チュンチュ・・・・・チチチチチ!

庭先に降りて地面をつつこうとしていたスズメが
何かに怯えたのか地面に着地する寸前慌てたように飛びさっていく。

それはきっと縁側に並んで座っている
というか無言のままずーーーっとそこにある
よくできた置物みたいな2人に動物の感で恐れをなしたからに違いない。

一方は外を見たままほとんど動こうとしない青年
一方は同じく外を見たままほどんと動かない・・というか動けないでいる
紫の鮮やか、だが見る人にとっては確実に引くだろう外国貴族風紳士。

その2人はさっきから並んで外を見たまま
かれこれ小一時間ほど無言のままただそこに座っていた。

なにせバージルは死んだと思っていた父親がすぐ近くにいて
それだけならまだしもあんなカッコと行動をされたあげく
再生の母にちょっかい出そうとしていたのだから
その心境たるや複雑どころの話ではなく
スパーダはバレないと思い調子に乗って色々やらかし
結果最低な状態が息子にバレたという事態になったため
気まずいやら何やらでさすがにどう言い訳していいのか思いつかず
ともかくどっちも無言のまま、ただただ重い時だけが流れていく。


「・・・何やら隠し通せぬほどに強烈な浮気現場を目撃された父と
 恥も外聞もプライドもなく必死になってそれを口止めされた
 グレかけ寸前の思春期息子のようじゃのう」


それを部屋1つ向こうの居間で見ていたマザーハーロットが
ちゃぶ台にのっていたかりんとうをボリボリさせつつ
ドラマ慣れした主婦のような意見を吐いた。

だが実はそう言われると結構その通りっぽいので
その場にいた誰も反論しないのがちょっと恐い。

バージルには一応スパーダの事情等を説明はしたが
やはりというかなんというか、それっきりバージルはあの状態のまんまだ。

スパーダの方はそれなりに歩み寄ろうとしているらしいのだが
なにせ長年ほったらかしてきた息子にかける言葉など
こんにちはとかいう日常会話程度も持ち合わせていないのが現状だ。

「・・・で、どうしよう」

心配しているのかそれともただの野次馬なのか
1つの部屋にみっちり10体集合してそれを見守る
もしくは見物しているような仲魔達を見回しながら純矢は言ってみた。

あれはあの親子の問題なのだから2人に任せておくのが一番だとは思うが
あのまま放置しているとそのまま世紀末が来てしまいそうなほど
2人の間にある空気はピクリとも動かない。

そしてそんな後ろ姿を見ながらまず口を開いたのはミカエルだ。

「・・どうもこうも、完全なる自業自得だ」

ごもっともかつ身も蓋もない意見で切り捨てるのは
さすがに並べて書いただけでも仲のよろしくなさそうな種族
つまり天使と悪魔なだけはある。

「悪魔狩り父とていつかこうなる事を予想はしていたはずだ。
 それが少し早まりタイミングが悪く発覚してしまっただけの話だろう」
「・・マ、ソノ間ノ悪サモアル意味神業ミタイデドッカノ誰カトソックリダケドナ」

その上で裏返ってふんにゃり浮いていたマカミも
まるで他人事同然に首をもたげながら補足をつける。

どっかの誰かというのはマカミの付き合い上、聞くまでもない。

「いわゆる悪のりの結果ですね。
 詰めも読みも甘かったとしか言いようがありません」
「右ニ同ジダナ」

などとすげない意見を出したのはサマエルと
その横で丸くなっていたケルベロス。

「しかし・・バージルはどうなるのだ?あれには特になんの落ち度もないが」
「いっそあの父君を最初からなかった事にするという手もあるが・・」
「あ、ストップ。それはちょっと勘弁して下さい」

唯一同情的意見を出したトールに
恐ろしげな提案をくっつけようとしたフトミミを純矢は慌てて止めた。

そのなかった事にするというのが具体的にどうすることなのかは
あえて聞かない。

純矢は自分の横で目を1つ出し
困惑気味に目をウロウロさせている石ピシャーチャを撫でると
興味ないのかカカカと首をかいているフレスベルグを肩に乗せたまま
もくもくとお茶の準備をしているブラックライダーを見た。

しかしよく見るとそれは興味がないというわけではなさそうだ。
だってその用意してある湯飲みは、こっちにいる人数とは別に
3人分がきちんと用意されている。

そしてそれをそっとこちらに押しやりながら
相変わらず血色の悪い死人のような初老の男はこんな事を言い出した。

「・・・主・・・」
「ん?」
「・・・人の世なら・・・人の流儀だ・・・」

その言葉も相変わらずやたら短く
聞く人によっては何を言っているのか分からないが
純矢は付き合いが長いのでその意味をすぐに理解した。

つまりはこうだ。

ここは東京、人のいる世界。
バージルにも悪魔ではなく人の世界の流儀を教えている。
ならあの親子が悪魔だとか半魔だとかいう話は関係ない。
人の世界のやり方でおさめるのが道理だという助言を
この無口な魔人はくれたのだ。

純矢は少し考えると何を思ったのか無言で立ち上がり
バタバタと走って自分の部屋へ行くと何かをかかえて戻ってきた。

それは赤い表紙をした少し厚めの本。
それはあの縁側で彫像のように固まっている2人以外は
何であるかは知っているものだ。

「・・ふむ。成る程のう」

その場にいた全員の気持ちをマザーハーロットが代弁する。

それは東京でこんな大家族生活をするようになってから作られ
ある時期だけを記録し厚みを増していったとある本だ。

バージルが再生してからは彼の心を乱さないようにと
彼の再生後に少しまとめて自室の押入に隠してあったのだが
今なら見せるにはいい機会だろうし、きっと力になってくれる。

純矢はそれとブラックライダーの用意したお茶セットを手に・・
2人の間に・・

「う”ッ・・!」

入ろうとしたがその2人の間にだけ存在する強力な結界というか溝というか
とにかく次元すらもゆがめていそうな重たい空間に一瞬怯むが
勇気と気合いをふりしぼってその間に身体をねじ込む。

正直自分からこんな空間に入っていくには
知り合い夫婦のケンカの仲裁に入るくらいイヤなものがあるのだが
慣れというのは凄いものだ。

「・・・あのさ・・・まぁ・・・色々あるだろうけど・・
 2人とも・・これ、見てくれないかな」

父と子がそこでようやく固定し続けていた視線を動かし
真ん中にいた少年の指示した物に目をやる。

それは赤い表紙をしたアルバムだ。

少し新しいそれのタイトルはこう書かれてあった。


『どっこいハンター』


それを見たバージルがはっとしたように目を見開き
スパーダが少し驚いたような顔をする。

赤い表紙にハンターと書かれているなら、何であるのかは簡単に想像がつく。

純矢はそれを気配で感じつつ表紙を開いた。

まず最初にあったのは、一体何をしているのか
ぐるぐるに巻き付いたマカミと何やら言い争っているようなダンテだ。

それはバージルと同じ顔をしているのにやはり性格の違いだろうか
随分と印象が違って見え、同じ顔なのに別人のように見える。

そして次にあった一枚にはかなりムッとし
眉間にシワをよせているいるケルベロスを枕にし
居間でごろ寝しつつ足で雑誌を取ろうとしているダンテがあった。

「そう言えばみんなそれなりに似てるんだけど
 こうして見ると違いがよく分かるな」

純矢はそう言いつつぱらぱらとページをめくる。

早食い競争でもしているのか、向かいにいるトールと一緒になって
ふりかけごはんをスプーンでかきこんで飯粒だらけになっているダンテ。

多分風呂上がりに何かしようとしたのだろう。
純矢とミカエルのダブルキックを受けて
裸足の足とバスタオルしか写っていないけど多分おそらくダンテだろうもの。

「最初は俺がふざけて一枚とったのがきっかけだったんだけど
 ダンテさん嫌がるかと思ったらなんでもいいからたくさんとれって
 逆に嬉しそうに言い出してさ」

そう言えばさっきから写っているのはあんまり格好良くない
どうでもいい場面を撮った物が多い。

廊下を歩いている最中や読めもしない新聞を読んでいる最中
歯を磨いているのやフレスベルグとおかずの取り合いをしているもの
たまにフトミミからボディブローやサマエルから手刀をもらっているものなどもあるが
大半はあまり写真にするほどの物でもないものばかり。

「それからこうして色々撮ってみたんだけど・・
 でもこうして適当に写真を撮ってバージルさん達と会ってから
 その時ダンテさんが言った事がどういう事なのか、分かったような気がするんだ」


『え?ちょ・・ちょっと待てよ。
 なんでもいいって言ったって写真っていうのは
 そんなやたらと撮ればいいってものじゃないだろ?』
『何言ってやがる。フイルムってのは撮ってサンボの代物だろう』
『ナ・ン・ボ。・・そりゃそうだろうけど
 どうでもいい物ばっかり撮るのはただの無駄遣いだろ』
『・・・ほほぅ?どうでもいいかどうか・・・・身をもって教えてやろうか!!』
『え?な!・・ちょっと何すん・・ぎゃーー!!


その直後暴れた時にシャッターが切れたのだろう。

悲鳴を聞きつけ飛んできたのだろうフレスベルグの尾っぽと
ケルベロスの肉球がぼけた状態で写っている一枚を出し
純矢は懐かしそうに笑った。

「・・多分ダンテさん、家族とあんまり写真をとれなかったから
 ここでたくさん写真を撮りたかったんだ。
 ここであったことに無駄なことなんて1つもないから
 なんでもいいからたくさんの思い出を記録しろって・・そう言いたかったんだと思う」

そしてその証拠となるような一枚は
最後のページに大きく引き延ばして貼り付けてあった。

それは今座っているこの縁側でとったのだろう。

色のついた石を持ったオッサンや、鳥を肩に乗せた心霊写真みたいなじいさん
無表情な美人、少し血色の悪い青年にフレームから出かかってる大男
美人だがきつくて派手でいろんな獣を足元に置いている猛獣使いみたいな女。

そしてそんな姿形にまったく統一性のない連中の中心で
困っているような純矢の肩を馴れ馴れしく抱いて
後のミカエルから拳骨、足元のケルベロスに噛まれる直前なダンテがうつっていた。

それは物凄くムチャクチャな構図で
誰が母で誰が父とか兄弟とか、まったくまるで思い浮かばないというのに・・


それはなぜだか紛れもない、一枚の家族写真のように見えた。


「・・ダンテさんはバージルさんとかスパーダさんの話をあんまりしなかったから
 俺はバージルさん達の家族の事をよく知らない。
 でもそれでもダンテさんが家族が好きだった事は最近わかったんだ。
 そうでなきゃ元々狩るだけの存在だった悪魔とこんな楽しそうにしてないし
 俺にバージルさんやスパーダさんの事、隠したりしてないと思うんだ」

その奇妙な家族写真を渡されたバージルは
変な写真の中央で楽しそうに写っている
最後に見た時からすれば随分と見た目の印象の変わった弟を見つめた。

「ダンテさんは・・こうしてると何も考えてないように見えるけど
 実は結構寂しがりやだったんだよ。
 自分の店を放り出して、いれるだけこっちにいようとしてたし
 帰る時に意地はって妙な工作しようとするし
 それにこうして撮った写真、結局どれがいるかいらないかも選別もしないで
 全部焼き増しで持って帰ったしさ」

純矢はそう言って
自分の間に出来ていた見えない結界を壊すつもりで
両脇にあった腕を一本づつ軽く引っ張った。

「けどそれは今こうして俺達と一緒に住んでるバージルさんも同じだと思うし
 影からこっそり様子を見てたスパーダさんもきっと同じだと思う。
 みんな性格とかやり方とか違ってても、みんなやっぱり家族が好きなんだよ」

そう易々と因縁のあった弟を受け入れる気にはなれなくても
それをただ見守る事しかできなかったとしても

この不器用な一家はやはりどこかで同じような気持ちを持っているから
こうして家族ではないけれど家族のような悪魔の集団
そしてその中心にいる者に引きつけられているのだ。

「ちょっと無責任に聞こえるかもしれないけど
 俺は別に難しく考えることないと思う。
 だって俺達と違ってダンテさんもバージルさんもスパーダさんも
 みんなちゃんと血のつながった家族なんだし。
 それに・・・」

両側にあった腕をぐいと引き寄せて引き合わせるようにしながら
何より絆を重んじる少年悪魔は言った。


「家族っていうのは一緒にいるっていう事だけでも大切な事だと思うんだ。
 それってすごく何気ない事かもしれないけど
 一番基本的で、当たり前みたいに聞こえるけど
 けど実は結構幸せな事だと・・俺は思うんだ」

バージルとスパーダは同時に息をのむ。

それは昔、もうすっかり記憶の底で風化しかけていたとても大事な人間の・・
・・いや、悪魔だとか人間だとか半魔だとかまったく気にしなかった
とても大切な母、そして大切な妻の言葉。


『・・そうね。確かに私達は色々な例外の中にいるのかもしれないけど
 けれどその前に私達は家族だもの。
 私達家族にはきっとこれから色々あるでしょうけれど
 家族っていうものはちゃんと一緒にいられるだけで幸せなことだもの。
 それさえ忘れなければ・・きっとみんな、大丈夫よ』


それは今思えば

家族の中で最も弱い存在である人間の自分が
まず最初にいなくなくなるだろう事を予測していた言葉だったのかもしれない。


その家族を1人亡くして以来
家族という言葉からすっかり縁遠くなっていた悪魔と半魔は
同時にその事に思い当たってたまらなくなった。


「・・・・・・母さん」

生みの母、再生の母
両方にあてた言葉を絞り出すようにつぶやいて
バージルは引かれていた腕にぎゅうと力を込める。

そして反対側にいたスパーダも疲れたように肩を落とし
自分をこちら側に引き止めていたかのようなその手に自分の手を重ねた。

「・・・やはり・・・君は凄いな」

本来なら別々の道を歩き出し
もう二度と関わることもなかったろう血族は
たった1人の悪魔、けれど実はこの世界で最も人らしい悪魔には

伝説の父だろうと元漆黒の剣士の兄だろうとプロのハンターの弟だろうと
なぜか誰もかなわないらしい。


「・・・イヤ、カナワナイッツーカ
 ソロイモソロッテタダ単ニへたれナダケダロ」


その結果を集約して簡単にのべたマカミの言葉に
フトミミとミカエルが吹き出しかけて同時に口を押さえるが
気まずさとはまた別の結界みたいなものを形作ってしまった親子達は
その様子に気付くことはなかった。





「・・あ、トール、もうちょっと右。
 ミカももう少し姿勢低くして・・うん、そんな感じ。
 こらフレス、じっとしてないとブレるぞ。もう少し我慢」

本来の姿なら絶対フレームに入りきらない連中を
純矢はなんとか四角い枠に押し込めようと
カメラとその前を交互に見ながら格闘する。

そう言えばこれって前にもやったはずなのに
やっぱり今も同じ事繰り返してるんだよな。

あの時真ん中にいたのはダンテで
一緒くたに密集させられたトールやケルベロスと
狭いとか邪魔とか足を踏んだとか踏まないとかでぎゃあぎゃあやっていたが
それを思えば今そのダンテがいない分、少しは静かな方か。

「・・こんなもんかな。じゃあ撮るぞー」

タイマーをセットして純矢は以前ダンテのいた位置にいる
なんだか嬉しそうな紳士とその横でムッとしているような顔をした男の方へ。

そう言えば紳士の方はちゃんと写真に写るかなという疑問もあるが
一応手で触れられるので半透明にくらいは写るだろう。

「ジュンヤ君、ここに・・」

がし

その問題の紳士が平気で自分の膝の上に手招きをしていると
横にいた息子の方が無言で純矢の腕を掴み
取られないようにしっかりと確保する。

「・・・ずるいぞバージル」

父の恨みがましい視線にも息子は動じない。

おそらく何か不埒な事を考えているのが分かるのだろう。
むくれたような視線と無言で抗議してきた。

そんな遅れた親子ゲンカをしている間にもタイマーは進む。

純矢は肩をひとつすくめて2人の間に割り込むと
仲良くしなさいという意味を込めて両側の腕をひっぱり
頭上で散りはじめていた火花を消火した。

「ほら、ケンカしてないで笑った笑った。シャッターがきれるぞ」
「妙な顔で残されたいというなら止めんがな」

などとミカエルが服装をなおしつつ冷静に皮肉を言ってくるが
しかしどちらかというと2人とも笑えと言われて笑えるタイプではない。

けれどなぜだろうか。

ただ写真を撮るだけだというのにやたら嬉しそうなこの少年や
後で大きな身体を縮めてちょっと困惑気味にしている大男
足元で変な顔をゆがめている平たい犬や
赤いワニを尻にひいて、さっきからクスクス笑いっぱなしな女
全部人外、統一感まったくなしの連中に囲まれているのだが・・

バージルは少し困ったように純矢の向こうにいた父を見た。

するとどうやら父の方も同じ事を考えていたらしく
紫色の肩がまいったなとばかりにすくめられる。

どうやらそれは、悪魔だろうが半魔だろうが例外ない事らしい。

バージルは少し考えた後、変な意地を張るのをやめて力をぬき
少し古びたカメラのレンズに向かって向き直った。


じーーーーー・・  パシャ!


軽い音を立ててシャッターがきれる。

そしてしばらくしてから出来上がったその白いフレームの中には
以前と同じような、変に見えてもなぜか家族のようにも見える連中と
嬉しそうな少年をはさんで、まだちょっとぎこちないけれど
ちゃんと2人で笑っている本当の親子が写っていた。






「あ、よかった。スパーダさんも透けずにちゃんと写ってる」
「・・しかしこうして自分の姿を固定されるというのも何やら照れるものだな」
「ナァ、おれモ写ッチマッテルケドイイノカ?」
「いいんだよ。マカミくらいならおもちゃが紛れ込んだくらいでごまかせそうだし
 せっかく撮ったスパーダさん達の初写真なんだから、これはこれでアリって事だな」
「そしておぬしはいつかこの中に悪魔狩りを入れたいと言い出すのじゃろう?」
「・・まぁね」

などと楽しそうに言ったマザーハーロットの言葉を
意外と素直に肯定した純矢にバージルは小さなため息をついた。

今純矢の横で感慨深げに写真を見ている父はまだしも
過去に色々あった弟と会った時、自分は一体どうなるのか
それはまだ自分でもまだ分からない。

まだ何も知らなかった昔のように、再び家族となれるだろうか。
それとも今まで通り、顔を合わせれば無条件に戦いへと発展するのだろうか。

優しい母のためにも後者になることは避けたいところだが
なにせ自分には長年培ってきた戦いの本能がある。

それはきっとダンテにしろ同じ事だろうし
いくらこの再生の母が色々丸くまとめてくれる性質があったとしても
はたして長くある自分たちの確執まで修復する事ができるかどうか・・・。

しかしそんな不安をよそに再生の母は実の父や仲魔と一緒になって
楽しそうに家中から引きずり出してきたアルバムを開いていた。

「・・高槻、この時々写っている男の人は?」
「あ、それ俺の父さんですよ。
 これはちょっと昔に撮ったやつだから、今はもうちょっと老けてますけどね」
「・・フーン、ソレナリニ似テルケド、ソンナニ言ウホド似テナイナァ」
「あ、それなんだけど父さんの話だと俺は母さん似なんだってさ。
 母さんの写真は・・あ、あったあったこれだ」

そう言って少し古いアルバムから取り出された一枚の写真。

そこに写っていた人物を見た全員の動きが止まった。

それは病院で撮ったのだろうか。
白い部屋に白い服を着た大人しそうな女性が写っている。

病院のベットの上で撮っているし、顔色もあまり良くないので
おそらくあまり身体が丈夫ではなかったのだろう。

しかし儚げなその腕白い腕にしっかりと抱かれているのは
おそらく生まれたばかりの純矢だ。

その母の顔は多少やつれて顔色が優れないが
笑っている優しい表情は今の純矢にとてもよく似ていた。

「・・・息子は母に、娘は父に似るなどという話を聞いたことはあるが・・・」

マザーハーロットが珍しくケタケタと笑わず
感心したように顎に指を当てる。

「成る程、風貌とその性格はこの母からの受け継ぎ物というわけじゃな」

純矢はそれを聞いてちょっと赤くなりつつムッとした。

「・・・えっと・・・それは男としては喜んでいい話なのかなハーロットさん」
「それはそなたのこの者への思い入れ次第じゃな」

なんだか取り方によってはとっても無責任
いや、実際とっても無責任なセリフに純矢は考え込んだ。

母のことは早くに亡くしたのであまり記憶に残っていないが
優しかったとだけは父から聞いているし、悪い印象は一切ない。

けどその性格や性質を受け継いでいるため
今のこの奇々怪々な状況に置かれているとなるとどうなのだろうか。
元人として青少年として疑問に思わずにはいられない。


しかしまぁ・・・


同じアルバムを一緒に見ている、最近まで離れ離れだった悪魔の親子や
きゃっきゃとあれこれ散らかしている女帝と神獣の横で
肩に妖獣をのせたまま律儀にその片付けをしている黒い魔人
珍しく微笑みながら大きい鬼神に何かの説明している邪神
じーと穴が開くほど主の母の写真に見入っている大天使や
手が使えない番犬や石幽鬼に色々見せてやっている小さい鬼神などを見ていると・・

あまり家族の多い方ではなかった純矢としては
そう悪い気はしないものだ。

しかしこんな状態に慣れてしまうのもいかがなものかと思っていると
ふと横に気配を感じる。

気配は薄かったのでスパーダだとすぐに分かるが
その本人は少し居心地悪そうにこう切り出してきた。

「・・しかし良いのだろうか。間接的に関わりがあるとは言え
 私は君と契約もしておらず、もう存在もしていない身だが・・」
「いいんですよ。確かに細かい問題点はあるかもしれないけど
 ちゃんと見えて触れて話せるんだから俺的には何も問題ないですよ。それに・・」
「?」
「子供に両親がいるっていうのは大事な事です。
 そうですよね?お父さん」


ざく


そのまったく他意のない一言により
スパーダの中でどこか刺されたような派手な音がした。

それに気付いたブラックライダーが
・・あ。とフレスベルグを頭に乗せたまま珍しく慌てたように振り返ったが
それと同時に色んな伝説を更新中な魔剣士が行動を起こした。

「・・・ジュンヤ君」
「はい?」

うやうやしく手を取ってくる仕草と口調は紳士的なのだが
実はこの紳士的悪魔の行動はそれを毎回裏返す・・
いや、コサックでちゃぶ台を蹴り飛ばすくらいに奇抜だった。


「どうだろう。ここは丸く収まった所で私と再婚しないか?」


そりゃ収めた直後に言うようなセリフじゃねぇよ!!!


純矢の目が点になり、ほぼ全ての仲魔達がそう思ったのと同時に
それぞれ別々の場所にいたミカエルとバージルが
いきなり瞬間移動でもしたかのようにぶんとかき消え
いつかのように某ライダー顔負けの見事なフォームで空を飛んだ。

サマエルが黙って結界を展開し
フトミミが素早くピシャーチャを拾い上げて避難し
ケルベロスがビクッとしたトールの背後に飛ぶように逃げ込む。


それは某長寿アニメのエンディングのように
みしりと斜めに傾き、びょいんと上に跳ね上がってどすんと元に戻った
けれどそんな親子でも1つのフレームに収まった記念すべき日。












とりあえず父とは仲直り・・のつもり。

シリアスでは終われない俺。



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