「まだですか」
「・・少し待て」
5分後
「まだですか」
「・・・少し待て」
さら5分後
「まだですか」
「・・・・少し待て」
などという短いやり取りが、もうかれこれ小一時間
とあるオフィス街の花屋の前で延々と続いている。
同じ質問を繰り返しながら気長に待っているのは
モデル並にビジネススーツの似合うサマエル。
それに対して同じ返答ばかりしているのにまったく気付かず
穴があきそうなほど色とりどりの花を物色しているのは
同じくビジネススーツの似合う・・けどなんかヘンな威圧感のあるミカエルだ。
そんな2人が延々と何をやっているのかと言うと
いわゆる純矢の誕生日プレゼントを買おうとしているだけだ。
別に延々店の前で悩みまくるほどの事ではない。
それに何より青春真っ盛りな男子高校生に花を送るのもどうかと思うが
ミカエルはあまりに真剣になりすぎ送り主の事情まで考えが回らないらしい。
そして横でその真剣さに延々付き合っているサマエルは
まぁいいや、笑われるのは自分じゃないしと白状な事を考えていた。
「・・あの、何かお探しで・・?」
そして店の前に仁王立ちになり1時間ほど経過したころ
怖がって声をかけてこなかった店員がようやく声をかけてくる。
営業妨害になりそうなので何とかしたかったのか
不審者かどうかの確認で声をかけてきたのかはわからないが
とにかく声をかけられたミカエルは一瞬ぎょっとし
次に心底難しい顔をしてこう切り出した。
「・・・主・・いや、知人に送る物を探しているのだが」
「えぇと・・切り花と鉢植えのどちらを?」
「・・・・よくわからん。こういった事にはうとくて・・見当もつかん」
おそらく店長なのだろう、ちょっと歳のいった店員に向かい
心底困ったように頭をかくその姿は、まるっきり仕事帰りのお父さんだ。
サマエルはちょっと吹き出しそうになったがガマンして
鼻先で笑うような形になったが気付かれなかったのでよしとしよう。
それからしばらく店員とミカエルは何やらあれこれ話し込むので
サマエルは道を通る通行人に目をやりながらそろそろ先に帰ってしまおうかと思った。
が
「そう、高校生だ。血液型はA型で水瓶座(以下個人情報なので伏せ字)
身長1**p体重@@s、服のサイズはウエストXXを基準とし
靴のサイズ2#.5、靴下も下着もおもに白しかつけていな・・」
どず
振り向きざまにすっ飛んできた手刀が
個人情報をだだ漏れさせていたオッサンの鳩尾にナイフのような鋭さでめり込む。
多少の手加減はしてもサマエルは貫通持ちだ。
そこそこ頑丈な大天使はギリギリ声は上げなかったが
以後一切声も出せず複雑な顔のまま固まってしまう。
「申し訳ありません。熱暴走したようですのでしばらくお待ちを」
そう言いつつ冷静そのもので大の男を引きずっていくその女の姿を
店員は呆然と見送ることしかできなかった。
そしてそれとは別の某日某所。
とある河原近くの草むらでは・・
ちょっと大きめの石が1つ転がっていて
その少し向こうの浅瀬では鳥が一匹ウロウロと歩き回っていた。
それだけなら別にどこにでもある光景だが
石の方はなんと時々自分で移動して何かを探すように動き向きを変え
鳥の方は魚をとるわけでもなく時々立ち止まっては
せっせと小石をひっくり返している。
「・・ヴォウ」
そしてしばらくすると時々ゴトゴト動いていた石が
周りに人気がないのを確認し、ウロウロしていた鳥に向かってうなり声を上げた。
鳥は同じく周りに誰もいないのを確認してから
ばささと飛んできて飛び跳ねる。
「おれないない!おまえあったかあったか?」
とフレスベルグは何かを探しているらしくそんな声を出して確認をとる。
石、つまりピシャーチャはひょろりと目を出して横に振り
ないねとばかりにちょっと残念そうな意思表示をする。
彼らもまた純矢の誕生日に何かするつもりらしいのだが
彼らの場合、買い物という行為ができないのでここで何かを探しているらしい。
それが何か分からないにしろ、それはこの場所にあって
そう簡単には見つからない物のようだ。
「でも探す探す!ジュンヤに探す!おれ探ーす!」
「ウヴ」
けれど鳥と石はめげずにそんな風にうなずき合うとまた元の場所へ戻り
ごそごそガチャガタ草むらをかきわけたり石をひっくり返したり
一緒になってよくわからない行動を再開した。
そしてそれとは別のとある繁華街では。
観光に来たような外国人が2人肩を並べて歩いていた。
一方は黒いコートと片眼鏡がよく似合い
逆に日本という土壌にはまったく適応してい外観の紳士。
一方はそれよりも少し若くまぁまぁ周囲にとけ込む服装はしているものの
その紳士のおかげでやっぱり浮き気味になっている紳士より若い男だった。
しかもその2人、ちゃんとした親子なので顔立ちがそっくりで
すれ違う人が時々振り向き、あちこちから結構な量の視線がとんでくる。
買い物に出かけないかと言われた時
自分も用事があったのでつい考えもせずのってしまったが
息子の方はしばらく歩いて何もしないうちからすっかり後悔していた。
しかしそんな息子の気持ちもつゆ知らず
父親の方は周囲の視線をもろともせず人でにぎわう繁華街を歩き・・
「ところでバージル」
「?」
「なんとなく出てきたはいいが・・これからどこへ行こう」
などと今ごろになって凄まじく今さらな事を言い出し
バージルは一瞬ずっこけそうになった。
「行き先を決めて出てきたのではないのか?!」
「いや特には。歩きながら考えれば良い案が浮かぶと思っていたからな。
あの子への誕生日祝い」
そう言って笑う父はなんだか楽しそうで
いい加減さを怒ろうとしていたバージルは何も言えなくなった。
「・・そんな計画性のなさで大丈夫なのか?」
「いや、逆にこういった事は何も考えず直感でした方がいい時もある。
お前とてあまりに考えすぎて家から一歩も出られずにいたようだし
少しは気分転換になるかと思ったのだが?」
「・・・・・」
しかもそのいい加減な父、ここ最近ずっと気にしていた事をさらりと指摘してくる。
確かにそれはあっていた。
仲魔内でその話を聞いてから、真剣に悩んで悩んで悩みまくり
1日知恵熱を出したり顔が怖いと指摘されたり
開いていないドアに何度もぶつかったりで
何でもないと悟られないようにするのに妙な苦労をしている。
そう言えばその不審な行動類をそれとなくフォローしてくれていたのは
仲魔達とこのあまり表だっては姿を現さない父だった。
その存在を知った後でもあまり表には出てこず
こちらの事などあまり気にしていないと思っていたが
やはり父親だ。見られたくない事ほど見られているものだ。
バージルはなんだか何もかも見透かされているような気分になり
余裕な顔をしている父から微妙に目をそらしつつ困ったように口を開いた。
「・・・しかし・・これからどうする気だ?
財布は持ってきたが行く当てがないのなら行き場がない」
「私はただきっかけを作ろうとしただけだ。ちゃんとした判断はお前がしなさい」
「俺が?」
「そうだ。私はもう生涯を終えたも同然の身だ。
これから先何を考え何をするかは、お前自身が決めた方がいい」
信号待ちで立ち止まり、軽く促されるように肩をたたかれる。
バージルには父親の記憶というものはあまりないが
それでも今隣に立って肩を叩いてくれる自分似の男は
あまり記憶にないというのに不思議と違和感なくなじんだ。
『大丈夫。家族なんだから』
それはいつだったか再生の母が言ってくれた根拠もなにもない短言葉。
その時はあまり理解できなかったその言葉の意味が
今ちょっとだけわかったように思えて
バージルは少し黙り込んだ後、1つの答えを出した。
「俺は・・あまりこういった事に詳しいくない。
経験上こういった事はそちらの方が詳しいだろう」
「それはそうだが・・しかしいいのか?お前も色々と考えていただろうに」
しかしバージルはちらとスパーダの方を見て
ふいと目をそらすように歩行者信号の方へ視線を向けた。
「こういった事に力を借りようとするのがいけないなら・・諦める」
その信号が青に変わり、人の流れが動き始める。
スパーダはしばらく黙って息子の顔を見ていたが
やがて1つ微笑んで人の波に乗って歩き出した。
「いや、そう言う事なら喜んで」
同じように歩き出したバージルの顔がちょっとホッとしたようなものになる。
ちょっとわかりにくいかも知れないが
これも彼なりに家族として歩み寄ろうとしている行動の1つなのだろう。
そしてその家族が少し寂しそうにこう付け足す。
「・・何しろ私はお前達に後始末のような事ばかりを残して
父親らしい事の一つもしてやれなかったからな」
バージルはその背中を見つつ何も言わなかった。
だがそれは肯定しているわけではない。
今まであった色々な事はともかくとしてでも
そう思ってくれていた事だけでも十分だったからだ。
だがそうして急に父らしくなった背中について歩くこと数分。
行き着いたのはとある宝石店で、その看板を見た瞬間
即座に嫌な予感がした息子はまさかと思いつつも一応聞いてみた。
「・・・1つ質問していいか?」
「なんだ?」
「まさかエンゲージリングをオーダーメイドで、などとは言わないな」
「ほう、よくわかったな」
1秒もためらわず素直に感心する父の腕をひっつかみ
息子は反対の方向へと歩き出す。
父の背中は作られるのも早かったが
崩れ去るのも早かった。
そしてそれとは別の時間の高槻邸。
自らの領地である台所に陣取ったブラックライダーは
テーブル上に山盛りになった食材や調理器具を見渡し
見た目にはわからないがちょっと気合いを入れていた。
それは年に一度しかないという特別な日。
つまりいつもとは違う特別な物を作らなければならない日だ。
しかし本人はその日のことをあまり気にしていなかったようだし
こと自分に関してはまったく無頓着な性格なので
へタをすれば忘れ去っている可能性もあるだろう。
・・だがそれはそれで好都合。
その方が驚かせがいも喜ばせがいも十分にあるというもの。
「・・・・・・」
くくくという怖い擬音が似合いそうな薄笑いを浮かべ
台所魔人は近所で借りたお菓子のレシピ本を1つ手に取りばっと勢いよくあけ
ひよこ型のクリップでびしと固定し作業にとりかかった。
ちょうどその時隣の部屋で何かやっていたケルベロスが
その妙な気合いに気付いてちょっと怪訝そうな顔をするが
そのケルベロスもその日のために今ちょっとやっている事があるので
それ以上は気にせず再び何かごそごそとやり出した。
「・・ナァヨウ、ほんとニヤンノカ?」
「当たり前じゃ。でなければわざわざこのような所にまで出向くものか」
そう言ってマザーハーロットが珍しく二本の足で立っているのは
あまり派手な容姿に似合わない、とある山奥の神社の鳥居の前だ。
そこはマカミが見つけた場所でそう人気のある場所ではないのだが
やはりどうしても人目につくいつもの赤い獣達は
赤っぽいドーベルマンに変えられ背に主人を乗せていない。
やっぱり怖いのには変わりないが、ワニやトカゲよりはマシだろう。
「マァソコマデ乗リ気ナラ別ニ止メネェケド・・シカシアンタモ物好キダヨナァ」
「ホォーッホッホ!こういう時に使ってこその知恵と機転であろう!
そう言うそなたは何を考えておるのじゃ?」
そう聞かれたマカミはあさっての方を見ながら首の裏をけっけとかいた。
「・・インヤ、ソウ大シタコッチャネエガ・・一応アテハツケテアッテナ。
ソレヨカほんとニ直々ニ行クツモリカ?」
「何を寝ぼけた事をもうしておる。
ここまで来て引き返していてはわざわざ足を運んだ意味がないではいか。
それよりもアレはちゃんとここで売られておるのじゃろうな」
「アルニハアルゼ。ケド・・まじデ行クノカ?
何モココデ何カシナクタッテ他ニ選択肢ハアルダロウニ」
「しつこいのう。確かに他にも多々考えてはいたが
最終的に思いついた先がここだったのじゃから仕方なかろう」
「・・マァソコマデ言ウンナラモウ止メネェケド」
「うむ、わかればよい。では行ってくるぞ。おぬしはそこで待ってお・・」
ばむ きゃいん!
と、歩き出そうとした矢先
前を歩いていた獣の何匹かが何に弾かれたような音と悲鳴を出す。
見ると入り口の鳥居の真下あたり、そこに見えない壁でもあるかのように
獣たちがぶつかったりガリガリ引っ掻いたりして立ち往生していた。
「・・?む?誰じゃこんな所に壁なぞ作りおったのは」
ためしにマザーハーロットが指先でつついてみても
そこは透明なガラスでもあるかのようにそれ以上の進入を許さない。
マカミがそこに近寄ってニオイを嗅ぎながら頭をポリポリかいた。
「ア、ヤッパ無理カ。何トナク予想ハシテタケド」
「何じゃおぬし、コレが何か知っておるのか?」
「何カモ何モ、ココハ神様ノオ社ッテやつデ
コノ国ジャケッコウ神聖ナ場所ナンダゼ?」
そう言ってマカミは妖しい一行が通れないその下を
ふよんと普通に通って見せてくれた。
「・・つまり邪(よこしま)な者を通さぬ結界か?」
「マ、ソンナトコダロウナ」
「これおぬし、知っておったのならばなぜ先に言わぬ」
「イヤおれトシテモイマイチ確証ガナカッタシ
アンタモ多少世間慣レシテ邪気ガ薄レタダロウカラ
何トカイケルダロウト思ッタンダガナァ」
「ふふん、成る程のう。おぬしは元々神の獣なれど
わらわはありとあらゆる邪に染まりし負の権化じゃからのう!」
「・・イヤ、ソコハエバル所ジャネェダロ」
獣たちと一緒にゲラゲラ笑い出した魔人に耳の先がふにゃと折れる。
しかしひとしきり笑った女帝は急に笑うのをやめ
しめ縄で飾られた簡素な作りの門を見上げて首をかしげた。
「ふぅむ、しかしそうなると弱ったのう。
ここへ入れぬ事にはわらわ自ら出向いた甲斐がない・・
・・と、言うとでも思うたか!!」
ガチャガチャガチャガチャ
などと楽しそうに言った直後
マザーハーロットと7匹のドーベルマンたちは
一体どこに隠し持っていたのかいっせいに携帯電話を取り出す。
「この程度の結界なら強引に突破できぬ事もないが、それではつまらぬ。
ここは1つ無駄にわらわの人脈駆使してみせようぞ!」
人目を避けるためか獣たちがばばばと近くの林に散っていき
残ったハーロットも人差し指一本でだが素早くキーを操作する。
それを耳に当てて数コールもしないうちに相手は出たらしい。
「もしもし、わらわじゃ」
そうしてそんな本人の声を皮切りに・・
『もしもし、わらわじゃ』
という複数の声が林の中から聞こえてきて
それぞれ誰かと勝手な会話を始めてしまう。
「シッカシ・・・普段モノグサナクセニ、コウイウ事ニハ全力ナンダナオイ」
そこら中から聞こえる同じような声にげんなりしながら
マカミは1人無駄になるだろうささやかなツッコミを入れた。
そしてそれまた別の場所
とあるホームセンターの店内図の前に種族はまったく同じでも
見た目や大きさや性格がまったく違うとある2人組がいた。
「・・広い、広すぎるぞフトミミ殿。本当にこれを全部回られるおつもりか?」
「いや、全部を全部見て回るというわけではないよ。
要は多くの物を見るためにここを選んだだけだから」
エレベーターの入り口に頭をぶつけそうな巨体が
ぎょっとしたように横にあった青年を見下ろす。
「?何かの当てをつけていたのではないと?」
「うん実はまったく。でもこれだけ物のある場所なら
1つくらいは高槻に合いそうな物もあるはずさ」
「・・・そう言うものだろうか」
それはそれで誰かと同じくいい加減な話だが
元からこういった事うんぬんに詳しくないトールはとにかく従うしかない。
「しかし事情はどうあれ目を肥やすというのは大事な事だからね。
・・あっと、そうだ。一応言っておくけど迷子になった時には
そこのレジで集合という事にしておこう」
「な・・何をそのような・・!」
「君は末っ子(バージル)に似て集中すると周りを見ないようだし
携帯はこの前ショートさせて壊しただろう?だから念のためにだよ」
「・・・・・」
返す言葉がなくなってちょっとしょげるトールに
フトミミはいつも通りの人の良さそうな笑みで太い腕をぽんと叩いた。
「ははは。別に気にする事じゃないよ。誰にだって欠点の1つや2つはあるさ。
それより今は高槻のために出来ることを考えないと」
「・・そう・・ですな」
「それじゃあまずこっちからこう回ってみようか。
部品類の区画は飛ばすとして、文房具がここにあるから・・」
「・・フトミミ殿、その前に1つ」
「ん?」
「フトミミ殿にも・・欠点の1つくらいはあると?」
「もちろんあるよ。ただ他から見てそうは見えないというのもあるし
滅多に出てこないというのもある」
「複数おありなのか?!」
「別に驚くことじゃないだろう。君にだって複数あるんだから。
あ、言っておくけど何なのかは秘密だから」
「え!?な!ちょっ・・!」
そうして目を白黒させるトールを置いて
フトミミはさっさか見知った様子で店内を歩き始める。
それから後はというと、フトミミの予知もしてない予想通り
広さと物珍しさにのまれたトールは合計6回ほど迷子になり
毎回レジ付近で合流してはどんどんバツ悪そうに身を縮めるハメになったとか。
そしてそんなこんなでそれぞれに時間は流れ
その日はやってきた。
「ほらよ、おめでとうさん」
いつも通りに登校し、いつも通りの挨拶の後
友人が突き出してきたのはごくありふれたシャープペンシル1本だ。
まだ袋に入っているので未使用なのだろうが
カバンからノートを出し机に入れかかっていた純矢はそのまま固まり
数秒後『は?』と首をかしげて勇を見た。
「は?じゃないだろ。お前ずーっと前から古いの使い続けて
分解して修理したヤツまだ使おうとまでしてただろ」
「・・あぁ、うん。それはそうだけど・・なんでいきなり?」
「お前・・まさかとは思ってたけどそこまでボケてたのか?」
「?だから何のことだよ」
「誕生日、今日なんでしょ?先月話してたじゃない」
心底呆れ返って絶句した勇の後ろから千晶がきて
机の上にシンプルなラッピングがされた小さな箱をとんと置く。
純矢はさらに首をひねって考え込み
ようやくあ、そうかと思い出して手を1つ打った。
ブラックライダーの予想通り
純矢本人は今日の事を完全に忘れ去っていたらしい。
「・・おいおいお前なぁ、ちょっとはカレンダー見ろよカレンダー。
記念日やイベントにうとい男は嫌われるぞ」
「そう言うイベントに敏感な人は前のテストの点どうだったの?」
「ひぃいい!聞くな!思い出すのも恐ろしい!!」
「ははは、そっか。そう言えばそんなのもあったな。
テストに気を取られて忘れてたけど」
机の中にノートをしまう作業をやめ
純矢は机の上にのったあまり豪華ではないプレゼントを眺めた。
誕生日を友達が覚えていてくれて何かをくれる。
それは別になんでもない他愛のない事に聞こえるが
ボルテクスあった事を思い出せば泣きそうになるくらいに嬉しいことだ。
実際純矢は平静を装いながらも涙ぐまないようにするのに必死で
こういった時にボルテクスで覚えた我慢が役に立つなとこっそり思う。
「・・それにしても勇君、誕生日プレゼントにこれはないんじゃない?
しかもこれうちの購買で一番安いやつじゃない」
「・・い、いいだろ別に。純矢だって妙に高価なやつよりも
手頃で使い勝手のいいやつの方が好きだろ?」
「うん。まぁね」
「純矢君も今日を境にその人の良さを改善したら?」
「・・そうおっしゃる千晶様の方は一体何なんだよ」
「カメラのフイルム」
さらりと言われた色気もクソもないお言葉に勇が派手にのけぞった。
「しぶっ!?お前それが女の子が渡すプレゼントかよ!?」
「失礼ね。フイルムだってそれなりに高額なのよ。
それに本人が撮るものが多くなったから
そろそろデジタルに変えたほうがいいのかなって言ってたじゃない」
「あ、覚えててくれたんだ」
「あなたの場合珍しい趣味してるから覚えやすいのよ。
それに変に考えるよりも実用的な物の方がいい時だってあるでしょ?」
「それにしたって・・なぁ?誕生日のプレゼントにフィルムとシャーペンなんて
地味な純矢らしいと言おうか何というか・・」
友達に向かって地味とはひどいが
今やそれは純矢にとってはちょっとした誉め言葉だ。
でもくれる物がどんなものであれ、どれだけ素っ気ないものであれ
純矢にとっては友人達が変わらずそこにいてくれる事だけでも十分だった。
「ところでお前さ、サナエさんとかには何かもらったりするのか?」
「・・へ?」
「何間抜けた声出してるんだよ。
今年はサナエさんとか他に同居人がいっぱいいるんだろ?」
一瞬誰のことかと思ったが、それは確かサマエルの偽名だ。
そう言えば今日の事は誰にも話していないが
もし誰かが知っていたのならおそらく全員に伝達しているはずだろう。
しかし今朝のことを思い出してみても
別に皆何も言わなかったし、早く帰ってこいとも言わなかっ・・
・・・いや待てよ?
そう言えば今朝玄関で見送りをしてくれていたバージルの顔が
ちょっとだけ殺気立っていなかったろうか。
あといつもにぎやかな仲魔達の口数が妙に少なかったり
変に目をそらしたりいつもいるのに姿が見えないヤツがいたり
最近入る事のなくなった台所に変な荷物が山積みになっていた気もするし
よくよく思い出してみれば各自の行動パターンがちょっとおかしかったような気も・・・
・・・・・・
・・・まさか・・・俺に内緒で変な事考えてないよな。
今のメンバーはダンテのように人をからかうとか困らせるような事はあまりしないが
やはり彼らも人ではない。人の世界で黙って何かされるというのは
少々どころか結構な不安がある。
「・・勇ゴメン。俺今日寄り道しないでまっすぐ帰りたいんだけど・・いいよな」
「お、何だよ。やっぱり何かいいことあるのか?」
「・・わからない。いいことかどうかは不明なんだけど
急いで帰らないといけないような気がする」
「突発で食事の予定でも入れられそうなの?」
「いや、そのへんは何も聞いてないんだけど・・気になる事があってさ」
・・大丈夫・・だよな。
みんなには常日頃ここは人の世界だって言い聞かせてあるし
ダンテさんもいないんだし、そう無茶苦茶な事は・・・しないよ・・・な。
と、心では納得しているつもりでも、その不安はぬぐいきれず
純矢の心はその日1日学校が終わるまで
誕生日だというのに変な不安でめ一杯だった。
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