「ヴァルゼルドなら補給ドッグで待機中ですが」
と、クノンは簡単に教えてくれたが、よく考えたらアティは補給ドッグまでの道を
散歩で歩いた事はあるがはっきりとは知らない。
うっかりサブストリートまで来てようやくその事に気付き
アティは誰もいない往来の真ん中で立ち尽くしてしまった。
「・・・えっと・・・」
こんな場合は人に道を聞くのが一般的なのだが
たまにすれ違うものといえば、足のついた四角い箱や
一つの目と小さな手が2つしかない飛行物体など、話しかけるには無理のある物ばかり。
みんな忙しそうで・・・という以前に話ができそうな有機物が見当たらない。
クノンに聞きに戻ろうかとも思ったが、ここまで来て戻るのは気が引ける。
「・・・そのうち・・・見つかりますよね。きっと」
ラトリクスの周囲は森なんだから、森に出れば引き返せばいいと
アティはともかく補給ドッグと思われる所まで歩いてみることにした。
ところが・・・
「・・・あれ?」
行き止まり。
「・・・あらら」
サブストリートに逆戻り。
アティとしてはまっすぐ歩いているつもりなのだが
道が入り組んでいて目印にできそうなものがないので
迷う・・・とまではいかないが、なかなか視界が進展しない。
「・・・うぅ・・・ま、負けませんから!」
自分で自分をはげまし、さらにずんずん歩き・・・
『なにが出るかな?プラーイスゲッター♪』
奮闘むなしくやっぱり戻って来てしまった。
「あぁあ・・・私って・・・」
方向音痴、というより同じ道ばかり歩いているのを
アティが気付かないだけなのだが。
「・・・すみませーん、ヴァルゼルド〜。どこにいるんですか〜?」
ダメで元々、情けない声で探し人を呼んではみるが
すっかり無口になってしまった機械兵士はやはり何も答えてはくれない。
まして補給ドッグにいるのなら待機中と言う事もあり命令もなしに動けるわけがない。
そう、呼んでも答えてはくれない。
ふとその時、アティは急にスクラップ置き場で話をしていたころの
元気なヴァルゼルドを思い出し、少し寂しいような切ないような気分になる。
『すみません!寝てません!何ページからでありますか教官殿!?』
・・・・・・。
・・・ヴァルゼルド、ずるいです。
近くの壁にもたれながら、アティは心の中で静かにつぶやく。
機械兵士の事を知らなかった私にあんな思い出を植え付けて
役に立ちたいなんて言い残して勝手にいなくなって・・・
いや、いなくなってはいない。
ただ必要最低限の単語で話し、戦場で敵を狙い撃つあの大きな後姿は
ヴァルゼルドであり、同時に出会ったころのヴァルゼルドでない。
では・・・あれはただの抜け殻であって
そのあたりにいる作業機械がヴァルゼルドの殻をかぶったような
そんな存在でしかないのだろうか・・・?
今ごろ出てきた嫌な考えを、アティはあわてて頭をふって追い出す。
見上げると空はもう夕暮れ。
考えてみればこんな時間になるまで彼を探して、一体何をしようとしていたのだろう。
今日探そうとしていたヴァルゼルドは
もうかつてのヴァルゼルドではないというのに
「・・・帰りましょうか」
ため息を一つ吐き、冷たい壁から身体を離すとアティは元来た道を歩き出し・・・
ごち
「いたっ!?」
路地の角をまがった所で、まともに何か固い物にぶつかった。
「え?・・あれ?」
さっきまでそこには何もなかったはずなのに
目の前には黒と青の壁が立って・・・
いや違う。
それはよく見ると見覚えのある人型のフォルムをしていて
さらに視線を上にあげると、見覚えのある表情のない目が二つ・・・。
「ヴァルゼルド!?」
そこでじっとアティを見下ろしていたのは
探していたはずの機械兵士だった。
「あれ?でも補給ドッグにいるってクノンが・・・」
「補給ドッグへは中央管理施設を向かって左へ歩き、一つ目の角を右です」
発せられた音声は確かにヴァルゼルドの声だったが
やはりあの時とは違う、少し事務的な口調に取って変わっている。
「え!?そうだったんですか?」
「ここからでは左折後突き当りの橋を渡り右方向通路を直進です」
「そっか、ごめんねヴァルゼルド」
ヴァルゼルトは答えない。
そのかわりヴァルゼルトはアティの横を通り過ぎ、5歩ほど先まで歩き
くるりと振り返って立ち止まってみせた。
「・・・ヴァルゼルド?」
不思議そうに聞くアティに、やはり機械兵士は無言を返すばかり。
ついて来いって・・・言ってるんでしょうか?
そう思ってついて行ってみると
ヴァルゼルドは重い足音を立てながら無言で歩き出した。
しかしそれは補給ドッグではなく、ラトリクスから外へ出るゲートへの道だったはず。
それに気付いたアティが足を止めると
ヴァルゼルドはまた5歩ほど前で立ち止まり、無言のまま振り返る。
「そっちに行くとラトリクスからから出ちゃいますよ?」
「・・・・・」
「ヴァルゼルド?」
「・・・・・」
「あ、ちょっと!」
ヴァルゼルドはまた無言のまま、今度はアティを待たずにずんずん歩き出す。
アティは一瞬クノンかアルディラに連絡しようかとは思ったのだが
そうしている間にもヴァルゼルドとの間はどんどん開いていく。
「と、とにかく追いかけないと!」
クノンかアルディラが異常に気付いてくれる事を祈りながら
アティは暗くなってきた道を重い足音で歩いていくヴァルゼルドを追って走り出した。
しかし慌てて追いかける必要などなかった。
ヴァルゼルドはラトリクスを出た所で相変わらず無言だったが
ちゃんとアティを待っていたのだ。
「ヴァルゼルドったら・・一体どうし・・・」
と、言い終わる前にまた歩き出される。
「もう!ヴァルゼルドったら!」
勝手な行動にいいかげん怒りたい気分にもなったが
きちんと追いつくまで待ってくれている所を見ると、何か事情があるような気もするので
アティはしばらくヴァルゼルドの後について森の中を歩く事になった。
森の中はそろそろ闇につつまれだしていて足場がよく見えず
アティはあまり早くは歩けなかったが、ちょうど日が沈みきったころ
少し前を歩いていたヴァルゼルドが頭部ライトをつけて道を照らしてくれた。
「あ、ありがとう」
目の増えたような顔の機械兵士は
無言でアティを見下ろすと再び歩き出す。
だが歩調がさっきより少し遅い。
・・・気を・・・つかってくれているんでしょうか?
そんな事を考えながら大きな背中を見ていると
突然ヴァルゼルドが立ち止まり、いきなり装備されていた銃を引きぬいた。
ドン! ドン!ドン!ドン!
最初の一発は空へ。
続けざまに森の中へ3発。
「え!?えぇ!?」
わけがわからずわたわたするアティをよそに
ヴァルゼルドは光力を強めたライトを森に向けて
銃で狙いをさだめながら冷静な声を出した。
「熱源感知。2体に命中。ターゲット残数5体」
「はぐれ召喚獣ですか!?」
「熱源、さらに増加中」
「大変!」
しかしいざ身構えてはみたものの周囲は闇の森。
ヴァルゼルドのライトだけでは自分達の周りを照らすのがやっとで
どこに何がいるのかまったく見当がつかない。
「ターゲット接近。装填開始。右一体を優先狙・・・」
その時、ヴァルゼルドが言葉を途中で切り、動きを止めた。
「・・・ヴァルゼルド?」
機械兵士は答えず、一瞬目をショートしたかのように点滅させる。
だが次の瞬間、ヴァルゼルドは言葉のかわりに
いきなりアティを片手で抱き上げ、銃を片手に全速力で走り出した。
「え?わ!?」
驚く間に視界は凄い勢いで流れていく。
アティが大きな肩越しに後を見ると、姿は見えないが
何かが確実に追ってきている気配がある。
ドン!ドン!
「っ!?」
今度は2発、ヴァルゼルドは背後も見ずに片手で発砲。
耳をふさいだアティが見た限り、当たったかどうかはわからないが
それでもヴァルゼルドは振り返らずただひたすら走り続けた。
どれほど走ったころだろう。
二人の前が急に開けて何人かの人影と明かり。
暗い海に浮かぶ大きな船影が目に入る。
「え!?ここって・・・」
驚く間に人影と明りがこちらに気付いたのか
人影の一つが大きく手を振ってきた。
「よう先生!遅いと思ったらお土産つきか?!」
声の主はすれ違いざまそう言って
追ってきたはぐれ召喚獣と思われる影に強烈な鉄拳を叩き込んだ。
「カイルさん!?」
「先生おかえり!でももっと明るいうちに帰ってね!」
次にすれちがったのは追ってきたはぐれ召喚獣に激しく発砲して
忙しそうに弾を入れ替えているソノラだった。
「ほ・・ほんとにみなさんですか?」
「あーら、アタシ達じゃなきゃなんなのかしらね」
「スカーレル!?」
待っていたいつもの面々の前でヴァルゼルドはようやく止まり
アティを地面に下ろし、自分もカイルたちの援護をするため弾の装填を始めた。
「銃声が聞こえたので、もしやと思って出てきましたが・・・どうやら正解のようですね」
「ヤードさんも?・・・じゃあここって・・・」
「見ての通り、アタシたちの船の前よ」
暗くて今までよくわからなかったが
ヴァルゼルドは船までの最短コースを走っていたらしいのだ。
「それにしても先生らしくないじゃない。こんな時間まで出歩くなんてさ」
「・・・す・・すみません色々ありましてつい・・・・」
ふと、アティはそこで気がついた。
ヴァルゼルドは何も言わなかったが
夜道ではぐれ召喚獣が出るのを予測して
ここまで送ってくれるつもりだったのだろうか?
そう思って見上げても、ライトを最大出力で照らし
はぐれの掃討をしている機械兵士は相変わらず無言で
あまり送ってくれたというような気配は見当たらない。
「あーんもう!当てづらいなぁ!ヤード!なんとかしてよ!」
「わかりました。ではみなさん、力をかしてください」
「「「おー!」」」
掛け声を出しカイル、ソノラ、スカーレルが集まり
その中心にいたヤードが杖を構え、詠唱を始める。
いつもと違う大きな光が虚空に浮かび上がり
漆黒の海に巨大な幽霊船が出現した。
その船は猛烈な勢いで襲撃者達をなぎ倒し、森へ衝突する寸前
再び宙へと掻き消える。
それはほんの一瞬の出来事だったが
その一瞬で船の進路上にいた襲撃者は跡形もなく消えていて
銃声のと打撃音で騒がしかった浜辺が急に静けさを取り戻す。
「動体反応なし。ターゲット掃討完了」
ずっと銃を構えていたヴァルゼルドがそう言って
ようやくライトの光力を弱め、いつもの二つの目だけに戻るが
銃をしまう前に弾を装填する事は忘れなかった。
「・・・ふーん。じゃあそいつが途中まで先生を護衛してたってのか」
事情を聞き終えたカイルが銃をしまい
あいかわらず無言のヴァルゼルドを見上げて言った。
例によってあまり反応がないが、カイル達はスクラップ置場でのヴァルゼルドを知らないので
大して気にもしていない様子。
「賢明な判断ですね。視界不良の中の護衛は困難を極めます」
「一発空に撃ってアタシ達に知らせて援軍要請したってのも
ま、さすがと言えばさすが合理的ロレイラルの住人よね」
感心するヤードとスカーレルの横で
ソノラがちょっとせめるような目をちぢこまっているアティに向けてきた。
「それにくらべて・・・せーんせ、もっとしっかりしなきゃね」
「・・・はい、返す言葉もありません」
ラトリクスで道に迷う。
ヴァルゼルドに迷惑をかける。
同じく守ってもらう。
同じく足手まといになり今にいたる。
アティ、今日はいい事なしである。
「先生って自分の事となると無頓着だからね」
「あら、アタシはそれはそれで先生の魅力の一つって思うけど」
「コラそこ、勝手な事ぬかすな。
・・・まぁともかく先生よ、こんどから暗くなる前に帰ること。
遅くなるんなら事前に連絡くらいすること。一人で夜道を歩かないこと。
・・・って、こんなもん子供に言うようなことなんだから、気をつけてくれよな」
「・・・・はい」
子供を教えている先生形無しである。
「ところで先生よ。そこの恩人さんなんだが・・・」
カイルが指した先には
先程から黙って周囲を警戒しているヴァルゼルド。
「送ってきたのはいいが・・・帰らないつもりか?」
「・・・え?えっと・・・」
「なんなら一晩泊めてあげるっていうのは?」
「アタシは別に反対しないけど・・・甲板に穴開いたりしないかしら」
「その前にラトリクスでの補給はしなくてよいのでしょうか」
「す、すみません!お話してきますー!」
そういえば前を歩くのをあわててついてきたものの
事実上ヴァルゼルドをラトリクスから連れ出してしまった事になるのだ。
だからと言って、せっかく送って来てくれたのに
またあのはぐれ召喚獣が出るかもしれない危険な道を一人で返すのも気が引ける。
「・・・ヴァルゼルド?」
結局どうしていいか判断のつかないまま突っ立っていた機械兵士に声をかけると
闇夜に光る二つの目がようやくこちらを見た。
「あの・・・送ってくれてありがとう。
でもヴァルゼルド、ラトリクスに帰らなくて大丈夫ですか?」
少しの沈黙の後。
フォーーン
聞きなれない音が鋼鉄の身体のどこかからから聞こえる。
それ以上ヴァルゼルドから反応はなかったが
アティはその音短い反応が何か訴えているように感じて
相変わらず無言で表情のない双眸を見上げた。
「・・・え?」
フォーーン
再度音が鳴る。
・・・もしかしてヴァルゼルド・・・。
それは確信はないが、ある意志を伝えるものだとアティは感じ
不思議そうにしていた海賊頭を振り返る。
「・・・カイルさん、あの・・・お願いがあるんですけど」
「ん?」
「泊めてあげてもいいですか?」
「・・・は?」
彼もそれなりにこの客人のお人よしにはなれたつもりだったが・・・
「・・・だめですか?」
しかし駄目だと言うと自分が悪者になってしまいそうなこの目には
まだまだ弱い海賊頭だった。
「・・・あんまり物騒な客は歓迎できないんだが・・大事な客人の頼みならしょうがねぇ。
修理した甲板をぶち抜かないんなら・・・かまわねえよ」
「はいっ!ありがとうざいます!」
そしてその晩、なんとか床を踏み抜かなかった機械兵士が
アティの部屋に一晩中突っ立ったったままで夜をあかすことになる。
その間アティの聞いたあの音が発生することはもうなかったが
一晩中機械兵士の目から光が消える事もなかった。
次の朝。
アティはラトリクスへ出向き、ヴァルゼルトを補給ドックに帰すと
アルディラの所へ行って昨日道に迷った事、襲撃の話
ヴァルゼルドが護衛をしてくれた事などを簡単に説明した。
アルディラは何も言わず黙って聞いていたが、大体話し終えたところで
なにやら難しそうな顔をしてようやく口を開く。
「・・・あなた、何か忘れてない?」
「え?」
「彼、機械兵士なのよ? 以前はあなたと親しくしていたかもしれないけど
今彼はラトリクスの管理下で動いていて、こちらからの命令もなしに
自分から必要外の行動を取るわけがないの。
まして独断で護衛を買って出て、指示もなしに外泊するなんてありえる話じゃないわ」
「・・・え?でも・・・ヴァルゼルドは・・・」
「彼が今の電子頭脳に切り替える前、つまりあなたと親しかったころの人格は
たしかバグだったって話してたわね」
「・・・はい」
「これはあくまで私の推測なんだけど・・・
彼のどこかにそのバグの一部が交換した電子頭脳以外の場所に残留していて
あなたを守るという漠然とした意志が、今回の行動をおこさせたんじゃないかしら」
「・・・あ」
『お優しい教官殿をお守りしたいのであります!』
それはヴァルゼルドが電子頭脳を取りかえる直前に言った
いわば最後の言葉。
偶然生じたありえない人格。
だが偶然生じたものならば、再び偶然生じる事もありえない話ではない。
「・・・あの子・・・」
口数は少なくなったがヴァルゼルドはまだ
昔のヴァルゼルドを残しているのだ。
「・・・けれどこれは考え様によっては危険な推測よ。
以前経験したでしょうけどバグはありえない不測の事態を引き起こし
場合によってはいつかのような暴走の原因にもなりえる要素だから」
「そう・・ですね」
「一度くわしい検査をして調整する必要があるわね。
メインとサブの電子頭脳も念のためもう一度取り替えた方が・・」
「ま、待って下さい!」
アティがあわてて手をばたばたふる。
「その、あの!検査はともかくまた頭の中を取り替えるっていうのは待って下さい!」
「・・・?あなたまさか」
付き合いが長いわけではないが
わかりやすい性格をしているアティが
この時何を言いたいのか、アルディラはすぐわかった。
「馬鹿なのはわかってます。危ないかもしれないのもわかります。
でも・・・せっかく助けてくれた人を、都合が悪くなりそうだからって
命令通りにしないからって、また作り変えるの嫌なんです!
あの子は道具じゃなくて昔の・・いえ、今も私の大事な友達なんです!だから・・・!」
だから・・・そっとしておいてあげて下さい。
たとえ一歩間違えば危険な存在になる可能性があっても
それはかつての友である部分を残している事に変わりないのだから。
つまりそう言いたいのだ。このお人よしの召喚師は。
・・・まったく、あなたそんなつもりないのだろうけど
どんどんマスターに似てくるのね。
今にも泣きそうなアティとかつての主をダブらせて
アルディラは心の中でため息をついた。
「言っておくけど、不確定要素は機械兵士には危険な要因よ?」
「・・・わかってます」
「前みたいな暴走が起こった時止める自信はある?」
アティは少し考えて、しっかりした口調でこう答えた。
「・・・はい。でも今度は力づくで止めません。助けてみせます」
根拠も理屈もわからない台詞だが
アティは今までできない事を口にしたためしはない。
「・・・そう、そこまで言うならこの話はここまでにしましょう」
「じゃあ・・・!」
「あなたの意見を尊重してみましょう。
でもウイルスの可能性も捨てきれないから、定期検査だけはさせてちょうだい」
「はい!お願いします!」
それから数日後。
「こんにちはヴァルゼルド。調子はどうですか?」
あれから数日、今でも時々様子を見に来るアティに
ヴァルゼルドは・・・
・・相変わらず何も答えない。
実の所、あの日以来ヴァルゼルドに目立った変化はない。
真面目に巡回はするし、命令のない時は待機状態で補給ドックにいて
今のように呼びかけても反応はない。
しかしただ一つ。
アティだけが気付いた変化があった。
「じゃあ・・また来ますね、ヴァルゼルド」
そう言って背を向けるアティの背中に
フォーーン
といつか聞いた音がぶつかる。
ふりかえっても機械兵士は動いた気配がなく、来た時のままそこにいたが
それでもアティはそれが何の音なのかわかっていて、嬉しそうに微笑んだ。
「また、来ますから」
小さく手をふってそう言うとアティは白と赤の残像を残し
ヴァルゼルドの視界から見えなくなった。
誰もいなくなった補給ドックで、かつてバグのため
ありえない人格をもっていた機械兵士は
しばらくしてもう一度、先程の音を出そうとしたが・・・・
『また、来ますから』
メモリーに残っていたアティの言葉を再生して思いとどまる。
それでも少しして
フォーーン
もう一度だけ、甘えるつもりのよく通る音を
ヴァルゼルドは誰もいなくなってしまったドッグで響かせた。
それはバグという偶然の産物だけれど
自分にもあの人にも小さいけど大切な思い出のカケラ。
ヴァルゼルドの中に残る偶然のカケラ達は
アティが顔を見せるたびに少しづつ、だが着実に集まりはじめていた。
バグヴァル援助ブツ。
最終的には元に戻してやりたいのですが
そこまで根気が続くかどうかはかなりあやしいです。
ところでヴァルがあぁなったのって・・・途中でめんどくなったりネタ切れたり
夜会話作るのめんどくさくなったからやーめた・・・・なーんて事ないですよね。
ね!?