普段なら絶対に持ち運べないだろう連中をすいすいと持ち上げ
大きめの座布団に集めて起こさないように寝かしつつ
誰得なのかは知らんが結構おもしろかったなこの謎現象
などと思いながら最後にまんばを持ち上げると。
ぱち
「あ」
眠りが浅かったのか持ち上げた瞬間、目があいた。
と、思ったらぱっと手から離れてぽいんとかわいい音を立ててバウンド。
ころころーとボールのように転がっていき、きゅっと部屋のすみにおさまった。
「すまん、起こしたか?」
「・・いや、少し、驚いただけで・・」
妙に適応しているのは普段の照れ隠し(奇行含む)のおかげだろう。
実は結構今の状態、合ってるんじゃないかとか思いつつ
主は少し考えて、日なたの暖かそうな場所に行きあぐらをかき。
「なぁまんば」
「・・?」
「来ないか?ここ」
ぺんぺんとあぐらをかいた膝の上をたたいて見せた。
いやネコじゃないんだからそれはどうなのという所だが
今のまんばは状態のせいか中身がそちら寄りになっているのか
少し間をあけ、ばばばと周囲を念入りに確認してから
ころころと器用に転がって主の元までたどり着き
主の手によって当たり前のようにてんとあぐらの真ん中に収納された。
細かいツッコミが入らないのは、主の元に一番古くからいて
口が回らない分妙な行動に出がちなまんばの特権だ。
「うん。しかしこうして持ち運びができて
手に収まる大きさになるとか、何か急に刀らしくなったな」
「・・じゃあ今まで、刀じゃなかったのか俺は」
「そうだなぁ・・わしの知る刀っていうのは、自分で動いて歩いて戦って
怒ってすねて寂しがるなんて事はなかった」
「そ・・、う、だが・・」
すねる以後の部分が余計だ。・・・事実だが。
などと少しの肯定もまぜながら軽く憤慨していると
まんばはふいに、これから先に突き当たるだろう様々な現実に思い当たり
いつものマイナス思考を発動させた。
「・・だとしても、困るだろう。
こんな戦うどころか日々の移動すら困難な状態の
写し以前の、何のためにいるのかもわからない
かついつまでこのままかも不明な珍妙不可解ナゾ生物」
自分で言ってて凹んできたのか、小さい手がぎゅと袴を掴んでくる。
「いやむしろ・・俺にはこれが相応の状態なのか?
刀である事も本来の役目も忘れ、日々を安穏と送っていた俺めッ」
どよんという影が頭上にさしかかっていたまんばの横から
突然何かが追突してきてころんと横に倒される。
おいなんだ、一瞬変な声出たぞと思っていると
追突してきた何かにひょいと持ち上げられ、元の体勢にもどされる。
つまりそれ、間違いなく主の仕業だ。
「なぁまんばよ」
「??」
「今さっき気が付いたんだがな、今やれる事
というか今しかできない事が見つかったんだ」
え?そんな事あるか?しかも唐突にこのタイミングで?
と思った瞬間、主の指にづんとほっぺたを押され、再びころんと転がされた。
今は頭が大きく踏んばりがきかず、されたら転倒不可避だが
転がされる先は主の膝内だし、力加減はされているので痛さはそうない。
だがなぜ今そんな事を・・?いや、待て。
つついて転がるという事例に心当たりがあった身がまっすぐに戻され
再度ぷんと押されて転がされる。
「お前がたまにしてくる表現。
今なら誰にも害がないだろうから、やれるだけやっとこうかと思って」
それはまんばがたまにする感情表現の一種。
顔を隠したままする頭突きの事だろう。
害というのは以前『たまには口で表現しろ』と主がデコピンを返し
まんばが刀だから硬いのか、主が貧弱なのか不明だが
主の方が指を軽く痛め、へせべ(長谷部)を激怒させた話なのだが・・。
いや確かに、今ならどちらもどこも痛めないが、そんな場合なのか?
もっと他に優先すべき重要な事があ・・るのか?ないのか??
ぷに、ころ とむ、ぽて、 ぽに、ぺそ
「ちょ、ま、まっ・・わる、わるかっ・・」
言い返そうにも連続でぷにころされると考えがまとまらず
なけなしのプライドに霧吹きで水をかけられているような気分になってきて
もういっそ普通にぶん殴ってくれた方がいいんじゃないかと思い始めたころ
その強制おきあがりこぼしの刑は『よし、気がすんだ』という一言で唐突に終わり
ふらつくまんばの頭上で小さいヒヨコがぴよぴよと回転しだす。
それが見えているのかいないのかは不明だが
その頭をおかまいなしに撫でながら、主はこんな事を言い出した。
「なぁまんばよ。慣れて忘れてるかも知れんが
わし、おにわ(さにわ)としてはそこそこ無能な部類だぞ」
その途端、まんば頭上で回っていたヒヨコ達が突然まんばを一斉につつきだし
はっと目の焦点がもどった途端、ぽんと消えていなくなった。
それはおそらく『オラオラ大切な主が自分で自分のことけなしにかかってるぞ起きろ』
という事なのだろう。
「まず指示するばかりで戦わない。その指示も的確とは言えない。
上(時の政府)の言う事や催し物、新しい刀に興味ない。
強制戦闘(対大侵寇)で籠城を決めこんで、ほとぼり冷めるまで引きこもる。
早い話がお前達をひっぱり出せるって適正だけでおにわ(さにわ)になった
ぶっちゃけいてもいなくても変わらんようなやつだ」
つらつら上げられていく明るくも自虐的な事実に
まんばの眉間にきゅっとかわいめのしわが寄る。
確かにこの男、よく考えたらどうして審神者なんだと思うくらい
審神者らしくないところが多数あり、当人もそれを自覚しつつ
こうしてたまに明るく自分の事を卑下してくるのだが
それは時の政府から見ての審神者という肩書の話であって
まんば独自の視点からするとそれはまた別の話になるのだ。
「けどなぁ、そんなヘボの所に律儀にいてくれるやつを
役に立たないからってポイ捨てするほどの外道のつもりもない。
つかお前、わしの事そんな風に見てたのか?」
顔を上げないままぶんぶんと首をふるまんばに主は笑って続けた。
「なぁに、中身は変わってないんだからやれる事をやればいい。
ヘボはヘボなりに、小さいなら小さいなりのやり方ってもんがある。
戦えずとも豆のさや取りやすじ取りは出来るだろうし
草引きや苗の植え付けは腰を痛めないだろうし
普段やりにくい場所の掃除も気付きやすいしやりやすい」
刀も政府もまったく関係ねぇなというツッコミは
上記の事や家事類を率先してこなし、男士達とも一緒になってやっている
つまりは審神者の自覚やプライドがほぼない主には意味をなさない。
「あとこれはわしの個た、じゃなくて個人的な意見なんだが・・」
そして自称ヘボな主は衣擦れの音をさせて身をかがめ
少し声を落としてこんな事を言った。
「お前達をふんわりした上の都合で、よくわからん戦場に送り出して
する必要のないケガをするかどうか気をもまなくてすむのが
わし的には実に、とーーってもありがたい」
この主が自分の事をいつまでたっても審神者と言わず
のらりくらりと時の政府との関係をよけてすかしてかわすのは
こういった部分に重きを置いているからなのではないかと
男士達の間では噂になっていて。
「・・こんな主ですまんな。直す気まったくないが」
それが案外事実で暗黙の了解とされているのを
一番古くから主の元にいて、かつ一番よく実感しているまんばは
一瞬ぶるっと身震いし、何を思ったのか無言でその懐にもそもそもぐりこんだ。
「お、これがホントのフトコロ刀か」
そんな声の後にきた手の感触は、いつも通り雑なようで不思議と優しく
こぼれ落ちないように支えてくれている感触も布越しでも暖かかった。
それに加えて元が刀の性質なのか
主の間近にあり手を添えられている事の、なんと心地の良い事か。
色々考えることもあるだろうが、今はただ、この状態をもう少し
できればもうちょっと、贅沢を言うならあと半日くらい。
でも突然元に戻って懐を破きませんようにと多少の祈りをこめつつ
懐の内側の布地をぎゅっと握って、まんばは静かに目を閉じた。
それから後、何があったのかをまんばは知らない。
刀の性質だろうか、そうして持ち運ばれてうろうろされている間に
安堵感や居心地の良さに負け、いつの間にか眠っていたからだ。
それにどうやって気付いたのかは不明だが
主はいつの間にか眠っていた懐サイズの部下をそっと出し
先に寝かせておいた二人とまとめて寝かせてやった。
そうしてまとめてみて気が付いたが
元はそれなりの大きさで、戦う事が生業な青年たちも
こうして見ると実に平和で穏やかだとしんみり思う。
上(時の政府)の連中は時間ナントカ軍と戦えと言うが
なんでそれを刀そのものにやらせるんだ専門の奴雇えとか
人件費削減のつもりか。それとも付喪神だから人権ないのかとか
まずそれをド素人のわしに丸投げしてる時点で完全な失策だろとか等々
思うところは多々あれど、身を寄せ合って眠っている部下たちを眺めながら
自称ヘボ主は心の中でため息をついた。
・・もしかすると、お前たちがこんな風になったのは
わしがこんな事考えてるからかも知れんなぁ。
だとしたら、悪い事したのか、それとも・・。
などと思いつつ主はそっと腰を上げ
足音に気をつけながらかけるものを探しに歩き出す。
そして戻ってくるころになって三人同時に元のサイズに戻り
強制的に目が覚めるまであと少しばかり。
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