その日はたまたま家の中が静かだった。
ミカエルはケルベロスの散歩に。
サマエルはバージルをつれて図書館へ
トールとフトミミはバイト、マカミはどこかへ遊びに行って
マザーハーロットは相変わらずどこに行っているかわからない。

今家にいるのはお昼のうどんをゆでているブラックライダーと
そこから逃げてミカエルの作ってくれた特製止まり木に非難したフレスベルグ
あとはたまには洗ってやろうとタライに入れられ
純矢にブラシでごしごしやられている石ピシャーチャだけだった。

コンコン

「?・・はーい!」

庭で石(本当は幽鬼)の洗浄にいそしんでいると、玄関からノックの音がした。
ブザーは戸の上に付いているのだが気が付かなかったのだろうか。

ブラックライダーに出てもらおうかと思ったが
確か今火を使っているので出られないはずだ。
純矢はブラシを置いてタオルで手を拭くと
庭から回ろうか玄関から出ようか少し迷って玄関に回ることにした。

玄関までいくとすりガラスの向こうに誰か立っている。
少し大がらなのでミカエルが帰ってきたのかと思って戸を開けてみたが・・

ガラララー

「・・・・・・え?」

しかしそれはバージルだった。
いや、それは一見バージルのように見えたが少し老けたように見え
出て行ったときの服装とまったく違うちょっと変わった服装をしていた。

中世の貴族が着そうな高級感ただよう紫のスーツ。
首元には白いスカーフ。同じく手には白の手袋をしており
片方の目には執事の付けていそうな片メガネがついていた。

それはどう考えても純矢の目には変な人だ。
しかし後に撫でつけられた白銀の髪や顔立ちはどう見てもバージル
もしくは仮装したダンテのようで、変な人というだけでは片付けられない。

「・・・あの・・・どちら様ですか?」

おそるおそる聞くと、双子によく似た貴族風の男は軽く会釈してきた。

「タカツキ・・・ジュンヤ君だね」
「・・はい」
「初めまして。息子達が世話になっている。
 私の名はスパーダ。バージルとダンテの父親だ」


・・・・・・・・・・。


「・・・はい??」


思考に3分ほどかかって返されたセリフは
了解と疑問が混ざり合って見事に裏返っていた。




仲魔と暮らすようになってから家の中は色々とヤバイ要素満載ので
今まで家の中にお客らしいお客など上げたことがなかったが
お茶と座布団という来客の基本姿勢を、なぜかブラックライダーは知っていた。

客間に通し、座布団を用意し、お茶もきちんとした日本茶が出てくる。

「・・・粗茶です・・・が・・・」
「あぁ、ありがとう」

完全西洋風のスパーダもなぜか対応になれていて
教えてもいないのに玄関で靴を脱いで、見せてもないのに正座をする。

「・・あぁ、日本の文化には前々から興味があってね。
 独学でいくつか学んでいるのだよ」
「・・はぁ」

疑問に思う所が多すぎて半分放心状態な純矢に
いきなりやって来た父は親切に説明してくれた。

「・・・主・・・」

そうしてセッティングが終わってからブラックライダーが声をかけてきた。
何が言いたいかは付き合いの長い純矢にはわかる。

いきなりの来客すっかり忘れていたが、昼ご飯がまだなのだ。
今日はきつねうどん。このまま話しを始めてしまうとのびてしまう。
どうしようかと思っているとブラックライダーがすうと立ち上がって・・

「・・・出すか?・・・」

と言った。

「・・あ、そうか。スパーダさん、お昼まだですか」
「ん?・・あぁ・・まだだが」
「じゃあきつねうどん食べませんか?」
「キツネ?」

さすがにそこまでは勉強していなかったのか
和式の客間に不釣り合いな西洋紳士は変な想像をしてしまう。

「あ、キツネが入ってるワケじゃないですけどおいしいですよ。
 ブラック、頼むよ」
「・・・承知・・・」

はたんと障子が閉められて
その場には純矢とちょっと困惑気味な西洋紳士が取り残された。

しかしそこでふと、純矢は庭にピシャーチャを置いてきたのを思い出した。
どうしようかなと庭に視線をやると・・・

・・・ない。

さっきまでタライに入れて洗っていた石幽鬼がいない。

「あれ?!」

あわてて縁側に飛び出してみたが
庭には水の入ったタライが置きっぱなしになっているだけで
やはりさっきまでその中にあったはずの石はどこにもなかった。

「・・・ひょっとして、探し物はそれかね?」
「え?」

紳士の何気なく指した指先をたどっていくと・・
捜し物が元々あった床の間に、タオルがぐるぐるに巻かれた何かが置かれていた。
そういえば・・拭くときに使おうとしていたタオルもない。

どうやらそれは、お客の邪魔になるからと1人で転がって
床をぬらさないように1人で身体を拭いて戻った・・・つもりらしい。

本来邪悪な幽鬼は主次第でそこそこ利口になるものだ。

純矢はぽりぽり頭をかいてスパーダの前に座り直した。

「・・・すみません」
「謝ることではないだろう」

それももっともだが、なんだかこういった本当に大人な大人と対面すると
純矢はなんだか腰を低くせずにはいられない。

それはたとえ強大な力を持っていても、強力な悪魔を何体も従えていても
心はまだ高校生のままな証拠だ。

「えー・・・それじゃあ、いくつか聞いて良いですか?」
「あぁ、気の済むまで聞きたまえ」

相手もそれなりにこちらの様子は予測していたのか随分と落ちついたものだ。

「スパーダさんって、ダンテさんから聞いた話だと・・
 確か・・・亡くなられてましたよね?」
「あぁ、確かに私はもうこの世の者ではなくなっている」

そうは言っても目の前の人物、いやどこか人ではない気配をさせている悪魔は
透けてもいないし声もはっきりしていて幽霊には到底見えない。

「しかし私は生前にいくつか自分の力を具体的な形で残してあるので
 少しの時間でならこうして実体を持ち現世に戻ることができる」
「・・・触ることができる幽霊みたいなものですか?」
「そんなところだ」

それなら生きているのとあまり変わりないような気がするが
しかし魔人2人の偉大な父であるはずの魔剣士は
どこかしら存在感というか、そこにいるという気配に欠けている。

「・・・じゃあ今日はどういったご用件で?」
「もちろん挨拶だ」

ずずーとスパーダは慣れた様子でお茶をすするが
その姿と持っている物が激しく合っていない。

「私は今までダンテの元に残した剣からこちらの様子を時折うかがっていたのだが
 少し前に魔界に食われたはずのもう一方の媒体が急に目を覚ましてな。
 驚いて見に来てみると、君が息子の世話をしていたというわけだ」

もう一方の媒体?と純矢は思うが
そういえば剣といえばバージルがここへ来た時、確か刀を1つ持っていたはず・・・

「・・あ、ひょっとしてバージルさんの刀!?」
「そう閻魔刀も私の残した力の一部だ。
 それを通して私は君たちの事を大まかにだが理解した」
「じゃあバージルさんがここへ来てから、ずっと俺のことを見てたんですか?!」
「息子を助けてもらった手前、君には挨拶だけでもと考えてはいたのだが・・
 あいつがなかなか君から離れようとしないので
 すっかり挨拶が遅くなってしまった。すまなかったね」
「あ、いえ。それはいいんですけど・・・」

コトリとお茶を置いた伝説の魔剣士は
そう言い終わると純矢に向かって深々と頭を下げてきた。

「息子達が色々と世話になった。・・特にバージルに関しては本当に感謝する」
「そんな!俺だってダンテさんに色々助けてもらったし
 バージルさんだって元はと言えば俺の不注意で・・!」

大の大人に頭を下げられ純矢はあわあわと慌てた。
しかしちょうどタイミング良くブラックライダーが戸を開けて
湯気のあがっているドンブリを2つ運んでくる。

「・・あの、えっと、とりあえず食べませんか?お箸使えます?」
「あぁ、問題ない」
「じゃあまず腹ごしらえってことで」

とにかく純矢は正面きって礼を言われるのが照れくさくて
割り箸ののったきつねうどんが激烈に似合わない純悪魔に
湯気のたつどんぶりを押しつけた。




「・・・どうでした?」
「・・・ふむ、なかなかに不思議な味だが悪くはないな」

悪くないと言ったわりにはつゆ一滴、ネギ1つすら残していない。
こうゆう所はダンテ似だと思いながら純矢は父の前からどんぶりをさげる。
しかも結構熱かったはずなのに顔色1つ汗1つの変化もなく
速攻で食ってしまった所が人間離れしているというかなんというか・・。

「ところで・・どこまで話したかな」
「あ、えーっと・・バージルさんの事でお礼を言った所まで。
 けどそれって本当に偶然というか俺の不注意で・・!」
「まぁまぁ、そう謙遜せずに私の言い分も最後まで聞いてくれ」

そう言ってスパーダは白い手袋のはまった手をちゃぶ台の上で優雅に組む。
このセンスと風貌で日本知識があるというのもなんだか妙だが
ともかく純矢はスパーダの言い分とやらを黙って聞く姿勢をとった。

「あの子達・・・いや、もう子供ではないが
 ともかくあの2人には色々と苦労をかけてしまった。
 人と魔の間に生まれ落ちたということもあるかもしれんが
 やはりその大半は魔界を敵にまわした私の業なのかもしれん」
「・・・・・」
「ダンテはもう自分で自分の道を見い出し自分の足で歩いているが
 バージルは・・・私の影を追いすぎたためにその犠牲という形になってしまった」

そこで2人の魔人の父はふうとため息をつく。

「しかし君が拾い上げてくれた事はバージルにとっても
 ・・いや、私や妻にとっても唯一の救いとなった。本当に感謝する」
「・・・そう・・・ですか」

今度はなぜか言い返す気にはなれず、純矢は素直に受け入れた。

こんな礼儀正しく穏和な父から姿形と力しか似なかった2人が
あんな風になってしまった経緯がどれほどのものか
どんなワケありな人生を歩んできたのかは
きっと自分などには理解できないものなのだろう。

一瞬母親の方がダンテみたいな性格をしているのかと
心底恐ろしい想像をして身震いしてしまったが
ダンテの話だと違うようなので純矢は1人変な安堵をする。

「それで君は・・・バージルをダンテと会わせるつもりなのかね?」

その時スパーダの声色が少し変わったが
純矢は別に気にもせず迷いのない口調でこう答えてきた。

「はい。もうちょっと一般常識とかに強くなって
 ダンテさんに馬鹿にされないくらいになったらそうするつもりです」
「しかし君は2人がどのようにして道を違えたのかを知って・・・」
「さぁ。その辺はさっぱり。というか興味ありませんし」

やたらあっさり言われた言葉にスパーダは少し驚いたように目を丸くした。

「だってバージルさん、もう魔界とか悪魔の力とかそんなのに執着してませんし
 一度死んだみたいな身なんですからもういいじゃないですか。
 ケンカした分、苦労した分、痛かった分、辛かった分、1人だった分
 全部ひっくるめたかわりに今度は普通に人間みたいに暮らしたって
 バチは当たらないと思います」
「・・・・・・」

どんな人物なのかはある程度知ってはいたが
やはり実際会ってみると色々と驚かされるものだとスパーダは思った。

「それにダンテさんもバージルさんも
 この世にたった2人しかいなくて変わりのきかない家族ですよね。
 2人の間で何があったか俺にはわからないけど
 でもやっぱり俺は・・・どんなにケンカしても仲が悪くても
 家族は生きている間には一緒にいたほうがいいと思うから・・・」

そこまで言った純矢は、ふとスパーダがこちらを凝視しているのに気がつき
急に恥ずかしくなったのか身を小さくした。

「・・・・・・すみません。生意気がすぎました」

しかしスパーダはしばらく真剣な顔をしていたかと思ったら
急に目の間を押さえ、かつてダンテがしていたのと同じように
勘弁してくれとばかりに天をあおいだ。

「・・・はは、参ったな。これでは私もバージルの二の舞だ」
「は?」

意味がわからずに首をかしげた純矢を見て
スパーダはどこか安堵したような静かな笑みを浮かべた。

「・・本当に君は不思議な子だ。だが君なら安心して息子を預けられる」
「あの・・俺そんな大それたものじゃないですよ。
 だって俺まだスパーダさん達の何分の一しか生きてないただの高校生なんだし」
「だが私の妻もただの人間であり、悪魔である私の・・愛すべき妻だった」

そう言うスパーダは随分と感慨深げだ。
そういえば、ダンテも母親を尊敬してバージルも母にかなり思い入れがあるようだが
魔族3人をここまで引きつけた人の女性というのはどんな人だったのか
ちょっと興味もあるのだが、自分と似ているとダンテに言われたことがあるので
知りたくもあり知りたくもなし・・・と純矢としてはちょっと複雑でもある。

「私達の世代が残した問題を君たち若い世代に押しつけるようで心苦しいが
 ともかくどうか、息子達をよろしく頼む」
「・・・え?あ、はい」

達、ということはダンテも数に入ってるのか?
つーかそりゃ嫁出し時の親父のセリフだろとか色々思ったが
スパーダがあまりに真剣な目をするものだから
純矢はどうにもつっこめずにうなずく事しかできなかった。

「・・さて、安心したところで私は退散させてもらうとしよう」
「え?バージルさんに会っていかないんですか・・ってあわわ」

だがいくら仕方を知っていたとはいえ、足のしびれまで想定していなかったらしい。
立ち上がろうとした瞬間に真横につぶれそうになったスパーダを
純矢があわててささえに回る。

「はは、いや面目ない」
「つらかったら足くずしてくれてもよかったんですよ?」
「これでも伝説のはしくれなんだがな」
「強がる所はダンテさん・・いや、両方にそっくりですね。
 ブラック、いるんだろ?」

隣で待機していたのか障子をあけてブラックライダーがすっと出てくる。
その肩には暑くなくなったからなのかフレスベルグが戻ってきていて
スパーダを見るなり不思議そうに首をかしげ
ギャと一声、挨拶のつもりか警戒のつもりか鋭く鳴いた。

そうして純矢とブラックライダーの2人がかりにささえられながら
伝説の魔剣士はずりずりと玄関まで来て
お出かけ前のじいさんよろしく、ちょっと難儀そうに靴べらを使って靴をはく。

「本当に会っていかなくていいんですか?」
「私はもうこの世の者ではない。生ある者とあまり関わるべきではないだろう。
 それに私はあまり今のバージルに良い影響を与えない」

靴をはき終わって立ち上がったスパーダはそう言って
少し寂しそうにこう付け加えた。

「・・・いや、むしろ・・・私には会う資格がないのだよ」

がし

と、踵を返そうとした紫色の袖が、いきなりむんずとひっつかまれる。


『何言ってるの』


「それを決めるのはあなたじゃなくてバージルさんとダンテさんです」


ぎょっとして振り返った先にいた少年は、今までで一番強い眼差しをしていて
それはもういないはずの、世界にたった1人だけだったはずの
彼が唯一愛した女性と同じような目をしていた。


自分の後始末を押しつけるとか、自分が残した遺産とか
そんなのは今を一生懸命生きている者達には
たくさんある選択肢の1つでしかない。


「・・今は無理かもしれないけど、いつかちゃんと会って話をして下さい」


『しっかりしなさい』


「だって・・・世界でたった1人の父親なんでしょう?」


スパーダは・・
それこそ紳士な外見に似合わないほど
ひどく驚いたような顔をした。


なるほど。

形見をなくした変わりにしているのではなく

ここにそのものが存在するから。


「・・・そうだな」

ふ、と
どこか懐かしむようにスパーダは微笑む。

それを肯定と取ったのか、純矢はほっとしたのと同時に
思わず掴んでしまった袖をあわてて放した。

スパーダは別に気にする様子もなく微笑んでいたが
実はこの時、スパーダの心の中にちょっとした変化が生まれていたのを
なんだか生意気ばっかりしてるなぁと反省している純矢は知らなかった。

「・・では私はこれで失礼するとしよう。
 もしも何か困ったことがあれば閻魔刀ごしに相談してくれたまえ。
 私の出来る範囲でなら力になろう」
「・・あ、はい」

それはもはや死んだヤツのする所行ではないような気もするが
やはり実の父親が協力してくれるのはありがたい話なので
純矢はこの際気にしないことにする。

「あぁそれとジュンヤ君」
「はい?」

こいこいと手招きするので純矢は何か内緒話でもあるのかと思ったが・・・

ぎゅむ

「わ?!」

すっと伸びてきた腕になぜかいきなり抱きしめられた。


ギィーーー!!


ブラックライダーの肩の上で大人しくしていたフレスベルグが
その途端、何を怒ったのかいきなりスパーダに飛びかかった。
素早く純矢から離れたスパーダはなんなくそれをよけるが
爪に少しかすめられた髪先に薄い氷が張る。

「こらフレス!」

純矢があわててそれでも玄関を飛び回る妖鳥を捕まえようと手を伸ばしたが
それより先にブラックライダーが手慣れた様子でそれを捕獲し
小脇にかかえて騒がないようにクチバシをしっかと掴んだ。

「すいません!この子ちょっとヤキモチ焼きで・・」
「いやいや、忠誠心旺盛で感心なことだ」

そう言ってパリパリと頭から氷を落としながら笑うスパーダは
なんだか嬉しそうというか満足げというか
何があったのかは純矢には分からなかったが
来たときとはまるで別人のように晴れやかだった。

「ではジュンヤ君、また会うことになるかもしれないがそれまでバージルを頼む。
 そちらの黒の魔人殿も同じくな」
「あ、はい」
「・・・・・」

純矢は素直にうなずいたが
小脇にフレスベルグを抱えたままのブラックライダーは何も言わなかった。

ガラララー  ぴしゃ

そうして幽霊なのにお茶とうどんをご馳走になった魔剣士は
目の前で出たり消えたりせず、きちんと玄関から来て玄関から帰った。
しかも戸が閉まった途端、しっかり見えていたのに薄かった気配が完全に消える。

しかし純粋な悪魔とは思えないほど外見も態度も紳士で律儀な父だったが・・・

「でも日本で外国式のあいさつするのは間違ってると思うなぁ・・」

あれが一応外国式の親愛の証なのだと知ってはいたが
それが何に対しての親愛なのかは純矢は知らない。

なんとなくわかったブラックライダーが目線を変な方向に飛ばし
わかって怒ったフレスベルグがまだモゴモゴと暴れていた。




それから数分後、ケルベロスと散歩に出ていたミカエルが帰ってきた。

「あ、おかえりミカ」
「ただいま戻った。ところで主、先程表で聞いたのだが
 今度から燃えないゴミの日と燃えるゴミの曜日が変更になるそうだ」

神の右腕たる大天使の言うセリフとは思えないが
ゴミ出しはサマエルとミカエルの担当になっている。

「そうなのか?じゃあ間違えないようにしないと」
「それと次の粗大ゴミの日は変更ないようだが
 それも一応燃える物と燃えない物に分別してくれるとありがた・・い・・と・・・」

しかし話の途中で真面目に話していたミカエルの顔が
急になにかを見とがめたような怪訝そうなものに変わる。
かと思ったら何やらじろじろと前や横や後から
何かついてるかのように純矢をながめまくってくる。

「・・え?何?何かついてるか?」

なんだか気分は麻薬犬に取り調べられる荷物のようだ。

まさかスパーダの事で感づかれたのかと思ったが
ブラックライダーは気配が薄かったから大丈夫だと言っていたし
フレスベルグにもピシャーチャにもみんなには内緒だぞと
しっかり口止めはしておいたはず。

しかしそれでもやはり大天使のカンなのか
ミカエルは散々純矢の周りを見まくって、それでも納得いかないのか
難しい顔をしつつ腕を組んで考え込んだ。

「・・・え〜っと・・・」

黙っておくつもりだったけど、話した方がいいかなと純矢が思った矢先。

ぎゅう

いきなりミカエルがスパーダとまったく同じ事をしてきた。

「わっ!何だ!?どうした?!」
「・・・・・・」

しかしミカエルは何も言わず
そのまま何か確かめるように背中やら肩やら
危険物でも探すかのようにべたべたさわってくる。

なんだか気分はテロチェックを受ける入場者のようだ。

「おぉい、ミカってば!どうしたんだよ一体?」

気味悪くなって純矢はミカエルのべしべし背中をたたいたが
ミカエルはそれでも納得いかなそうに奇妙な行動をやめようとしない。
あげく服のにおいまで嗅ごうとするので・・


ごん


ぐおッ!?


久々の鉄拳が服に顔を突っ込もうとしていた頭に落ちた。

ミぃーカ!!
「・・・い・・っ・・・効い・・たぞ・・主・・」
「何をやってるんだ何を!ちゃんとワケを説明しろ!!」

そう言われるとミカエルはなんだか複雑な表情でその場に正座。
怒られるときは正座というのは仲魔内でいつのまにか定着した決まり事だ。

「・・・うまく言えぬのだが・・・主が・・何者かに所有された・・・ような気がして」
「は??」

もちろん純矢は誰かの所有物になったつもりなどない。

「なんだそれ?俺は別にいつもの俺だぞ?」
「いや主はそのつもりなのだろうが・・何というか・・私はそうは思えなかった。
 雰囲気というか気配といおうか、ともかく何かがおかしいと言うか・・・」
「・・・なんかそれ・・・浮気を見破る奥さんみたいな理屈だな」

どう見ても夫側な大天使が赤くなってげふごふ変な咳払いをした。

それにしてもさすがにリーダー格。
疑い方はともかくカンがいいというか鼻がいいというか。
この分だとバージルにもスパーダと接触した事がバレそうなので
何か対策を打っておかないとまた何か妙な事態に発展しそうだ。

ともかく今日の事はミカエルには隠すのは無理らしい。
他の仲魔にスパーダの事を話すかどうかについては
今日の自分を見て感づくかどうかで決めることにしよう。
そう考えて純矢は正座したまんまのミカエルに手を差し出した。

「・・・ミカ、買い物行こう」
「は?」
「実は今日、ちょっとしたお客さんが来たんだ。
 詳しくは歩きながら話すから、偽装工作ついでに2人で買い物」

その途端、沈んでいたミカエルの表情が見る間に明るくなった。

「それはつまりデートという行事だな!」
「・・・近所に買い物に行くだけだから違うよ。
 ついでにデートは行事じゃないから」

それでも普段仕事で忙しく
あまり純矢と2人になれないミカエルにとってはかなり嬉しいことだ。

「・・えっと、ちょっと待ってて財布取ってくる。
 あと何かたりない物ないかブラックに聞いてくるよ」
「うむ!」

純矢が奥へ引っ込んだあとのミカエルは
さながら今から散歩に行くのを心待ちにしている犬のようだった。



ちなみに近所のスーパーで牛乳と片栗粉などを買って帰宅すると
サマエルとバージルは図書館からすでに帰ってきていた。

しかしバージルはよほど熱中したのか、字の読みすぎで目を真っ赤にしており
なおかつ自動ドアに気付かれるかどうかという意味不明な勝負をしてきたらしく
勝てたとか勝てなかったとかぶつぶつ言いながらぐったりしていて・・

追い続けていた父がいきなりやってきて
再生の母に目を付けた事など、運良く気付かれる事はなかった。








他サイトさん見てて書きたくなったパパーダ。気がついたらダブルパパ。
大丈夫だよね。まだこっち向けだよね!ね!
と自分に言い聞かせるように書いてたヤなブツです。

機会があったら時々からませつつ書きたいです。
やっぱり壊れとる事間違いなしだろうけど。
そういや赤と青たしたら紫になるんだなぁと手直ししてる間に思いました。

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