「おーもーい〜い!ダンテさん歩けるなら自分で歩けよ!」
「・・細かいこと言うなよ。
こういった時はシラフのヤツが貧乏くじを引くってのは・・世の常だろうが」
「屁理屈こくなダメ大人!大体いい大人の外国人が
どうして日本の居酒屋でこんなベロベロになるまで飲んでられるんだ!」
「・・いや、遊びで入った店の主人が気前も人も良いオヤジで
あれこれ勧められてる間に・・いい気分になってきてなぁ」
「かー!信じられない!こんな典型的なダメ大人が存在していいのかよ!」
などと言い合いをしつつも
純矢は足元のおぼついてないダンテを引きずり夜道を歩く。
急いで出てきたため仲魔も携帯もおいてきた事が今頃になって悔やまれた。
事の発端は夕食後にかかってきた一本の電話だ。
それはまったく知らない店の、しかも未成年の純矢にはさらに縁のない
商店街通りにある居酒屋からだった。
なんでも店で酔いつぶれた外国人が
どこから来たのかを聞くとここの名前を出したので
そこの主人が少し面識のあったブラックライダーの事を思い出して
電話番号を調べ知らせてくれたのだが・・・。
「そもそもなんで昼間っから1人でそんな所に行ったりするんだよ!」
「・・いや・・日本の酒を吟味する計画は・・前からあったんだが・・
よく考えてみりゃ・・酒を飲む仲なヤツってのは・・
マフラー以外に見当たらねぇし・・」
「う、重っ!だから自分の足で歩けって・・のに!」
などと騒いでいるとすれ違いざまのおばちゃんに笑われている事に気付き
純矢は一瞬赤くなってギリギリ肩を貸せていた状態のダンテを
ほぼかつぐようにして人気のない道の方に入り込んだ。
「・・・ん?そっちは違うだろ。・・どこ行くんだ?」
「人目につくから近道するんだよ!
ホントはトイレにでも捨てて帰りたいけど
公共施設のご迷惑になるから今やめた!」
などと悪魔化寸前の力でダンテを引きずって入ったのは
近くにあった少し大きめの公園。
純矢はダンテをかついだままそこへ入っていき
ベンチなんて高級品は使わず芝生のど真ん中にべしゃとダメハンターを放り出した。
「・・・痛ぇな少年」
「芝生だっただけでもありがたいと思え。
とにかくまともに歩けるようになるまでそこで頭冷やすこと。いいか?」
「・・・世話女房」
直後、仰向けだったダンテの腹は遠慮なくぶぎゅと踏まれた。
「・・・・っぐ!・・・おまッ・・!それが酔ってるヤツに・・!」
「する事じゃないけどダンテさんだから大丈夫。
ちょっとそこで待ってろ。水探してくるから」
非道いのか優しいのかわからない言葉を残し純矢はぱたぱた走っていく。
加減なしに踏まれた腹を抱え、ダンテはしばらく寝転がったままそれを見送った。
酔いつぶれるのは別に悪い事じゃないと思う。
酒が飲めるやつなら誰でも一度はあることだろうし
酒には強い方だが日本の酒というのは飲んだことがなくて
ちょっと加減がわからなかったというのもあるし
人のいい主人にのせられてパカパカやったのもまぁ成り行きだ。
けど今のダンテには1つだけ
どうしてもやりきれない思いがある。
「・・・あぁ・・・ホントに・・・情けない話だ・・・」
ごろと仰向けになって見上げた空にはもう地表は見られず
少しかけた月といくつかの星があるだけだったが
それら全部が自分に不利に動いているような気がして
ダンテは舌打ちを1つしてからごろりと横向きに転がった。
「おーい、まだ生きて・・・げ!?」
水飲み場でハンカチを濡らしたはいいが
帰ってきてみるとさっきまであった粗大ゴ・・もといダンテが見当たらず
純矢は絶望的な声を出した。
普段から普通に放置しておくだけでも色々よろしくないヤツを
あんな泥酔状態で放置しようものなら一体全体どうなるか。
あぁああ!マズイ!早く探さないと確実に警察のお世話になる!
などと首がもげそうなほどの激しさで周囲を見回していると
こんと横の方から小石が飛んでくる。
ハッとして見ると少し離れた木陰の暗闇に
暗い中でもよく分かる白銀が木にもたれかかってひらひらと手を振っていた。
「・・ックク・・どこを必死で探してるんだか・・」
「こん!・・ビックリするだろ!!待ってろって言ったのに!!」
「・・心配してくれたのか?」
「ダンテさん以外全ての事を心配したんだよ!」
べしと冷えたハンカチが顔に飛んでくるが
ダンテは気にせずちょっと赤くなった顔で笑うだけだ。
「・・相変わらず冷たいヤツだな」
「酔っぱらいにあったかいヤツなんていないだろ。
とにかく早く酔い冷まして帰ろうな。ストックに入れて帰れば楽なんだろうけど
中でリバースされたらたまったもんじゃない」
「・・オマエやっぱり・・」
「誰かさんがバカだからしょうがないんだよ!」
などと言いつつぺんと頭を叩いてくれた少年は
むくれつつも少し離れたところへ腰を下ろした。
「・・?なんでそんな距離を取る」
「酔っぱらいに近づくとロクな事ないからに決まってるだろ」
「・・冷たいヤツだな・・」
などと言いながらダンテはふわとあくびを1つもらし
草や土がつくのもかまわずその場にごろんと横になった。
純矢は酔ったダンテを見るのは初めてだが
そうテンションが上がるとか口数が増えるとかいう事はなく
どうやら気分よりも眠気が先に来るタイプらしい。
「・・ねむい。・・寝る」
「な!?ダメだ!こんな所で寝るな!!」
「・・オマエオレより力あるんだから・・担いで帰れるだろう」
「タトゥーが目立つからダメだって!こら!寝るな!寝たら死ぬぞ!!」
「・・・雪山登山じゃあるまいし・・・・・・とにかく寝させろ・・」
「あ!こら!!」
純矢はあわてて叩き起こそうとしたが
それよりダンテが純矢を捕まえる動きの方が早かった。
おまけにぎゅうとしがみつき足を枕に寝る気満々だ。
酔っても派手に騒がないのは助かるが
こんな所でしかも人を枕にして寝られても迷惑な事に変わりはない。
「こっ・・こらバカ!よりによってそんな所で寝るなよ!
オイコラ!起きろ!立って歩いて家に帰れ!」
「・・・うるさいな・・・酔いをさ冷ませって言ったのはオマエだろ・・・」
それはそうだがもうちょっとやり方ってものがあるだろうに
しがみつかれていた純矢はだんだん困ったような顔になり
叩こうがつねろうが引っ張ぱろうがテコでも動かないダンテに
とうとう根負けして情けない声を立てた。
「ダンテさ〜ん・・勘弁してくれよ・・」
「・・・夜に眠いなんて・・・珍しい事なんだから・・
5分・・・いや・・・1時間くらい・・・」
「なんで増えるんだよ!・・・まったく・・・」
それはどうやら眠いのと同時に甘えが表に出てきているらしい。
とは言え、ガタイの良さと体格差からして
甘えられているというより育てたゴリラに抱擁されてる気がしないでもないが
純矢はとにかくその酔っぱらいを引きはがすことをあきらめ
暗闇でも目立つ白い頭をぼこと1つ叩いた。
「・・・もういいや。勝手にしろ」
どうせしばらくしたらこんな迷惑もかけられなくなるんだからと
半ばあきらめ気味に放置する。
「・・・ん?・・なんだ・・・いつもの威勢はどうした?」
「そうやってのんきにかまえてられてると
必死になってるのがバカみたいになってきたんだよ」
「・・・つれないヤツだな・・・もう少しかまえよ・・・」
「何子供みたいな事いっ・・ぎゃ!!」
神妙にしているからと油断していたのが悪かったのか
しまったと思う間もなくデカイ体格に押しつぶされる。
「バカ!重っ!どけってば酔っぱらいー!」
「・・・酔ってるって?・・オレが?」
どこか現実味のない声でそう言って
ダンテは自分の顔をむぎ〜と無遠慮に押しのけようとしていた手を片方掴み
ふんふんと犬のように臭いをかぎ始めた。
「・・こら!何してんだ!」
「・・・ん・・・やっぱり予想通り・・・オマエはいいにおいがする・・」
「何言って・・わ!?」
れろと手の平を舐め上げられて思考が一瞬混乱する。
「な、な、なにやってんだよ!どこまで酔ってんだ!!
いい加減にしないと本気で怒るぞ!」
「・・・・・こんなくらいで騒ぐなよ・・・大体・・・
・・・酔った勢いでしか・・出来ないことだって・・あるだろ・・・」
「は?」
押しのけるのに必死で最後の方は聞こえなかったが
確認する間もなく純矢はいきなり仰向けにひっくり返され
一回り大きな身体に覆い被さられて両手首をそれぞれ固定され
あれ?と思う間にどう考えてもマズイ以外のなにものでもない
最悪のポジションを取られてしまった。
「わ!・・・こ・・っ!!」
バカとかどけとかふざけんな酔っぱらいとか、言うべき事はたくさんあったが
さすがにこういった状況に追い込まれると
冷静になっていられないのが若さというやつで・・
「・・・なぁジュンヤ・・・」
「!??」
「・・オレの事は嫌いか?」
しかも追い打ちをかけるようにダンテはそんな事を真顔で聞いてくる。
「・・・・き・・・嫌いとか好きだとかそんなの・・!」
しかしそうは言われてもそんな事をこんな状況で聞かれても答えられるワケがない。
仮に好きだと言えば流れ的に絶対襲われるだろうし
嫌いだと言えば逆上されてやっぱり襲われる可能性も捨てきれない。
その困惑した様子をどう解釈したのかは知らないが
真上にあったダンテの顔がすっと近づいてきて
「・・・・・するぞ」
たった3文字だけの
でもそれだけでありとあらゆる事が想像できてしまう恐ろしい言葉を
息のかかるような距離でささやいてきた。
「な・・!!」
「・・・・・いいか?」
真正面から顔を寄せてきただけと言うことは
おそらくキスしていいかという事なのだろうが・・・
それを許すとそれ以上のことをされそうになるのは
こういった場所のこういう場合では十分どころかかなりの確率でありえる話だ。
「い・・!いいわけないだろ!!
やめろバカ!!どこまで酔ってんだ!いいから離・・っ!」
「・・・オレの事が嫌いなのか?」
そのあまり聞いたことのない悲しそうな言い方に
必死でもがいていた動きが止まる。
だがこのままただ流されていては後で後悔するのは確実だ。
確かにダンテの事は嫌いではないが
だからといってこんな状態のこんな野外で奪われる事など
秩序を重んじる日本人としても、またまだ清い青少年の身としても
冷静に考えれば当たり前だがたまったものではない。
純矢は散りかかっていた勇気を必死になってかき集め
力の入らない体勢で精一杯の抵抗をした。
「・・い・・いやだ!いやだいやだ!やめろ!!」
「・・・なんでだ?オレが嫌いなのか?」
「嫌いじゃ・・ないけど・・!
こんな酔った勢いでこういうことするのは・・絶対いやだ!!」
その自分で言った言葉に励まされ
涙目になりかかっていた目をなんとか睨みに変える事に成功する。
しかし悪魔化してスキル攻撃で弾き飛ばさなかったのは
まだまだあせっていた証拠だ。
そしてダンテはというと
抵抗を難なく押さえ込んだまま少し考えるような顔をして
じーと純矢の顔を上からのぞき込んだままそれ以上動かなくなる。
え?もしかして酔ってるくせに今ので納得したのかと思ったら
「・・・だな」
と、どこかがっかりしたような言葉と一緒に拘束していた手を離し
手の置き場を純矢の手首から芝生の上へと変えた。
これはこれで意外だ。
ダンテの性格ならもっとからかうか迫ってくるかする所だが・・
いや酔っているからこんな風に素直になっただけなのかもしれないが
とにかくようやく手首の拘束はとれたものの
ダンテはそれ以上そこからどいてくれる気配がない。
「・・・・・え〜と・・?」
その妙な間に純矢はなんとなく怒鳴る気になれず
できれば早くどいてくれないかなーという気持ちで見上げてみたが
ダンテはなんだかしょげたようにこっちを見下ろすだけで
なんだか悪いことをしたわけでもないのにちょっと悪い事をしたような気がしてくる。
・・いや、悪いのはダンテさんなんだから
別に俺が遠慮なんてする必要ないんだけど・・
とは言えやはり持ち前の優しさからかどう言っていいのかわからず
純矢がしばらく困ったような顔をしていると
「・・・らしくない・・・な」
ふうというため息を落としながらダンテはそんな事を
まるで独り言かここにいない誰かへの問いかけのようにつぶやく。
「・・・マジなヤツ相手に・・・酒の力を借りるなんて・・
・・・オレのする事じゃない・・な・・・」
そして檻か拘束具のように真上にあった大きな身体がどさと真横に落ちて転がり
転がりざま横にあった純矢の手を1つ掴むと、名残惜しそうに鼻を近づけて
「本当に・・・いいにおい・・なのになぁ・・・」
などと残念そうに言って目を閉じ、そのまま手をしっかり握ったまま動かなくなった。
「・・・・・」
純矢はワケも分からずしばらく硬直していたが
しばらくして聞こえてきた寝息により、ようやく助かったのだと認識し
残った片手で額を押さえ、天を仰いだ。
・・・前々からアレな人だとは思ってたけど・・・
・・・ここまでアレだとは思わなかった・・・
まぁそのおかげで助かったのはいいとして
酔って男に襲いかかろうとしてあっさり思い直したり
それでも残念そうにしてあげく人の手握ったまま寝るなんて・・
・・・でも・・待てよ?
その時すっかり爆睡状態に入ってしまったダンテを見ながら純矢はふと考えた。
ダンテさん・・・酔ってたんだよな?
ならなんで途中でやめたんだ?
普通なら酔った勢いでなんでもしてくるってのが普通なのに
いやにあっさりこっちの言うこと聞いてくれたし・・・
いや、でも普段言うこと聞かない反対に酔ってたから聞いてくれたのかな?
じゃあ俺にあんな事しようとしたのも・・明日になったら覚えてないのかな。
だが・・・それにしてはダンテの目は真剣だった。
酔った勢いで本音が出たのか、それとも酔った勢いの単なる冗談か
誰かと間違えている可能性だってあるし
何より明日になれば今の事など全て丸ごと忘れている事だってあり得る話だ。
一体どこまでが本音でどこまでが酔った勢いでどこまでが冗談なのか。
一生懸命整理して考えようとするが
思い出せば思い出すほど顔が赤くなるのは
やはり多感な十代としては仕方のない事で・・。
「・・・うぅ・・ダメだ。考えれば考えるほど頭がこんがらがる」
しかし今のが本気だったにしろ酔った勢いだったにしろ
どっちにしてもただ1つ言える事がある。
「・・・バカ」
人の手にさも大事そうに頬をくっつけて
ご丁寧にぐーぐーイビキまでかいて寝ている頭に拳骨を1つおとし
純矢はいろんな思いが組み込まれた一言をぽつりと言った。
潰れてしまったダンテはそれが聞こえたのか
それとももう別の楽しい夢でも見ているのか
イビキを一瞬止めてむちゅうぅ〜と音が出るほど濃厚なチューを手の平にかます。
純矢は一瞬そこからマグマアクシスを最大出力で出してやろうかと思ったが
いつもスカした顔がやけに幸せそうになっているのを見ると
そんな気も自然と失せた。
「・・・・・・ほんとにバカだ」
しかしその言葉のいくらかは自分にも当てはまる言葉だろう。
手首に残った赤い跡を見ながら純矢はがくりと肩を落とす。
・・・そんで・・・俺もまだガキだなぁ・・・。
もうちょっと精神的に強くならないとダメだよなぁ・・。
そんなことを考え手をぷらぷらさせ、しばらくそんなバカの様子をながめていると
やがて上から聞き慣れた羽音が近づいてきた。
上を見てそれを確認し、口の前で人差し指を立てると
いつもの口癖を連呼しようとしていた妖獣は騒ぎかけた口をぱくと閉じ
少し離れた所に降り、とてとてと歩いてきてダンテを見た後こんなことを言った。
「ジュンヤジュンヤ?ダンテ死んだ?」
「・・死んでないよ。寝てるだけだ」
「死んでないのか?死んでそうなのに?」
「ま、いつもの様子からして
死んでるように見えるのも無理ないかもしれないけどな」
心配して寄こされたのだろう偵察係の頭を撫でながら
純矢はそのダメ大人をなるべく起こさないようにそっとストックへ戻し
背中についた草をはらいながら立ち上がった。
「・・ごめんなフレス。みんな心配してるんだろ」
「してるしてるしてる!おれとケルベロスとマカミと探しに出た出た!」
「・・うわ、早く帰らないとさらにミカとトールが追加されそうだ。
急いで帰ろうか」
「帰る帰る!ジュンヤ帰るー!」
「そうだな、帰ろうか」
だがそう言って走り出しかけた純矢はふと何かを思い出し
飛び立ちかけていたフレスベルグを振り返り・・
「フレス」
「?」
なあに?と首をかしげる妖鳥を拾い上げ
すっと悪魔の刻印の浮き出た頬にそっと押しつけた。
普通なら制御しきれていない強力な冷気で凍傷になっているところだが
今はその冷たさが火照った顔に気持ちいい。
「?・・どしたジュンヤ?」
「ん・・・ごめんな。ちょっと頭冷やしたくて」
オウムサイズの妖鳥はしばらく不思議そうに右へ左へ首をかしげていたが
なんだか主人の様子がいつもと違うのを感じたのだろう。
あまり騒がすただじっとして落ちつくのを待ってやった。
「・・・おーいダンテさん、大丈夫?
頼むから来客用の布団の中で腐敗とか発酵とかは勘弁してくれよ?
あとバターになるのもダメだから」
「・・・人を勝手に死体にするな。・・・まだ生きてる。
・・・それと最後のは意味がわからん」
「昔あった童話の話だよ。しかし半分だけど2日酔いする悪魔なんて珍しいな。
あ、そういえばお清めにお酒使うなんて話も日本にあるみたいだし・・」
「・・・・・・」
「お腹に合わなかっただけなのかな。
それとも歳だからか?それとも単なる遊びすぎ?」
「・・・・・・オマエ、オレにとどめを刺しに来たのか?」
半魔のくせに2日酔いになったダメ魔人を真上から見下ろしながら
純矢は水の入ったコップを持ったままさらりと言った。
「いやこんなに元気のないダンテさんていうのも珍しいから
なんとなくつっついてみたくなっただけ」
「同じだろうが・・この・・・」
しかし伸ばそうとした手は途中で落ちる。
酒には強いと思っていたが、純矢の言う通り日本の酒とは相性が悪かったのか
それともただの飲み過ぎか少し動くだけでも頭にガンガンくる。
「・・・・・頭痛ぇ・・クソ、こんな事十代でやんちゃしすぎた時以来だ」
「・・ダンテさん、未成年は飲酒禁止って話知ってる?」
「・・・なんだそれは・・?新手の殺し文句か?」
「・・・や、なんでも。
じゃあここに水置いとくから、今日はとにかくゆっくり寝てなよ」
「・・・そうする」
「あ、それとダンテさん」
「・・ん?」
なんだよとばかりに怪訝そうな顔をするダンテに純矢は恐る恐る聞いてみた。
「昨日のことって・・・覚えてたり・・・する?」
「・・・?何の話だ一体?」
しかし返ってきた返事はごく自然なそれだけのもの。
あれだけの事をあっさり忘れている神経もどうかと思うが
ヘタに覚えていて尾を引かれても困るので
これはこれでこの方がよかっただろう。
純矢はそう割り切って昨日の事はなるべく早く忘れることにした。
「・・いや、やっぱりいい。
それじゃちゃんと寝てなよ」
「・・・・あぁ」
ぱたんとフスマが閉められて足音が遠ざかっていく。
そしてしばらく後、誰もいなくなった静かな部屋で
目を閉じていたダンテが1人つぶやいた。
「・・・耐えきったのは誉めてやるが・・」
ゆっくりした動作で布団をめくると
そこにいたのは平たい頬をパンパンにふくらませて爆笑を押さえ込んでいるマカミ。
「・・そのふざけたツラでオレの目の届く範囲にいるって事は
正当な嫌がらせ行為として受け取っていいんだな?」
ぶしゅーと風船の空気が漏れるような音がして三角の顔が元の形に戻り
ちちちというつもりなのか平たい手がぺらぺら振られる。
「チョット違ウナ。ウッカリ愉快ナ大失敗シカケタ後始末ヲ
一体ドウツケンノカわくわくシナガラ見テタダケダ」
「・・・大して変わらねぇだろうがクソ犬」
本当なら雑巾のように絞って物干しにくくりつけてやりたい所だが
今のダンテにはそんな元気も気力も残っていなかった。
「シカシ誤魔化セテヨカッタジャネェカ。
おれトシテハモウチットコジレテモ面白カッタンダガナ」
「・・・潰すぞ」
「冗談ダッテノ」
ダンテは痛さとだるさと腹立たしさに人相をかなり悪くしつつ
やはり反撃する気力がないので再び布団を引き上げて寝る体勢をとった。
あいた所からはマカミの鼻先がにょろと出てくる。
どうやら出て行くつもりもなくそこに居座るつもりらしい。
もちろんさっき純矢に言った答えは嘘だ。
ダンテは昨日の事をちゃんと覚えている。
覚えているが・・・あの時はつい勢いで色々やり過ぎそうになったので
今になってどう誤魔化そうか、詳しく追求されたらどうしようかと
色々考えて珍しく冷や汗をかいていたのだが・・
「・・・ガキで助かった」
あれだけの事をなかった事にするにはちょっと気が引けるが
やはり相手はまだ子供なのだ。
ヘタに手出ししてしまうと、そんなつもりはなくても大きな傷になりかねない。
ふうと頭を押さえてため息を吐くダンテに
横から出ていた白い鼻先からくくとヘンな笑いが漏れた。
「デモ相手ガがきダカライラネェ苦労モスルッテカ?」
「・・・・・・」
「手ヲ出シタラ怖ガラレル、気付カレテモ怖ガラレル。
何ヲシヨウニモ相手ガがきダカライロンナコトガ裏目ニ出ル。
イヤー大人ッテーノハ辛イネェ」
「・・・・テメェ・・・・マジで潰すぞ」
だが地の底から響いてくるような脅しの声にマカミは動じず
ふんと鼻息をふきかけて額にかかっていたダンテの前髪をどかした。
「ケドあいつノタメニ一歩引イテヤッテンノハ評価シテヤルゼ。
マ、ソレニ気付イテンノハおれダケジャナイカモ知レネェガナ」
「・・・・・・」
ダンテは天井を睨んでしばらく黙り込んだ後
「・・・寝る」
とだけ言い、ふて腐れたのかマカミに背を向けて丸くなった。
「アイヨ、ゴ苦労サン」
その背中をシッポでぺちぺち叩いてマカミもその横で丸くなる。
こうしてダンテの本音と本気の入り交じった複雑な夜は
ただの酔っぱらい行為として闇に葬られる事になった。
が、その夜の事が色々と大人の事情や意地や思惑やらなんやらを
たくさん一杯はらんでいた事を知るものは少ない。
・・まぁマジな話はそのうち。
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