ぱし!
「っと」
「わ!」
それぞれの腕に受けた感触の後、2人は腕を掴んだのと掴まれた状態で
それぞれ地面に足をつけ、向かい合う状態で立っていた。
どうやら別々に迷子になることはなかったようだが
ジュンヤは腕を掴まれたまま即座に憤慨する。
「こら!なんで拒否するんだよ!」
「なんでって・・・問答無用で隔離されようとしたら誰だって拒むだろ」
「でも一歩間違ってたら・・!」
「心配しなくても離れ離れになったからって見捨てたりしない。
こういった事には慣れてるんだ。そんな心細そうな目するなよ」
「う、うるさいな!大体ダンテさんが・・」
パッーパーーー!!
その時、2人とも言い合いで気がつかなかったのか
派手なクラクションと一緒に何かが猛スピードで突っ込んできた。
こういった時の反応は経験上ダンテの方が早い。
ダンテはものも言わずにジュンヤを抱えると
その黄色い物体の軌道から素早く飛び退いた。
キャキャキャキャーーーゴガン!
激しいスリップの音の最後に衝突音がした。
見れば突っ込んできたのは黄色のオープンカー。
フロントガラスにのっていたTAXIの標識と独特のカラーリングからして
それは外国のタクシーのようだ。
だがその黄色いタクシー、前にあった街灯へかなり派手な衝突をしたというのに
ガラス一枚凹み1つ見せず、ほとんど原型をとどめたままの状態で停止していた。
そしてそのタクシーから周囲を見てわかったのだが
そこは完全にボルテクスとは別の場所だった。
そこは青い空の広がるどこかの町中だ。
広い道路には何台もの車が走り、道路脇の歩道には何人もの人間が行き交いしていて
そのうち何人かはこちらを物珍しそうに見ており
ジュンヤは一瞬息をのんでダンテの腕を掴む。
しかし人がいるからと言ってもそこは東京ではなかった。
行き交う人々はみなジュンヤの見慣れない外国人ばかりで
街並みも行き交う車も、どれをとっても日本の物ではない。
「・・・カリフォルニアか?」
ダンテが該当しそうな地名をつぶやいたが
それを確認するより先にさっき突っ込んできたタクシーが
バックしてきて2人の前に止まった。
「ヘイヘイよう!危ねぇな!あんたら旅行者か何かかい?」
少し怯えているジュンヤをよそに
派手な激突をしたはずのタクシーのドライバーが陽気な声をかけてくる。
しかしタクシードライバーといってもその風貌はやたらとラフだ。
歳は20代くらい、髪は短くて緑色。
軽く引っかけただけのアロハシャツからは日焼けした胸がのぞいていて
タクシーのドライバーというよりもそこいらのサーファーかナンパ師のようだ。
「お、しかもそっちはジャパニーズじゃねぇか。
今そっちじゃそんなタトゥーがはやってんのか?」
しかしそのラフさ加減が幸いしたのか
その若い男はダンテやジュンヤを不信がる様子がまったくなく
笑いながらイカしてるなぁとまで言ってくる。
ダンテはちょっと毒気を抜かれたように肩をすくめた。
「・・いや、ちょっとコイツはワケありでな。それより車、悪いことしたな」
「なぁに、このくらいでオレの相棒は傷1つつきやしないさ」
そういって男は車のドアをガンと乱暴に叩いて見せる。
外車は大きくて丈夫だと聞くが、しかしあれだけまともな衝突をしたというのに
本当に凹み1つ傷1つ見当たらないのはちょっと不思議だ。
「それよりアンタら、乗っていくか?今ちょうど客がきれた所だったんだ」
「え?でも・・・」
ここがどこかもわからないのにタクシーを拾えないと
ジュンヤは断ろうとしたのだが、何を思ったのかダンテが横から割って入った。
「ボルテクスのイケブクロってのは分かるか?」
「ちょっ・・!」
こんなあきらかに外国の所でそんなものが分かるかとジュンヤは怒鳴ろうとするが・・・
「ボルクルスのイメフクロ?聞いた事ねぇな。まぁいいや、乗んな」
その男も男でトンチンカンな事を言って後のシートを指す始末。
「お代はいかほどだ?」
「うーん、行ったことねぇからわかんねぇが、旅行者からふんだくる趣味もねぇからな。
初乗りとチップ込みの言い値ってことでまけといてやるよ」
「サンキュー、助かる」
待て待て待てお前らーーー!!
あまりのいい加減さに口をぱくぱくさせるジュンヤなどお構いなしに
ダンテは勝手に交渉を成立させると、黄色いタクシーの後部座席に
ジュンヤをまるで荷物のごとくぺいと放り込み
自分もドアを開けずそのまま飛び乗った。
「ダンテさ・・!」
「いいから黙ってな」
怒鳴ろうとした口を人差し指一本押しつけてふさぎ
ダンテはどこか確信めいた笑みを浮かべる。
何の根拠もないがこのタクシーとこのラフな男、何かやってくれそうだと
色々なトラブルに遭遇してきた便利屋のカンが働いたのだ。
「そんじゃ初乗り2名様ご案内だ!
これよりコイツはボルクスルのイメクスロに向かって走行するぜ!
お送りするのはクレイジードライバーアクセルだ!!」
ズギャギャギャーーー!!
まったくあってない地名やドライバーの前についた物騒な言葉を聞く間もなく
黄色いタクシーは派手な音を立てて走り出した。
いや、それは走り出したと言うよりロケットダッシュだ。
ミサイルが発進したかのような勢いにジュンヤが咄嗟に横にあったドアにしがみつき
ダンテは何となく予想していたのかシートにふんぞり返って体重を固定する。
「イェッハーーー!!」
そんな事はおかまいなしにアクセルといった男は
超がつくほどご機嫌状態で車を走らせハンドルを切った。
ただし向かった先はどう見ても対向車しかいない反対車線。
「ちょっ!!そこ反・・!」
パパーー!ブッブーー!!
当たり前だが盛大なクラクションの出迎えを受けるものの
それでも黄色いタクシーは止まろうとしない。
だがこんな事はいつもやってる事なのか
黄色いタクシーは盛大なクラクションをものともせず
向かい側から次々と突っ込んでくる車の間を
当たる当たらないギリギリなタイミングで次から次へとかわしていく。
「ヒュウ!腕がいいな!」
「こんなもんで腕を見られちゃ困るな!こんなのはまだ序の口だぜ!」
きわどいハンドル操作で大型バスをかわし
かわした先にいたワゴン車の鼻先をかすめながら
アクセルという若い男とダンテはのんきな会話をする。
一方ジュンヤはなんで反対車線を走るんだとか
クレイジードライバーってなんだとか聞こうとしたのだが
すぽーんと飛ぶように中央分離帯を飛び越え、公園らしき所へ平気で突っ込み
道路ではない芝生の上、悲鳴を上げて逃げる人を横目に突っ走るという
殺人寸前恐怖タクシーにそれどころではなくなっていた。
代わりに解説するとクレイジードライバーというのは
この町にいるちょっと特殊なタクシードライバーの通り名のようなもので
ここでは結構有名な人間達のことを指している。
なぜクレイジーなのかと言うと見ての通り
常識ではありえない無茶無謀な運転をし
目的地までの走行路を車道に限定せず走れるところは全部走り
車が走れる所なら反対車線だろうが線路だろうが
どこだって走って走って走りまくる、イカれた運転をする事からついた名だ。
そしてそのイカれた運転をしながらも
かなりの速さで目的地まで行くことのできるこのタクシー
実はこの町ではそれなりにスリルがあり
なおかつ目的地までかなり早く着けるとあって結構人気がある。
それが2人の乗ってしまったこのクレイジータクシー
というわけなのだが・・・。
ガリガリガリ!ドカドカドカドカ!!
「
ーー!!」
車体の下から火花を散らして歩道に乗り上げ
道沿いのカフェにあったイスやテーブルなどをはね飛ばし
人がいようがいまいがお構いなしに走りまくるタクシーは
奥ゆかしい日本人にはたまったもんじゃない。
あれだけいる人間を1人も撥ねないのが奇跡なほどの運転に
ジュンヤはもう声もツッコミも入れられずドアにしがみつきっぱなしだ。
いや、人を1人として巻き込まないのは
実はこの世界の住人がこんなタクシーに慣れていて
回避速度が尋常ではないだけなのかもしれない。
しかもこの車、そんな無茶をするくせにシートベルトも安全メットも存在せず
オープンカーなのではね飛ばされたテーブルなどがバンバン頭上を飛んでいく。
「・・こいつは凄いな!
オレもさすがにここまで強引なタクシーに乗ったのは初めてだ」
カフェチェアが頭の上スレスレをかすめていく中で
ダンテが楽しそうに笑った。
「お気に召したかいミスター?」
「悪くないな!」
「ちょっと!前見てまえーー!!」
などと思いっきりよそ見しなおかつおしゃべりしながらでも
100キロオーバーで走るイカれたタクシーは
今度は停車していた車両運搬車の斜めになっていたレールの上に乗り上げ
スタント以上の大ジャンプをかます。
黄色い車体が空を飛び、ついでに軽いジュンヤも一緒に宙を飛んだが
そこはダンテが腕をひっつかんで捕獲した。
どがちゃーん!!
鳥のように空を飛び、何台かの車の頭上を通過した黄色の車体は
やがて重力にしたがい大型バスのど真ん前に派手な音を立てて着地し
間髪入れず突っ込んできた高級外車ををかわし
ドリフトで交通量の多いT字路を左折する。
「ショートカットもお手の物か!」
「速く楽しくカッコよく!それがオレのモットーだぜ!!」
陽気なのかイカれてるのか、2人のテンションは上がりっぱなしだ。
「ところでそっちのお連れさんは大丈夫かい?」
「ちょっとシャイだが頑丈だからな。気にしなくていいぜ」
などと言いつつダンテはひっくり返ってシートから突き出ていた足を
無造作に掴み引っぱり上げて元に戻した。
「OK、そんじゃしっかり掴まってな!!」
ギャギャーー!ブォン・・
そしてようやく打った鼻を押さえつつ起き上がったジュンヤが見たのは
太陽の光を受けてキラキラ輝く青い海
・・・の海面だった。
「
ーー!?!」
どばぼーん!!
叫ぶ直前、素早く思い直して口を閉じていなければ
しこたま海水を飲んでいただろう。
だが爆走タクシーは海中に突っ込んでもオープンカーでもお構いなしだ。
どういったしくみなのかそれは地上と変わらないスピードで海中を走り
しばらくしてから砂浜を駆け上がって出し抜けに地上へざばーんと跳ね上がると
海水をしたたらせたまま、またしても対向車線へ飛び出し
路面電車の走る急な下り坂を、ブレーキをまったく踏まずに駆け下りる。
さっき水中を通ったというのにその強烈な向かい風とスピードで
濡れた身体を拭く手間がかからなかった。
「ハッハ!なかなか豪快なランドリーコースだ!!」
「ちょっと塩っぽさは残るだろうがそれはこれからぶっ飛ばすぜ!!」
そしてテンションが上がりきってすっかりご機嫌な2人と
すっかり静かになってしまった1人を乗せたタクシーは
坂道をノンブレーキで走り下り、中間地になっている平地で車体をバウンドさせ
スキー競技のような大ジャンプ。
それは何台もの車と路面電車を飛び越してどがんと着地し
やっぱりブレーキをまったくかけずにさらに走った。
「グレイト!!」
「あんなもんいつものお決まりコースだ!まだまだ行くぜぇ!!」
ギャギャーー!ドガン!ゴバン!
ガラガラガラ!ボゲーン!
そしてさらに何かの露店や道ばたに積んであった木箱やベンチ
さらには電話ボックスなどを元気にはね飛ばしつつ
それでも車体はまったく無傷という異常なタフさを見せながら
一方通行の道路を逆走し、真新しいハイウェイの入り口に入った。
「おっと、そろそろ終点か?そんじゃ最後の仕上げだ
しっかり掴まってろよお2人さん!!」
「いつでもいいぜ!!」
何を根拠に終点だと言っているのかわからないが
ダンテは自分の予感が外れていなかったのを感じつつ
片手でジュンヤを片手で前の座席をしっかり掴み身体を固定させる。
そう、真新しいハイウェイには車が一台も走っていなかった。
つまりそれはどういう事かというと・・・
そして見えてきた先の道はまだできておらず
途中ですっぱり途切れていた。
だがその途切れた道の少し先の空中には
何かどこかで見たことのある赤い空間が渦を巻いている。
「そんじゃ行くぜ!レディー
ゴーーー!!」
いっぱいまで踏まれたペダルにスピードメーターが限界をさし
車体が乗用車とは思えないような音を立てた。
ギャギャーー ブァオォン・・・
地面から離れたタイヤから音が消え
かわりに風を切る音と浮遊感がやって来る。
そして黄色いタクシーは赤い空間に突っ込み
その途端、前には待っていたかのような穴が開いて
どこかで見たことのある大きなビルと砂の大地とすすけた高速道路を映し出した。
「ジャックポット!!」
ダンテの声と同時に周囲が赤く染まり
青かった空が砂を含んだ見慣れた色になっていく。
ドガショーーン!!ガリガリガガーー!!
そして車の立てる音ではない音と火花を散らしながら
イカれたタクシーはそれでもまったくの無傷のまま
砂だらけのボルテクスの巨大なビルの見える高速道路へと着地した。
「おいおい、いいのか?
初乗りとチップをたしても多すぎるじゃないかこりゃ?」
「かまわねぇよ。どうせここじゃ使えない金だ。遠慮なくもらってくれ」
「そっか?悪いなぁ」
黄色に栄える緑色の頭を照れたようにかきながら
アクセルというよく考えたら物騒な名前の青年は
受け取った紙幣をポケットへ無造作に突っ込む。。
ダンテが渡したのは持っていたドル通貨全部だ。
それはまるで宵越しの金を持たない江戸っ子のようだが
確かにここではドルは使えないのでそれもまぁアリかもしれない。
「とにかく久々にスカッとしたからな。
またどこかで会う事があるならぜひ頼む」
「ハッハ!そいつは光栄だな。
ま、オレらはどっちかってと趣味でやってて他にも同業者が何人かいるから
他の連中に会ったらそいつらにも声かけてやってくれよ」
「あぁ、そうさせてもらうぜ」
どちらかというと自分で運転する方が多いダンテだったが
さすがに若い時にやんちゃをしていただけあってか
この無茶苦茶でそれでいてなぜか正確な運転の仕方は気に入ったらしい。
「・・ところでそっちのボーイは大丈夫か?
途中からやけに静かになってたけどよ」
そう言ってアクセルが指したのは
ダンテの小脇で荷物みたいにぐんにゃりしてるジュンヤ。
どうやら海に飛び込んだ後くらいでのびてしまったらしい。
「あぁ、そのうち気がつくさ。こう見えてコイツはタフだからな」
などとあってはいるが薄情な事を言いつつ
ダンテはその頭をペンと叩いて見せた。
アクセルはちょっと怪訝そうな顔をするが
細かいこと気にしていてはこの商売は成り立たない。
「ふーん。ま、いいや。そんじゃ!いいご旅行を!
」
キュキューー!
ブァアーーー・・・
そしてイカれたタクシーはもう走る車もない高速道路をかっ飛ばし
ついさっき出てきた赤い渦の中にためらいなく突っ込むと
その渦と共にふっと虚空へかき消えた。
道路交通法完全無視な運転方法はともかく
客を目的地に送り届けることに関しては一級品なタクシーだ。
ダンテのカンに引っかかったのがその結果オーライの部分だったのか
あのイカれた運転方法だったのかは分からないが。
「・・・さてと」
それを見届けてからダンテは小脇にジュンヤを抱えたまま
無人の高速道路をぶらぶらと歩き出す。
「また殺風景な所に戻ってきちまったが・・
それでもオマエの近くにいると退屈はしないからな」
ぺしぺしとその頭を叩きながらダンテは1人笑う。
「頼むぜ相棒」
静かになってしまった相棒は何も言わなかったが
しかしそれでも頼まなくてもこの少年は本人の意志に関係なく
これまでもこれからもダンテを退屈させる事はなだろう。
荷物のように小脇に依頼主を抱えたまま
鼻歌を歌いそうなほど上機嫌に歩き出したダンテに
ひゅるりらーと一陣の風が吹きつける。
それからジュンヤは少しして目を覚まし
あんなものに乗せた事に対して当然怒ろうとしたが
それと同時に戻って来れたことにホッともして
怒るか喜ぶかどっちつかずな複雑な顔をしダンテに大笑いされる事になるのだが・・
元はと言えば誰のせいだとキレられ
クリティカル付きでぶん殴られるまであと3分と少し。
というわけでかつてのクレイジーつながりでクレイジータクシーに乗せてみた。
しかしこのゲーム、私があまりカーレースをせずあまりできなかったんで
この話は弟のプレイを元にして勝手に書かれてます。
げえむにもありますが色々無茶なので見てる分にはすげえ楽しいゲームです。
うん、見てる分にはね。
だってあんな猛スピードの車扱いきれるかっての。
ゲームでのドライブテクニックに自信があって
予測できないひでぇコースを走ってみたい方はぜひ。
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