がん!!


「う”ッ!?」

しかし出口と思われた光に飛び込んだ瞬間
バージルの頭は全力で何かにブチ当たった。

その衝撃と一緒に足元が急に固くなり
赤黒かった周囲も元の見慣れた風景に戻る。

そこは家の玄関、つまり元の場所だ。

じんじん痛む頭を押さえ、わけがわからず視線を移動させまくっていると
前を見た際に黒のローブに身を包み、うずくまっている何者かが目に入った。
さっきの衝撃はこれにぶつかった時のものらしい。

さっと緊張して閻魔刀を向けると、それはゆっくりと起き上がった。
黒いフード奥の顔には肉がなく、白く不気味な頭蓋骨がのぞいている
それは一見して死神か、かつてよく見た悪魔の一種に見えたが
手にしていたのは鎌ではなく、質素ながら強力な魔力を放つ天秤だ。

バージルは何者かと聞こうとした。
しかし顎をいたたとばかりに押さえているその悪魔の気配はどこか覚えがある。

「・・・バージルさん、放して・・痛いから」

緊張と困惑の間にいたバージルを呼び戻したのは
腕の中にいたジュンヤの声だ。

そういえば力一杯抱きしめていたのを思い出し慌てて腕を放すと
さっきまで青かった模様が血のように赤くなり
脈動するかのように色合いを変えていてバージルはぎょっとした。

「母さ・・ッ!!」
「・・・・平気、ちょっと・・・無茶しただけ・・・」

と言いつつもゼロスビートを連発したジュンヤはかなりつらそうだ。
だがジュンヤが自ら癒しの魔法を使う前に
目の前にいた黒いローブの悪魔が天秤をかかげ何事かを小さくつぶやく。

すると周囲に光がさし、それはバージルの手足にあった傷を癒し
なおかつジュンヤの身体にあった赤い色合いを元の青に戻した。

床に転がっていたジュンヤがむくりと起きあがり、ローブの悪魔をじろりと睨む。

「・・・えーっと、ブラックがここにいるって事は・・・
 ・・・やっぱりアレの仕業・・・なのかな・・」

ブラックというのは確かいつも台所に立っていた初老の男の名だ。
ということは、この黒い死神のような悪魔があれの本体らしい。

しかしアレというのは何のことだろう。
バージルが不思議に思っていると・・・

きゅぼ

さっき足元が消えた時の音と一緒に
ブラックライダーの横が先程の穴によく似た色と形で丸く開く。

そしてそこから何かガーガー鳴いている大きな獣を尻にした顔に肉のない女が
獣の大きさの関係からか、全体の半分だけぬうっと出てきた。

ホォーッホッホッホ!やってくれたのうおぬしら。
 なかなか楽しい遊戯ではあったが、わらわの下僕どもがボロボロじゃ!」
笑い事じゃない!!何考えてんだハーロット!!

頭から湯気を出しそうな勢いで言われた名前も聞いたことがある。
それは夜になると姿を消す、7匹の獣をつれた妙な女の名だ。

「なに、ちょっとした戯れじゃ。
 そちらの半魔が主の力について何やら知りたそうにしておったゆえ
 ちょっとした演技を催してやったまで」

ジュンヤは一瞬ぶんと音がしそうなほど勢いよくバージルの方を振り向いたが
びくっとしたバージルをよそにジュンヤは再度髑髏の女帝を振り返り
ふざけんなとばかりに再び怒鳴り出した。

だからってここまですることないじゃないか!!
 俺もバージルさんもそっちもボロボロだろ!!」
「ん?わらわは別に何事もないが?」
「ハーロットぉ!!」

ジュンヤは拳を振り上げたが、それは振り下ろされると同時に光り
穴の中でボロボロになり、ガーガー鳴いていた7つ首の獣の傷を一瞬で癒した。

怒ると同時に癒しの魔法とはなんとも器用な人修羅だ。

「ホォーッホッホ!まぁよいではないか!
 雨降って地固まるとも言うようではないか」
「そんな知ったかじりの言葉でごまか・・・って、あ、こら!」

しかし元からお説教に興味のない魔人はケラケラ笑いながら穴の中へ帰っていく。
飲み込まれるまぎわに獣の首のいくつかが、こちらに向かってガァと吠えたのは
感謝のつもりなのか謝罪のつもりなのか。

そうして悪戯好きの魔人を飲み込み、ぶしゅんと音を立てて穴がなくなると
成り行きをいつも通り沈黙して見守っていたブラックライダーが
すうと空気の抜けるような音を立て、元の初老の男の姿にもどった。

「・・・ブラック・・・・」
「・・・・・・」

寡黙な魔人は何も言わなかったが、おそらく・・

まぁ確かにやり方には問題有りかもしれないが
アレもアレなりに新入りに気を使ってやったんだろう。
それにこれも一種彼女なりの愛情表現なんだろうから、あまり怒ってくれるな
・・つーか怒るだけ無駄だろう。

・・・とでも言いたいのだろう。

ブラックライダーはまるではげますように
その場にへたりこんでいたジュンヤの肩をぽんと叩くと
手にしていた天秤を鍵に変化させて懐に入れ
まだ痛むのか顎をさすりながら、音もなく台所の方向へ歩いていく。

様子からしておそらく暖かいコーヒーでもいれてくれるつもりだ。

そうして結局
その場には怒りのやり場のなくなった人修羅ジュンヤと
ちょうど魔力が底をつき魔人化の切れたバージルが取り残された。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


気まずい。


ジュンヤは頭を掻きながら天井を見てみたり
バージルは閻魔刀のヒモを意味もなくいじってみたり
背中合わせでしばらく変な時間をもてあます。

しかしさすがにこれではマズイと思ったジュンヤがそろそろと振り向くと
ゼロスビートをして服を破いた自分もそうだが
ボロ切れみたいになったシャツが引っかかった広い背中が目に入った。

そう言えばダンテはあんな風に翼を生やしたりしたことはなかったが
時々思わせぶりなセリフを吐いていた事を考えると・・
あの性格だ。奥の手として隠し持っていたのかもしれない。

・・・らしいと言えばらしいけど
あれだけ余裕があってまだ余裕だったってのも納得いかないなぁ。

そう思いながらジュンヤは後を向いたままの背中をぽんと軽く叩いた。

バージルは一瞬ぎくりとしたが
ジュンヤの目が怒っていない事を肩越しに見ると
いさぎよく正面に正座しなおし、閻魔刀をきちんと横に置いて話を聞く体勢をとった。

しかしあらためてその母の身体を見ると何とも不思議なもので
姿形はほとんど人間なのに、その全身にある模様と首の後の角
そして金色の目がまるでその存在を誇示するかのように際立って見え
あまり恐ろしさも派手さもないのに不思議と目を引きつけられるのだ。

「・・・・まぁ、俺はこんなだけど・・・」

その視線がはずかしいのか、照れたように視線をそらしながら
印象の少し変わってしまった母は言った。

「・・別に性格が変わったり凶暴化したりするわけじゃないからさ」

しかし見た目は変わっても、どこか柔らかいような口調は変わらない。

「どんな風になっても俺は俺だから。
 それだけは・・俺が悪魔になってからずっと守ってきた事だから」

それは簡単な事ではなかったけれど
それが出来たのは仲魔達と目のにいる魔人の弟のおかげ。


「・・だから別に・・怖がらなくていいと思うよ」


その言葉にぴくりとバージルの肩がはねた。

これは最近わかった事だが
他に誰もいない状態で彼がこうすると、次の行動は大体は決まっていた。

「・・ぅわっッ!?」

それに気付いて一瞬身構えようとしたがちょっと遅かった。
変な体勢で飛びつかれたジュンヤはやはり変な体勢で押し倒された。

「・・・バージルさん、わかったからホラ、服着替えないと。
 今の時期は風邪はひかないだろうけど恥ずかしいし」

無駄だと思っていてもジュンヤは一応そう言って
人なつっこい大型犬よろしくがっちりしがみついている肩を叩いてみた。

しかしいつもなら聞く耳もたずになかなか離れようとしないバージルは
今回なぜかあっさりと身を離す。

するとその膝あたり、ちょうどジュンヤといるのに邪魔になりそうな位置に
さっき横に置いたはずの閻魔刀が入り込んでいた。

「・・?」

さっき横に置いたはずなのに、と手にとって不思議がるバージルをよそに
ジュンヤはあることを思い出す。

・・・あ、ひょっとして・・・スパーダさんかな。

その推測自体はあっていたが
その父の思惑はまだジュンヤの知る範囲ではなかった。

「・・ほらバージルさん服、ふく。いくら家の中っていっても行儀悪いだろ」
「・・・・」

ジュンヤはまだ不思議そうに閻魔刀をながめるバージルを引きずって
洋服ダンスに連れて行く。

閻魔刀はその間、何事もなかったかのように平穏を保っていたが
これ以後父の形見である刀は時々主であるバージルの意志に関係なく
時々不思議でさりげない現象を起こすことになるのだが。


「・・母さん」
「ん?」

タンスから上着を探していたジュンヤは手を止めないまま生返事をする。


「俺は今の母さんも綺麗だと思う」


それは一体どんなつもりで言った言葉なのかかわからなかったが
その直球で悪意のないセリフにジュンヤはその体勢のまま固まり。

・・・・・・・ありがと

聞こえるか聞こえないかの小さい声でそう返して
マカミが遊び半分で選んだ根性と書かれたTシャツを間違えて後に投げた。

「それと母さん」
「・・・ん?」

服に執着がないのか、それとも母の選んだ物には疑いを持たないのか
躊躇なしにそのシャツを着ながらバージルは続ける。

「その模様、その下にもあるのか?」

そう言って指されたのは、かつてダンテも指した『その』部分。


そしてこの日、バージルは初めて

悪魔の力で
怒られた













シリアスのつもりが・・・!


魔人化は2を青っぽくした感じで。

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