その日は学校が休みでお昼を食べがてら百貨店に
冬物の服を探しに行く予定だった。
バージルは子供のように急成長する時期は過ぎているが
ガタイがいいので近所のスーパーで合うサイズが見当たらないのだ。
本人はあまり人混みが好きな方ではないが
母と一緒ならどこへでもついて来たがるし、百貨店は色々興味深い物が多いので
顔には出さなかったがその日を楽しみにしていた
・・・のだが
しかしその日の朝に限って彼の調子は
表に出そうとすまいとする努力があったからか
それともあまり表情を崩さない仏頂面のおかげか
あまり目立ってはいなかったが・・・ちょっとおかしかった。
まず最初にそれに気付いたのはやはり純矢だ。
まず朝起きて顔を合わせた時、目が半開きだった。
まぁそれだけならいつもの事なのだが、服を着替えて階段を下り
食堂に入るまでその目は覚醒することがなかった。
そこまででもまぁ夜中まで本に夢中になっていて時々ある話なのだが
眠かったら顔洗い直しておいでと言ったのに
いつもなら素直に従うはずの彼はなぜか無言で首を横に振り
好きなはずの和食、つまりみそ汁にも焼き魚もなかなか手を出そうとしなかった。
「・・・バージルさん、食欲ないのか?」
そう言われると本人は手が動いていなかったのに
今気付いたかのようにハッとし、違うという意味か無言で首を振り
少しゆっくり気味に箸を動かし始める。
だがその動作もなにかぎこちなく
しかもみそ汁を少し含んだところで急にむせて
苦しそうな咳まで始めた。
「・・え?もしかして・・風邪?」
「・・違う・・!」
しかし慌てたように否定した声はかなりかすれていて
とても否定できたものではない。
純矢はちょうどお茶を運んできたブラックライダーと顔を見合わせた。
すると血色の悪い初老の男は何を思ったのか・・す、とバージルを指さし
肩であくびをしていた妖鳥をそちらに向かわせる。
しかし熱さに弱いフレスベルグは指示された場所へ行かず
ちょっと迷うようにその頭上を旋回してバササと元の肩に戻ってきた。
それはつまり、止まるのが嫌なくらい熱がある証拠だ。
純矢は急に厳しい顔になると箸を置き立ち上がった。
だがそれに気付いたバージルもまずいとばかりに席を立つ。
「トール!ケル!」
近くにいた仲魔達がその言葉に反応して飛びかかろうとするが
さすがに弱っていても悪魔の中で特殊な魔人らしく
どちらも一瞬の差で手が届かない。
なにせ楽しみにしていた買い物なのだから
そんな時に体調不良がバレて中止にされると嫌なのだろう。
バージルは病人にあるまじき速度で隣の部屋へ転がり込み
ずばんと勢いよくフスマを閉めた。
「こら!何をしているここを開けんか!」
「ア、コラ!アマリ力ヲ込メテ破壊スルトみかえるニ怒ラレルゾ」
「うぬ・・!」
がたごととそれを開けようとしていたトールの手が止まる。
そこは先日ミカエルが張り替えたフスマなので確かに破ると怒られる。
サマエルかフトミミがいればうまく説得してくれただろうが
2人とも休日出勤で今はいない。
かといってフスマを破壊するのも乱暴だし
ねばり強く説得している間に状況が悪化しても困る。
純矢はため息をついた。
「・・・この手はあんまり使いたくなかったんだけど」
時間をかけて説得する手もあるが
あまり時間をかけるのも症状が悪化するだけなので
この際贅沢は言っていられないだろう。
純矢はあまり使わない強硬手段の決断を下した。
「ピッチ、エストマして捕まえろ」
その途端、バージルの立てこもっていた部屋の中で変化が起きた。
しかしバージルはガタガタ動くフスマを閉めようとするのに精一杯で
しかも気配を薄める魔法を使用してあるために
後で何かがもぞりと動き、その姿を急激に変化させたのに気付けなかった。
通常の健康状態ならまだ気付けたかもしれないが
実のところ普段は床の間で大人しく花と一緒に座っている悪魔のレベルは
トールよりも高くバージルとほとんど変わりがない。
そしてフスマに大きな影がさした時
バージルは初めてその存在に気がついた。
しかし気付いたときにはもう遅い。
がっぷ
どす ばたん
かたくなに閉じられていたフスマは
その何かが倒れるような音の後、あっさり開いた。
「・・ありがとピッチ」
巨大な口にバージルを捕らえて転がっていた巨大な幽鬼は
声を出さないかわりに長い目をひょろりと向け
近くで見るとマツゲまでついてる目を得意げにパチパチさせた。
「・・・38度2、咳も出るし声もかれてる。典型的な風邪だな」
大人しくしないと食わせた状態で吸血させるぞという脅しをかけ
ようやく布団に落ちつかせて熱を測ると、出てきたのはそんな数字だ。
彼をここまで運んで・・といっても荷物みたいに小脇に抱えて運んでくれたトールが
横で少し眉をひそめる。
「その38・・とかいう数は大変な数値であるのか?」
「そうびっくりするほどひどいっていうほどでもないけど
安静にした方がいいのは確かな数字だ」
「・・・いい・・・動ける・・・」
かすれきった声でそう言ってバージルは起き上がろうとするが
額に当てられた冷たいタオルごと後に押し戻された。
「ダメだ。動けても身体が熱くてだるいのは
安静にしててほしいっていう身体の信号なんだから」
「回復魔法デハ治ランノカ?」
逃げようとしたら足を押さえ込む役として
バージルの足元で丸くなっていたケルベロスが聞くと
純矢は体温計をしまいながら首を振る。
「傷を治すのと病気を治すのは違うからな。
ディア系統で異常状態が治せないのと同じだよ」
「ではアイテム系統で治せるのでは?」
「人間のかかる風邪と悪魔の状態異常ってのはかなり違うから多分無理だ。
でも人間用の風邪薬はちゃんとあるから、それでいくらか緩和できると思う」
その言葉に大人しくしていたバージルの顔が少しけわしくなる。
しかしそれを知ってか知らずか純矢は笑って
「バージルさんはダンテさんと違って
苦い物は嫌だとか言って駄々こねないよね?」
実は同じく嫌なのだが、そう言われてしまうと嫌だとは言えず
バージルは冷えたタオルの下で思いっきり眉を寄せた。
「・・・攻撃を受けたわけでもないのに自然と体調が崩れるとは
人間とは少々厄介なものだな」
「そうでもないさ。だって熱があるってのはその熱で悪い菌・・
つまり悪い毒素を殺そうとしてる証拠なんだ」
「デハ自己治癒能力ガアルノカ?」
「スキルみたいなハッキリした物じゃないけど・・そんなところかな」
「ナルホド」
元気なら俺を教材に使うなと言いたいところだが
さっき無茶をしたツケからか今のバージルにそんな事を言う元気も気力も
ほとんど残っていなかった。
「じゃあ風邪薬探してく・・」
がし
しかし立ち上がりかけた所を
瞬時に布団から伸びてきた手で足を掴まれる。
こういった時の反応速度だけは変わってないらしい。
「・・・あのさバージルさん、薬取りにいくだけだから離してくれないかな」
しかし病気の間は心細さが倍増するのか
だるそうに開かれていた目は心細いというのを通り越し
『行くな。行くと斬るぞゴラ』と言わんばかりに鋭くて少々怖い。
「・・・トールごめん、ブラックに風邪薬っていうのを探してもらって
あと水を一杯たのむ」
「心得た」
「あ、言っとくけど水はコップ一杯でいいから」
「?そうか」
ちょっと疑問系が入ったと言うことは、本当にめいっぱい持ってくる気だったらしい。
そんなトールを見送って純矢は枕元に再び腰を下ろした。
ケルベロスは普通ならそこでそのそばに落ちつくのだが
やはりちょっと心配なのかバージルの足元で丸くなったまま動かない。
不思議な話、ダンテと仲が悪かった仲魔は
なぜかバージルと相性がいいらしい。
「・・・で、一応確認しとくけど、こうなった原因はわかってるよね?」
「・・・・」
「風呂上がりはちゃんと早く寝るようにって前に言ったのにな」
「・・・・・・・」
自分が悪いのだと分かっているためそっぽを向くにも気まずいのか
バージルは目だけを純矢から微妙にそらした。
純矢は布団にはいると速攻で寝てしまう体質だが
バージルは読んでいる本のキリがつくまで眠れないタチらしく
今まででも何度かそれで間抜けな目にあってはいたが・・
言ってもなかなか聞かないところはどこかの誰かさん似だ。
「・・まぁひいちゃったものは仕方ないからとやかく言わないけど・・
今度からせめて風呂から出たらすぐ寝ることだけは守るように。
でないと・・今度から1人で風呂に入ってもらうからな」
がん
バージルの精神に120ダメージ。
「嫌ならちゃん守ること。わかった?」
「・・・わかっ・・た・・・」
「よし。約束だ」
少し暖まったタオルを取って氷水に浸しながら
再生の母は『やぶったら怒るぞ』とばかりなうなずき方をする。
純矢は優しいがしつけには時々厳しい。
けれどそれは優しさの裏返しであることがよく分かるものなので
普段あまり怒らないから怖いというのも含めて誰も逆らえない。
だが・・
「そう急がなくても百貨店は逃げないから、治ってからゆっくり行こう。
それまで俺も買い物行くの控えとくからさ」
こういった優しいところも厳しいところも含めてバージルは今の母は好きだった。
「だから早く治そう・・なっと。
心細いのはわかるけど今は安静にするのが一番だから」
しがみついてこようとする腕を布団の中にさりげなく押し戻し
返す手で冷えタオルを所定位置に置く一連の動作は
さすがに手慣れてきたものだ。
「・・主、これでよいのか?」
そうこうしてる間にトールが錠剤とコップを持って戻ってきた。
「あ、うんそれでいい。ありがと。
じゃあバージルさん、起きれる?」
薬は好きではないが早く治したいのは確かなので
バージルはいつもより数倍重い身体をゆっくり起こした。
渡されたのは白くて丸い錠剤だ。
粉薬なら確実に苦くて不味くて飲みにくかったろうが
それは口に入れて水で流し込むとあっさりと胃に入ってくれて少しホッとする。
「それじゃあとは寝て治すだけだ」
「・・寝ていれば自然に回復するものなのか?」
「そうだな。後は身体が勝手になんとかしてくれるよ。
トール、退屈だったら前に行った公園にケルと一緒に散歩に行くか?」
「いやしかし・・・」
いくら自分とタメをはれるとは言え
こんな弱ってる仲魔をほっておくのも気が引けるのか
トールはちょっと心配そうな顔をする。
とは言えこんな大きなのにずっと横に居座られても困るので
バージルはいくらか目を鋭くすると、出にくい声をふりしぼった。
「・・・俺は・・いい。・・・行け」
「しかし・・」
「・・・いいから・・行・・ッ!」
声を強く出そうとしたが咳が出てしまい言葉は途中で切れる。
純矢は困ったように笑うと
どうしてよいやら少し困惑しているトールに素早く耳打ちした。
『意地っ張りだからあんまり人に弱ってるところを見られたくないんだよ。
しばらくそっとしておいてあげてくれ』
トールは成る程と納得した。
バージルはトールと通じるところがあるので
常に強くあろうとする武人としてならその気持ちはよく分かる。
「・・・・・わかった。では静養するといい」
「ほら、ケルもお行き。今朝の散歩まだだろ?」
ケルベロスはちょっと迷うような素振りをするが
確かに今はそっとしておくのが一番いいのかもしれないと立ち上がり
何度か振り返りつつもトールと一緒に部屋から出て行った。
それを目でずっと追っていたバージルが
どこか力の抜けたようなため息を吐き出し
何かくれと言わんばかりに手を差し出してくる。
「・・・ま、気持ちはわからなくもないけど」
そう言って純矢が差し出したのはティッシュとくずかご。
鼻をかむのも遠慮していたのか、バージルはいつもより数倍増し渋い顔で
ティッシュを取ってズビー
と派手な音をたてて鼻をかんだ。
「何か欲しいものは?」
「・・・ない・・・」
「寒かったらもう一枚布団出すけど」
「・・・いい・・・」
「でもやっぱりもう一枚出した方が・・」
それとなく誘導して、さらに理由を付けて立ち上がろうとするが
やっぱり伸びてきた手はズボンのはじを病人とは思えない速度で掴む。
今は水とか布団とかよりも、とにかくそばにいろと言うことだ。
「・・・参りました」
さすがにそうまでされると諦めるしかない。
純矢はしかたなく元いた位置に腰を下ろした。
後は寝付いた後まで気配を読まれていないことを祈るのみだ。
「・・そういや今さら思ったんだけど・・
やっぱりバージルさんて半分人間なんだなぁ」
「・・・・・」
「・・あ、いや、呆れてないよ。
むしろちゃんと人間らしいところがあってホッとした」
じゃあ今まで何だと思ってたんだと、バージルはぼんやりする頭で思う。
しかし考えてみれば自分は半分悪魔と言えども
見た目にはほどんど人間と変わりがないので
こうして病気になったりすることくらいでしか
人間らしいと強調できる場所がないかもしれない。
そう言えば目の前にいる純矢も見た目にはほぼ人間だが
その気になれば自分よりも強力な力を有するちゃんとした悪魔だ。
その時バージルの頭にふと1つの疑問がわいた。
「・・・か・・さんは・・」
「ん?」
「・・母さん・・は・・・風邪をひくの・・か・・?」
純矢はちょっと考えた。
「・・・どうだろうな。俺は確かに悪魔だけど
マガタマの関係で普通の悪魔とはちょっと違う体質みたいだから
実際にかかってみないとわからない」
「・・・・・」
熱のためかムッとしているように見える目が
何か考えているような風にじーーーこちらを見てきた。
その時純矢はふと何か嫌な予感を感じて身を固くする。
この妙な間、この微妙な目線、今の妙な質問
そう言えばいつだったかダンテが・・・
その事を思い出して飛び退こうとしたが、一瞬判断が遅かった。
目はぼんやりしていて熱もあるはずなのに
その腕の速度たるや普段とほぼ変わりなく純矢はあっさりと腕を掴まれ
あっという間に熱で暑いほどにまでなっていた布団の中に引きずり込まれた。
「こらバージ・・!」
「・・・うつすと・・・治る・・・」
「いや、確かにそうかもしれないけど!まずは安静にしてないとダメだって!」
「・・・・・・どこかへ行く・・」
「行かないから・・!こら・・放し・・いでででで!」
熱と心細さから力加減が出来ていないのか
バージルは痛いほどしがみついてくる。
「こらいい加減に・・!」
ぶん
何とか布団からはい出して手を振り上げた純矢は
何かが勢いよく振り上がるような音を聞いた。
ふと見ると壁に立てかけてあった閻魔刀が
小さな雷撃をまといつつ跳ね上がり、こっちめがけて飛んできている。
あ、まずいと思ったが
動けないのではどうしようもない。
ごん
それは鞘に入ったままの状態で空中で綺麗な一回転をし
バージルの脳天を景気よく直撃した。
立てた音は比較的地味な音だったがそれでも狙いも威力も正確だったらしく
身体を拘束していた魔人はぱたりと倒れたきり動かなくなった。
「・・・すみません・・助かりました」
落ちていた閻魔刀がぴょいと起きあがり
隣の部屋から入ってきた紫の紳士の手に
まるで磁石でもついているかのようにぴしと綺麗に収まる。
「・・いや、こちらこそ教育不行き届きで迷惑をかけてすまない」
言いながらスパーダは純矢の手を引いて助け出し
うつ伏せに倒れている息子に布団を引っかけ直した。
ただし足で。
なんだかそれは教育不行き届きと言うよりも
誰かさんの性格が影響してるんじゃないかと純矢は思った。
「あの・・・でも病人に乱暴するのはよくないですから
今度から出来ればもうちょっと穏便にお願いできますか?」
「そうか?あれくらいは乱暴の内にも入らないが」
「スパーダさんは病気になった事がないから分からないかもしれないけど
人間は病気になると色々と大変なんですよ。
・・ほら、とにかく閻魔刀返して下さい」
「なぜだね?」
「それ持ってるスパーダさん、殺気がにじみ出てて危ない感じがするんですよ」
「はは、手厳しいな」
否定しなかったという事はやっぱり笑いながらも怖い事を考えていたらしい。
純矢はムッとしつつ差し出された閻魔刀をひったくった。
「助けてくれたのは感謝します。
けど病人に乱暴する人はあっち行ってて下さい」
その途端、スパーダは急にしょげたような目をしたかと思うと
いきなり背中を向けてうずくまり、畳の目をいじりだす。
「・・・そうか・・・君も妻と同じような事を言うのだな・・・
・・・そうだな・・・どちらかと言うと君は悪魔よりも人間よりなのだから
私よりもバージルの方がかわいいのだろうな・・・」
いい大人の、しかもこんなデカイ息子が2人もいる
あまつさえ伝説まで言われた悪魔が
上2つに該当するとは思えないセリフを背中丸めてぶつぶつ言う。
何だかこの父も日を追うにつれて性格が変な方へねじ曲がってきているのか
純矢はなんだかその背中がダンテに見えてきてしまい
思わず後からケリを入れたくなってしまった。
「・・・・・・スミマセン言い方が悪かったです(棒読み)。
後は俺が見ておきますからスパーダさんは休んでてください」
「・・・それはつまり・・・用無しという事なのか?」
「・・・今頼める事がないだけですよ。大体スパーダさんが居座ると
俺と話したがって安眠の邪魔になるじゃないですか」
言ってからまたスネるかと思ったが
今度返されたのは懐かしそうな笑みだ。
「?・・・なに笑ってるんですか?」
「・・いや、君は本当に妻によく似ているよ。
優しくも厳しい性格も、慈愛の向け所も、私に対する態度も・・何もかもね」
などと心底幸せそうな顔をする伝説の悪魔に
純矢は心の底から脱力した。
それはダンテにも言われたことだが、事あるごとにそう言われていると
なんだかその母に似ているという自分のあずかり知らない部分が
自分に災厄をもたらしているような気になってくる。
そして人間でありながらこんなノロケ悪魔を夫とし
それぞれに扱いの難しい双子の半魔を育てていた母親の方が
よっぽど伝説に相応しいような気がしなくもない。
「・・・・とーにかく、寝る子は育つって言いますし
今はそっとしておいてあげて下さい。いいですね」
「わかっている。だが・・その前に1つ聞いてくれると嬉しいのだが」
「何をですか?」
「妻はこういった場合、私をなだめるために1つしてくれていた事があってね」
「・・・・つまり・・それを俺にしろって事ですか」
「その通りだ」
だから俺は男で悪魔で妻じゃないのに・・・と思うものの
今の父はダンテと同じく言ったところで聞きやしないだろう。
「・・・で?具体的にどうすればいいんですか?」
「・・そうだな、・・頭を抱きしめて撫でてくれればそれでいい」
言う前と後に若干いい加減っぽい言い回しがあったのだが
そのあまりの内容に純矢はそれに気付く余裕もなかった。
「・・・・・・・あの・・・それ、ホントにしてたんですか?」
「(息子達にしてたのは)もちろん本当だ」
それはいわゆるなでなでしてぎゅーする事で
ケルベロスやフレスベルグなどの動物系にしたことはあっても
さすがにそんな事を人間系の悪魔にするには抵抗がある。
しかししないと出て行ってくれそうもないので
純矢はかなり迷ってからおずおずと手を伸ばした。
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