で、一方そのころのぞき・・じゃなく遠くから見守っていた父と野次馬女帝はというと
遠くからそれなりに良い視力で楽しくひそやかに傍観中だった。

「ホォーッホッホ!しかしどこにおろうが何をしようが退屈せぬ連中じゃのう!」

一体何をまぜくったのか得体の知れない色をした(たぶん)ジュースを片手に
パラソルの下で赤い女帝が優雅かつなんか場違いにくつろぎ
その周囲にいた7人のムキムキが一斉に『うん』と同時にうなずく。
この元が一体であるケモノ達は最近人型になれるようになったのだが
まだ人語の方は喋れないらしい。

だがその近くの席にいたスパーダはというと
手つかずのアイスティーを前に何やら1人でシリアスな顔をしている。

「なんじゃ1人で神妙な顔をしおって。よもや混ざりたいとでも申すつもりか?」
「いや、それも多少はあるのだが・・」

そして彼はふゥと悩ましげなため息を吐き出し
こんな台詞をぽつりともらした。

「先程からずっと考えていたのだが、なぜ男の子の
 (只今一般的によろしくない発言がされております)で
 (上に同じです。しかも長くてクドいです。ご了承下さい)だろう」

とある良識の関係上、出せない台詞が多すぎてその意味はさっぱりだが
それを全部聞き終えたマザーハーロットはふいにピタリと固まり。

「・・今のは頭の中で思うだけにしておけ。
 実行されてはさすがのわらわも弁護がきかぬぞ」

珍しくマジな声で素早く小声で忠告してくれた。

つまりその口からもれた台詞がシャレとか冗談に聞こえなかったのだろう。
ついでに周囲にいた7人のムキムキがいっせいに『うんうん』と二度うなづく。
大事なことだから二度らしい。

「・・それにしてもいいなぁバージルは。
 もういい歳だろうにあんな若い子と楽しそうにすごせるなんて」
「あやつは主に再生される前どこにおったのか知らぬが
 人としての中身に妙な抜け落ちがあるゆえ、いい歳とよぶには無理があるぞ。
 そもそもおぬしこそ歳を考えたらどうじゃ、この2000ウン歳」

いやそっちも同じくらいかそれ以上だろとかスパーダは思ったが
さすがにそこは口からぽろりしない。

「しかし我らの主は誰にでも平等じゃ。
 そう遠方で指をくわえてうらやましがる事はないぞ。
 おぬしは次の機会を見計らい相応の場所へ誘いをかけてみるがよかろう。
 今回のような少々浮いた場所は引かれるじゃろうから
 美術館か水族館などの大人しめの場所などそれなりに選択肢はあろう」
「・・ふむ成る程」
「とは言え、あれを単身で連れ出すにはかなりの障害や妨害はあろうがな。
 もちろんわらわは邪魔などという無粋な真似はせぬが協力もせぬぞ。
 精々あがいてもがいてムダな労力を使いてあくせくするが良いぞ」

それなりなアドバイスのあとに即座に蹴落としにかかるとは
さすがにこんな事に声かけてくる性格しているだけはあるとスパーダは苦笑する。

「・・しかし君はあの子の元にいながらにして
 きちんと悪魔らしさを残した悪魔なのだな」
「ホォーッホッホ!何を寝ぼけた事を!おぬしも立派な悪魔じゃろう!」
「そうだな。しかしあの子の近くにいると時々その事を忘れそうになってしまうよ」

そう言ってスパーダは人に見えるけど人ではない3人の方を見た。

すると今度は3人で一緒にすべろうという話にでもなったのか
一番前が純矢、その後ろにフトミミ、最後がバージルという順で固まってすべり
今度は最後尾にいたバージルがへんな落ち方をしたらしく
下に落ちて沈んだかと思うと妙な格好で尻を押さえて出てきて
純矢にちょっと心配されたあと、フトミミと一緒に遠慮なく笑われた。

バージルはちょっとムッとしていたが
少ししてつられたのか、それともそうするしかなかったのか
ぬれた前髪をかき上げた後照れたように笑い出した。

「・・ま、それは確かに正論じゃな」

最初はこんな所は似合いもしないだろうと思っていたが
あぁしてるとそうでもなかったかなと
妙な色をしたグラスをカラカラさせながらマザーハーロットは感心した。





そしてなんのかんので気がつけばもう夕方近く。
トータルで見ると流れるプールでぷかぷか流されている時間が一番多かったりもしたが
とにかくさてそろそろ帰るかという時になって
バージルがなぜか借りていたビニールのシャチを欲しいと言い出した。

一応売店で売っていたので購入自体はできるのだが
家にプールもないし風呂で使うにしても大きすぎるのに
なんでそんなのが欲しいのかと聞くと、彼はぽんと純矢にシャチ渡し
その上からぼんと軽くぶつかってきた。

それはつまり直接ぶつからないから痛くないのと
これなら人前でやっても怒られないだろうというムダ知恵らしい。

「でもこんなの普段から持ち歩く人いないんじゃないか?」
「だが欲しい。海のギャング、殺し屋クジラ、海最強のほ乳類」
「あぁ、そっちもか」

つまりは強そうだからというのも欲しがる理由らしい。
しかし使用方法がラグビーの練習みたいだし
そんな使い方してたらそのうち破裂するかも知れないが
それを加減するのも勉強のうちだろうし
破いたらフトミミが修理してくれると言ってくれたのでまぁ大丈夫だろう。

「しかし君がこんな可愛い目をした物を欲しがるとはちょっと意外だったな」
「?こんな巨大な白目をした生物のどこが可愛い」
「・・・・・(いやいやいやそこ白目じゃなくて白いもようだから。
 そんな凄い生き物深海か宇宙でもない限り存在しないから)」
「高槻、思いが口から出せていない」

とにかく多少の勘違いをしつつも折りたためるぬいぐるみのつもりで
プール用のビニールシャチを購入。
買ってしばらくしてポンプを買っていない事に気が付いたが
まぁウチに酸欠とか貧血になる人(悪魔)もいないだろうと思い引き返さず
早く袋を開けたそうにしてるバージルをなだめながら
しっかり拭かない頭を犬のごとくがしがしに拭いて着替えを終え
フトミミに笑われつつもとにかく帰宅することになった。





「いやそれにしても楽しかったよ。
 ただ水に入るだけかと思いきや色々と楽しい経験ができた」

などと話しながら3人は少し涼しくなった身で涼しくなってきた夕方の道を歩く。
売店とかプールの監視員の話をしないということは
働くよりも彼にしてはめずらしく遊ぶ方に興味が向いたのだろう。

「でもあのプール、そこそこ昔の古いタイプですから
 新しい場所とかに行くと人工的に波の出るプールとか
 やたら長くてねじくれたすべり台があったりするんですけどね」
「ほう、それは面白そうだなぁ。
 では今度はそこの割引券を入手しなければ」

まずは場所を探してコネをつたってなければ作って電車賃も計算して・・。

とか普通に行けばいいものをバイト三昧で感覚が庶民になったのか
稼ぎもそこそこあるはずの鬼神はまず割引券の工面から始めようとしている。

バージルにその気持ちはやっぱりわからなかったが
前に常時酒臭い女帝が話していた
『必要のない無駄な事にこそ面白いと思える要素があるのじゃ』
と言った意味がそこにあるのかなと少し思った。

そうして帰り道を歩いていると、涼しくなった道のはじっこでパラソルをひろげ
自転車を止めて何かをしているおっちゃんを発見する。
フトミミとバージルにはそれがなんなのか一見してわからなかったが
それが何かを唯一知る純矢だけは目を輝かせた。

「あ、アイスだ。フトミミさんもバージルさんもアイス食べるよな」
「?あぁ、あれはそういう屋台なのか」
「・・・・(何だかよくわからないけど一応うなずく)」
「じゃあ3つだな。すみませーん3つくださーい」

しかしそう言って走っていく純矢にフトミミはあれ?と思った。
普通アイスを売るには何種類かのフレーバーがあるものだが
純矢は各自に何味がいいかをまったく聞いて行かなかったし
手書きで下げられている値札らしきものにも値段が一種類しか書かれていない。

不思議に思っているとほどなく純矢はアイスを3つ手にして戻ってきた。
だがその手にあったのは全部同一のものだ。

「・・高槻、あの店は一種類しかものを売っていないのかい?」
「?あ、そっか。ああいった露店で売られてるのは
 大体味が一種類だけなんですよ」

そう言ってはいはいと渡されたそれはコーンに丸いアイスをのせたシンプルな形で
とくにこれと言った特徴もなくトッピングも何もない質素なもの。
しかし不思議に思いつつ少し食べてみると
それは色々と知っているフトミミにもほぼ未知の味と食感だった。

「これは・・食べたことのない味だ。
 コンビニやスーパー、専門店にあるものとはまったくの別物だ」
「でしょう?季節限定、場所も限定なレアものですよ」
「(もしもしもしもし無心に食べてる兄)」
「・・ふむ、これは実に興味深い。販売元と製造元を知りたいな」
「またバイトの関係ですか?」
「そうだな・・どうやって製造されているのかも知りたいところだが
 外で、しかも1人で販売しているというのが面白い」

ふむんとばかりに鼻息を荒げアイス売りのおっちゃんを凝視するフトミミだが
夏の暑い最中に木陰で麦わら帽子をかぶり首からタオルをひっかけ
アイスの屋台の横で客待ちしてるフトミミというのもなぜか普通に似合ってしまう。

「そうだ、こういった単品のものは複雑ではなさそうだし
 バージルがバイトとしてやってみるというのも悪くないのでは?
 人付き合いが苦手なのはわかるけれど
 いつまでも家事手伝いというのも味気ないだろう」

だがその何気ない提案に純矢はえげと思った。
確かにバージルは今良く言って家事手伝い。悪く言ってプーだ。
しかしこのミスター無愛想がラフな格好で1人アイス売ってても
怖いし似合わないし全体的に違和感がありすぎて
変装のヘタな特種工作員かリストラされた俳優かなにかと間違われそうだ。

「・・いや、遠慮しておく。俺は家にいる方がいい」

だがちょっとドキドキしていた純矢をよそに本人はあまり迷わず首を振る。
まぁ確かに彼は今まで家にいる方が多かったので
それをいきなり1人で働けというのは無茶な話なのだろうが・・。

「?やはりまだ他者と関わるのは難しいのかな」
「それもあるが、俺は母さんが帰ってきた時にきちんと出迎えたい」

・・・・?

「・・それ、男が理想とするいい奥さんの条件か何かじゃないか?」

微妙な顔した純矢がそう指摘してみるとバージルは数秒黙り。

「俺はその位置づけでもかまわな・・」
「い、ワケないだろう」

照れも迷いもなく真っ直ぐ言い切ろうとしてフトミミからべしとツッコミをもらった。

「・・えと・・その奥さんがどうって話はともかく
 バージルさんももうちょっと社交的・・とまではいかなくても
 ちょっとくらいは外の世界に馴染めるようにしような」
「俺には外であろうが中であろうが母さんのいる世界が俺の全てだ」
「おいおい」

再度べしと裏手を入れられ大真面目なつもりなバージルはさすがにムッとする。

「なんださっきからペチペチと」
「・・いや、何というか君は高槻が目の前にいると
 こんな露骨な殺気も拾えなくなるのか」
「?」

何の話だと不思議がるバージルをよそに
純矢の方が先になんのことか気がついたらしい。

そう言えばそうだったと思い出して携帯を取り出し
アドレスから近くにいるのだろう仲魔の名前を選択して通話ボタンを押す。
するとやっぱり近くにいたらしくそれはすぐつながった。

「・・あ、もしもしハーロット?近くにいるんだろ?
 スパーダさんこっちに寄越してくれ」

直後バージルがかなり不満げな顔をし、フトミミが幾分ホッとしたような顔をする。
その理由は純矢が呆れながら言ったセリフにある。

「いいもなにも、影でこそこそされるより堂々と出てきてくれてたほうがまだマシだ。
 うん、フトミミさんにはバレてた。だからこっちに来なさいって言ってくれ。
 それにどうせ帰るなら一緒に帰った方がいいだろ?」

その一言にフトミミとバージルは顔を見合わせて苦笑した。
その会話内容はどうあれそれはそれで純矢らしい話だ。

「うん、わかった。それでお前はまだどこか回る気なんだろ。
 それはいいんだけど、ついでに聞くけどお前まさか着替えのぞいたりしてな
 あ!こら!・・・切れた!」

最後の聞き捨てならない話はともかく
こっそり様子を見に来ていた2人組はスパーダだけこっちに寄越してくるらしい。

そうしてしばらくアイスを食べながら待っていると、10秒もしないうちに近くの木立から
いつもの格好に頭をちょっとしめらせたスパーダが両手広げて出てきた。
やっぱりちょっと遊んでいたらしいが問題はそこではない。

「いいのかジュンヤ君?私も一緒でもいいのだな?」
「いいからいいから!いいですから!銃!その銃しまって下さい!」

おそらくさっきの奥さんがどうとかあたりで発砲しようとしたのだろう。
ダンテとは違う型の銃を抜き身そのままで出てきたスパーダに純矢はあわてた。

この純粋な悪魔さんは仲魔でないので管理できないが
それは考え方によってかなり危険なヤツを野放しにしている気がしてならない。

「・・何やろうとしてたかはあえて聞きませんけど、もう少し人目を気にして下さいよ。
 あ、いやそれはハーロットといた時点で台無しか。
 はいこれ」
「?」

ぶつくさ言いながら突き出されたのは少しばかりの小銭。
息子とそっくりに不思議そうな顔をするスパーダに純矢はアイス屋の方を指し。

「アイス、食べるんでしょう?」

と事も無げに言って
スパーダの顔が息子が思わず目をそらしたくなるくらいの勢いでまともに崩れた。

「ジュンヤ君は優しいなぁ・・」
「・・いや多分俺が優しいんじゃなくてスパーダさん達の感覚がおかしいんですよ。
 それよりいるんですか?いらないんですか?」
「もちろんいるとも。ありがとう。
 この借りはいつか必ずお返しするぞ。覚えておきたまえ」
「100円ちょっとの借りなんて覚えてなくて結構です。
 というか最後の方が軽い脅しチックで笑えません」

しかし誰かと同じでテンションが上がると人の話を聞かなくなるのか
夏に似つかわしくない場違いなブルジョワな紳士は
子供みたいに小走り、とまではいかなかったが
結構な早足でアイス屋に到達して売り子のおっちゃんに一瞬ビクッとされる。

あれがかつて自分が追い求め伝説とまで言われた魔剣士かと思うと
バージルは少し悲しくなるが、働く父と家の父は別物だよとフトミミにさとされた。

で、アイス売ってたおっちゃんはというとさすがに客商売だけあって
数秒後には愛想笑いしつつアイスを作りにかかっている。
おそらく様子からしてなんかのヒーローショーかドラマの出演者かと思われ
暑いのに大変ですなぁとか言われているのだろう。

それにスパーダはダンテと違って丸出しの剣を背負っておらず
全体の色合いも攻撃的ではなく態度もそれなりに紳士的なので
あれくらいで済むのだろう。

でもあんな格好でもモノホンの銃持ってたり日本刀が使えたり
あげく素手でも悪魔とやり合えるという話なのだから
悪魔というのは本当に見た目で判断できない。

・・・いや、それ以前にこの一家が特種すぎて
基準にしたら悪魔全般に失礼だとかそういう次元の話かも知れないが。

結構普通に世間話をしつつアイスを作ってもらってる父を見ながら
純矢は一瞬遠くなった目を現実に引き戻した。

「・・それじゃ遅くなる前に帰りましょうか。
 今日って何か買い物頼まれてましたっけ」
「確か牛乳とごま油の買い置きがきれたと聞いていたけれど」
「加えてカラシと醤油、あと白いゴマもだ」

買い物メモなど持っていないのにすらりと出てくる台詞がちょっと頼もしい。
外見的には似合わないがこの魔人はずっと家にいる事が多いため
家で不足している物をよく知っている。

「お、バージルさんさすがに知ってる」
「まめに見ておかねば重ね買いになるそうだ」
「はは、そうだね。買い置きが重複してくるとちょっと悲しくなってくるし」
「ですよね・・この前朝の全員がいるところで
 そろそろみりんがないなとか言っちゃった時は悲惨でしたから・・」

その時はたしか仲魔の各自がそれぞれ気を利かせ
みりんをそれぞれで1本づつで買ってくるものだから
さすがの黒騎士も大量のみりんを前にして眉間に深いしわを作ったものだ。

などと近所のおばちゃんみたいな会話をしていると
アイスを片手に見た目がとても妙になったスパーダが戻ってきた。

「・・純矢君、スプーンはないのかと聞いたらないと言われてしまった」
「そりゃ普通はありませんよ。もっと盛りつけのしっかりしたやつならあったかもですけど
 それはそのままで食べるやつです」
「・・そうなのか」

しかしそうやって改めて見てみると
道ばたでシンプルなアイスを立って食ってる紳士というのも
書いても想像してもおかしな事この上ないが
まずそれ以前に改善すべきは今この時期にやってるその場違いな格好だ。

「ところでスパーダさん、1つ聞きますけど夏服とか持ってないんですか?」
「ナツフク?夏に福をよぶ縁起物か何かかね」

真顔でそんな返しをしてくる伝説の父に純矢はあちゃあと思い
フトミミとバージルは同時にうわめんどくさと思った。

しかしなんで夏服を知らなくて水着は持ってきてたんだと思うが
おそらくそのあたりはマザーハーロットの手回しかなにかだろう。
そのセンスはそれなりに悪くなかったので
どうせならもうちょっと踏み込んだ話をしておいて欲しかったものだが
あの気まぐれな悪魔にそれを要求するのは無理があるだろうと
純矢は速攻であきらめをつけて説明を始めた。

「・・えーとですね、ここには暑さっていうものがありまして
 今みんなはその暑さに合わせた服装をしているんですよ。
 ほら、袖が半分しかないとか通気性のいい生地のとか、こんなのが夏服なんです」
「・・む、そうなのか」

そう言えばそうなのかとばかりにスパーダはアイスを食べながら
自分の格好をあらためて見回している。

そう言えば前に冬服の普段っぽいのを着ていた事はあったが
夏にするべき涼しそうな服装というのは見たことがない。
悪魔だから気温的に暑いのが平気なのか
それとも半分幽霊みたいなもんだからそういうのが気にならないのか。

まぁどっちにせよ元から格好的に目立つけど
夏場になるとそれに輪をかけて目立つのは確実な話だ。

「そうだな・・では純矢君。今度一緒に見立ての程をお願いできるかな?」
「・・は?」
「こちらの感覚にはまだうとい所もあるのでね。
 以前バージルにしていた服の見立てをしてもらえると嬉しいのだが。
 あ、もちろんバージルも一緒でかまわないので」

その途端、殺気に変わりかけていたバージルの怒気がふしゅんと半分以下くらいになる。
それは目の前で買い物の約束などしたら怒られるから
一緒に行けば文句ないだろうという父なりの配慮
・・だけではないというのをその時フトミミだけが瞬間的に感じ取った。

あ、コイツそこに壁が立ちふさがったなら
乗り越えるのが面倒で踏みつぶすかブチ破るタイプだ。

それに気付かず『じゃあ今度3人で行ってみますか』と相談を始めた主人と
ちょっと釈然としない顔で黙秘している息子。
見た目は嬉しそうで腹の底で何考えてるわからない父を見ながら
やっぱり見た目や個性は違ってもダンテの家族だなぁとフトミミは客観的に思った。

「では近いうちに声をかけてくれたまえ。
 私の予定はいつでもあいているのでそちらの都合の良い時にでも」
「・・・・・」
「そう不信感むき出しの目で見なくともいいだろうバージル。
 別にとって食いやしないのだし」
「・・・・・・・・・・」

それでもなんか信用がおけないのか
バージルは父の手の射程内から純矢を守ろうと
溶けそうになるアイスを落ちないように食べながら
袋入りのシャチを盾に威嚇になってない無言の威嚇を続けている。

単体ならともかく複数となるとやっぱり面倒な事になる家族をよそに
それを苦笑しながら見守っていた純矢にフトミミはそれとなく言ってみた。
 
「・・しかし高槻、この父君に限らずな話かもしれないが・・」
「いいんですよ」

それはもう他の仲魔にもボルテクス時代から何度も言われた話だが
しかしあの世界からすれば今はこう考えることもできる。

「実のところ、俺もけっこう甘やかしてもらってますからね」

だからいいんですと笑う純矢にフトミミはもう苦笑しか返せず
ただめんどくさいだけかと思われていた親子が気づき
似たような顔で不思議そうにした。

「さてと、それじゃ早く帰ろう。
 荷物持ちが増えたから気兼ねなく買い物・・あ、そうだ。
 スパーダさん、今日の荷物持ちでさっきのアイスの分帳消しにしませんか?」
「な・・それはダメだ。せっかく色々考えているのに
 そんな簡単なもので返してしまっては味気ない」
「ははは。貸しを悪用する気満々かこの父君は」
「なにを人聞きの悪い。私はただ少ない接触の機会をいかに有効に使うかを
 あいた、こら何をする」

うっかりもらした黒めな本音に
バージルが袋入りシャチを盾にどすと体当たりをかましてくる。

一緒に帰ろうと言い出したのは自分だが
そのダンテ並に場を引っかき回す体質と場違いで目立つ格好の事も含めて
純矢は軽く後悔しはじめていた。

「・・いいからもう帰りましょうよ。
 できれば目立たないようにケンカしないように大人しく
 ・・って、言ってるそばから何やってるんですかスパーダさん」
「いや、君の髪から妙なニオイが漂ってくるのだが・・」

無意識なのかわざとなのか、誰かさんと同じく人の話を聞かないまま
母の頭をくんくんやりだした父にバージルは再びシャチをかまえるが
これくらいで騒いでたら息もできないとばかりにフトミミに止められる。

「あぁ、塩素ですよ。プールは不特定多数の人が入るから
 そういう消毒剤みたいなのが入ってるんです。
 ちゃんと流したつもりなんだけど・・ってちょっとスパーダさん!
 犬じゃないんだからそんなしつこく嗅がない!」

だがほっといたら行動がどんどんエスカレートしていきそうな悪魔に向かって
アイコンタクトもしてない正確無比なダブルの回し蹴りが炸裂し
道ばたでリーリーと静かに鳴きだしていた虫の声がぴたっと止まった。

「い・・痛いじゃないか。
 止めるにしてもそんな見事なコンビネーション攻撃はないだろう」
「いや本当はそこのガードレールを引っこ抜いて叩き付けたかったんだけれど
 後々の処理が面倒だし上手くやるとホラーな展開になるから中止したんだ」
「・・あぁ、バイクで事故を起こすと(以下怖くて書けません)とかいうやつか」
「ギャー!いらないやめてそんなマメ知識!」

怖い話は苦手だしもうラチがあかないとばかりに純矢は走り出した。
このままだと延々ここでムダにダベられてタイムセールにも間に合わない。

「!母さん!」
「あ、決断が早くなったな高槻も」
「待ちなさいジュンヤ君!強制放置はヒドイ!」

ばたばた走ってくる足音を背に純矢はかまわず走った。
昔どこかの砂の世界ではいつも誰かの後ばかり追いかけていたので
このくらいはいいだろうと少し笑う。

それと同時にさっき言った甘やかされてるとかいう話を思い出し
自分で言った事なのに少し赤くなるが、その時はちょうど夕焼けだったので
それは誰にも気付かれることなく誤魔化すことができて
夕日に感謝だなとか思ってまた少し赤くなった。









病院で目が覚めた時に比べればそりゃあもう恵まれてるって話。

ちなみにこれ、去年PS3が突然おじゃんになった時、腹いせに書き出した話です。
腹いせなので続きません。
しかしこういうプール行ったのってもう20年くらい前の話なので
記憶としてはかなりあやふや。
でもアイスもかき氷もクーラー効いてない外で食うに限る。

ちうか最後の方、父が勝手にそっち方面に軌道修正しようとしたので大変でした。
修正前にはオビマワシとか言ってたんだぜ。もうバカの真骨頂(俺が)。

でもそのうちD氏ふくめたみんなでの海の話とかも書きたいなぁ。

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