それは俺が時々1人で思うこと。
思ってるだけでもしょうがないけど
だからといって今すぐどうかしようかとも思わないこと。

俺は時々ストックで休むダンテさんとは違って
ずっと表で悪魔と戦っているからレベルは当然、俺の方が高い。

それと直接攻撃の多いダンテさんと違ってそれなりに属性の融通も利くから
大体の悪魔と戦っても負けない自信はついたつもりだ。

でも・・・

ビュン!

その事を考えていた一瞬に、耳の横を鋭い音と真っ赤な色が通り過ぎ
進路上にいた大きな悪魔を剣の一撃だけで消滅させる。

・・あ、そう言えばこの人時々悪魔の体力無視した攻撃とかも出来るんだよな。

まぁそれを商売にしてるとか言うくらいなんだから
それくらい出来て当たり前なんだろうけど・・・。

なんて事を考えてたらその赤色が得意げに振り返って
俺に不敵な笑みを向けてきた。

「こんな時でも考え事とは余裕だな。
 ま、そのくらいの余裕がなければオレと対等に戦えたりしないだろうが」

そう言えば・・・いつまでたっても変わらないこの嫌味な口調も
俺の考えてるそこから来てるのかも知れない。

ちょっとムッとして黙っていると、見た目はどう見ても人間なのに
どう見ても人間離れした力を持つ変なハンターはいつも通り
カッコイイけどなんか腹の立つ仕草で肩をすくめた。

「?・・どうした。今日は吠え返さないのか?」

そう言えばこの人・・いや魔人だけど
いつでもどこでもどんな時でも、こんな余裕の態度がとれるのは
力の強さとかレベルとかスキルの問題じゃない
多分、きっと俺にはまだ手の届いてない所での・・

「おい」

びし

「いて!」

俺の無言をどう取ったのか知らないけれど
ダンテさんはいきなりそこそこ力の乗ったチョップをくれた。

「さっきから何難しい顔して睨んでる。
 オレの顔に数学の問題か何かついてるか?」
「・・・いや・・憑いてないとも言えないけど・・別に」
「・・・何か今妙な含み方が聞こえたが・・
 それだけぼんやりしておいて別にって事はないだろ。何考えてた」

う、鋭い。
普段は自己中心的で何も考えずに行動するバカっぽさがあるのに
こんな時にだけ敏感に反応してくるってのはどうなんだよ。

しかもそうやって真剣な顔されると依頼主の俺の方が偉いのに
なんだか逆らえない気分になるし・・

・・・・・・。

・・・・しょうがないなぁ。

俺はまわりがちょっと落ちつくのを待ってからしぶしぶ話し出した。

「・・・前からちょっと気になってたんだよ。
 俺・・ダンテさんよりレベル高いし、スキルもそこそこ強力になってきたのに
 なんでかその・・ダンテさんには追いついてない感じがするなって」

それはダンテさんと行動を一緒にするようになってからしばらくたって
レベルは同等、力もそれなりについたくらいから気になってた事だ。

何が追いつてないのか具体的な事は何もわからないけど
なんだか俺は・・悪魔としての能力的な力は付いていても
いつまでたってもダンテさんに手が届いてないような気がする。

依頼主とか雇われてる人とかの関係も未だに実感がないし
口で言いくるめられる事もしょっちゅうだし
とにかく俺は・・ただ闇雲に力だけをつけているだけで
ダンテさんには手が届かない感じがする。

・・っていうのをずっと思ったんだけど・・笑うかな。

鼻で笑われたらちょっとショックだけど・・

・・・あれ?何か考えてる。

あぁ言えばこう言ってあしらうタイプなのに珍しいな。
・・や、でも俺に言う最上級の皮肉探してるのかもしれないし・・・。

なんて思ってると、ダンテさんはいつもとまったく変わらない様子で

「なら試してみるのが一番手っ取り早いだろう。
 今ここでオレと殺し合って答えを出す。それだけでいい」

と、あっさり事も無げに言い放って背中の剣をぶんと振りかぶる。

「・・・は?」

それは本当にさりげなくてあんまりに普通に言われたから
冗談にも皮肉にも聞こえず、俺は口を間抜けな形に開けることしかできなかった。

けどそんなことおかまいなしにダンテさんは悪趣味なデザインの剣
(リベリオンって言うらしいけどホントに悪趣味だから俺はこっちで覚えてる)を
まったくためらいもせず・・・

ピシャーン!!

振り下ろそうとしたところで飛んできた電撃をギリギリで飛んでかわし
いつもながら見事に体勢を立て直す。

そしてその後、俺の前にずしんとでっかい音を立てて白いマント・・というより
大きすぎて白い壁みたいなものがダンテさんと俺の間に割り込んできた。

おのれ貴様!!今主に何をしようとした!!」
「・・なんだ、図体がデカイくせに案外目ざといなTバック」
質問に答えよ無礼者!!返答次第ではただではおかんぞ!!」

あ、まずい。
ダンテさんが一瞬だけど俺に剣を向けようとしたのがバレたらしい。
身体と同じくらいに忠誠心が大きいトールを外に出してたのは
運が悪かったとしか言いようがない。

いや、もしかしたらばっさり斬られてた俺にすれば多分運が良かったんだろうけど・・
あ、いや今はそれどころじゃないか。

「あ!待てトール!俺は別になんとも・・!」
「怒る事じゃないだろ。今のはそいつが言い出した事だ。
 オレとそいつ、一体どっちが強いのかってな。
 そんなものは実際に試してみれば一番わかりやすい。
 当然の理屈だろ?」

あああぁぁあ!!
だからこの人はどうして人のフォローを台無しにしたがるんだよ!!

前にあったトールから怒りで制御できなくなった電撃が
バリバリ音を立ててそこかしこに漏れ出す。

「わああ!トール!ストップ!マハジオダインは戦闘中だけにしろ!」
「いいじゃないか少年。幸い今外にいるのはクイーンだ。
 他の誰にも迷惑はかからないだろ」
「そういう問題じゃないだろ!!こら!ハーロットも笑ってないで何か・・
 いや!!やっぱり何も言うな!あっち行ってろ!!」
「なんじゃ面白うない。わらわにも参加させ・・」
「あおったり焚き付けたりこじらせたり反射したりするからダメだ!!」

そりゃ確かにハーロットには電撃も弾丸も剣も効かないから被害はないけど
トールは何でも真に受ける性格だからヘタにあおられたりしたら余計に話がこじれる。

「じゃあ少年とのダンス前に、オマエがお相手してくれるって事か?」
おのれまだ言うか!!
 主があれほど日々仲魔内でのケンカは禁止と言っているにもかかわらず
 それを平然と無視したあげく主にまで手を上げようなどと!!
 
もう勘弁ならん!!今日という今日こそはその腐った性根をたたき直してくれる!!」
「やめろってトール!!ダンテさんも何考えてるんだよバカ!!」
「なんだ少年、オレに追いつきたいんじゃなかったのか?」
「それと仲魔ゲンカは別の問題・・!」

・・・あれ?

そこで俺はふと違和感を感じる。


俺になくてダンテさんにあるもの。

今までの経験とか戦闘の回数とか
倒した敵の数とか危ない橋を渡った数とか
生きてる年数もそうだろうけど・・

それともう一つ、今気付いた事。

それは今みたいな、たとえ相手が誰であったとしても
必要であればためらいなく瞬時に剣先を向けられるような

非情さと決断力・・・なのか?

そうなのかと思って見ても
ダンテさんは何も言わず、いつも通り不敵に笑ってるだけ。

多分それは俺の考えがわかっていて
『オマエにそれを持つ勇気と自信と心構えはあるつもりか?』っていう
まだ何もしらずに何かを知りたがっている、子供を見る大人の笑いだろう。

俺は少し怖くなる。

ダンテさんはハンターだ。
それも俺とか仲魔のみんなみたいなのを1人で狩ってたデビルハンターだ。

それがどんなものなのかは出会ったばかりの時と
時々見せるやたらに鋭い目つきや容赦のない攻撃とかでも
俺は・・・分かっていたはずだ。

ダンテさんに手が届くというのはそう言うこと。

強くなるのはそう言うこと。


けど・・・


「・・主?主!!どうした!?」

近くからした大声にはたと我に返ると
トールのでっかい手袋がぶんぶか目の前で振られている。

気付くとさっきまでそこにいた赤いコートはもうそこになく
まるで出直してこいとばかりにこっちに背中を向け
もうそこらの悪魔を物色しにかかっていた。

・・・・うぅ・・ぐうの音も出ない。
考え事して目の前が見えなくなるなんてまだまだな証拠だ。

俺は情けない気分で頭をかいてから
とりあえず身体を丸めてこっちを見ていたトールに謝った。

「・・あ、ごめんごめん。ちょっとぼーっとして・・」
「主よ・・確かにあまり悪魔狩りの言葉を真に受けぬ方がよい。
 悪魔狩りはああ言うが、主は十分に強いのだぞ」
「・・まぁレベル的にはそうかもしれないけど
 俺はまだいろんな事でダンテさんにはまだかなわないまんまだよ」

しかしトールはそうではないとばかりに首を振って膝を折り
言い聞かせるように大きな手を差し出しながらこんな事を話し出した。

「主、確かにあの男は戦闘力的に強いには強いが・・
 礼儀、立場、口の利き方、態度、素性などその他もろもろが欠落しすぎている」

うん、それは俺も思う。
強いかわりに他の常識とか考え方とかなんやらが
強さの犠牲にされてるというかなんというか・・・。

ん?
じゃあダンテさんって・・もし弱かったのなら
良識のある性格も普通ないい大人なのかな。

・・・・・・。

貧弱で礼儀正しくて性格が良くて、いい意味で大人なダンテさん。


・・・・・・・・・・・・。


・・・ゴメン。正直気持ち悪い。


「・・?どうした主?顔色が悪いが・・」
「い、いや・・ちょっと・・・・な」
「とにかくあまり気にする事はない。
 主には戦闘に秀でるための力ではない、別の強さがあるではいか。
 今さら何を引け目に感じる必要などある」

一生懸命妙な想像を追っ払っているとトールがふいに言い出したのはそんな事だ。

「よいか主よ、強さというものは一口に言ってもそれは個々によって形が違うものだ。
 純粋に力が強い者、それを覆す知力や魔力を有する者
 悪魔狩りのように経験と場数で己を鍛えてきた者もいれば
 主のように短い間に技能を身につけ一時的に爆発的な力を発揮する者もいる」

そう言ってトールはちょっと考えるように下を向いてから
相変わらず大きな身を俺にあわせるように丸めたまま
またこっちを見て話し出した。

「主があの男に何を見ているのかは・・我にはわからぬ。
 だが悪魔狩りには悪魔狩りの強さがあり、 主には主の強さというものがある。
 たとえ主が望むような強さを得られていなくとも
 主には元人間でありながら我らを生み出し1つにまとめ上げた統率力
 元人の身でありながらこの砂の世界を歩んできた強靱な精神力
 そして何者にも惑わされなかった主だけの意思があろう」

それは俺自身はただ必死だっただけでほとんど意識もしていなかった事だ。

確かに俺は元ただの人間だ。

それがただ単に誰かの気まぐれみたいな偶然で生き残って
ただ単に必死になって手探りで生き残る方法を探していただけ。

けどそれはいつの間にかこんなたくさんの悪魔と一緒になって
世界を変える方法を探すハメになっている。

そう言えばあんまり自分で意識した事はなかったけれど
それは・・・言われて見れば凄い話なのかもしれないな。

なんて考えている間に俺の顔から暗さが抜けたのか
トールがちょっとほっとしたように最後にこう言ってくれる。

「主がどのような強さを理想としているのかは我には分からぬ。
 だがな、少なくとも我は今の主をけして不服としてはおらぬ。
 あまり救いにはならぬかも知れぬが・・覚えておいてほしい」

俺の何倍もある大きな手がぼんと肩を叩いてくる。
いや手のサイズがサイズだからそれは肩を叩くというよりも
ぼんと横から牛か何かに押された感じだ。

トールは救いにならないなんて言ったけど・・そんなことはない。

だって俺が今までやってこれたのは
トールとか仲魔のみんながいてくれたからだ。

きっと俺1人じゃとっくの昔に死んで、そこらへんの思念体にでもなってるか
こうしてまだ人間の心を持ったままカグツチへ行こうなんて考えてもなかったろう。

あぁ、そう言えば俺にしかない強さって
こうやって近くに誰かいてくれる事も含まれてるんだろうな。

俺自身の強さにはつながらないだろうけど
これは確かに俺の大事なささえになってくれている事だけは確実なんだから。

俺は離れかけていたトールのでっかい手を叩いて少し笑った。

「・・ん、ありがとな。ちょっと元気出たよ」

その途端、俺の何倍もある身体がぎくっとして丸くなり
でっかい指が地面にのの字を書く。

「い・・いや我はただ思うがままの事を進言したまでで・・」

なんて言ってるけど顔色が変えられたら多分真っ赤になってたろう。
ついさっきまで俺にカッコイイ事言ってたクセに
トールはやっぱり変なところで気弱だ。

でも・・俺がダンテさんに届かないって思ってる事も
トールが言った俺とは違う、つまりダンテさんしか持っていない
ダンテさんしか経験してない事での何か別の強さが関係してるのかもしれないな。

だから俺はダンテさんにはまだ手が届いてないとか思うんじゃないだろうか。

力の強さとか性格のアレ加減とかは別にして。

「・・・おい」

なーんて考えてると前の方にいた赤い背中が振り返って
不機嫌そうな顔を向けてくる。

あ、悪評考えてたのがバレたか。
口に出してなくてもこの人変な事にはカンが働くからなぁ・・。

「オマエ、今オレに向かって失礼な事考えてなかったか?」
「・・・・え〜・・・・うんゴメン。考えてた」
「ほう?例えば?」

・・うお、思わず素直に答えたけど
あれは言ったら言ったで絶対なんかする気な目だ。

でも・・この際隠し事なしで話した方がいいかもしれないな。
変に隠すと余計つっついて来るだろうし・・

よし、いいや。言っちまえ。

「・・俺がダンテさんに届かないと思ってるのは・・
 経験とか知識とか・・多分俺みたいな普通の奴じゃ経験できない事なんだなって。
 だからダンテさんはそんなデタラメな強さと性格してるんだなって・・思っただけだ」

俺はそう言いつつちょっと身構えた。
生意気言うなとか、ガキのくせに大人みたいな事言うなとか言って
ピンかチョップか飛んでくるかと思ったんだけど・・・

・・・あれ、リアクションが来ない。

なんでだと思ってると無表情だったダンテさんは
何を思ったのか急にふっと表情をゆるめて
こっちに歩いてきてすっと手を伸ばしてきた。

あ、もしかしてまだバカにするか叩く気なのかなと思ったけど
こっちに伸びてきた黒いグローブは目にも止まらない速さでもなく
頭に来た手は叩くとか拳骨とかじゃない、ぽんと置かれる程度のもの。

・・?なんだよ。

あれ?
しかもダンテさんどうして・・
普通に笑ってるんだ?

しかも無言だし。

なんて疑問だらけで目を白黒させていると
ぽんぽんと二度ほど頭をはたいた手はすっと頬の横まで落ちてきて・・

ぎゅうううう〜〜

加減もなく思いっきり、それこそ音がするほどつねり上げてきた。

いってててててーー!?やっぱりかよ?!
でもいい加減身体が持ち上がるほど力一杯つねり上げるのはどうにかならないのかよ!

「まだガキの分際でそんな知った風な口をきくのはいただけないが
 その事実に気付いただけでも少し賢くなったとみなして・・」

ドガン!!

横からすっ飛んできたハンマーはまたしても華麗な動作でかわされる。

まぁ・・見た目には格好いいんだけど
それを見越しつつ俺にちょっかい出してる時点で
意地が悪いというか性格悪いというか挑発的というか・・・。
しっかし・・・・いって〜・・・顔の形変わってないか?

おのれ貴様!!まだ主にそのような無礼をはたらくか!!」
「スキンシップと躾だろう。見た目に分からないか?
 あぁ、そうかオマエ図体がデカ過ぎて視力がイマイチなんだな」
「ふぐがあああぁーーー!!!
「こらやめろ!
トールーーー!!

・・・でもよくよく考えてみれば
こんなヤな大人の背中ばっかりじっと見てたら
いつか俺もこんなチョイ悪どころかだけしかつかないような
意地悪で勝手で自己中で何考えてるのかわからない
変な大人になるのかもしれないなぁ・・。






ぎゃあぎゃあ追いかけっこをしているダンテとトールと
それを止めようと必死でトールのマントを引っ張っているジュンヤを見ながら
マザーハーロットはいつも通り、それを止めることもせずクスクスと笑う。

けれど彼女は知っていた。
ダンテがジュンヤの頭を撫でて無言で終わらせた台詞が
こんな台詞と置き換わっていた事を。


『・・何つまらねぇ事考えてやがる。
 届かなくていいんだよ。大体オレみたいなロクでもない経験を重ね続けて
 ロクでもなく育った大人なんかは・・・オレ1人だけで十分だ』


だからオマエはオレにはなるな。
オレと違ってオマエはまだやり直しがきく。


それは口から出ることのないセリフだったが
マザーハーロットはダンテの性格と経験からしてそう言おうとしたのを知っていた。

けれど彼女は何も言わず、ただ笑ってその追いかけっこを見守るだけ。

だが少しして
脳天気な傍観者は1人こんな事をつぶやいた。


「・・じゃがおぬしもあやつと関わり行動を共している時点で
 もう大きな事も言えぬ身であろうに」


最古参である黒騎士と同様、かつてのダンテを知るマザーハーロットは
そう1人ごちて尻の下にいる獣と一緒にくすくす楽しそうに笑った。



そうして実の所
その背中には手が届かないと思っている少年と
さりげなくその先を歩いて道を作っているつもりなハンターは

互いの事に気付かないまま
ちょっぴりすれ違ったりしつつ
実は似たような距離を並んで歩いていたりする。








前にあると思ったら実は横にあったって話。


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