ジリリリリ! ジリ
ガチャ
「Devil May Cry?」
『・・・・んあ?』
「・・何だエンツォか。なに間抜けな声出してやがる」
『・・いや・・あんまり素直に出たんでビックリしたんだよ。
いつも取るまでに数コールかかるし昨日は徹夜で仕事だったし
運が良ければとって速攻できられるかなってくらいの気持ちでかけたんだが・・』
「そうだったか?」
『そうだよこの気分屋。・・いやそれより、とにかく昨日はご苦労さんだったな。
まさか気まぐれなアンタがあれだけの仕事を一晩で
しかもいっぺんにキッチリ片づけてくれるなんてなぁ』
「たまたますぐ実入りが必要だっただけで今回は特別だ」
『しかしそんな仕事の後でもすぐ電話に出るって事は
ここ最近の機嫌はいいんだな?』
「・・まぁ悪くはないな」
『ようし!じゃあ話は早いな!実は昨日の件での続きの依頼と
お前が好きそうな胡散臭い仕事が2件ほど・・』
「あぁ待て。オレも今その事でそっちに連絡しようと思ってた所だ」
『うぉ!?今日はとことん珍しいな!お前から連絡してこようなんて
明日はハリケーンでも来なきゃいいがな!』
「・・オーバーなヤツだ。で、オレからの用件は1つだけ
簡単な事だからメモもいらない。一度しか言わないからよく聞け」
『おう、なんだなんだ?』
「しばらくオレにはどんな内容であっても一切の仕事を回すな。以上だ。」
『あぁ、そんな事か。そんなのお安いご用・・なにーー!?』
「・・・うるさいな・・大声出さなくても聞こえてる」
『おまッ!ホンキか!?今日回そうとしたのは昨日やったヤツの倍額で
しかも残りはお前の好きなバケモンがらみ・・!』
「ダメだ。オレは今仕事や悪魔より大事な事に関わってる最中だ。
怒鳴ってるヒマがあるならトリッシュあたりに頭下げて頼み込むんだな。
じゃあキリがついたら連絡する」
『おいこら!ちょっと待ちやがれダン・・!!』
ガチャン
問答無用で受話器を置き、ダンテはしばらくその電話の様子を見てみたが
さすがに長年の付き合いでこちらの性格を知っているだけあってか
馴染みの情報屋は速攻でかけなおしてはこない。
・・よし、利口だ。
再度うるさく鳴ったら遠慮なく撃ってやろうと電話に向けられていた銃口がはずれ
二度ほど回転して元の場所にすとんと戻った。
しかし電話ではラチがあかないというなら
しばらくして直接怒鳴り込んで来るかもしれない。
まぁその時はその時で追い返すなり
上の奴を紹介してから速やかに追い返せばいいだけだと
ダンテは背中にあったリベリオンを壁にかけ二階へと足を向けた。
そこにはさっき言った通り、仕事より悪魔より大事な客がいる。
ついさっきまでその客のために一晩かけての荒稼ぎをしてきたが
下にそのおまけや付き添いがおらず、しんと静まりかえっている所を見ると
どうやらその当人はちゃんと割り当てた部屋で寝ているらしい。
ただ押しつけた部屋が自分の寝室だったため、最初はかなり遠慮されたが
そこ以外は何が出てくるか保証できないと脅しをかけてやると
かなり渋々だが了承してくれた。
普段なら絶対しないがなるべく足音を立てないように階段を上がり
やはり普通なら絶対しないが音を立てないようにそっとドアを開ける。
するとようやく明るくなりだした部屋のすみ
いつも自分が使っている大きめのベットの上にそれはちゃんといた。
さっき少し下でけたたましい音をさせたというのに
それはよほど疲れていたのか微動だにせずシーツにくるまっていて動かない。
足音を忍ばせて近寄って見ると
そこにもうツノはないのに横向きに丸くなって
いつもは見られないちょっと無防備な顔をしている少年を見つける事ができた。
ダンテはどこかで聞いた仕事で深夜に帰宅して
子供の寝顔を見るのが楽しみだとかいう話を思い出し
気持ちがわかったような気がして1人小さく笑う。
・・しかしやっぱり寝てるとただのガキだな。
おまけにまだ横向きになるクセが残って・・
と思ってさらに近づこうとしたその時
ダンテは急にある違和感を覚えて動きを止め
軽い緊張と共にざっと周囲に目を走らせた。
お世辞にも綺麗とはいえない寝室は
ベッド上は多少片づいているもののそれ以外は自分が知る元の部屋のままだ。
だがなんだこの違和感。
ここはいつもオレが寝る部屋で、ただそこにコイツがいるだけの事なのに
こんなにも雰囲気が違うものなのか?
と思いつつ目を戻し・・
「・・・・?」
そこでダンテは純矢の様子が何か変であることに気がついた。
このベットはガタイのいい自分が使うので大きさも広さもそれなりにある。
狭いのは困るが広すぎても困らないだろうと思ってこのサイズを購入したのだが
それがどうしてこの少年のサイズでちょうどいい見栄えになるのだろう。
一瞬いわゆる成長期かと思ったが
いくら悪魔でもたった一晩でこれだけ身長が伸びる奴もないだろうし
シーツに隠れてる部分だけでも自分と同じくらいのサイズというのも変だし
なんか足が四本になってるのも変・・・
「・・・・・・・・・・」
がっっ!
とある仮説に行き当たり、力一杯シーツを引きはがそうとしたダンテの手は
触れる寸前中から出てきた別の誰かの手に掴まれた。
その手は太くてがっしりしていてもちろん純矢のものではない。
そしてやけに大きいと思っていたシーツ部分から
見た事はないけれど寝起きでとても不機嫌そうな自分の顔・・ではなく
起き抜けでまだ髪を撫でつけていない、自分似のバージルが出てきた。
「・・・何してやがる」
心の底から怒気の混ざった低い声でそう言うと
双子の兄は同じような心底不機嫌そうな声でこう言ってきた。
「・・・見て・・わからないのか?」
「わからん」
「・・・寝ていただけだ」
「オレの見解からあえて言わせてもらうなら、夜這いの後に見えるんだが」
「・・くだらん。お前ではあるまいしそんな事をするか。
・・それより早く出て行け。母さんが起きる・・」
そう言うなり眠たげに元の場所へ潜り込もうとしたバージルを
実は頭から血を吹きそうなくらい怒ってるダンテがむんずと阻止した。
「・・てめぇ・・オレが一世一代の賭けをしてまでやった事を
いともあっさり当たり前みたいに実行しやがって・・」
「・・お前とて昔の母さんに同じような事をしていたろう」
「そりゃ大昔の話で今は事情が大いに違う。
大体どうしてそんな昔の話を今頃になって
しかもよりにもよってそいつを使って蒸し返しやがる」
「・・そんなものはお前の事情で今は俺の勝手だ。
・・それと前にも言ったが母さんはお前の所有物ではないし
お前が独占する権利もない」
「それは多少認めるが実際問題アンタの物でもな・・」
「・・・・・なぁ・・・2人とも何やってんだ」
小さい声で話していたつもりだったが
やはり口喧嘩としては気配が五月蠅かったらしい。
気がつくとさっきまで寝ていた純矢が目を開けていて
寝起きの顔のままこっちを見上げていた。
「・・・こんな朝からもうケンカか?・・2人とも好きだなぁ・・」
「「好きじゃない」」
「・・・ふぅん・・・んで、今度は何をもめてたんだ?」
その途端、今までひっそりと口ゲンカしていたつもりの兄弟は
同時にそっぽを向いて誤魔化した。
「・・別に大した事じゃない。それより他の連中はどうした」
「・・えっと・・ダンテさんが仕事に行ってる間に
買い出しとか簡単な掃除とかしてたんだけど・・下で見なかったか?」
「・・そう言えばキッチンに誰かいたような気がするが・・」
「・・じゃあ誰か朝ご飯のしたくしてくれてるんだろ。
ちょっと待って・・今起きるから」
そうしてゆっくり起きあがり純矢はあくびをしながら
そこらへんにかけてあった着替えをとる。
ダンテはその後で同じように起き、何事もなかったかのように着替え始めてる兄に
今すぐ殴りかかるか発砲したい衝動をおさえつつ聞いてみた。
「聞いていいか少年」
「ん?」
「何でそいつはオレが賭けまでしてこじつけた事を平気でやってる」
「?・・あぁ、一緒に寝るってあれの事。
本当は俺がそっちのソファで寝てバージルさんがこっちの予定だったんだけど
バージルさんが俺にこっち使えって聞かなくてさ」
「・・それで?」
「でもそれだとバージルさんの方があんまり寝苦しそうだから
ちょっと窮屈だけど一緒に寝る事にしたんだ。
・・あ、先に言っとくけどバージルさんは真面目だから変な事はしてないぞ」
「・・ちょっと待て。その口ぶりからしてこんなのは日常的だとでも?」
「そりゃ日常的な事はダンテさんより長く経験してるからな。
寝る部屋はいつも一緒だし朝顔洗うのも一緒だし
ごはんもいつも待っててくれるし、見送りも出迎えもしてくれるし・・」
「オレが散々つきあえって言った風呂は?」
「一緒だけど?」
寝起きでそこまで頭が回らなかったのか
それとももうこんなのも慣れたからそこまで考えが回らなかったのか
さらりと言われてしまった地雷発言に
ダンテはあっさりぶち切れた。
ガンガンガン!キュイン!ドゴン!ガラパリーーーン!
「・・・またですか」
一階のキッチンでリンゴをむいていたサマエルが
振動でホコリの落ちてくる天井を見上げながら無感情につぶやく。
その足元では石ピシャーチャが落ちてくるリンゴの皮だけをもそもそと食べていて
上からする音に時々驚くように目をぱちぱちさせていた。
「多少の予想をしていたとは言えこうも頻繁に騒がれていては
一々止める気力も起こりませんね」
「ケンカするほどなんとやら、という言葉もあるし
場合によっては特に止める必要もないという事だろう」
炊飯器がないので鍋でご飯を炊いていたフトミミが
火加減を調節しながらのんびりと笑った。
「それに今まで離ればなれだったんだから
お互いいきなり仲良くしろとも言えないよ。
まして2人ともあの性格なのだし」
「・・そう考えると魔人ダンテという存在に関わった時点で
ジュンヤ様の将来に静寂などないも同然ですか」
「ははは。何を今更」
ゴドン ゴン
そして上でしていた激しい物音は
何か重い物が2つ落ちた音を最後にぴたりと止まる。
「・・けれどその中心にいるはずの高槻は
そんな事あまり気にしないのだろうけどね」
そうしてフトミミが火を止めて見上げたホコリっぽい天井からは
もうそれ以上の激しい音はしなくなっていた。
「・・んで、そりゃ兄弟なんだから多少のケンカはするだろうし
考え方の行き違いとか価値観の違いとかもあるの当たり前だろうし
前みたいな殺し合いをしなかったのもまぁいいとしてもだ
えー・・つまり手っ取り早い話として手短に言わせてもらうと
2人とも、ずっとこんな事してたら家がもたないぞこんちくしょう」
元から色んなものが散乱した部屋の
その上さらに窓ガラスや家具まで散乱した場所で仁王立ちになり
正座した大の男を目の前にしたタトゥーも鮮やかな少年は
呆れとも憤慨とも言えない声を出す。
暴れる範囲がせまかったのでスキル攻撃ではなく
グー1発づつで止めることが出来たのは不幸中の幸いだったろう。
「そもそもダンテさんは何をいきなりそんなに怒るんだ?
バージルさんも俺も何も悪いことしてないじゃないか」
「・・・怒ってない。ムカついただけだ」
「一緒だバカ!!」
その怒鳴り声になぜかバージルの方がビクッとなる。
バージルは純矢の優しい部分はよく知っていても
こういった面はあまり知らないのでまだ慣れないのだ。
「・・お前のせいで母さんが怖くなっただろう。どうしてくれる」
「・・だから何でもオレのせいにするな。コイツは元々これでデフォルトだ」
「そこに火種をつけているのはお前の責任だろう」
「その原因を作ってるのはアンタだろうが」
「自分の不甲斐なさを俺になすりつけるな。
そもそもお前はどうして昔から俺の周りを勝手にかき回して
沈静化してから正当化しようとする」
「アンタこそオレの前で好き放題やらかしやがって
そっちは性格上前しか見えないんだろうが
その後ろにいるオレの後始末とか苦労とかを少しは考えたことが・・」
「はいはい、2人ともいい加減にしよう。話が前に進まないぞ」
などとまた始まった口喧嘩に手を叩いて入ってきたのは
エプロンと三角巾を装備し、どっからどう見ても
給仕のお兄さんみたいな格好をしたフトミミだった。
「あ、フトミミさんおはようございます」
「あぁおはよう。朝からご苦労様。
それともしもの時のために持ってきた米と鍋
あとインスタントのみそ汁が役に立ってるよ」
「あ!すみません朝ご飯作ってくれてるんですか?」
「かまわないよ。炊事は慣れているし
酷い状況下を改善するのもなかなか楽しいものだ。
しかしキッチン要所の修復は応急としては済んだけれども
使えそうな食材や器具が見事なまでにまったくなくてね。
なんだかホームレスの炊き出しをやっている気分だよ」
「・・・・・・」
なんだか自分の家の言われようがさりげにヒドイが
この鬼神に口答えするとロクなことがないのでダンテは黙っておく。
「ともかくみんな早く下りておいで。
おにぎりもみそ汁も冷めてしまうと美味しくない」
「すみません。着替えたらすぐ行きます」
「いやいや、そうあわてなくていいよ。
でもそこの2人はまだ口喧嘩に時間がかかるようなら
メギドラでタヌキ色になるまで焼くか
口がきけなくなるまで地獄突きのどちらか選択に・・」
「「もうしわけありませんでした」」
さわやかに言われたその恐ろしい話に
2人はそろって日本で覚えた90度謝罪をした。
ちなみに2つ上げられた選択肢
早い話がウェルダンと半殺しだ。
「じゃあ早く着替えて下りておいで。
もちろん物理のケンカも口ゲンカもなしでね」
そうしてキッチリ釘をさしたフトミミはごく普通の足音を立てて階段を下りていく。
しかしその足音、来る時にまったく音がしなかった事もふくめて
なんだか本当に鬼が地響きたてて歩くような怖い音に聞こえなくもない。
・・・ここ・・・確かオレの家だったよな・・
とダンテはなんだかちょっぴり哀愁にくれた。
「・・さてと、それじゃあ着替えて早く下りようか。
ダンテさんもその仕事着早く脱いで。あと銃も家の中だといらないだろ」
「・・母さん、靴下が見当たらないが」
「そっちのカバンの左のすみっこ」
しかしそう思った所で数の暴力と
この少年にはかなわないのは百も承知なので
もう何度目かになるがダンテは黙って心の中でだけ涙をのむ事にする。
そうオレは大人だ。
多少の事は大目に見るのがスジってもんだ。
ましてあっちからわざわざこっちに来たんだ。
機嫌を損ねるような事をして逃げられたら
いくらオレでも破壊された店共々しばらく立ち直れない。
などという彼にしてはちょっと後ろ向きな事を頭の中でつぶやきながら
ダンテはコートと銃を定位置に引っかけ
簡単な着替えをして部屋を出ようとした。
が・・
「・・あ、そうだダンテさん」
その背中に思い出したかのような言葉がぶつかる。
なんだと思いつつ振り返ると
今タマゴからかえったヒナのような寝ぐせをつけた少年が
それを撫でつけながらふわりと笑った。
「おかえり。あとおはよう」
その途端、ダンテの中にあった不満とか何やらが
いっぺんに頭の中から抜け落ちて足元に転がり落ちた。
そうしてそれから
あぁ、そういやコイツはそういう奴だったよなと
今ごろしんみり思い出す。
そうして動きが止まってしまったダンテに
その元凶である少年が不思議そうに首をかしげた。
「?何ぼーっとしてるんだ?・・もしかして仕事疲れか?」
「・・いいや、おかげさまでたった今そんなのは全部吹っ飛んだ」
考えてみればこの少年
とある世界で大量の悪魔を退けその世界の破壊もやらかしたが
同時にあらゆる事の再生も同時にしてきたのだ。
だったらいつも何かを壊すことで道を切り開いてきた自分が
気苦労を背負うことなど何もない。
ダンテはそんな事を考えながらほんの少しの照れをにじませて
不思議そうにしている少年に手を伸ばした。
「・・ただいま。それとおはよう・・だな?」
手を伸ばすとそれはすぐ手の届く範囲にいて
なんで疑問系なんだよと言いつつちょっとくすぐったそうに身を小さくする。
くれた言葉は母のようで
でもこういう時だけ仕草が子供みたいで
手を出すとひっかくような野良猫みたいなヤツかと思えば
自分の身のことも考えずに平気で他人の間に飛び込んでくる。
そのどれがこの少年の本当の部分なのかは
それなりに付き合いのあるダンテにすら未だ分かっていない。
だがそれでも今確実に言えるのは
ただこの少年が近くにいるというだけで
度の高い酒を飲んだ時のように心が芯から温まるということだけだ。
ダンテは少し笑ってぽんぽんとその頭をはたきながら
正直な気持ちを口にした。
「・・しかしオマエ、ホントに変なヤツだな」
「えー・・それって誉めてるのか?」
「もちろん。オレにすれば極上の誉め言葉だ」
「・・・そうかぁ?」
「・・なんだそのあらん限りの疑惑の目は」
「それが誉め言葉だったにしろ違うにしろ
なーんか不吉だなぁとか思ってるだけだよ」
しつこく頭を撫でていた手をぺしとどかしながら純矢がそう言うと
ダンテは急に笑みの形を変え、その腰をぐいと引き寄せた。
「ほぉ?ならもっと直球で腰が砕けるくらいの熱〜い言葉がお好みか?」
そしてその直後
ダンテは至近距離からのメガトンアッパーと
追い打ちとしてあり得ない速度で飛んできた枕に顔面を直撃され
朝ご飯の前に丁度偵察から帰ってきたマカミから
呆れたようにディアラマを受けるハメになったのは言うまでもない。
ツッコミが2倍に増えたのでダメージ量も2倍になったD氏。
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