再生時、何かを色々おっことしてしまったのか
それとも元々からこんな性分をしているのか
バージルの行動は時々突拍子がない。

ダンテも似たようなものだったかもしれないが
ダンテの場合は何度言おうが時々思い出したかのように悪さをし
バージルの場合、ダメだときちんと言えばちゃんと次からはやめてくれる。

だがその行動の最初というのはなかなか予想できないと言うのが
今のバージルの特徴の1つだ。

「ただいまー。・・はー疲・・」

とたとたとた とっ・・  
どご!!

「・・れだッ?!

ちょっとかさばっていた荷物をおろしてさあ靴をぬごうかとして下を向いた瞬間
純矢は奥からやって来た何かに激突され、まともにつぶれた。

大きさと行動パターンからして誰なのか一発で見当はつくが
こういった妙な行動を冗談抜きの真面目に起こす神経も
ある意味どうかと思う母である。

「・・なぜ受け止めない?」
「帰ってくるなりの無言で飛びつかれたら
 一般の神経を持ってる人は普通受け止められません!」

心底不思議そうな顔をするバージルの下から剥い出しつつ
純矢は一般的で詳しい抗議をした。




まずチョップを一発くらわせ
『人がよそ見してる時に無言で突進してきてはいけません』という
どう考えてもこんな大の大人に注意するような事じゃないことを言い聞かせてから
純矢が一応のわけを聞くと、再生時色々と抜け落ちちゃったらしい新参魔人からは
こんな答えが返ってきた。

「ケルベロスと散歩をしていて公園で何組かの親子連れを見た。
 そこで思い出したのだが・・・俺はあまり元の母さんに抱かれた記憶がない」
「は?」
「どちらかというとそう言った事はダンテの方がうまかった。
 俺1人ならどうとでもなったのだろうが・・・
 あいつは不器用な俺を見ていたせいか・・要領がうまくてな」
「・・えと・・つまり甘えるのがうまかったって事か」
「そうだ」
「・・・で、さっきの攻撃・・いや行動は一体何を再現しようとしてたんだ?」
「子供で言うところの『だっこ』というものだ」

いや・・・そりゃタックルの間違いだろとか思ったが
小さい子供が母親に走って飛びついて『ママーだっこしてー』という
親子のやりとりとしては間違ってはいないかもしれない。

その昔幼かったころ、要領の良いダンテに母を取られ
あまりだっこしてもらえなかったのを思い出したというのも・・まぁ分からなくもない。

しかしだからといって普通そんなガタイでそんな事したら
自分が頑丈な身だったからよかったものの
普通どっからどう考えても物理的にダメだろとか思いはするが
色々世間様から脱線してしまっているこの一家にしてみれば
それはまぁ仕方ない話・・なのかも知れない。

純矢はため息と一緒に額を押さえ
こんなバカみたいな話でも真剣そのものなバージルを前に
1つの考えをまとめて立ち上がった。

「・・ついておいで」
「?」

何だろうとバージルが素直についていくと、たどり着いたのは家の玄関。

「下におりて靴はいて、そんでこっちを向いてまっすぐ立つ」

黙って言う通りにすると、それは向かい合った2人の身長差が
ちょうどうまるくらいの高さになる。

そしてその同じ高さになった目線で純矢は鼻から息を吸い込み・・

「よい・・しょっと!!」

気合い一声、身体に悪魔の模様を浮き上がらせると
自分より一回り以上大きいバージルの身体に手を回し、上へ持ち上げた。

それはまぁ・・だっこ・・に見えなくもないが
だっこと言うより相撲の取り組みかプロレス技に近いような気がしないでもない。

でもジュンヤはそれでもジュンヤなりに
バージルのかなり突発的な希望をかなえようとしているつもりなのだろう。

包容力とか暖かさとか柔らかさとか
元母にあったものは微塵も感じられないけど
バージルはかなり不格好に持ち上げられたままで嬉しくなった。

「・・うぐぐ・・分かっちゃいたけど・・・・・抱きにくいぃ・・・。
 バージルさん・・これでいいのか・・な・・・っと!」

自分より一回り小さいヤツによっこいしょと持ち直されても
たとえ鼻先に人の物ではない黒いツノが見えていても
たとえそのタトゥーの入った細い腕が何百もの悪魔を屠る力を有していたとしても
それでもバージルは嬉しかった。

とん

「ん?」

さすがに苦しくなってきたのでもういいかと聞こうとした矢先
ふと聞こえた足音にジュンヤは眉をひそめる。

自分は一歩も動いていないので今動くとしたら・・

「・・あ!こら!バージルさん土足で上がったら・・!」

行儀悪いからダメだろと言おうとした。

言おうとしたのだが・・・

だっこしていたつもりが、いつの間にか抱き込まれる形になって
いつの間にか逃げ出せないくらいにがっちり捕獲されていたりして
しかも腕を回してきたバージルが顔をずらしたかと思ったら
なんだか軽い音を立てて首筋辺りに変な感触を落としていく。

何をしているのかは見えなかったが
何をしているのかは大体想像ができてしまいジュンヤは慌てた。

ちょ・・!ちょっと待ッ!バージルさん何やって・・!」

だがバージルは何も答えず、むずかゆいような照れるような
でもそれはマズイだろうと思わせる行為をやめようとしない。

それは多分彼なりの最上級愛情表現なのだろう。
実際こういったことは外国では珍しくないらしいし。

いやだからと言ってそれをそんな風習のない日本でやるというのはどうだ。
しかもオロオロしている間にそこかしこに落とされていくそれは
ちゃんとした気持ちをこめつつ確実に顔に近づいてくる。

ジュンヤは猛烈にあせった。
あせりながら必死になって拘束されていた腕を一本引きぬき
頬まで来ていたバージルの顔をすんでの所で押さえた。

「ストップ!!待て!!さすがにそれはマズイだろ!!?」
「なぜだ?」
「いやだって俺男だし高校生だし日本人だし
 外国じゃそういうのあるかもしれないけど、ここではそんなことしないし!」
「・・・どれも理由にならん」
「こら待てぇ!!気持ちは嬉し・・くない事?ない・・かもしれないけど!
 えーと、うーと!だからそれは精神的というか常識的表現としては困るんだって!!」
「言っている意味が分からないが・・」

押し返そうとするジュンヤの手と
それを外そうとするバージルの間でかみ合わない攻防が続く。

「とっ!とにかくダメだ!ダメったらダメ!
 今すぐ離さないともうだっこしてやらないぞ!」

するとビクともしなかった拘束がいとも簡単にとれ
必死になっていたジュンヤは勢い余って数歩たたらを踏む。

それはどこからどう聞いても子供並みな言い聞かせ方だが
とにかくジュンヤはファーストを玄関先で、しかも男に取られるという
色気も何もあったもんじゃない行為だけはなんとか回避することができた。

見た目は大人、行動も教えれば大人
でも時々中身が子供なのか大人なのか分からない。

「・・・まるでどこかの探偵と逆のパターンだ」
「何の話だ?」
「・・・なんでもない。いいから靴ぬぎなさい」

それはともかくこれ以後バージルのしてほしいことの1つに
だっこの項目も新たに加わったのだが
それをしてやるから際どい愛情表現は禁止という項目も同時に加わり
それは一種どっちにも複雑な思いを抱かせる不思議な行動になったとか。

そしてその騒動の後
なんとなく予想はしていたが伝説の父が同じようなことをしたがり
息子同様、大人なのか子供なのかわからなくなってきた悪魔を説得するのに
純矢がまたいらない苦労をしたのはこれまた別の話。








その気はないけどストレートな青。

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