普段使わない・・というか銃刀法厳しいこの国では
持っているだけでも色々とヤバい元父の刀、今は彼の愛刀である閻魔刀は
普段なるべく持ち歩かないようにと今の母に言われたため
最近床の間のインテリアとしてピシャーチャと一緒に置かれている事が多くなった。
実際彼がここへ来てからそれが鞘から抜かれた回数は数えるほどしかない。
それはそれでこの東京が平和だという証拠なのだが
彼はその平和な東京に置かれた物騒な刀を目の前に正座し、少し考えていた。
確かに使う回数は少ない。
それは母にすれば平和だからいいじゃないかと言われるだろう。
しかし・・だからといってこのままでいいのだろうか。
かつて自分は力を求めてこの刀と共に魔界に落ちた。
しかしそれは大元をたどってみれば
力がなかったために母をなくした時の悔しさからではなかったろうか。
今の母、正しくは再生の母は確かに強い。
その実力は自分と同じくあまり表に出る機会がないが
その真価のほどは彼の従えている数体の悪魔達
そしてその連中から話されるボルテクスでの話
そして自分を再生させた力から大体は推測は出来る。
だが彼はそれでも納得いかなそうに
そこにある愛刀を穴が開きそうなほど睨んだまま、さらに考えるように腕を組む。
いつも刀と一緒に並んでいる石幽鬼が
不思議そうに目を1つ出してぱちと1つまばたきする。
しかし彼はそれを気に止める様子もなくさらに考えを深くした。
だがいくら今の母が強いからと言っても
自分はただその事に甘えていていいのだろうか。
今この平和な世界で力を求めるのは無意味なことだ。
今の母も人として生きてみろと言ったのだから
悪魔としての力をつけ戦闘的に強くなるよりも
人として多くの知識をつける方が正解かもしれない。
しかし・・・
カチャ
手を伸ばして台に置かれていた刀を手に取り両手で握る。
取った時こっちを見ていた目が怯えたようにぴゅっと一度引っ込んだが
そろりとまた出てきてじっと刀を見つめる男を見上げる。
「・・・・」
そしてしばらくその愛刀と睨み合いのようなことをした後
バージルはそれを手にしたまますっと立ち上がり
とある決意を胸に秘めて歩き出した。
「母さん、折り入って話がある」
それは休みの昼下がり
ブラックライダーとお昼のお茶を楽しんでいる時のことだ。
やたら神妙な面持ちで・・といっても彼がフランクな表情をしたこともあまりないが
とにかくバージルはいつもより一層真剣な表情で
愛刀を片手にして正面に座ってくる。
純矢はブラックライダー手製の紅茶クッキーを食べつつのんびり宿題をしていたが
まるで今から決闘にでも行きそうなその様子に手を止めた。
「・・?どうしたんだ?」
「これは前々から思っていて口にすべきかどうか迷っていたが・・
やはり言っておこうと思う。今はいいか」
「うん、いいけど・・なんだ改まって」
「トールを俺にくれ」
ぶび
ギャー!!
さらりと言われた取り方によっては凄まじい発言に
真っ黒なコーヒーを飲んでいたブラックライダーが
元骸骨らしく顔中の穴という穴から飲んでいた物全部吹き出し
肩にのってチーズクッキーをついばんでいたフレスベルグにまで引っかかって
冗談抜きの本気な悲鳴が上がる。
純矢は幸い何も口に残していなかったので事なきを得て
シャーペンをぱたと落としただけですんだが
しかしそんな混乱に動じることもなくバージルは真剣な様子を崩さなかった。
「・・・・・・・え”?」
「3日に一度・・いや一週間に一度でいい。
母さんが争いを好まない事も分かっている。
だが俺は・・やはり必要最低限の強さを維持しておきたい」
「?・・・?あの・・ちょっと待て、それってひょっとして・・・
トールを修行相手に俺に貸してくれ・・って意味なのか?」
「?・・そうだが」
言いたいことを短縮しすぎだ。
いつの間にか元の骸骨に戻ってしまったブラックライダーが
そこら中に飛び散ったコーヒーと怒ってガシガシつついてくフレスベルグを拭きながら
とても力強く心の中だけでツッコんだ。
「・・・でもバージルさん、前から言ってるけど
ここってどこだか分かってるよな」
「銃刀法のある日本、そしてその首都であり武器も戦闘能力も必要なく
俺が今からしようとする事になどまったく無縁である東京だ」
それをきちんと分かっていてもまだ刀を使いたがるという事は
彼は彼なりの思うところと理由があるのだろう。
純矢はちょっと考えて聞き返した。
「・・それはバージルさんが大事だと思ってる事なんだな」
「あぁ」
間髪入れず返ってきたまっすぐな答えに
純矢はため息を1つつき開いていたノートをぱたんと閉じた。
稽古をしたいと言うことはつまり今もっている閻魔刀を使うつもりだろう。
それは確かに今の東京にはまったく必要のないものだ。
しかしバージルは誰かさんのように問答無用ではなく
ちゃんと許可を取ろうとし、なおかつ色々な分別をふまえた上で
こうして真剣に話をもちかけて来たのだ。
その思いを危ないからとか捕まるからとかという理由だけで却下する事は
仲魔の意見を尊重する純矢にはできない話だ。
「・・わかった。でもトールは力加減があんまりできないから
模擬戦の相手としてはちょっと不向きだ。
それにいくら人間に見えてもバージルさんの力は魔人なんだから
そんじょそこらの場所で訓練なんかして何かあったら一発で大騒ぎに発展する」
「・・・・」
「だからちゃんとした相手と安全な場所は俺が決める。
それでいいなら許可するよ」
「・・わかった」
真っ向から反対されなかったことにバージルはホッとしたのか
真剣な顔が少しくずれる。
平和主義な純矢には無理な要求かと思っていたが
さすがにちゃんと話せば分かってくれるものだ。
「それじゃまずは多少騒がしくしても大丈夫な場所を確保しないとな。
えぇっと・・ブラック」
白い顔からコーヒーのスジをいくつもしたたらせていた
ヘタなホラー物より怖い骸骨顔がフキンを手にしたまま小さくうなずく。
人がいなくて多少の騒動にも耐えられる
そんな都合のいい場所はありそうもないのだが
それでもなぜか見つけてしまうのがこの仲魔達の不思議なところだ。
特に魔人達、ブラックライダーとマザーハーロットはなぜかそう言った事に詳しく
黒の魔人はあまり考えられないような近道をいくつも知っていたり
赤の女帝はあの姿となりで今まで一度も騒ぎを起こした事がない。
ともかくそんな不思議な魔人の1人は短い言葉に何もかも了解すると
すっと音もなく立ち上がり、その姿を元の初老の男に戻して
電話機の所まで行って無言でダイヤルを回し、どこかに電話をかけた。
「・・・・」
がちゃん
と思ったら何も言わずに受話器を置く。
「え!?今のでいいのか?!」
そんなワン切りみたいな事でいいのかと思った矢先
部屋の空気が急に歪み、いつもの甲高い笑い声が地面から響いてきた。
「ホォーッホッホッホ!なんじゃなんじゃ?わらわに用事とは珍しいの!
よもやあの狩人のように、そこの半魔も何やら面白き事をしでかしおったのか?」
などと言いつついつも通りな登場の仕方をしたマザーハーロットは
なぜか手にしていたおしぼりの袋をぱん!と音をさせて破き
左足の下にいた真っ赤なワニがびくっとする。
どうやらさっきの無言電話はこれを呼び出すためのものだったらしいが
しかしこの破天荒な魔人、こんな姿のままどこで何をしているのか未だに不明だ。
「・・えと・・まだ何もしでかしてないけど
ちょっと力を貸して欲しいことができたんだよ」
ともかくそんな怪しいヤツでも結構頼りになったりするので
純矢は事の事情を片手にいつもの杯、片手になぜか串カツを手にして
まるでさっきまで飲み屋にいたかのような女帝に簡単に話をしてみた。
するといつでも楽観的で何があっても楽しそうな魔人は
まったく考える様子もなくケタケタと笑いながらこんな事を言い出した。
「ホォーッホッホッホ!なんじゃそのような事か!
なるほどならばわらわを呼んだ理由は分かった。
つまりは人のまったくおらぬ場所
しかも多少の破壊活動にも耐えうる場所を提供せよとの事じゃな?」
「うんまぁそうなんだけど・・そんな都合のいい場所ってあるか?」
「ホォーッホッホッホ!何を寝ぼけておるか!
思い出してもみよ。おぬしわらわ達と一体どこで相まみえたのじゃ?」
「どこって・・・確かいっつも変な穴から・・・あ!」
そう言えばそうだ。
確かダンテをのぞいた魔人達のほとんどは
戦う時いつもどこか別の広い場所へジュンヤを引きずり込んで
そこでいつも戦闘になっていたはず。
「あの変な場所まだあるのか?」
「あるもなにもあそこはわらわ達の領域じゃ。そう簡単になくなりはせぬ。
とは言ってもわらわもこちらにおる方が楽しいゆえに
あまり使う機会もなくなってしもうたがの」
「そっか。ならそこ使わせてもらっていいかな」
「ホォーッホッホッホ!好きにするがよいぞ!
たまには開放的になるのも悪くないがゆえにな!」
と言うことはあの空間を提供すると同時に自分もついて来るつもりらしい。
本音としては物理反射を持っているのであまりついてきて欲しくはないが
まぁせっかく協力してくれるんだし、ちょっとくらいならいいかと純矢は妥協した。
「それじゃあ場所はハーロットに提供してもらうとして
後は稽古に協力してくれる人員だな」
トールなら同じ武人気質同士、確かにバージルとは馬が合うかもしれないが
以前あった色々な事を考えると、どっちも手加減ができるとは思えない。
ミカエルも剣ではないにしろ槍を扱うが、どちらかと言うと単身戦より集団戦向きだし
フトミミは人型をしていても素手での格闘専門だ。
理想的なのは剣のスタイルと多少の手加減もできたダンテだが
それを言うとバージルはまず間違いなく怒るだろう。
純矢は考えた。
多少の加減ができて剣術が使え
なおかつ魔人クラスの実力を持っている悪魔。
・・・・・・・。
・・・あ。
いるにはいる。
じーとこっちを凝視している魔人とスタイルが似ていて
実力は・・ハッキリした事は定かではないがほぼ上で
多少の手加減もできるだろうし、ある程度の指導もできるはず・・・だろうが・・・。
「・・?なんだ?」
とっても非常に複雑な顔をしなんだかこっちを睨むような顔をする純矢に
バージルが不思議そうに首をかしげた。
「・・・・う〜ん、今すっごくいい指南役の人が思い浮かんだんだけど
その人でいいのかどうか・・あ、いや悪魔だった。
とにかくそれ、仲魔の中に入ってない悪魔さんなんだけど・・
腕の方は確かだし、バージルさんにとってはきっとこれ以上ないくらい
いい指南役にはなってくれる・・と思うんだけど・・・」
しかしその仲魔ではないとある悪魔さん
実は世話になるたんびにどこかしらダンテのような
いりもしない迷惑性を強めてるような気がしてならない。
けれどそれはおそらく、本人の意思あっての事ではないのだろう。
だがそれはそれでタチが悪いと思ってみても
その悪魔の事をまだ内緒にしているバージルには
純矢のすんごく複雑な心境など分かるわけもない。
「母さんがそう言うなら俺はそれでかまわん」
「・・・え?いいのか?」
「母さんの判断が間違っていたためしはない」
そう力説されると純矢としてはちょっと罪悪感が沸くが・・
しかしこれもまた、遠い道のりの第一歩だと思えばいいのだ。
「・・そっか。じゃあ今度その人に連絡を取って事情を話しておくよ。
今日明日とかに始めるとは言わないから
それまでランニングでもして身体をちゃんと動かしておくように」
「わかった」
そしてかつては何者をも寄せ付けなかった孤高の方割れは
昔からすれば信じられないほどに素直にうなずいた。
床の間の刀は何も語らない。
だがそれは自分のするべき事を教えてくれるかのように
目には見えない威圧感を放ちつつただ静かにそこにあった。
バージルはそれに手を伸ばし、目が1つこちらを見ている中でそれを掴むと
少しだけ刀身を出してそこへ自分を映す。
自分と一緒に再生された魔刀は少しの曇りもなく
鏡のように自分の目を映し出した。
人として生きるのなら、この力は必要ない。
だが・・・やはり何かを守ろうとするのなら
この力、まだ未熟のまま放置しておく事はできない。
以前会った変・・いや、奇妙な頭だけ白くてアレだった怪人の事を思い出しながら
バージルは表情を厳しくし、そっと様子を見ていたピシャーチャの目が少しひっこむ。
あの時のようにただひたすらに力を求めるのではなく
全ては・・母さんを守るために!
ぱちんと音を立てて刀身が鞘に戻る。
その音は昔よりいくらか軽くなったような
まるで刀が力強くうなずいたかのような不思議な音だった。
「広い広い広い!ここここ広い広い!ジュンヤジュンヤー!」
本来の大きさに戻ったフレスベルグが
バサバサと派手に羽ばたいてそこら中を盛大に飛び回り
それを同じく元の姿で、しかし実は結構な大きさをしているピシャーチャが
ただの〜んと突っ立ったまま目だけでのんびり追いかける。
「そう言えば来るときはいっつもいきなりで
あんまり気にする余裕も何もなかったけど・・
ここってそれなりに広かったんだな」
などと手をかざして遠くを見ているジュンヤの横には
閻魔刀を手にしてあたりを見回しているバージル
その横にはやはり元の姿に戻ったブラックライダーが静かに待機していた。
「ホォーッホッホッホ!ここはこことてかつて殺風景かと思うておったが
この姿での自由が効くという点では悪くない場所やもしれんのう!
これもまた新しき楽しみ方よのうホォーッホッホッホ!」
そしてここへの道を開いてくれたマザーハーロットはというと
他の仲魔と同じように元の姿・・といってもこっちの方が怖くなかったりするが
とにかく一体に戻った七つ首の獣の上で、優雅に毒気の立ちのぼる杯をゆらしている。
姿を変えなくていいし騒ぎ放題という事もあってか
その尻の下にいる獣もそれぞれの首でぎゃあがぁ何事かをわめきあい
まるでお喋りしているかのようで楽しそうだ。
おそらくここへ来るのが初めてなのは
少し警戒するように周囲に目を走らせているバージルだけだろう。
ここはかつてダンテをのぞく魔人達との戦いの時、決まって無理矢理引き込まれた
ボルテクスではないどこかの荒野のような広い空間だ。
そこはどこにあるのか分からないが
マザーハーロットはまだここへの扉の作り方を知っていて
今回こうして多少暴れても害の出ない場所を提供してくれたのだが・・
そう言えばマザーハーロットはその目立つ風貌と獣達で東京にいながら
今まで一度も騒ぎを起こしたことがないというのは
こういった場所への行き交いが可能だったからなのだろうか。
しかしそれでも彼女の素性にはまだ色々謎が多い。
とは言えそれを全部掘り下げて聞くのも色々と怖い気がするので
純矢はそれについてはまだ聞けないままでいたりする。
ちなみにブラックライダーは立会人として、フレスベルグとピシャーチャは
たまには広いところで自由にさせてやろうと思って連れてきたのだが
そこら中を元気に飛び回るフレスベルグはともかく
ピシャーチャはというとストック暮らしも床の間暮らしも長かったので
外に出してから一歩も動こうとせず、じーーーと突っ立ったまま
時々目を動かして誰かの様子をうかがうだけだ。
と言ってもこの巨体で活発に動き回られてもちょっと怖いが
とにかくそんな色々と姿の変わった連中に囲まれたバージルは
しばらくそんな不思議な連中をじっと眺め、ようやく思い出したように口を開いた。
「・・それで・・俺の相手というのは?」
「えっと、ハーロットが呼んでくれてるはずなんだけど・・」
「あぁ、あの者なら少々準備があるとかで少し遅れるとか申しておったぞ。
何をしておるのか知らぬが・・」
と、その時マザーハーロットの乗っていた獣(ジュンヤ命名ハル)が
ぎゃあぎゃあ各自で騒いでいたところを突然ぴたりと静かになり
何か見つけたかのように一斉に顔をぐるんと同じ方向へと向けた。
「おや、来たようじゃな」
そう言ってマザーハーロットが持っていた杯をふいとかたむけると
地面にぽっかりと人1人が通れるくらいの穴が開く。
そしてそこからはしゅぱっと人が1人出てきて
紫の上質のコートをひらめかせ、乾いた大地に華麗な着地を決めた。
が、それと同時にバージルが閻魔刀をぼてと地面に落っことしそうになり
純矢の顔がひきりと引きつる。
「・・いやすまない。仕度に手間取ってしまった」
その声は前に聞いたことのある声だ。
もちろん色々と因縁のあるバージルにも聞き覚えのある声だ。
だがその声は聞いたことがあっても問題はまたしてもその頭頂部。
以前とまったく同じ紫色の貴族服・・・のてっぺんに
またしてもウサギの着ぐるみ頭のみ。
そしてそれは変装しているつもりなのか
その額部分に赤丸をはさんで合格と書かれたハチマキ。
長い耳の部分にはリボンと勘違いしたのだろうか
ムチを振り回す女の人がつけそうな蝶のアイマスク。
そして前も見たことのあるつぶらな目は隠そうともせず
その代わり口にクイズ番組で発言禁止に使用しそうな
赤い×の書かれたマスクが付けられていて
白い手袋をしたその手にはどこぞの地名の書かれた
修学旅行に買うと友達に笑われ先生に怒られそうな土産木刀。
勇気と理性とツッコミ能力のある人ならまず間違いなくこう言うだろう。
アンタ一体全体何をしたいんだよと。
というかそれだけバラつきのある品物をどうやって集めたのやら
どうしてそんなチョイスの仕方なんだとか
なんでまた首から上しか変えてないんだとか
それは変装なのか仮装なのか笑いを取ろうとしてるのかどれなんだとか
兎にも角にももうツッコミ所が多すぎるあまり
どう表現していいかすらも分からないその物体
は
固まっている2人をよそに、首から上にまったく似合わない優雅な会釈をしてきた。
「そちらの青年は初対面だな。初めまして。私の名はイナバ又三郎。
といってもこれは訳あっての仮の名だが
今回その少年に助力を頼まれ君の指南をする事になった
しがない金魚売りだ。よろしく頼む」
ぶぢ
小気味のいい音を立て、バージルの額の血管が血をふいて切れた。
「わー!待て待て待てーー!!
気持ちは分かるけど(多分)悪気はないんだから
問答無用で斬り捨てようとしない!!」
多少ブランクがあってか、一度出すと何かを斬らずには収まれない刀は
なんとか抜刀寸前でしがみつく事で止めることに成功する。
が、しかしこの父わざとなのか何も考えてないのか
それともダンテのように挑発でもしてるのか
それともただ馬鹿なだけなのかとにかく毎回やることが奇抜で困る。
「ははは、血気盛んな若者だ。
やはり若い時期には行動力がなくてはな」
などとどう見てもバカにしてる以外の何者でもないヤツに笑われ
バージルは眼光だけでも人が殺せそうな勢いでその物体を睨み付けた。
「・・・貴様・・・以前の事といい一体どういうつもりだ・・!」
「ん?私は君とは初対面のはずだが?」
「そんな異常な姿をした奴が複数存在してたまるものか!!」
「さて一体何のことかな?」
それだけ特徴のありすぎる格好で何を言いやがるとは思うが
それはおそらく以前いろいろやらかした事を考え
別人になりすました方がいいと考えたのだろうが・・
しかしツッコみ出すとキリがないのも含め
とにかく色々総合するとやり方がことごとく間違っている。
「・・・・それは以前の事をふまえた俺への挑発行為か?」
「いやだから私は君と会うのは初めてだ。
ほら、よく見たまえ。こんな姿の人物などそう多くはいないだろう」
確かにいない。いるわけない。
だからバレて当たり前なのだがそれに本人気付いてるのかいないのか。
パチッ!
そしてその完全にしらを切り通そうとする様子に
主の猛烈な怒りを感じとった閻魔刀から小さな放電が起こる。
そして結局、見かねた・・
というかいい加減に頭痛がしてきた純矢が仲裁に入ることになった。
「あの・・・すみません、それなりに努力した事は認めたいんですけど・・
もうばれてると思いますよ?」
大体首から下、前のまんまだろと思いつつ純矢がそう指摘すると
いろんなオプションのついた前とあんまり変わらないウサギ男は
ちょっと間をあけてこほんと咳払いをした。
「・・そうか。見抜かれていたのなら仕方がない。
では改めて・・久しぶりになるかな。いかにも私はウナギ童子だ」
「名前間違ってますウサギ童子さん」
だが間髪入れず冷静なツッコミを入れられてもウサギ頭は動じない。
「はは、名乗ったのは一度だけなのに覚えていてくれたとは光栄だ」
「・・考えた本人がスッパリ忘れててどうするんですか」
「君が覚えていてくれるならそれで十分」
「バージルさんに自己紹介したのに俺だけ覚えてたってしょうがないでしょう」
「いや仮の名前なのだから別に他の者に忘れられても支障はない。
私が重要だと思うのはただ君に覚えてもらえているかどうかという一点だけだ」
「・・・あのスミマセン、悪いのはわかってるんですけど蹴ってもいいですか?」
「いやすまない冗談だ」
その人の話聞かなさ加減に純矢が本気でそう言うと
ダンテよりはいくらか知性のある紳士は実に素早くあやまった。
「・・・・ともかく今日はお願いします。
あんまり激しい戦い方は教えなくていいですから
身を守ったりいざという時にちゃんと動ける
最低限程度の事は教えてあげて下さい」
「私としては君に教えたいところなのだが・・」
「スミマセン、死なない程度に殴っていいですか?」
「うむ、では善処して指導しよう」
などとコントさながらなやり取りをした後
付属品の増えたウサギ童子改は
無言で殺気を駄々漏れさせていたバージルに向き直る。
「・・・とは言え・・そちらの様子は
あまり最低限というほどの剣幕でもないか」
バージルは答えない。
しかし答えないかわりに着ていた上着を脱ぎ捨ててすっと体勢を低くし
閻魔刀を本殺しモードバリバリでかまえた。
純矢は止めなかった。
何せ相手はもう死んでる身なのでこれ以上死ぬこともないし
むしろ心配すべきは我を完全に忘れ
伝説の魔剣士に剣を向けようとしているバージルの方だろう。
「・・ピッチ。危ないからハーロットの後にいろ」
純矢がこの中で最もとばっちりを受けそうな幽鬼にそう言うと
大きな手でバージルの上着を拾い、ぼそぼそ土を器用にはたいていた幽鬼は
これから楽しい映画でも見るような様子で一部始終を楽しげに見ていた
真っ赤な魔人の後にのっそり移動した。
フレスベルグは下での様子も気にせず、まだそこら中を飛び回っているが
スキルに物理耐性を持っているので多少のとばっちりが行っても大丈夫だろう。
ブラックライダーは要領がいいので自分で避けるだろうし
メディラマを持っているので心配ない。
むしろデスカウンターを所持していたりするので
とばっちりが行った時に心配する方は逆になる。
「じゃ、始めようか。
一応先にクギささせてもらうけど、あんまりマジにならないように」
「了解だ」
「無理だ」
返ってきた答えはまったく逆のものだったが
片方の正体を知っている純矢はあまり気にせず
しょうがないなとばかりに肩をすくめて全身を変貌させると
何かの間違いでバージルが大怪我をしないようにと
いつでも割り込めるように準備だけはしておいた。
2へ