バージルがそれを見つけたのは、簡単な外出から帰り
読みかけていた本を読もうとそれを置いた場所へ向かった時だ。

きちんとしおりをはさんであった本を見つけ、何気なく手を伸ばそうとした時
ふと縁側に先程まではなかった物があるのに気がつく。

それは一体いつからそこにいたのか
半分に折った座布団をまくらに小さな文庫本を片手にして
縁側の一番日当たりのいい暖かい場所で丸くなっていた。

「・・・・・」

バージルはふと小さく笑みを漏らし
音を立てないようにそばに寄って顔をのぞき込んでみる。
寝顔を見るのは初めてではないが、丁度いい日当たりと温度のせいか
いつもより心地よさそうに見えて自然と顔が緩んだ。

本を読んでいるうちに寝てしまったのだろうか
それとも眠るために本を読んでいたのか
しかし暖かいとはいえこんな所で寝ていて風邪を引かないだろうか。

そんなことを考えながら膝をつき、そばに腰を下ろしてみると
確かにそこは丁度いい温度と日当たりで
故意にしろ偶然にしろ随分と快適な場所だった。

ためしに同じように寝ころんでみると、やはり木の床は少し固かったが
それでも居心地の良い場所としては十分すぎるほどだ。

だが温度とか日当たりなどの条件はあっても
やはり一番の理由はそこに再生の母がいるからだろう。

それがなぜなのか理屈として説明することは難しいが
ここにはそういった理屈で片づかないことが多くあり
そしてそれが悪いことでない事もバージルは学んで知っていた。

音を立てないように少し距離を詰め耳を澄ませると
すーこーとちゃんとした寝息が聞こえ、それがなぜだか嬉しくて
バージルは触れるギリギリまで近寄って
滅多にない機会をしばらく1人で堪能した。

・・不思議だ。本当に不思議だ。
別に何をするわけでもなくこうして寄り添っているだけなのに
これほど暖かくて落ち着いて安心して眠くなるものなのだろうか。

そんな事を考えていたバージルは最後の『眠い』の部分にしまったと思う。
もっとこの時間を楽しんでいたいという気持ちとは裏腹に
やはり居心地のいい場所というのは勝手に睡魔がやってくるものらしい。

・・怒られないだろうか。
いや、ベッドに潜り込むわけではないのだし
触れてもいないし抱き枕にもしていないのだから・・大丈夫だろう。
それによく寝ている所を・・起こす事もないだろうし・・・
もっと見ていたい気もするが・・それにしても・・・・・

などと色々考えている間に目蓋が重くなり
知らない間に意識が遠ざかっていく。

もうちょっと見ていたかったのに残念とは思いつつ
まぁいいやと思う気持ちが結局勝ってしまい
バージルは読みかけていた本を読む事も忘れ
純矢と同じく日なたの住人となってしまった。



「・・・?」

買い物から帰り自前の買い物袋から中身をごそごそ出していたブラックライダーは
視界のはじで動いた物にふと手を止めた。

見ると廊下で大きめの座布団が2枚
重なった状態でのののと動き、勝手にどこかに行こうとしている。

「・・・・」

無言で近づきはじっこを踏んでみると
思った通り、下から庭の敷石みたいに平たくなった石ピシャーチャが出てきた。

運んでいた物がなくなった石幽鬼はあれ?と目を伸ばしてあたりを見回し
最後にこっちを見てひゃあとばかりに飛び上がった。

しかしこれは別に驚くほどの事ではない。
前にもこれと同じ事があって家中の座布団を一カ所に集められた事がある。

と、いうことは・・またアレがどこかで力尽きて寝ているのだろう。

ブラックライダーはしばらくピシャーチャを凝視していたが
やがて黙って座布団を取り、かわりに押し入れからタオルケットを出してきた。

ピシャーチャはそれを見てホッとしたように一端目を引っ込めかけるが
すぐ慌てたようにコココとブラックライダーの前を移動し始める。

そしてピシャーチャの向かった先について行くと
予想通りのが1つとそれとは別の予想外が1つ
日だまりでなかよく向かい合いネコのように丸くなって寝ていた。

ブラックライダーはほんの少し片眉を動かし、それをしばらく眺めていたが
やがてやれやれとばかりに肩をすくめ、持ってきた物を広げ両方にかけた。

そしてタオルのあまった部分にピシャーチャをのせると
人差し指を口の前に立て、そーっとその場を後にする。

それは起こさないようにというのと
一応見張っててやれと言う意味が込められているのだろう。

その意図を察したピシャーチャはしばらく一本だけ出していた目で
寝こけている2人をふらふら交互に見ていたが
あまり動くと起こしてしまうと思ったのか
やがてすぽんと目をひっこめ、ただの石に戻った。




そしてそれから2人が目を覚ましたのは
夕方近くになってトールが大声で帰ってきた時のこと。

まったく知らない間に状況が激変してた純矢は
目の前で爆睡してたバージルと重しになっていたピシャーチャに
なんで起こしてくれないんだよとくってかかったが・・

では逆の立場だったのならどうしていた?と反対に聞かれて
口を閉じざるを得なくなってしまい・・

今度からうたた寝する時はちゃんと起きて部屋で寝よう
でないと起きた時にどうなってるかわからないと思ったとか。





「・・母さん、怒っているのか?」

「・・いや、怒ってはないけど
 寝てる間に目の前が色々変化してると、何があったのか気になるだろ?
 ・・ヘタすりゃハーロットあたりに写メられて悪用されそうだし」

「大丈夫だ。言葉の意味は分からないが、母さんは俺が守る。
 だから安心してどこででも眠るといい」

「・・・寝ぐせつけた上にかっちり寝跡ついた顔で力説されても・・・」








絵を描こうとしてて途中で恥ずかしくなって文に変更した突発ブツ。
もし描きたい描けるぞーってな方はお好きに描いてみてください。
私はなぜか照れて無理でしたよ。

絵を見て文章を作るのが楽か
文章を見て絵を作る方が楽か。
それはおそらく両方できる凄い人にしかわからないんだろうなぁ。

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