「・・・え”〜じゃあそろそろ日も暮れてくるから、これを最後にしよう」
「主、本当に大事ないのか?あまり無理せずとも・・・」
「・・・平気だってちょっと足が痙攣しただけだから」

さすがに大の男膝枕2時間は効いたのか
マサカドゥス装備のはずなのに純矢の足は見事にしびれた。
一応ディスパライズは飲んだがそれとこれとでは用途が違うのか
あまり効いてくれなかった。

で、バージルはというと・・・

「・・・バージルさーん、怒ってないからこっちおいでよ」

さすがに反省しているのか
20メートルほど向こうでこっちの様子をうかがっていた。

いつか悪いと思った時の謝り方を教えないといけないなと思いつつ
純矢はちょっとバツ悪そうにこちらへ戻ってくる魔人を待った。

ちなみに荷物番は今閻魔刀がしている。

「じゃあ最後に教えるのは日本、つまりこの東京含めた国の国技
 相撲っていうんだけどそれを教えておくよ。
 必要な物は人2人以上とこう地面に円を描くもの。
 下が砂なら棒。草ならこんな縄がいい」

なわとびに使った縄を使い、地面に少し大きめの円を作る。

「で、この中に2人入って押し合いをして、どっちかが円から出る
 または地面に手をつく、こけるかしたらそっちが負け」
「それもまた聞いただけでは単純な動作ではあるが・・・
 主が提案するからには奥が深い物であろう?」
「まぁね。見た感じはトールが一番有利に見えるけど・・
 とりあえずは俺とトールでやってみようか」
「うむ・・」

よくわからないままトールは純矢と円の中に入る。

「円の中心で向かい合って、こうグーを作ってこう構える。
 本当は両方の手が地面についたときに始めるらしいんだけど
 遊ぶ分には別に細かいことナシで・・」
「主、主、質問だ」
「はいトール君」
「その作法なら以前てれびと言う箱で見たことがある。
 しかしそれは確か裸になって尻に光る布を巻いてするものでは・・・」
ありません!!それは本腰入れた本格的な競技でするものであって
 ただ普通に遊ぶ分には
そんなことしません!!

それを聞いてバージルが本気で冷や汗をぬぐい
ケルベロスはちょっとつまらなそうに鼻を鳴らした。

「・・・でも見たことあるなら大体のやり方はわかるよね」
「・・・う、うむ」
「はは、別にお尻隠さなくても今トール普通のズボンはいてるから
 嫌ったりしないって」

怒鳴ったことでかつてのトラウマが出てきたのか
少し後ずさる鬼神に純矢は笑った。

実はこの鬼神、まだ仲魔になりたてのころ
彼に悪気などこれっぽっちもなかったのだが
そのインパクトある後ろ姿でジュンヤのド真ん前に出てしまい
絶叫と破邪の光弾をセットでもらってストックに叩き返された事があるのだ。

「ともかくほら、手をついて。俺がはっけよーい・・は難しいか。
 よーいドンて言ったら俺を地面にねじ伏せるか、円の外へ放り出すかするんだ」
「ぬなっ!?」
「母さん!?」
「!?」

三体がそれぞれに動揺する。
それもそのはず純矢は軟弱というわけではないが
体積は比べるまでもなく差が歴然としている。

「大丈夫。別に殴り合うわけじゃないし
 俺だってまだ悪魔のまんまだしそう易々とケガなんてしないから」

それはトールも知っている。
純矢は仲魔と一緒だったにせよ、現役時代のトールを二度もねじ伏せた猛者だ。

しかし一対一となるとどうだろう。
主の身の心配はあるがその秘められた力への興味も捨てきれない。

しばらくの葛藤の後、トールからすっと迷いが消えた。

「・・・よかろう」

本来の身体ほどではないが、大きな身体から静かな闘気がにじみ出る。

「この鬼神トール、今一度一体の悪魔として主に挑もう」
「・・・だからただの遊びなんだからそんなに固く・・・ってまぁいいか」

もう言うだけムダだろう。

ともかくかなり体格差のある2人は円の真ん中で向かい合ってかまえる。

バージルもケルベロスもさすがに心配はしたが
こういった真面目な勝負に口を挟むほど野暮ではないので
黙って見守ることにした。

「じゃあいくぞ。・・よーい・・」
「・・・・」
「ドン!」


ぶん! とん 
ぐしゃ

しかし勝負は2秒もかからなかった。

突進してきたトールの頭を純矢が馬跳びの要領でとびこし
勢い余ったトールが顔から地面に激突して終了。

それは若干間抜けだが、らしいといえばらしい勝負だ。

「はは、うまくいくか自信なかったけどやってみるもんだな」

などと言いつつさわやかに笑う純矢の周りを
ケルベロスがシッポをふりふり回る。

おそらく『ウムサスガハ主!』とでも思っているのだろう。

しかし正面から正々堂々派なバージルとしてはちょっとショックだ。
かといって純矢が真正面からトールを突き飛ばすのも
それはそれでショックだかもしれないが。

「これは力とか体重も重要だけど
 どっちもない場合もちゃんと勝てる方法がある遊びなんだ。
 って言ってもそれなりのコツとか運とかは必要になるだろうけど」

その時ふと、バージルは軽い違和感を覚える。
それは何なのか具体的なことは何もわからなかったが
とにかくワケもわからず彼の中にちょっとした不快感がつもった。

実はこういった純矢の戦い方などの参考が
いくらかの独学とダンテの指導によるのものだと彼はまだ知らない。

「・・・うぬぅ・・・柔よく剛を制すとは聞いていたが、さすがに我が主よ」
「うわ!トール!鼻血鼻血!」

しかしあわててティッシュをちぎって鼻につめてやっている純矢を見ていると
なんだかどうでもよくなってくる。

「次はトールとバージルさんでやってもらおうかと思ったけど・・交代しようか?」
「いや、これしきなど傷にも入らぬ。
 それに我はそこの魔人の実力の程をよく知らぬゆえ
 是非ともお手合わせ願いたい!」

そう言って鼻に詰めたティッシュがすぽんと飛びそうなほどトールは息巻く。

まぁこのすっかり平和になった東京では
こんな時くらいしか戦うという機会がないからかもしれないが。

「トールはあぁ言ってるけど・・・バージルさんは?」
「いや俺は・・・」

あまり素手での肉弾戦などやったことがないと言おうとしたが・・・

「ちなみにトールってダンテさんとはずーっと仲が悪かったんだけどね」


カチ


バージルのどこかでスイッチの音がした。

「・・・おもしろい」

突然彼を取り巻く空気が変わる。

「受けて立とう」

戦いに長けた者なら見えただろう青い闘気に
近くにいたケルベロスが軽く後ずさる。

それを感じ取ったのかトールもトールで・・

「・・ではこちらも誠心誠意をもってお相手しよう」

どこで覚えたのか拳をバキバキ鳴らしてやる気満々だ。

だから単なる遊びなんだってば・・と純矢はもう言わなかった。
まぁ両方とも素手なんだし殴り合いするわけでもないし。

「じゃあ俺が審判するから。
 当然だけど変なスキルとか使わないように。
 特にトール、電撃は厳禁」
「承知した」
「・・あ、そういえばバージルさんって・・」

今まで戦闘らしいことをしていなかったから気付かなかったが
バージルのスキルと耐性はまだ何も分かっていない。

純矢は意識を集中して目を少しだけ金色に変えると
軽い準備運動をしている魔人を凝視した。



魔人  バージル

破魔・呪殺・バッドステータス攻撃無効・物理・魔法全般に強い

閻魔刀         八相発破
暗夜剣         貫通
デスカウンター    烈風破
心眼          母の名に誓って



「・・?どうした」
「あ・いやなんでも・・」

閻魔刀はダンテで言うリベリオンと同じなのだろう。

しかしスキルの最後の1個が何なのかはちょっと気になるが
今の所武器がなければ危い事はなさそうだ。

「まぁとりあえず始めようか。じゃあ見合って見合って」




そして・・・。








ダガダカ
ダカダカダカ  ガララー!!

「ただいまー!!」

玄関をあけてすぐの所で待っていたブラックライダーが
懐中時計をのぞきこむ。

「・・・6時26分・・・」
「・・・よかったセーフだ・・・」

背後でゼエゼエやっている仲魔達をよそに
純矢は1人で冷や汗をぬぐった。

何しろ夕方までには帰ると言ってしまったので
ミカエルの中では夕方とされる6時半を過ぎてしまうと
何かあったと断定され、仲魔総出で探しに来られていた所だ。

本当はもう少し余裕を持って帰るつもりだったが
トールとバージルが勝負に白熱しすぎ、何度勝負しても納得してくれず
最終的には純矢の拳骨で黙らせた後で全員で全力疾走するハメになったのだ。

別にケンカをしているわけではないのだが
熱中しすぎて周りが見えなくなるのは困りものだ。

「・・あれ?ところでミカは?」
「・・・サマエルに・・・呼び出されて・・・出勤した」
「そっか。それじゃ走る必要なかったけど・・2人とも忙しいんだな」
「・・・それと・・・これを預かった・・・」

ケルベロスの足を拭いていた純矢の前にぴらりと差し出されたのは
遊園地の割引券。

「・・・今度は自分も連れていけって事なんだろうな」

別にそう言われたわけでもないが
紙一枚からはそんな意志がプンプンにおってきていた。

「・・しかし微妙ではあるな。54勝52敗8引き分けとは。
 前半の引き分けがなければより明確に勝敗が決まっていたものを」
「・・違う、俺が51勝54敗、7引き分け。差は少ないが負けは負けだ」
「だが勝敗の数からは負けとすれども
 我と違い戦線を離れていたブランクを計算した場合・・・」
「はいストップ」

帰り道で走っている間もやっていた小難しく固っ苦しい議論を
純矢は片手で止めた。

「気になるならまた今度やればいいじゃないか。
 今日負けたら今度勝って、今日勝ったなら次もがんばればいい。
 それだけじゃないか」
「「・・・・・・」」

そう言われると延々勝負しまくっていた自分たちがまるでバカに見えてくる。

「ま、とにかくいっぱい遊んだんだからまずご飯だ。ブラック、今日は?」
「・・・サバの・・・味噌煮・・・」
「だってさ。ほら早くあがったあがった」

純矢はそう言って足を拭き終わったケルベロスと一緒に食堂へ。
ブラックライダーはしばらく玄関に突っ立ったままの2人をながめていたが
やがて足音もなくすーっと奥へ行ってしまった。


「・・・次は負けん」
「望むところである!」


どこか似たところのある鬼神と魔人はそう言って

同時に靴を脱ぎそこねてけつまづいた。









知らない間に偉い長さになってました。
ご利用は計画的にってやつですな。

なおネタ提供に掲示板のカキコを利用させていただきました。
一応プライバシー保護のためここでは名前をふせさせていただきますが
ありがとうございました。喜んでいただければ幸いです。

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