々に自分の知らない話が見え隠れしていたのが少し気になる。
しかし聞こうにもダンテが心底忌々しそうにしているので
気にはなるが聞かないでおこうと密かに諦めをつけた。
だがそのささいな気遣いがストックに残っているもう1人の半魔を安堵させた事までは
本人は気付けないでいたが。
「えっと・・それはそうとダンテさん
そっちの氷みたいな魔具の名前、まだ聞いてないんだけど」
「・・そんなもの聞いてどうする」
「でもいるにはいるけど名前がわからないってのは不便だろ?」
「知っても不便になるだけだ」
「なんで?」
「・・・ケルベロスっていうからだ」
「あ、そうなんだ。ケル・・・・ええぇ!?」
一瞬納得しかかったジュンヤが驚愕し
その足元で大人しく丸くなっていたケルベロスが驚いて顔を上げた。
「ケルベロスって・・こっちのケルと同じケルベロス?」
「そいつもケルベロスだがこっちもケルベロスだ。
・・だから不便になるって言ったろ」
「・・じゃあそっちも本体は犬型なのか?」
「一応な。ただそっちの犬っころと違うのは大きさと色、あと属性だ。
オレが見た時はこの部屋には入りきらない首3つの黒犬で
そいつとは反対に氷を使ってた」
「へぇ・・そうなんだ。ケルとは逆のケルベロスなんだ」
犬と聞いて俄然興味が出てきたのか
相変わらず沈黙している氷の魔具にちくちくと興味と好奇心の視線がささる。
足元にいたケルベロスも興味があるのかテーブルに顔をのせてニオイを嗅ぎ
ケルベロスという名の氷の魔具がちょっと困ったような気配をさせた。
「・・あのな少年。先に言っておくがこれ以上余計な事は増やすなよ。
商売上多少の事なら誤魔化せる自信はあるが
悪魔を狩るヤツが悪魔を飼ってるとなるとさすがに信用問題だ」
その仕方なさげなダンテの言葉にネヴァンが反応した。
「あら、じゃあ私たちはもう物置に押し込まれないですむのかしら?」
「・・下手に縛り付けて隠してしておくよりも
余計なことをさせて撃ち殺した方が早そうだ」
物騒な事を言うなりダンテは黙りこくった双剣を掴むと
悪魔の貼り付けてある壁の方へ無造作に投げ、ガンガンと綺麗に並べて突き立てた。
「オマエらも余計な事をベラベラしゃべらないなら完全に黙れとは言わない。
そこで大人しく留守番と出張ができるなら隔離は解除だ」
「「おぉー!」」
あんまりそうは見えなかったがごっつい剣から嬉しげな歓声がハモる。
「何が何やらまったくわからぬが、やったな兄者!」
「おうとも!何が何やらわからぬが、ともかくそこの妙な悪魔に感謝だ!」
「うむ!感謝するぞそこの妙な悪魔!」
「感謝するぞ妙な悪魔!」
「・・・あの・・俺ジュンヤっていうから・・できれば覚えて・・ふぎゃあ!」
喜々として変な呼び方を連呼してくる双剣にツッコミを入れていると
横から青白い手がのびてきてついーと顎の下を撫でられて飛び上がる。
もちろん今この場でそんな事をしそうなのは1人しかいない。
「あら・・まさかとは思ったけれど本当にまだ手つかずなの?」
「おっしゃる行動が意味びっくりですしいきなりわかりませんしー!!」
「・・主、落ち着け。順序が妙だ」
錯乱して飛びついてきた主人をさりげなく背後に隠しつつ
もう色々ありすぎて少々ウンザリ気味なリーダー格はそれでも律儀に使命をはたし
ネヴァンに睨みをきかせた。
「うふふ、ごめんなさい。でも私達ずっとあんな所にいたものだから
飢え死にはしなくてもさすがにお腹が空いちゃって」
「・・それは多少なりとも理解しよう。だがその矛先を主に向ける事はまかりならん」
「あらでも私みたいな悪魔が何を糧に生きているか
あなた坊やも知らないワケじゃ・・ないわよねぇ」
などと妖しげな笑みを見せつつがさりと不思議な音を立てネヴァンがにじり寄ってくる。
ガッ!ぐぎぎぎー
だがミカエルが身構えダンテがホルスターに残っていた銃を手にするより早く
その間にあった空間からいきなり長細い物が突き出し
空間を縦に無理矢理引き裂いたかと思うと
話がややこしくなるからと隔離していたはずの魔人が勝手にねじり出てきた。
「こっ!こらバージルさ・・!」
「非常時だ」
抗議の声をすっぱり斬り捨てた片割れは
目だけで人が殺せそうな威圧感をもってネヴァンを睨む。
そのただならない殺気に少し距離をとりはするが
古い魔女は妖艶な笑みを崩さなかった。
「あらお久し・・じゃなくて初めてお目にかかるのかしら?
マスターの因縁のお兄さん」
色々隠したような意味深なセリフにバージルの目がさらに鋭くなる。
え?じゃあバージルさんもこの魔具達の事知ってるのか?
そんな事を考えていると、やはり何らかの事情を知っているらしいネヴァンは
ちらとジュンヤの方を見てからバージルに目線を戻した。
「うふふ。そんな怖い顔しなくても私はもうただの魔具なのよ?」
「・・それは知っている。だがいくら争い事や殺戮が禁止されていようが
事と次第によってはこちらも容赦はしない」
「あら怖い。でもこれは争い事でも殺戮でもないのよ?
私は単純にお腹がすいてるだけなの。わかるでしょう?」
パリッとその足元にあった黒い影のようなコウモリ達が放電し
その場の空気が急に冷たいものにとってかわる。
だが妙な事で一触即発になりかけていたその時
なぜかネヴァンの方が急に表情を曇らせると
ざっと足元の黒いコウモリごと後方へ下がった。
対抗する人数が人数だし、あきらめてくれたのかと思ったが
そう思ったジュンヤの足元が急に黒くなり
下から出てきた何かによって上へと持ち上げられる。
驚いて手をついた先には赤い皮膚、その先にはいくつもある金色の王冠。
そしてゲッゲとかグガガとか各自に個性のある、でもちょっと耳障りな鳴き声。
そして後ろからはやっぱり聞き覚えはあってもちょっと耳障りな声が笑い声が響いてきた。
「ホォーッホッホ!これこれ!わらわのおもちゃに手を出すでない!
これは手つかずであるがゆえにその価値を維持する
わらわの希少な玩具であるぞ!」
それは一体今までどこにいたのか
それともずっとのぞき見していただけなのかわからないマザーハーロットだ。
ネヴァンは一瞬その強烈な外見と魔力に眉をひそめたが
よくよく見るとその周囲にある独特の臭気が自分に似ている事に気がついた。
「・・あなた・・私と似てるみたいだけど違う悪魔なのかしら?」
「ホォーッホッホ!わらわはマザーハーロット!
ここにおるわらわの玩具兼魔教皇の数ある使徒の1人であるぞ!」
「まぁ・・」
その少年悪魔がそれなりな悪魔を従えていた事は薄々感じてはいたが
こんな強烈なものまでいたとは意外だったのか、ネヴァンが少し目を丸くする。
それを面白そうに見ながらマザーハーロットは持っている杯をふらつかせ
ちょっと意外だけどとてもらしいことを言い出した。
「それはさておき、おぬし、ここにおるのは確かに美味そうじゃが
つまみ食い試食前菜付け合わせ、どれにしても手出しはならぬぞ」
「・・あら、でも少しくらいはよくなくって?
飢え死にはしなくても長い間おあずけされてた気持ちくらいわかるでしょ?」
何やらネタにされる本人としてはとっても嫌な会話だが
マザーハーロットは何やら悟ったように鼻で笑い
杯の上の毒気のようなものを軽く吹き飛ばした。
「フフン。おぬし古いまま世を知らず生き長らえた悪魔じゃな。
その古来よりあるべき方法だけが我らの欲求を満たすものだと思うておるのかえ?」
「?」
「人の世の歴史は我らに比べればまだ短くも若い。
じゃがその間に人の世というものは劇的に変化をしておるじゃぞ?
たとえばじゃな・・」
するとマザーハーロットは純矢をちょっと遠くへ降ろしてこいこいと手招きをし
少し怪訝そうなネヴァンを連れて部屋のすみに移動し
何やらぼそぼそと内緒話を始める。
小声なので何を話しているのか内容はわからないが
初めは怪訝そうにしていたネヴァンが『あら』とか『まぁ』とかもらし
だんだんと乗り気になってきた。
話す内容はともかくとして上手く丸め込んでくれているらしいが
時々こちらを見ながら変な笑い方をしたりするので
一概に良い傾向だとは言いにくい。
やがて珍しく声をひそめていたマザーハーロットの声が止まり
ネヴァンがぽつりと一言。
「・・・おもしろそうね」
悪寒さえ感じるくらいの妖しい笑みでそれだけもらした。
「じゃろう?なんなら資料をつけた上
もう少し突っ込んだ話をしてしんぜようかえ?」
「いいわね。のったわ」
なにやら握り拳まで作って即答する主人に
その身体についていたコウモリ達がなぜかいっせいに震え上がったように見えた。
「と、いうわけじゃ主。わらわはしばらく用があるので退散させてもらうぞ」
「え・・ちょ・・」
「私もしばらくおしゃべりしてくるわね。
ただのおしゃべりなんだから害はないでしょ?」
「な・・オイコラ!」
それぞれ勝手な事を言って
それぞれの影に潜り込んでいく女2人を見つつ
2人はまったく同時に同じ事を直感した。
引きずり込む気だ。
女だけがわかるという腐った世界へ。
「ふーむ、何やらよく分からぬが
あの赤い悪魔とネヴァンはうまくやっていけそうだの兄者」
「うむ、何やらよく分からぬが馬があったようで何より」
でもきっと向かう先は底なし沼みたいな所なんだろうなぁ・・。
のんきに絶賛する双剣をよそに
その場にいたほぼ全員がそんな事を考えた。
「・・や・・まぁ・・でもあの2人の事は・・ともかくとして
みんなここを壊さないように気をつけつつ仲良くしような。
面倒起こすのはダンテさん達だけで十分なんだからさ」
それなりに嫌な予感をさせたのだろう。
視線をあちこち飛ばしながら誤魔化すように言われたその言葉に
多少同じような予感をさせつつ何も言わないでおこうと努める仲魔達と
壁に刺さった魔具達から同意の声が帰ってくる。
ただ沈黙を守り続けている氷の魔具と
まだバリバリお菓子を食い散らかしてるクマからは返事はなかったが
ずっと魔具に閉じこもっているつもりならそう悪さもしないだろうし
ベオウルフも・・まぁスパーダが絡まなければ安全だろう。
・・しかしそれにしても・・たった1日でここまで大所帯になるなんて
面白いどころの話じゃなくなってきてないか?
などとさすがにげんなりしていたダンテをよそに
丁度テーブルにある食べる物を食べつくしたベオウルフがようやく顔を上げ
べろんと口の周りをひと舐めして何を思ったのかぽんと純矢に飛びつくと
わしわしと服をよじ登って頭にのっかり
ニヤリ
と言わんばかりに口をゆがめてダンテを見た。
見た目とのギャップがちょっと激しいそれは明らかな挑発行為だが
それに答えるだけの気力はもうダンテにはなかった。
只今の在宅悪魔増加総数、相棒とその下の悪魔8体
色々あってしまい込んであった魔具4体
色々あって戻ってきた兄とそのどさくさについていた災厄の根元たる父。
「・・・悪魔も泣き出すオレの店が・・・オモシロ魔界に大変身・・・」
などと本気で頭を抱えだしたダンテは
ちょっと同情したマカミにぺにょと肩を叩かれるが
そのファニーな感触のせいか、あまり救いにはならなかったとか。
DMC3をやってない人にはさっぱりでしょうが
そんなこんなで4つの魔具もいそうろう。
もういっぴきのわんこは入りきらなかったので次回にでも。
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