そこへ到達するまでには以前来た時と同じようにタクシーをひろい
ここから先は物騒だからイヤだと拒否された所で車を降り
そこから目的地までは徒歩になった。
ダンテは運転手の頭を札束か銃ではたいて
店の前まで直行させればよかったのにとか言うので
ぼくと背中に拳を入れると逆に呆れたように笑われる。
純矢はいくら外国でも目立つことはしたくないと文句をつけたが
その呆れ笑いが冗談ではなく、ちょっと現実の話を含んでいたのを
少ししてから知る事になった。
なくなっていく人影。薄汚くなっていく道。
多くなっていく廃屋によどんだ空気。
ここへ来て最初に情報を仕入れに行った酒場も
それなりに物騒で近づきがたい雰囲気があったが
その空気を外全体にまき散らしたような空気が次第に濃くなっていき
純矢は無意識に前を歩いていたダンテとの距離をつめた。
「Hey!ジャッパニーズ!」
そうして歩いていると突然薄暗い路地にあったゴミ・・
かと思っていたボロの固まりから声がかかる。
見るとそれは多分人間と思われるもので
そのボロを固めたような浮浪者らしきものが酒瓶片手に何か声をかけてきていた。
それはここでのなまりが酷いのか、それとも意味不明な言葉だったのか
楽しげに声をかけられても何を言っているのか純矢には聞き取れなかったが
後ろを歩いていたミカエルがさっと間に割り込んで
「・・・ご機嫌うるわしゅうだそうだ」
と何かものすごく苦々しく翻訳してくれ
ついでに閻魔刀の鍔を押し上げて動き出そうとしたバージルを
片手でむんずと捕獲した。
何を言われたのかはわからないが
様子からしてわからなかった方がよかったのだろう。
そうこうしているうち転がっているゴミや浮浪者も少なくなり
街自体が廃墟に見えるようになった場所までくると
今度はあちこちの至る所から何か変な視線を感じ始める。
しかもそれは壊れた建物の影、廃ビルのすき間、放置された車の中など
どう見ても人のいる場所ではない場所からくる。
「・・さすがにこれだけの手練れと数には仕掛けてこないか」
疲れて帰ってきたオレに対してもそれくらいの気遣いが欲しいな
などとダンテがもらしている所を見ると、どうやらその視線の主達が
ここに生息する悪魔達らしい。
それは姿まで見えないものの、その一種独特な存在感は
会話の通じない外道や幽鬼に似ていると純矢は思った。
そしてそんな異様な土地を歩き続けて数分。
ずっと止まる事のなかったダンテの足がある場所でようやく止まる。
「・・ここだ」
そう言ってダンテが見上げたのは、周囲のアレな空気にほどよくなじんだ
悪く言ってちょっとボロくて薄汚い、良く言って古風で味のある一軒家だ。
その建物、周りに比べれば多少の手入れがされているものの
建っている場所と玄関の上にあるピンクのネオンのおかげで
ぱっと見スラムの安バーかよい子は見ても近づいてもいけないような
いかがわしいお店にしか見えない。
そしてそのちょっと周囲にくらべて場違いな色をしたネオンの字は
まだ英語に慣れない純矢にも読めた。
Devil May Cry
まだ明かりのともっていないガラス管は踊るようにそう記されてある。
それなりの英語知識と以前教えてもらった事を思い出して
その意味を自分なりに察した純矢は露骨に顔をしかめた。
「・・あぁ、そうだよな。デビルハンターだから言いたい事はわかるな。いやうん」
「・・なんだそのイヤな物を避けるような物言いは」
「建ってる場所もネーミングセンスもダンテさんらしいなーって感心したんだよ」
「だろうな。ここに店を建てるにも名前をつけるにもそれなりに苦労したからな」
「・・あのさ、いつも言ってるけど俺が苦い顔して言ってることは
全部誉め言葉じゃないから」
「まぁいきなりで何も準備してないがそう言うほどは散らかってはないし
何よりオマエは特別だから気にするな」
「だから聞けよ人の話」
思いがけずこんな早くに相棒をここへ入れる事ができて嬉しいのか
ダンテは色々皮肉ってくれる純矢の事などおかまいなしだ。
・・いや考えてみれば元々彼はこれで普通なのかもしれないが。
「ま、とにかく入れ。
オマエみたいな人の良さそうなのがここらで突っ立ってるとロクな目に・・」
と、肩を押そうとした手がそこに触れる寸前ですかっと宙を切る。
手が触れる寸前にそれを横からさっと取ったのは
言うまでもなくさっきからずっと黙ってはいるが不機嫌絶頂なバージルだ。
「・・おい」
非難の目でにらんでみるが、元々そんなくらいでひるむような兄ではない。
俺のを取るなと言わんばかりに背中に純矢を隠され
ダンテはさっきまでの機嫌の良さもすっぱり忘れてムッとした。
「返せよ。そいつはオレの相棒で今回は大事な客人だ」
「まさかとは思うが母さんをこんな薄汚い所に入れる気か」
「これでもこの近辺じゃかなりマシな方なんだが・・気に入らないか?」
「お前のマシという言葉にはまったく信憑性がない。
おまけに中から魔のにおいがするのは俺の気のせいか?」
「まぁそれなりな仕事をしてるから多少はそんな物くらいはある。
それにどこだって住めばミズコって言うだろ」
「・・みやこか?」
「あぁ、それだ多分。とにかく別に入った瞬間魔界になるとか
変なものが飛び出てくるとかはない。
せいぜい悪魔の返り血とか火薬臭で蒸せかえって空気が汚いくらい・・」
「母さん帰るぞ」
「オイ冗談だ。それくらい察しろ」
「目が半分本気だった」
「・・そりゃ最近掃除なんて律儀な事もしてなければ客なんてものも入れてないが
そもそも自分が住むだけの家に他人の価値観なんて必要ないだろう」
「・・やはり帰る。短い間だったが・・」
「だから待て。そもそもここまで来ていきなり帰るなんて失礼もいいとこだろ」
「そんなラブホテルの前で女を引きずり込むような陳腐なセリフに説得力はない」
「ちょっと待て!あんた何でそんな事知ってる!?」
「ふん、それくらい知識をあさっていればおのずと・・」
「
早く入れ」
げし!ドガチばたーん!
仲良く同時に蹴られた仲の悪い双子は
蹴られた勢いで鍵もかかってなかった玄関を開け
にぎやかな音を立てて中に転がり込んだ。
「・・いっ・・ってェなボス・・」
「何をこんな所でワケのわからん言い合いをしている。
入るなら入る。入らないのなら即座に帰る。主をいつまで待たせる気だ」
「だからって家主を蹴り入れる客もないだろうが・・」
ぶつくさ言いつつダンテはバージルと一緒に起き上がり
反動で閉じかかっていた扉を押さえ
複雑な顔をしていた純矢に道をゆずった。
「・・ま、とにかく入れ。ちょっとちらかってるが
ボスの言った通りこんな所で突っ立ってるよりはマシだ」
「・・うん。それじゃあお邪魔し・・」
・ ・ ・
「・・ました」
「おい」
足を踏み入れてわずか2秒
セリフも行動も180度ターンした襟首が後ろからむんずと掴まれた。
「オマエ・・なに入った直後に帰ろうとしてやがる」
「いやちょっと倉庫か骨董品店かお化け屋敷と間違えたみたいで・・」
「最後のはちょっと近いがここは間違いなくオレの店だ。
そもそもこんなイカしたセンスの店が他にあると思うか?」
「それを認識したくないから帰ろうとしたんだよ!うわ放せバカ!」
などとずるずる引きずり込まれたその店・・というかその場所は
客が来る『店』と呼べるかどうかはかなり疑問のある場所だった。
あまり日の入る場所がない薄暗くほこり臭い部屋
そこに置かれているのは何かの雑誌や弾丸が散乱しているビリヤードの台
なんだか所々が凹んでいて変な光り方をしているジュークボックスに
かろうじて片づいている仕事用と思われるデスクの上には
古びた電話と銃器のたぐいやその部品らしきものがゴロゴロしていて
この統一感のなさといい乱雑さといい、一体どこをどう見れば
店と呼べるのかがまったくわからない。
そして何よりそのデスクの後ろの壁にあった
剣やらナイフやらで小学生の昆虫採集よろしく打ち付けられている
何かの頭や何かの上半身やら何かの首やら何かの骨っぽいもの。
それは牛の骨みたいなのから骸骨に似たもの仮面みたいなのまで色々あるが
おそらくそれら全部はこの場所にいる悪魔のなれの果てで
あまり想像したくはないがそれしかない、ダンテの狩った悪魔達だろう。
それさえなければただの汚い事務所ですんだその店は
それがあるだけでもう立派なホラーハウスだ。
「多少ちらかってるが座る場所くらいなんとでもなるさ。
おいボス、そこのソファの物適当にどけてくれ」
「ちょっと待て!ちらかってるとかそう言う以前に
一体どこの何のどんな部分をそんな堂々と飾ってるんだ気色悪い!
しかもさっき左から2番目のやつ!ちらっと動いたろ!」
「あぁ、いつもはガタガタうるさいくせに今日は大人しい・・
・・おいそこのクソバージル。言っとくがそれをどうにかしたいのなら
まず家主の許可をとってからにしてくれ」
「クソは余計だと何度言えばわかる」
ぎゃあぎゃあやっているうちに叩き斬った方が早いと思ったのだろう
黙ってそれらに向かって刀を向けようとしていたバージルが
しぶしぶ動きを止めつつ律儀に訂正する。
そしてそれからまず戦利品が気持ち悪いからなんとかしろという純矢と
我慢するか慣れればすむ話だと言い張るダンテの間で少々言い合いになり
それはまたしてもミカエルのキックで終結したりして
その悪趣味な戦利品・・というか昆虫採集みたいなオブジェ達は
とりあえずそこらにあったシートをかけておくことで決着がついた。
「・・さてと、それじゃともかくようこそ我が家へ。
見ての通りあまり片づいてないが適当にくつろいでくれ」
「・・・・こんな空間でくつろげるのは世界でダンテさんだけだと思う」
座るとちょっと変な音を立てるソファに落ち着いた純矢は
まだ居心地悪そうにきょろきょろしながら正直に言った。
バージルはその隣に黙って腰を下ろし黙って全身で警戒の姿勢を続けている。
ミカエルはそんな場所に座る気にもなれないのか
部屋を歩き回って所々にすっと指をなぞらせ
ついたホコリを姑のようにふっと忌々しげに吹き飛ばしている。
「でもこれだけ凄惨って事は・・やっぱり一人暮らしなんだよな」
「前に一度同居してたヤツがいるにはいたんだが・・
もっと世間を見てみたいとか言い出して今は別の所に部屋をかりてる」
どかガチャと目についた物を適当に寄せ騒々しく場所を作っているダンテに
純矢の呆れたような視線が当たる。
「・・それ、絶対逃げ出したんだろ」
「バカ言え。少なくともオマエみたいにいきなり帰ったりしなかったし
部屋をかりるまでは普通に生活してた」
「で?出て行くときなんて言ってたんだ?」
「・・・・『とりあえずそこのオブジェを片づけないと客が全部逃げる』だと」
「それを逃げられたと言わず何という」
「よしわかった、ボスはコーヒーなしでいいんだな」
「それ以前にこんな場所で客に出すものなど出来るのか?」
「コーヒーくらいはあるからカップがあれば何とかなる・・・・と思うがな」
「・・・キッチンはどこだ、この粗忽者め」
青筋立てつつこれから説教を始めそうな勢いで
ミカエルはジョークだろとか変な渋り方をするダンテをぐいぐい引きずっていく。
おそらくコーヒーはあっても保存状態が悪いとか
ミルクの期限ギリギリだとかカップの洗い方が雑だとか
砂糖を大量に放り込むなとかぶつくさ色々チェックが入るのだろう。
まぁあの様子だとまかせても大丈夫かなと思いつつ
純矢がさっきから静かだった横に何気なく目をやると
横にいたバージルがじっと一点を見たまま動かない事に気がついた。
目線をたどっていくとその先にあったのは写真立て。
かろうじて片づいている場所にぽつんと立ててあったそれは
遠目で見ても人が1人しか写っていないシンプルな物だった。
立ち上がって近づくと、そこに写っていたのは金髪の女性。
写真自体そこそこ古くて少し色あせてはいるが
外国人らしい端正な顔立ちに絹糸のような綺麗で長い金色の髪をしていて
それはまるでどこかの貴婦人かおとぎ話のお姫様のようだ。
しかしそれは当然ながら純矢のまったく知らない人物だ。
だがバージルはまだそれから視線をはずそうとしない。
「・・誰だろう。綺麗な人だな」
それはどうにもこんな乱雑な場所に置くにふさわしくない人物で
ダンテがこうして大切に手元に置いておくにもちょっと違和感がある。
どんな関係の人なのかなと思ってしばらく眺めていると
ガツガツとブーツの音を立ててダンテが戻ってきた。
手にしていたカップは1つだしミカエルが戻ってきていないので
今頃本来高位なはずの大天使は1人でぶちぶち小言を言いつつ
黙々とお茶の支度をしているのだろう。
そして邪魔だからと追い出されたのだろうダンテは
純矢の見ていたそれに気付いて目を細めた。
「・・見つけたのか」
そう言って寄ってくるなりぎゅうと肘を肩にのせられるが
重いとか行儀が悪いとか言う前にこれが誰なのかが気にかかる。
「どうだ、美人だろう」
「・・うん。けど誰だ?」
「誰だと思う?」
純矢は肩にダンテの体重をのっけたたままそれに目を戻し
それからずっとそれを見ているバージルを見て
なんとなく思いついた事を口にしてみた。
「・・もしかして・・・・お母さん・・とか?」
その途端、ダンテとバージルはまったく同じ顔で驚いて
ダンテだけが楽しそうに喉の奥で笑い出した。
「・・ックク・・まさか一発で当てるとは思わなかったな」
「え?じゃあそれであってるのか?」
「昔の女だとか今の女候補だとか言われた事は何度もあるが
一発で見抜いたのはオマエが初めてだ」
いい子だと言わんばかりに頭を撫でられつつ改めてよく見ると
確かに髪の色も雰囲気もあまり2人には似ていないが
言われてみれば顔のパーツの所々は似ているし
これが2人の母親でスパーダの妻だというならなんとなく納得がいく。
「そっか・・これがダンテさん達のお母さんか」
「美人だろ。オマエに似て」
「・・いや、ちょっと待て。なんでそこで俺が引き合いに出てくるんだよ。
そこは普通自分に似てるかどうかを聞くだろ」
「いや、確かに直接的にはほとんど似てないが
オマエはそれが生きて動いて笑ってた時の事を知らないからそう言えるんだ」
「・・・・」
「そうやって一緒にいるとますます似てるぜ?息子のオレ達よりもずっとな」
「・・・それは男の俺としては一体どう解釈すればいいんだよ・・」
などと困ったようにバージルの方を見ても
そちらも意見は同じらしく『うん』とうなずくしかしてくれない。
笑いながら頭を軽くはたかれ、肩から重み離れていくのを感じつつ
純矢はその横にしても逆さまにしても裏返してみても
まったく自分に似ているように見えない女の人を見ながら首をかしげ・・
ぎゅ
ようとした所でダンテと入れ替わりに背後から何かに抱きつかれた。
あれ、と思ってもダンテもバージルも視界内にいるし
ミカエルはまだ戻ってきていないし何より黙ってこんな事しないし
何気なく見下ろすと紫が見え・・
「・・え!?」
まさかと思ってバージルの持っている閻魔刀に目をやっても
それは変わらずマティエの貼り付けた封印ガチガチのままでそこにある。
だが今この場でそんなことを出来そうな人物はそれしかない。
「・・な!?ちょっと!スパーダさんどうやって?!」
「私がこちらに来るための媒体は2つあると以前話さなかったかな?」
そう言ってすっと白い手袋の指した先には
壁にかけられていたシンプルな形の、でもちょっとデザインの悪趣味な剣が一本。
それはおそらくこちらでの閻魔刀の代わりになる
つまりスパーダの残したもう一本の剣の方で
この父は閻魔刀ではなくそちらを経由して出てきたのだろう。
しかもその二本がそろってある事によってより力がついたのか
その存在感というか包容力が以前とずいぶん違って
純矢は振りほどく事も抗議することもできず固まってしまった。
「・・うん、やはり万全の状態で触れる君は何とも言えず素晴らしい。
しかもこうして妻の遺影と共にそろえる事ができるなど何とも感慨深・・」
ブァン ガイィーーン!!
などとにおいを嗅ぎながら頬ずりしていた真横
・・いやほんの少し横によけたスパーダの顔面のすぐわきを
奥から弾丸のような勢いですっ飛んできた槍がかすめ
後ろにあった壁に突き刺さる。
もう少しよけるのが遅ければ後ろにあった戦利品と同じになっていたろうが
しかしそれをよけた先で今度はチャキと音がして
頭を銃口と抜き身の刀の切っ先で固定され
スパーダはちょっとだけ困ったように苦笑した。
「・・おいおいお前達。母さんの前で随分と無粋だな」
「あいにくオレはガキの寝込みや背後を襲うようなヤツを
オヤジに持ったような覚えはまったくないんでな」
「百歩譲って父であったとて、即座にその手を放さなければ
今この場で元いた場所に物理的手段で送り返す」
などと室内にもかかわらず全力で攻撃する気満々な2人の向こうから
片手にデザインのバラバラなカップをのせたトレー
片手にマハジオダイン発動準備万端なミカエルが
ビシャモンテンみたいな怖い顔をして歩いてくる。
「・・・2人共そこをどけ。
3つ数えて主が解放されなければ今ここもろとも全てを灰にする」
「コラコラコラ!ちょっと待てお前ら!!
なにを人の頭の上で物騒な話を展開し・・!」
バタン!
「ハイダンテ!聞いたわよ!なんでも面白い客が来・・」
などと慌てて純矢が割って入ろうとしたのと
入り口から新しい客が入ってきて楽しそうな声をかけてきたのはほぼ同時だった。
入ってきたのは黒を基調としたレザーの服に身を包んだ
スタイルもよく身長も高い、モデルのような女性だ。
髪は長くて外国人特有の金色。
ちょっとあいている胸元からは白くぬけるような肌がのぞいていて
一瞬どこの女スパイか映画女優が入ってきたのかと思えるほどだ。
だが1つ問題だったのは・・
そのダンテと気心が知れていそうな女の顔が
今純矢が手にしている古い写真の人物と
ほとんど同じ顔をしているという事だった。
「・・・・・・・」
その場にいる全員がそろって黙り込み
純矢の困惑した視線だけが、その手にした写真とその美女の間を数回往復する。
そして長いような一瞬のような静寂の後
まず石のように固まっていたバージルがぎぎぎとぎこちなくダンテの方を向き
ご ば
何の前置きもモーションもお知らせもなく、いきなり魔人化した。
「・・っく!」
バタン!ガッ!ズザザー・・!
映画さながらのアクションでミカエルが純矢を抱えて玄関を飛び出し
靴底から煙を上げてそこから距離をとったほんの一瞬後
ドガーーン!! バリガチャーーン!!
今出てきた所からとても遠慮のない破壊音がして
そこら中にバラバラといろんな破片が転がってくる。
幸い破壊しただけで火災とまではいかなかったが
純矢に怪我がないのを確認してホコリをはらってやりつつ
ミカエルはあまり縁起のよろしくない店の名前を渋い顔で見上げた。
「・・・・災厄の一家だな」
ごんと入り口の扉の片方がもげて落ちるのを見つめつつ
純矢は何もフォローする事ができなかった。
そうして珍しく大勢の客をむかえたダンテの店は
まるで慣れない高級品を食って調子の悪くなった貧乏腹のように
来客たった3分弱で、1階の約4分の1を大破させた。
その他被害状況。
ダンテ =直撃
スパーダ =直まきぞえ
トリッシュ =風上で無傷
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