その1 ひとふりめまんば
和製タイ●パトロール物理排除日誌。
・・・いや、さすがにこれはマズイか。
しかし早い話がそういう事だろう。このはんしん者の仕事
え?さにわ?・・昔の土人形みたいな読み方するんだな。
まぁそのさわにという、ん?さにわ?・・・言いづらいなぁおい。
サワガニに似てるからもうカニでもよくないか?ダメ?
と、いう以前にだな。説明不足に情報不足、手際不足に準備不足と時間不足。
そして何より縁もゆかりもないわしにあれこれまとめて擦り付ける人手不足。
なにをどうしたらここまで不足だらけの事態が発生するんだ。あらゆる手法で笑うぞ。
青い猫型ロボット装備のメガネ少年でもここまでの状況は作り出せんのじゃないか?
おうコラこんすけ(こんのすけ)。目ぇそらすな、後でいるかどうかわからんし
伝わるかどうかも期待もせんが、上の方に今の愚痴それとなく伝えとけ。
あとお前の顔、白い袋かぶせて後から顔描いたみたいで面白い。
さて、こんすけが可愛くわめくのはともかくとして記録でもつけとくか。
ないよりもある方が良くも悪くも価値があるだろうし・・っと。
記述、千十郎。続くかどうか正直自信ないが、ともかく始めるとするか。
二の月初日
そんなこんなでクッソ短い説明の後、まずこれから先のため、最初の刀剣を選べと言われた
んだが・・・ざっと一覧を見るにこれ、どう見ても人間じゃないのか?
しかし名前は刀で見た目がホスt・・いやいやいや。
まぁ細かい事気にしてちゃ始まらん。とりあえず色々とクセのありそうな面々から
山・・ん?やま?・・え〜・・なんだこれ・・山、やま、なんとかきりくにひろを選択。
後でちゃんとした読み方を聞いて爆笑したら、無言で足を踏まれた。古い女子か。
そしてこの若干ぶっきら棒なヤマンバ。・・なんか変なのでまんばとしておくが
このまんば、自分の事を偽物とか写しとかぶつくさ後ろ向きな事をぼやきつつ
そのままこんすけの指示でいきなり実戦投入。
うぇ、ちょ、待て。突然のいきなりで大丈夫かと思っていたら、大丈夫じゃなかった。
初戦でいきなりの敗戦で重傷。
おいおいおーい!いきなりの初戦で負け戦ってお前!?
普通こういう場合は勝つもんじゃないのか??
あとなんで刀なのに血出るんだ痛々しい!
慌てて本丸とやらへ引き返し、言われるがまま手当開始。
傷の手当が手入れになっていたのでここでようやくこいつが刀だという実感がわく。
が、当人、というか当刀にいたっては別にあのまま朽ち果ててもよかったとぼやく始末。
う・・これはマズイ。なし崩し的に付き合っていて深入りしないつもりだったんだが・・
こういう事を言われるとなぁ。
むーん・・よし、わかった。乗りかかった船だ。腹をくくろう。
おいまんば、そこ座れ。いや怒ってないから。傷はもういいんだろ。
いいからおすわり。
「・・なんだ。写しの実力に失望してもう解雇通達か」
「いやいや、いきなりそこまで話は飛ばん。それよりもっと根本的な話をしとこうと思ってな」
「?」
「まず最初に、お前がさっきからぶつくさ言ってる、本物と写しがどうとかいう話なんだが
それ、わしに言われても困るしそもそも無意味だからな」
「・・・どういう意味だ?」
「早い話、わしはお前の言う『山姥切国広』とやらの事を
お前から初めて聞いたばかりで、それ以外の情報をまったくカケラも持っとらんのだ。
なのでお前が本物か写しかどうかの見分けもつかなければ
本物偽物どちらにどれだけの価値があるかどうかさえもまーったくわからん」
「?じゃあ、俺を最初に選んだのは・・」
「他が妙にクセ者くさかったんで、比較的大人しそうなお前を選んだ。
・・ってオイなんだその顔は。いくらハニワ・・じゃなくて審神者?とかいうのに選ばれた奴だからって
ちゃんとした知識のある有能なヤツとは限らんだろう」
「・・それは堂々と自分で言う事なのか?」
「無知は恥だと言う時もあるだろうが、知らんものを知ったかぶりしても得にはならんし
知らんならそこから知っていけばいいだけの話だろう。
それに今のところお前が偽物本物どっちだろうとわしは不自由しとらんし
刀の良し悪しがわかるほどの経験も積んでない」
「・・・・」
「なので写しとか本物とかの話はわしには無意味だから、気にしてたらすまんな。
だがそれを差し置いても、お前はわしが最初に選んだ記念すべき一振り目の刀剣だ。
まだ名前と根暗な性分以外何もわからんから、それ以外の事を知るより前に
いなくなってくれるなよ。まだ付き合いが浅いとはいえ・・さみしいからな」
手入れの最中感じていた本心をもらしつつ
うつむいてしまったボロい布ごしにその頭を撫でると
見えていた口元がへの字になったのが見える。
しかし即座に振り払われなかったから嫌ではないんだろう。たぶん。
「とは言え、お前も大概めんどくさそうだが、それもこれも何かの縁だ。
とにかくよろしく頼むなまんば」
「・・そ・・の、前に!アンタはいちいち一言多い!」
何かの苦し紛れみたいに袖をぺしっとネコみたいにはたかれた。
ん?これもしかしてめんどくさいんじゃなくてわかりやすい方なのか?
ま、それは追々わかるだろうし、さっきからこんすけが何か言いたげにしてるから次だ次。
というかわし的には歴史がどうとか敵がどうのとかより
こういった身近な事を書いてる方が楽しい・・って、あ、こら何するこんすけ。
いやこれ提出用じゃないから。個人用だから。同じキツネなのはわかるけど
その見た目でチベットスナギツネみたいな目するんじゃありません!おぉぉい!!?
その2 イマドキの子供
二月中日
そっけないながらも色々と手伝ってくれるまんばと一緒に
こんすけの指示のもとおにわ・・じゃない審神者の仕事をすること数日。
作ったり拾ったりする刀剣=人員が増えてくるにつれて
わかってきたこと・・というか思った事がひとつある。
なんだこの子供率わ。
道中で拾った鳴狐(これはお付がキツネでよく喋るから覚えやすかった)もそこそこ若く見えるが、問題はやたら道端に落ちてる短刀連中だ。
問答無用でみんな子供じゃねぇか!
何この目が焼けんばかりの若さまぶしい半ズボン集団!わしそっちの趣味ないんですけど!?
あとこんな子供を戦地に送り出さにゃならんの心苦しい!
やくけん(薬研)はまぁギリギリ子供じゃないかもだが
・・おいこんすけ、これちょっとマズくないか?
おまけにしれっと女の子まで混じっとるだろ。なんか変な法に引っかかったり
ん?なんだまんば。後ろ?げふぉ!?
「っ痛え!なんだお乱(乱藤四郎)!横っ飛び蹴り禁止!」
「もー!ヘンな呼び方してると思ってたらやっぱり勘違いしてるー!
みだれ!とうしろう!!ボク男の子だってば!」
「は!?・・ってお前男子なの!?頭の上からつま先までどう見たって女の子・・」
「ここ!画面下の取説!刀剣男士って書いてあるでしょ!女士はいないのちゃんと見て!」
「いやいやいやわかるかそんなもん!そこちゃんと見てたとしても紛らわしいにもほどがある!
見た目にしろ言い回しにしろわかりにくすぎる!わし絶対悪くないよなまんば!
ってこら他人のふりすんな!あとお乱も追加攻撃やめろ!
そんなんだから乱闘四郎なんて話にあいだだだだだ!!」
つうわけで、マウントとられてしこたま叩かれた。
騒ぎを聞きつけた他の短刀達が止めに入ってくれたからよかったものの
もたもたして止めに入り損ねたまんばにはデコピン一発入れておいた。
いや止めに入りにくいのはわかるが止めてよ頼むよ。しょげてないで。
ちなみにお乱とはちゃんと話をつけて和解した
が、どっちにしろ子供を戦に出すには心苦しいものがある。
早く子供以外の刀剣が集まることを願う。
その3 副官へせべ
二月後半上日
そこそこたってから調べてみてわかったが
打刀というのは刀剣類の中でまぁ平均的な能力を持つらしい。
そういや最初選ぶはずだった刀連中が今になって集まってきているが
それを知りつつ見てみると、こいつらみんな打刀だったんだなぁ。知らんかった。
あとこれって『うちがたな』で『だとう』じゃないんだなぁとしみじみもらしたら
まんばにもの凄く複雑な顔をされた。
・・ホントに知らなかったんだから仕方ないだろうが。
で、ついでに白状すると最初のころ『打』の字しか見てなくて
ぶん殴って打撃でどうこうする刀の事だと思ってて
もしかしたらホントにできるのか実際に・・・いや冗談だ。
思っただけだからそんなすみっこ行くなよおぅい。
で、その打刀で最近入った初期選択連中とは別の刀がいた。
名前をへしきり長谷部というらしい。
冗談みたいな名前だが、当刀はいたって普通の真面目そうな刀
かと思いきや、名前と同じくこの男士、なんかおかしい。
いや別に言動や行動がおかしいとかそういうのじゃなく
ひねくれてないし後ろ向きでもないし主従関係もかっちりしてるし
あ、いや、別にまんばがそうじゃないとかの話じゃないぞ。
お前はお前で不機嫌そうにだが色々ちゃんとしてくれてるだろう。
この前だってわしが洗い物中に間違って足の上に鉄鍋落とした時
小声でうめいただけなのにすごい勢いですっ飛んできて
わー!こら破くなわしの個人的記録!
えーと、とにかくその、なんだっけ?へしべ?
じゃなくてへしきり本刀は長谷部でいいと言ったが
わしはへせべと呼んでるそのへせべ。こう、なんというか説明しにくいんだが
折り目のない真っ白な紙を裏返したら
前衛的な模様が隙間なくびっちりだった、みたいな感じか?
まぁそんなかっちりした真面目に妙な違和感のくっついたへせべだが
物は試しに増えた部隊のうちの1つをまかせてみても特に問題なし。
普通にそつなく有能なんだが・・。
「・・なんだろうなこの不思議な違和感。なんでだと思う宗さん(宗三左文字)よ」
「おそらくは彼の前の主が原因かと」
「・・あぁ、アレか。アレねぇ」
「おや、手の届く範囲にすらうとい貴方でもご存知でしたか」
「その手の事に関してさっぱりなわしでも、さすがにアレ(魔王)の話だけは聞いてる。
まぁどれも強烈な話ばっかりなんで嘘か真か疑わしい所も多々あるが」
知らない間に茶飲み友達みたいになった温和な宗さんと縁側で茶をすすりながら
畑でぼくぼくぼくクソ真面目にクワを振るい
あわあわしてる秋坊(秋田籐四郎)を完全に置いてけぼってるへせべを眺める。
ってことはアレか。もしかするとアイツ、ある日突然誰かの寝床に火を放ったり
癇癪おこして斬りかかってきたり黒いビーム撃ったり巨大化したりするんだろうか。
・・や、でもあいつ前の主の事そんなに好きじゃないみたいだったしなぁ。
普通にしてれば普通の真面目なやつなんだろうし・・。
とか思いつつ機械みたくクワをふるっているへせべを眺めていると
視線に気付いたへせべが手を止めこっちにきて膝まづいてきた。
「主、何かご用命でしょうか」
「あぁ、いや別に。真面目にやってるなーって見てただけなんだが・・
なぁ、へせべ」
「はい」
「いくつか聞くが、お前畑仕事とか苦になってないか?
みやび(歌仙兼定)とキンキら(蜂須賀虎徹)はあからさまに嫌そうにするんだが」
「・・お望みであればその両名即刻手打ちにいたしますが」
「いやいやいや、それも刀の本分かもしれんがそれはよせ。
あと自分で言っといて何だが、へせべって呼び方も嫌じゃないのか」
「主の創意工夫によって作られた特別な呼び名ですので、私にとっては唯一無二の至宝です」
「・・・・・・」
「上手く使ってあげて下さいとしか言いようがありません」
どうしようコレ、というわしの視線に宗さんは至極まっとうな回答をくれる。
・・上手く使う、ねぇ。確かに刀としては一理あるが、わしとしてはどうもしっくりこない。
へせべは刀でわしの言う事をよく聞く。物騒に思えるくらいきっちり聞く。
たぶんその命令を遂行するという行為はこいつの中ではかなり大事な部分なんだろう。
けどなぁ、せっかく動いてしゃべって喜怒哀楽のできる身が
それだけで世界を形作ってしまうというのも、もったいないんじゃないかとわしは思う。
「・・なぁへせべよ。わしは刀に関しては素人だ。だから大した事は言えんが・・」
だからこれは、わしのちょっとしたワガママついでの提案だ。
「思い出した時か気が向いた時でいい。よければ自分のことも愛してやってくれ」
って、うおぉう、凄い顔しとるぞへせべ。
なんだお前、こんなびっくりした顔できたんだなぁ。
そんだけ顔に出せれば大丈夫かな。うん、少し安心した。
しかし自分の事を大事にしろって話がそんなに驚く事・・・なのか。そういえば。
そうだよなぁ。お前ら刀だもんなぁ。・・って、宗さんまでそんな顔するのか。
で、それから後のへせべについてだが、これといって変化はなかった。
近侍態度は真面目だし部隊もきっちりまとめるし遠征もこなすし
たまにある危なっかしい言動をのぞけば特に問題は見当たらない。
ただ時々、仕事を任せていない時に黙ってわしの所に来て
しばらく無言で居座った後、やっぱり黙って去っていくという謎の行動が加わった。
それは多分、へせべなりにあの時の提案を実行してるつもりなんだろう。
ためしに黙って居座っている時に頭を撫でてやると
少し驚いたような顔をして躊躇した後、それとわかるちゃんとした照れ笑いをした。
はっはっは。面白い。元が刀とは思えん。
と、いうのを宗さんに話したら、妙にいい笑顔で『無自覚の刀たらし』とか言われて
それを聞いてなかったはずのまんばからは、しばらくぶすっとした顔をされた。
・・そこでふと思ったが、元は刀な刀剣男士とやらに囲まれている気が
最近あまりしなくなってきた今日この頃である。
その4 まだ全種類把握してない
二月快晴日
相変わらず時代構成もよくわからないまま合戦場をふらついていると
山伏国広という太刀を拾った。
太刀を拾うのは初めてだが、えーと、太刀ってなんだ?刃の太い刀か?
それより気になったのはどこか見慣れた漢字。
国広・・くに・・え!?まんばの兄弟なのか!?
そういや短刀連中も兄弟がどうとかって言ってたから
まんばにもそういうのがいたんだなぁ。ぜんぜん似とらんけど。
話してみると性格もまんばに似ておらず、良く言って明瞭で豪快。悪く言えば脳筋だ。
あ、そうだ。山伏って職業名みたいなもんだから呼び方は山筋でいくか。
「成程山筋か!筋肉山の如し!山のような筋肉!大いに結構ではないか!カッカッカ!」
「・・・い、いいのか?いや、本人がよければそれでいい・・のか?」
「別に兄弟間でまでそれは強制せんぞ。
わしなりの略称だからお前たちはお前たちで好きにするといい」
「うむわかった。ところで兄弟、先程からあの台詞を聞いていないが、どうした」
「?何の話だ」
「以前から自分の事を写しだの偽物だの、口癖のように言うておったではないか。
先程からそれがまったくないが、どういった心変わりだ?」
「・・そ、れは・・・ここに来て、意味がなくなった」
「と、いうと?」
するとまんばはこっちをじろっと睨んだ後
山筋の袖をひいてカサカサと小走りで離れていき
声の聞こえない範囲でこそこそとなにやら内緒話を始める。
「カッカッカ!成程納得!それは確かに意味がないなぁ!
しかし拙僧そういった話にはまったくうといが、それではまるで新手の口説き文句・・」
あーあ。まんばがえっらい慌てとる。
あんな大声出すなら内緒話の意味なくないか?
つうか何で口説き文句の話題に・・ちょ、なんでわしを睨む、まんば。
などと軽く怯んでいるとさらに会話を交わした兄弟達がもそもそと戻ってきた。
「うむ、兄弟から口止めされたが事情はわかった。
これからも兄弟の事を末永く幸せにべし」
口をべちこんとまんばに叩かれ最後の方はつぶれたが
つまりは兄弟をよろしくって事なんだろう。
何か微妙な勘違いが生じてる気もするが・・まぁいいか。
「口止めされてるなら詳しくは聞かんが、ともかくよろしくな。
まんば共々面倒見るから覚悟しろ」
「応!心しておく!」
と、山筋のノリにあわせて漢らしい挨拶をしようとしたら
やり方がまずかったらしく失敗して腕に打撲をもらった。
山筋は無傷で大笑いしてたが、わしとまとめてまんばにがっつり怒られた
その5 新入り乳児
三月一桁日
今、わしの前には最近加入した二名の男士が正座している。
1人は大太刀の太郎太刀。1人は初めて入った槍の蜻蛉切だ。
うん、どっちも覚えやすい。覚えやすいの大好き。
とかいう理由でこの二人を呼び出したわけじゃないぞ。そこまで酔狂じゃないわい。
で、呼び出しの理由はというとこの二人
最近来たばかりなせいか戦に出すとやたら傷を負ってくるからだ。
来たばかりの刀達は最初から強いわけではなく、レベルが最低初期の1。
この二人も一応強い刀達と組ませ、そう強敵のいない戦地に出していたつもりだが
気が付けば重傷。あれ?と思う間に重傷。よそ見したすきに重傷。乳児か。
とまぁあまりに手入れ部屋に放り込む回数が多くてさすがに不憫になってきたので
今その二人はわしの前にしょうもないポカして怒られる前の小坊主よろしく
でかい図体でちんまり正座しているわけだ。
「・・二人とも、なんで呼びつけくらったかわかってるようだから詳しくは省くが
あー・・とりあえずわし、怒ってないから。蜻蛉、とりあえず見事な土下座はやめなさい。
太郎も地味にしょんぼりしない。大体責任の大半はわしにあるんだし」
「しかし主!」
「ですが主・・」
「わしのせいなんだよ。そもそも武器ってのは使い手の腕で大体が決まるもんだし
それに加えて采配の未熟さ、刀装の理解不足、敵の特徴を掴みきれてない
素人特有の手探り作業。上げればきりがないだろ」
「「・・・・」」
「・・いかんなぁ。まんばやへせべに甘やかしてもらってたツケが今頃出てきた。
と、いう言い訳も引っさげて、お前たちには謝っておこうと思ってな。すまん」
などと気楽に謝ったつもりだったが堅物な蜻蛉には通じなかったらしい。
がざざと畳を這って急接近してきた。うわ怖い。
「何を申されます!己の不手際を主に転換するなど武人にあるまじき行為!」
「う、うん。それはそうなんだが、お前たちを使うにあたってっていう意味では
大体は主のわしの責任だろ」
「しかし・・!」
「じゃあお前、もし自分の使ってる武器が戦の途中でへし折れたら
武器がもろいから悪かったんだとか、誰だこんな欠陥品寄越したのは!とか言うか?」
「ぐ・・」
「勉強だな蜻蛉。わしも、お前も。
経験がないと学べない事が山盛りで困るくらいだここは」
などと笑って蜻蛉はようやく納得してくれたようだが
しかし、さっきから太郎の方がやけに静かだが・・
って寝とるー!?
「こらこらこら太郎!太郎さんや!!なに堂々とうたた寝してんだ!起きろ!」
「・・えは、ふぁい。・・いえ、その・・主の声が心地よいもので・・」
・・げ。そういやこいつ、そういう部類だったか。
というかこの空気で寝るか普通。わしじゃなかったら絶対怒られ
あ、蜻蛉の拳骨が落ちた。
「え〜・・じゃあこうしようか。二人とも、次回から軽傷以上で帰ってきたら
罰として処置の手入れを手動に変更する」
「「手動??」」
「そう。手入れの時に出る、ぽんぽこする白くて丸いのと、拭き取りみたいな布のあれ。
普段なら手入れ部屋に放り込んだ後に妖精さんか何かが勝手にやってくれてるみたいだが
あれをわし自ら、手作業でやる」
太郎の方は意味がわかって『え』という顔をするが
蜻蛉の方がまだわかってなさそうなのでさらに説明。
「つまりだ、あの手入れ時のぽんぽんふきふきをわし自ら直々にやる。
できるかどうかわからんが、やる。一対一の対面式お手入れだ」
その途端、意味を理解したらし蜻蛉が息を呑んで目を見開いた。
まぁそうだろうな。武人が主の手ずから手当してもらうってのはさすがにない。
しかもぽんぽんふきふきだぞ。思っても書いてても恥ずかしいわ。
実際やられたら恥ずか死ねるぞ。
・・・我ながらやな抑止力だな。
「という事で今回までは許そう。だが次はない!
次に軽傷以上の傷をおったらわしと一緒に手入れ部屋直行だ!
次の戦、髪の毛一本分の傷も受けんくらいの気概で心して戦え!!」
「「はッ!!」」
とまぁ、そんな気合だけでどうにかなれば戦は楽なんだろうが
案の定というかなんというか、蜻蛉の方がダメだった。
どれだけいい馬を与えても大体一番遅いせいもあってか
あら?と思う間に一発重傷を起こし、約束どおり手動手入れを決行。
なんのかんので傷は治ったが精神的に大怪我をして、わしによしよしとなぐさめられてる所を
たまたま通りかかったしお(獅子王)に見つかり。
「え、なにやらかしたんだ主。まさか手込めに・・」
「しとらんわ!!」
といういらん誤解を受けるハメになった。
だがその後の地味な積み重ねもあって
太郎も蜻蛉もちゃんとした戦力となり、手動手入れはそれっきりお蔵入りとなった。
それはそれでちょっと寂しい気もするなともらしたら
蜻蛉に袖をふん掴まれ、半日ほど無言の抗議されたので
その話題は蜻蛉の前でだけは厳禁ということにしておく。
その6 坊さんとたぬき
三月覚えてない日
人員(刀)もだいぶ増え、もう入る新入りもいないかなと思っていた矢先、新しい刀を拾った。
同田貫正国・・え〜・・どうだ、つらぬき、せいこく?・・なぁ、宗さんこれなんて読むんだ。
どうだぬき、まさくに。うへぇ、わかりにくい。どうだぬき・・たぬき・・
じゃあ色合いも似てるからたぬきにしとくか。
「前から気になっていたのですが・・それはいいのでしょうか、刀として」
「いいんじゃないのか?みやびとキンキらだって最初は嫌がってたが、いつの間にかそれで通ってるし」
「歌仙殿は別件の才能で貴方を認めて許しただけで、蜂須加殿は・・・・・・うん、いいです」
「?いいのか?」
「いいのです。(本物や贋作は元より刀の知識すらほとんどないよと話したら
死んだ魚みたいな目して諦めただけだから)気にしないで下さい」
「俺は別にどうでもいいぜ。呼び方1つで切れ味が落ちるわけでもないからな」
「ほぉ、そりゃ刀らしい意見だ。くりた(大倶利伽羅)も似たような感じだが
お前はさらに上の鞘から抜けてないと落ちつかないみたいな感じがあるな」
「らしいもなにも、俺もここいいる連中も全部刀だろうが」
「はは。だよなぁ。最近めっきり忘れがちだが言われてみればだ。
ま、ともかくまずは実力が知りたい。部隊と行き先見繕ってあるから適当に戦ってこい。ほれ刀装」
「よっし話が早ぇ。行ってくる」
「あ、ちょっと待て。ついでにこの坊さんも連れてってくれ」
「?なんだ、それ坊さんの置物じゃないのか」
「・・・・・(さっきからずーっといてずーっと無言な江雪左文字)」
「・・あの、何か反論しないとこの先ずっと坊さんで通されてしまいますよ?」
「・・いいのです。私はただの置物です。坊さんもしくは刀の置物でかまいません。
戦で使う事など到底出来ない坊さんの塊か鉄の塊だと思ってくださって結構です」
「あ〜・・悪いがたぬき、ちょっとかかりそうだから先に馬用意しといてくれ。
馬屋に余ってなかったら山筋から借りてくれ。
山筋ってのは・・まぁ言えばわかるだろうし、見りゃわかると思う」
「おうわかった。山筋だな」
しかし色々と躊躇いのないヤツだな。素直っちゃ素直なんだが
ヘンな詐欺に引っかかってネタばらしされてもまだ気付かなさそうだ感じだ。
まぁそれはともかく今問題なのはこの坊さんだな。
見た目がそうなだけで実際は坊さんじゃないんだろうけど。
「で、どうしよう宗さん。この坊さん説得できるか?」
「・・あの、まさか僕に丸投げるつもりだったんですか?」
「知り合いなんだろ?この様子だとついさっき会ったわしの言う事なんて聞きそうにないし」
「・・まったく、仕方ありませんね」
仕方なさげに坊さんの前に座る宗さん。
うん、なんのかんの言いながら宗さんはこういった事で頼りになる。
「では結論から説明しましょう。
まずここにおられる我らの主、僕達の経歴や成り立ちなどをまったく理解していません」
あ、うん。確かに結論だな。
というかそれ説明すると大体の刀が変な顔するよな。事実なのに。
そんでさっきから寝起きの所を叩き起こされたみたいな顔してた坊さんも
例にもれずちょっと意外そうな顔する。
いや実際寝起きを叩き起こしたってのはあってるだろうけど。
「・・?その方、確か審神者で、我々の主・・なのですよね」
「そうです。ですが当初僕の名前を『そうさんひだりもじ』と読んだり
僕の渡り歩いた歴代の名君を『有名オッサンズ』でくくり
貴方の名前も『えゆきひだりぶんじ』と読むような雑で稚拙な方です。
もちろん僕達の過去に何があったかなど爪の先ほども理解しておられないでしょう」
「・・宗さんもだいぶ遠慮がなくなってきたなぁ」
「では・・私はこれから無銘同然のただの刀として戦に駆り出されなければならないのでしょうか」
「いやいや、それはこれから考えるさ。出会い頭から戦嫌いを語りだすヤツに
戦を押し付けるほど非道でもないぞわしは。
ただあんたには少し知っておいてほしい事があってな」
「?」
「さっき出て行ったたぬき。見ての通りの戦好きで実に刀らしい刀だ。
対するあんたは戦嫌いの平和主義。鞘に収まってるほうがいい刀、でいいんだな」
「・・・(無言の肯定)」
「水と油は混じりあわない。だがお前達は水や油と違い、各自に見る目と考える頭がある。
それが同時期に手に入ったのも何かの縁だと思うわけだ」
「・・あの、もしかして貴方・・」
宗さんが何か言いたげだがかまうもんか。
いるかどうかわからんが、刀の神様とやらがこいつとたぬきという真逆な奴らを
同時にわしの所に送り込んできたんだ。ならそれはこうしろって事だとわしは思う。
「否定するのは簡単だ。だが否定する対象を知らずに問答無用で扉を閉ざすのはもったいない。
話し合いをしろとは言わん。あいつと一緒に行動して、見て、知って、考えて、感じて、そして歩け。
それくらいやってもバチは当たらんだろうからな。ほれ刀装」
それだけ言って用意しておいた刀装を坊さんの前に差し出す。
坊さんはわしの顔とそれを一度づつ見て。
「1つ足りません」
「・・ん?」
「私の刀装の装備数は三つです。1つ足りません」
などと言って手を出してくるその顔に、さっきまでの薄暗さはない。
よし、乗ってきたな。進展の余地がある事、大いに結構。
「あぁすまんすまん。それじゃコレな。
予備は腐るほどあるから遠慮なく壊してこい、できれば敵ごと。
そのかわりお前さんもたぬきもちゃんと生きて帰ってこいよ。これだけは守れ」
「・・名君なのか暴君なのか判断しかねる発言ですが、帰還の件は了解しました」
「おう、馬借りてきたぞ。けどその坊さん、ホントに連れてっていいのか?
流れ矢に当たって勝手に死んでも文句言うなよ」
「貴方こそ、後先考えず突出して死んでは困りますよ」
「あん?なんだ、さっきよか面構えがマシになってるな。何かしたのかよ」
「いいや?わしは何もしてないぞ。説得してくれたのは宗さんだしな」
坊さんがじっとこっちを見たが、知らんな。
わしが何を言おうと決めるのは各自で動くものそれぞれだ。
「ま、とにかく行って戦ってぶった斬ってくればいいんだな」
「つい先程、そこに生還任務も加わりました。
貴方の場合二つの事を同時にこなすのは難しそうですので
そちらは私が担当した方がよいでしょうね」
「?おう。ならそうしてくれ」
あ、コイツなんかめんどくさそうだからって適当に返事した。
まぁ細かい所は坊さんの方が何とかしてくれそうだし
先に敵を撃破できるならその方が生存率も上がるだろう。
「ではお二人とも、お気をつけて」
「・・気は進みませんが」
「おうし!行ってくる!」
そうしてテンションの真逆な坊さんとたぬきは
わしと宗さんに見送られながら合戦場へと向かっていく。
うーん、これは新しい刀が入って戦に出すたびいつも思うんだが
怖いような嬉しいような何とも言えん複雑な気持ちになる。
あ、でも・・・
「たぬき!坊さん!」
短い間に結局定着したその呼びかけに門を出かかっていた二人が振り返る。
「お前さんたちの前に新しい風がふき、新しい道ができますように」
そう言うと坊さんは少しばかり驚いたような顔をした後、少しだけ微笑み
たぬきはよくわかんねぇと首をかしげた後、刀を振り上げて屈託なく笑った。
それから少しして、二人は戻ってきた。たぬきが中傷、坊さんは刀装一個破損の無傷だ。
治ったらすぐ出ると騒ぐたぬきを手入れ部屋に押し込み坊さんに聞くと
やっぱりというか何と言うか、たぬきの無鉄砲ぶりは初期レベルなのもおかまいなしで
同じレベルの坊さんが自分の身よりもそっちの方が気になって肝が冷えっぱなしだったそうだ。
「・・殺気むき出しで襲ってくる敵もそれなりに恐怖ですが
脳みそと命むき出しで突進する味方があれほどの恐怖とは・・」
「んで、もちろん忠告とか説教とか全無効だったんだろ?」
「・・それどころではありませんでしたよ。私も身を守るのに精一杯で・・」
「おういたいた。治ったぞ!次だ次!」
「って早いですね!?なにもう全快してるんですか!?」
「あぁ、早く動きたそうにしてたから手伝い札使った。在庫も150枚以上あるし」
「オイなにくちゃべってんだ。おらもう一回行くぞ」
「ま、待ちなさい。つい先程負傷して戻ったばかりだというのにどうしてそんな・・」
「何寝ぼけたこと言ってんだ。戦で折れるならそれこそ刀の本懐ってもんだろ」
「ですが何のために私達はこうして動けるようになったと思っているのです」
「自分でつっこんでじぶんでぶった斬るためだろ?」
「それではただ投げ込まれるだけの石と何ら変わりありません。少しは考えて引く事も学びなさい」
「石は狙わないと地面に落ちて終わりじゃねぇか。
大体あんたこそ人に説教と心配ふってるヒマがあるなら一太刀でも当てりゃいいのに」
「だからどうして貴方はそちらの方にしか想像力が働かないのですか。
まさか貴方、頭の中までタヌキになっていたりしないでしょうね」
「いやどっかで聞いたがタヌキって結構かしこいらしいぞ。俺は知らねぇが。
あと置物でよく見るたぬきってのは他を抜くって意味と
腹が白いから腹黒くないって意味でも使われてるんだとよ」
「・・かわいい豆知識をありがとうございます。
それをふまえて戦に対する事に抜きん出ているのはわかりましたから少しは・・」
「つうか坊さんも少しは戦に目ぇ向けた方がいいんじゃねぇか?
寺にだって僧兵はいたんだし、結構マジな戦力だったって話だろ」
「そう見えるだけで私は僧ではありませんし僧兵になった覚えもありません」
うーん。なんというか、お互いの耳に念仏と説法。
「・・少々不謹慎かもしれませんが、少し面白くなってきました」
「心配すんな。わしもだ」
なんて話を宗さんとしている前で、坊さんとたぬきは延々と実のないやり取りをしている。
そんな気はしちゃいたが二人共お互いの話聞いてねぇなぁ。
ともかくわしは新しい刀装を渡しながら二人の肩をばんとはたいた。
「ま、どっちにしろ今は二人とも敵にぶっ飛ばされないように鍛える方が先だ。
合戦場のランク下げるからもう一回行ってこい」
「当然のように私もですか?!」
「まだ強さの程がわからんからな。とりあえず宗さんと同じレベルになるまでがんばれ」
「おっし、わかった行ってくる」
「ちょ、待ちなさい!せめて刀装をちゃんと装備して行きなさい!」
ドスドスと歩き出すたぬきを坊さんが刀装片手に慌てて追いかける。
・・えーと、これどこかで見たような気がするな。あ、そうだ。
「風呂上りでパンツはかずに走り出す子供とそれを追う親の図だよなあれ」
とつぶやいたら宗さんがブフーと噴出したが
坊さんにバレると怒られそうだから聞かなかったことにしとこう。
で、この後周囲の協力やたぬきの奮闘もあってか
坊さんもたぬきも比較的ケガもなく皆のレベルに追いつくことができた。
ただその時の名残りというかクセみたいなもんで、この二人はそれ以後も一緒に隊を組ませている。
その件に関して二人共別に不満はないらしい。
たぬきは別に誰と組もうが気にしてないのかも知れないが
一度疲労になった坊さんを同じ隊からはずした時、ちょっと微妙な顔したし
坊さんは弱いころから無鉄砲なたぬきを心配してるのか
それとも野放しにしておけないのかのどっちかだろう。
「もしかして、これを見越しての組み合わせだったのですか?」
「いや別にそこまで考えてなかったな。けど昔話とかでよくあるだろ?
たぬきと坊さんは相性よさげだってな」
「・・貴方のその不思議な感性と不可解な確信にはいつも首をひねるばかりですよ」
その7 コムラサキ
五月たぶん上日
期間限定だという何かの催し(江戸城潜入調査)でここ数日知らない城を無計画にうろついている。
というのもここ、敵の強さが丁度よく敵の矢だの銃弾だの岩だのが
バカスカ飛んでこないのでレベル上げに都合がいいのだ。
ただそこで手に入る鍵や移動回数制限などの話は面倒だが
短期間の話なので気楽にこなすかと思っていた矢先
報酬の宝箱の中から千子村正という刀を見つけた。
宝箱の中にあった刀なんて初めてだが、会って見るとその刀、他の連中と毛並みが違った。
薄紫色の長い髪にがっしりした体格。眼光や着ている物も何か不思議と言うか怪しげというか・・。
ところでこれ・・せんこむらただでいいのか?
「センゴ、ムラマサです。ムラマサ。
というかアナタ、ムラマサをご存じないのデスか?」
「んー・・聞いたことあるような、ないような・・・うん。やっぱり知らん」
「HAHA!これは驚いた!そんな事を堂々と言うサニワがいるのデスね!」
「え、何だ。知っとかないとマズイ事だったのか?」
「いえいえ、知らないのならかまいませんヨ。
しかし・・知らないのですか、huhuhuそれはそれで・・」
「な、何だよその怪しい含み笑い。
あとさっきから気になってるんだがその外来ナマリはどうした」
「ワタシも詳しくはありませんが、村正の名前が海の外に渡り
独自の名声を得た事の影響のようデス」
「あぁ、人の認識や知名度が物に影響して出るみたいなやつか」
「おや、そこは理解が早いのデスね」
「まぁ色々あってな」
しかしコイツ、何と言うかへせべ以上に妙な空気まとってやがるな。
へせべは態度や性格に忠誠心と真面目さがあるからいいが
こいつは態度も性格も口調もなーんか妙でふわっとしてるし
しゃべってると嗅いだ事のない香を焚きっぱなしにしてるような感覚になる。
もしかして最初に言ってたムラカナ・・いやムラサカだったか?それがどうとかって話か?
後でそのムラマカだかムマムラだかの事、調べとくかと思っていると
廊下からドスドスと誰かの足音が早足で来る。
ん?この重量感。足運びはいつもと違うが蜻蛉か?
ってうわ!了解も取らずにいきなり開けた!?
「主!ご無事ですか!?」
「?いや無事だけど!?何だ何がどうした!?」
「おや蜻蛉切ではないですカ。お久しぶりデスね」
「?なんだ知り合いだったのかお前ら」
「知り合いではなく刀派が・・あ、もしや主。村正のことは・・」
「あぁ、さっきもそいつから聞いたんだが、ムサラマって何か有名な話なのか?」
っておい、膝から崩れ落ちるなよ。大体前から思ってるんだが
刀の常識がわしの常識とが一致するとは限らんだろうに。
しかし蜻蛉の様子からしてこいつそれなりに危ない刀か何かなんだろうか。
というかさっきからその問題のムナヤマが妙に嬉しそうなのはなんだ。
「今まで色々な主を見てきマシタが、これまた面白い主のようですネ」
「面白・・いや、確かに変わってはおられるが、主の作る煮物は絶品で
そうではなく!鍋の長持ちの秘訣や着物の傷まないたたみ方などをよくご存知で・・」
蜻蛉。無理にフォローしなくて結構です。
あ、そういや鍋で思い出したが、この前身内から送ってもらったアレ。
鍋にして食おうと思ってたんだが・・そういえば、似てるな。
「なぁ、今気が付いたんだがお前、コムラサキシメジに似てるよな」
「コム・・・・は?」
「あんまり有名じゃないが薄紫色のキノコでな。
ぱっと見た目は毒キノコでも実はちゃんと食べられるキノコだ。
お前、なんかそれっぽい」
「・・・・」
「そうだなぁ、じゃあそこからとってコムラにするか。元の名前ともあってるし丁度いい」
我ながら名案と思ってうなずいていると
なぜか今まで楽しそうだったコムラがしゅんとしてしまった。
ん?わし何か悪い事言ったか?
「?どうした。何かまずかったか?」
「・・いえ、違うノです。ただ、アナタにもっと早くお会いしていたら
もっと違う生き方ができていたかも知れナイと思いまして」
?なんだそりゃ。蜻蛉もちょっと同情したみたいに肩たたいてるし
もしかしてまたムラナタがどうのって話なのか?
・・だがな、その考え方はおかしいと思うぞ。
「何を言ってるコムラ。もっと早くもなにも、お前には今があるじゃないか」
「・・え?」
「これから先の未来のお前からすれば、今がその早くになるだろう。
昔のお前がどうあろうと、何がどうひっくり返ろうと、今のお前が最新のお前で
今のお前がこれから後のお前をずっと作ることになってる。そうだろ?」
「・・・」
「それにな、お前凄いとは思わんのか。お前は限られた期間内にしかない宝物庫の
30・いやもっとあったか?とにかくウン10ある宝箱の中から出たんだぞ?
もしかするとこうしてわしと話すのはもっと先になってたか
ヘタをすると永久に箱の中にいたかも知れん」
わしも最初はなんとなく集まる鍵で適当に宝箱を開けていたんだが
最初の宝物庫にある宝箱30個のうち、二番目の宝物庫の鍵が1つ入っているというので
いつ出るかなーという気分で地味に箱を開けていたら
丁度最後の30個目でやっと出たというクソ確率にぶち切れて
男士達のレベル上げがてら鍵の束を振り回し宝物庫を荒らしていたら
ぽこんとこいつが出てきた、というだけの話なのだが・・考えてみれば結構な確率だったろう。
「お前が元々どんな刀なのか、わしはまったく知らん。
なので今のお前はムタマラではなく何十もある宝箱の山の中につっこまれてた
ワケのわからん変な刀だ」
いやホントの話だひどくないぞ。大体あとで調べてわかったんだが
こいつに行き着くまでの宝箱の数、最悪180。宝箱一個開けるのにいる鍵は五つだから
必要鍵数最悪900だぞ馬鹿じゃないのか。
「とは言え、知ってる刀でもワケのわからん刀でも最初にすることは一緒だ。
しばらくは戦で折れん程度の鍛錬をさせる。が、そこから先はまったくの未定だ。
さぁてどうするコムラ。ここは箱の中ではない未来と可能性の山の中。
そこでお前はこれから何をする?何がしたい?」
その腹の立つ確率を思い出しつつヤケクソで言ったその言葉に
コムラはしばらく呆然とし、急に子供みたいな笑顔になって。
「では、脱いでもいいデスカ!!」
などと斜め上な事を嬉々として言い放ち、直後蜻蛉に見事な拳骨をもらった。
そしてそのまま『痛いでスねどうして殴るのデス』とかぶつくさ言いながら
蜻蛉に襟首掴まれてずりずり引きずられていく。
・・・え・・・えぇえ??何?なんでそこで脱ぐ話になるの??
んで、後から蜻蛉に聞いた話によるとコムラはそもそも妖刀として有名らしく
その名声の影響からかそういった性癖というかクセがあるらしい。
鞘から抜きっぱなしがいいのか、別の意味があるのかはわからんが
まぁ脱ぐくらいなら別に害もなしかまわんぞ、と言った時のコムラの喜びようといったら
ハグしてきて頬ずりしてきて蜻蛉にグーパンで殴り飛ばされて
フスマ2枚ぶちやぶって庭に落ちるくらいだった。・・いや最後のは蜻蛉が悪いよな。
で、ムラマサについて一通り調べてみたが、正直情報量が多すぎる上に
ぼんやりした確証のない話も多く、途中から調べるのをやめた。
ムラマサのちゃんとした正体がどんなものかは知らんが
今わしの前にある確固たる事実は、コムラが変なヤツだということ
・・ってこら、書いてるそばから脱ぎだすな。
いや別にダメじゃないが、わしの前でやると蜻蛉に怒られるだろうお前。
・・・なぁおい、一応確認するがお前刀だよな?
お縄の関係でハコにぶち込まれてたヘンタイさんとかじゃないよな?
おい含み笑いしてないで否定し・・あ、ほら蜻蛉が来たぞ。そろそろやめといた方が
ってコラ下はやめろ!さすがにかばいきれんぞ!?
お前もしかしなくても怒られるの込みで楽しんでやがるな!?
うわちょっと待てお前ら!室内でごつい肉弾戦はやめろ部屋が、フスマがー!
その8 なぎなたととばっちり
五月おわりかけ日
日々の時間経過で勝手にたまる資源(と言っていいもんかどうか)で
刀を作っていると今まで持っていなかった薙刀ができた。
と、書けば簡単だがこれがまた随分と時間がかかった。
薙刀は確率によって合戦場でも拾えるらしいのだが
これが出ない。ぜんっっぜん出ない。一応それなりに調べたが出やしない。
平行して作ってもみたが、作ってる最中になんか変わった刀が出た以外やっぱり出ない。
なのでもう薙刀なんて最初から存在しないんじゃないかと思っていたら、ようやくできた。
でその薙刀が岩ゆう・・じゃないのか。いわ、とおし?これでとおしなのか。
そしてたまたま出来た刀が鶴丸国永ことつるつる丸だ。
「というわけで薙刀が来たらまず真っ先に聞いておきたかったんだが
お前、わしの事嫌いなのか」
「おい待て、それは俺のせいではないだろう。恨むなら己の不運と確率を恨め」
「ねぇ待って!?俺に対するツッコミはなしなの!?なんでわざわざ増えてるの!?
あと書いてないけどつるぴか丸も候補に上げてたよな確か!?」
「え?だってお前驚きとか意外性が好きなんだろ?もっとひねらないとダメなのかこの上級者」
「好きだけど自分の名前をネタにするほど困ってないから!
あと上級者ってのもやめて誤解をまねく!」
「えーと、じゃあとにかくわしの事嫌いな岩とおし君はいわしで。
その合間ぬって出現したつるつる丸はつるぴかh・」
「言わせるかぁああ!!」
「だから嫌ってないと言っておろうが!一山いくらな呼び方をするな機嫌をなおせ!」
「・・あの、まんばさん。ぼくいわとおしとおはなししたかったんだけど」
「・・今は無理だ。首謀者の体力か誰かの気力がきれたら終わるだろうからそれまで待て」
「はぁい」
2時間後。
「え?もういわしでいいんですかいわとおし」
「・・煮てよし焼いてよし干しても便利の万能品
しかも鉄分カルシウムDHAなど栄養豊富で悪いとこなしというので」
「おしきられたんですか」
「何の販売員だ一体」
「あと奴の出したいわしの天ぷらがやたらに美味かったのもある」
「あぁ、それはしかたありませんね」
「いくら屈強な武人とて、胃袋を掴まれるとな・・」
「美味いには美味かった、が・・なぁ近侍よ。あの主、俺の事嫌いなのか?」
「嫌いならわざわざ作らないだろうし、強化用に隊を組ませたりしない。
・・気にするな。たまにすねるとあぁなるだけだ」
「じゃああのつる・みかくていなひとは、いわとおしのとばっちりですか?」
「・・・・・・・」
「おい黙るな怖いぞ。
いくら俺とて何もしていないうちから誰かを殺すような真似はしたくない」
とかいう話を後日まんばから聞いて、いわしとは話し合いをしてそれなりに和解した。
が、つるつる丸とはまだ呼称の件で現在もめている最中だ。
あいた、ちょ、痛いなんで怒る。大体これ以上どうひねれと・・ん?ひねらなくていい?
じゃあ鶴丸のままか、まるつるとかか?えぇ?鶴丸でいい?普通すぎんか?
4文字にまとめるのがイマドキ風だと思ってたが違うのか?
わしとしてはつるぴかはg、ぐえ、ちょ、首はよせ、そんなに嫌か?
うん、はげてないのは見てわかる。だが頭の赤いタンチョウヅルってのがいるだろ。
あれの頭の赤い部分、実は赤い色したハゲなんだぞ。見るか?図鑑。
とまぁ、しばらくなんのかんのした結果
元つるつる丸は普通に鶴丸でいいという形におさまった。
いやさすがにあそこまで食い下がられたら我を通すわけにもいかんし
あといわしといまけん(今剣)からもなぜか仲裁に入られたので仕方なく。
って、どうしたまんば妙な顔して。あとコムラ、笑いすぎ。
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