目の前に色とりどりのキノコがあります。
そこに大型犬くらいの大きさをしたアリのような虫が3匹きて
何かを吸い上げているのか、おしりの部分をぷうとふくらませ
どごん! がつん すぱん!
た直後、ハンマーでたたかれたりかかと落としで潰されたり
刀で斬られたりしてバラバラになりました。
なんでそんな外道な事をするのかというと
この虫がキノコや木の実を吸ったあとに倒すと
体内から特種な物がとれるからです。
「しかし少々面倒な方法ではあるな。
巣を探してそこから直接採取できれば楽だろうに」
「できれば楽だけど見つけたことないから仕方ないの。
ほらそこ、突っ立ってないで拾って拾って」
最初自分も半分そうなのに『この悪魔』とか思ったバージルでしたが
何回かやっているとなれてきてしまうので
彼はしばらく黙った後、無言で落としたブツの回収を始めました。
色々あってラギアクルスから逃げた後
その腹いせではありませんがドスジャギィを3人がかりでボコって剥ぎ
それから後は帰りの予定ルートだった森で普通に採取となりました。
ラギアクルスは一応水陸両用の生き物ですが
森まで入ってくる事はほぼないようなので
海に近づかなければ大丈夫だろうとのハンターさんの判断です。
海釣りができなくなったのはちょっと残念ですが
バージルとしてはもうあんな目にあうのはまっぴらごめんです。
「ごめんね。でもあれもそう長々とはいないだろうから
今度はいない時にゆっくり海釣りを楽しもうじゃないの」
「・・俺が今指摘したいのはそこではない」
森のすみで一緒になってキノコをぶちぶち採りなら
バージルは少々ふてくされたようにそう返します。
「じゃあ狩りにくらべるとやることが地味でつまんないとか?」
「違う」
「なら素潜り?モリ漁?ポイント知ってればずっと水中OKなとこ?」
「どれも違う。全て個人的に嫌いではないが海から離れろ」
彼は別にそういった事ができなくなったから機嫌が悪いのではありません。
ただやはり自分の力だけではまだ守りきれないものもあるのだと
さっき痛感したので少し気落ちしているだけなのです。
「!レイダ君!あそこに見えるはもしかしてあれか!」
でも説明してもこいつの脳ではわからんだろうなと
アオキノコにため息を落としていると
ちょっと向こうで虫あみを振り回していた父が
岩のトンネルの向こうにいた緑の鹿を指して叫びました。
「えーと、あれがどれ指してるのかわからないけど
あれは周りに比べて大きいから、小突いてきたあれだと思う」
「ぃよっしゃあああーーー!!」
見た目に合わない漢らしい雄叫びを上げながら
スパーダはダッシュでトンネルの向こうへ走っていき
ドゴンとかボガーンとか狩りをしてるようには聞こえない音を立て始め
バージルの気分はさらに沈下しました。
「いやぁ、元気なおとっつぁんね。
聞いた話だとすごい年寄りで、しかも死んでるんだって?」
その言葉にバージルの肩がピクリと反応しました。
あの父は例外中の例外ですが、彼のお母さんがそうだったように
死んだらそれっきりという方が圧倒的に多いのです。
思わず握りつぶしそうになったアオキノコから手を離し
バージルはキノコに目を向けたままこんな事を言い出しました。
「・・1つ・・お前に言っておきたい事がある」
「?」
「こちらの命の概念がどれほどのものか、俺にはわからん。
だが・・その・・いくらお前が狩りに慣れていて多少頑丈であっても
少なくとも人間という種族に分類される以上多少の知恵と技巧を使って
打開もしくは回避なりする最善策を行使する技量も権利も・・」
「?ごめん。なんか言いにくそうだし意味不明だから簡素にお願い」
考えるうち難しい言葉と誤魔化しがこんがらがり
何言ってるのかわからなくなってきたのでストップをかけると
バージルは別にそんなの照れる話でもないのですが
じゅうと赤くなって。
「し・・死ぬな!特に俺の前で!」
そんだけ言うのにかなりの気力を使ったらしく
彼はそのまま黙ってぶっちぶちとキノコを引きちぎり出しました。
「・・え、さっきの長話ってそんだけの事なの?」
「それ以外に何がある!」
「・・いや、それ以外って言われても・・」
普通そんなのわかりません。このハンターさんならなおさらです。
でもこのハンターさんの基準というのはよそとちょっと違うので
死ぬなと言われてもはいと言えるものではありません。
「でもこっちの場合ってそんな事考えてるヒマもないくらい
いきなりで突然で予想外な事が多いからね。
いつだったか鎧竜の熱線よけそこねて一発で丸焼きになった時もあるし
トトスとの距離感見誤って轢かれてアウトだった事もあるし
あ、一番ハラ立ったのはニゲレウス(リオレウス)が散々空を飛び回って
どこ行ったのかと思ってたらいつの間にか頭の上にいて
ざくっと一撃だったりとかそんな・」
と、そこで黙っていたバージルが急にハンターさんの手を掴むと
手のひらをこっちに向けさせてぺちと軽いパンチをしてきました。
「死ぬな、馬鹿、禁止、軽い、やめろ」
ぺちぺちと怖い顔して力無いパンチを当ててくる青い子を見ながら
あ、そうかこの子感情表現がド下手くそなんだなと
ハンターさんはしみじみ思いました。
でもこっちじゃ死ぬとかいう概念はあんまりなくて
体力尽きたらネコに回収されてキャンプに捨て戻されるだけなのですが
それを今説明するのもなんなので黙っておきました。
「・・でもそんなにふて腐ることでもないでしょ。
大体そういうのって基本自己責任なんだし」
「それでもだ!!このほしたて羽毛布団!」
「?相変わらず変わった怒り方ねぇ。
でもま、その気持ちはもらっておく。ありがとね」
そう言って笑った顔は土や葉っぱで汚れていて
お世辞にも綺麗とか可愛いとか言えるものではありませんでしたが
なんというかそれは見慣れた光景のはずなのに
そこだけが明るく輝いて見えてしまうのはなぜなのでしょう。
彼はしばらく考えてみましたが
どう考えてみても行き着く結論が一個しかありません。
あ、まずい。これはまずいと彼は思いました。
何がだと言われれば絶対口ごもるでしょうが
とにかくこのままではまずいと思いました。
大体さっきだって結構恥ずかしい事して恥ずかしい事を口走っていますし
このままではまずい気がします。色々と。
そう思った彼はぐばっと立ち上がってとっさにこう怒鳴っていました。
「な、殴れ!」
「は?」
「俺は今ある事情から非常に精神不安定な状況に追い込まれている!
それを打開する最良の方法は不本意だがそれしかない!」
「?でも悪いことしてないのにいきなり殴れって、今時少年マンガでも・・」
「いいから殴れ!一発でいい!」
などと勝手に覚悟を決めてバージルはぎゅっと目をつぶりました。
ちょっと危ない気もしますが目を開けていると反射的に避けてしまいそうです。
すると目の前でふうとため息をはいたような音がして
それはさくさくと少し離れたような足音をさせると
再びさくさくと土を踏む音をさせて戻ってきて
ガぶリ
「!!!」
大きいペンチで頬を思い切りつままれたような痛さに目を見開くと
まず見えたのが巨大な虫のドアップ顔。
それはさっきまでみんなでつぶしていたおっきい虫です。
たかが虫。されど犬くらいの大きい虫。
しかもアゴって生き物で1番力のある所じゃないでしょうか。
幸いそれはすぐ放してくれましたが
普通に殴るよりはるかにヒドイその行為に
ギザギザの残った両頬を押さえてバージルは涙目で抗議しました。
「鬼かお前は!?」
「だって普通に殴ったらこっちの手も心も痛いじゃない。
あとこっちの方が面白いし」
「隠しもせず言い切った!?」
最後の一言でいっこ前のセリフが台無しですが
とにかくその鬼みたいでやっぱり脳天気なその人は
足をわしゃわしゃさせてた虫を草むらへぽいとリリースしてから
手をヒラヒラさせてこう言いました。
「まーた何むずかしい事考えてるのか知らないけど
あんまり黙って考えごとしてると、頭にも身体にも毒だと思うよ。
たまには何も考えずにやりたい事とか自由にしてみたらどう?」
「・・・・・」
でもあらためてそう言われると、なし崩し的にここへ来たバージルには
やりたい事というのもあまりありません。
強いて言うならさっきみたいな強烈な邪魔がいない状態で
海釣りをしたり海中を散策したりしたいくらいですが
ぶっちゃけこの人と一緒なら別にどこにいようが何しようがかまわな
「いや違う!!多少あっているが俺が思うところはそこではなく!
それは単に興味と見聞と知的探求心の延長線上にある
ホットミルク的なパンケーキのふかふか毛布原理の先にあるがごとくの・・!」
などと一人で混乱してるバージルをよそにレイダは軽く首をかしげました。
「・・兄弟そろってると面白いのはもう知ってるけど
たまに単品でも面白いのが不思議ね」
「面白くなどあるものか何1つ!!」
「・・おや、邪魔になるかと思っていたがそうでもないのか」
そうこうしていると大きめのケルビをしばき終わったらしい父が
なぜか小さな封筒をもってひょっこり戻ってきました。
「あ、おとっつぁん・・って、ん?どうしたのそれ」
「なに、ちょっとした配達だよ。バージル、ダンテから手紙が来ている。
お前は忘れているだろうがおそらくあの格闘会がらみだろう」
その途端、ブツブツ言いながら丸くなって草をむしっていたバージルが
ぶんと瞬間移動で父の目の前まで来て
差し出されていたそれを取ってがさがさと開封しました。
それは以前ダンテから聞いた異種格闘大会みたいなものの出演依頼で
彼はあまり興味なかったのですが『出るの決まってるんだからとっとと戻れ』
と殴り書きで書かれたメモと一緒に、写真付きの出場リストがありました。
「やはり例の格闘大会か?」
「・・・そのようだな」
「ふむ、話には聞いていたがなかなか面白そうじゃないか。
それだけの数の異国の戦士や英雄、その他諸々と手を組み
拳や剣をまじえる機会というのもそうはないだろう」
しかしバージルは出場リストにざっと目を通して
1、2カ所で目を止めて、しばらく沈黙してからぽつりと言いました。
「・・俺の見間違いか印刷ミスでなければ
犬と弁護士が入っているように見えるのだが」
「?どれ」
ぺしと無造作に返されたそれに目を通すと
確かに犬と青いスーツを着た何の変哲もない青年がいます。
「・・確かに。しかしこんな所にノミネートされているのだから
何か特種な能力か卓越した潜在能力でもあるのだろう」
「・・・・・」
しかしだからと言って、こんな個性豊かを貫通したような連中と
なんで意味もなく殴り合わねばならんのだとバージルは思います。
それで新しい力とかが手に入ると言うならまだしも
お祭り騒ぎ的な格闘大会というのは現実的な彼にとって
意味のない殴り合いにしか思えません。
「・・参加する意味がない。見送る」
「?しかし参加はもう決められている決定事項だろう」
「行かなければいいだけの話だ。理由が必要なら用意する。
まず俺に利点がない。そして1人ならまだしも誰と組むかわからんチーム制。
ダンテからの催促というのも気にいらないし
そのダンテと組む可能性まであるというのが最も気にさわる」
「・・つまりダンテと関わるのが嫌なんだな?」
「奴が関わるとどう転んでも俺に利益が発生しないのは実証済みだ。
どうしてもというなら代理参加という形で権利をゆずる」
「・・や、どちらかというと父さんも嫌だ。
特に母さん似の人と当たるとか組むとかなるのは猛烈にイヤだ」
「?・・さっきからなにもめてるの?」
その時家族間の話かと思って黙っていたハンターさんが
何かの押し付け合いになってきたので口を挟んできました。
バージルが黙秘したので父がかわりに実はこれこれこういったメンバーで
かくかくしかじかなルールでこんな事があるんだと簡単に説明すると
ハンターさんはすごく意外そうな顔をしました。
「へー。人対人なんて無意味な話がホントにあるんだ」
「あらためてそう言われてしまうと確かに不条理に聞こえるが、あるのだよ。
こちらの価値観に慣れてしまったせいか
バージルは出場拒否のつもりのようだが」
「?出るのがイヤなの?」
「・・こちらの観点からすればわかるだろうが
勝ったところで何かを剥げるわけでもなく
武器その他素材を押収できるわけでもないからな」
「え、そうなの?」
「・・いやいやいや『そうなの?』と心底不思議そうに言われても
それが許可されてしまうと強盗合戦になってしまうのだが」
「あ、そうか」
まぁ確かにあんまり人間に見えないのや
どう見てもまともな人間じゃないのも入っていますが
でもそこは勝って何かをぶんどる場所ではないのです。
「だがバージル、物理的に得るものはなくとも
経験というものは何者にも代え難い財産だ。
ましてこんな機会をみすみす棒に振るというのも勿体ないだろう」
「・・・・・」
そう言われると確かにそんな気もしてきますが
それでもまだ踏ん切りがつかず、ちらとハンターさんの方を見ると
当人はさして気にした様子もなくあっさり言い放ちました。
「おとっつあんの言う事ももっともだし、行ってきたら?
べつに海も海釣りも今すぐに逃げやしないんだし」
・・まぁこの人がこんな性格なのはもう認識済みですが
こうもあっさり風味だとこちらの存在がそんなに軽いものなのかと
「でもってそれが嫌になったり疲れたりして
釣りがしたくなったらいつでもおいで。
いい釣り場確保して待ってるからさ」
思いたくもなりましたが撤回です。
この人はたぶんそういう事すら考えていないのでしょう。
だったらここで自分が行く行かないで悩むのは
時間と労力の無駄でしかありません。
「・・では行く。もちろんダンテのためではなく自分のためにだ」
「・・・・」
「・・その含み笑いは何だ」
「いや別に。大した事ではないさ」
「言いたいことがあるなら言えばいいだろう」
「はっはっは。刀に手をかけた状態で何をおっしゃるやら」
戦闘態勢バリバリな息子と
笑いながらも燃える篭手装備で受けて立つ気まんまんな父を見ながら
あぁそういや人対人の戦いって結構身近にあったなと
ハンターさんはのんびりと思い出しました。
「あ・・でもそれって今から船の手配して間に合うものなの?」
「いやそれに関しては心配ない。私が知る独自の交通手段を使おう。
ヘイタクシー!」
ブアォオオン ドン!ウギャギャーー!
父が力強く親指を天に向けた直後
なぜか森の中から黄色いタクシーが飛び出してきて
後輪を滑らせてド派手な停車をしてきました。
「わ、なにこの派手な荷車は!?」
「タクシーという自走機械だよ。もっともこれは少し特種な部類で
上手く活用しているのは私だけのようだがね」
「よっ!いつもご利用ありがとうだなミスター!お帰りかい!」
運転席にいたのはアロハシャツのかなりラフそうなにいちゃんですが
スパーダと面識があるという事はそれなりに特種な人か何かのようです。
まぁこんな所にタクシーを飛ばして来れる自体かなり特種ですが
父はそのラフな運転手に持っていたメンバー表を渡しました。
「急ぎですまないがここへ行ってもらいたい。可能かね」
「そうだなぁ、見た事ねぇけど4・5分くらいありゃなんとかなるだろ」
「しご・・」
「では頼もう。今回は2名で」
「オッケー!そんじゃ乗ってくれ!」
途中何か言いたげだったバージルそっちのけで交渉は終了し
スパーダはちゃんとドアを開けて後部座席に乗り込みました。
理屈とか原理はまったくわかりませんが
村に突然現れた父の経緯から察するに
これはどこにでもすぐに行ける特種なタクシーなようです。
といか最初からこういうのを知っていれば
船の上で何回もケロらないで済んだのですが
それはさておき目的地まで楽に行けるというのはとても大事です。
とくに変な仕掛けをといて順番にボスを殴って
延々歩かなくていいというのは大事です。
理不尽さ8と妥協2くらいの割合でをまぜくりながら
バージルはその異次元タクシーに乗り込もうとしましたが
その前にスパーダがハンターさんを指してこう助言してきました。
「少し待とう。話をしてきなさい」
「・・?しかし何を」
「しばらく会えなくなるのだし、別れ際の挨拶くらいはできるだろう」
「・・・・」
その顔はなんか妙なこと期待してる感ありありですが
確かにこのまま黙って去るのもなんなので
バージルはむすっとしたまま数歩歩いてハンターさんの前に立ちました。
「?どしたの。何か忘れ物?」
「・・何か話せと言われた」
「?何かって何を」
「知らん」
「おいおい」
「・・だが・・あえて1つ言い残すとするならば、先程言った事は守れ。
人のあずかり知らん所でいつの間にか死なれたのでは後味が悪い」
「うん、まぁ努力はする。でもそう言うそっちこそ
これが最後になりました、なーんてことにならないようにね」
するとバージルは軽く眉をはねあげてから
まっすぐ迷い無く言い切りました。
「それはない。俺にはまだやるべき事がある」
「お、自信たっぷり。ちなみにそれってこっちでやる事も入ってる?」
「・・・・。・・・一応」
急に歯切れが悪くなったのは言いにくい事があったからなのですが
そのあたりの事に関してハンターさんはドライです。
「そっか。じゃあケガするなとは言わないから
どうせだったら戦いなんかしばらく見るのも嫌でヘドが出る!
ってくらいに戦っておいで」
「・・明るいながらに辛辣な言葉だが・・一応受け取っておく」
そう言ってバージルは踵を返しタクシーに向かいます。
が、そこでハンターさんが思い出したようにこう言いました。
「あ、それともし次に会うときこっちの狩り場が変わってて
温泉とかあったりしたら一緒に入ろう」
ガッ どしゃ
その何気ない爆弾発言にバージルは足をひねって真横に倒れました。
実際そういう村があって全裸じゃない入浴が可能らしいので
ハンターさんとしてはなんとなく言っただけなのですが
そういう知識がない場合は普通の問題発言です。
口を押さえて必死に笑いをこらえてる父と
ミラーごしににやにやしてるドライバーさんをよそに
バージルはがばと起き上がり振り向きざま何か怒鳴りかけましたが
にこにこして手を振っているハンターさんを見ると
なぜかそんな気も失せました。
この場合何を言っても墓穴を掘りそうですし
こんな事くらいで一々目くじらを立てていてはこの人の相手はつとまりません。
なので立ち上がってついた土を黙ってはらい
片手を上げるだけのリアクションをしてからひらりとタクシーに乗り込みました。
隣にいた父がムカツクくらいにゆるんだ顔してましたがもう無視です。
それを確認したスパーダは苦笑しながら『出してくれ』と指示を出し
前でにやにやしていたドライバーさんが全力でアクセルを踏み
タイヤがものすごい音を立てました。
タクシーは森からいきなり飛び出てきた事からわかるように
あまり上品な運転はしないタイプのようです。
そうして思わずドアを掴んだバージルと軽く手をあげたスパーダをのせ
そのタクシーは道も何もない森の中へつっこんでいきました。
その時バージルは振り返るつもりなどなかったのですが
体勢をくずした拍子にうっかり後を見てしまい
少しだけしまったと思いました。
だって急速に遠ざかっていくレイダという名のハンターさんは
見えなくなるまでちゃんと手を振ってくれていて
それはばっちり脳内に焼き付いてしまったからです。
バージルはこれから戦いに行くにも女々しいので
忘れようと努力しましたがやっぱりやめました。
あの鉱石はもう手元にないのです。
思い出せる物が物理的になくなったのなら
無理に忘れる必要はないと思ったからです。
そう諦めをつけてシートに座り直すと
父がやけに緩んだ顔してこっちを見ていたので
バージルは嫌な予感をさせつつ一応聞きました。
「・・・何だ」
「1つ聞くが、先程のこちらでやりたい事というのは話せない事なのか?」
チッ、このデビルイヤーとか思いつつバージルはだんまりを決め込みました。
大体もっともっと釣りとか散策をして
いろんなものを釣って拾って知ったりして
できるならあのハンターさんを名前でよんでみたいとか
そんなの言えるわけがありません。
でもこの時彼のハンターさんへの呼びかけが
『貴様』から『お前』になっていてそれなりにランクアップしていたのを
誰も気付いていなかったそうです。
「ふむ・・まぁ言いたくないのならかわまない。
だがせっかく女の子の知り合いがいるんだから
多少の進展があれば報告してくれると父さんありがたいな」
だからなんでそっち方向に話を持って行きたがる。
絶対そんなんじゃない確実に断じて特に身内の前ではァァ!!
などと反論しようとした瞬間、タクシーがどぼーんと海に飛び込み
そのまま水中を走り出してしまったので
何も言えずじまいになりました。
さてこの先この人達がどんな道を歩み
また再会するかどうなるかなどなどは
実のところ運命の輪や運命の女神様にもわからないくらい
いい加減で掴めない、けど堅苦しくない話になっているとかなんとか。
アルカプ3の事を思い出してたらこのオチになったけど
これトロと休日のオチに似てて妙になごんだ。
もどる