アティはぽかぽか陽気が大好きだ。
自然に囲まれたユクレスも好きだ。
もちろん両方そろっているなら言う事なし。

なので天気のいいユクレスで日向ぼっこするのは
アティの極上でささやかな楽しみだった。

「・・・って、そりゃ年寄りの発想だろうが」

同じく天気のいい日の昼寝が好きな自分の事は棚上げして
木の上でだらけているヤッファの言葉を気にすること無く
アティは木陰と日向半分づつの場所で寝転がったままうーーんと盛大なのびをした。

「でもひなたぼっこが嫌いな人なんていませんよ、きっと」

木の上まで見上げてくるのんきな笑顔に、ヤッファはそれ以上追求する事を放棄した。

「・・・まーな。少なくともこのメンツは嫌いじゃないってわけだ」

そう言ってちらりと視線をアティの横に移動させると
それなりに時間がたったはずなのに、寸分たがわない形で
ただアティのわきにずーーんと突っ立っている青と黒のヨロイ。

それは良い天気に緑の大地という風景に著しくそぐわない存在なのだが
アティから事の次第を聞いた以上、ヤッファもとやかく言えない。


・・・寝ながらお日様を食べてる、ねえ・・・


それはロレイラルで言う所の充電という行為なのだが
口からものを食べて普通に睡眠も取り、なおかつ機械にくわしくないヤッファには
それはただ突っ立って周囲を威嚇している黒光りする鎧にしか見えない。

しかも微動だにしないなずなのに、変な重圧がただよって来るのには
気楽に昼寝をしたいヤッファとしてはどうも納得がいかなかった。

そのヴァルゼルドと呼ばれる鉄の鎧。
ヤッファとしては視界の届く範囲にいられると、非常にうっとおしい事この上ない存在なのだが
場所を変える気になれないのは色々理由があるからで・・・

「ヤッファさん」
「・・・んー?」

苛立ちまぎれにぼりぼり首をかきむしっていると理由の一つの声がする。

「朝焼いたクッキー一枚持ってきたんですよ。半分こしませんか?」
「・・・する」
「はーい、じゃあ半分投げますよ」

半目で下を見下ろすと、場所を変える気になれない存在が
一枚のクッキーをパキリと割ってこちらに放り投げ・・・

べし

「・・・っ」

思いがけない衝撃と大きさに、ウトウトまどろんでいた目を見開くと
手に乗っていたのは大皿半分ほどあろうかと言わんばかりの巨大な焼き菓子。

「・・・なんだこりゃ」
「クッキーですよ」
「・・・何が食うんだ、こんなデカさの食い物」
「ちょっとした実験です。小さいのはいくらでも作れますけど
 大きいのはどのくらい大きく作れて、どんな味がするのかなーって思って・・」
「で、味はともかく見た目のデカさに尻ごみされて
 誰も手が出せず食いきれなかった・・・ってわけか」
「あは、ご名答です」

呆れてため息を吐き出すものの
照れたように笑う顔も、風に乗る澄んだ声も心地よく
よくわからない黒い固まりの存在を差しい引いても
そこにアティがいるだけで、その場所はヤッファにとって一番のお気に入りの場所になる。

「・・・らしくねえな」
「?なんですか?」
「なんでもねえ」

あいまいな返事をして巨大クッキーを一口かじる。
甘くていい香りが口いっぱいに広がるが、何しろ量が量だ。
半分にされたとはいえ、しばらくボリボリかじっていれば
最初は甘くていい味も、やがて罪悪感との戦いを強いられる嫌がらせになるだろう。

ヤッファはちょっと考えて短く口笛を吹いた。

「あ・・・」

下でアティが不思議そうに見上げていると
少しして謎が解けた。

木々の間から大小様々な鳥が集まってきたのだ。

「わ、すごいですヤッファさん。そんな事もできるんですね」
「まぁ俺も一応、ここいらのボスだからな」

言いながら砕いたクッキーを大きな手にのせてやると
すぐに手の上は鳥でいっぱいになった。
もちろん自分の分は取られないように素早く口に放り込んでおく。

ぼりぼりやりながらふと視線をやると、いつのまにかアティのまわりにも小鳥が来ていて
アティも楽しそうにクッキーをわけているのが目に入る。

それだけならまぁ微笑ましい光景なのだが、しばらく眺めていると
視界のはじにあって微動だにしなかったはずの黒い鎧が・・

ぎゅい

何の前触れもなく、首の部分をアティに向けた。

「!?」

思わず上体を起こしたヤッファの下で、ヴァルゼルドと呼ばれる黒い鎧は
聞き慣れない音をたて、アティを凝視して・・・


・・・・・


それだけだった。


・・・なんだ?何に反応した?


警戒してざっと視線を巡らせても
敵の気配も臭いも感じられない。

以前アルディラが機械兵士のセンサーというものは
周囲の異常を温度や音、その他もろもろで敵を感知するのだと教えてくれたことがある。
それに何かがひっかかったのかと思ったのだが
ヤッファの耳にも鼻にも異常はとくに感じられない。

「・・あ、ヴァルゼルドもどうですか?」

警戒するヤッファの下で、ヴァルゼルドの視線に気付いたアティが
クッキ一の一かけを手に機械兵士を見上げる。

ヴァルゼルドは少し間をあけた後。

「摂取不能」

無機質で簡潔な返答よこしてきた。

しかし・・・

断ったはずのヴァルゼルドは
アティの差し出したクッキーにちょっとぎこちない動作で手を伸ばそうとしている。

「・・?」

・・・・なに考えてんだあのヨロイ?
大体今食えないって言ったばっかりで
なんで手を伸ば・・・


ー ーぱし


「「あ」」


不審がるヤッファと辛抱強く手を差し出していたアティの目の前で
最後の一かけと思われるクッキーは、飛んできた少し大きめの鳥に
あっさり奪取されてしまった。


「・・・・・」
「・・・・・」


何やら気まずい沈黙がおちる。


「目標ロスト」
「・・・あ、あの、でも、また今度焼けますから気にしないでヴァルゼルド」

機械兵士、アティに目を少し向けてから
また元の直立不動の体勢にもどり・・・

「充電再開。シャットダウン」

ヴン・・

にぶい音と共に目の部分が光を失い、再び動かなくなった。


アティが困ったようにヤッファを見上げる。


「・・・ふて寝しちゃいましたね」
「・・・そうなのか?」

そう言われればそう見えるかもしれないが
やはりヤッファにはこの鉄のかたまりの行動はよくわからな・・・


いや待て。


そこでヤッファはとある仮説を思い立つ。


楽しそうな気配に反応し
食べられもしない物に手を伸ばそうとしたあの行動。


わざわざラトリクスの補給ドックからこうして戦闘以外の場所についてきて
無防備な状態で補給する、合理的な機械兵士にあるまじき効率の悪さ。


そしてこれは前々から感じていた事だが・・・


戦闘中片時もアティのそばを離れない見事なまでの壁っぷり。



ひょっとしてアイツ・・・俺と同じクチなのか?



「・・・なぁアティ」
「はい?」

何の疑問もなく見上げてくる目に
ヤッファは即座に質問する気が失せた。

「・・・・いや、なんでもねぇ」
「?そうですか?」
「俺も寝るわ」
「あ、はい・・って、どうして降りてくるんですか?」

ヤッファは寝そべっていた木の枝から降りて
なぜかアティをはさんで機械兵士の反対側にごろんと横になる。

「気が変わったんだよ。気にすんな」
「?・・はぁ」

なんだか暑苦しい2人に囲まれてしまいアティは少し困惑したが
こんな状況、どちらかと言うといつもの事なので
すぐなれてひなたぼっこを再開する。


かたわらに黒い機械兵士、かたわらに白い獣人。

そんな風変わりな組み合わせのユクレスのひなたぼっこが
これからしばらくアティの日常に組み込まれることになった。











直書きしたダメ文章。
ヤッファも好きです。
彼で真っ先にクリアしました。
だからヴァルゼルドと夜会話できなかったりEDないのなんでさ!




                          ふてくされて帰る