「すみませんすみませんホントにすみません・・・」
「・・・だからもういいって言ってるだろう。
 そもそも何度も言うようにあんたが謝る事じゃないんだし・・」

港に行く道の真ん中で、ぎゅうぎゅう両脇にある白銀を押さえつけ
バネがあるかのようにぺこぺこ頭を下げまくる少年に
マティエはもう呆れるのを通り越して感心してしまっていた。

誰かさんの(自称)ちょっとしたおちゃめにより
部屋の一辺を丸々吹き飛ばされかなり風通しよくなった部屋は
もうこの少年の仲魔達がきっちり修理してくれ問題はない。

むしろこの少年の仲魔という悪魔達は
伝説のアレ一族をのぞくとそこそこ器用な連中↓がいるので
(リフォーム好き1名、土建屋1名、ハイパーアルバイター1名)
あの後の部屋の修理は完璧どころか新築同様ぐらいまでにしてもらい
こんなに謝る必要はないのだが・・。

「・・まぁ連中がやらかした事はともかくとして
 元通り以上にしてもらったんだからとやかくは言わないよ。
 でもこれからは気をつけた方がいいね。何しろそいつらは・・」
「マティエ、もういいわよ。あんまり言うとこの子が可愛そうになるでしょ?」
「・・あぁ、それもそうだね。ごめんよ気がつかなくて」
「・・・オイ、オマエら。オレらを一体何だと思って・・」
「よってたかって子供1人を困らせてる駄目大人モドキども」

速攻で言われたルシアの容赦ないツッコミに
悪魔一家はみんなそろって精神的ダメージをくらった。

ちなみに事の発端になり今回も爆弾の火付け役となった伝説の父は
只今封印用にマティエが施したお札がみっちり貼られまくり
ミイラみたいになった閻魔刀の中に絶賛隔離中だ。

「しかし本当にいいのかい?そんなに急いで出て行かなくとも
 もう少しくらい滞在したってこっちは特に問題ないってのに・・」
「ダメです。これ以上ヘタに滞在してここを壊すくらいなら
 ダンテさんの事務所を壊滅させた方が被害が少なくてすみます」
「少なくな・・!」

だがダンテの短くてとても的確な抗議は
横からぶぎゅと足を踏んできたミカエルによって却下された。

なんだか踏んだり蹴ったりなダンテだが
下手に口を出すとまたいらない騒ぎになるから
とにかく黙ってろと言うことなのだろう。

  ・・がっ がッガッガッ 
ガッ!

と、ダンテがしぶしぶ納得しかかっていたその時
歩いてきた道の向こうから何か白いものが走ってきて
ふり返ったルシア達を豪快に飛び越し、純矢の前に見事な着地を決めた。

それは確かあのジュンヤ達との再会時に姿のなかった
尾だけが黒い純白ライオン・・もとい白い番犬だった。

「あ!ケル!」

元ある名前をケルベロスという白い魔獣は
かなり急いで来たのだろう、ぜへぜへ息をしていたが
その声を聞くなり素早く反応し、ものも言わず純矢にどーんと飛びついた。

「うわったた!よしよし、ご苦労様。
 その様子だと大丈夫だったんだな」

犬サイズならともかく元の彼のサイズでは違いがありすぎるので
その様子は受け止める瞬間にタトゥーが出たとしても
喰われる前にしか見えなかった。

しかし普段怒る以外あまり喜怒哀楽を表に出さない番犬は
一体何をしていたのか珍しい事に犬らしくクーンクーンと甘えた声まで出して
大きな体でジュンヤにすり寄る。

「・・?オイ犬っころ、オマエ今まで一体どこに・・」

不思議に思ってダンテがそう聞くと
次の瞬間、白い魔獣はいきなりガウ!と吠えてアイアンクロウをかましてきたが
命中率の悪いそれはダンテにもコートにもダメージを残せなかった。

「っとと!・・オイオイ、オマエにしろTバックにしろ
 歓迎の仕方が手荒でわかりやすいな」
五月蠅イ!コノ歩ク迷惑公害!!誰ノセイダト思ッテ・・!」
「あああ!わかったからごめんな!いい子だから暴れないでくれ!」

牙をむいてうなるケルベロスを必死でなだめ
ジュンヤは一言二言小さくささやいてから番犬をストックに入れた。

何をやっていたのかはわからないが
そう言えばまだこの仲魔メンツの中で見かけていない奴らがいるが・・

「なぁ少年、まだ顔を見てない連中はどうしてる?」
「え?・・あぁ、うん。ブラックとフレスは留守番だ。
 いくら取る物がないっていっても長い間留守にするのは物騒だし。
 それと・・ケルにはちょっとここで調べ物をしてもらってたんだ」
「ふぅん・・?」

ダンテのカンと経験からしてそうして彼が時々目をそらすのは
何か隠している場合の動作なのだが・・

「じゃあその子が帰って来たなら後はこっちでやるとして
 目途がついたら向こうに連絡でいいかい?」
「はい、お願いします」

今話の腰を折るとまたどこかから怒られそうなので
ダンテはまた何か自分の知らないところで事を進められていても
今は取りあえず黙っておくことにした。

「・・ところでオマエ、留守番を残してきたなら
 長くこっちに転がり込むつもりなのか?」
「えっーと・・まぁ・・バージルさんの事とかスパーダさんの事とかで
 色々あるだろうと思って長く見積もったつもり・・・・・なんだけど・・・」

ちらと閻魔刀に視線をやったジュンヤに
ダンテはちょっと苦々しそうに納得する。

自分と違い、ここへ来るまでにそれなりな計画を立ててきたようだが
さすがにあの父の行動とタイミングの最低さだけは計算がつかなかったらしい。

「って事はつまり、予定よりも多くオレの所にいるんだな?」
「・・結果的にはそうなるかな。
 でもダンテさんの仕事が忙しいなら短めにしても・・わ!

ぐいと引き寄せられてぶつかった胸板は
昔通りに自分とあまりに違いがあり過ぎ
なんだか男としては無性に腹が立つのだが・・

「オレがそんな野暮なこと言うと思うか?
 大事な相棒がわざわざ海を越えて会いに来てくれたんだ。
 オマエがそれくらいしてくれるなら、こっちもどんな都合だってつけてやるさ」

抱きしめる腕は引き寄せた力とは反対にひどく優しく
ジュンヤは急に何も言えなくなった。

が、そんなくすぐったいような感触は、すぐ横から伸びてきた
素早くそれでいて力加減の上手い手によって中断し
赤かった視界が急にひらけて行き場のなくなった手を下ろしながら
ムッとするダンテが見えた。

「・・デリカシーのない奴だな。返せよ」
「断る」
「アンタはずっと近くにいたんだろうが
 こっちは長い間声しか聞けてなかったんだ。
 そいつに執着するならそれくらい察しろ」
「却下」

なんだか仲良さげな所を見せられて相当機嫌が悪いのか
バージルは最小限の言葉だけで突っ返す。
そうされるとジュンヤの手前でケンカするまいと思っていたダンテも
さすがにカチンときた。

「・・昔みたいにいきなり出てきて、今度は人様の相棒を横取りか?
 相変わらずアンタのジョークはセンスがない上に笑えねェな」
「母さんはお前の所有物ではない。
 むしろ契約している俺達の方が傘下にいる立場だろう」
「生憎オレとそいつの仲はそういった物じゃ計れない深い所にある。
 もちろんアンタの手も届きやしないかないからな。安心して返せ」
「自意識過剰なのも昔のままのようで残念だ。
 俺のいない間に少しは落ち着いたかと思えばその有様とはな」
「アンタこそ、少し丸くなったかと思えば
 そのなんでもかんでも自分の尺度で物を計ろうとする
 俺様思考までキッチリ再生されてるなんて
 ハ、そこだけは笑えるな。タチの悪いジョークとし・・」


ぽい  
どごーん!!


などと地味で無意味でどっちもどっちな口論をしている間に
ジュンヤを手招きして避難させたルシアが
2人の間に向かってクランキーボムを無造作に投げてくれた。

「・・・・・・1つ言わせてもらってもいいか?」
「なに?」

片手でボムをくるくる回しているルシアに
こんがりこげたダンテは同じくこげたバージルと一緒になって
何とも言えない目をくれた。

「オマエはオレが変わったって言ったが・・
 その言葉、そっくりそのままオマエに返品してやる」
「あらありがとう」

皮肉を言われているのを知ってか知らずか
・・いや、きっと知っているのだろう。
その昔自分を殺せとまで言った造魔の女は
黒と赤のまじった物騒な爆弾を手にしたまま屈託なく笑った。

「・・ま、それじゃ落ち着いて身の回りの整理が済んで
 暇ができた時にでもまたおいで。
 何もない上にあたしら2人しかいない寂れた島だけど
 逆に言えばここはそう言う場所だから、気がねだけはしなくていいだろうし
 多少五月蠅くてもたまにはにぎやかな方がいいだろうさ」

などとその育ての母は目を細めてしんみり言うが
それはジュンヤ達にとってはとてもありがたい事だ。

何しろ元いた東京に悪魔はおらず
これだけ多人数で正体を隠すのはそれなりにやっかいだし
それに世界にたった2人だけとは言え
こうして自分達を受け入れてくれる人と場所があるという事は
とても心強くて嬉しい事だ。

「・・はい、ありがとうございます。ほんとに色々お世話になりました」
「ん。これから色々あるだろうけど気をつけてお行き」
「もしその連中に耐えられなくなったら遠慮なくここへ逃げ込んできなさい」
「だから・・オマエはオレらを一体なんだと・・」

ゴッ!

そのセリフは全部言い切る前にバージルのさりげない蹴りで阻止された。

なんだか今回一番何も知らされてないのに
一番被害を受けている気がしてならないダンテである。

「ほらダンテさん何やってるんだ。
 早く行かないと船の時間に間に合わなくな・・わったぁ!?

うずくまっているダンテに手を伸ばそうとした瞬間
いきなり身体が宙に浮き、足が地面から離れる。

「こっ!こら何すんだバージルさん!」
「まだ完全に回復していないだろう。しばらく運ぶ」
「だからって姫抱きにする奴があるか!
 大体もう平気だし歩くくらいは自分で・・!」
母さんは黙っていろ

怒ったようにぴしゃりと言われジュンヤは思わず閉口する。
どうやら今回の件で自分には無頓着というのがバレて
平気とか大丈夫とかいうたぐいの言葉の信用を失ってしまったらしい。

ジュンヤはそれでも服を引っ張ったり頭を叩いたりして抵抗したが
ダンテ同様頑丈なバージルはやはりビクともしなかった。

「い、いや、だからそれはその・・!無茶したのは謝るけど!
 ってか強引な所だけ誰かに似るなっておい!
 こら!ミカもため息なんかついてないで何とか言えよ!」

しかしありとあらゆる説教を3人分まとめて行っていた大天使は
もう疲労困憊でそこまでする元気もなく
バージルの意見も間違ってないので快く黙殺してくれた。

そうして騒ぎながら遠くなっていくちょっとだけ暑苦しい面々を見送りながら
ルシアが少し不安そうな声を出す。

「ねぇマティエ・・あの子大丈夫かしら」

バージルとスパーダの素性についてはあまり詳しくは知らないが
なにせあの男、つまりあのやたらと災いを呼ぶダンテの血族が
三人も同時に集まっているのだから
そんな状態であの人のいい少年がただで済むとは到底思えない。

だがマティエは小さくなっていく彼らを見ながら
さして心配した様子もなく落ち着いて話し出した。

「なぁに、なんのかんのであの厄介な一家をまとめて
 あれだけの数の悪魔を従えてる子なんだから大丈夫さ。
 それに大元のスパーダをこっち側につなぎ止めてたもの
 元はと言えばあの子と同じ、たった1人の人間だったんだ」
「・・・・」
「見届けようじゃないか。
 その昔伝説のスパーダですら為し得なかった家族の行く末をね」

小さくなっていくなっていく連中は立ち直ったダンテも加えて
さらに何やら地味にもめつつ遠ざかっていく。

その様子からあの惨劇を繰り広げた痕跡はもうどこにも見られないが
それでもやはり彼らの半分は悪魔なのだ。
それを同じ悪魔とは言え、あの人のいい少年が
どこまで受け止められるかは少々不安が残る。

それにルシアには以前自分の身の上についてまったく知らない事があり
ある日突然悪魔にされたジュンヤには、他人とは思えない親近感もある。

だがそんな心中も知っているのだろう。
マティエは彼らが修理していった部屋の壁と同時に残していった
ある一枚の写真を見せた。

「それにごらん。こうやってこれを見てる限り
 あの子だってこういったゴタゴタも、まんざらじゃないんだろうさ」

それは家の前で撮った、なんの変哲もない一枚の写真だ。

そこに収まっているのはちょっとあきれ顔の自分達と
横や後ろに変な犬やデカイのやごついのや美人なのや顔色悪いの
とにかくまったく統一感のない奴らが写っていて
そしてその中心にはボロボロでムッとしている兄弟2人と
焼けこげたような格好をしてそれでも何とか笑っている紳士が1人
そしてそのワケの分からないカオスの中心にはごく普通の少年がいて
周りの連中のアレ加減などものともせず
はにかんだような顔をしてそこにいた。

それはもう何度も見た物のはずなのに
ルシアはぷっと吹き出してしまった。

「・・かもしれないわね」

あの少年がどうしてこんな写真を撮りたがったのか
どうしてあぁまでして家族というものにこだわったのか

ルシアはそれを見て、なんとなくわかったような気がした。





ポンポンポンという古びた船の立てる独特の音を聞きながら
ダンテとバージルは古くてサビの浮いた古い柵にもたれ
海風に吹かれながらぼんやりと遠ざかっていく島を見ていた。

そこはダンテにとっては昔、まぁそれなりに大きな仕事のあった場所で
それ以上特に思い出のある場所ではなかったのだが
今やそこは見るだけで頭がパンクしそうなほどの
思い出というかトラウマというか事件というか家族暴走というか爆発というか・・
とにかくいろんな事が一度に起こりまくった
なんかもの凄い島になってしまったワケだが・・

「・・オイ」
「?」

島から目を離さないままダンテが隣に聞くと
横から怪訝そうな気配が来る。

「アンタ今オレが無口だと思ってるだろ」
「・・・あぁ。お前にしては無口だ」
「そりゃ無口にだってなるだろう。
 来た時と帰る時とであまりに状況が違いすぎる」
「・・だろうな」

船が少しだけ進路を変えて潮に乗る。
ダンテはふてくされるように自分の腕にあごのせ
独り言のような口調でさらに続けた。

「オレはただ昔の馴染みに呼ばれてここへ来ただけだってのに
 帰りにはどういったワケかこんな膨大な人数になってやがるし
 おまけにいなくなった家族がひょっこり戻って、オレの隣に普通にいやがるし」
「・・・・・」
「さすがのオレもここまで状況が強烈だと・・無口にだってなる。 
 アンタはそんな事気にもしないだろうがな」
「・・勝手に決めるな。俺だってここへ来るまでは
 こんな状況で俺達の事が収集するとは思ってもみていなかった」
「それはアイツのしでかした事と親父の事のどっちをさしてる」
「両方だ」
「・・だろうな」
「・・・・・」
「・・・・・」

少し速さの増した船の上で妙な沈黙が落ちる。

島はもう出発した時の半分くらいの大きさしかないが
それでも兄弟はその島をじっと見ていた。

「・・オイ、バカ兄貴」
「バカは余計だ。・・なんだ」
「今思ったんだが・・親父のおかげ、いや親父のせいで色々あったオレ達は
 結局また親父のせいで・・同じ鞘に戻ってないか?」
「・・・・・・・」

バージルから返事はない。
ダンテもそれっきり黙ってしまった。

ちなみに今バージルの手にいつもあるはずの刀はない。
目を離したスキに中の人ごと海に捨てそうだからと
今船室でミカエルと一緒に船賃の交渉をしている純矢に没収されたからだ。

無言の兄弟はただ遠ざかる島を眺め
波の音と船の古びたエンジン音だけが周囲の音を支配する。

しかしこのまま黙っていては気分が船ごと海底まで沈みかねないので
ダンテはしばらく考え、ふとある事を思い出した。

それはもう言う機会もないだろうと思って忘れかかっていたが
今なら言うべき相手は存在するし、ちゃんと言える・・はず。

・・いや、本当はプライド的には言いたくないが
昔兄弟ゲンカをした後にはちゃんと言うようにと母から言われていたし
それを実行して悪い結果になった事は一度たりともないので
それは言いたくなかろうが言った方が絶対にいいのだ。

ダンテは仕方なさそうにため息を1つつき
今度は普通に隣の兄弟を呼んだ。

「オイ、バージル」
「・・、なんだ」

また余計な付属をつけると踏んでいたのか返事が少し遅れる。

声をかければ素直に対応してくれるのは大した進歩だが
今はその素直さが逆に困るような気がした。

「・・いや、大した事じゃない。
 だが今までゴタゴタしすぎてて、1つ言い忘れてた事があってな」
「愚痴、文句、苦情、暴言のたぐいなら全て却下だ」
「・・いやもうその辺の事は言うだけ無駄だろ。
 オレが言いたいのは・・もっとこう別の・・簡単な事で・・・」

言いたい事には遠慮のない弟にしては珍しい
何やら言いにくそうな態度にバージルはふと昔の事を思い出す。

確かケンカをした後、自分からの時もごくごくまれにあったが
大半はこんな調子の後ダンテから言ってくるある言葉があった。

それを言う前の言いにくそうな態度は年月がたってもやはり同じらしく
バージルは表には出さなかったが少し苦笑すると
手早く考えをまとめ、言いよどむダンテをよそにさらりと言い放った。

「その言葉なら必要ない。
 先にも言ったが俺はかつて自分の起こした行動に後悔はしていない」

自分が必死になって言おうとしたことを先読みされ
しかもあっさりと拒否られたダンテは固まる。
しかしバージルはかまわずさらに言葉を続けた。

「だからお前は自分のしてきた事を否定するな。
 俺を二度も踏み越えておきながら今になってそれを撤回するなど
 俺への侮辱としか受け取れない。
 それに・・」

ふと愛刀を持っていない手に落ちた視線はすぐダンテの方へ向けられ
こんな言葉が静かに告げられる。

「お前の言おうとしたその言葉は、俺達の間で使うものではなく
 母さん達に使うべき言葉だ」

それはプライド高い彼から聞くにしては珍しい
いや、覚えている限りではかなり真新しい
兄としての発言だったろう。

そしてダンテは、そこで今までまったく気付かなかった
1つのある事実に突き当たった。


・・そう言えば、アンタはいつも自分勝手で
こっちの事なんか見向きもせずに、ちっとも兄貴らしくないと思ってたが・・

でもよく思い返してみれば
アンタはいつもオレの先を行って、オレはいつもその後だ。

考えてみれば兄と弟の関係として、これほど当たり前の事もない。


そんな事を今ごろ自覚した間に顔が勝手に緩んでいたのだのだろう。
こちらを真っ直ぐ見ていた目が胡散臭そうになった。

「・・なんだ、何をにやけている気味の悪い」
「・・いや、やっぱりオレは・・アンタに先を越されてばかりだと思ってな」
「?何の事だ一体」
「わからないならそれでもいいさ」

この天然野郎と心の中で毒づいて
ダンテは再び遠ざかる島に視線をもどす。
バージルは一瞬とり残されたような気がして不機嫌な顔をしたが
問いただすのも面倒なのか、同じように遠ざかる島に視線をもどした。

「なんだ、2人共いないと思ったらここだったのか」

そしてそれからしばらくして、後ろから聞き慣れた足音が来たかと思うと
自分達より一回り小さい少年がひょいと間に入り込んでくる。

それはたったそれだけの事なのに、今まで少し重かった空気が
すっと拍子抜けするほどに軽くなった。

それをあまり意識してない所もコイツらしいと思いつつ
ダンテがバージルと一緒に横にいた少年に目をやると
その背にはしっかりと問題のアレ・・
いや正確にはその中にいるのだろう大問題がきっちり背負われていて
本当ならひったくって今すぐ海に投げ捨ててやりたいところだが
ぐっと我慢し、頭の中を切り替えた。

「で?交渉は済んだのか?」
「ミカが手伝ってくれてちょっとだけ割引してもらった。
 俺は横から見てるだけだったけどさすがに上手いよな。
 ダテに会社の重役してないよ。身元はかなり偽造してるけど」

と、なにやら若干物騒な事をいいつつも
少年はあの島でやらかした事など忘れ、すっかりいつもの少年に戻っている。

「なぁところで2人とも・・怒ってないか?」

・・かと思いきや、何も言わなくても言いたい事が顔に出ていたのか
純矢は自分からそんな事を蒸し返してくる。

・・オイ、勘弁しろよ。
せっかく忘れかけてた所に塩を塗る気か?

ダンテ的にはそんな気分だったが
バージルの方はというと少しその質問は当たっている所があるらしく
ちょっと目つきを鋭くさせて黙り込み
その両方の無言を肯定ととった少年は少し申し訳なさそうに身を縮めた。

「・・いや、今思うと我ながらバカしたとは思うけど
 あの時は他に方法が思いつかなくて、頭に血がのぼってたというかその・・
 ・・あんな事しておいて今頃言い訳しても・・仕方ないんだろうけど・・」

その時、この少年との付き合いがバージルより長いダンテだけは直感した。

こうして真面目でしおらしく話をする時の少年は
もの凄く威力のある言葉を平気で放ってくる可能性があるからだ。

そしてその予想は2秒もしないうちに見事的中した。


「その・・・・ホントに2人とも・・ゴメン。
 それと俺のわがまま聞いてくれて・・ありがとな」


・・・・・あぁ、やっぱりだ・・・・。


息をのんで目を見開いたバージルとは対照的に
ダンテは心の底から頭を抱えその場にうずくまりたくなった。


・・・違う。それは両方ともオレ達がオマエに言うべきセリフなんだよ。

それをそんなあっさり横取りして、おまけに礼まで言いやがって。
大人の面目丸つぶれだ、どうしてくれるこの野郎。


そんなもん元からないような気もするが
そんな大人子供の心中まで気が回らない少年は
同時に固まってしまった兄弟を交互に見上げて不思議そうな顔をした。

「?・・なんだ?どうしたんだ2人とも?」
「・・・オマエ、良くも悪くもホントに悪魔だな」
「は?」
「俺は・・いや、きっと俺達は一生母さんにかなわない」
「?いやちょっと待てよ、2人して納得してないで
 俺にもわかるように説明・・ぐえ

両側から腕が伸びてきて肩にかかったかと思うと
やはり両側から自分よりデカイ身体がきて
ぶぎゅとサンドイッチの具みたいにされた。

両方とも抱き寄せたつもりらしいのだが
向こう側でも同じ事をされたのでそんな事になったらしい。

「うわせま!重!何だ!?だからなんなんだおいコラ!?」
「・・そこからどけダンテ」
「・・アンタこそ、脳が退化してないなら譲歩って言葉の意味くらいは知ってるだろ」
「知っているがそれをお前に使う気は微塵もないな」
「だったら記憶力が衰えてるんじゃないか?
 さっきも言ったがオレとコイツはアンタの脳みそじゃ理解できない間柄なんだよ」
「ならばお前の言った言葉もそのまま返せるな。
 物事すべてを自分の尺度で計ろうとするな愚弟め」
「しかし前々から思ってたが双子だってのに一々腹の立つ兄貴だな。
 性格はまるで違うはずなのに、しようとする事がやたらかぶりやがる。
 なんなんだそれは新手の嫌がらせか?」
「それはこちらの台詞だ。少しは大人になったかと思えば
 この期に及んでつまらん意地をはりおって。
 かつて母さんを独占した事も忘れてまた同じ事を繰り返す気か?」
だーかーら人の話聞けよお前らー!!

頭上で地味な口論を繰り広げられて純矢がキレたのと同時に
後ろから真一文字に飛んできた誰かさんの槍が
2つあった白銀に
ゴーンと音を立ててぶち当たった。






船が進む。

なんとか再会したはいいが、とても幸先のよろしくなさそうな家族を乗せ
古の孤島を離れ新しい土地へ向かって。

いや、おそらくこれからある意味戦場になるだろう
とある一軒の店に向かって。

そこにあるのは家族としての平穏か
それとも強力な悪魔が集結する魔界並、いやそれ以上の混沌か。
それともその両方が混ざり合った、神も悪魔も人間も
好きこのんで住みたいとは絶対思わないようなひでぇ場所なのかは
神や悪魔や宇宙人にだってわからな・・

・・いや、ひょっとしたら

その彼らの血や涙や過去を吸い込み
ただ黙って遠ざかっていく彼らを見送っていた
デュマーリという名の島だけは

ひょっとしてもしかしたら・・知っていたのかもしれない。










てなわけでこんな形で家族が再会したわけですが
こっから先は多少暴れてもダンテの経済面以外では大丈夫な
彼の店でのお話になります。

シリアスなのかギャグなのかほのぼのなのか
自分で書いてても分からなくなった上に長くなりましたが
ま、いいや。幸薄い家族どもにいびつでもいいから幸あれと思いつつ。

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