その9 進みにくいくらやみを
六月洗濯物がよく乾く日
今現在、池田屋の記憶というところまで来ている。
池田屋が何屋なのかは知らんがここからは夜戦になるらしい。
この夜戦ってのは以前何かの期間限定もので模擬戦として経験はしたが
どうもその時と様子が違って進みにくい。つまり敵が強い。
具体的に言えば、こちらのレベルがそれなりにあるのに3戦目くらいから負傷者が出る。
敵の種類の紋章みたいな所もやたらギラギラしてるし動きも妙に素早いし
ものによってはやたら堅いし何よりケガ人が出やすいのが気になる。
・・おういこんすけ。もうこのへんでよくないか?
もうなんとかって敵(検非遣使)は悪さできないらしいし掃討戦だろ?
後の事は他のおにわ(さにわ)にまかせてわしはその他の補助ってことで
・・・・よくないのか。そうですか。
にしてもめんどくさいなこの夜戦とやらは。
短刀と脇差が有利ってのは前やった模擬戦で何となくわかるが
短刀達は打たれ弱いからヘタに討ちもらすとケガ人が出るってのがなぁ。
・・うんやっぱりわし、はにわ(さにわ)に向いてない。わかってたが再認識。
え、なんだへせべ。・・・え、あぁ、うん。いや誉めてくれるのはいい・・んだが・・
ちょっ、わかったから・・おいこら、そこらへんにしとけ!全年齢踏み越えない!
あーもう、しかしへせべの妙な盲目っぷりはともかく、まだ鍛え方が弱いのかなぁ。
ただレベルを上げて物理で殴れの法則が効かない気もするし、うーーん。
まぁいい。悩んだところで仕方ない。やれる事をやればいい。
おいへせべ。いわしと鶴丸とコムラ連れて鍛錬に出ろ。
場所はここだ。多少のスパルタは許すが死人は出すなよ。
あとまんば・・って何ふてくされた顔してる。お前は精鋭連れてもうちょい戦力強化だ。
場所はここ。ついでに新しい刀も拾えればいいがそこは運だから気にするな。
じゃ、頼むぞ。あとお前達もケガしたらすぐ戻れ。気ぃつけて行け。
「・・長谷部。気付いているか?」
「何をだ」
「あいつ、隊を組む時に俺達を打撃や統率等の能力差で振り分けていない」
「・・・・・」
「各自に能力の上限があるのは知っているようだが
能力の高い低いで分けているのを見たことがない。つまり・・」
「刀の数が増えて気が回らないのか、実戦での結果しか信用していないのか。
それとも最初から能力の上下で戦場が左右されると思っていない
つまりはまったく気にしていないかのどれかだな」
「・・やはり気付いていたのか」
「強きも弱きも在来もレアもかまわずレベルを平均的に上げるところからして察しはついていた。
ただ進言するつもりはないがな」
「なぜだ?」
「それが意思的なものであっても無意識であっても、主の判断に従うのが我々だからだ。
主が戦えと言えば身命を賭して戦い、生きろと言われれば石にかじり付いてでも生き抜くのみ」
「・・死ねといわれた場合は?」
「まずないだろうが、その時は死してなお主の元に戻るまで」
「・・・お前のその歪みなさはたまに羨ましく思う」
「主が最初に手にした刀が何を軟弱な。
それよりも、だ。先程の能力の件。主の決定である以上進言しないと言ったが
数割は俺の私情も挟んでいる。お前にも心当たりがあるだろう」
「刀の能力格差であいつのそばから弾き出されたくない・・か?」
「理解しているなら結構。そういう事だ」
「・・お前は融通のきかない完璧主義者だと思っていたが、案外俺と近かったんだな」
「愚問だな。主からの戦力外通告を心待ちにする刀など存在するものか」
「あいつは・・いつか気付くだろうか」
「俺はいつまでも今の主のままでいて欲しいが、それも主次第、だな」
数日後。
「おーい、まんば、へせべ。お前達確か夜戦でも大丈夫な方だったよな。
ケガ人が多くて気はすすまんが、駄々こねてるわけにもいかん。
すまんが斥候がてら池田屋さんにお使いに行ってきてくれ」
「承知しました。お任せ下さい。腕がもげようが首がねじ切れようが完遂してご覧に入れましょう」
「おいやめろ。ホントにやりそうで怖いしグロいしシャレにならん」
「・・そう嫌そうな顔をせずとも、傷を負ったら治せばいいだけだ。気にするな」
「まぁそりゃそうなんだが・・ヘボい主ですまん二人共。
他のおにわ(さにわ)がどうなのかわからんが苦労かける」
「病床の身でもないのですからご謙遜なさらず。
それに主は非の打ち所のない完璧な主であるよりも
多少なりとも欠けている部分がある方が逆にお仕えしやすいものです」
「・・そういうもんか?」
「そういうものです」
「そんなに心配なら心労で倒れる前に強制的に寝かしつけて三日三晩粥を作って看護するぞ」
「・・いやちょっとまて。何でそんな話になるんだよ」
「あんたが任務や戦況よりも俺達を優先させるように、世界や歴史よりも俺はあんたを優先させる」
「・・・あぁ、そうだよなぁ。そういやお前達、刀だったんだよなぁ」
「お供しましょう。地獄の果てまでも」
「そうだな。あんたはどうあれ、少なくとも俺達は今の状況に不満はない。
だから・・その・・」
「?その?」
「その・・・・なんでもない!!」
「うわいって!?なんでぶつかってくる!?おいへせべ和んでないで止め
ってなにその『その手があったか』みたいな顔!?
お前もやる気うごッ!?こらお前らヤギかー!?!」
10.追いつけないお年頃
八月少し涼しくなった日
ぼんやりしている間に内々のあれこれが改良されたらしく
いつの間にか刀の最大所持数が50から80になっていた。
・・と、いうか・・そんなに刀数あったか?と思いつつ確認してみると
現時点の男士数かぶってるのをのぞいて36。まぁそんな・・もんなのか?
他にどんな刀がいるのかほとんど調べてないから
全員集めるとどうるかは知らんが・・80でも多い気がする。
36人なら学校の1クラスくらいの人数だろうが
80人を一人でまとめて管理しろとか、無茶だろ黒いぞ流行りのワンオペにもほどがある。
・・まぁ最初から若干そんな臭いはしてたから今さらだが、4部隊あって36人かぁ。
ここに来るまで部隊編成なんてしたことないからこれが多いのか少ないのかわからんが
まんば一人から始まって、作ったり拾ったりでいつの間にやらそんなにいたんだなぁ。
ちゃんと使いこなせてる気がまったくしないが。
「そういえば、あんたは今ここにない未知の刀に興味はないのか」
「ないな」
「・・即答か」
「えーと、たとえば山にふらっと散歩に行って蝶の群生地に入ったとする。
アミを使えば捕まえられる蝶もいるだろうが
元々散歩のつもりだったから捕まえてどうこうする気はないし
寄ってきて手にとまってくる蝶の方が愛着がわくし、どっちにも負担がなくて平和的。
みたいな感じかな」
「・・わかるような、わからないような」
「まぁ来るもの拒まず去るもの追わず、運や縁もある。
大体お前達がちゃんと働いてくれてるから手数だって十分に足りてる。
・・むしろわしの手の方が圧倒的に足りてないし
いい刀が入ったとしても使いこなせる自信なんぞまるでないし
何よりわしみたいなおっさんド底辺に新しいもんをほいほい渡されても完全な持ち腐れだ」
「・・もう慣れたが審神者にあるまじき発言の数々だな。
あんたらしいと言えばそれまでだが」
「で、それをふまえてまんばよ。今上の方がシールを集めて景品がもらえるとかいう
某パン祭りみたいな企画をやってるんだが・・」
「某パン祭りが何なのかわからないが、あるようだな。それがどうかしたのか?」
「シールどころか男士達すら使いこなせてないのに
そこから刀やら道具やらを選ばないといけないらしいんだが・・」
「・・おいちょっとまて、まさかそれを俺に選べとか言い出す気じゃないだろうな」
「やっぱりダメか?」
「ダメだ!あんたがそれを選ばずして何を選ぶ!」
「ぅえ〜・・ってかよう、一応刀一振りと引き換える分のシールはあるんだが
見本の一覧を見てるうちに数とか複雑な見た目とかややこしい漢字とかで
目がチカチカしてきて眠くなってきてなぁ・・」
「・・気持ちはわかるがしっかりしろ。
あとさっきから聞いてるとおっさん通り越して老人の台詞になってきてるぞ」
「仕方ねぇだろ実際・・いやともかく、大体刀の素人が何をどう選ぼうが素人選択だろうし
そこで悩んても後々どうせ育成云々で悩むだろうし・・」
「要約すると?」
「しんどめんどい」
その後、まんばはなぜか無言で肩をもんでくれたりお茶を入れてくれたり
昼寝をすすめてくれたりしたんだが・・そんなに疲れてるように見えたんだろうか。
でも刀の選択は手伝ってくれず『あんたの思う通りにすればいい』とだけ言ってくれたので・・。
「てなわけで、ため息もらしつつ休憩しながら
適当かつなんとなしにお前を選んでみたわけだ、ココ丸」
「小狐丸です!こぎつねまる!ふりがなふってあったでしょうに!?
あとそれを本人の前で暴露するのは絶対間違っているかと思いますが!?」
「いやぁもう一覧の漢字の多さや見た目のややこしさに目がかすんできて
そこまで見えてなかったというか選択するにも体力がいったというか・・。
で、呼び方についてはもう1つ候補があったんだが、気に入らないならそっちにするか?」
「・・出会って数分だというのにすでにイヤな予感しかしませんが、もう1つというのは?」
「パン祭り」
「最早名前ですらない!?」
「何で手に入れたかわかりやすいようにと思ったんだが
これだと愛太が過剰反応してややこしそうだったから廃案になった分だ」
「・・詳しいことはわかりかねますが、キツネに丸めたおからを豪速で投げつけられたような気分です」
「そりゃつままれるの上位互換か?」
「そうとも取れますが、いくらかの皮肉入りですので。
ともかく貴方がとても変わった、もしくは妙なあるじさまという事だけは認識・・って、何ですその手は」
「いや、初見から気になってたんだが、その頭の上のはキツネの方の耳か」
「触ってみますか?」
「いいのか?」
「そんな初めて雪を見る子供みたいな目をされては断れませんよ。
とは言え、貴方はあるじさまなのですから、一言命じて下さればよいのに」
「会っていきなり主人面して命令ぶっこけるほど偉いように見えるか?わし」
「いいえまったく爪の先ほども。ただ少々変わった香りというか
えもいわれぬ独特な雰囲気が漂ってくるのは気になりますが
聞いたところではぐらかされそうですので聞きません」
「はっは!そりゃ話が早くてありがたい。
まぁ単なる物好きかつ偏った妙なおっさんなだけだ、気にするな。そい」
「え、あ、ちょっと、荒いですよ。そんな触り方をすると絡みつき・・
あ、でも・・荒くてもなにやら新しい扉を蹴り開けられたような感覚・・いえ妙な意味ではなく」
「・・長谷部。おい長谷部」
「・・なんだ。同時奇襲なら相談するまでもないぞ」
「いや口。血が出てる。うらやましいのは痛いほどわかるから、とりあえず拭け」
その11. 放棄の放置
11月毛布を出すかどうか迷う日
色々あって総刀数が40を超えた。
手に入れた経緯は・・まぁ色々だ。作ったらたまたま出来たやつ。
ごそごそしてたら宝箱から出てきたやつ(2回目)。
そういえば仕様なのか拾ったやつが最近いないな。
まぁそんなこんなで刀が40人越えだ。うん。別にめでたくはない。
むしろ怖くなってきた。これ以上管理できる気がしない。そろそろ名前、覚えてられない。
大体いまだに何屋か不明の池田屋の入り口にも到達できず
男士達に夜中の市中を徘徊させてケガをさせては引き返させてるってのに
そこに最近追い討ちのつもりなのか上の方から特命とやらが来て
放棄された歴史のなんとか楽第で何しろあれしろこれが無理とか長期戦がどうとか
刀と刀装破壊がなんたらとかサイとか栗がどうたらこうたらであーーーもーーーー!!
「つうわけでウチはもうラクダは放置。
任意だって言ったんだから遠慮なくそうさせてもらおう。
不満なら反乱?知らんわ。そんなヒマあるなら草履でも編んどるわ。
むしろ今現在進行形で編んどるわ。綺麗なハギレ布再利用の室内用のやつ。
しかし上の連中ってのはたまーに声かけてきたと思ったら
つまらん挑発かけてくるんだな。妙な所で時代を先取りおってまったく・・」
「・・ねぇ、それをあたしにぶちまけてもしょうがなくない?
まぁ酒の肴としては中の上くらいの話だけどさ」
「他にもらすと余計な心配かけそうだからこそのお前なんだよ次郎(次郎太刀)。
お前にならいくらしゃべっても明日には全部忘れてそうだから大変便利」
「ヤダこの人、飲んでもないのに絡み酒の気があるの?
大体あたしだって常時酔ってるってわけじゃないんだけど?」
「常時酒瓶抱えてるやつが何言ってやがる。
そもそも酔ってないっていうのは酔っぱらいの常套句だろが」
「あっははは!信用なーい!
ま、あたしと会った時の第一声が『酔ってるのか?』だったもんねぇ」
とか話をしてるわしの横には丸くなったまんばが転がっていて
背中を少しだけこっちに引っ付けたまま微動だにしない。
何があったのか知らんがラクダの件の使い
(もうややこしいから最初の表示の???からとって以後ドジョウと書く)が来てから
妙に引っ付いてきて、腹でも下したのかと聞いたら軽い頭突きをくれて以後ずっとこの調子だ。
そういやまんばとドジョウ、見た目が似てたからそれと関係あるのかと思ったが
まぁ放置確定の件を掘り返しても仕方ない。
次郎もそのあたりは何となく察しているのか何も聞かず
微動だにしないまんばの上に綺麗なハギレを散らして遊んでいる
お、いいなそれ。今度ハギレをかき集めて新しいまんば布でも作るか。
ドジョウのかぶってた布は妙に小奇麗だったし洗い替えもいるだろうし。
まぁドジョウにはもう二度と会う事もないだろうがな。
てなわけでまんば、採寸させろ。
いやおひざじゃなくて採寸・・っておい、そこに居座る気か?
重・・くはないし、まだそんなに寒い時期でもない・・んだが・・。
「・・次郎すまん。なにかかけるもの持ってきてくれ」
「あらまぁ、律儀でやっさしい」
「時と場合によるだけだ。とにかく頼まぁ」
「はいはい。ちょっと待ってて」
と、こころよく返事はくれたが次郎のやつめ、何をどう間違えたのか
かける物のついでに太郎とへせべまで持ってきやがった。
太郎は黙って近くに来てそのままうとうとし始めただけなのでまぁいいとしても
へせべは完璧な正座でわしの前に座ってガン見してくるし、もうなんなのお前は。
次郎は次郎でそれを楽しそうに酒の肴にしてやがるし、あとで覚えてやがれ。
とか思っていたらへせべが突然ものも言わずにすっと立ち上がり
わしの膝にしがみついていたまんばをべりっと引き剥がし、ぽいと捨てた。
・・う、うーむ、まぁ蹴り飛ばしたり踏みつけたりしないだけまだマシなんだろうがドライな奴。
と思っていたらまんばもまんばでむくりと起き上がり
もそもそとまた同じ位置に戻ってくる。
だがへせべも再びそれを全く同じ動作で剥がして捨て
そしてまんばもまったく同じように戻ってくる。
捨てる。戻る。捨てる。戻る。捨てる。戻る。捨てる。戻る。捨
がっし
なんてことを延々と繰り返し、どっちが先にキレるのかと思って見ていたら
まんばの方が先に引き剥がそうとしていたへせべの腕を掴んだ。
わしの方からその顔は見えなかったが、へせべはそれを見てなぜかにやりとし
掴まれた腕をも利用してまんばをぶんと外に投げた。
しかしまんばも負けずに縁側から転がり落ちる数歩手前で踏みとどまると
転がるように戻って来てへせべの足に体当たりし
そのまま二人して床の上で無言の掴み合い・・のようなものが始まる。
というのも掴み合いのケンカというには迫力がたらず
取っ組み合いにしても少々地味だったからだ。
おそらくわしが見てる前でケンカするのはダメだろうという配慮だろうが
殴らず蹴らずかつ無言の狭い範囲で繰り広げられるそれは
カナブンのケンカを見てる気分だ。
まぁそんなケンカを横目にしつつ布草履を2足編み上げた。
一足は試作の自分用で、もう一足は次郎にやるつもりだったが
かける物と一緒にヘンなものも一緒に持ってきやがったので
予定変更してみやびにゆずることにした。
だがみやびもそんなものが急に回ってくるとは思わなかったらしく
一通りのツンデレ作業をしてからようやく受け取ってくれた。
今思ったが、わしの周りはなんかめんどくさくて素直な奴が多い。
その12 リアルの年末も戦場です
12月忙しさに季節感も狂う日
ラクダ(聚楽第)がいつの間にか封鎖されててドジョウも帰ったそうだ。
そういや結局一回も中を見なかったが期間限定だったんだな
あの説明や決まりの長ったらしそうなよくわからんやつ。
そのうちドジョウにぶぶ漬けでも出そうかと思ってたが、帰ったならいいか。
さて、それはともかく今・・というか未だに池田屋夜戦と
手前の武家を手分けして攻略中。
武家の方は必要ないが、夜戦ばかりだと気が滅入るので気晴らしついでだ。
へせべを隊長とした短刀中心の第二部隊を池田屋へ。
まんばを隊長とした精鋭の第一部隊を武家の方に行かせる。
まんばの方はまだいいが、問題はやっぱり池田夜戦の方だ。
今のところの話だがきっっつい。こっちはすぐケガをするのに対し
向こうは妙に堅かったり見た目に反して素早いのが紛れてたりして
どうにもこうにも負傷率が減らない。
一応二人以上が軽傷になったら引き返す目安を立ててたが
これはもう多少のケガ覚悟での強行軍もやむおえんかなぁ。
というかそれ以前にもうここから先、まともに進める気がしないんだが・・。
とかやってる間にへせべと愛太が軽傷。
げ、装備の少ない愛太はわかるが、レベル70越えのへせべまでもか?!
つうか愛太、お前妙に攻撃に当たりやすいな。
短刀ってもっと身軽で攻撃に当たらないものかと思ってたが
そそっかしいのか避けるのが面倒なのか単なるドジなのか一体どれだ。
はいはいわかった。いいから手入れ行ってこい。
終わったら刀装の確認するぞ。ゆっくり治せ。
へせべお前も・・ん?なんだ。
え?蜻蛉にした手動手入れか?馬鹿言うなあれは特殊例だ。
大体あれは蜻蛉には抑止力だが、お前にはご褒美になるだろ。
・・いや、重傷とか軽傷の差の話じゃない。
大体ケガしてご褒美だなんて常習化されでもしたらかなわん。
手間の話でもない、えぇい、とにかく手入れしてこい。状態はいつでも万全にだ。
それと・・何度もあんな所にチビ達と行かせる事になって、すまん。
うえぁ!?おいなんで吐血する!?軽傷じゃなかったのか!?
あーもうほらちゃんと立て!そして手入れしろ!
着物?かまわん、血なんぞあとで洗えばいい。
はいはいわかったから!ゆっくりでいいからちゃんと治せ!お大事に!
「・・わ、ちょ、どうして手入れ部屋の前で血だらけなんだ君は?」
「おうヒミツ(燭台切光忠)、見回りごくろうさん。異常なしか」
「今ここで血だらけの君を発見した以外は異常なしだけど・・」
「あぁ、これか?今へせべをこれこれこういう事情で
肩を貸して手入れへ放り込んだだけだ。気にするな」
「あ、それなら納得。気にしない」
「自分で言っといて何だか理解が早いなおい」
「彼の異常の大体は君がらみだからその説明で伝わるよ。
あぁ、それと少し前まで門の前で出待ちしてたドジョウの彼。
言いつけ通り声はかけなかったけど・・えぇと、なんというか・・
本当に完全放置しちゃたんだ」
「うーん、放置と言うか厄介事に首つっこんでるヒマがなかったというか
依頼の仕方や待遇や態度あれこれがどうも合わなかったというか・・
まぁなにはともあれ、終わったならもうどうでもいい話だ。
あとで門の前に塩はまいとくがな」
「・・そんなに聚楽第の件、気に入らなかったんだ」
「いやいや、まったく触りもかすりもしてないから
気に入るも何もないんだがなぁ。はははは」
「・・まぁ、刀たらし主の暗黒面を垣間見たのはともかくとして
聞かなかった事にしとくよ」
「そうか?たらしって言うならお前の方が上だと思ってるんだがわしは」
「会ったばかりの頃にも(たらしって命名されそうになって)訂正したけど違うよ。
こういう口調と性格なんだからヘンな絡み方しないでほしいな。
大体その件とヒミツっていう呼び方で誤解を被ってるのは僕なんだから。
おもに長谷部君とか長谷部君とか長谷部君に」
「なんだお前へせべともめてるのか?」
「もめてるってほどじゃないけど、あまりいい印象を持たれてないのは確かだね。
もちろん暴力暴言が飛んでくるわけじゃないけど
態度や口調があからさまに君に近づくなって言ってて
別にどっちも悪い事をしてるわけじゃないんだけど・・あ」
ん?何だと思ってヒミツの視線の先に目をやると
手入れ部屋からずるごとんずるずとかいう妙な音がして
障子にびたぁと血の色をした手形が二つつく。
うぉ、言ってるそばから聞きつけてら。
まだ昼間だったし事情を知ってたからよかったものの
夜中に見たら完全に絶叫ものの心霊現象だ。
というか何してんだへせべのやつ。
「こらへせべ!暴れないでちゃんと治せ!」
すると障子の向こうの気配すっと大人しく遠ざかる。
・・ふむ、ここは出待ちして早々に話をつけとく方がいいか。
でないと色々とまずい気がする。
「何かすまんなヒミツ。戦と全く関係ない所でいらん苦労をかけて」
「・・はは。まぁその分の居心地は補償されてるし
長谷部君の気持ちも少しわかるから別にいいんだけど」
「?そうか?」
今なんか含んだような言い回しがあったが・・まぁいいか。
あとこいつ、たまに山筋と同じ太刀だってことを忘れそうになるなぁ。
たぬきもそうだがどっちかっていうとたぬきの方が太刀で
こいつの方が打刀な気がして時々間違えて夜戦に放り出しそうになるし。
なんてことを手入れ部屋の前でしゃべって時間をつぶし
先に出てきた愛太にへせべの血の件を心配されつつ刀装を付け直してやり
その後通りがかったまんばに・・あぁもう書くのめんどくさくなってきた。
とにかくまんばにも血の件をめたくそ心配され、あわてて事情を説明したら、まんばは黙って替えをもってきて、汚した分をひったくってなぜか軽く怒ってきた。理不尽。
あ、それ捨てるなよ。洗えば落ちるだろうしまだ使うから粗末にしない。
呪われてそうって・・まぁ見た目はそうだが洗えばべつに問題ないだろ。
・・え、何だお前らその顔。別に間違ったこと言ってないだろ。
ともかく憮然としたまんばに汚した分の洗濯を頼んだ後
ヒミツと愛太でおばちゃんの井戸端会議のごとくどうでもいい事を長々としゃべり
大人しく手入れを終えたへせべを出迎えた。
部屋のまん前で楽しげに雑談されたからか、へせべはさすがにむすっとしていたが
愛太が一緒だったことでヒミツへの態度はそう険悪でもなかった。と、思う。
あと無理に仲良くしろとは言わんがヒミツをあまりいじめるなよと言ったら
結構間を置いてから『・・善処します』というへせべにしては曖昧な答えが返ってきた。
・・うーむ、そこに二人以上存在するなら争いは大体存在するもんだし
ましてや40数人もいたら人間関係がこじれるのも当たり前なんだが
どうもこいつもまんばと同じく妙な目が離せない感があるからなぁ・・。
ともかく、絶対に喧嘩をするなとは言わんが、ほどほどにしとけよ。
お前はなんでも必要以上に頑張りすぎなところがあるからな。
なんて言いつつへせべの頭を撫でていたら
へせべの不機嫌はなおったものの、愛太に『あー!ずりぃ俺もー!』とねだられ
ヒミツに何か諦めたようなため息をはかれた。
うんぬぅ、それにしてもだいぶ人間関係(この場合刀関係というのか?)が
ややこしくなってきて管理しきれるかどうか心配になってきたな。
しかしそんな心配に塩をひっかけるように刀の数がこれ以後なぜか急に増えていき
わしだけが管理育成で戦慄するハメになるのだが、それはまた後日の話。
その13 わしの手は二本しかないんだよ
12月寒波が来るらしい日
今期間限定で連隊戦というのをやっている。
たまに昼と夜戦が入れ替わったりするのが面倒だが
陣形も選ばず枝分かれの道もないので楽と言えば楽なためたまにやっている。
で、ここでちょっとした良い方の誤算を発見した。
池田夜戦用に組んでいたへせべの二番隊が思いのほか大活躍。
さすがに今現在で一番ややこしい場所を徘徊させていただけあってか
昼夜かまわず上手くやってくれて大助かりだ。
うおぉすごいぞ!へせべとチビ達輝いてるなぁ!陰鬱な市中戦も無駄じゃなかっ
ってこらへせべ!危ないから前見なさい前!あとでちゃんと誉めるから!
ただ勝った後とかにちょいちょいもらえるご・・なんだこれ?ご、さい、たま?
とにかくなんとか玉と交換で景品が出るそうなんだが・・あれ?これ前にもなかったか?
で、その玉は連戦一回でもらえる数が大体100くらいなのに対し
刀と交換する場合の玉の数は最低でも5万。
宣伝している新しい刀にいたっては20万。
ちなみに今うちにいる刀の精鋭かき集めても
難易度の難で全部隊が半死半生の目にあった。
よし!無理!!
地道に稼いで馬の一頭でももらえれば御の字ということにしとこう。あとは知らん。
それとは別に今ちょっとした事に頭を悩ませていてそっちに手が回せない。
簡単に言うと刀増えすぎ問題だ。
事の始まりはなんとなく作っていた槍の配合でお杵(御手杵)ができた事だ。
そういえば大太刀は大体そろってるから、ついでに槍も三本そろうかなと
軽い気持ちで持て余していた資材を使い、槍の鍛刀配合を繰り返していたら
いつの間にやら短刀と脇差がごっそり増えてて普通にびびった。
うわちょっと待て。今ただでさえ池田夜戦で子供(短刀)駆使してて心痛めてるってのに
さらに追い討ちとか何の嫌がらせだ。あと刀装の最大所持数がおっつかねぇよ。
名前の方は各自個性的な自己紹介をしてくれたからなんとかなりそうだが
困るのは当然ながらレベルの低さだ。
風がふけばよろめき段差も越えられないようなぴよっぴよのヒヨコばっかりで
突然そんなのにたくさん入られたもんだから感覚が変になる。
別に無理に育成する必要はないが、もし何かあった場合
仮に全員総出での戦でもあった日には一瞬で数人まとめて消し炭になりそうだし
ともかくせめて攻撃一撃だけでも耐えられるようにするために
ない知恵を駆使して只今ヒヨコ連中を強化中だ。
で、その部隊長には少し前に出来てレベルもそこそこ上がった長虎(長曽祢虎徹)。
補佐にかなりの重傷経験をえてようやくケガをしなくなったいわし(岩融)を組み込む。
特にいわしは重要だ。まず一番いい馬に乗せて真っ先に敵を全部はたかせ
討ちもらしを長虎にとらせて2手目で終了させないとヒヨコ達の誰かがケガをする。
だが遠戦をやられるとやっぱりケガ人は出るし、かといってあまり高レベルを連れて行くとレベル制限で戦い損になるし夜戦なら短刀類が有利なんだろうが今ある夜戦は例の池田屋しかないしもういい加減あそこ見飽きてきたし何より痛い目しかみせられないのが心苦しいし・・。
「・・・・なぁおい長虎。もう戦とか合戦場とか血なまぐさい事やめて
普通に学校とか字の勉強とかから始めねぇか?」
「・・意見としては大いに賛同したいところだが
何分俺たちが率いているのは刀剣、つまりは武具であって戦で強くなるものだからな」
「やけに凹むのだな。俺達の時とはまるで態度が違わんか。
俺なぞ何度手入れ部屋と戦場を往復したかもわからんというのに」
「・・いや、それはそれで悪かったと思ってる。
よく考えたらいわしって魚に弱いって書くから
そのせいで殴り弱くて打たれ弱い呪いにでもかかったのかと思って心配してたんだ」
「蒸し返すな!俺もその当時は多少・・いや、かなりそんな気はしたが
少なくとも今はそうではないだろう」
「・・そうなんだよなぁ。そうして弱かった時の事を
さらっと流せるくらいになるまでがつらいんだよなぁ・・」
「まぁ・・その、なんだ。俺達も出来るかぎりの事はするから、あまり気にするな。
見た目年齢が同じくらいのやつにしょげられると地味に響く」
てなことをぶつくさグチってる間に年が明ける。
おにわ(さにわ)になってからの最初の年越しだが、バタバタしてて実感がない。
あ、そうだ。忘れないうちにここ最近増えた刀についての
大体の第一印象と特徴を書いておく。呼び方はそのうち考えよう。
御手杵(お杵) 今回の増えすぎ問題の大元。若く見えるが時々一歩引いた様子がある。
信濃籐四郎 秘蔵っ子らしいが短刀は数が多くてよくわからん。すまん。
厚籐四郎 厚焼き玉子が好きかと思ってためしに出してみたら
いたく気に入ったらしくついでに『母ちゃんおかわり!』と言われた。
浦島虎徹 元気で本物のコテツなんだそうだが、相変わらず本物偽物の差がわからない。
長虎の話だと作る人物が違うんだとかなんとか。なおさらわからん。
太鼓鐘貞宗 名前どおりの元気ボウズ。刀装をよく壊す。めっちゃ壊す。
わざとかと思うくらい壊す。たまに自分も壊す。刀装で殴りかかってるのか。
物吉貞宗 幸運って運べるもんなのかと言ったら曖昧に笑われた。なんかすまん。
包丁籐四郎 最初の自己紹介で戦慄。悪気はないんだろうがわし的に怖い。
後藤籐四郎 短刀たちの中では背が高いらしいがやっぱりよくわからん。すまん。
鶯丸 不思議とケガをしないおとなしめな刀。兄弟がいるらしい。
亀甲貞宗 秘書風で物腰はいいが何をやらしても妙にうさんくさい。
へせべと似たニオイがするのは気のせいか。
膝丸 しばらくの間ひじまるだと思ってた。なので名前が微妙に覚えにくい。
戦闘時の顔が怖い。兄がいるらしいがまだ見たことがない。
なおこの増えすぎ問題を作る原因なった残る槍については
今後イベント関係で手に入りそうなので、手に入ったらとりあえず一発殴る予定。
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