ちょっとした暇つぶしのつもりが思いがけずの長丁場になり
巨大ヤドカリにつっつかれ巨大怪獣にちょっと轢かれ
おまけに最後異国のお酒に潰されたダンテは
まだフラフラしながらも何とかボルテクスまで帰って来ることが出来ました。
「・・うっプ・・さすがにまだキツイ・・。
あのヤロウが余計な意地はるもんだから・・余計な被害かぶったな・・」
じゃあやめときゃいいだろうというのが真っ当な話ですが
この兄弟間には言い出してやっぱりやめるという選択肢はありません。
ともかくおみやげに持たされたお守り(守りの爪)を片手に若干の千鳥足で歩いていると
砂の向こうから見慣れた布きれ、つまりマカミが飛んでくるのが見えました。
そしてそれはこちらを確認するなりかなり慌てた様子で飛んできます。
「オイオイオイオーイ!テメェ今マデドコ行ッテタンダヨ!!」
「あぁ悪い。アイツがちょっと出張してる間に色々やってたんだ」
「色々ッテ・・!ソノ前ニナンカ酒クセェシオマケニナンカ轢カレタヨウナ跡ガ・・
ッテイヤ今ソレドコロジャネェ!事情ハトモカク帰ッテキタンナラ今スグドッカニ隠レトケ!」
「?何でだ?アイツが帰ってるなら報告しないとマズイだろ」
「イヤダカラモウ報告スルトカシナイトカッテれべる・・!」
ズびーーーーーーー!!!!
しかし何か言いかけたマカミの言葉は
強烈な閃光にかき消され全部は聞こえませんでした。
横から見るとレーザー光線のようなそれはまったく躊躇なしにダンテを焼き
数メートル先まで吹っ飛ばします。
そしてその光の発射された方向からはさくさくと砂を踏みしめ
目に見えるくらいの怒気を立ちのぼらせたタトゥーの少年が歩いてきました。
「アワワワ・・!ダカラ言ワンコッチャネェ!
モウふぉろーデキル範囲コエテッカラナ!後ハオメェデ何トカ・・ギャワ!?」
しかし慌てて逃げ去ろうとしたマカミのしっぽは素早くふん捕まえられます。
見るとさっき吹っ飛ばされたはずのダンテがいて
ちょっとコゲながらも不敵な笑みを浮かべているではありませんか。
「・・悪いなマフラー。今オーブの持ち合わせがないから協力してもらうぞ」
「エェエ!?オマ・・!何デ・・!?」
普通なら至高の魔弾を最大出力でくらった場合
いかにダンテと言えどもしばらく立てないはずなのですが
直撃したにもかかわらずディアラマを要求してくる元気があるなんて
まさかちょっと見ない間に再生能力でもできたのかとマカミは思いました。
でもそれとはちょっと事情が違うのですがともかく慌ててマカミがディアラマをかけた直後
こっちに歩いてきていた少年が手の届くギリギリの範囲で立ち止まり
ぐっと息を吸い込むと。
「こんの・・!どこ行ってたんだ!!バカ!!!」
声だけで物が壊れそうなくらいの勢いで怒鳴りつけてきて
掴んでいたマカミがよろろ〜と後ろにたなびきました。
スキル攻撃が飛んでこなかったのはさすがに連続で攻撃すると死ぬと思った
とっさの優しさでしょう。
「人が出張してる間に勝手にいなくなって!
かと思ったら何事もなかったみたいにふらっと帰ってくるし!
あと何だよその何かに轢かれたみたいな有様は!
連続戦闘したって砂1つつかない奴が一体どこで何をしたらそんな事になるんだよ!」
攻撃してこないかわりラオシャンロンに轢かれた部分をビシビシ指してくる少年に
ダンテはしばらくして。
「・・・まさかオマエ・・・心配してたのか?」
まさかと思いつつそう聞いてみましたが、返された答えはパンチでした。
なんとか受け止めましたがつまりはその通りなのです。
「・・そうなんだな?」
「うるさい!!心配しないわけないだろ!
いっつも人の前ウロウロしてろくな事しないのが
いきなりいなくなったら誰だって気になるし心配するに決まってるだろ!
ジャマなのかそうじゃないのかハッキリしろよバカダンテ!!」
そう怒鳴って結構な力でぼこぼこ殴りかかってくるのですがその分ダンテは嬉しくなりました。
だってここまで怒るのは本当に心配してくれていた事に他なりません。
そしてその時思い出したのはお守りをくれた時のレイダの顔でした。
『それにちょっといりそうな気がしてさ』
・・まさかとは思いますがあの脳天気なハンターさん
こうなる事を読んでいたのでしょうか。
あまりそうは見えませんでしたが女のカンというのは恐ろしいなとダンテは思いました。
しかしいくら第一撃を耐えきったとしても
悪魔を素手で倒す少年の力はハンパじゃないので
ダンテはデタラメにですが殴りかかってくる手を両方掴み。
「・・・悪かったな」
と彼にしては珍しく素直に謝りました。
本当はもう少し色々からかってみたかったのですが
それで何度も痛い目を見て逆効果になったためしもあるのでぐっと我慢です。
「オレも最初はほんのちょっとのつもりだったんだ。
だがあれよと言う間に大掛かりな化け物とやり合うハメになってな。
あ、言っておくがオレが好きで首をつっこんだワケじゃない。
覚えてないか?自然の中から生肉だの装備素材だのを調達してたあのハンターさんだ」
そう言って持っていたお守りを見せると
そこでようやく事情が飲み込めたのか、こちらを睨んでいた目が丸くなり
ぐぎぎと殴りかかってこようとしていた力が弱まります。
「それに他の仲魔連中ならともかくとして
オマエがオレの事でそんなに心配するなんて思わなくてな」
しかしそう言った直後、弱まったと思っていた拳に急に力がこもり
掴んだままの手がどんと胸にぶつかってきました。
?何か怒らせるような事言ったか?と思って後ろにいたマカミに目をやると
なぜか呆れたように『ったくこのドジ』と言わんばかりなため息をつかれます。
何が何だかわからず再び少年の方を見ると
その目はダンテではなく地面の方を見ていて
ひどく悔しそうな声でこんな事を言いました。
「・・・じゃあアンタは・・!俺のことそんなに心配かけるほどのヤツじゃなくて
ゴタゴタしてる間にころっと忘れちゃうくらいにしか・・思ってないのかよ!」
その言葉にダンテの心の中は一瞬白紙になり
さっきまで嬉しかっただけの気持ちが悪かった気持ちと半々になりました。
言われてみればこの少年の心というものは
この砂の世界にたった1つだけ残ってしまった貴重なもので
強くて固くて真っ直ぐなように見えても
実はかなりもろくて繊細で時々頼りなげなもので
どうせ平気だろうと勝手にたかをくくれるものではないのです。
ダンテはお守りごと掴んでいた手を放し
まだ下を向いていた頭を少しだけ撫で、もう一度、今度は慎重にあやまりました。
「・・・悪い。いや、この場合・・そんなつもりじゃなかったって言う方がいいか。
言い訳にしか聞こえないだろうが、そこそこ厄介なのとやりあっててな。
忘れたつもりはなかったし、時々思い出しもしてたんだが・・・な」
それに相手はビル並の巨大生物で
折り合いの悪い兄と共闘作戦だったので仕方ないと言えばそれまでですが
ダンテはそのあたりの言い訳はせず、自分の胸をとんと叩いてさらにこうも続けます。
「気がすまないならもう一発やれ。
あの姐さんがそれ用にいい物を渡してくれてるから
今なら思いっきりやっても死にやしない」
とそれなりに覚悟を決めました。
しかし少年はあまり考えず首をしっかりと横に振ります。
「・・もういい。なんか今のダンテさんには何やっても無駄そうだ」
それは攻撃としてもそうですが
何を言っても上手く丸め込まれてしまいそうだった事も含めての台詞でした。
するとダンテは小さく笑い、ふて腐れたようにそっぽを向いていた少年の頭を
いつもよりちょっと緩めに撫でました。
「・・オマエ、相変わらずヘンな事に遠慮するヤツだな」
「ダンテさんこそちょっとは・・・!あぁもういいよ!
心配しすぎた俺も悪かったんだよ!1人であせって怒って損した!」
「いやいや、オレにとっちゃ大いに嬉しい誤算で!?」
ごんと落ちてきた拳骨はリーチが足りずおでこの上を直撃しましたが
お守りのおかげでやっぱりそれほど痛くなくてダンテはご機嫌のままでした。
「とにかく帰るぞ!みんな渋々ボルテクス中探してくれてるんだからな!」
「ハイハイ、そりゃご苦労な事だ」
「他人事みたいに言うな!誰のせいだと思ってんだ!」
ウロウロする子供を捕獲せんばかりに手を掴まれ
大きな大人は一回り小さな子供にぐいぐいと引っぱられて行きます。
しかしダンテは気にしませんでした。
担いで投げられたり轢かれたりしたので慣れたというのではありませんが
やっぱりこういうのが今の自分に一番しっくりくるように思ったからです。
そしてダンテはふと思い立ち、掴まれていた手を軽くひねって掴み返すと。
「なぁ相棒」
「?」
何だよとばかりに振り返った少年に、隠し立てのない本心からの笑みを向けて
ちょっと前に見たハンターさんと同じ動作で片目をつぶって言いました。
「愛してるぜ」
ぼひーーーーーーーーーー!!!!!
次の瞬間、ダンテの顔面を最初のよりも強力な閃光が通過し
その光はボルテクスのはじの地面にまで届き派手な砂煙を上げました。
それは超至近距離だったので今度はお守りの効果でもフォローしきれず
文句なしにネバーギブアップが発動しました。
が、当のダンテはこりもせずその時少年の表情が見えなかったのが残念だったな
とか思ったそうです。
「・・ナァ・・モウコノママ置イテ帰ッテイイカ?」
残されたマカミがウンザリしたようにそう言って
同じく残され倒れたまま放置されていたダンテをのぞき込みますが
そのダンテの顔はコゲながらも半笑いで、おまけに髪が全部後に流れているので
鏡を見れば顔だけコゲた兄に見えて爆笑していたでしょう。
「・・いや・・帰る前に治していってくれ。走るくらいの体力は欲しい」
「デ、オメェ走ッテドウスルツモリダ?」
「決まってる。しばらくはアイツのそばにびったり張り付いて
離れろって言われても離れてやらないんだよ」
「・・・アァハイソウデスカ」
もうどうにでもしやがれとばかりにマカミはディアラマをかけますが
コゲて兄似になったダンテはそれでもまだ嬉しそうに笑うばかりでしたとさ。
こんな感じでも永遠に仲のいい2人であればいいなぁと思いつつ・・・赤面しつつ。
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